性描写がありますので20歳までの方は閲覧しないで下さい。
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♥♥♥ ライトHノベルの部屋 ♥♥♥ 立 春(りっしゅん)
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立 春(りっしゅん)
立 春(りっしゅん)
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美姉妹といっしょ♥〜番外編
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「宏ちゃん、私達と一緒に温泉に行かない? 今度の水曜日に」
深々(しんしん)と雪が降り積もる中、千恵と若菜の美姉妹(しまい)が夕食を終えた宏の許へ訪ねて来た。 宏は二人の好物である番茶と塩煎餅を勧めながら読んでいた旅雑誌を置き、二人と向かい合う。 今日の若菜は白いセーターに膝下までのスカート姿で、黒のストッキングに包まれたふくらはぎが妙に生々しい。
「今度の水曜? ・・・・・・明後日(あさって)じゃないか。急にどうしたの?」
壁に掛かったカレンダーを見てから宏は若菜に視線を向ける。 若菜はポリポリと美味しそうに煎餅を齧りつつ、事の経緯(いきさつ)を話し出す。
「ほら、年末の商店街の福引、あったじゃない? それで温泉宿の招待券をお母さんが引き当てたまでは良かったんだけど、冷蔵庫の横に貼り付けたまま今の今まですっかり忘れていたのよ〜。チラシの後ろになっちゃっててね〜」
手をパタパタと振り、いやね〜、もう〜、と笑うその姿はまるでオバちゃん達の井戸端会議だ。
「で、その招待券の有効期限が今度の木曜日なのよ。・・・・・・今まで忘れてたうちらも悪いんだけどね」
千恵がやれやれと苦笑いし、ヒョイ、と肩を竦める。 今日の千恵はいつものロングポニーテールをピンクのリボンで縛り、濃い桃色のセーターに厚手のパンツ姿だ。 若菜は切れ長の美しい瞳を爛々と輝かせ、早くも久しぶりの温泉旅行に心弾ませて行く気満々だ。
「その旅行って、一泊二日、五名様ご招待なの。うちの家族と宏ちゃんで丁度五人だな、ってお父さんが♪」
「お母さんが宏を誘いなさい、って言ったの。だから何の心配も要らないわ。ね、行きましょう? 来月には宏も上京しちゃう事だし、今のうちに行こうか、って。」
千恵の何気無く言った言葉に若菜は一瞬だけ目を伏せ、その後はいつもの明るい笑顔に戻る。 この時、宏は若菜の瞳が揺らいだ様な気がした。 普段とは違う瞳の色に違和感を感じた宏だったが、若菜から畳み掛ける様に温泉行きを催促され、この時感じた違和感もその後の騒ぎで霧散してしまった。
「おやっさんとお袋さんが? でもせっかくの家族団欒に俺が混じっていいの?」
「好いの、好いの♪ お母さんが誘ってるんだもん。ねえ、宏ちゃん、一緒に温泉行こうよ〜。温泉だよ♪ 露天風呂だよ! 宴会だよっ♪」
「ねえ、宏。今の時期、学校は自由登校でしょ? どうかしら?」
若菜は身体ごと乗り出してアピールし、千恵も乗り気だ。 確かに、高校三年の三学期は受験シーズンなので一月下旬から卒業式までは自由登校となり、東京の専門学校への進学を既に決めている宏に取っては実家で自由に過ごす最後の機会となっていた。
「・・・・・・そうだね。来週末の卒業式過ぎちゃうと引越し準備とかで忙しくなるし・・・・・・うん、せっかくだから、みんなで温泉に行こうか♪」
