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百花繚乱~後編 百花繚乱~後編 美姉妹といっしょ♥~番外編
 
 吉井(よしい)女学園――。
 ひとクラス三十人前後で一学年四クラス、全生徒数四百人にも満たない、地域に根差した私立の全日制高校だ。
 高校としての規模は小さいが生徒同士の距離が近い事もあって明るく開放的で活気のある学園として地元で名を馳せている。
 また、運動系や文化系の部活動が非常に盛んで、毎年数名は全国大会に輩出している強豪校でもあった。
 その女子高に、夏穂は現国(現代国語)の非常勤講師としてこの秋から勤め始めていた。

     ※     ※     ※

 出勤した夏穂の一日は時間割の確認から始まる。

「今日は……二時限目に一年A組だけ、か。十時半に終わるから、部活が始まるまでの五時間が超ヒマだなぁ~」

 最後の部分を呟いた瞬間、職員室の雛壇に座る教頭が物凄く殺気の篭もった視線を向けて来た。
 多くの教員でざわついている中、夏穂の呟きが聞こえたらしい。
 夏穂の座る席は職員室の後ろにあり、教頭からは三十メートル以上離れている。
 恐るべき地獄耳だ。

「睨まれたって、暇なモンは暇なんだよね~。かと言って、放課後まで校内をうろついてても仕方無いし……」

 夏穂は教壇に立つ傍ら、昔取った杵柄とばかり陸上部のコーチ(こちらも臨時扱いだ)に就任していた。
 その為、授業が無い時間は職員室でずっと座りっ放し状態なのだ。
 しかも、授業の予習復習など夏穂にとっては取るに足らない事なので、放課後までの時間はハッキリ言ってここにいるだけ無駄なのだ。

「でもまぁ、臨時とは言え週二~三回仕事(授業)があるだけマシだよなー。これで本職(正規の教員の事だ)とそんなに変わらん給料貰ってるんだから、善しとするか」

 とても臨時教員とは思えない考えを平然と口にし、教頭の血圧を急上昇させる。
 今度は腰を浮かせ、何か言いたげに震える指でこっちを指している。
 どうやら、余り刺激する(からかう)のはマズイらしい。

「……やれやれ。どこの世界にも冗談の通じない輩がいるよなー。それも権力を持った人間に多いしー」

 まるで他人事(ひとごと)のように口の中で呟いていると、我慢の限界を突破したのか立ち上がった教頭が口を開いた。

「夏穂先生! 貴女は――」

「夏穂センセ~♪ おはようございま~すっ!」

 教頭の言葉を遮るように、セミロングの髪を弾ませてひとりの生徒が職員室に現れた。

(『救世主が現れた! 魔物の攻撃が消えた!』な~んて感じかしら? にしてもグッドタイミングね。あとで褒めてあげよう♪)

 頬を緩ませた夏穂は教頭に流し目をくれ(教頭は顔を赤らめた)、生徒に向き直った。

「おはよう、副島(ふくしま)さん。今日も元気で可愛いわよ♪ で、どうしたの?」

「センセ~、折り入って相談があるんですけど、放課後、時間取れますか?」

「相談? 構わないわよ。それじゃ放課後、部活前に聴くわ」

「ハイっ! ありがとうございますっ!」

 生徒は腰を直角に曲げて礼を言うと、入って来た勢いそのままに職員室を出て行く。
 彼女は物怖じしない性格なので誰よりも早く、着任した夏穂に懐いた生徒のひとりだ。

「あの年代の相談事って言ったら、半数は恋話(こいばな)……よねぇ。はてさて、どうなる事やら」

 自身の恋愛すら不確定だし肩書きだけで人様の恋愛相談に乗るなぞおこがましいと思うが、大人として話を聞く事は出来る。

「さて、っと。時間潰しに仕事でもしますかねぇ」

 夏穂は尚も何か言いたげな教頭に対し、これ見よがしに国語の教科書と辞書を開き、漢字の読み書きの小テストを作り始めた。

     ※     ※     ※

 夏穂の昼食はいつも学食で済ませている。
 当初、千恵が「お弁当作りましょうか? 宏の分を作るのと手間は一緒ですから」とにこやかに言ってくれた。
 仮にそうした場合、朝昼晩と宏と同じ物を食べる事になり、夏穂としては涎が出るほど超魅力的な提案だった。
 しかし。

「あ、いや、今度の高校は学食が完備されてるから大丈夫! 気持ちだけ貰っておくわね。ありがとう」

 流石に下宿人の身で(しかも作ってくれるのは元教え子だ)、そこまでは甘えられない。
 夏穂は後ろ髪を引かれる思いで泣く泣く千恵の申し出を辞退したのだ。
 なので、お昼は生徒達に交じって摂っていた。

「でもまぁ、これはこれでお喋りしながら生徒達の考え方とか流行りとか掴めるから悪くないわね」

 などとメリットも多かった。
 メリットが多い分、賑やかさも二乗で増していた。

「先生、一緒に食べましょう♪」

「だめよ! 今日は私達と食べて貰います!」

「なんですってぇっ!? 貴女達は昨日も夏穂先生と同席してたじゃないの! 今日こそは譲って貰いますからね!」

 などと、夏穂を巡る争奪戦が勃発するようになってしまった。
 夏穂は見た目の若さも手伝って着任するや否や、瞬く間に学園中の生徒から慕われ、崇められていった。
 とある生徒によると、「この冬で三十一歳になるらしいけど、絶対そうは見えないよねー。どう見ても二十三~四にしか見えないよー」と言い、別の生徒は「お堅い学園にあって夏穂先生みたいに、さばけた性格で親しみやすい先生って貴重です!」など、夏穂は一躍学園の『お姉様』の座に躍り出てしまったのだ。
 セミロングに伸ばされた黒髪はシルクの如く風にそよぎ、シャープな顎のラインと黒目がちな切れ長の瞳は知性的な印象を与え、その目鼻立ちの整った美顔は年齢を感じさせない若々しさに溢れ、同性をも唸らせるナイスボディーの持ち主。
 そのような『お姉さん』が近くにいるのだから、全校生徒から尊敬と畏敬の念で見られるのに時間は掛からなかった。

「はいはい、みんな落ち着いて! だったら、みんなで一緒に食べましょ。それが出来無いなら、ウチは職員室で食べるからね」

 鶴の一声で場は収まり、いつもの和やかな(でも賑やかな)食事となる。
 夏穂を取り巻く生徒が増えれば、このお姉さんに対して情け容赦無い質問が飛ぶ数も増える。

「男にモテる秘訣は?」

「どうすれば先生みたいに女らしくなれるの?」

「男子からの視線が怖いんです。どうすれば治りますか?」

「先生みたいなナイスバディーを作り、維持する方法は?」

「下級生から告白されちゃったぁ! 同性なのに……どうしよぅ~」

「……先生が好きっ♥」

 などなど、殆どが恋愛に関するものばかりだ。

(やれやれ。これも着任早々、ウチが失敗したからな~。ま、仕方無いか)

 夏穂は今月初めに着任した時を思い出す。
 最初の授業で数々の質問攻めに遭っていた時、

「先生、恋人はいますかー?」

 若い新顔教師に対し、必ずと言って好い程のお決まりな質問が教室中から飛んだ。
 普段の夏穂ならば、軽くいなして生徒の心を掴む筈だった。
 が、今回だけは違った。
 一年数ヶ月ぶりの教壇と言う事もあり、夏穂は五年前に宏のクラス担任として教壇に初めて立った時の記憶が頭の中で駆け巡っていた。
 元教え子であり、今は下宿先の大家さんとして一緒に暮らし、そして自分の想い人である、宏の事を。
 そこへタイミング好く恋人の質問が飛んだものだから、ものの見事に反応が遅れてしまった。

「へっ!? 恋……人? えぇっ!? あの、その、えっと……好きな男性(ひと)はいませんっ!」

 慌てて取り繕うも、既に時遅し。
 恋に敏感な女生徒達には、夏穂の狼狽え振りがそっくりそのまま答えとなってしまった。
 結果、新任女教師には恋人がいる、とその日の昼休みには全校生徒に知れ渡っていたのだった。

(まぁ、正直に答えれば片想い中……しかもまだ処女なんだけどねー)

 心の中で苦笑するも顔には出さず、夏穂は食事を摂りながら生徒達の質問にひとつずつ、ユーモアを交えて答えてゆく。
 そんな誠実で丁寧で親しみやすさも、夏穂が人気を集めるひとつだった。

「ほら、そろそろ五時間目が始まるわよ。……食後のデザート食べ過ぎると、あっという間に太るわよ♪」

 最後のひと言が決定打となり、学食に集っていた生徒達が笑いながら三々五々散ってゆく。

「さて、ウチは部活が始まるまで各個人のデータでも見直してますかねー」

 職員室に戻った夏穂は、今度は堂々と陸上部の練習記録に目を通し始めた。

     ※     ※     ※

「えっ? 気になる男がいる!? 毎朝同じ電車の同じ車輌に乗り合わせて相手は途中で降りるって? ほ~、へ~、ふ~ん」

 夏穂は部活が始まる直前に進路指導室で生徒と膝を突き合わせて恋愛相談に乗っていた。
 ここは内側から鍵が掛かる唯一の部屋――しかも防音完備なので、『夏穂お姉さんの何でも相談室♪(自ら命名)』として事ある毎に使っている。

「センセ~、その言い方はイヤらしいよ~。せめて男の子、とか男子、って言ってよ。仮にも教師でしょ~!?」

「あははははっ! 悪い悪い。つい、ね。で、副島はどうしたいの?」

「へっ!? どう……って、そりゃ、その、つまり……」

 もじもじと身体を揺すり、真っ赤になって俯く生徒に、夏穂は大仰に頷いてみせる。

「つまり、その男の子と懇(ねんご)ろになりたい、でもその方法が判らないから教えて欲しい――、って事ね?」

「……センセ~、ハッキリ言い過ぎっ! ……でもまぁ、その通りなんだけど」

 教師とは思えない台詞に苦笑しつつも、自分から言わずに済み、気が楽になったのか笑顔になる女生徒。

「やっぱ、恋している夏穂センセ~は頼りになるね~。こちらが言わなくても、すぐ判ってくれるんだもん。この学園の他の年輩のセンセ~とは大違いよ」

 盛んに褒める副島に、夏穂はくすぐったそうに肩を竦める。
 自分の恋話はともかく、生徒に頼られて嬉しく無い教師はいない。

「センセ~がいてくれてホント好かった~。こんなコト、他の先生じゃ聞けないもん」

 破顔した女生徒が心底安堵したように深い溜め息を吐(つ)く。

「まぁ、ねぇ。ここの学園の教師陣って少数精鋭を謳ってるけど、裏を返せば『溜まった水は腐る』、を地で行ってるもんねぇ。高齢化は進んでいるし、一番若い教師がウチなんだもん。初めてここに来た時はびっくりしちゃった。毎年新人なり別の若手教師を入れるなり人事を更新し続けないと人材育成出来無いし、組織や考え方が硬質化する原因になるんだけどね~」

