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メヌエット(4) メヌエット(4) 美姉妹といっしょ♪~新婚編
 
「ん~~、ここに来るのも久し振りだな」

 スーツケースを両手でゴロゴロと押しつつ、宏は見覚えのある到着ロビーに相好を崩した。
 ここはストックホルムの空のメイン玄関、アーランダ国際空港だ。
 
(この開放的な空間は何度見ても素晴らしいな。流石、インテリアデザインの最先端を行く国だけあるわ。IKEAとH&Mが世界的メーカーになったのも頷けるわ)

 スェーデンは家具メーカーで世界に名を馳せるIKEAの発祥地であり、ファッションブランドで世界展開しているH&Mの本拠地でもあるのだ。
 空港ターミナルの見上げる程に高い天井と全面ガラス張りの壁、そして広く明るい空間は長旅の疲れを忘れさせてくれる癒しの空間(スポット)にも思えて来る。
 フロアの中心には色取り取りなLED電球と様々なリースや愛らしいサンタクロース人形で彩られた大きなクリスマスツリーが鎮座し、そこかしこの壁や店舗にはクリスマスを祝う華やかな飾り付けもなされてもいる。

(やっぱ、この時期は楽しくて好いなぁ。おっ! サンタまでいるし♪)

 子供達の歓声に釣られて視線を向けると、そこには赤装束に白髭のサンタが子供ひとりひとりに愛嬌を振り捲いていた。
 しかも、傍にはトナカイがソリに繋がれているから本格的だ。

「いゃ~ん♪ サンタさんがいるぅ~♪ 超可愛い~♪ 私も頭、ナデナデして貰いたい~♪」

「うわっ!? あのトナカイ、生きてるし!」

 若菜や飛鳥を始め、妻達もニコニコしながら小さく指を差しては笑い声を上げている。

(やっぱ、サンタクロース村があるフィンランドが隣国だけあって秀逸な演出だな。前回来た夏の時期とは、まるで印象が違うや。あの時はクールな感じを受けたたけど、今はメチャ、ホットだな)

 耳に届く賑やかさは変わらないが、目に飛び込んで来る色合いが夏の涼しげな青や水色から、暖かみのある赤やオレンジに多く変わっているのだ。
 と、ここで宏は、とある人物を思い出した。

(前回の訪問と言えば、その時は、ほのかさんのお母さんが日本からわざわざ来てて、この到着ロビーで待ち受けてたんだよなぁ。寝耳に水だったから、ほのかさんや俺達みんなして驚いたっけ。しかも、お義母(かあ)さんのキャラに一同、目が点になったし)

 一年半前の、あの騒動がつい昨日の事のように思い出される。
 あの時は、どの辺りでお義母さんと逢ったっけ、などと記憶を辿りつつ立ち止まって周囲を見回していると、すぐ後ろに続いていた筆頭妻の晶から弾んだ声が掛かった。

「ヒロ。送迎車の手続きはあっちよ。みんなも遅れず付いて来て♪」

 添乗員よろしく右腕を高々と掲げると、左腕一本でスーツケースを軽々と押しながら颯爽と先陣を切る晶。
 どうやら、夫が立ち止まったのは送迎受付のカウンターを探しているものと捉えたらしい。

(晶姉、張り切っちゃってまぁ。足取りが軽いのは、ほのかさんだけじゃ無い、って事か)

 晶自身も今回の旅を噛み締めているらしい。
 右手には手荷物用の小型カートも牽いているのに、全くもって軽快な動きだ。

(晶姉、実は、誰よりもこの旅を楽しんでるみたいだな。高い位置にある尻が右に左に弾んでいるし)

 従姉の後ろ姿(ナイスバディ)――スリムジーンズに丸く包まれたヒップに引き寄せられるよう、鼻の下を伸ばしながら(自覚アリ)付き従っていると、左腕をクイッ、と引かれた。

「宏、送迎車って? 地下の空港駅から電車に乗るんじゃないのか?」

 ここでもすぐ隣の位置をキープしているほのかが小さく首を傾げて尋ねて来た。
 ほのかの実家はシャトル電車で市内中央まで行き、そこから郊外線バスに乗り換えるのだ。
 ほのかの疑問に、優、真奈美、千恵、若菜も同時に頷いている。
 この四人は、ほのかの実家がどこにあるのか、どうやって行くのか知っているので当然の反応だろう。

