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ララバイ(3) ララバイ(3) 美姉妹といっしょ♪~新婚編
 
(ん~、何だか妙な違和感が――ってっ!?)

 賑やかな場にありながら、どことなく肌をチリチリと焦がすような、或いは生温かい湿った布で肌を撫でられているような――そんな不快な感覚に晶はふと、顔を上げた。
 すると、リビングに集う面々(除・宏)からの視線が全て自分に集まっているではないか。
 ある者はチラチラと横目で覗うように、またある者は正面切って見つめてもいる。
 屋敷に住まう十一人全員が車座になっているので、些細な動きも目に入るのだ。

「ちょっとアンタ達! なに人のコト、チラチラ、ジロジロ、はたまたガン見してんのよっ!」

 理性を持った注意喚起よりも先に、口が勝手に動いてしまった。
 しかし、これはいつもの事なので全く気にしない。
 ただ、

(折角ヒロの隣を陣取ったのに、これじゃ落ち着いてお酒も楽しめないじゃないっ!)

 目立つ言動は一切していないにも係わらず、どうして注目を浴びているのかまるで判らない。

(そりゃ、あたしの美貌はそんじょそこらのタレントや女優よか格段に優れているのは誰もが認めてるけど、だからってジロジロ見られるのは、いくら身内でも好い気はしないわよ)

 半分苦々しく思いつつ、眼光鋭く集まる視線を尽く跳ね返してやると。

「だって~、晶姉さんが一番、何か腹に抱えていそうだったんだも~ん。未だにノーコメントだし~」

 こちらの威嚇を物ともせず、視線を外さず見つめているのは若菜だ。
 しかも、サッと視線を逸らした何人かが若菜の明け透けな意見に小さく頷いているではないか(それはそれで腹が立った)。

「あ、あんたら~~~~っ!」

 拳を振るわせ、思わず唸る。

 長い髪が逆立ち、目尻が急角度で吊り上がるのが自分でも判った。
 視線を逸らした者が息を呑む音まで耳に届く。

(あたしゃ腹黒女じゃねぇ!)

 が、喉まで出掛かった言葉を寸前で呑み込む。
 ここで咆えたらお笑いネタになるのは確実だし、意図しない二つ名まで付いてしまう恐れもある。
 そして何より、今は自分が前面に出る訳にはいかない。

(今日の主役は多恵子さんなんだから、あたしが目立ってどーするっ)

 誰にも気付かれぬよう深呼吸し、昂ぶる鼓動を落ち着かせ、顔の強張りも解く。
 営業スマイルで培った技術(?)が家庭でも役立つ、好い例だろう。
 もっとも、唸った時に手にしたグラスがピシッと甲高い音を立て(顔を引き攣らせ身を退いた輩がいた)、手触りが少し変わったような気がしたが……きっと気の所為だろう。
 ここは出来る大人の女として、そして筆頭妻として度量の大きさを見せ付けねばならぬ。
 女の子座りのまま居住いを正し(背筋を伸ばしただけだが)、すまし顔で若菜と首肯した面々に応えてやる。

「コホン。若菜ちゃん、あたしは何もお腹に抱えて無いわ。ただ、長期的な展望を見据えてただけよ」

 これは本当の事なので堂々と胸を張り、言い切る事が出来る。
 隣に座る宏もニコニコ(ニヤニヤ?)顔のまま、グラスを傾けている。

(フンッ! あたしは常にみんなの事を、何よりヒロとの事を考えてんのよっ! ――って、流石にこれだけじゃ判らんか)

 筆頭妻の、ひいては己自身の威厳を見せ付ける為に大仰に言ったものの、高校の後輩である飛鳥と、自分と同じ大学(がっこう)を出た真奈美、そして高校時代の恩師である夏穂は盛んに首を傾げている。
 どうやらこの三人には言葉が足りなかったらしい。

「晶姉さん~。わざと小難しいコト言って、はぐらかそうとしてる~? 勿体振らないで教えてよ~」

 最初に尋ねた若菜も意味が判らないらしく、眉を顰めては首を大きく横に倒していた。
 その所為で若菜自慢の黒髪の先端が川のように床に流れている。

(若菜ちゃん、長い髪してるんだから少しは気に掛けなさいよ。そのままじゃ踏まれたり汚れたりするでしょうに)

 自分も若菜と同じく腰まで届く髪をしているので、年頃の女性として思わず注意したくなる。
 しかし当の本人は全く気にして無いらしく、早く答えを聞きたいとばかり切れ長の瞳を向けて来る。
 晶は瞬き一回分で思考を切り替え、小さく微笑んでみせる。