 思わず生徒の前で学園批判をしてしまう女教師。
 ソファーの背もたれに大きく寄り掛かり、タイトスカートなのに長い足を振り回すようにして足を組む。
 紺色のスーツを着ていなければ教師とは思えない、不遜な態度だ。
 しかし、この正直で裏表の無い性格をしているからこそ、生徒達からの信頼も厚く、頼られる一因でもあるのだ。

「なんだか、センセ~も苦労してるみたいだね~。……ひょっとして教頭辺りが煩い、とか?」

 眉間に寄った皺の深さを見たのだろう、鋭い読みをする生徒に夏穂は声を立てて大笑いする。
 これではどちらが教師か判ったものじゃない。

「はははっ、確かに目は付けられてるけど、心配ないよ。それよか副島の男の話だ、男の」

 この女教師は、いち早く生徒達に馴染みたいとの思いから周囲に他の教師の姿が無い場合に限り、自分に対してのタメ口を許していた。
 かようなフレンドリーな付き合い方も、夏穂が人気を博す要因なのだ。

「で、声は掛けたの? ふむ、恥ずかしくて出来無い、か。なるほどねぇ。まぁ、確かにそれが簡単に出来れば苦労はしないわな。そーゆー時は……」

 人生経験三十年と教員生活七年間の経験を活かした夏穂の恋愛指南は優に三十分を超え、部活に顔を出すのが遅れてしまった二人だった。

     ※     ※     ※

「大島(おおしま)さん、後半になると足が後ろに流れていくわよ!」

「ハイッ! 判りましたっ!」

 陸上短距離陣のフォームをチェックする夏穂の声がグランドに響き、生徒の元気の好い声がすぐに返って来る。
 赤地に白ラインの入ったジャージに着替えた夏穂は、グランド内を移動しつつ生徒ひとりひとりに目を配る。
 臨時コーチとなった夏穂は、部員達に対して悪い点を教えるだけに止(とど)め、その後の対処――どこをどう修正するのかなどは生徒に任せている。
 この方が、生徒自身で創意工夫する力が養えるからだ。
 夏穂はトラック種目だけではなく、フィールド種目にも目を光らせる。

「副島さん、踏み切る三歩手前からリズムが崩れてる。それでは高く跳べないわ」

「あ、ハイッ! ありがとうございます!」

 さっきまで恋話で盛り上がっていた生徒に対しても、いち部員としてアドバイスする。
 TPOに応じた接し方も、夏穂の教えのひとつなのだ。

(やれやれ。トラックとフィールド両方見ると流石にキツいわね。でもまぁ、大所帯じゃ無いから、まだマシか)

 この陸上部にはちゃんとした顧問がいるが、かなり年輩な(そろそろ七十五に近い)事もあって週二~三回程度しか顔を出していない。
 いくら部活が盛んでも、教える人間がいないとどうにもならない。
 その為、この学園の陸上部は県大会の決勝に進めるかどうかと言うレベルで伸び悩んでいた。
 かような事情もあって、非常勤講師であっても若くて陸上経験のある夏穂がコーチとして諸手を挙げて迎えられたのだ。

(それにしても……こうして生徒達が走ったり跳んだりしているのを見ると、宏クンと出逢った頃を思い出すわねぇ~)

 いつしか、夏穂の意識は五年前に跳んでゆく。

     ※     ※     ※

「おねがいしますっ!」

 野球部やサッカー部、ラグビー部の威勢の好い掛け声に交じってすぐ下のグランドから響く元気な声に、夏穂はふと顔を上げる。
 窓の外では、陸上部がスタート練習を繰り返している所だった。

「あれ? あの子は……確かウチのクラスの……宏クン、って言ったっけ。へ~、陸上部に入ったんだ」

 夏穂の務める国語科の職員室はグランドに面した二階にあり、ちょうど窓の下が陸上部の練習場所となっていた。
 しかも夏穂の机は窓際にあったので、座ったまま陸上部の練習が一望出来る特等席なのだ。

「ふ~ん。身体はそんなに大きくないのに、結構速いのね」

 担任として興味が湧き、教え子となった宏を目で追っていると、他の一年生は元より上級生と同等かそれより少し速い事が判った。
 窓を開けてもグランドにいる生徒達個々の話し声までは聞えないが、宏が一本走る毎に陸上部の顧問と三年生の部長が満面の笑みを零して何度も頷き、タイムを計る女子マネージャーも興奮気味に記録している所を見るとかなり期待されている事が判る。

「へ~、先月までは中学生だったのに、意外とやるじゃん。それもウチが担任だなんて……面白くなったわね」

 何やら楽しげなオモチャを手に入れた子供のように相好を崩す夏穂。
 以来、クラス担任として接する傍ら部活に精を出す宏を気に掛けているうちに、常に宏を目で追うようになっていた。

「あの子ったら、愛くるしい顔付きに加えて性格も悔しい位、好いのよね~。自己主張は強くないけど消極的でもない。かと言ってヘタレじゃないから、ここぞっ、って時にはリーダーシップを発揮してる。ホント、高校一年の男子とは思えない貫禄ね」

 日本語を教えるだけあって、夏穂の頭の中で「能ある鷹は爪を隠す」と言うフレーズがすぐに浮かんで来る。
 さらに五月の半ばを過ぎた頃、宏の侠気(おとこぎ)を示すエピソードが夏穂の耳に飛び込んで来た。
 宏が部活中に負傷したのだ。

「えっ!? 宏クンが左足を挫いたって!?」

 その時、夏穂は職員会議中で直接見てはいないが、その場にいた野球部やサッカー部、ラグビー部の生徒達の証言によると、野球部の打った大飛球が宏と併走していた別のランナーに当りそうになり、宏が咄嗟に身を挺して守ったと言うのだ。
 しかしその代償として宏は左足首を激しく捻り、その後三日間は歩くのもやっとの状態になってしまったのだ。

「全治三週間……って、それじゃ春の大会は……」

 宏にとって、六月初旬に行われる春の大会は高校でのデビュー戦だ。
 その大会を二週間後に控えた時期の怪我だけに、教え子の心中は穏やかでは無かった筈だ。
 にもかかわらず、宏は身の躱し方が下手だったのだ、自分のミスだと、誰も責めなかった。
 責めるどころか、一緒に走っていた部員――同じ学年の男子だ――には当らなくて好かったと笑い掛け、間接的な原因となった野球部のバッター(こちらは三年生だった)に偶然なのだから気にしないで下さいと気遣いを見せていたのだ。

「宏クン……凄いっ! ここまで人格の出来た十六歳なんて……初めてだわ! 感動したっ!!」

 夏穂の中で、宏の存在が大きくクローズアップされるには充分な出来事だった。
 しかもこの時、夏穂の中の宏の立ち位置が大きく変わる事態に遭遇した。

「あれ? あれは……宏クンに……千恵ちゃんと若菜ちゃん? どうして一緒に登校してるの?」

 夏穂は偶然、松葉杖を付く宏の両脇に学校では美人双子姉妹として有名な千恵と若菜が支えるように付き添っている姿を見たのだ。
 この時、この姉妹が宏の家の隣に住み、幼馴染である事を知った。

「へ~、宏クン、上級生にモテるのね~。クラスでは女っ気、全く無かったのに!」

 夏穂の胸の奥で、得体の知れない不快感がホンの少し、湧き上がった瞬間だった。
 しかし、夏穂にはそれが嫉妬の感情だとは判らなかったし、気付きもしなかった。
 加えて。

「ん? 晶と……優? ……って、美人双子姉妹で名を馳せて二年前に卒業してった、あの晶と優?」

 宏と千恵と若菜の会話の中に、聞き覚えのある元・教え子の名前が盛んに出て来るのを不思議に思い、さり気なく若菜から聞いてみた。
 決して、口が軽いから、などとは死んでも言えない。

「え? 晶姉さんに優姉さんですか~? 二人共、宏ちゃんの従姉さんなんですよ~♪ それに~、私達とも仲がすっごく好くて~、時々一緒にお出掛けしたりするんですよ~♪ それに~、みんな宏ちゃんの事が大好きなんです~♥」

 お陰で、知らなくても好い事まで知ってしまった。

「ひ、宏クンって、年上キラーなのかしら……。ウチと宏クンは十歳、晶ちゃんと優ちゃんは四歳、千恵ちゃんと若菜ちゃんとは二歳違い……か。みんなの方が宏クンと歳も近いし……強敵ね」

 宏を取り巻く美女軍団に冷や汗を流す夏穂だったが、既にこの時点で宏の虜になっていたのだ。
 そして、負傷を押して春季大会に出場した宏が自己新記録のおまけ付きで六位に入賞するに至り、夏穂は自分が宏に恋していた事に気付いた。

「十六歳なのに侠気に溢れ、性格も好くて愛らしい顔して足も速いし……好いじゃん。惚れちゃった♥」

 デビュー戦での宏の入賞は教師や担任として歓ぶよりも、ひとりの人間として、女として素直に嬉しかったのだ。
 以来、自分に正直な夏穂は過剰とも思えるスキンシップを宏に対してだけ行って来た。

「宏クン、ちょっとプリント運ぶの、手伝ってくれないかしら?」

 言いつつ、教え子の腕を取って深く刻まれた胸の谷間に(惜しい事に服の上からだが)宛がってみたり。

「ひ~ろしクン♪ 授業中にボンヤリしたらダ・メ・よ♥」

 肩にバストをポヨヨン、とわざとらしく載せてみたり。
 宏も口では拒むような台詞を吐(つ)いてはいたが、顔を見るとまんざらでは無さそうに照れ笑いを浮かべて目元を赤らめるのだ。
 それが可愛くて、夏穂はスキンシップが止(や)められなかった。
 何より、宏と触れ合える歓びに打ち震えている自分に気付いたのだから。

「宏クン、今度の大会も自己新、出したんだって? おめでとう!」

 秋の大会後、人目のない場所で思い切ってハグした事もあった。
 流石に宏は驚いたようだったが、夏穂のなすがままになっていた。
 きっと、宏の中でも自分の存在が大きくなっている証拠だろう――などと勝手に想像してみたり。
 この女教師はそれこそ欲望のままに、教え子とのスキンシップを三年間に亘って繰り広げて来たのだった。