「宏先輩? ほのかさんのお家(うち)に、これから行くんですよね?」

 栗色に煌めくツインテールを揺らした飛鳥も、首を傾げながらほのかの質問に続く。
 多恵子、夏穂、飛鳥、美優樹の四人は、まだほのかの実家の正確な場所を知らないので、こちらも飛鳥と同じ反応を示している。
 そんな妻達の疑問に宏は歩みを止めず、時々振り返りつつ応えた。

「ほら、俺達はスカンジナビアーナ航空の『プレミアムクラス』を利用したでしょ。その特典で出発地である東京と、到着地であるストックホルムではドア・トゥー・ドアの送迎をしてくれるんだ。勿論、無料(タダ)で♪ 屋敷から羽田まで送迎してくれたのは、そのひとつなんだ。だから今俺達が向かっているのは、その送迎を請け負っている会社のカウンターなのさ。当然、スーツケースの運搬や車への積み下ろしも東京同様、玄関までしてくれるよ♪」

 主(あるじ)の解説に、スーツケースをゴロゴロと押し歩いていた妻達から一斉に安堵の息が漏れる。

「やったー! これで楽、出来る!」

 思わず声が出たのだろう、千恵の澄んだ日本語が利用者で賑わう空港ロビーに響いた。

「あはは! 千恵姉、スーツケース押すの、そんなにしんどかった? 何なら俺が押そうか?」

「へ!? あ、いや、その……てへっ♪ でも大丈夫! この位、へっちゃらよっ」

 誤魔化すように、はにかみつつピンクの舌先をチラリと覘かせる千恵に、妻達に笑いの波が拡がる。
 なにせ、千恵の身長は百五十センチ。
 縦にしたスーツケースの後ろに立つと身体の下半分が隠れてしまうのだ。
 それは、千恵よりも二センチ背の低い多恵子にも当て嵌まる。

「多恵子さんも、しんどかったら遠慮せず言って下さい。俺が荷物、運びますから」

「うふふ♪ 宏さん、どうかお気遣い無く。わたくし、こうして空港内を大きなスーツケースを押して歩くのが楽しいし嬉しいんですの。おほほのほ♪」

 終始笑顔を崩さないお屋敷最年長妻がニコニコしながら会釈する。
 どうやら、海外旅行の気分を満喫しているらしい。

「みんなも、もうちょっと頑張って。受付カウンターまで、あと少しだから」

「「「「「「「「「「は~い♪」」」」」」」」」」

 それぞれ自分のスーツケースを押している妻十人の元気な声が、道行く人達の注目を集めてゆく。
 なにせ、金髪碧眼が当たり前の地にあって艶やかな黒髪と吸い込まれそうな黒眼は目立つのひと言なのだ。
 そこへ、スーパーモデル顔負けの美貌とスタイルを持ち合わせた日本美女が十人も揃っている――ゴシック・ロリータファッションに身を包んだ美少女も交じっている――のだから人目を惹かない訳が無い。
 行き交う人々の視線を集めつつ、宏達はゾロゾロ、ゴロゴロ歩いてゆく。

(最初、みんなのスーツケースは俺がカートで運ぼうと思ったけど、アレ、載せるのが大変なんだよなぁ。下手すると振動で崩れ落ちるし、何より十一人分は一台に載らないし。だからって、二台に分けたもう一台を誰かに運ばせられないよなぁ、重過ぎて。十一個を一度に載せられる大型カート使えれば好かったんだけど、アレはポーター専用だからなぁ)

 国際空港にはスーツケースを幾つか同時に載せられる運搬カートが常備されているが、中身の詰まったスーツケースを四つ五つ載せる(下ろす)手間や、その分の重さが増したカートの運搬操作は女性陣にとって、かなりな重労働となってしまう。
 だったら、各自が押して歩いた方が断然軽いし楽なのだ。
 しかも、欧米諸国の公共交通機関はバリアフリーとなって久しいので段差で躓く心配が一切無い。

「でもまぁ、千恵姉がそう思って当然か。スーツケース抱えての乗り換え、めんどいもんね」

 苦笑いする宏の言葉に、一斉に頷く妻達。
 空港(ここ)からほのかの実家まで車で約一時間だが、電車とバスを乗り継ぐと更に二十分程度余計に掛かるし、何よりキャスター付きとは言え、二週間分の着替えその他で膨らみ重くなったスーツケースを抱え、街中の混雑する中で乗り換える苦労――鬱陶しさは旅の楽しさを半減させてしまう。