「別に小難しくなんか無いわよ。現に美優樹ちゃん、千恵ちゃん、ほのか、そして優は判ったみたいだし」

 こちらの四人は小さく目を見開き、今、気付いたような顔付きになって僅かに頷いてもいる。

(うんうん、頭の回転が速い人は理解が早くて助かるわ)

 隣に座る宏とその隣の多恵子も、終始笑顔のままだ。
 この二人は単に、こちらの動向を楽しんでいるのかグラスを傾け、肴を摘みつつ時々意識をこちらに向けているのが判る。

(ま、元々はヒロと多恵子さんから言って来た事だし、完全に傍観者の顔付きね)

 こちらはこのままで好いとして、問題は首を傾げる四人の対処だ。
 このまま放って置いても好い気もするが、筆頭妻として、そして家族として隠し通すのも拙いだろう。

(ま、これ以上シラを切っても仕方無いし、そろそろタネ明かし、してやるか。下手にダンマリ決め込むと変な誤解や誤った解釈されると多恵子さんに迷惑掛かるし)

 晶は真奈美に新しいグラスを持って来させ、喉を湿らせてから切り出した。

「そんじゃ、あたしがさっき言った『長期的展望』の意味を話すわね。それが多恵子さんのご懐妊の裏話……と言うか経緯(いきさつ)に繋がるからさ」

 今度こそ全ての視線が集まる中、晶は小さく頷く宏と多恵子に頷き返すと淡々と語り出した――。


     ☆     ☆     ☆


「あれは……今からひと月ちょい前の、師走の始めの頃だったわ。そう、美優樹ちゃんの誕生日宴会を終えた、次の日の夜よ。今でも覚えてる。そうそう、あたし等が暮らす東京にも寒波が押し寄せて今シーズン初の雪下ろしの雷が鳴ってて――」

 当時を振り返りながら、晶はゆっくりとグラスを傾ける。
 すると、どこからか「勿体振ってる~」「焦らすわね」「余裕こいてなんか腹立つ」「……格好付けても無意味」等々の囁きが聞こえて来たが、全て空耳だろう。

(ふふん♪ 今現在、全ての事情を知ってるのは当事者であるヒロと多恵子さんを除けばあたしだけ! むははははっ! 誰も知らない事を知ってるこの優越感は何度味わっても捨てがたいわねぇ)

 ニヤリと口角を上げ、心弾ませ悦に浸る晶は思考を当時へ飛ばした――。

     ※     ※     ※

「さて、ぼちぼち寝るか。今日の伽はヒロと多恵子さんとツーショット、か。久々の夫婦水入らず、って感じね」

 あの二人は歳の差あれどお似合いなのよね、などと思いつつ鏡台で髪を梳いていると、襖をノックする音と宏の呼び掛けが耳に届いた。

「あら珍しい。ヒロがあたしの部屋に来るなんて。しかも多恵子さんまで連れて」

 廊下に通じる襖を開けると、そこにはロングTシャツにトランクス姿の宏と膝上までの白いキャミソールを纏った多恵子が佇んでいた。
 早々に招き入れると押入から座布団を二枚取り出し、来賓を座らせてからベッドへ腰掛ける。

「しかし多恵子さん。いくら廊下にも暖房入ってるとは言え、その格好じゃ寒かったでしょ? ヒロも上っ張り羽織らせるなり何なりして少しは気遣いなさいよ」

「あ、そうだったね。ゴメン、多恵子さん。俺、全然気付かなくて」

「いえいえ、晶さん、宏さん、ご心配ならさずに。わたくし、年甲斐も無く身体が少々火照っておりますから。おほほ」

 多恵子の纏うキャミは生地が薄く、肌が透けて見えるセクシーなものだ。
 当然、豊かに揺れる双丘やその頂の薄ピンクの突起が丸判りだ。
 しかも穿いているショーツは薄ピンクの紐パン――こちらもシースルーなので女の亀裂が黒っぽく浮き出ている――なので、正に「これからエッチします」と公言してるのと何ら変わらない。

(二人して顔、見合わせるや朱(あか)くしちゃってまぁ、処女と童貞の初エッチかっ! な~んてね)

 微笑ましい二人に、こちらも優しい気分になれる。

「ヒロってば、もしかして朝までの3Pコース、したくなった? 明日は日曜だし、久々に貫徹エッチのお誘いかしら? なら、誰が最後まで意識保っていられるか、賭けてみる?」