柔らかく笑う宏に、美姉妹の笑顔が弾けた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「へ〜〜〜、こんな山奥に、こういう立派な温泉宿があったなんて初めて知ったよ・・・・・・」
宏達一行は新幹線からローカル線に乗換える事三十分、十年以上前に無人となった駅から徒歩五分の所にある一軒宿に来ていた。 雪国の宿屋らしく二階建の重厚な造りに大きな屋根、広い玄関と明るく開放的なロビー、塵ひとつ落ちていない朱色の絨毯敷きの長い廊下に廊下のガラス戸の外側には凝った造りの中庭がみんなを出迎えた。 ここは巨大スキーリゾートが隣接する有名温泉街から北に外れた所にある為、年末年始以外は殆どお客は来ない(女将談)らしく、スキーシーズン真っ只中なのに平日という事もあって本日の泊り客は宏達五人だけだ。
「貸切よ、貸切っ! 何の気兼ね無く過ごせるわ〜♪」
朝からハイテンションな若菜はさっそく畳の上を左右に転がり、全身で歓びを表している。 身長一七五センチの若菜が手足を伸ばして転がっても、部屋の真ん中に置かれたテーブルや持ち込んだバッグに当たらない。 泊り客が家族一組という事もあり、宿の厚意により一番広い部屋(十畳二間続きだ)を宛がわれたのだ。
「こらっ、若菜っ! みっともないから止めなさいっ! いい歳こいて、はしゃぎ回るんじゃない!」
腰に手を当てた千恵が若菜をたしなめ、美姉妹の母親が愉しそうに目を細めて娘達を見つめる。
「広いお部屋で好かったわ♪ ね、お父さん」
母親がみんなの分のお茶を入れながら微笑むと、上座に座っている美姉妹の父親が鷹揚に頷く。 宏は正座し、改めて二人に頭を下げる。
「お誘い下さいましてありがとうございます♪ 温泉なんて久しぶりです♪」
「いやいや、堅苦しいのは抜きだ♪ 気楽に気楽に♪」
父親がにこやかに片手を挙げると、隣に座っている母親も微笑んで大きく頷く。
「そうよ♪ 今回の旅行は娘達のリフレッシュが主な目的だから、宏くんは気にしないでね」
「そうだよ〜、宏ちゃん。誘ったのは私達なんだから〜、遠慮は無しね♪」
宏は母親の台詞に引っ掛かったものの、若菜が宏の背後から首に両手を回し、背中に密着して来たので考える事が出来なくなった。 なにせ背中から若菜のセーター越しに柔らかい丘の弾力が伝わり、心拍数が一気に急上昇したのだ。
「こら、若菜っ、離れなさい。宏が困ってるわ」
耳まで赤くなった宏に千恵が苦笑しながら助け舟を出してくれる。 内心、無邪気に宏にスキンシップ出来る妹が羨ましくもあるのだ。
「え〜〜!? いいじゃない。せっかく温泉に来たんだし、たまには宏ちゃんと一緒にいたいモン♪ ねぇ〜♪」
弾ける笑顔の若菜に、宏はこれまでに無い若菜のはしゃぎっ振りとスキンシップに、心の片隅で再び違和感を覚えた。 普段の若菜は千恵の気持ちを思い遣り、決して姉の目の前で宏に過度なスキンシップは取らない。 しかし先週辺りから若菜の宏に対する態度が妙にハイで、姉の目の前でも今日の様に片時も宏から離れ様とはしないのだ。
(お袋さんが言っていたリフレッシュと何か関係ありそうだな・・・・・・)
流石に鈍い宏も、若菜の異常とも思える過度のスキンシップに、これは何かあると確信した。 ただ、それが何かは全然思い至らなかった。
「あんたねぇ〜」