「美優樹ちゃんも頑張って。あと少しだから」

「はい、ありがとうございます。美優樹は平気です。何より、日本人のいない国際空港は如何にも海外旅行をしている実感があって凄く好いですね♪」

 宏が最年少妻であり、妻の中では最も非力そうな美優樹に視線を向けるも手伝う必要は無いらしく、満面の笑みで返されてしまった。
 どうやら、こちらも初めての外国を堪能しているらしい。
 初・海外組の夏穂と飛鳥も、降機してから笑顔と笑い声が絶えないでいる。

(みんなして楽しんで貰えて嬉しいけど……美優樹ちゃんは、どこへ行くにもアノ格好なんだよね。もう慣れたけど)

 全身黒尽くめのゴスロリ美少女が真っ赤なスーツケースをゴロゴロ押す画(シーン)は、まるで有明での某イベントを彷彿とさせるが、それはさておき。
 筆頭妻を先頭に到着ロビーから進むこと、約五分。

「ヒロ、着いたわよ! あとはこの書類にサインするだけで好いって。荷物の積み下ろしは、ここのスタッフが最後まで面倒見てくれるってさ♪」

 晶の弾む声が、一同の注目を集めた。
 ほのかや優、そして真奈美と談笑していた宏も首を正面に向けると、いつの間にか航空会社と提携している貸し切り(チャーター)専門のタクシー会社のカウンターに来ていた。
 しかもよくよく見ると、晶のスーツケースと手荷物用カートが既に荷物受付台に置いてあるではないか。

「晶姉、完全にフライングしてら」

 宏の苦笑いも、ほんの僅か。

「みんな、お疲れ様! あとは手ぶらで大丈夫だよ!」

「「「「「「「「「やった~♪」」」」」」」」」

 夫の労りに、大仰に頷く晶を除いた妻九人の姦しい声が、空港ロビーの高い天井に吸い込まれてゆく――。


     ☆     ☆     ☆


 宏達十一人がストックホルムの空港からほのかの母方の実家へ向かう道すがら。
 送迎車に充てられた二十人乗りのミニバス(フリードリンクと袋入りナッツ付きで後部座席はコの字型のサロン仕様になっていた)では、みんなの関心事は美優樹ひとりに集まっていた。
 厳密には、美優樹の英会話能力について、だ。

「美優樹ちゃん。入国審査での英語、メチャ上手かったね。どこで習ったの?」

 宏の質問に、それまで姦しかった妻達が一斉に押し黙る。
 バスの後部で美優樹を取り囲むように座り、愛らしいゴスロリ美少女からの言葉を今か今かと固唾を呑んでいる。

(みんな必死過ぎ! でも、俺も同じ気持ちだし)

 ドリンク片手に目を凝らす妻達に、宏はつい笑ってしまった。
 事の起こりは、空港直結の高速道路に入ってすぐ、美優樹の姉である飛鳥のひと言から始まった。

「そう言えばあんた、いつの間に英語、話せるようになったのよ? しかも、あんなペラペラと」

 これを切っ掛けに、お屋敷最年少の秘められた能力に興味を掻き立てられた妻達が我も我もと一斉に質問をぶつけ、収拾が付かなくなってしまった。
 そこで、夫である宏が代表質問と言う形で美優樹の隣に座り、マイクに見立てたペットボトルを口元に差し向け、インタビュアーよろしく尋ねていたのだ。

「英会話自体は大学に通ってから本格的に修得した、と言えるでしょうか」

 そんな宏と妻達の悪ノリ(?)に、美優樹も笑顔のまま応えてくれる。
 どうやら、美優樹自身も今の状況を愉しんでいるようだ。
 それでも、静かな、しかし一切の自慢を排した言い方に年少妻の性格が現れているのも確かだ。

「えっと……つまり英語そのものは、かなり前、例えば中学に入ってから覚えたと?」

「いえ、正式に授業として習い始めたのは小学四年からですが、低学年の頃には既に英語に興味を持っていました。……いえ、正確には、同じ意味なのに違う言い方をする言葉に興味を持った、でしょうか。例えば日本語の『愛』は、英語では『love』、フランス語では『amour』という風に」

「なるほど」

「授業を受けるまでは独学で勉強してアルファベットの読み書きに慣れ、高校に入る頃には英会話を習得し、大学へ通い始めてからは、より専門的な資料や論文を原書で読む機会が格段に多くなりました。外国の教授が自ら解説している動画を見たりインターネット授業を受けたりしているうちに、自然と目と耳で覚えました」