 こちらのジョーク(百パーセント本気)に、夫は慌てながらも律儀に突っ込んでくれる。

「何、言ってんの。どのみち途中から乱入して来るのはいつも若姉と晶姉じゃん」

「あら、心外だわ。あたしはあくまで慎ましく、淑やかに最後のおこぼれを頂戴するだけよ? 若菜ちゃんみたく目の色変えて貪る事はしないし~」

「慎ましく? 淑やか? 誰が? 第一、最後のおこぼれって、どの口が言うかな。真っ先に一番搾り欲しがるの、何処の誰でしたっけ?」

「さぁ? この世で一番美しい妃じゃない?」

「言ってら。あははははっ」

「うふふふふ」

 ヒロと交わす軽妙なやり取りは楽しくて仕方が無い。
 ましてや自分の寝所で下ネタ満載の言葉を交わすなど、結婚前までは決して味わえ無かった心安らぐ時間だ。
 多恵子も判っているのか、ニコニコしながら見守ってくれている。

「で、本題は?」

 このまま心温まる(?)下ネタトークを続けたいのはやまやまだが時間も時間だし(時計をチラリと見ると日付が替わる三十分前だった)、わざわざ二人切りの時間を割いてくれたのだから、きちんと用件を聞くとしよう。
 それによると。

「なるほど。高齢出産、か」

 二人の口から発せられた四文字で、尋ねて来た理由が全て判ってしまった。
 多恵子は現在三十八歳だが、二ヶ月後には三十九になる。

「お腹の子供は十月十日、だものね」

 誰とも無く口にすると、宏よりも真剣な眼差しの多恵子が大きく頷いた。
 なるほど、今回の提案(進言?)は最年長妻の多恵子から夫である宏へ寄せられたらしい。

(ま、ヒロと多恵子さんの間に子を成す為には近々明確にしないと拙い事案だったものね。むしろ今、向き合って正解かもしれないわね)

 実際、妊娠期間を考えると、四十までに産む為にはこのひと月ふた月、遅くとも三月上旬までに受胎させる(仕込む♥)必要がある。
 しかも、女性には月経(レディ・サイクル)があるので、狙って着床させる為にはタイミングも限られてしまう。

「まぁ、四十の壁に係わらず、リスクを避けるなら早い方が好いものね」

 念の為に確認すると、宏と多恵子も同意見との由。

「うん、好く判った。つまりヒロは早々に多恵子さんを孕ませたい、と。で、あたしに、どうしろと?」

 宏と多恵子の考え――家族計画は理解した。
 しかし、それはあくまで二人の問題であって、自分とは無関係と思われる。
 受精の成否は、いわば神の領域だからだ。

(もし、あたしがヒロの子を宿したら小躍りして歓び、誰に憚る事無く産むと決めているもの。何なら出産シーンを全員の目の前で行い、若菜ちゃんの所有するフルハイビジョンカメラ――今は4Kカメラにグレードアップしたらしい――で録画させても好いし)

 などと涎を啜りながら、瞬き一回分で考える。

「うん……それは……えっと……その……」

 しかし、目の前の従弟は歯切れも悪く唸っている。

(おいおい、ヒロは一家の大黒柱なんだから、もっと堂々と構えなさいよっ!)

 喉まで出掛かった言葉を寸前で飲み干す。
 今は、父親になろうとする人物を叱咤する時間では無い。
 そもそも、多恵子の出産計画について自分や回りがどうこう言う資格も権利も無いのだ。

(ここは「これから多恵子さんと子作りするから協力して」と胸張って宣言すれば済むのに、何を悩んでるのかしら?)

 従弟の弱気な態度(ヘタレ具合)にイラッとし、眉を顰めてしまう。
 しかし、この従弟は別の心配事があるらしい。
 加えて、それは自分に直接係わる事だと纏う雰囲気(オーラ)で判ってしまう。

「えっと、つまり……その」

 今尚、言いにくそうに顔を僅かに顰め、視線を逸らし俯く宏。
 それでも時々、チラチラとこちらを覗う視線を向けて来る。
 隣に座る多恵子も心配そうに眉根を寄せて宏を見つめ、いつしか手も添えられている。

(あらあら、姉さん女房らしい心配りね。ヒロも果報者だわ)

 このさり気無い優しさを目撃したお陰か、ついさっきイラッとした気分がスッと晴れ、気分も落ち着いて来た。

(あぁ、そうか。ヒロは――)