     ※     ※     ※

「今思うと、結構大胆な振る舞いだったわね~。でも……」

 夏穂は目を瞑り、心の奥底で大切に仕舞ってある自分の想いを見つめる。

「宏クン……好きよ♥ 昔からずっと好きよ。そして、今はもっと大好き♥」

 土埃の舞うグランドに立つと、当時の甘酸っぱい想いが蘇って来る。
 同時に、胸の奥がじんわりと温かく火照って来る。

「そのうちきっと、宏クンのお嫁さんにして貰うからねっ」

 そんな願望が猛烈に湧き上がり、抑え切れない。
 なにせ、今では下宿させて貰っているとは言え同じ屋根の下で暮らし、同じ浴室を使い、同じご飯を朝晩食べているのだ。
 見方を変えれば、これは立派な(?)同棲生活だ。

(……但し、エッチは伴わないけどねー)

 物凄く残念な想いに囚われる女教師。
 心の中でチロリと舌を出し、いずれは処女を捧げようと固く心に誓う夏穂だった。
 しかも今この時、飛鳥と美優樹の二人の姪も同じ事を想っていたなどと、知る由も無かった。

「でも、凄い進歩よね~。以前は教師と教え子と言う立場の壁があったけど、今は何も無い! 同じ社会人として対等に、大手を振って恋愛出来るんだもんね!」

 元教え子とのウェディングを夢見る、三十路の女教師。
 その顔はだらしなく蕩けている。

(当然、初夜だって……。こればっかりは宏クンが先生役で、ウチが女子高生役かしら♪ 嫌がるフリをしつつ、自らスカートを捲り上げてショーツを脱いで……って、いやんっ♥)

 夏穂の脳内は、一瞬でピンク一色に染まってゆく。
 とても部活中の教師とは思えない思考回路だ。

「まぁ、あとは晶ちゃん達が許せば、ウチも晴れてお嫁さんの仲間入りだし~♪」

 あくまで楽天的な夏穂。
 宏が迎え入れてくれる事が既に決定済になっている。

「お嫁さんとなれば、毎朝毎晩、それこそ休みの日には裸エプロンで四六時中、身体を重ね合ったり貪り合ったりして……はぁんっ♥」

 欲望全開の妄想に耽る淫乱女教師。
 長い足を内股にし、胸の前で両手を組んで身体全体をくねらせる。

(あら、やだ。クロッチがぐっしょり濡れて……アソコが疼いてるぅ)

 と、そんなエロ教師を呼び戻す、元気の好い声が背後から掛かった。

「夏穂先生! タイムを計るのでお願いします!」

 見ると、二人のマネージャーがストップウォッチ片手に駆け寄って来た。
 空想世界から一瞬で舞い戻った夏穂は、教師の顔になって手を上げる。

「はいよっ! 今日は……四百メートルの面々ね。了解」

 見ると、既にスタート地点で四人の生徒が屈伸したり軽く走って流したりと、身体を動かしている。
 夏穂は指導役の他にマネージャーの手伝いもこなしている。
 タイムを計り、記録し、保存する――。
 これら縁の下の力持ち的な仕事も、コーチの仕事なのだ。

「それじゃ、二人ずつ計るわよ。……位置についてっ!」

 夏穂の凛とした声が、今日もグランドに響いてゆく――。


     ☆     ☆     ☆


 外資系企業の東京支店――日本支社を兼ねている――に勤める晶の仕事は多岐に亘る。
 齢(よわい)二十五にして秘書課課長の肩書きを持ち、会長第一秘書を務める傍ら、総務や庶務、果ては人事や経理にまで顔が利く晶は部署(セクション)を越えた敏腕マルチ社員として八面六臂の活躍を見せていた。
 冷静な判断と的確な指示で会社役員、果ては社長や会長をも巧みに使いこなし、横這い状態だった会社の業績をたちまち向上させた実績を持ち、カリスマ性をも備えた有能な実務者でもある。
 同僚社員達からは東京支店の陰の社長(ドン)だと謳われ、重役達からも一目置かれる一方、見た目のクールさを感じさせない砕けた性格と魅力溢れる笑顔で人々から慕われ、特に後輩OL達からは悩み事や恋愛相談を常に受けるなど絶大な人気を誇っていた。
 加えて、ビジネススーツを着ていなければファッション雑誌の表紙を飾ってもおかしくない、メリハリのある完璧なボディーの持ち主でもある。
 意志の強さをそのまま表す瞳に目鼻立ちの整った小顔、皺の無い肌理細やかな肌とピンク色に染まる薄い唇。
 腰まで届く緩いウェーブの掛かった黒髪は、女性社員達から羨望の眼差しを受ける美脚と並んで晶の自慢のひとつでもある。
 初対面の人には近寄りがたい高貴な印象を与えるものの、社内は勿論、今では羽田の事務所界隈でもアイドルとして、ほのかと共に並び称されるまでになっていた。
 そんな、才色兼備を地でゆく晶だが、本業はあくまでも会長秘書である。
 秘書である以上、スケジュール管理や各種書類作成、通訳や翻訳は当然として、取引先との接待にお伴する(駆り出される)事も度々あるし、会長の名代としてちょっとした雑務――例えば冠婚葬祭への出席など――を粛々とこなす時もある。
 ビジネススーツに身を包み、会社に一歩足を踏み入れた瞬間から秘書として凛とした顔を崩さない晶だったが……。

「ったく~~~っ、機長の権限をこれでもか! と振り翳して、あれこれ用事を押し付けちゃってぇー!!」

 福岡空港――別名・板付空港の国内線旅客ターミナルビルから車で四~五分の所にある小さな建物内で、晶は素の自分に戻って思いっ切り毒突いていた。
 この建物はプライベートジェットやセスナ機、ヘリコプターなど、企業や個人が利用する第三の旅客ターミナルとして使用されている。
 しかし、ターミナルと言っても小型機専用の駐機場(スポット)脇に鉄筋二階建ての簡素な建物がひと棟あるだけで、一階の同乗者用ロビーなどは五人掛けのソファーが二脚だけ並び、二十人も入れば身動き出来無くなる程の狭さなのだ。
 日に十数人しか利用しない殺風景なロビーに煌びやかな売店などある筈も無く、ソフトドリンクの自販機――しかも紙コップタイプが一台、ゴミ箱と共に置かれているだけだ。
 会長の名代として、また接待役として取引先の社長御一行様を自社のビジネスジェットで送り届けた晶は羽田へ折り返すまでの時間、このロビーでひとり座り、紙コップのお茶を啜りながら暇(?)を潰していたのだった。

「あたしゃ、機長の小間使いじゃ無いっつーの!」

 誰もいない(幸い、この時間は他社や個人のフライトが重ならなかったようだ)のを好い事に柳眉を逆立て、ブツブツと文句を垂れ流す晶。
 その矛先を向けられている人物は今頃、副操縦士と共に二階の空港事務所で復路の気象確認をしている筈だ。
 その人物は金髪碧眼が目に眩しい北欧生まれのハーフ美女で、晶と同じ大学に通い、同じサークルに所属していた同級生――。
 そして今日のフライト責任者であり、ビジネスジェットを操縦して来た機長のほのか、その人だった。
 ほのかは飛行中、会長からフライトアテンダント役を仰せ付かった晶に対して「コーヒーを持って来い」だの「食事(ミール)はサンドイッチにしてくれ」だの好き勝手に呼び出し、着陸三十分前にはわざわざ客室(キャビン)に現れて「これから揺れるからベルトをキッチリ締めて大人しく座っていろ」、などと居丈高しく命令していったのだ。

「何よ! あたしが今日、一緒に乗る事を内緒にしてた位で目くじら立てちゃって……みっともない!」

 己の腹黒さ(?)をスルーし、ほのかを責め立てる晶。
 美しく整った顔を大きく歪ませ、今ではロビーの外からでも文句の内容が判る声量となっていた。

「いい歳こいた大人が、ナニやってんのかしら! 大人しく操縦に専念してなさいっ、ってーの!」

 黒に近い濃紺のスーツジャケットにパンツルック姿の見目麗しい美女が長い脚を組み、眉間に大きな皺を寄せ、膝に肘を載せて手で顎を支えつつ文句を言う姿は、社内はおろか、家でもなかなかお目に掛かれない。
 しかし、根っ子の部分ではほのかとの同乗を喜んでいる自分自身にも、実はとっくに――同乗が決まった時から気付いているのだ。

「まったく、あの娘(こ)と来たら、いつもよりはしゃいじゃってっ。お客様から『ずいぶんフランクで陽気な機長さんですねぇ。……操縦は自動なんですよね!?』なーんて恐る恐る言われちゃったじゃないっ。……でもまぁ、会社での取引が成功したお陰もあって、和気あいあいと過ごせたから好いけどね」

 自身の接待が上手くいった事も加わり、つい頬が緩んでしまう。
 ほのかと同じく、晶も気の好い女性(ひと)なのだ。
 気の好い性格だからこそ、文句を付ける相手の頼み事も引き受けてもしまう。
 それは、およそ二時間前の出来事だった。
 社に戻るゲスト御一行を二人で見送った後、ほのかがこう、切り出した。

「晶は帰りの時間までヒマだろ? だったら東ターミナル(国内線旅客ターミナルを指す別名だ)まで行って『処坊庵』の辛子明太子を買って来てくれよ。宏へのお土産にするからさ♥」

「はぁ~あ? あんですとーっ!?」

 耳を疑い、瞳を眇めて目の前の金髪美人を睨む晶。
 そんな長剣で刺すような視線をものともせず、「しな」を作ったほのかが頬を染めつつ曰(のたま)った。

「今夜はオレが宏と同衾する番だし、お土産のご褒美に、た~~~っぷり、じ~~~っくり、朝まで可愛がって貰うんだぁ♥」

 このぶりっこ機長は、副操縦士の女性(徐々に顔を赤らめ、最後は俯いていた)が隣にいるにも係わらず、正々堂々(?)と明けっ広げに惚気(のろけ)たのだ。

「あ……あんたって娘は……」

 いつも以上の図々しさに、ポカンと口を開けて暫し絶句する晶。

(き……機を降りてからもコキ使うか、この機長はっ!?)

