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サンタは風に乗ってやってくる~中編 サンタは風に乗ってやってくる~中編 美姉妹といっしょ♥~番外編
 
 宏への投薬を終え、自分達の遅い夕食も済ませた四人は宏が寝ている隣の部屋(客間を待機部屋にした)で炬燵に入りながら今後の段取りを話し合っていた。
 優と宏の座薬挿入シーンで暫く再起不能に陥っていた千恵も(かろうじて)復活し、妹と共に氷枕と氷嚢の交換を終えたところだった。

「宏ちゃん、熱があるから氷枕や氷嚢の氷がすぐに溶けて無くなっちゃうの~。汗も凄く掻いてて、パジャマやシーツもすぐに湿っちゃうし~」

 心配気に形好い眉をハの字に下げる若菜だが、視線は隣の部屋に向いたままだ。
 それに同調したのは優だ。

「……時々身体を拭いて、パジャマや下着を替えないと拙い。シーツの交換も必要だし、酷いようなら布団も替えないと。そして、それらを洗濯し、すぐに使えるようにしないといけない」

 宏の着替え、と言うキーワードに瞬時に反応した(瞳がキラリと光った)のは晶と若菜だが、優の刺すような視線にサッと目を逸らす。
 千恵は再び顔を真っ赤に染め、俯いたまま何やら口の中でブツブツ呟いている。
 どうやら宏のオールヌードを想像したらしい。
 優は千恵の可愛らしさに微笑むものの、残り二人の対処に眉根を寄せる。

(……お姉ちゃんに若菜さん、か。どちらもヒロクンを想う気持ちは判るけど……どうしよう)

 優は内心、頭を抱えて蹲る。

(……お姉ちゃんはヒロクンの世話を自分中心に仕切りたがっているし、若菜さんは純粋にヒロクンを想って――多少暴走気味だけどお世話したがっているし……)

 この二人に、同時に同じ作業をさせるのは甚だ危険な匂いがする。
 焚き火の隣で火薬の調合をさせ、四尺玉の花火を作るようなものだとも思う。
 優はチラリと、赤い顔でまだ呟いている千恵に視線を向ける。

(……千恵さんはヒロクンの裸に過敏に反応するから、パジャマ交換や清拭はともかく、パンツを替えたり座薬を挿れたりするのは絶対無理だろうな。だからといってお姉ちゃんや若菜さんにそんな事させると……)

 優の額にタラリと冷や汗が流れる。

(……ヒロクンの貞操、ボクひとりでは護り切れ無い)

 優の頭の中で、鼻息荒い若菜が裸に剥いた宏を羽交い締めにし、涎を垂らした姉が宏の股間に跨る絵が浮かび上がった。

(……下手したら、ホントにしそう)

 そんな事を思い描いていたら。

「ちょっと優! あんた今、なんかすっごく失礼な事、考えなかった?」

「優姉さん~、私にも理性くらい、あるよぉ~」

 その圧力で氷枕用の氷を砕けるのではないかと思える視線で睨む姉と、風船のように頬を膨らませて抗議する若菜。
 さっきはあんなにもいがみ合っていたのに、今は阿吽の呼吸で同じ突っ込みをかまして来る。
 しかも姉はともかく、若菜にまで自分の思考が伝わっていたらしい。

(……付き合いの長い双子同士って、考えが伝わるのかな?)

 優は慌てて(それでも見た目は落ち着いたままだ)首を横に振り、二人にそんな事は無いと告げる。
 しかし、姉は納得いかんと、ジト目で睨んでいる。

「……ともかく。これからは二人ひと組でヒロクンの看護をしよう。お姉ちゃんとボク、千恵さんと若菜さんで」

 優の合理的かつ実用的(と言うより一番平和的)な案に、三人はすぐに首肯する。

「あの、担当番はここにいるより宏の部屋に詰めてた方が良くありません? 氷枕や氷嚢の氷が溶けたら詰め替えないといけないし、ストーブも見てないと危ないですし。それに、宏が呼んだ時にすぐ対応出来ますし」