千恵は胸の前で腕を組んで眉根を寄せるが、少しでも宏の傍にいたい、温もりを感じたい、という若菜の想いがひしひしと伝わって来る。 双子の姉である千恵は、妹がハイテンションになる理由が痛いほど判るのだ。 それは千恵自身の想いでもあったからだ。
(はしゃいでいないと、他で気を紛らわせないと、切なくてきっと泣いてしまう・・・・・・)
美姉妹が心に秘めた想いを若菜はハイテンションな行動で、千恵は若菜をコントロールする事で抑え込んでいたのだ。 そんな二人の心中を宏は知る筈も無く、単に自分の上京がセンチメンタルな気分にさせているのかな、程度にしか思わなかった。 女心の細かい機微に疎かった宏は、それが自分の感じた違和感だと思い込んでしまった。
「宏君、さっそく温泉に浸からんかね? ここの風呂は源泉掛け流しだそうだ」
父親がタオルを片手に宏に声を掛けると、若菜がニンマリと表情を崩し、宏に擦り寄って耳元で囁いた。
「ねぇ、宏ちゃん♪ せっかくだから、姉さんと私とで一緒に入ろ? ・・・・・・昔みたいに♥」
「な゛っ! ばっ、バカ言ってんじゃないわよっ! こっ、この歳になって、いっ、いっ、一緒、一緒になんてっ・・・・・・」
若菜の提案に間髪入れずに猛反対したのは顔を真っ赤に染めた千恵だ。 純情な千恵には、バスタオルを三重に巻いたとしても宏の前で裸になるなんて、恥ずかし過ぎてとてもじゃないが神経が耐えられない。 ところが父親が両手をポン、と打ち、母親に向かってニヤリとする。
「・・・・・・なら、ワシらは男湯に入るから、宏君は千恵と若菜とで女湯に入れば好い♪ なあ、母さん」
「それ、好いですね〜♪ 若い者は若い者同士で仲良く♪ ねぇ♪」
父親が妙な気の利かせ方をするものだから、目を細めて母親まで乗ってしまう。 すると、からかわれたと判った千恵は猛然と怒りと恥ずかしさに狂い、耳まで真っ赤に染めて無言のまま母親と若菜の手を掴むと一目散に女湯に駆け込んでしまった。 残された宏は苦笑し、父親は千恵の反応に大笑いした。
☆ ☆ ☆
「・・・・・・ところで宏君、今すぐとは言わないが、娘達の事を宜しく頼むよ。ワシが言うのも何だが、素直な、好い娘に育ってくれた。これもみんな宏君、君のお陰だ。ありがとう」
内風呂の中で久しぶりの温泉に蕩け切っている宏に向かって、父親がいきなり頭を下げる。 突然の事なので宏は最初何の事か判らず、ぼんやりと聞き流してしまった程だ。
「お、おやっさん!? い、いったい何を・・・・・・」
まるで嫁入りさせる父親の様な言葉に、もう少しで湯船に沈みそうになった宏は慌てて居住まいを正す。 父親は深くは言わずに優しい瞳を宏に向けると小さく頷き、そのまま立ち上がると風呂から出てしまった。
「宜しく頼む、って・・・・・・将来、嫁に迎えろ、って事か?」
その考えに反対はしないものの遠い将来の事など実感出来る筈も無く、宏は気分転換に露天風呂へ入ろうと外へと続くドアを開ける。 そこには白い湯気をもうもうと立ち昇らせた大きな岩風呂が竹垣で二分されている様子が目に飛び込んで来た。 細い竹で出来た仕切りの片側だけでも、大人十人は楽に手足を伸ばして入れそうな大きさだが、その如何にも取って付けた様な作りからすると、元々は混浴の露天風呂として使っていた様だ。
「ふぃ〜〜〜♪ 極楽、極楽♪」
とても十八歳とは思えない言葉を発しながら、宏は平らな岩を背にすると肩まで湯に浸かる。 思いっ切り手足を伸ばすと温泉の成分が身体の芯にまで染み渡り、逆に身体の中から疲れや悪いモノがどんどん抜け出る感覚を覚える。