 向かっ腹を立てたのも束の間。
 晶の瞳がごく僅か見開かれ、輝いた。
 自分も宏や家を守ってくれている家族の面々に土産を贈り、濃厚なご褒美(と言う名のラブラブエッチ♥)を授かろうと、瞬きする間に閃いたのだ。
 いわば、ほのかのアイデアに丸々載っかったのだ。

「ったく、待ってなさい!」

 憤慨するフリをした晶は乗客で賑わう国内線ターミナルまで出向き、頼まれた辛子明太子を自腹で仕入れて来た。
 勿論、宏の為にハーフボトルの「博多の地酒三本セット」を真っ先に仕入れ、家族用に「辛子高菜」や「博多ラーメン詰め合わせセット」、デザート用に銘菓「博多通りやん」を購入したのは言うまでもない。
 ついでに、隣で売っていた「辛子れんこん」を話のネタに仕入れ、同僚への土産として銘菓「鶴亀の子」も忘れずに買ったのだった。
 晶の隣には博多名物の土産物が山と積まれ、この無機質なロビーでは浮いた光景となっていた。

「さて、あと三十分もすれば重役連中が集まる頃ね。いくら自社の人間だけが乗ると言っても、ほのかとある程度、打合せしといた方が好いだろうし」

 右手首に嵌めた瀟洒な腕時計にチラリと視線を走らせ、頭の中で今後の段取りをシミュレートする晶。
 しかし、羽田を発つ前に会長から、

「帰りはサービス一切、何もしなくて好いよ。連中(重役達の事だ)には『着くまで大人しく座っていろ、飲み食いするなら自分で予め買っておけ』と言ってあるから。せっかくなんだから奥さん同士で空の旅を楽しんでなさい♪」

 と、言われてはいる。
 この会長――に限らず出入り業者や社の全員は、晶とほのかは夫を同じとする既婚者であると知っている――は暗に、仕事を忘れて女同士でゆっくり羽を伸ばして好いよ、と言ってくれたのだ。
 しかし、パイロットのほのかと飛行中に長々とお茶する訳にいかないし、第一、秘書課課長として重役を無視して「のほほん」と座りっ放しは、いくらなんでもマズイだろう。
 最低でもお茶出し(ドリンクサービス)位はしておいた方が後々――業務は勿論、特に人付き合いに於いて好い結果を招く事位、百も承知だ。
 その為には、どのタイミングで席を立ってサービスを始めても好いか、あらかじめ機長に聞いておく必要があるのだ。

「空港事務所で雲や風の状況を確認したら顔を出す、て言ってたけど、まだ終わらないのかしら? 先に準備始める訳にもいかないし……」

 いくら粗末な(?)ターミナルとは言え、空港職員が常駐しているので同乗者は勝手に駐機場へは入れない。
 誘導路、果ては滑走路へと続く駐機場にはプロペラ機やジェット機に加えて各種大型作業車が多数行き交い、素人には歩くのさえ危険な場所なのだ。
 もっとも、秘書と言う立場上、晶は同乗者と同時に乗員(クルー)扱いにもなっているので、駐機場へのゲートにいる顔馴染みの職員に言えば機内に入る事は出来る。
 しかし、機長を待たずに先走った行動は慎んだ方が好いと、今迄の経験で判っている。
 フライトプランの変更などで装備品の積み降ろしが発生した場合、二度手間になるからだ。
 キャビンの清掃点検やミールの準備など、全ての行動は機長による打合せ(ブリーフィング)が終えた後でも充分間に合う。

「出発予定時間まで、あと一時間、か。ほのか達はそろそろ、かな?」

 壁に掛かった時計と腕時計を見比べた晶は紙コップのお茶を飲み干し、ゴミ箱へ捨てる為に腰を浮かせた所で澄んだ声が掛かった。

「お待たせ。天候確認が終わったから、あと五十分位で飛び立てるぜ」

 機長の制服に身を包んだほのかが、副操縦士を伴って駐機場と建物を隔てるドアを開けて立っていた。
 純白の上着と黒のパンツを纏い、肩と袖の金色に煌めく四本線が目にも眩しい、機長のほのか。
 一方、ショートヘアの似合うキュートな笑顔のコ・パイは、同じ服装ながら金色のラインは三本だ。

「晶は帰りも『フライトアテンダント』、するんだろ? だったら機体点検中にキャビンを頼むよ♪」

 晶の深謀遠慮を先読みし、ニヤリと笑うほのか。
 どうやら、この機長は帰りも秘書課課長様をコキ使う腹積もりらしい。
 そんな不穏なオーラをいち早く察した晶は、スポットへ向かいながら指を突き付けた。

「あんたにはサービスしないから! コーヒー飲みたきゃ、そっちから顔出して!」

「別に構わんけど……そしたら、飛行機がどーなっても知らんぞ? いくらオレと同じ腕の立つコ・パイが操縦輪(ホイール)を握っていても、いつ何時、何が起きるか判らんし」

「!! うぐぐぐっ……」

 胸を張った強気のほのかに、苦虫を噛み潰したような顔の晶。
 機内では、あくまで機長が絶対的支配者(?)なのだ。
 課長の晶がいくら声高に命令しても、機長のほのかには敵わない。
 空の上では、地上の常識など一切通じないのだ。
 そんな睨み合う二人に、後ろを歩いていた副操縦士が鈴を転がすような声で可笑しげに笑い出した。

「ふふふっ! ホント、お二人はいつ見ても好いコンビですね。お二方(ふたかた)と同乗するのを、心待ちにしてた甲斐がありました! ボケツッ込みのタイミングなど、テレビに出て来る若手芸人より数倍も冴えてます♪」

 手放しで褒め称えるコ・パイに、ほのかと晶は顔を見合わせ、次の瞬間には眉根を寄せて同時に叫んだ。

「オレらはコンビじゃねぇ!」

「あたしらはコンビじゃ無い!」

 息もピッタリな台詞に、副操縦士の拍手喝采はなかなか収まらなかった。

     ※     ※     ※

 客室の簡単な清掃と各種点検――救命胴衣の有無や不具合のチェック、ミールの数量確認とカートの固定など――を終えた晶は、機外点検を済ませたほのかとフライト情報を含めた機内サービスについて簡単なブリーフィングをする。
 当然、緊急着陸を含めた非常事態(エマージェンシー)の対処方や緊急脱出の手順についても、往路に続いて復路でも念入りに確認し合う。

「……ん、判った。緊急脱出する時は、ほのかの合図を待ってあたしがドアを開ける。ドアが開けられない時は緊急脱出用窓を使用する。で、重役四人を外へ誘導し、キャビンに誰も残っていないのを確認してからあたしが脱出する。脱出したら重役共々、機体から出来るだけ離れる――で好いわね?」

「OK、完璧だ。それじゃ、次に着水時の手順だが……」

 真剣な表情で復唱する晶に、こちらも真面目な顔で頷くほのか。
 どんなに慣れた行程や手順であろうとも、常に不測の事態を予想し、備えなくてはならない。
 殊に晶は、非常時はクルーとしての対応も任されている。
 たまにしか乗らない年輩の重役に非常ドアの場所や開け方を一から教えるよりも、時々乗って各種操作に精通した晶がキャビンにいた方が遥かに安心だし理に適っているのだ。

「最後に飛行(フライト)情報だ。えっと……帰りは離陸後十八分から二十分位で雲の上に出て、そのまま三万七千フィートまで上昇する予定だ。雲に入ってから抜けるまで若干揺れるけど、大した事は無いから。で、気流の安定を確認した時点でシートベルト着用サインを消すから、それがサービスを開始しても好いと言う合図な。それまでは重役連中を大人しく座らせておいてくれ。当然、トイレもダメだ」

 清書されたフライトプランに時折視線を落としながら指示や説明をするほのかに、真顔で頷く晶。
 エマージェンシーを含めたフライトに関する部分でのおふざけは御法度だ。

「飛行コースはいつも通り、大分から高知、串本、大島と辿るルートだ。上手いこと空域が空いていて管制からショートカットが許されれば、羽田には十五分から三十分近く早着出来るぜ。今日は偏西風が強いから、追い風に乗ればあっという間だからな。……あ、ベルト着用サインが消えていても、常にベルトを軽く締めておくように言っておいてくれ。いくら視界の利く晴れた空でも、レーダーにも映らん晴天乱気流に捲き込まれるかもしれんからな」

「うん、判った。サインが消えたらサービス開始、着席時は常にベルト着用――了解よ。……で、あんた達へのドリンクとミールは、どうする?」

 腰まで届く、緩いウェーブの掛かった黒髪を背中に払った晶が僅か一瞬だけ、不敵な笑みを浮かべる。
 行きに受けた辱め(?)を晴らす為に、ほのかの食事に何か細工でも――コーヒーに塩、とかミール(サンドイッチ)にタバスコ、とかしてやろうかと、ホンのちょっとだけ頭を掠めたのだ。
 しかし、そんな腹黒女を、ほのかの観察眼は見逃さなかった。
 流石、パイロットの眼は鋭い。

「って、ヤな顔だな。コーヒーにヘンなモノ、入れないでくれよな。……雑巾の絞り汁、とか」

「あたしゃ給湯室のいじめっ子じゃ無い! ってか、何でそんな事、言うのよ?」

(考えを読まれた!?)

 内心、焦る晶が慌てて言い繕う。
 背中に冷や汗が一筋、流れ落ちる。

「課長であるあたしが! 機長のあんたに! ナンかする筈、無いでしょ!」

「あ、いや、帰りは社の人間だけだし、往路で受けた屈辱を晴らす為に陰の社長(ドン)による、密室の復讐劇が……」

 真顔の本気でおバカな事を考える機長ほのか、二十五歳。
 これが最新テクノロジーの結集したジェット機を身体の一部のように操る人物だとは、到底思えない。
 さっきまでの真剣な打合せは何だったのだろう。

「あのねぇ~、屈辱ってナニよっ!? 復讐……って、やっぱりあたしがあんたに刃向かえないコトを知ってて居丈高に振る舞って散々コキ使ってたのね!? そうなのねっ!? そうなんでしょっ! だから復讐なんて言葉が出て来るんでしょ!!」

 片や、髪を蠢かせ、目を剥いて本気(マジ)でツッ込む秘書課課長、二十五歳。
 これが社内で最も畏怖され、崇められ、そして慕われる人物だとは、到底思えない。
 相手のペースに乗って髪を振り乱すその姿は、まるで子供のケンカだ。

「第一、殺す(やる)ならもっとスマートで足の付かない完璧な方法を採るわよっ! 誰がそんな小学生みたいなマネ、するもんですか!」

「……って、やっぱり殺す(やる)んかい!」

 美顔を突き付け、鼻同士が触れ合わんばかりに漫才(?)を繰り広げる二人に、コクピット点検をとうの昔に終えたコ・パイがお腹を抱え、ホイールを片手でビシバシ叩きながら必死に笑い声を堪えていた。

     ※     ※     ※

「これから滑走路へと移動します。今一度、携帯電話の電源が切ってあるかを確認させて戴きます。……はい、結構です。ご協力感謝致します」

 ビア樽のようなお腹の重役四人相手に携帯をかざさせ、電源オフをひとつずつ確認する晶。
 その顔は秘書課課長では無く、民間定期便のチーフパーサーと何ら変らない真剣な表情だ。