 そんな、どこか申し訳無さそうな態度で判ってしまった。
 何せ、宏が生まれ落ちた瞬間から今日までの二十二年間、従姉の立場にいるのだ。
 愛する従弟の喜怒哀楽を存分に知り尽くしているだけに、従弟の思い悩む感情がひしひしと伝わって来る。

(ヒロは、あたしが妊娠の一番手に拘っていると思っているのか。それで先に多恵子さんを妊娠させる許可を貰いに来た、って訳か。だったら――)

 脳ミソに閃光が走る。
 規模が小さいとは言え、いち企業のトップを預かる立場にいるので頭の回転の速さには自信がある。
 部長の肩書きは伊達では無いのだ。
 ここはひと芝居、打って出る事にしよう。

「つまり、ヒロは筆頭妻で従姉でもあるあたしを放置し、愛しき多恵子さんを孕ませる事を宣言しに来た訳ね」

「ち、違っ! お、俺っ、ほ、放置だなんてっ――」

 わざと蓮っ葉に言うと、慌てたように腰を浮かせ、額に大量の冷や汗を浮かべる宏。
 呂律も怪しく視線を彷徨わせ、手も所在無さ気に右往左往させている。
 宏の手を握る多恵子も一緒になって腰を浮かせ、驚いたように目を見開いている。

(ムフ♪ ヒロのこの顔は何年経っても変わらないわねぇ)

 思った通りの反応を示すから面白い。

「な~んて、冗談よ。本気にしなさんな。うふふふふ」

 目と手で従弟を制し、敢えて笑い声を上げると。

「あ、晶姉~。今は冗談かます場面じゃ無いでしょっ」

 狙い通りにへたり込む従弟の顔を見た瞬間、電流を流されたように身体の芯からぞくぞくしてしまった。
 子宮が熱を帯び、図らずも熱い塊が膣内(なか)を下るのが判る。
 これだから従弟弄りは止(や)められない。

「ごめんごめん。ちょろっと場を和ませただけよん」

「そ、それにしては目が本気だったような――」

「それこそ気の所為よ」

 これ以上言わさないとばかり、言葉を封じる。
 多恵子が宏の隣で成り行きを見守っているのだから、こちらの本心は決して出せない。

(やっぱ、あたしがヒロの最初の子を産みたい! な~んてのは、あたしの我が儘だもの)

 愛する男性(ひと)の子を宿し、産み、育てる――。
 自分だけでは無い、ここに住まう十人の女、全てに共通する想いだ。

(まぁ、妻が十人もいれば出産順など意味無い――とみんな判ってはいると思うけどね)

 それでも一番目に拘るのは、完全に自分自身のエゴだ。
 その位はわきまえている。
 晶は笑みを二人に向け、安心させるよう穏やかに言葉を紡ぐ。

「いくらあたしがヒロの童貞貰ったからって、妊娠から出産まで一番になる気は無いわよ。そりゃ、最初に結婚した面子相手なら問答無用であたしが最初に受胎し、産むつもりだったわよ」

 微笑んだまま、晶は視線を多恵子に向ける。

「でも状況が変わった。家族構成も大きく変わった」

 多恵子が小さく頷く。
 自分達が同居し、結婚した事を言っているのだと判っている証拠だ。

「なら、あとは自然とプライオリティが決まるのも自然な流れよ」

「優先順位? 何の?」

 何を指すのか判らなかったのか、眉根を寄せた宏が首を傾げる。
 一方、多恵子は納得したように相好を崩し小さく頷いている。

(やはり人生経験の差、ね。多恵子さんの方が判ってる)

 顔には出せないが、まだまだ経験値の低い従弟が心配にもなる。
 しかし、ここは頼れるお姉さんとして従弟を導こうではないか。

「そりゃそうでしょうよ。幅広い年代の妻が揃っているのなら、出産のリスクを極力抑える為にはどうするか――。考えなくとも自然と答えは出るでしょ?」

「あ、そう言う事か。うん、だからそれを相談しに来たんだ」

 どうやら、この従弟はある程度までは家族計画を意識していたようだ。
 なれば、あとは背中を押してあげるだけだ。

「ヒロ? この屋敷の主(あるじ)はヒロ自身よ。ヒロが考え、決めた事ならあたしは口を挟まないし、黙って従うわ。それが間違った道で無い限り」

 従姉として、そして筆頭妻として出来うる限りのアドバイスを贈る。

「ヒロが多恵子さんの意を汲み、子を成すのならばあたしは協力を惜しまない。受精させるタイミングに合わせると言うなら、セックスの順番を譲っても好い」

 すると、それまで沈みがちだった従弟の表情が見る間に明るくなり、多恵子の表情も晴れやかになる。
 どうやら助言が役立ったようだ。

(ふぅ。これで今夜のあたしの役目は終わったわね)