 完全復活した(ナース魂(?)が燃え上がった)千恵の提案に、さっそく手を上げたのは若菜だ。

「ハイッ! ハイ、ハイッ! 最初に私達が看る~」

 宏の看病を何かと間違えているとしか思えない態度に、千恵が釘を(しかも五寸釘で)刺した。

「今度、宏を襲うようなバカな真似したら、あんただけこの家(うち)から追い出すからねっ!」

「大丈夫だよ~。私がいれば、宏ちゃんも安眠だよ~♪」

「安眠が永眠にならなきゃ良いけどねっ!」

 ここに来て、ようやく普段の美姉妹(しまい)漫才(但し本人達にその意識は無い)が復活した。
 その事に優は心底、安堵する。
 いつもは二人揃えば炸裂する漫才が、今の今まで聞かれなかったからだ。
 それは二人の心に余裕が無く、切羽詰まった状態を示していた。
 長ネギの件は漫才よりも若菜の先走った暴走だし、座薬に関しても千恵が早々に退場したので千恵と若菜の掛け合い漫才はここに来てから初めてになる。

(……この二人に関しては、まずはひと安心、ってとこかな)

 心に僅かながらでも余裕が生まれれば、それを活力にどんどん前に進める。
 漫才する気力があれば落ち込んでも紛れるし、そもそも看護に集中すれば落ち込む暇も無いだろう。
 笑いは心の潤滑油だ。
 優はこの先の展望に光明を見い出した気分になった。

「それじゃ、今が丁度、二十時だから……二時間交替でヒロを看ましょう。あたし達が寝てても、何かあったら遠慮無く起こしてね」

 晶の号令ひとつ、二組の双子姉妹による本格的な看病が始まった。
 始まってはみたものの。

「あんた達、いい加減寝ないと、明日(あした)持たないわよ? でなければ、眠らなくてもいいから横になって休みなさい。それだけでも疲れが取れるから」

「それは晶さん達も同じです。あたい達は大丈夫ですから、晶さん達は寝てて下さい」

 昼間と比べ、若干やつれた千恵が微笑み、肌艶が失われた晶も苦笑する。
 日付が変わり、深夜になっても誰も寝ようとはしなかった。
 宏の事が気掛かりで、とても仮眠出来る心理状態では無いのだ。
 交代した晶と優が宏の部屋に詰めても、千恵と若菜は二枚重ねの毛布を被って寒さに耐えつつ廊下で控えているし、千恵と若菜が宏の氷枕と氷嚢を交換しようと部屋と廊下を仕切る襖を開けると、気配を察した晶と優が先回りして洗面器に氷を入れて廊下で待ち受けているのだ。

「やれやれ、仕方無い。みんなでヒロの傍に付いてて上げましょ」

 結局、四人で宏の部屋に詰める事になった。
 冷え込む廊下で起きている位なら、暖房の効いた部屋で一緒に看ていようと晶が声を掛けたのだ。

『さっき、優がストーブに給油しといたから朝までは大丈夫。洗濯は朝のうちにあたしがするから、ご飯の用意は千恵ちゃん達でお願い』

 四人は看護仕事をする時、宏の睡眠の妨げにならぬよう小声で必要最小限の言葉を交わし、あとは身振り手振りを交えて視線で意思疎通を図った。
 付き合いの長いメンバーだからこそ出来る芸当だ。
 それ以外の時間は黙って座ったまま、苦しむ宏の顔を見続ける事しか出来無かった。
 それでも四人のお姉さん達には、廊下で控えている時よりも遥かに心が安らいだ。
 時間が進むにつれ、四人にはひとつの連帯感が生まれ、最初の頃に頻発した紛争は一切見られなくなった。
 宏の看病という旗印の元、それまで自分の利害を優先した考えから一致協力へとシフトしたのだ。
 宏の風邪が二組の双子姉妹をより結びつける結果となり、夜が更け、空が白み始めてもそれは変わる事なく続けられた。


     ☆     ☆     ☆


 十二月二十一日、日曜日。
 千恵と若菜の双子姉妹にとって今日が十九回目の誕生日なのだが、昨夜から宏の家に篭り、己の誕生日の事などすっかり忘れて看病に精を出していた。