「何で携帯の電源を切らねばならんのだ! 取引先との連絡があるから電源を切る訳にはいかん!」

 今の時代、ごく稀にこんなコトを言い出す搭乗者(ゲスト)が現れるが、晶は冷静に、そしてにこやかに笑ったまま切り返す。

「それでは、フライトは直ちにキャンセル致します。携帯から発する電磁波の影響により、この飛行機を墜落させて他のお客様の命を奪う訳には参りませんので。目的地に降り立つまで電源をお切りになるか、あるいはお一人だけこの機を降りてご自身で目的地まで移動なさるか。それとも、電源を入れたまま離陸して墜落する飛行機と運命を共になさるか、どれを選択なさいますか? わたくしはどちらでも構いませんよ?」

 絶句し、青くなって顔を引き攣らせるゲストに、晶はこう締め括るのだ。

「この機には衛星デジタル回線を使用した専用電話が御座います。客室後部のブースから世界中に通話やファクス、インターネットやメールも使えますので、もし宜しければそちらをご利用下さいませ。勿論、全て無料となっております」

 これで、大概の不心得者は(ブツクサ文句を言いつつ)電源を切って大人しくなる。
 幸い、我が社の重役連中は搭乗前に携帯の電源を切る癖が定着しているので、確認作業も一瞬で終わる。
 普段から、フライトアテンダント役の晶が口を酸っぱくして注意(警告?)し続けたお陰かもしれない。

「続きまして、ライフジャケット(救命胴衣)の着け方と非常時の対応について説明します」

 通路前方に立った晶は救命胴衣を取り出すと頭から被り、胸の前のバックルを留めて身体に固定して見せる。
 民間機に乗ると出発前に必ずお目に掛かる、あのセーフティー・デモンストレーションだ。

「……緊急着陸、及び着水する場合は機長から放送があります。その場合、座ったまま両足首を両手で強く握って頭を出来るだけ低く保って下さい。この姿勢を『衝突防止姿勢』または『安全姿勢』と言い、ハードランディングした際に衝撃から身体をある程度守ってくれます。また、この胴衣は水に触れると自動的に膨張しますから溺れる心配はありません。また、万が一、機体が水中に没した時の為に、従来の紐を引っ張って膨らませる手動式のライフジャケットも積んでおります。機内からの脱出後に作動させれば水面まで浮き上がりますからご安心下さい」

 ~ポーン♪ ポーン♪~

 慣れた動作での実演が終了した所で、タイミングを見計らったかのようにキャビンに柔らかい電子音が二回、鳴り響いた。
 管制官から離陸許可が下り、これから離陸滑走を始めると言う、キャプテンからの合図だ。
 窓の外を見ると、さっきまで自分達がいた質素な二階建ての建物が後方にゆっくりと流れ、機体は誘導路の終点――滑走路端に近付いていた。

「それでは羽田へ向けて離陸致します。今一度、シートベルトが締まっているかをお確かめ下さい」

 四人分のベルト確認を素早く終えた晶はキャビン後方の、簡易台所(ギャレイ)前の座席に腰を下ろし、ベルトをきつく締めてからインターホン本体にある青いボタンを一回、押す。
 キャビンでの離陸準備終了・離陸に支障無し、とコクピットへ伝えたのだ。
 ほのかと副操縦士も柔らかい電子音が一回、コクピットで鳴ったのを確認したのだろう、機体は停まる事無く、そのままの速度で滑走路に進入する。
 この合図がないと機長は滑走路手前で機体を停め、離陸を一時中断する。
 キャビンの離陸準備が整わないうちに、離陸滑走出来無いからだ。

(いよいよ離陸ね)

 これで、今からベルト着用サインが消えるまでは誰ひとりとして席を立てないし、立たせない。
 離着陸の前後三十分――上昇中と降下中は雲の中や気流の悪い所を飛ぶ事が多く、機体が大きく揺れるので不用意に立ち上がると転倒などの危険があるのだ。
 危険防止と予防もフライトアテンダントとしての、晶の大切な役目なのだ。
 第一、つまらない問題を起こして、ほのかに迷惑を掛けたく無い。
 やがて機は滑走路を離れ、羽田へ向けて紺碧の大空に舞い上がった所で。

(……あ。千恵ちゃんに帰る時間を連絡するの、忘れてた)

 眼下に広がる博多の街並みがどんどん小さくなり、緑の大地が広がってゆく様子を眺めていた晶は唐突に思い出した。

(んもうっ! 誰かさんが迷子になるから三十分近く遅れた上に、家(うち)に電話するの忘れちゃったじゃない!)

 ビア樽重役のひとりが搭乗するターミナルを間違え、東ターミナルへ行ってしまったのだ。
 お陰で晶が探しに(迎えに!)行くハメになり、出発時間が大幅に遅れてしまった。
 ただでさえ、フライト直前は仕事が集中して時間との競争になるのに、今日は余計な仕事が入ったお陰で家への連絡をすっかりと忘れてしまったのだ。

(このまま連絡しないと、ヒロと一緒に夕食が摂れなくなっちゃうじゃない!)

 一度、連絡無しのままお腹を空かせて夜も遅くに家に帰ったら夕食が無かった、なんて事があったのだ。
 千恵に言わせると、夕食を摂る意志表示が無かったから外食かと思った、いつ帰るか判らん相手をいつまでも待っていられない、宏をいつまでも待たせられないし家(うち)には飢えた狼(若菜?)もいるからね――と苦笑交じりに言われたのだ。
 なる程、全てごもっともなので、以来、帰宅時間の連絡を忘れずに入れるのが晶の日課になっていた。

(ま、羽田に着くまでに衛星電話で連絡するヒマ位は取るから、その時で大丈夫ね)

 思考をプラスに切り替えた晶は、ベルト着用サインが消えるのを待って席を立つ。

「それじゃ、お茶でも出しますかねぇ」

 蒼地に深紅のライン(機体のラインと同じ色だ)が入ったエプロンを掛け、わざとらしく咳払いをしてから重役達の顔を眺める晶。
 その瞳は、「遅れて来たアンタに、あたしが直々にお茶を淹れてやるんだから感謝しなさいよ」と言っている。
 本来、社員だけが乗る時は基本的にセルフサービスなのだ。
 こめかみに冷や汗を浮かべ、恐縮しきりの重役達を乗せた(載せた?)機体はどんどん加速し、偏西風に乗って一路、羽田を目指す。
 それはまるで、宏の許へ早く帰りたがっている、ほのかの心情が現れているかのような操縦だった。

     ※     ※     ※

 離陸から七十分後、西の空が朱味(あかみ)を帯び始める中、晶達を乗せた機は定期便のジャンボやエアバスに交じって定刻通り、羽田の長い滑走路に舞い降りた。
 三十分近い遅れを取り戻したほのかの腕前はさておき、機体が滑走路に着いた瞬間、晶は、

「ただいま、ヒロ。今日も無事、仕事を終えたわ。ありがと、ヒロ。愛してる♥」

 小さく呟き、左手薬指に嵌められたプラチナリングに、そっとキス。
 この結婚指輪は従弟と言う関係以上に自分と宏とを固く結ぶ夫婦の絆であり、宏の熱い想いが詰まった、命よりもずっと大切なリングだ。
 晶は一日の仕事を終えると必ず指輪に語り掛け、無事に宏の許へ帰れる事を歓び、感謝し、そして永遠(とわ)の愛を誓うのだ。
 しかし、宏への想いに浸ってばかりもいられない。
 今日はあと少し、仕事が残っている。
 晶は座席に座ったまま、慣れた仕草でインターホンを取る。

「皆様、お疲れ様でした。当機は東京国際空港、羽田へ定刻に到着致しました。機体が止まり、ドアが開くまでベルトを締めたままお待ち下さいませ」

 秘書課の課長として、そして搭乗時はフライトアテンダントとしての、晶の長い一日が間もなく終わ
る――。


     ☆     ☆     ☆


 宏のバイト先は、屋敷から三十分の距離にある大手家電ショップの保管倉庫だ。
 ここには社員数名と事務のお姉さん、アルバイト四人の計十人が詰めており、宏は二年半前から勤めている。
 午前中は各店舗へ大小様々な家電品を出荷し、午後はメーカーからの製品を荷受けし、所定の場所へ保管するのだ。
 そして今日も出荷作業が全て終わり、少々早いランチタイムとなった所で。

「あの~、今日も、ですか?」

 毎回繰り広げられるイベント(?)に苦笑し、周囲を見渡す宏。
 そこには、ここに勤める全員が顔を揃えていた。

「どれ? 今日のメニューは……ほ~~~、ご飯とみそ汁はいつも通りとして、鳥唐に卵焼き、五目ひじきにきんぴらごぼう、キャベツとミニトマトのサラダにミカンと白桃のデザート……か。そこらの店の定食より遥かに旨そうだな。……ったく妬けるね~」

「ひゅ~ひゅ~! 秋も深いのに、ここだけは常夏だぜ~」

「私でもここまで上手に作れないわ~。これは、愛の成せる業ね♪」

「「「あははははっ!」」」

 バイト仲間や社員達の囃し立てる声に、宏はくすぐったそうに肩を竦める。
 みんな、宏が持参する愛妻弁当を眺める為に集まって来たのだ。
 なにせ、二十一歳にして六人の妻を娶った果報者を職場仲間(特に独身・彼氏彼女無し)が放って置く筈が無い。
 持ち物検査と称して、毎日おかずのチェックをされるのだ。
 もっとも、

「これが、俺のかみさん達が作ってくれた弁当なんだぞ~♪」

 宏自身、この弁当を自慢したくて堪らない気持ちも持っていた。
 持参のランチジャーには茶碗二杯分のご飯と、なみなみ入れられた熱々の味噌汁、そして盛り沢山のおかずがこれでもかと詰められ、その量たるや学生街の定食となんら引けを取らないボリュームなのだ。
 肉体労働の宏にとっては物凄くありがたい昼食であり、それよりも千恵や若菜、真奈美や優の愛がたくさん詰まった昼食なのだ。
 新婚ホヤホヤの宏が思わず見せびらかしたい衝動に駆られたとしても、仕方無いだろう。
 集う面々は毎回弁当を眺める一方、若き果報者に対して様々な言葉を贈っていた。

