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恋妻(6) 恋妻(6) 美姉妹といっしょ♪~新婚編
   
 十一月初旬の、とある日。
 宏が妻であるほのかの誘いを受けて職場参観していた、丁度その頃。


 宏の屋敷では、主婦として留守を預かる五人組――多恵子、優、真奈美、千恵、若菜が不在の宏に代わって庭掃除に励んでいた。

「あ~ぁ。今日こそは宏ちゃんとお庭でエッチ、したかったな~。庭に植わってる大きな梅の木にしがみ付いて木漏れ日に照らされながらの立ちバックとかで~♥」

「うふふ、ロマンチックね♪ しかも今日は小春日和だからストッキングやショーツ脱いでも、ちっとも寒くないし♪」

「……梅の木の下で相思相愛の男女が結ばれると、その愛は未来永劫不滅のモノとなる♪」

「こ、このおバカ! おのれは人目に付く場所でナニしようと企んでたんだ! 腐った妄想膨らます前に刈った草でゴミ袋膨らませろ! 真奈美さんもにこやかな笑顔で同調してないで早く落ち葉掻き集めて下さいっ! 優さん! 若菜(バカ)が本気にするから怪しげな情報言わんで下さいっ――って、今さっき裏庭で草刈りしてたのではっ!?」

「おほほほほ♪ 皆さん楽しげで好いですわねぇ。わたくしもあと何歳か若かったら若菜さんとご一緒に宏さんにご奉仕致しましたのに♥」

「た、多恵子さんまで……。んな事言ってるヒマあったら垣根の剪定さっさと終わらせちゃって下さい! このあと昼食の仕込みが控えてるんですから!」

 片手にゴミ袋、もう片手に鎌を持った千恵が若菜、真奈美、優、多恵子相手に、額に青筋立てて突っ込みまくっていた。
 そして同時刻。


「だーかーら! あんたら頷くだけじゃなくって、ちゃんと声に出して返事しなさいってばっ! いくら仕事をそつ無くこなせる様になっても目線合わせるだけじゃ他の面々といつまでもコミュニケーション出来んでしょうがっ!」

「「…………(コクコク)」」

「――って、言ってる傍から二人して頷いてんじゃ無いっ!」

 ほのかと同じ会社に属し、丸の内にあるオフィスで飛行業務部長として事務方トップに君臨する晶は、指導役として女性新入社員相手に孤軍奮闘していた――。


     ☆     ☆     ☆


 そして場面は羽田の事務所に戻る。
 ここは羽田空港の一角にある、企業向けハンガー(格納庫)であり、ほのかの勤務先でもある。

「まずは、これを見てくれ!」

 ほのかに強く腕を引かれ、職場参観半ばにして事務所に引き戻された宏は、その有力者たる主任機長から一枚の紙を目の前に突き付けられた。

「あれ? これって、この前、ほのかさんが家(うち)に持って来た雑学のテストじゃん。へ~、ちゃんと採点されてるんだね。ほっほ~、抜き打ちテストみたいな状況だったけど七十五点なら、まずまず、かな?」

 受けたテストの回答蘭に赤で記された丸や三角が並んでいるのは、二十二になったこの歳でも気分が好い。
 解答時にある程度の手応えを感じていただけに嬉しくなり、思わず頬が緩んでしまう。

(あ~、でも結構間違えてるな。地理と雑学はともかく、やっぱ英語と数学がダメだな)

 しかも、正答誤答に係わらず所々にひと言ふた言、何やら注釈めいた事が書かれているのが気になる。
 しかしそれを読む前にほのかが机に置き話を進めてゆくので、どんな内容なのかは知らないままになってしまった。

「因みに、これは副所長が採点したものだ。回答者を伏せて、な」

「……はい? 俺の名前を隠して採点?」

 目の前の金髪碧眼ハーフ美女から、何やら腹に一物あるかのような言葉が飛び出した。
 突然のテストといい今回の採点方法といい、普段の明け透けなほのかからは想像出来無いやり方だ。
 しかも、背中にチクチクと突き刺さる感覚が。

(うわっ!? いつの間にやら事務所中が固唾を呑んで俺達に注目してるし! ナニやら……本気(マジ)できな臭くなって来たな。それにしてもほのかさん、いったい何を始めるつもりなんだろ? ここの人達、ほのかさんが何をしようとしてるのか知ってるのかな?)