「な、なるほど。小さい頃から英語に慣れ親しんだお陰で、読み書き話すが堪能なんだね。で、原書とは?」

「最初の頃は、誰もが知っている童話を原書で読み始めました。英語での表現に慣れるためです。大学に入ってからは、どの分野でもそうなんですが、専門書は日本語に訳されていない物が大多数なので、どうしても原書で読むしか無くて。言わば、必要に駆られて読み解くうちに、より覚えた、と言えるでしょうか」

「ここで言う専門書って言うと……美優樹ちゃんが専攻してる航空力学の?」

「はい。特に理念(フィロソフィー)や技術(テクノロジー)に関しては学者が記した学問書よりも関係企業が現場での実践を記した物を見聞きする方が断然勉強になりますから。例えばボーイング社はアメリカ企業なので英語、エアバス社はフランスが中心企業なのでフランス語で書かれていますので」

(フランス語だって!? ……あ、もしかして)

 ここで宏は思い出す。
 美優樹の机に積まれている分厚い本や本棚の中に、英語とは違う言語の背表紙が幾つも混じっていた事を。

(アレって、フランス語の原書だったんだ。俺は美優樹ちゃんの勉強に深く追及しないから、それっぽくてもスルーしてたんだよな。だったら、これからは研究してる内容とかをもう少し具体的に聞いた方が好いのかな? でも、門外漢が首を突っ込むのも、どうかと思うし)

 夫として、女子大生である妻の学問にどこまで係わって好いものか、改めて考えさせられる宏だった。
 その間にも、美優樹の解説が続けられている。

「ですから、自然とそれら言語に接する機会が多くなり、お陰でフランス語も少しは判るようにもなりました♪」

 ここで、更なる驚愕の事実が美優樹の口から語られた。

「――って、まさかフランス語も話せるの!?」

 宏の言葉に、一斉に沸き立つ九人の妻達。
 飛鳥などは切れ長の瞳を真ん丸くし、腰が完全に浮いている。

「はい。でも、まだまだ簡単な挨拶程度、ですけど」

 淡々と述べる美優樹に、己の言語力を自慢する気配は一切窺えない。
 そんな控え目な年少妻に、宏の驚嘆の声が向けられる。

「そ、それでも凄いって! 弱冠十七歳にして日、英、仏の三ヶ国語、話すって事じゃん!」

「「「「「「「「「…………(コクコク)」」」」」」」」」

 夫に同調し、無言のまま大きく頷く妻達。

「さ、流石にフランス語までは、オレは喋れんし聞き取りも出来んぞ」

 スェーデン語、英語、日本語を自在に操るほのかですら、目を見開いて九歳歳下のゴスロリ美少女を眺めている。

「ま、まぁ、ほのかさんと晶姉、それに加えて美優樹ちゃんがいれば、それこそ地球上で暮らせる範囲が大きく広まった、て事で」

 ほのかの実家までミニバスに揺られる事、一時間少々。
 宏達は美優樹の底知れぬ能力に感服しきりだった――。


     ☆     ☆     ☆


「ふぅ~~~~。今度こそ、やっと落ち着いたな。一日の疲れを取るのは、やっぱ風呂に限るわ♪ にしても、この吹き抜けのリビングは開放的で好いなぁ。広さも四十畳位だって、ほのかさん言ってたっけ」

 風呂から上がった宏は持参した部屋着のジャージに着替え、リビングのソファーに深く腰掛けるや小さな、そして長い息を吐(つ)いた。
 宏達一行は、ほのかの実家で夕食を摂った後、北へ徒歩十五分の所にある別宅に来ていた。
 正確には、ほのかの祖父母が所有する別荘――バンガローに、だ。

(ほのかさんの実家は低い生け垣に囲まれて三角のとんがり屋根と広いテラス、えんじ色の外壁に白く塗られた柱と窓枠のコントラストが美しい、北欧の伝統的な造りをした二階建ての大きな家だけど、ここも――)

 外観はログキャビン風のバンガローで、内装も金属類を極力排し、木目を活かした床や壁、家具で統一されているので、ほのかの祖父母の趣味の好さが窺える。

(リビングと三十畳のダイニングキッチン、ベランダ付き寝室八つに俺達全員が余裕で入れるサウナとジャグジー付きの風呂、だもんな。寝室は二十畳でベッドはダブル、どの部屋も天井は高いしトイレとシャワーが付いてるし、オマケにランドリールームやダストルームも最新設備が揃ってるんだからスケールがでかいや。景色も抜群だし)