「若くして結婚だなんて、早まったなぁ。もっと遊んでから年貢を納めれば良かったのに」

 などと、頬を緩めた年輩の男性社員から本気で言われ、

「宏さん、結婚生活って、どんな感じです? やっぱりいつもイチャイチャなんですか?」

 などと後輩のバイト仲間から興味津々に尋ねられ、果ては、

「ねぇ、私もお嫁さんに貰ってくれない? あとひとりや二人、大丈夫でしょ? 私、お料理、得意なの。……あ、もちろん、床上手よん♪」

 などと、来月三十ン歳になる事務の独身お姉さんから冗談半分で(つまり半分は本気だ)言い寄られたり。
 十一月に寿休暇が明け、出勤した宏を待っていたのは、それはそれは賑やかな洗礼だったのだ。

「えっと、まぁ、時間が勿体無いですし、ご飯にしましょう!」

 そして、騒ぎを収めるのはいつも宏だった。

     ※     ※     ※

「ねぇ、宏さん。宏さんの奥さんって、どんなタイプの人達なんですか?」

 午後の入荷を待つ間、倉庫整理中――つまり時間潰しの掃除だ――の宏とペアを組んでいたバイト仲間の千歳(ちとせ)が興味津々に尋ねて来た。
 この娘(こ)はショートヘアと、えくぼの出来る笑顔が可愛らしい女の子だ。
 もうひとりの女の子と共に宏より一年遅くここで働き始めた二十歳(はたち)になる女子大生で、現在彼氏募集中なのだそうだ。

「タイプ? う~~~ん、そうだなぁ……」

 宏は床を掃く手を止め、顔を天井に向けて愛妻の顔を次々と想い浮かべるが、改めて聞かれると答えに詰まってしまう。
 なにせ、六人とも超個性的な面々ばかりなので、ひと言ではとても言い表せないのだ。

「ひとりは、丸の内にある外資系企業に勤めてて、そこで秘書課の課長をしている二十五歳の従姉なんだ。何でも、仕事をこなす腕前はピカ一で重役達も一目置いてる、って話だよ」

 しかも怒ると誰よりも怖いんだ、と額の横で鬼の角を表わす仕草をする宏に、千歳は声を上げて笑う。

「二人目は、同じ会社でパイロットとして勤めている金髪碧眼のハーフなんだ。ビジネスジェットを操縦する腕前はなかなかのモノだと、羽田界隈では評判なんだって」

 宏は、この二人は同い年で大学の同期である事、ハーフの彼女とは四年前に知り合った事も付け加える。
 宏と千歳は箒を動かしながら通路をゆっくりと進んでゆく。

「三人目は、家計を一手に引き受けてくれている女性(ひと)で、株の売買や外貨取引などで資産を運用して貰っている、我が家切っての大蔵大臣なんだ」

 宏は、この女性(ひと)はひとり目の女性の双子の妹なんだよ、と教える。
 しかし千歳は小さく首を捻っている。
 どうやら、一般家庭の家計と株売買や外貨取引の関係性が上手くイメージ出来無いらしい。

「四人目は……何て言うか、いてくれるだけで癒される、傍にいてくれると安心する……って感じの二十四歳の女性(ひと)なんだ。家事も完璧にこなしてくれるし、いてくれないと困る女性(ひと)、だね」

 この女性(ひと)は四年前に、とある出来事で知り合ったんだ、と宏は懐かしげに笑う。
 千歳は瞳を輝かせて聞き入っている。

「五人目は、家(うち)の維持管理に気を遣ってくれる、姐御肌の幼馴染なんだ。背は低目だけど、ポニーテールが似合う素敵な女性(ひと)なんだ」

 宏は、この女性(ひと)は料理も上手で、ランチを作ってくれるのもこの女性(ひと)なんだ、と頬を緩める。
 そんな宏を、千歳は目を細めたまま黙って見つめる。

「六人目は、朝昼晩毎日美味しいご飯を作ってくれる、幼馴染にして我が家の料理長なんだ。二十三歳で家事の腕前もピカ一で、漆黒の髪を腰まで真っ直ぐ伸ばした大和撫子なんだ」

 宏は、この女性(ひと)は姐御肌のお姉さんの双子の妹だけど、見た目と性格は正反対なんだ、と笑いながら付け加える。
 千歳は様々なタイプの美女を想像し、そんな女性(ひと)達を娶った宏の度量の広さに改めて感服していた。
 一方、それぞれの妻達を想い描いている最中、宏は左手薬指に嵌められた六つのプラチナリングをずっと撫で続けていた。

「この指輪は目に見える愛の形として、そして、自分とみんなを結ぶかけがえのない絆として命より大切な指輪なんだ」

 胸を張って指輪を翳す宏に、千歳は圧倒される。
 妻に対する愛をここまで堂々と示す男性(ひと)を初めて見たのだ。

「……宏さん、みなさんを愛してるんですね。傍から見ていて、奥さん達が羨ましいです」

「うむ! 俺、みんなの事、愛してるし、一生離さない。何があってもね!」

 ニコリと笑い、宏は大きく頷いてみせる。
 これ以上無い位、キッパリと言い切った宏に千歳は眩しげに目を細める。
 惚気などでは無く、確固たる信念で自分の愛を惜しみ無く注ぐ宏の背中が途轍もなく大きく見え、そこまで深く愛されている奥さん達は女冥利に尽きるのではないか、と思ったのだ。

「って、なんか恥ずかしいコト言ってんな~、俺」

 一転、凛々しかった顔を早々に崩し、照れ臭そうに頬を染めて鼻を掻く宏の姿は、さっきまで朗々と愛を謳っていた人物とは思えないあどけなさだ。
 しかし、千歳にとっては誰よりも――父親よりも頼もしく映った。
 この男性(ひと)と知り合えただけでも、物凄くラッキーだったと思う。
 いずれ、自分も女として、愛する男性(ひと)からこの様に愛されてみたい――と夢見る千歳だった。

「へ~、それはそれは羨ましい限りっすね~。しかも、双子姉妹が二組にハーフ美女と癒しの美女が揃って、まるで美女の博覧会ですなー」

 突然、宏達の背後から倉庫全体に響く、大きな男の声が掛かった。
 驚いて振り返ると、いつの間に来たのか、二人のバイト仲間が伝票片手に立っていた。
 どうやら製品を積んだトラックが着いたらしく、いつまで経っても戻らない宏と千歳を呼びに来たらしい。
 しかも、二人の宏を見る目が何やらニヤ付いている。

「って、いつからいたんだっ!?」

「ん? そうだな……妻のタイプが云々……って辺りから」

「って、最初(はな)っからじゃん!」

 全部聞かれていたのかと思うと、恥ずかしさで顔が火照って来る。
 そんな宏に、セミロングの髪をポニーテールに結ったバイト仲間の美保(みほ、二十歳の女子大生・彼氏無し)が瞳を煌めかせて曰(のたま)った。

「宏さんって、やっぱりラブラブですぅ~♪ この倉庫はいつからハワイになったですか~? 『熱く』て傍に寄れないですぅ~」

 茶化すような――でも羨むような美保の言葉に、同じ大学に通っている千歳も苦笑して頷いている。
 ふたりはクラスメイトなのだそうだ。
 そして、最初に声を掛けた松本(まつもと)が宏の肩に手を回して曰った。

「ったく、人前でホイホイと惚気るんじゃねーよっ! 独り身には辛い話なんだぞ-!」

 この男は宏と同じ二十一歳のフリーター(二十一年間彼女無し)で、宏と同時にここで勤め始めた、いわば同期だ。

「あ、いや、惚気てた訳じゃ無い――」

「まぁまぁ。新婚さんは無意識に惚気るモンだからさ。オレ達独り身は気にせず……いつでも惚気やがれ、コンチクショーッ! オレも彼女が欲しいっ――!!」

「んなモン、知るかっ!」

 最後は理不尽な逆ギレ(?)をかます松本の遠吠えに宏のツっ込みが炸裂し、倉庫内はしばし笑い声が響いていた。

     ※     ※     ※

 仕事場からの帰り道。
 電車に揺られながら、宏は今月から下宿人として一緒に暮らし始めた美女三人にも想いを馳せていた。

「飛鳥ちゃん、か。大学生になった所為か大人っぽくなったよなぁ。あれで昔は一緒に部活、やってたんだよなぁー」

 長い美脚にオーバーニーソックスとミニスカがとてもよく似合う、もうすぐ十九歳になる女子大生。
 腰に届くまで伸ばされた栗色のツインテールを風になびかせ、元気一杯はち切れんばかりの笑顔でグランドを走り回っていた中高時代を思い出す。

「美優樹ちゃんも、初めて出逢った時からゴスロリ衣装が似合ってて……ホント、お人形さんみたいに可愛いよなぁ。……オマケに飛鳥ちゃん同様、美人だし」

 中学を一年、高校を二年飛び級し、今年から姉の飛鳥と同じ大学へ通う、来月十六歳になる女の子。
 一卵性双生児だと無条件で信じる程、姉とは瓜二つの顔で、大和撫子の西洋版(?)みたいな淑やかさと薄く微笑んだ美顔は一度見たら一生忘れられない。

「夏穂先生は、いつまで経っても若いよなー。二十歳(はたち)そこそこと言っても充分通用するし……昔から綺麗だし」

 妻達や自分の高校時代の担任であり、飛鳥と美優樹の叔母に当る女性(ひと)。
 とても三十路とは思えない若さとノリの好さは、恩師よりも若菜やほのかに極めて近いものがあるとも思う。

「この三人が、もしも俺の嫁さんに加わったら……それはそれで楽しそうだよなぁ~♥」

 いずれも好みのタイプだし、女性としては申し分無い性格だ。

「そうなったら……毎晩ハ~レム状態だよな~。飛鳥ちゃんはオーバーニーソックスを穿かせたままでエッチして……美優樹ちゃんはゴスロリ衣装を着けたままエッチして……夏穂先生はスーツ姿で、俺は学生服着て教師と生徒の個人教授プレイ……とか?」

 宏のピンク色の妄想は光の速さを超えて果てしなく拡がってゆく。

「飛鳥ちゃんと先輩後輩プレイしていると妹の美優樹ちゃんに目撃されてそのまま姉妹プレイに雪崩れ込んで、それを知った夏穂叔母さんが姪と一緒に身を差し出して毎夜濃厚な4Pエッチしていると本妻六人が嫉妬に駆られて乱入、くんずほぐれつの10Pに……♪ な~んてね♥」

 鼻の下を長~~~く伸ばしたまま、十人の美女のフルヌードを頭に想い浮かべる宏。
 髪の長いの短いの、バストの大きいの小さいの、背の高いの低いの、そして十通りの秘裂に十個の秘孔……。