 怪しくなった雲行きに眉を僅かばかり顰めるも、今は黙って続きを待つ。

「そうだ。他にも宏の回答をコピーして所長、整備長、主任事務、そしてパイロットの澪ちゃんに採点して貰ってる。当然、公平性を保つ為に採点は回答者を知らせないまま個別にして貰ってる」

「えっと……俺の回答とは知らせないで五通りの採点? だから公平だと?」

「うむ。宏の名前出して採点して貰うと、これまでの経緯(いきさつ)があるからどうしても私情が交じって点数が甘くなるだろ? だからオレは採点せず、各セクションの責任者に採点して貰ったんだ」

 ほのかは自分の机の引き出しから採点された残りのテスト用紙四枚を取り出し、机上に並べてくれた。
 点数を見ると、六十三、六十八、七十九、七十と、先の七十五と併せても見事なまでにバラバラだ。

「同じ問題なのに採点がバラけるなんて、やっぱ雑学の測り方や解釈がそれぞれ違うんだね」

「そりゃそうさ。学科はともかく、答えに幅のある問題の正答判断基準は人それぞれだからな。で、その五人の採点を平均すると七十一点だ。まぁ点数だけ見ればギリ合格、ってトコだな」

「はぁ」

(合格……って、いったい何の?)

 まるで定期試験終了後の教師みたく淡々と告げる教官機長に、宏はどう応えて好いのやら判らない。
 内心戸惑っていると、ほのかから更なるお言葉が飛び出した。

「見ての通り、採点はシビアに付けられてるから、これなら余所からの横槍(クレーム)に対しても堂々と反論出来るだろ?」

「他からのクレーム? それって、どういう意味? 誰からのクレーム?」

 しかし、ほのかは応えぬまま口角を上げ、瞳を細めてニヤリと笑うばかり。
 その怪しい笑い顔に、宏は何となく、イヤな予感がしてしまった。

(あの笑い方って、絶対、ナニか企んでる時の顔だよなぁ。でも、このテストでナニ、しようってんだろ? ほのかさんの職場仲間を捲き込んでまで。……まぁ、悪いコトじゃ無いんだろうけど)

 今はテストの点数よりも、策略機長が何をしでかすのかが気掛かりだ。
 そんな不審な気持ちが完全に顔に出ていたのだろう、目の前の金髪碧眼ハーフ美女は更にニコリと笑った。
 それはもう、本物のお釈迦様が裸足で逃げ出すような見事なアルカイックスマイルだったので思わず総毛立ち、速攻でこの場から逃げ出したくなった。

「あ、あの! ほのかさんの職場もじっくり見られたし、これ以上いたら仕事のお邪魔だろうから、そろそろおいとまする――」

 このままでは、降り掛かる火の粉を全身で浴びまくる事が必至なだけに、踵を返そうとした、その瞬間。
 狼狽える夫の足を止めるには充分過ぎる内容が奸計機長の口から放たれた。

「あのな、宏。この問題、実はオレ等の会社の、今年の入社試験問題だったんだ」

「はい~~~~っ!? に、入社試験!? こ、これがっ!? 今年の!? って、そう言えば……」

 目を見開き、机上のテスト用紙とほのかの顔を何度も見比べてしまう宏。
 そして唐突に思い出したのが、奇しくも美優樹が言っていた『入社試験と想定して』云々の台詞だった。

「そうだ。しかも、コイツは一次試験をパスした者を更にふるいに掛ける為の、二次試験の問題だったんだ。この試験にパスした者が最終面接に進む、って訳だ♪」

「そ、それじゃ、昔、社内選考に使ったとか言ってたのは――」

「あはは! 悪い! それ、嘘♪」

「ほ、ほのかさん……」

 悪ぶる事無く、余りにも明るくあっけらかんとして言うモノだから、騙されての怒りや呆れた感情よりも、むしろ脱力してしまった。
 すぐ隣にいる所長さんを始め、事務所の全員も諦め顔でやれやれと首を振っている。
 副所長さんなどは、「貴女、そんな事言ってたの?」などと突っ込んでもいる。

(何だか……採点した人達もほのかさんに乗せられてる、って感じだな)

 そんな宏の思いを余所に、笑顔を崩さない謀略機長のネタばらしが続く。

「でも、丸っきり嘘じゃねぇぞ? 嘘だったのは昔って部分だけで、社内選考ってのは本当だ。まぁ二次試験だけど」

「テストの出所は判ったよ。で、ソレを俺が解き、ほのかさん達がわざわざ採点し、それを家(うち)では無く、今この時に俺に示した理由は?」

 これこそが、今回の核心な気がする。
 否、絶対にそうだ。
 何故なら、目の前の金髪美女が、これ以上無い位に瞳を煌めかせ満面の笑みを浮かべているからだ。
 それはまるで、幼な子が前々から欲しがっていたオモチャをたった今、手に入れたような弾ける笑顔なのだから。
 果たして、可憐機長から紡ぎ出された言葉は――。


     ☆     ☆     ☆


「ズバリ、宏をオレ等の会社にスカウトしたいからだ! 宏には是非とも総合職として働いて貰いたい!」

 ほのかは胸を反らし、左手を腰に当て、右手で宏をビシッ! と指し示し、自信満々にポーズを決めるも。

「……………………」

(あ、あれれ? 宏が反応しないっ!? なんでっ!? 嬉しく無いのかっ!?)