「お粥、出来たわよ。みんなの朝ご飯も出来たから、手の空いてる人から食べちゃってね」

 千恵がトレイに土鍋を載せて宏の部屋に入って来る。
 冷え込んだ廊下から部屋に入ると、まるで別世界に来たかのようだ。
 部屋の中は温かく、適度な湿り気もあるので養生するには絶好の環境なのだ。
 これもひとえに体温を測り、食事の用意や片付け、投薬はもちろん、部屋の温度や湿度の管理に氷枕や氷嚢の取替え、汗で湿った衣類の着替えやシーツの交換、果ては宏への清拭など、看病する美人ナース達(若菜命名♪)による甲斐甲斐しいお世話の賜物だ。
 晶は長い髪をアップにしているのでベテランのナースに、若菜は腰まで届く髪を首の後ろでひとつに纏めているので本物のナースに見えなくも無い。
 千恵はポニーテール、優はショートヘアそのままの髪型で過ごし、こちらも気分は白衣の天使になりきっている。

「それじゃ、優はヒロが食べてる間に食事を摂って、その後、投薬と着替えをお願いね。その間に三人で食事よ」

「了解です。あたいが宏に食べさせてますから、優さんは先に食事をどうぞ」

「それじゃ~、私が氷枕と氷嚢を替えて来るね~」

「あたしは食事してる間に洗濯機を回すから、若菜ちゃんは食べ終わったら干すのを手伝ってね」

 息も合ったコンビネーションで手際好く物事を処理する面々。
 さすが基礎能力が高く、宏の歳の数だけ付き合って来ただけはある。
 このまま本物のナースに昇格させても(たぶん)通用する仕事振りだ。

「宏、起きられる?」

 枕元に膝を付き、顔を寄せて具合を確かめる千恵に、宏は赤い顔のまま薄っすらと目を開けた。
 千恵は宏に意識がある事に、ひとまず安心する。

「今……何時?」

「朝の八時過ぎよ。宏、昨夜から十二時間以上も寝てたんだけど、調子はどう? ご飯の前に熱を計る……」

 千恵の言葉を最後まで聞かず、宏は痛む身体に鞭打って無理矢理起きようとする。
 節々は痛み、頭もクラクラして目が回りそうだが構わず身体を横にし、腕の力だけで上体を持ち上げる。
 そんな自分の身を顧みない宏の突然の行動に驚き、千恵は目を丸くする。

「って、宏っ!? な゛っ、どうしたのっ!? 何、考えてんのっ!」

 千恵の鋭い声に、その場にいた三人が何事かと緊張し、一斉に振り向く。
 そこには氷嚢を振り落とし、掛け布団をはね除けて唸りながらも何とか起きようと必死にもがく宏の姿があった。

「ちょっ、ちょっと、ヒロ! 起きちゃダメっ! まだ寝てなきゃダメよっ!」

「宏ちゃんっ! まだ治ってないよ~!」

 慌てて駆け寄ると肩を抑え、布団に押し戻す晶と若菜。
 優も動きを止めて宏の行動に目を見張っている。

「まだ熱もあるし、そんなフラフラしてる状態で何をしようと言うのっ!?」

 布団を掛け直し、相手が病人である事も忘れて責める言葉を投げつけてしまう千恵。
 宏はかすれた声で話そうとするが、背中を丸めて激しく咳き込んでしまう。

「ホラっ、言わんこっちゃ無いっ! 熱が下がるまで大人しく寝てなさいっ! 良いわねっ!?」

 世話好きの性格が前面に出た千恵は、幼馴染のお姉さんらしく子供をあやすように丸くなった背中をポンポンと叩く。
 すると、ようやく落ち着いた宏が口を開いた。

「だって……今日は……千恵姉と……若姉の……誕生日……だから……お祝い……しないと……」

 喉の灼け付く痛みを押して言ったものの堪え切れず、枕に顔を押し当てて再び激しく咳き込んでしまう。
 そんな宏に、千恵と若菜は胸が締め付けられた。
 風邪で意識朦朧としているであろう状態なのに、自分達の事を第一に想ってくれる宏の心根に激しく心打たれたのだ。

「宏ちゃん………………っ!」

「ったく……宏ってば………………っ!」

 今の今まで、自分の誕生日の事などすっかり忘れていた双子姉妹は感動の余り涙を零してしまった。
 ポロポロと涙を流す二人の様子に気付かない宏は、尚も起きようとする。

「誕……生日……プレ……ゼント……用意……して……ある……から……」

 しかし、起きようとしたところで力尽き、布団に深く沈み込んでしまう。
 それでも少し休んでは横向きになって何度も何度も起きようとする。
 壊れた玩具のように同じ動きしかしない従弟に、晶と優は言葉を無くし、ただただ呆然と立ち竦むだけだ。