 多恵子も問題解決とばかり、笑顔に戻った。

「晶さん。ありがとうございます」

「いえいえ、お礼を言われる事じゃありませんから。最初の出産は多恵子さん以外、ありませんし」

「晶さん……」

 言葉を詰まらせた多恵子の瞳に、薄っすらと光るものが。

「年齢を持ち出すのはアレですが、やはり共に暮らす以上向き合わないとダメですし、四十までに子を産みたいと願う多恵子さんの想いを若輩のあたしがどうして断れるでしょう」

「晶さん……重ね重ねありがとうございます」

「晶姉、俺からも礼を言うよ。判ってくれてありがとう」

「な゛、なによっ!? あたしとヒロとの間で、今更、変な遠慮は無しよ、無しっ!」

 真顔で面と向かって礼を言われるのは慣れていないから、大いに照れてしまった。
 きっと鏡を見たら、首から上が真っ赤に染まっている事だろう。
 実際、顔が火照っているのがよ~く判る。

(ふぅ。これで万事解決、全て終了ね)

 肩の荷を下ろし、安堵の息を吐(つ)いていたら。

「晶姉! 俺、もう悩んだりしないよ。晶姉の顔色と御機嫌を伺いながら物事進めるの、もう止(や)めるよ!」

 スッキリ晴々とした宏からの、聞き捨てならぬ暴言が。
 隣に座る多恵子は慌てたように腰を浮かせ宏の腕を何度も引いているが、当の本人は全く気付いていないらしい。

「……おい」

 そんな従弟の何気無い(?)ひと言に、自分の導火線に火が点いた。
 声のトーンが最下層まで落ち、眉根に深い皺が寄るのが自分でも判る。

「これからは晶姉の叱責に怯える事無く、我が道を堂々と進むよ!」

「おい、こら」

 哀しいかな、自分の導火線の短さは熟知している。

「なんせ、晶姉の御機嫌損ねたら俺が他の奥さん達から吊し上げ、喰らっちゃうからね」

「黙れ」

 宏のひと言ひと言に頬が引き攣り、髪は逆立ち、膝上の手は硬く握られてゆく。
 オマケに、全身に震えまで。
 この時、顔面蒼白となった多恵子が部屋の隅へそそくさと逃げるのが視界の隅に映ったが……もはやどうでも好い事だ。

「晶姉ってば、無言の圧力すげぇんだもん。飛鳥ちゃんとか美優樹ちゃんなんか、なまはげに怯える幼子みたくプルプル震えちゃってさぁ。宥めるの、大変なんだもん。あはははは♪」

「好い加減にせいっ!」

 ここで堪忍袋の緒が切れた。
 いくら寛大で心が広い自分でも、物には限度がある。
 この無礼者には相応の罰を与えねばなるまい。

「誰が誰を叱責してるってっ!? 誰の顔色を気にしてるってぇ!? 御機嫌伺いとは何よ! なまはげって誰っ!」

「はわわわっ! あ、晶姉、落ち着いて――」

 思わず宏の胸ぐらを掴み、キツく締め上げながら顔を近付け眼光鋭く睨み付けた――。

     ※     ※     ※

「――と言う訳で、あたしは多恵子さんのご懐妊を全面的にバックアップし、その結果、先日行った病院での検査で多恵子さんのご懐妊が正式に判明したのよ。着床時期は今月上旬ね」

 回想から復帰し、宏とのいさかい部分を端折った晶は多恵子のお腹に視線を向ける。
 すると、全員の視線も同じ場所へと向くのが判った。
 そんな気の合った行動に可笑しさを感じつつ、晶は解説を続ける。

「当然、あたしからのお祝いは検査結果の報告を聞かされた時にちゃんと済ませてあるわ。だから今日は見守るだけに終始してたのよ。あたしが最初に言った長期的展望とは、言い換えればヒロの家族計画の事よ」