「広い温泉って、好いよなぁ〜♪」
空はどんよりと曇ってはいるものの、真っ白な雪を頂く周りの山々が展望出来、少し温(ぬる)めの湯加減と相まって宏にとって正にここは極楽浄土だ。 すると宏の声を聞き付けたのか、隣の女湯からバシャバシャとお湯を弾く音が聞こえたのと同時に若菜のはしゃぐ声も聞こえて来た。
「あ〜〜〜〜っ、宏ちゃんだ〜♪ お〜〜〜い、宏ちゃ〜〜〜ん♪」
若菜の澄んだ声が辺りに木霊する。
「宏ちゃんも露天に入ったんだね〜♪ 真ん中に竹垣はあっても、同じお湯の中だね〜〜〜♪」
心底嬉しそうな声を若菜が上げると、今日はすっかり若菜のブレーキ役の千恵の声も聞こえて来た。
「・・・・・・え? 宏が、隣に!? 嘘っ! や、やだっ! 恥ずかしいっっ!!」
「・・・・・・姉さん、竹垣があって見えないのに、何で恥しがるかな〜。こんなの、銭湯と一緒でしょうに」
若菜が可笑しそうに笑う声を余所に、羞恥心で真っ赤に染まった千恵は両手で肩を抱き、小さくなって仕切りに背を向けて湯に沈み込む。 仕切りがあるとはいえ、全裸で同じ湯に浸かっている、と思っただけで頭に血が昇ったのだ。
「若姉と千恵姉!? 二人共こっちにいたんだ。どう? そっちの湯加減は」
宏は千恵の様に恥ずかしく思わないが、同じ湯に一緒に浸かっているという状況に心ときめいてしまう。 むしろ千恵と若菜が全裸で隣にいる、という事に意識が向いてしまい、正直な『息子さん』がムクムクと勃ち上がってしまった。
「もう最高〜♪ 温泉に来て好かったわ〜〜。・・・・・・この竹垣、岩を足場にしてよじ登れないかしら・・・・・・ね♪ 姉さん♪ ・・・・・・姉さん? ありゃりゃ・・・・・・」
振り向いた若菜が見たものは、逆上(のぼ)せて岩に引っ掛かっている千恵の姿だった。
☆ ☆ ☆
「千恵姉、大丈夫? まだ横になっていた方が・・・・・・」
「大丈夫よ♪ キンキンに冷えたビール呑めば治るから♪」
「・・・・・・何か違う気がする」
宏のツッこみに、いいから、いいからと手を振り、グラスに注がれたビールを美味そうに呷(あお)る千恵。 白い肌がほんのりと赤く色付き、髪を下ろした千恵は浴衣の所為だろうか、妙に艶かしい。 宏達は露天風呂で逆上せた千恵を若菜と母親(お袋さんもその場にいたのだ)の手を借りて部屋まで運び、千恵が復活するのを待ってから夕食(という名の宴会)を始めたのだ。
「「「「「いっただっきま〜〜すっ!」」」」」
テーブルの短辺(俗に言うお誕生日席)に宏が座り(おやっさんに座らされた)、長辺に若菜と千恵が向い合って陣取り、その奥に両親が座ると乾杯が何度も繰り返された。
「ささっ、宏君、ぐぐっといきなさい。ぐぐっと♪」
「宏ちゃん、いっぱい食べようね〜♪」
「宏くん、遠慮しないでどんどん呑んでね♪」
「・・・・・・宏、あんたまだ自分が高校生だって判ってる? ・・・・・・まぁ、好いか♪」
父親をはじめ若菜と母親が宏にビールを勧め、止めるどころか千恵からも酒を勧められる。 千恵の理性は露天風呂とビールで溶け出してしまった様だ。
「宏ちゃん、高校二年の夏のバイトの時の事、覚えてる? 宏ちゃん、朝から晩までバイト漬けになっちゃって、私と姉さんが遊びに行ってもバイトでいないか、疲れて寝てるかのどっちかだったんだよ〜」
若菜が刺身を摘みつつ、懐かしそうに当事を思い出す。 するとビールを呑み干した千恵が笑いながら宏も知らなかった事実を次々と話し始める。