 ひと月余り掛けた隠密作戦がたった今、解き明かされたと言うのに、当の本人からのリアクションが全く無い。
 無言のまま微動だにせず、じっと見つめて来るだけだ。
 これには作戦本部長にして実行犯(?)のほのかも戸惑ってしまった。

(も、もしかして、オレのやり方、間違ってたか? こんな大掛かりなサプライズ仕掛けるの初めてだし、どこかで見落としやミスでもあったか?)

 ほのかは、これまでの推移を瞬時に思い浮かべる。

(フローチャートを数パターン作り、念には念を入れて何度もシミュレートし、そこで浮かび上がる問題点をひとつずつクリアした。宏に遊びと偽りテストを受けさせ、その採点結果を基に会長や所長を口説き、入社に必要な書類は全て揃えた。その上で自信を持って実行して来たのに、宏のヤロー、全くの無反応って、何なんだっ!?)

 夫を示す腕がプルプル震え、肉体的にも精神的にも徐々に辛くなってきた。
 無条件で喜んで貰えると言う期待が大きかっただけに、真逆の反応に額や背中から冷や汗が流れ出し、鼓動も半鐘を打ち鳴らすかのように、あっという間に早くなる。
 終いには、宏からの動かぬ視線にいたたまれなくなり、つい、手刀入れてこちらが突っ込んでしまった。

「なぜ黙る! ここは驚く場面だろがっ!? うわ――――――っ! とか、どひゃぁ~~~~っ! とかっ!」

「あ、いや、余りな展開に思考がフリーズしちゃって」

 こちらの慌て振りとは裏腹に、宏からの応えは至って冷静で淡々としている。
 これでは、夫へドッキリを仕掛けた意味が全く無いではないか。

(サプライズのし甲斐が無いヤツだなぁ。……あ、でもその気持ち、何となく判る気がする。オレ達のハネム~ンの時、宏が内緒でオレの実家をルートに組み込み、更には誕生日宴会を催してくれた時、オレもフリーズしたもんな)

 ほのか自身、宏によるドッキリを何度も――たとえば結婚一周年記念日など――経験しているだけに、無反応も反応のひとつだと思えば、あながち悪くは無いのかもしれない。
 驚きの余りフリーズさせたと言う点では、大成功したのだから。

「オイオイ……。いっつもオレ等にサプライズを仕掛け、ことごとく成功させた男とは思えん反応振りだな」

 苦笑交じりに肩を竦めると、果たして。

「だって、自ら計画し実行するのと、何も知らないまま突然状況に置かれるのじゃ、まるで違い過ぎるよ。しかも、この俺が飛行に係わる職場での総合職に誘われるなんて、想像を遥かに超えてるし」

「あははは! ドッキリ企画の立案実行には慣れっこだけど、自分がされる分は慣れてない、ってトコか」

 納得のいく応えに、莞爾と笑う。
 やっと、サプライズが成功した歓びが身体の芯から沸々と湧いて来た。

「どうだ? たまにはドッキリ受けるのも、好いモンだろ?」

「まぁ、悪い事柄じゃ無かったから好かったけど、やっぱ心臓に悪いよ。で、話を戻すけど、俺をスカウトって? 何の取り柄も無いのに」

「ぶっちゃけて言えば、この職場が人手不足だからだ。まぁ、ここに限らずオレ等の会社が人員不足なのは、知ってるだろ?」

「うん。ほのかさんと晶姉が前の会社から独立した今の会社に移ったのは好いけど、ほのかさんがいる現場と晶姉のいる事務方(フロント)が大幅な人手不足に陥ってるって、前々から二人して言ってたからね」

 屋敷での様子を思い浮かべたのか、宏が小さく笑う。

「そんで夕食の席やその後の晩酌でも散々、ほのかさん愚痴ってたモンね。終いには晶姉の顔を見る度に人手を寄越せ~、とか追加募集しろ~、とかで何度も衝突してさ」

「仕方ねぇだろ? 何だかんだ言ってたアイツの部署にすら、いつの間にか新人が二人も入ったんだぜ!? なのに現場にはひとりも配置無しだなんて、差別も甚だしいだろ!」

 宏に右の拳を突き付けながらそう言った途端、所長以下事務所の面々が一斉に頷く。
 直接聞いてはいないが、皆、丸の内事務所との待遇差が腹に据えかねているらしい。
 ひとり残らず窮状が身に染みているだけに、期待の新星になるかもしれない宏の一挙手一投足を全員で見守っているのが好く判る。