 粗方の説明を終え、晶はグラスの中身を一気に飲み干した。
 流石に長い話だったので、喉がカラカラだ。
 と、ここで小さく首を傾げた真奈美から質問が飛んだ。

「あの、妊娠したかどうかって、三ヶ月経たないと判らないんじゃないでしたっけ?」

「あ……そう言えばそうね。妊娠したのが今月上旬って言ったけど、まだひと月経って無いわよ? そんなに早く判るものなの?」

 ロングポニーテールを傾けた千恵も同調し、飛鳥や美優樹、若菜も同じように首を傾げ、指折り数えている。
 一方、ほのか、夏穂、優の三人は現代の医療レベルを知っているのか、小さく頷いている。

(まぁ、ほのかはパイロットとして半年毎に身体精密検査受けるから知ってて当然ね。夏穂先生は女子高の教師として必要な知識だろうし、優は……どうでも好いわ)

 長い髪を片手で払いつつ「どうします?」と多恵子に視線を向けると、微笑んだまま手の平でこちらを指した。
 こちらで説明しても好い、との合図だ。
 これも先日、報告を受けた時に予(あらかじ)め決めておいた事だ。
 多恵子曰く、「筆頭妻である晶さんからご説明戴けた方が万事丸く収まるでしょうし。おほほのほ」だそうだ。

(絶対、ヒロが何か入れ知恵したに決まってる! でなきゃ、多恵子さんが『丸く収まる』だなんて言う訳無いしっ)

 百パーセント確信するが、お目出度い席なので赦すとする。
 咳払いひとつで気分を切り替えた晶は、多恵子に代わって応える。

「真奈美、千恵ちゃん。最新の医療技術じゃ簡単な事よ。まぁ、三週間前と言えば、ほのかの実家の別荘にいた時ね。そこでヒロは見事、多恵子さんの種付けに成功したって訳。判った?」

 八人の妻を前に胸を張った晶はドヤ顔を決め、話を締め括った。
 すると。

「あ~、もしかしてあの時かぁ! 晶姉さんが宏ちゃんの濃厚一番搾りを二晩続けて多恵子さんに譲った、あの時だぁ! みんなホラ~、両日とも宏ちゃんが屈曲位と正常位の合わせ技で抜かずの三連発決めた時だよ~!」

 向日葵の如く破顔した若菜に、多恵子は一瞬で茹でダコみたく真っ赤になり、深く俯いてしまった。
 宏も全身を赤く染めて蹲り、これでは肯定しているのと同じだ。

(あらら、みんなして催して来ちゃったかな?)

 他の面々も頬を朱(あか)く染め、内股になってモジモジしている。
 どうやら若菜によるリアル表現に、そのシーンを想い出したらしい。
 と、それまでじっと息を潜めて(?)いたほのかが何かに気付いたように顔を上げた。

「ってコトは、スウェーデンで子供が出来た、ってコトか!?」

「そうだよ、ほのかさん。俺の……俺達最初の子供は、ほのかさんの生まれ故郷であるスウェーデンで、それもほのかさんの実家で命を宿したことになるんだ。ある意味、ほのかさんの子供でもあると言っても好いかもね」

 何とか復活した宏が笑顔で補足した瞬間、猛然と席を立ったほのかが宏と多恵子を同時に抱き締めた。

「宏ぃ! 多恵子さん! 嬉しいよぅ! うぅうう……」

 二人の肩を抱くほのかの声は涙に掻き消され、その後、暫く誰も動く事が出来無かった。


                                            (つづく)

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| 本編 | 新婚編 | 番外編 | 総目次 |

【 お寄せ戴いた御意見・御感想 】

[ ご挨拶 ]
 
 いつも 「ライトHノベルの部屋」 を御愛顧賜り、誠にありがとうございます♪

 さて。
 今章が今年(2015年)最後の掲載となります。
 本年も拙小説を御贔屓戴き、ありがとうございました。
 深く御礼申し上げます。

 ありがとうございました。m(_ _)m

 来年も引き続き弊サイト、及び拙小説を御愛顧戴けたら幸いです♪
 よいお年をお迎えくださいませ。 m(_ _)m



 尚。
 先のコメント欄にも記しましたが、ここ最近になってブログ運営会社(FC2)による一方的且つ独善的な (※)検閲 が強化されております。

 拙小説に於いても 『憲法21条』 で保障されている 『言論の自由』、及び 『表現の自由』 が害され、通常の文章や読者様に対する注意・警告文すら掲載出来無い事態となっております。
 その為、御来訪戴いた方々に対し非常に読みにくい、又は意味が通じにくい言葉や文章となる事をお赦し下さいませ。