「宏が中々捉まらないものだから、この娘(こ)が拗ねちゃって大変だったんだから。部屋で暴れるわ、物は投げるわ・・・・・・。仕舞いには宏の部屋へ押し掛けて居座ろうとしたんだから」
「姉さんだって、不機嫌になってず〜〜っと口利かないわ、料理を手抜きするわで・・・・・・。最後には宏ちゃんと同じバイトする〜〜っ! って言い出したりするし」
そんな美姉妹の暴露合戦を面白そうに眺めていた母親がポツリと呟いた。
「そのあと二人共一晩中ベソ掻いて、宥(なだ)めるのに苦労したわね〜♪」
「「お母さんっ!!」」
顔を真っ赤に染めた美姉妹の声が綺麗にハモる。 すると堪え切れなくなった父親の爆笑する声が宿に響いた。
「だから今年の・・・・・・年、明けたから去年か。俺の高校最後の夏休みにみんなで花火したでしょ? 俺が街まで出て、いろんな花火をいっぱい買って来てさ」
宏は流石にその時は二人をそっちのけにした事を気に咎め、翌年の高校最後の夏休みは極力家で過ごした。 そして夏休み最終日に、去年のお詫びと日頃の感謝を込めて花火に誘ったのだ。 若菜にとって、それは昨日の事の様に思い出せる位、愉しいひと時だった。
「そうそう、私と姉さんで浴衣着てね。・・・・・・宏ちゃんも♪」
若菜は花火をした時の事を思い出しつつ、宏を見つめてほんのりと目元を赤く染める。
「そう言えばそうだったわね。宏もわざわざあたい達に合わせて着替えてくれて♪ 意外と似合ってたのでビックリした覚えがあるわ」
そう言うと千恵も目元を赤くして宏を見つめる。 娘二人の、酒に酔っただけの赤さとは違う事に気付いているのは微笑んで見ている両親だけだ。 五人は想い出話に花を咲かせ、笑い声が途切れる事は無かった。
「ほら、千恵姉もドンドン呑んで♪ グラスが空だよ」
「宏ぃ、あたいを酔わせてナニする気〜? あんたも呑みなさいっ♪ ・・・・・・返杯は三倍返しだからね♪」
「若姉、こっちの刺身食べる? 凄く旨いよ♪」
「うん♪ 食べる食べる。・・・・・・食べさせて♪ あ〜〜ん♪」
夕方から始めた宴会は深夜まで続き、美姉妹の両親はいつの間にか脱落し、隣の部屋に敷かれた布団の中で安らかな寝息を立てて丸まっていた。 宏達は宴会が始まる前に隣の部屋を寝る為の部屋とし、予め布団を五つ並べ、端から宏、父親、母親、若菜、千恵と場所を決めておいたのだ。 千恵は同じ部屋で宏と眠る事に強い羞恥を見せたが、間に三人挟む事で何とか納得して貰った。 そしてもう一部屋を宴会場としたのだ。 夕方曇っていた空はいつの間にか晴れ、星が煌く夜空にまん丸の月が高く昇った頃、首まで真っ赤に染まった千恵がギブアップ宣言する。
「もう、ダメ。呑めない。あたい、先に寝るぅ〜〜」
ビールに酎ハイにワインのロックと、飲みに飲んだ千恵はフラ付く足で布団にダイブするや否や、たちまち夢の世界の住人となる。 最後まで生き残った(?)若菜は宏の隣に寄り添うと、二人は月夜の雪景色を肴に杯を重ねた。 日付が替わり、時計の長針が更に一回りした頃、宏は名残惜しそうに若菜を見る。
「・・・・・・それじゃ、そろそろ寝ようか? 酒と肴が無くなったし・・・・・・雪見酒も堪能したし」
「・・・・・・そう、ね。そうしようか。夜も・・・・・・更けたしね」
本当は二人共、このまま寝るのが惜しいと思っていた。 二人っきりの時間がもっと続いて欲しいと願っていた。 若菜は一瞬抜け駆けしようとしたが、千恵の寝息に自分を取り戻す。 宏は迷ったまま愛を囁く事に抵抗を覚え、喉まで出掛かった言葉を飲み込む。 用意されている布団に潜り込むと酔いも手伝い、二人は直ぐに夢の世界へと旅立った。