「むふっ♪ ぐふふふふふふふふふふふふっっ♥」

 ニヤケた顔で薄ら笑いを浮かべる宏に、乗客達から遠巻きに指を指されていた事など本人は知る由も無かった。

     ※     ※     ※

 その夜。
 夕食後の団欒も終わり、下宿人達が部屋に引き上げて暫くした頃。
 宏は六人の新妻達を部屋に招き、肌を重ね合っていた。

「ほのかさん。処坊庵の辛子明太子、すっごく美味しかったよ。ありがとう♥」

 騎乗位で繋がるほのかの上体を強く抱き寄せ、博多土産の礼を言う。
 ほのかは想いが通じた嬉しさに涙し、宏に縋り付いたまま身体を激しく震わせて絶頂を極めてしまう。

「千恵姉、布団からお日様の匂いがする。わざわざ干してくれたんだね。ありがとう♥」

 対面座位で繋がったまま、両手を背中に回してギュッ、と抱き締めて礼を言う。
 千恵は照れ臭そうに頬を紅く染め、ディープキスを交わしながら背中に回した両腕と両足に力を篭めて全身で縋り付く。

「優姉。今日も料理を覚えたんだってね。今度、御馳走してね。楽しみに待ってるから♥」

 後背位で繋がり、上体を背中に密着させたまま耳元で囁く。
 優は耳まで真っ赤になりながらも小さく頷き、首を回して宏の唇にむしゃぶり付くと舌を激しく繰り出して歓びの感情を爆発させる。

「若姉、いつも美味しい料理をありがとう♥ 新しい中華鍋、使い心地が好さそうだったね」

 対面側臥位で繋がる大和撫子の柔らかな胸に片手を宛がったまま、そっと抱き寄せる。
 若菜は満面の笑みを浮かべ、切れ長の瞳をそっと閉じると薄いピンク色の唇を静かに差し出す。

「真奈美さん。白ビキニのショーツ、凄く色っぽくて似合ってるよ。でも、何も着ていない真奈美さんの方がもっと好きだよ♥」

 正常位で繋がる真奈美を優しく抱き締め、身体全体で密着する。
 真奈美は宏の足に自分の足を絡め、金輪際離さないとばかり首に回した両手に力を入れる。

「晶姉♥ ほのかさんと一緒に飛んだのが余程楽しかったみたいだね。ずっと二人で笑ってる」

 松葉崩しで繋がり、抱えた晶の左足に唇と舌を這わせつつ一日の出来事を語り合う。
 晶は腰を浮かせて密着度を上げ、抱き締めて欲しいと両腕を伸ばす。

「晶姉……みんな、愛してるよ♥」

 腰では相手と繋がりながら、空いた手は誰かしらの肉溝や乳頭に這わせ、快楽を引き出してゆく宏。
 しかし頭の片隅では、二階の下宿人達の姿が見え隠れしていた。

「飛鳥ちゃんと美優樹ちゃん、夏穂先生は今頃夢の中……なんだろうなぁ。三人一緒じゃ、オナニーも出来無いだろうし……性欲発散はどーしてんだろう?」

 などと考えていたら。

「ちょっと、ヒロ! あたしと抱き合っている最中にエロ女教師の事を考えるんじゃ無いわよっ!」

 どうして判ったのだろう、物凄く殺気の篭もった瞳で睨まれてしまった。
 おまけに。

「宏ちゃん~、今はここにいる私達だけを見なきゃ、ダメだよぉ~」

 などと、普段は寛容な若菜からもクレームが付いてしまった。

「宏……。これはもう、お仕置き決定ねっ! 覚悟なさい!」

 ポニーテールを結っていたリボンを外し、片手に持ったままにじり寄る千恵。
 その瞳は異様にギラ付いて見えるのは……気のせいだと思いたい。

「宏君、もしかして……あの三人ともセックスしたいの? 私は宏君がしたいなら構わないわ♥」

 宏の背中に引っ付いて双丘を擦り付けていた真奈美からの、何とも寛大なお言葉にハーフ美女が乗った。

「オレも、あの三人なら後妻として認めてやるぜ? ん? 後妻の意味が違う? オレ達に続いて妻になるから後妻じゃ無いのか? へ~、日本語って難しいなぁ」

 しとどに濡れた股間に宏の手を挟んだまま、長い金髪の髪を背中に払ったほのかが豪快に笑う。

「……ヒロクン。三人を愛するのは構わない。だけど、ボク達に振り分ける愛情を減らすのはダメ。今迄以上に愛情を全員に注ぐなら好い」

 宏の耳朶を甘噛みしていた優のごもっともな忠告(?)に晶と千恵は目を三角にし、若菜はすぐに破顔し、ほのかと真奈美も大きく頷いている。

「なんだか見透かされてるよな~。……ま、今はみんなをイカせるからねっ♥」

 この夜、宏は腰(と指)を動かすギアを二段上げ、燃料切れとなるまで動かし続けるのだった――。


     ☆     ☆     ☆


 ――そして今日も。
 朝食のダイニングテーブルには五目ひじきや納豆、味付け海苔や辛子明太子(博多・処坊庵の逸品だ♪)が並ぶ中、各自の目の前にはご飯と味噌汁、そして玉子二個を使った目玉焼きがそれぞれ好みの焼き方で置かれていた。

「宏ちゃん~、お醤油取ってくれる~?」

 今日も元気溌剌な声がみんなの耳朶に心地好く響く。

「ん、はいよ♪」

 この屋敷の主(あるじ)であり、六人の妻を持つ宏も昨夜のエッチ疲れも何のその。
 若菜同様、機嫌良く応える。

「ありがとうっ♥」

「……って、若菜ちゃん、フライドエッグ(目玉焼きの事だ)に醤油、掛けるのか?」

 今、初めて気付いたとばかり、ほのかが珍しそうに目を見開いた。
 一緒に暮らし始めてから約半年弱。
 相手の食べ方などまともに意識した事が無かっただけに、日本人ならではの味覚に新鮮味を覚えたのだ。

「私は昔っからお醤油派だよ~。それも、半熟の黄身の中に少量を垂らすと、すんごく美味しいのぉ~♪」

 目尻をこれ以上無い位に下げて嬉しそうに話す若菜に、女子高で教鞭を執る夏穂も同じ食べ方だと大きく頷く。

「ウチも、お醤油で食べるわよ。玉子掛けご飯にもお醤油垂らすでしょ? それと同じよ♪」

 元・担任からの支援を得たとばかり、若菜の気勢が上がる。
 しかし、西洋の血が半分流れているほのかは二人に向かい、それは違うとばかりツッ込んだ。

「おいおい、フライドエッグには塩と胡椒だろ? しかもターン―オーバーでさ♪」

 不作法にも、チッ、チッ、チッ、と箸を持ったまま手を横に振るハーフ美女。
 そんな金髪碧眼美女に、純国産美女の若菜の頬が風船のように膨らんだ。

「え~~~~っ!? ターン―オーバーなんて、黄身が固くなるからヤだぁ~。裏面を軽く焼いた、半熟のトロトロ感が美味しいの~~~~っ!」

 座ったまま、首を激しく横に振って駄々を捏ねる若菜。
 因みに、ターン―オーバーとは両面焼きの事で、片面焼きはサニーサイドアップと言う。
 漆黒の長い髪を振り乱す若菜に、こちらは波打つ金髪を背中に払ったほのかが胸を張る。

「半熟なんて、ナイフとフォークじゃ食えねぇだろ? フライドエッグの世界基準はターン―オーバーなんだぜ?」

 さも当たり前とばかり、ほのかは不確実で怪しげな情報で年下の若菜を責め(攻め?)立てる。

「あら、それは初耳だわ。詳しく聞きたいわねー」

「世界が何よぅ。ここは日本で宏ちゃんのお屋敷なの~~~っ」

 夏穂の挑発的な言葉と若菜の現実的な言葉に、ほのかの片眉が跳ね上がり、眉根に皺が寄り始める。
 それを機に、『ボクらの目玉焼き戦争(優命名)』が勃発した。

「私も塩・胡椒が好きで、昔からずっと食べてます。もっとも、黄身は半熟で、焼き方は片面ですけど」

 息巻くほのかに、味付けだけ同調したのは屋敷に於ける最年少であり、みんなからゴスロリ美少女と可愛がられている美優樹だ。
 千恵の作った目玉焼きが余程美味しいのか、小さな口なのに物凄い勢いで口の中へと消えてゆく。
 そこへ、筆頭妻を名乗る晶が参戦した。

「ナニ言ってんのかしら。目玉焼きは片面の固焼き、そして味付けは昔からソース、それも、ウースターソースと相場が決まっているでしょ?」

 ソフトウェーブの黒髪に純白のヘアバンドを纏った晶が当然の様に澄まし顔で言うと、味噌汁を啜っていた優も姉と同じとばかり首を縦に振る。
 そんな美女姉妹(しまい)に、腰まで届くロングポニーテールを揺らしつつ首を傾げた千恵がポツリと口を挟んだ。

「ウースターソース……って、ちょっと薄過ぎません? あたいらは片面をカリカリに焼いて、そこへ『とんかつソース』を垂らすのが定番ですけど」

 あたい『ら』と二人である事をアクセントで強調し、チラリと宏へ視線を向ける千恵。
 その視線の先には、ほぼ固まった黄身に濃厚な『とんかつソース』を今まさに垂らそうとしている宏の姿があった。

「えっと……その……まぁ……なんだ、俺は俺、って事で……」

 全員の視線を一身に受け、冷や汗を浮かべる宏。
 特に、晶からの突き刺さる視線が痛い。
 これまで大人しくして火の粉が掛からぬようにしていたのに、千恵のひと言で注目を集めてしまった。
 下手に何か言おうものなら、とばっちりを受ける事、請け合いだ。
 ……いや、既に渦中になっている感じだ。

「ふふん♪」

 宏と一緒の食べ方を勝ち誇ったように胸を張り、二歳年上の晶に向かってニヤリと笑う千恵。
 と、その不敵な笑みを見た晶の柳眉がたちまち跳ね上る。
 昔から宏はとんかつソース派だと知ってはいても、改めて突き付けられると面白く無いのだ。
 結果、

「ちょっと、ヒロッ! これからはウースターソースで食べなさい!」

 などと、つい居丈高に口走ってしまう。
 そんな高飛車な晶に対し、目くじらを立てた千恵が食って掛かる。

「って、何、言ってんですかっ! そんなの、宏の自由ですっ」

「いいえっ! これは筆頭妻としての命令よっ!」

「晶さん! いくらなんでも、それは横暴ですっ!」

 片手に箸を、もう片手にご飯茶碗を持ったまま千恵と晶が見えない火花をバチバチ散らしていると。

「皆さん、どうしてケチャップを掛けないんですか? こんなにも美味しいのに♪」

 固焼きにした黄身や白身が紅く隠れるほど、トマトケチャップをなみなみと掛けて頬張る真奈美に、一同顔をしかめ、一斉に小さく身を退く。
 そんな幸せそうに頬張る真奈美を横目に、栗色に煌めくロングツインテールを跳ね上げた美少女が立ち上がり、並み居る年上のお姉様方に向かって堂々と曰(のたま)った。