「これは明らかな企業内格差だっ! 宏だって、そう思うだろっ!?」

 人事の不条理につい鼻息荒く興奮し宏に同調を迫るも、その中指が自然と上向きに立ってしまった。
 その時、大黒様似の所長と美貌の独身副所長が自分の力不足を謝罪するよう申し訳無さそうに首を竦めていたのは……見なかった事にする。
 人事権を握っているのはあくまで親会社であり、子会社で現場を統括するこの二人が悪いのでは無いのだから。

「差別とか格差とかは別として、俺に目を付けた理由を教えてよ」

 目線を手元に落とすや、苦笑いした宏が突き出した右手全体を両手で優しく包んでくれた。
 どうやら、立てた中指をそっと隠してくれたらしい。

(あ……えへへ♥ 流石はオレの宏。こんな時でも優しいなぁ。少し……濡れちまったぜぃ♪)

 右手から伝わる宏の温もりと心遣いが、何とも心地好い。
 状況を忘れ、思わず抱き付きキスの嵐を見舞いそうになるが、理性を総動員させてぐっと堪(こら)える。
 今は宏と自身の将来に係わる大事な場面なのだから。

「それは、オレが可能性を秘めた宝石(ダイヤ)の原石を見付けたからだっ!」

 気分一新、再び得意顔を決め、頭上からスポットライトを浴びているかのようにポーズを決め心酔していると、宏が首を左右に振りつつ深い溜息を吐(つ)いた。

「ほのかさん、働き過ぎて遂に壊れちゃった? 可能性とか原石とか、とうとう妄言まで――」

「――って、待て待て待てっ! オレは至ってまともだっ!」

 いわれ無き誤解に、つい宏の言葉を遮り、声を大にして突っ込んでしまった。
 それでも咳払いひとつ、冷静になって話を進める。

「あのな。宏は五人の採点内容から判る通り、一般常識と国語力、基礎物理は今年の大卒受験者の平均点と比べても悪くない。むしろ好い方なんだ」

 嘘では無い証拠に、今年度の受験者成績一覧表を机上に出し、指で該当箇所を示してあげる。

「でもまぁ、数学と英語は平均点よかだいぶ低かったけど、三角関数や英長文の読解なんかは日常生活じゃ使わんし必要無いから、今は正解しなくても問題は無い。ただ、これとか……これなんかは誤答だが、考え方自体は間違って無いから三角印で注釈付きなんだ」

「あはは……まぁ、そう言って貰えると救われる気がするよ。元々英数は苦手だし」

 机に拡がる五枚のテスト用紙を指し、回答欄にそれぞれ付けられた注釈の意訳をしていると、宏の表情がかなり和らいで来た。
 さっきからずっとチラチラと視線を机上に向けていただけに、どうやら自分の回答に記されたモノがずっと気になっていたらしい。

「片や、宏は地理と雑学は満点に近い出来なんだ。オレ達現場の人間にしたら、むしろこっちが重要なんだぜ」

「なして? 部分的な満点ったって、ただの偶然かもしれないでしょ?」

「価値観や物の見方がそれぞれ違う五人が採点し、そこだけの平均点が満点に近いなんて偶然じゃ出来んシロモノだぜ?」

「そう……なの? 好くは判らんけど、地理なんて地図好きの人なら誰だって解けるし、雑学なんて何通りも答えがあるから点数付けられないんじゃないの?」

「そう! その通り! 地理はともかく、雑学はそれが正解なんだ! 時、場所、状況で答えが変わる事を知ってる事自体が正解であり、現場仕事には必須なんだ」

「……はい? 何だか蒟蒻問答みたく聞こえるんだけど?」

「あはは! もっと簡単に言えば、この職場では常識に囚われず臨機応変に対処出来る脳ミソが必要って事だ!」

「はぁ」

 宏の首が今日で一番、捻られる。
 どうやらテストの得点と解説の中身が上手く繋がらないらしい。

「ま、それは追い追い判れば好いさ。で、このテストを採点し終えた時点で回答者を伏せたまま『この人物なら採るか?』と尋ねた結果、五人一致で『採る』と答えたんだ」

「それで、俺のスカウトに繋がるの?」

「そうだ。れっきとした結果を残したからスカウトするんだ。……まぁ、回答者が宏だと打ち明けた途端、是非に! となったのは当然なんだけどな」

「なして?」

「考えてもみ? 宏の場合は先に面接済ませてから筆記試験したも同然だからな。好感を抱いている人物が礼節をわきまえ成績もそこそこ好いなら、同じ会社に欲しいと思って当然だろ? しかも……」