☆ ☆ ☆
(ん〜〜、酔い覚ましにもう一回入ろ♪」
夜中にふと目が覚め、寝られなくなった宏はみんなを起こさない様に露天風呂へ向かう。 元々温泉が好きな宏は、温泉宿に泊まった時など暇さえあれば何時間でも入ってしまうのだ。 特にみんなが寝静まった夜中にひとりで入る露天風呂が大のお気に入りだった。
「はぁ〜〜〜♪ 極楽極楽♪」
本日何度目かの台詞を呟きつつ、青白く光り輝く月を見上げながら白濁の湯に浸かる。 宴会中に降ったのだろう、岩の上には新雪が積もり、ランプの灯りと月明かりが反射して夜中なのにまるで辺りは昼の様に明るく、青白い光に満ちている。
「宏ちゃん、いる?」
凍て付く冷え込みの中、胸まで浸かっていた宏の耳に、小さいがハッキリとした声が届いた。
「若姉!? どうしたの? こんな時間に」
自分の事を棚に上げ、宏が風呂を二分する竹垣に近寄る。 すると女湯からもお湯を掻き分ける音が聞こえて来た。
「えへへ♪ 宏ちゃんがタオルを持ってお部屋を出てったから、もしかして、と思ったの」
「あ、起こしちゃったんだ・・・・・・ごめん。静かにしてたつもりだったんだけど」
「ううん、いいの。私も何だか目が冴えちゃって・・・・・・。もう一度入ろうかと思ってたの」
若菜は肩まで湯に浸かり、竹垣を左にしてそっと寄り掛かる。 年相応の落ち着いた声で話す若菜は、さっきまでのハイテンションな時とはまるで別人の様だ。 宏は話し易い様に竹垣を背に寄り掛かる。 奇しくも二人は仕切りを挟んで同じ位置にいるのだが、それを今、知っているのは二人の頭上に浮かんでいる月だけだ。
「・・・・・・宏ちゃん、来月には上京しちゃうんだよね・・・・・・。もう、決まった事なんだよね・・・・・・」
どの位、静かな時が流れただろうか、若菜の呟きにも似た台詞が辺りの空気を振るわせた。 宏は若菜の震える声に、今の心境を垣間見てしまう。 いくら鈍感な宏でも、若菜の泣き声を聞き間違う事は無かった。
「宏ちゃん、知ってた? 私も姉さんも、ホントはすっごく寂しくて、寂しくて寂しくて、心が張り裂けそうになっていたんだよ?」
若菜はとうとう、心の内を宏にぶち撒(ま)ける。 程好い温泉の心地好さが、宏がすぐ隣にいるという安心感が若菜の心の箍(たが)を外したのだ。
「・・・・・・ごめん。俺・・・・・・」
宏はまず美姉妹を寂しがらせた事を謝ろうとするが、若菜の強い言葉で遮られてしまう。
「宏ちゃんっ! ここは宏ちゃんが謝る所じゃ無いよ。謝るのはむしろ私の方。私の我が侭で宏ちゃんを困らせちゃったんだもん。ごめんなさい」
宏からは若菜の姿が見えない。 しかし、宏には壁一枚向こうには確かに若菜がいて、自分に向かって頭を下げたのが判った。
「私ね、宏ちゃんが上京を決めてから、ずっと心に決めていたの。最後まで笑って過ごそう、って。宏ちゃんに、私の笑顔を焼き付けて欲しかったの」
若菜は何とか泣き声だけは出すまいと唇を噛み締める。 しかし、さっきから切れ長の瞳から大粒の雫が頬を伝って湯船に流れ落ちてしまっている。
(あ・・・・・・。それでいつもよりハイテンションになって、千恵姉の前でもスキンシップ取ってたのか・・・・・・)
宏はここ最近の若菜に対する違和感の正体がようやく判った。 はしゃいでいたのは寂しさを無理に紛らわせる為だったのだと。