 ここもほのかの実家同様、雪を被った深い森と幾つもの凍った湖に囲まれ、遠くには氷河が削り出した鋭い峰々が雪を抱(いだ)いて連なっている様子が手に取るように見える場所に建っているのだ。

(みんな、ここの景色に暫し見惚れてたし、今はリビングの隅に置かれている、色取り取りなLEDで飾られたクリスマスツリーにはしゃいでるし。……ふぁあ~)

 身体を優しく包み込むソファーに身を委ねていると、それまで鳴りを潜めていた睡魔が顔を覗かせて来る。
 柱時計を見ると、既に二十三時を大きく過ぎている。

「そっか、もうこんな時間か。確か……ほのかさんの実家には十五時過ぎに着いたよな。で、そのまま歓迎会と夕食を兼ねた宴会の席で新たな奥さん四人を紹介したら、ほのかさんのおじいちゃん、おばあちゃんのテンションが急上昇し、気付いたら二十一時を回ってたんだよな。夏穂先生のセーラー服と美優樹ちゃんのゴスロリ衣装も親族に大受けしてたし……ふぁあぁ~」

 昨夜の寝不足と宴会でのアルコールで欠伸が連発し、思考もままならない。
 それでも今日ここに来てからの出来事を振り返ると、このまま寝るのが惜しいとさえ思ってしまう。
 先の夕食にしても、

 ――ほのかの夫(ダンナ)が、新たなる妻四人を引き連れ凱旋帰国する――。

 そんな話がほのかの母方の親族に広く伝わったらしく、こちらの到着に合わせて親族数十人が大挙して集まり、呑めや歌えやの大宴会と化したのだ。
 宏もほのかの夫として親族ひとりひとりに妻となった多恵子、夏穂、飛鳥、美優樹を紹介するも、その度に杯を酌み交わしたので今や撃沈寸前だ。

(晶姉にほのかさんの実家の都合を聞いて貰ったけど、それがそのまま帰省情報として伝わったんだろうな、きっと)

 宏は晶に通訳を頼み、クリスマス前に訪れるからと伝えていたのだ。
 因みに、晶が宏のバカンス計画を前もって知っていたのは、かような事情によるものだ。

(それにしても、みんな長時間移動した後なのに元気だよなぁ。時差ボケ、平気なのかな?)

 宏の視線が多恵子、夏穂、飛鳥、美優樹の初海外組に向けられる。

(多恵子さん達は大丈夫なのかな? 他の六人も渡航経験あっても久し振りの海外だし、今朝も全員早起きだったし。その上、ここに着いてからも歓迎会で結構、呑んでたからなぁ)

 日本とスウェーデンの時差は八時間。
 東京から西へ向けて発ったので一日がその分、長くなる。
 つまり、宏達十一人は今日一日の長さが二十四時間では無く三十二時間になるのだ。
 締め切り寸前、修羅場真っ盛りの作家には滅茶苦茶羨ましい限りだろう。

(宴会騒ぎで興奮して眠くなくても、今晩はきちんと寝ないと後が辛いからなぁ)

 時差ボケを早々に解消しない限り、体内時計が昼夜逆転したままバカンスを過ごすハメになりかねない。
 それでも各自持参した部屋着に着替え談笑しくつろいでいる妻達によくよく目を向けると、長旅の疲れと満腹感、そして風呂に浸かってこれまでの緊張が解けた所為だろうか、欠伸をする人数や回数が確実に増えていた。

(この調子なら時差ボケの心配も無く、みんなぐっすり眠れそうだな。俺もボチボチ眠くなって来たし)

 宏がぼんやりと思い巡らせていると。

「宏、今日はお疲れ様! オレのばあちゃん、宏が逢いに来てくれてすっげ~喜んでたぜ。じいちゃんも、宏の新たな四人の嫁さん紹介されて『新たな娘が出来た』ってメチャ喜んでたぞ」

 左隣に腰を下ろしたほのかが湯気の立つマグカップ(ジャスミンティーだ♪)を差し出し、満面の笑みを向けて来た。
 先に風呂から上がったのに姿が見えなかったが、どうやらキッチンにいたらしい。

「ありがと、ほのかさん。そっか。喜んでくれて何よりだよ。でも……」

 マグカップを受け取った宏の視線が屋内をぐるりと見渡し、再びほのかに戻る。

「こんな立派なトコ、滞在中ずっと借りちゃって好いの? 俺達はほのかさんの実家で過ごすつもりで了解を取り付けてたし、おじいちゃん、おばあちゃんだって、ここを使うんじゃ――」