 目をパチクリと瞬かせ、首を少し傾げながら言葉を待つ宏。
 そんな、高校生の頃と少しも変わらないあどけない表情に、ショーツの底を再び湿らせてしまった。

「宏は他の一般受験者よりも思考の柔軟性が遥かに高いんだ。これがスカウトするに当たり、大きなポイントになったんだな♪」

「え~と?」

「つまりだ。物事を捉えるのに一面的じゃ無く、ごく自然に多角的に見ている! って事だ。これはさっき言った臨機応変に対処できるタイプ、って事に通じるんだな」

「ん~と?」

「それに、さっき宏は自分には何の取り柄も無い、って言ってたけど、民間分野に造詣が深い航空ファンだとオレ達は知ってる。それだけでも航空現場では大きな取り柄であり、利点となるんだ」

「えっと……つまり?」

「縛りの無い、柔らか思考が出来る飛行機大好き人間が航空現場には必要って事さ。ひいては人の命を守る事にも繋がるからな」

「臨機応変……柔らか思考、ねぇ。ピンと来ないなぁ」

「それは宏が無意識下で出来るから、そう思うのさ」

 その証拠とばかり、テスト用紙を引き寄せて指し示す。

「この問題で例えれば、東京からニューヨークまでの最短コースを東京中心の世界地図上で引かせると、多くの一般受験者は定規を使って太平洋の真ん中を横切りサンフランシスコを経てアメリカ本土を横断する一直線を引くんだ」

「あ~、こんな問題、あったね」

「しかし、宏は東京から北北東に進路を取り、カムチャツカ半島を縦断しベーリング海を横切りアラスカ北部からハドソン湾を掠めニューヨークへ至る、大きな半円を描く形で線を引いただろ?」

「うん」

「それが正解なのさ。いわゆる、大圏コース、ってヤツだ。宏の頭の中では世界地図は平面では無く丸く考えられる、つまり頭の中に地球儀があるって事だ♪」

「そんなの、地理が好きなら誰だってそう考えると思うけど?」

 不思議そうに首を傾げる宏。
 この事からも、宏は地球に於ける二地点間の最短コースを瞬時に割り出す能力が備わっているのだと判る。

「ところが、地理好きを自称する学生の多くは、描く弧が緩過ぎて不正解なんだ。しかも世界地図を南北逆にし、しかもロンドンを中心に据えてモスクワ、ニューヨーク間の最短ルートを引かせると、途端に正解率が激減するんだ。これは大圏コースと言う概念はあっても実際は世界地図を球体で捉える事が出来無い、確固たる証拠なのさ。宏はこっちも正解してるがな」

「はぁ」

「まだまだ宏の凄いトコ、あるぜ? これなんか――」

「えっと、ほのかさん。テストの解説はもう好いから、スカウト話を進めて貰えるとありがたいんだけど?」

 意気揚々と話し始めたものの、宏が半ば強引に遮り、焦り気味に先を促して来た。
 どうやら自身の就業、ひいては将来が絡んで来るだけに、当然の反応なのかもしれない。

(だったら回りくどい事はこれ位にして本丸を攻めるか!)

「ともかく、宏は決して身贔屓だけでスカウトする訳じゃ無い。こちらが欲する能力を備えているからこそオレが目を付け、試験結果や将来性を踏まえた上で会社として正式にオファーするんだ。故に――」

 ほのかは机から最後となる一枚の書類を取り出すや、ここぞとばかり突き付けた。

「これが結論だ! さぁ読め! そしてこの場でサインしろ!」


     ☆     ☆     ☆


 宏が決め顔の主任機長から手渡されたのは、今度は広く業務で使われているA4サイズの紙、一枚だった。
 しかし、そこに記された表題を目にした途端、思わず叫んでしまった。

「これって……雇用契約書じゃん!」

 自分の職場にスカウトしたいと妻から言われても話半分に聞こえるが、親会社の会長名が署名捺印された正規書類を目の当たりにすると信憑性と重みがまるで違って来る。
 思わず、『雇用契約書』と書かれた五文字をじ~っと見つめてしまった。

(これって……本物、だよなぁ? 誰かが切り貼りして『本物です』とか言い張ったモンじゃねぇだろうな? ここのメンバーは、こーゆー手の込んだお遊び、大好きだし)