「私、宏ちゃんとのお別れは寂しいけど、期待に胸を膨らませる宏ちゃんを見ていると、私も嬉しくなったの。・・・・・・嬉しいけど、切ないの。 ・・・・・・笑っていないと、泣いちゃうの」
既に泣き笑いの若菜。 零れそうになる嗚咽を湯で流すが、次から次へと涙が溢れるので追い付かない。
「姉さんも同じ気持ちよ。私には判るの。姉さんの想いは私と同じだ、って」
・・・・・・宏との別れが辛い。クールに振舞わないと、きっと泣いてしまう。自分の泣き顔を、旅立つ宏に見せたくは無い。隣に住む幼馴染のお姉さんとして、笑顔で送り出したい・・・・・・
「姉さんはきっとそう想ってた筈よ。言葉や態度に表さないけど・・・・・・双子だから判るの。判っちゃうの」
若菜が湯船の底で左手を滑らす様に動かすと、偶然宏の手に触れる。 この竹垣は湯船の底まで仕切っては無く、拳二つ分の隙間があったのだ。
「宏ちゃん・・・・・・」
若菜の左手がそっと、宏の右手の上に重ねられる。 宏は一瞬驚いたものの、そのまま右手を若菜に預ける。 柔らかい掌の感触にいつまでも触れていたいと思ったのだ。
「本当はね、この旅行は私達を見かねたお母さんが思い付いたの。宏ちゃんの上京を知った私達がいつまでも愚図っているのを歯痒く思ってたみたい。そんな時、当たった福引が出て来て、これ幸いと急遽温泉行きが決まったの。自分達で解決しなさい、って言われたわ」
「自分達で・・・・・・解決?」
「私と姉さんが宏ちゃんに告白するなり、玉砕するなり、現状維持するなり、一旦、気持ちのけじめをつけなさい、って事だと思うの」
「気持ちのけじめ・・・・・・。お袋さんが言っていた『リフレッシュ』って、その事だったんだ・・・・・・。おやっさんが言っていた『宜しく頼む』も、そういう意味か・・・・・・」
「でも結局は私も姉さんもお互いに二の足踏んじゃって・・・・・・。こんな時、双子って不便よね。互いの気持ちが判るんだもん、何も言えなくなっちゃう」
苦笑した若菜は宏が上京して実家を出る、と聞いた時の自分達を思い出す。
・・・・・・物心付いた時からのお隣さんで、いつも私達の生活の中心にいた宏ちゃん。 二つ年下なのに、男の子だからと私達をいじめっ子から守ってくれた宏ちゃん。 私達が困っていると、どんな時でも必ず助けてくれた宏ちゃん。 私達にいつも笑顔を向けてくれた宏ちゃん。 私達の傍にいるのが当たり前になっていた宏ちゃん。 いつの間にか凄く気になる男の子になっていた宏ちゃん。 そんな宏ちゃんが私達の前からいなくなる・・・・・・
それを聞いた瞬間の姉の顔は一生忘れられない。 まるでこの世の終わりを見た様な、絶望しか無い世界に迷い込んだ様な、この先に希望など無い様な、暗く沈んだ顔。 その表情は自分の表情でもあったのかもしれない。
(私達って、こんなにも宏ちゃんが好きだったのね・・・・・・)
宏に対する気持ちを自覚し、姉の想いの深さを知った若菜は同時に抜け駆け出来なくなった。 宏と同様に、姉の事も大好きだったからだ。
「私達のエゴで宏ちゃんに行かないで、とは言え無いし、でもお別れは辛いし・・・・・・。だからお母さんが私達の気持ちに区切りを付ける為に、温泉旅行を利用したのよ・・・・・・。結局何の進展も無かったけど」
若菜が自嘲気味に呟く。 宏は何と言葉を掛けたら良いのか判らない。 判ったのは美姉妹の自分に対する真摯な想いだけだ。
「宏ちゃん、約束・・・・・・して欲しいの。卒業したら帰って来る、って。嘘でもいいから・・・・・・約束して・・・・・・」