 現状では、作者側で文章の改変(*や-による伏せ字や文字分け、スペースキーでの空欄処理)等の対処しか出来ず、如何ともし難い状況ですが、今後とも弊サイトを御愛顧戴けたら幸いです。

 いつも 「ライトHノベルの部屋」 を御贔屓頂き、誠にありがとうございます♪ m(_ _)m
 

 (※)FC2による検閲とは?
 『アダルトカテゴリ』 に於いて、FC2側が定める特定の言葉(キーワード)を 『機械』 が自動抽出し、該当の言葉がある記事(文章)を掲載させず、既存の記事(文章)の更新も出来無くさせる行為。
 場合により、サイトの強制凍結も予告無しで一方的に行われている。

 その為、「カロリー」 「セロリ」 と言った料理系の言葉すら封印されてしまい(「ロリ」が禁止ワードとなっている為)、サイトが凍結され多数の被害者が続出している。
 中には他社ブログへの引っ越しを余儀無くされているサイト管理人様も多数存在。

 作者側では 「ロ*リ」 「ロ(ここに半角スペース)リ」 等の処置を施さないと掲載出来ず、弊サイトのように文章量の多いサイトでは修正のしようが無いのが現状。
 いち企業の保守的且つ独善的内規が憲法を凌駕している悪しき例。
 
 今後の改善が見込めない以上、弊サイト(拙小説)は現状維持、又は一部の言葉の書き換えしか出来ませんが、何卒御辛抱下さいませ。 m(_ _)m
 

[ 感想 ]
晶姉! 俺、もう悩んだりしないよ。晶姉の顔色と御機嫌を伺いながら物事進めるの、もう止(や)めるよ!」
ってのがありましたが・・・・・遅すぎ!!

FC2のなんたらかんたらってことですが  いっそのこと 別のとこに移ったほうが早いかも?です。
ここじゃなきゃいけないってこともないですし



個人的に美優樹のバースデーのシーンをじっくりと読みたかったです。

[ Merry Christmas ]
日本は商業主義に乗っ取られて商売絡みの年中行事が多すぎます。
某百貨店では今日の夕方、早々にクリスマスの飾りを片付け、
早速そこに正月用品を並べ始めていました。
本来、クリスマスの飾りつけは新年を迎えるためのモノじゃなかったかな。
アメリカもそうでしょうけれど、少なくとも英国と独逸はそうでしたよ。

あ~~~、私もスウェーデンみたいな北欧で
一度クリスマスを過ごしてみたいですね
(付加価値税VATの高さもバッチリですけど)

[ 引っ越しも一案かと・・・ ]
アムロ・レイさんの云う通り、
あまりに作品の出来が左右されるのならば、
作品ごとそっくり移動させるのもいいのでは?
これだけ長くお付き合いした作品が急に
【削除されました】は悲しすぎますから、
その際は是非ともご通告をお願いします。

[ 毎度お越し戴きありがとうございます♪ ]
アムロ・レイさん
 コメントありがとうございます♪

 宏と晶のコンビ(?)も好い味出してますね。
 姉さん女房万歳! (^o^)ノ

 毎度ご贔屓ありがとうございます♪ m(_ _)m

 --------------------------------------------------------------------------------

ぺんぎんさん
 コメントありがとうございます♪ 

 最近は北欧やヨーロッパでも(テロで)きな臭くなり、安心して過ごせる地域が減って来ていますね。
 すぐにでも紛争の無い地球になって欲しいものです。

 毎度ご愛顧戴きありがとうございます♪ m(_ _)m


 *  *  *  *  *  *  *  *
【弊サイトの引っ越しに関して】

 今現在、引っ越しは考えておりません。

 現状に於いて、アダルトカテゴリがあるブログはライブドアのみのようです。
 しかし、ここでは記事が新着順(日付の新しい順)でしか載せられず、書籍(文庫本)のように表紙(古い順)から読む事が出来ません。

 弊サイトのデータ(文章)をそのまま移行した場合、ページを順に辿ると古い文章へ戻るのです。
 つまり、文庫本を終りの章から最初の章(表紙)へ向かって読むようなものです。

 これは、小説サイトでは致命的な欠点です。

 拙小説に当て嵌めた場合、初見の方が物語を読む為には何度もクリックしなければ物語の最初(1ページ目)に辿り着けません。
 これではユーザビリティに反し、決して読みやすい小説サイトとは言えません(現・弊サイトも快適とは言えませんが……)。