 ここ羽田と下地島で挙げた二度の結婚式のド派手な舞台装置はこの会社ぐるみでの手作りだっただけに、予断を許さない。
 目を眇め眉間に皺の寄った顔を見た所為か、疑惑機長が所属長に視線を向けてから口を開いた。

「だから本物だって! いつまでも疑ってんじゃねぇよ! ……まぁ、そう思って当然な会社だけどさ」

 するとたちまち事務所の面々がひとり残らずずっこけ、「なんでやねんっ!」などと声を大にして一斉に突っ込む。
 どうやらほのか自身、おちゃらけた(?)会社であるとの自覚はあるらしい。

「ともかく! これは宏がこの会社で働いてやっても好い、と言う承諾書でもあるんだ。下に会長と、ここの所長のサインが既になされてる通り、オレ達は宏を全うに評価してるんだ。だから、あとは宏がサインすれば契約完了だ!」

 主任機長の言葉を裏付けるかのように、この事務所の総責任者である所長さんが何度も大きく頷いている。

「あらら……ほのかさん、本気(マジ)だったんだ。俺はてっきり手の込んだドッキリかと思ってたよ」

 これまでの怒濤の展開に半ば流されっ放しだっただけに、つい、ポロリと本音が零れてしまう。
 するとたちまち目を剥き、金髪を逆立て詰め寄った鬼神機長から猛然と突っ込みを喰らってしまった。

「あ、あ、あ、あったり前だろっ! んなコト、伊達や酔狂じゃしねぇよっ! オレは本気(マジ)で宏が欲しいんだっ!」

 見た目はスーパーモデル並みの美貌を誇る金髪碧眼ハーフ美女のほのかだが、フ~、フ~、と何度も小鼻を膨らませ、切れ長の瞳も吊り上げている様が何だか可愛く映ってしまう。
 しかも最後の台詞が夜の夫婦性活を思い起こさせるに充分なひと言だっただけに、宏はクスリと笑ってしまった。

「ひ~ろ~し~」

 しかし、当のほのかはその笑いがいたくお気に召さなかったらしく、シャレでは済まないような禍々しいオーラ(狂気?)を全身から立ち昇らせ、ドスの聞いた低音ボイスを事務所に響かせながら一歩、また一歩と迫って来た。
 その迫力に事務を担当するお姉様方の何人かが小さな悲鳴を上げ、椅子ごと後退ってゆく。
 何度もお世話になった副所長さんも、「あ、あの、夫婦喧嘩は外で……」などと眉を八の字に下げ、及び腰ながらも取りなそうとするが、瞳に剣呑な光を湛える邪神機長には全く届かない。

(なるほど。ほのかさん、職場のみんなに愛されてるなぁ。うん! これぞ職場参観した甲斐があったと言うモンだ♪)

 自宅のリビングと同様に振る舞える妻の職場環境に、宏は大いに安心し、満足する。
 そして怒れる大魔神妻を鎮めるべく、ほのかに向けて片手を翳し、わざと軽い調子で切り出した。

「判ったよ、ほのかさん。皆さんがそこまでして俺を買ってくれるなら、お世話になるよ」

 言いつつ胸ポケットからボールペンを取り出し、書類の一番下にある空欄に、ものの数秒でサインする。
 そんな、まるで街頭での署名運動に参加しているかのような気安さに、事務所中が一瞬で静まる。
 所長と副所長は自席から腰を浮かせて目を見開き、事を仕掛けたほのかですら今さっきの禍々しいオーラはどこへやら、一歩踏み出したポーズのまま固まっている。
 そんな無言の時間が暫し過ぎた後、唖然としたままのほのかがおもむろに口を開いた。

「あ、あのな、宏。いくらオレが迫ったとは言え、中身も読まずサインするって、企業社会じゃ滅茶苦茶、無謀な事なんだぜ? 身を滅ぼし会社を消滅させてもおかしくない、全くの自殺行為と言っても過言じゃねぇんだぞ」

 九人のパイロットを率いるチーフキャプテンの言葉に、事務所に集う面々が何度も頷く。
 事務担当のお姉様方などは、信じられないものを見たとばかり驚愕の表情で息を呑んでいる。

「しかも、これには勤務時間とか業務内容とか給料とか休日とか福利厚生とか……自分が仕事する上で確認する項目が山とあるんだぜ!? バイト経験積んでる宏なら判らん筈、無いだろっ!? 今からでも遅くは無いから見直せって! なっ!?」

 さっきまでサインを迫っていたのにそれを覆し、過ちだったかのように口角沫を飛ばすほのか。
 そんな慌てふためく現役機長に向き直った宏は満面の笑みを浮かべ、堂々と応えた。