とうとう、若菜は声を出して泣き出してしまう。 堪えても堪え切れない寂しさが堰を切ってどんどん溢れて来る。
「でないと、胸が張り裂けそうで・・・・・・切なくて・・・・・・哀しくて・・・・・・」
若菜は宏の手を強く握り締める。 温泉よりも遥かに暖かい若菜の温もりに、宏の心が大きく揺れ、傾いてゆく。
(俺、こんなにも若姉達から想われてたんだ・・・・・・。そして、こんなにも若姉の事、好きだったんだな・・・・・・。同じ位に千恵姉や・・・・・・の事も・・・・・・。俺って、節操無いのかな・・・・・・同時に何人も好きになるなんて)
宏の心がどんどん常識外れの方向に進んでゆく。 いけない、と思う心と、構わない、と囁く心が激しくせめぎ合う。 だから怖くなった。 このまま情に任せて若菜に告白すると、千恵や晶、優との繋がりが切れてしまうと思ったのだ。 この時の宏はまだ、「恋愛は一対一でなければいけない」、という古い考えが「同時に愛しても好い」、という新たな考えを潰していたのだ。
「若姉・・・・・・約束・・・・・・するよ。卒業したら帰るって、約束するよ」
宏は若菜の、千恵の心を知ってしまい、帰らない、帰るかどうか判らない、とは言えなくなった。 若菜も、そんな宏の心の葛藤を判った上でわざと約束させたのだ。 たとえ自分がどう思われ様と、少なくとも私達の事をいつまでも覚えていてくれるだろう、という初めてのエゴだった。
「・・・・・・ありがとう、宏ちゃん」
小さな、とても小さな声で若菜が礼を言う。 若菜は宏の心の中に自分達と同じ位、晶と優の存在が大きい事を知っていた。 それなのに縛り付ける様な約束をさせてしまった事に、猛烈な自己嫌悪に陥る。
(こんな事言って、嫌われたかも知れない・・・・・・)
急に恐ろしくなって俯いた時、宏の暖かい声が届いた。
「若姉、気にしないで。一人に決められない俺が悪いんだから。若姉の所為じゃ無いよ。・・・・・・きっと・・・・・・必ず答えを出すから、今はこれで勘弁してくれると助かるんだけどな♪」
わざと明るく、いつもの口調でお願いしてくる宏に、若菜は更に涙を零す。 今更ながらに宏の優しさが、思い遣りが身に染みる。 同時に、こんなにも宏が好きだったのかと改めて思い知る。
「宏ちゃん、私も、姉さんも、もっともっと、成長するね。宏ちゃんに相応しい女性になるね」
若菜は涙を指で払いながら何とか声を絞り出す。 少なくとも、宏は自分の事を嫌っていないどころか、大いに脈があると感じ取ったのだ。
(上手くすれば、姉さんと二人で宏ちゃんを・・・・・・♥)
若菜の方に新たな考え方が芽生え始める。 それがあと二年と数ヶ月後に実現するとは、この時誰も思いもしなかった。
「若姉、俺の上京は永遠の別れじゃないよ。更に上に行く為の新たなステップだと思って欲しいな」
「新たな・・・・・・ステップ?」
「そう。みんなにとっての、新たなる第一歩、旅立ちだよ」
「みんなにとっての・・・・・・旅立ち・・・・・・うん、そうね。私達も変わらなきゃ。姉さんもきっと判っているわ♪」
若菜の声にようやく笑い声が戻って来た。 宏はほっと安堵し、空を見上げる。
「若姉・・・・・・」
「・・・・・・宏ちゃん♥」
湯船の底で手を握り合う二人を、月の兎が優しく見つめていた。
(番外編〜 立春(りっしゅん)・了)
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