 一方、ここ(FC2ブログ)では掲載が古い順での掲載が可能で、初見の方でもすぐに表紙から、それこそ本を読むように読み進められます。

 わたくしがライブドアへの引っ越しを躊躇しFC2へ未だ留まっているのはこの為です。

 もっとも、わたくしがHTMLやスタイルシートに精通し、どんな場所でもどんな様式にも組み立てられる知識を有していれば、それこそどこでも、どのようにでもサイトを作り上げる事が出来るのでしょうが……あいにくとそう言った知識量はゼロなので既存のブログ形式に頼るしかありません。(>_<)

 とまれ。

 今後もこのままFC2に留まります。

 但し、今後掲載される文字列(過去の掲載を修正で更新した場合を含む)に若干の違和感が生じるやもしれませんが、温かい目で見て戴けたら幸いです。 m(_ _)m

 尚、弊サイトで異常が生じた場合(強制凍結された場合等)はわたくしのTwitterやFacebook、別サイト(部屋の屋根裏)にてお知らせ致しますので、そちらもご参照下さいませ。 m(_ _)m
 
 いつも弊サイトを御覧頂き、誠にありがとうございます♪ m(_ _)m
 

[ ]
ご無沙汰しております。
なかなかコメント出来ず申し訳ありません。
宏もすごい気の回しかたです
感服いたします。
多恵子さん懐妊おめでとうございます。
来年も楽しみに続を楽しみし待っています。
先生も幸ありますように
良い年をお迎えください

[ 毎度お越し戴きありがとうございます♪ ]
海人さん
 コメントありがとうございます♪

 今年も拙小説をご贔屓戴き、誠にありがとうございました。
 来年も引き続きご愛顧戴けたら幸いです。m(_ _)m
 
 好いお年をお迎え下さいませ。m(_ _)m
 

[ 新年の御挨拶 ]
 
 いつも 「ライトHノベルの部屋」 にお越し戴き、
 誠にありがとうございます♪ m(_ _)m

 昨年は多大なる御声援を賜り、感謝に堪えません。
 深く御礼申し上げます。

 ありがとうございました。m(_ _)m

 本年も変わらぬ御愛顧を賜りますよう、
宜しくお願い申し上げます。 m(_ _)m
 お越し戴いた方々の御健勝をお祈り致します。m(_ _)m
 
 さて。
 今月で拙小説(「美姉妹(しまい)といっしょ」シリーズ)が連載されてから11年目を迎えました(初掲載は2006年1月)。
 これまで長々とお付き合い戴き、感謝に堪えません。

 また、現在連載中の 「美姉妹(しまい)といっしょ♪~新婚編」 も連載開始(2008年4月)から9年目に突入致します。
 3週毎の更新とは言え、ここまで続くとは……わたくしも想像(想定)しておりませんでした。
 こちらも数多の御支援を賜り、深く御礼申し上げます。m(_ _)m

 まだまだ至らぬ拙小説ですが、今後とも御愛顧戴けたら幸いです。 m(_ _)m

 尚、次回掲載は1月15日を予定しております。
 更新まで今暫くお待ち下さいませ。 m(_ _)m


                            2016年 1月 1日 「ライトHノベルの部屋」 管理人 エルム
 

[ 挨拶 ]
新年あけましておめでとうございます。 今年もよろしくお願いします。

個人的に、千恵と美優樹の出番が増えるのを期待してます。

[ お越し戴きありがとうございます♪ ]
アムロ・レイさん

 あけましておめでとうございます。
 本年も拙小説を御贔屓戴けたら幸いです。 m(_ _)m

 毎度お越し戴きありがとうございます♪ m(_ _)m
 

[ 知らなかった。 ]
いつも楽しく拝見しています。
元々は、小説家になろうサイトで読ませていぢいて
ました。
いっそのこと、そちらで更新されたら如何でしょうか?
サイトにより様々な制約や仕様があるのは理解して
いますが、異常ですね。
たぶん、fb2が別件で管理者が当局に上げられたからでは
ないかと思います。

更新を楽しみにしております。

【2016年01月09日(土) 00:25】 URL | 頼光 雅(らいこう みやび) | [ 編集 ]

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[ お越し戴きありがとうございます♪ ]
頼光 雅さん
 コメントありがとうございます♪

 あちら(「小説家になろう」)でもご贔屓賜り感謝に堪えません。
 ありがとうございます♪ m(_ _)m

 まだまだ拙い小説ですが、こちら(「ライトHノベルの部屋」)もご愛顧戴けたら幸いです。 m(_ _)m
 

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