「あははは! だから宏! じいちゃんが夕飯の席で言ってたけど、ここは半年前にゲストハウスとして建てたトコだから気にしなくて好いって! むしろ隅々まで使ってくれた方が、家が痛まなくて好いからさ。ばあちゃんも、自分の家(うち)だと思って遠慮無く使ってくれて構わない、って言ってたし! オレも新しい家に来られて嬉しいんだからさ♪」

 夫に遠慮はさせまいとばかり、ウィンクとサムズアップで応えるほのか。
 どうやら、ほのか自身もこの別荘がいたくお気に入りらしい。

「まぁ、ここの持ち主であるほのかさんのおじいちゃん、おばあちゃんがそう言うなら、そうさせて貰うよ」

 宏の視線が、赤々と燃える暖炉を物珍しそうに眺め、はしゃいでいる妻達に向けられる。

(みんな、本物の暖炉に釘付けだな。日本でも、こうした本格的な暖炉に憧れる人が多いって聞くし)

 このリビングの壁際には幅が二メートルを超える大きな暖炉があり、その前に三人掛けソファーが五脚、半円を描くように置かれている。
 足下には毛足の長い絨毯が敷かれ、宏はその中央のソファーでほのかと腰を下ろしているのだった。

(ここなら、布団無しで直接横になれるな。暖炉の熱で温かいし絨毯に厚みもあるからスッポンポンでエッチしても快適……ムフフ♪)

 人の家で邪な思考を巡らせる宏。
 流石、赤裸々スケベで絶倫王(?)なだけの事はある。
 もっとも、聖女ならぬ性女たるあの妻にしてこの夫あり、とも言うらしいが、それはさておき。

(ここにある薪を寝る前にある程度くべとけば、朝まで持つ、って言ってたな)

 背後に目を向けると壁一面に大量の薪が天井に届くまで積まれ、二十四時間薪をくべる事が可能になっている。
 ほのかの説明によると、ここに積んである分だけで数週間、賄える量なのだとか。
 何でも、猛吹雪の夜に家の裏に積んである薪を取りに外へ出たら方向が判らなくなり軒下や玄関前で遭難死した例が過去に何度かあったそうだ。
 なので、この辺りの暖炉のある家は例外無く、家の中にも大量の薪を置いてあるのだとか(ほのかの本宅もそうだった)。
 しかも、この暖炉ひとつで別荘全体が温められ、加えて各部屋にもガス暖房機があるので、その気になれば外気温がマイナス三十度に下がった真冬の夜でも屋内では下着一枚で過ごす事も可能らしい。

「ほのかさんのおじいちゃん達と言い、この暖炉と言い、温かくて好いなぁ♪ 身体の芯までポカポカして来るよ」

 心底そう思って口にすると、ほのかが左腕を掴んで胸の谷間に挟み、身体ごと擦り寄って来た。

「えへへ~♪ そんなにここが気に入ったのなら、このまま一生、オレと二人っきりで暮らそうぜ♪ な、宏♥ ばあちゃんが、宏さえ好ければ定住用にこのバンガローをオレ達に譲っても好い、って言ってたし、そのつもりで建てた、とも言ってたんだ。だから宏……♥」

 耳元で囁くほのかの碧眼は潤み、顎を僅かに上げ、唇を差し出す仕草も見せている。

「ほのかさん♥ んちゅっ♥」

 見つめ合う瞳と瞳が近付く先には熱いキス。
 と、そんな二人のイチャラブに割って入ったのは、それまで宏の右隣に座って大人しくお茶を啜っていた晶だ。
 宏の頭を自分の胸元に抱き抱える(奪い返す?)や、フンッ! と鼻息ひとつかまし、如何にも偉そうに曰(のたま)った。

「だ~ったら遠慮無く! あたしもここに住まわせて貰うわね! 何たって、夫のモノは妻のモノでもあるんだから♪」

「おいおい、せっかく宏をソノ気にさせてたってのに、邪魔すんなよなー」

 普段から遠慮と言う言葉に最も遠い位置にいる晶ならではの尊大な構えと台詞に、ほのかがまたか、と言った表情で苦笑いを浮かべる。
 そこへ。

「宏ちゃんが住むなら私も住む~♪」

 諸手を挙げる若菜に、真奈美、夏穂、優が同時に頷く。
 どうやら四人とも聞き耳を立てていたらしく、晶と一緒になって笑い声を上げている。
 みんなして、すっかりとこの別荘がお気に召したらしい。