「だって、ほのかさんが日々楽しく勤めてる会社でしょ? だったら悪い事やおかしな事、する訳無いじゃん♪」

 このひと言で宏に対する社員達の好感度が花丸急上昇し、所長と副所長は滂沱と涙したのだが、当の宏は妻達も認める朴念仁の二つ名を持つだけに、周囲の反応に全く気付けなかった。

「あ、そうだ。ひとつ忘れてたんだけど?」

 それまで緊迫していた事務所内の空気が新たなる人員確保で一気に緩み、あちこちで昼食はどこで摂るか何を食べようか、キャプテン夫妻もご一緒に、などの歓声が沸き起こる中、宏はある事に気付いた。

「ん? どした、宏?」

 成約されたばかりの雇用契約書を足取り軽く所長席へ運び終えたほのかが、これ以上無い位の満面の笑みで歩み寄る。

「ご期待に添える形になって歓んでるのは判るけど、晶姉は知ってるの? 俺がここで働くって事。晶姉が実質この会社のトップなんでしょ? なのに雇用契約書に晶姉の署名捺印、無かったよ?」

 すると、それまで姦しい程に賑やかだった事務所内が再び一瞬で静まった。
 それはもう、二キロ以上離れている国際線旅客ターミナルで流れるインフォメーションアナウンスが聞こえて来るのでは無いか、と言う程の静けさだ。

「う~む、流石、宏。鋭い点を突いて来るぜ」

 仁王立ちで腕組みをし、納得したかのように何度も大きく頷くほのか。
 しかしよ~く見ると、額に細かな汗がビッシリと浮かび、指先や頬、目元が細かくヒク付いてもいる。

「ほのかさん……まさかとは思うけど」

 何となく、否、完全に嫌な予感しかしないが、それでも指摘しないではいられなかった。

「ドッキリ仕掛けたの、俺だけじゃ無かった……あ! 最初に言ってた、余所からのクレームって、晶姉の事か!」

「あははははっ! そ、そうさ! 晶のヤツは、まだな~んも知らん! だから昨日言っただろ? 職場参観は晶には内緒にしろって。しかも、宏の採用はたった今、正式に受理したから、誰からの如何なるクレームも無効だ!」

 開き直ったかのように言うが、その声は上擦り、震えてもいるから、何をか言わんやだ。

「そんな、見るからにびびる位なら、始めっから晶姉にも話し、通せば好かったのに。晶姉、怒ると怖いし宥めるのに時間掛かるの、昔っからよ~く知ってるでしょうに」

「あのな、宏。それじゃ面白くねぇだろっ!? 第一、この件は会長の御墨付きなんだ。本人曰(いわ)く、『構わないよ、宏君なら知らない間柄じゃ無いし♪』だそうだ。だから真っ先に会長に署名捺印させて外堀埋めといたんだろうが」

 この道楽機長、どこまでポジティブシンキングなのか、目の前にぶら下がる娯楽の為なら己の恐怖心はおろか、自社の重鎮を利用する事など取るに足りないらしい。

「あ……あの布袋様似の会長、外見同様どこまで楽天的なんだ。でも……」

「ん? 眉根寄せて、どーした? 此の期に及んで、ま~だ、気掛かりがあるのか?」

「ほのかさんはこれで満足なんだろうけど、最終的にとばっちり受けるの、俺なんだけどなぁ」

 尻に敷かれる歳下夫の情け無さ(言ってから気付いた)に、事務所中に笑いの渦が沸き起こる。
 そこへ、仕掛け人のくせに後始末は被害者に任せると言う、とんでもない構図を作り上げた腹黒機長が意味深な台詞で止(とど)めを刺した。

「それこそ、夫の威厳と如意棒で何とかするんだな♪」

 新妻ならではの言い回しに(明らかな下ネタだ)、女性陣は一斉に顔を赤らめ、男性陣は腹を抱えて笑い転げた。

「~~~~~っ!」

 もっとも、揶揄された宏はいたたまれなくなり、ほとぼりが冷めるまで顔を上げる事が出来なかった。
 かくして、午後にはこの事務所に新品の事務用デスクと椅子のセット、そして高性能ノートパソコンがひとり分、特急便で届けられたのだった――。


     ☆     ☆     ☆


 一方。
 宏が羽田空港の一角にある事務所で雇用契約書にサインをしていた、丁度その頃。

「――との事だ。おめでとう」

 東京湾を挟んだ対岸にある総合女子大では、全身黒ずくめのゴシック&ロリータ・ファッションを纏った長身の女学生が工学部教授棟に呼び出され、担当教授からとある知らせを受けていた――。


                                            (つづく)


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| コメント(9) |                                ( テーマ : ライトHノベル  ジャンル : アダルト

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【 お寄せ戴いた御意見・御感想 】

[ 感想 ]
逆鱗!雷!天地爆裂!・・・・いろんな意味で大変になりそうだが、宏に解決できるだけの器量があるとは思えんし・・・・

美優樹が、晶達の職場に入社の内定が決まったような気がするのは気のせい?