「みなさん! 目玉焼きは片面焼きの半熟で、味付けは醤油マヨネーズと決まってます!」

 それを聞いた瞬間、これまでの論争(?)が無かったかのように黙々と食事を続ける一同。

「宏ちゃん~、お代りは~?」

「あ、じゃぁ、軽く」

「うんっ♪」

「ほのか。今日のフライト、どうなってたっけ?」

「あぁ、今日は千歳往復だ。夕方の早い時間には羽田に戻れるよ」

「それじゃ、お二人とも夕ご飯は家(うち)で食べますね?」

「そうね。遅くとも定時で帰るから、いつも通りお願いね、千恵ちゃん♪」

「もちろん! 千歳で北海道土産、いっぱい買って来っからな♪ 本ズワイガニ、イクラに帆立、ウニ、ジンギスカンに札幌ラーメン、花畑ファームの生キャラメルにローズの生チョコ、そしてそして夕張メロン! 夕飯はこれらを肴に乾杯だぁ!」

「……って、またあたしをパシリに使う気っ!?」

「さて、今日の授業は……確か三年B組……」

「ケチャップ、美味し~♥」

「……今日あたり、ユーロを売ってみようかな。上手く行けば一千万円程、利益が出るかもしれない」

 若菜・夏穂連合対ほのかや、千恵と晶の壮絶な舌戦も本当に繰り広げていたのかと思うほど、平穏で和やかな朝食風景だ。
 夏穂、真奈美、優も、普段通り(でも視線は飛鳥と反対方向へ向けて)食事を続けている。

「……って、何で私には無反応なのよっ!」

 涙目になった飛鳥の遠吠え(?)が虚しくダイニングに響くと、妹の美優樹がボソリと呟いた。

「お姉ちゃん、流石にそれはどうかと思うよ?」

 ゴスロリ美少女の冷静、かつもっともなお言葉に、その場にいる全員が一斉に頷いた。
 その仕打ちに、飛鳥の咆哮が轟いた。

「……って、みんなが言い始めたんじゃないっ!!」


 かくして、今日も賑やかで楽しい一日が始まるのだった――。


                                  番外編~百花繚乱・了

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| 本編 | 新婚編 | 番外編 | 総目次 |

【 お寄せ戴いた御意見・御感想 】

[ あとがき ]
 長い物語を最後までお読み戴き、誠にありがとうございます。
 一年振りの番外編 「百花繚乱」 をお送り致しましたが、如何でしたでしょうか。

 今回は屋敷に集う面々の “昼間の顔” にスポットを当ててみました。
 時期的には宏達の屋敷に夏穂達三人が下宿を始めた直後――十一月中旬頃となります。
 ヒロイン達の社会人や主婦、学生としての日常を垣間見て戴ければ幸いです。


 この番外編を書き始めたのは十一月中旬でした。
 本来ならば九月頃に書き始める予定でしたが……諸事情により、ふた月半遅れての執筆開始となりました。
 幸い(?)、大まかな方向性――みんなの普段の顔を描いてみるか――だけは決まっていたので、まずはストーリーがほぼ固まっていたほのか、晶、朝食編から書き始め、残りの面々も四苦八苦しつつも何とか書き終えた次第です。
 お陰様で無事に掲載出来、ホッと胸を撫で下ろしております。

 書き上げた文字数は八万五千(四百字詰め原稿用紙二百十三枚相当)に迫り、昨年の「サンタは~」を抜いて番外編では最大の分量となりました。
 ひとり六千文字平均としても十人分で最低六万、そしてプラスアルファが加わったので当然と言えば当然ですが……正直しんどかったです。
 当初は、ひとり頭四千文字程度で考えていましたので。(笑)

 今作はレギュラーメンバーに加え、それぞれの友人や生徒、同僚達を二十名弱登場させました。
 そこで、彼ら彼女らの名前は 『とあるモノの名前(名称)』 から戴きました。
 漢字を変えたり読み方を変えたりしていますが……お判りになられましたでしょうか?
 作者の趣味が高じてのチョッとした遊び心ですので、こちらも楽しんで戴けたら嬉しく存じます。

  ヒント : 地名そのものではありません。
        登場した名前を連ねれば(特にほのか編と飛鳥編を読んで戴ければ)、何となく判るかと。 (^^ゞ
        答えは元日付の 「部屋の屋根裏♪」 内の記事にて記しておきます。


 とまれ。
 本年は多数の方にお越し戴き、誠にありがとうございました。
 来年も変らぬご愛顧を賜りますよう、深くお願い申し上げます。

 ※ 尚、新婚編は年明けの一月十五日(金)から掲載予定です。
    お待たせして申し訳御座いませんが、今暫くお待ち下さいませ。m(_ _)m


                        二〇〇九年 十二月二十五日 エルム


[ あけましておめでとうございます。 ]
九州行ったら辛子レンコンです♪ 旅行に行く度に二本は買っていきます♪
というか、私は目玉焼きは片面焼きで黄身は堅めで、味付けは塩がこだわりですwww(何か美味しんぼを思い出しましたwww
今回もほのぼのしていて面白かったです。本編、楽しみにしています。

[ あけましておめでとうございます♪ ]
きのさん
 コメントありがとうございます♪

 今作は煮麺やら辛子明太子やら目玉焼き等々、食べ物系も絡めてみました。<エロサイトなのに……。 (^_^;)
 これでヒロイン達の日常が少しでも垣間見て戴ければ幸いです。

 今年も宜しくお願い申し上げます。m(_ _)m
 

[ まてまて・・・目玉焼きの基本は??? ]
ここにも既に感想があるか・・・
実は感想の無い作品(逸品)を探してるんですが( ..)キョロキョロ
でも、まずは読んでから・・・

う~ん・・・卵焼きか・・・
これは全人類の永遠のテーマですよね(^_-)
焼き方に始まって味付け、さらには食べ方まで・・・
とある漫画もテーマにしてましたが、結局は決着をつけず・・・(つけられない!!!!)
これ程食べ方に無限の可能性を秘めたものは無いですよね(^^ゞ
私はベーシックに塩コショウ・・・って何がベーシック何だ?
そもそも目玉焼きの基本は何?って思えるくらいにいろいろ有りますね

・・・アレ?
この作品は料理番組? 航空力学? 戦略講座?
いやいや・・・ハーレム作品のばす・・・?
それぞれに精通した作者に乾杯(^_-)


[ 毎度お越し戴きありがとうございます♪ ]
草薙さん
 コメントありがとうございます♪

 わたくしは、目玉焼きは宏(と千恵)と同じ食べ方をしております。
 白身の、あのカリッとしたのが美味くて……♪
 
 拙小説(作者)をお褒め戴き、ありがとうございます♪ m(_ _)m

[ 番外編での希望あり ~~~~~-y(^,^),o0○ 。 ]
新婚編の恋風のコメントの中に、
6人4家の実家訪問里帰りについてもいづれ番外編で書いてみたいとか
ありましたね。
姉妹2組とほのかの実家は大体の想像は付きますが、
真奈美の両親は羽田のエプロンでの結婚式に出て来ただけですよね。
作者さんが書くとそれぞれがどんな風景になるのか、楽しみにしています。

[ あ”~~~~っ!! ]
しまった、目玉焼きのことスルーしてしまった
く(""0"")>なんてこった!!
しかもやっぱり草薙さんに先を越されていた(/TДT)/あうぅ・・・・

パンかご飯かにも依りますけれど、基本的には『半熟片面焼き&黄身に醤油タラリ』ですね~、
子供の時などこれだけでも生卵だけでもご飯何杯もいけました。
ここでは完全に若菜にシンクロします。
う~ん、こんな若菜と一度一緒に朝食を共にしたいものですなぁ
もちろん朝食を食べるということは前の日から一緒にいるわけで・・・
  o(・ヘ・θキーック!!☆;゚o゚)/
  ↑作者さん    ↑私          


ベーコンエッグとなるとカリカリに焼いたベーコンの塩味だけでいけます。
ウスター、とんかつ、共にソースはどうでしょ?
玉子の味しなくなるような気もしますが・・・・

ちなみに周りを見ると『醤油マヨネーズ』って結構いますよ。

もっと変わった奴ですと、『豆板醤』というのもいますし、
一番首を傾げたのが『八丁味噌』を箸先につけながら食べる奴もいました。
名古屋出身じゃない、と云うところがそいつの不思議なところでした。



[ こちらにもお越し戴きありがとうございます♪ ]
ペンギンさん
 コメントありがとうございます♪

 ヒロイン達の実家(宏にとっては義母・義父の居城!)訪問編も楽しそうですね。
 まぁ、この面々ですので、大体どうなるか想像出来ますが……。(^^ゞ

 目玉焼きは、今更ながらシンプルだけど奥が深いですね。
 執筆していても楽しかったです。

「今後、もっと料理(食事)シーンを入れようかな?」

 ……エロシーンの比重が減りそうなので止めときます。 m(_ _)m

 いつもご愛顧ありがとうございます♪ m(_ _)m
 

[ 料理は作品のスパイスです!? ]
Hがメインとしても、薬味として料理ネタは読んでるこちらも楽しいです
地理ネタ・航空ネタは箸休め、姉妹漫才は前菜に・・・・

って、そんな順番の料理、宴会、いったいこの世にあるんかい?

今後の希望;
『肉食系女子の塊10人(この時はまだお多恵さんは影すら見せなかったのですね)』に
『BBQ or 焼き肉大パーティー』を開かせたらどうなるのか?

もう一つはこの10人(+1)に鍋を食べさせたらどうなるのか?
鍋奉行、少なくとも4人は居ますね~~

この暑い時期にはモッテコイのネタになるかも知れません

つい先日、『灼熱のBBQ』と『熱帯夜のおでん』と云う暑気払いをやらかした、
南極が恋しい(??)ぺんぎんでした

[ こちらにもお越し戴きありがとうございます♪ ]
ぺんぎんさん
 コメントありがとうございます♪

 色々とお褒め戴き恐縮です♪ m(_ _)m
 確かに、屋敷のメンバーでBBQやら鍋を囲んだら……安易に戦闘シーン(!?)が想像出来てしまいますね。(^^ゞ
 しかし見てみたいような……。(^o^)

 毎度ご贔屓ありがとうございます♪ m(_ _)m
 

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