「でも、あたい達だけで使わせて貰ってホントに好いのかしら? いきなり大人数で押し掛けて、かえって迷惑掛けちゃったんじゃないかしら?」

 普段から思慮深い千恵の思案気な表情と台詞に、多恵子、飛鳥、美優樹も、そうだと言わんばかりに同じ表情で何度も頷いている。
 それでも派手さは無いが質素で上品な別荘を使わせて貰う嬉しさなのか、表情の端々にどことなくソワソワ、ウキウキしているのが見て取れる。
 そんな気遣いを見せる千恵に、ほのかがサムズアップしながら笑い掛けた。

「千恵ちゃん! オレ達はとっくの昔に家族になったんだ。晶の言葉じゃ無いけど、オレのじいちゃんばあちゃんが今住んでる家やこの別荘はオレ達の屋敷(うち)同様になったんだから変な遠慮は無し! だぜ♪」

 ほのかの豪儀な言葉に、これまで遠慮気味に一歩引いた位置にいた千恵、多恵子、飛鳥、美優樹の表情が、まるで一気に開花した向日葵のように晴れる。

「それじゃ、みんな。帰国するまでは、ここを起点として冬のバカンスを堪能するからね! 明日から早起きして遊び倒そう!」

「「「「「「「「「「お――――っ!」」」」」」」」」」

 ご当主の堂々たる宣言に、旅の疲れなど無かったかのように気勢を上げる妻達。
 暖炉の炎に朱(あか)く照らされた十の顔には、それぞれ会心の笑みを浮かべていた。
 と、ここで性の伝道師、若菜がリビングの照明を落とすや、さも当然とばかり堂々と曰(のたま)った。

「それじゃ~、今から暖炉の炎を灯りにしてここで宏ちゃんとエッチしよう~♥ きっとロマンチックな夜になるよ~♪」

「「「「「「「「「賛成~♥」」」」」」」」」

 寸分のズレも無く、物の見事に一致団結する美女十人。
 これだけ見れば、実に素晴らしい自慢の奥さん達――なのだが。

「い゛っ!? わ、若姉! 着いた早々ナニ言ってやがりますかっ! 昼間、飛行機の中で俺を襲って満足したんじゃ無いの!? みんなも何故、瞳ギラ付かせて服を脱ぐ!? なして舌舐めずりしてにじり寄るっ!? ひ、ひえぇ~」

 ピンク色のオーラをこれでもかと解き放つ妻達に恐れ戦き、器用にもソファーに座ったまま後退る宏。
 それでも妻達の艶(あで)やかで瑞々しく円熟味を増した妖艶な肢体に目を奪われてしまう。

(うっわー、チンコ、ビンビンに勃っちった。あんな妖しいオーラ、撒き散らしてたら敵う筈、無いって)

 晶と美優樹は黒のレース、若菜と飛鳥、真奈美は純白のシルク、夏穂は紫のガーターベルト、多恵子と千恵は赤のサイドストリング、優は朱色のベビードールを纏い、ほのかは部屋着の下には何も着けていなかった。
 部屋の薄暗さの中にあって、朱(あか)い炎に浮かび上がる下着姿の美女九人と全裸の金髪碧眼美女の織り成す陰影に、宏は激しく欲情してしまった。

「あぁもう! ヤってやろうじゃねぇか! 返り討ちにしてくれるわっ! 寝不足で泣いたって知らないからね!」

「きゃ~~~~っ♥」

「犯される~~~~♥」

「宏君のぶっといチンポ、私のヌレヌレマンコに突っ込んで~~~~♥」

 速攻で全裸になり、自慢の長太刀を上段に構えた宏が歓喜の声を上げる美女十人に斬り込んでゆく。

「今夜の一番搾りは、素敵なバンガローを提供してくれたほのかさんだ!」

「あ~れ~♥ お止め下さい、お止め下さいまし~♥」

「よいではないか、よいではないか♪ むははははっ♥」

「あ~れ~♥ わたくしには生涯を誓った男性(ひと)がおりますのに純潔を奪うだなんて……♪ よよよよよ~♥」

「むははははっ♥ 泣いても無駄じゃ~。これでオヌシはワシのモノになったのだからのぅ♥ あ~はっはっは! よい子を孕むのだぞー♪」

「い~や~♥ な、膣内(なか)に出さないでぇ~♥ あぁあっ!? で、出てるぅ♥ 熱いの、膣内にいっぱい出てるぅ♥」

「むぁ~はっはっはっ♥ た~っぷり、処女膣に射精(だ)してやったからありがたく思うのじゃぞ♪」

「「「「「「「「「こ、こいつら……」」」」」」」」」

 北欧一日目の夜は男女(バカップル!)の嬌声と額に青筋浮かべた妻九人と共に更けて行く――。


                                            (つづく)