[ ]
宏君 再就職おめでとう。
晶姐さんの顔が早く見たいですね~(*´∀`)♪ 他の奥様方もですが(笑)

ゴスロリ少女の事も気になります。
次回も楽しみにしています。

身体に気をつけて執筆お願いします。

[ いつもご贔屓ありがとうございます♪ ]
アムロ・レイさん
 コメントありがとうございます♪

 ほのかのドッキリに晶がどう出るのか……次回以降をお楽しみに♪
 美優樹ちゃんも久々の主役(?)と相成るのか……作者にも判りません!(オイッ)

 いつも応援ありがとうございます♪ m(_ _)m

 ---------------------------------------------------------------------------------

海人さん
 コメントありがとうございます♪

 職のドタバタで色々あった宏ですが、ようやく落ち着く事が出来そうです。
 しかし、家庭内に目を向けると様々な火種(?)が……。(^^ゞ

 毎度ご愛顧ありがとうございます♪ m(_ _)m
 

[ \(^o^)/オメデトウ!! ]
宏君の就職おめでたいv-290

しかし・・・最後の部分が人手不足に苦しむほのかの会社を心配した晶からのサプライズv-25に思えてならないのは気のせいかな・・・(-_-;)

美優樹ちゃんは宏やほのかと航空談義に花咲かせることできる数少ない人物だし・・・早急な人員補充には最適だと思うんだよね(~_~;)

もしそうなら・・・自らの好意を無碍にされた分も含めて晶の怒りが大爆発しそう

[ 毎度ご愛顧ありがとうございます♪ ]
mさん
 コメントありがとうございます♪

 バイト先のM&Aに捲き込まれた宏ですが、ようやく落ち着ける場所が出来ました。
 宏、美優樹、そして晶と、これから先、どのように絡み合うのか……現在思考中です♪ (オイッ)

 いつもご贔屓ありがとうございます♪ m(_ _)m
 

[ おやおや、と云うべきか、やはり、と云うべきか… ]
雑学等のテストとやらがどの章にあったのか、
記憶には「確かにそんなのがあったな~~」と探してしまいました。
読者の皆さんで即答出来る人はいましたでしょうか。

ちなみに勿論、答えをここに書くことは出来ません。
知りたい人は第1章から詳しく読み返しましょう)^o^(

ちなみに私、宏は昌の承諾無しだと家庭内不和が起きると
回答保留にすると思っていたのですが。

それとゴスロリの学校推薦は全く予想も出来ませんでした。
参りました。

ついでに言えば飛鳥がどうふてくされるのか、
また処女時代に逆戻りするのか、
今度はそちらが楽しみですねぇ(お多恵さんのとりなしも!)

[ 毎度お越し戴きありがとうございます ]
ぺんぎんさん
 コメントありがとうございます♪

 物語をお楽しみ戴けたようで何よりです♪
 今回ラストに登場した美優樹のイベント(?)も既にフラグを立ててあったのですが、お気付きになられたでしょうか。

   ヒント:物語上の時期で言えば、宏がテストを受ける少し前、とだけ申し上げておきます。(^_^)v

 物語も、宏を中心に少しずつ動いて参りました。
 今後どうなるのか……首を長~くしてお待ち下さいませ♪

 毎度ご贔屓ありがとうございます♪ m(_ _)m
 

[ 感想 ]
実質的な《ヒモ?》の宏の就職先と美由樹の職場が一緒とかってなったら、ひと騒動どころでは済まないし、
筆頭妻の職権乱用でほのかは1年間種付け禁止!とかってなりそうな気も・・・・・・・・

ぶっちゃけ宏の給料って、生活に全く関係ないしね・・・・・(せめて、奥さんたちに常日頃の感謝の気持ちを形に!!・・・・って宏には無理か!!!!!

[ 毎度お越し戴きありがとうございます ]
アムロ・レイさん
 コメントありがとうございます♪

 宏の就職が波乱を呼ぶ……のかどうか、現時点でも作者には判りません!(オイッ)
 奥様方の反応に注目(?)ですね♪ (^o^)ノ

 毎度ご贔屓ありがとうございます♪ m(_ _)m
 

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