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  新年あけましておめでとうございます。
  旧年中はひとかたならぬご愛顧を賜り、誠にありがとうございました。
  本年も宜しくお引き立ての程、宜しくお願い申し上げます。 m(_ _)m


  さて。
  本日、無事に(?)新年1発目の掲載となりましたが、如何でしたでしょうか。
  宏達の絆の強さ(!?)を少しでも感じ取って戴けたら幸いです。 m(_ _)m


  さてさて。
  弊サイトは今月で開設10年目を迎えました。
  ここまで細々と続けて来られたのはひとえに応援して下さった皆様のお陰です。
  この場をお借りして深く御礼申し上げます。
  
 「ありがとうございました」
 
  物語の原点となった 「美姉妹(しまい)といっしょ♡」 が掲載されたのは2006年1月。
  以来、「番外編」 「新婚編」 と、2015年1月までシリーズとして続いている訳ですが、
  物語の上では、まだたったの1年半しか刻(とき)が経っておりません。

  なんとも超スローな展開(進行)になっておりますが、物語(宏達)は着実に進んで(成長して)おります。
  今後の宏達は、いったいどうなるのか――首を長~くしてお待ち下さいませ♪
  

  巷ではインフルエンザが流行っているようですが、何卒ご自愛下さいませ。 m(_ _)m
  今後も弊サイト共々、宏とヒロイン達を末永く可愛がってやって下さいませ♪


                     2015年 1月 2日 エルム
 

[ 感想 ]
あけましておめでとうございます。

話が進むにつれて、宏が鬼畜になっていくというかなんというか??(本性がでただけですか??)

美優樹の話で原書云々ってのがありましたが白雪姫を原書で読むってのもいいかもしれませんよ?(ラストが一般的に知られてる内容と全く違うので)

宏とほのかって、いろんな面で問題だらけですな。
(特にほのかは、鎖で柱に縛り付けて数日放置ってのがいいかもしれませんが)

やっぱ、個人的には【千恵】がいいです。

話は変わりますが今後、【番外編】の更新って予定があるのでしょうか?





[ お越し戴きありがとうございます♪ ]
アムロ・レイさん
 コメントありがとうございます♪

 聞くところによると、日本や外国の昔話はラストが悲惨、残酷なシーンで終わるモノが多いとか。
 寝る前の子供には読み聞かせられませんね。(^^ゞ

 番外編は、構想はあるのですが如何せん、執筆時間が以前と違って全く取れません(労働環境等が番外編を執筆出来ていた当時と大幅に違うので)。
 今は新婚編で手一杯な状態です。

 ですので、番外編の新作は当面、掲載出来そうにありません。
 お待たせして大変申し訳ありませんが、何卒ご容赦下さいませ。m(_ _)m

 勿論、番外編の執筆を諦めた訳ではありませんので、期待しないでお待ち戴けたらと存じます。m(_ _)m

 今年も弊サイトを御贔屓戴けたら幸いです。m(_ _)m
 

[ 新年明けましておめでとうございますm(__)m ]
先生、今年も身体に気を付けて執筆をお願いします。

帰省早々お盛んな宏夫妻。
段々とサキュバス化していく女性陣に恐れる一方 ほのぼのした空間を楽しみに読まさせていただいております。

先生の公私とも充実した一年を送られます様 お祈りしてます。

[ 毎度ご贔屓ありがとうございます♪ ]
海人さん
 コメントありがとうございます♪

 そして過分なるお気遣いありがとうございます♪ m(_ _)m
 わたくしも海人さんの無病息災交通安全を祈っております。

 物語では、宏達の昼と夜のギャップが年々拡がっていくようで作者も手に負えません。(オイッ)
 しかも昼夜の区別すら無くなって来ているようで……(若菜の襲来とか)。(^^ゞ

 とまれ。
 今年も宏達共々、弊サイトもご愛顧戴けたら幸いです。m(_ _)m
 

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