「ヒロ……」

「……ヒロクン」

 二人は宏の執念に唸ると同時に、ここまで想われている美姉妹(しまい)に、ホンのちょっと、極僅かだけ、嫉妬してしまう。
 誰もが宏の行動をただ見守るだけと思われた次の瞬間、もがく宏を叱り飛ばす千恵の声が家中に轟いた。

「こっ……このおバカっ!! 今の宏から祝って貰っても、少しも楽しくないっ! こんなヨレヨレの宏からプレゼント貰ったって、ちっとも嬉しくなんかないっ! それよりもあんたの健康があたいにとって何よりのプレゼントなんだからっ、さっさと治しやがれっ、この唐変木っ!!」

 涙混じりの怒号が家を揺るがし、宏の心をも揺るがした。
 千恵の熱い想いが心に沁み渡り、同時に自分の所為で千恵と若菜を泣かせた自責の念に囚われる。
 枕元で泣いている若菜にも、ようやく気付いたのだ。
 もっとも、二人は宏の想いに感動して泣いていたのだが、宏は自分の不甲斐無さで泣かせたと思っていた。

「判った……ごめん……」

 布団に潜って素直に謝る宏に、千恵は涙目のまま微笑み、顔を寄せた。

「治ったら、一杯、プレゼント貰うからっ! だから、早く好くなってねっ」

 その温かい言葉に頷き、宏はそっと目を閉じた。


     ☆     ☆     ☆


 宏への食事や投薬、着替え、養生の環境維持など、四人による看護のルーティンワークが板に付いて来た頃。
 綺麗サッパリ忘れていた騒動の種が足音静かに、晶達ナースに忍び寄っていた。

「こんちは~っ! 宏ぃ、来たぞぉ~~~っ♪ お~~~いっ!」

「こんにちは。宏君、いらっしゃいますか? 真奈美です♥」

 ――『着飾ったほのかと真奈美が現れた! 晶の精神ポイントが二十減った!』――

 ……かどうかは不明だが、晶(と優)にとっては頭痛の種がルンルン気分でやって来た。
 千恵達の誕生日会は宏の家で正午から開催すると伝えてあったのだ。
 手には当然、千恵達への誕生日プレゼントを提げている。
 そんな休養充分、元気溌剌な二人が玄関先で大きな声を張り上げるものだから部屋はおろか近所中にその声が響き、千恵が慌てて階下にすっ飛んで行く。
 と、ものの数秒もしないうちに。

「宏ぃっっ!!」

「宏君っっ!!」

 部屋の入り口で呆然と佇む美女二人。
 ひとりは金髪碧眼で本場のスーパーモデルも裸足で逃げ出す美貌を誇るほのか。
 黒のワンピースを纏い、腰に巻いた細くて真っ赤なベルトがお洒落だ。
 もうひとりは背中の半分まで届く漆黒のストレートヘアと陶磁器のように白い肌を持つ日本人形みたいな真奈美。
 こちらは紺色のフレアスカートに厚手のセーター姿だ。
 二人共、目を大きく見開いたまま微動だにしない。
 布団に横たわり、赤い顔で大汗掻いて唸っている宏の姿にショックを受けたようだ。
 しかし、その鋭い視線は部屋にいる『なんちゃってナース(優命名)』達に注がれている。
 先日、どこかで見たような光景である。

「なんでっ! なんで昨日のうちに宏が倒れた事教えてくれねぇんだよっ! 冷てぇヤツらだなっ!」

「どうしてっ? どうしてすぐに知らせてくれなかったんですかっ! 非道いですっ!」

 二人同時に一歩踏み出し、鼻息荒く――それでも声は潜めて――晶に詰め寄る。
 目尻はこれ以上ない程吊り上り、瞳も血走っている。
 婦長(自ら命名)の晶は誰にも判らないよう小さく溜め息を漏らし、宏の邪魔にならぬよう二人を隣の待機部屋へ案内する。
 当然、二人の事を今の今まですっかり忘れていた事など、おくびにも出さない(と言うより、出せない)。
 出したら、見境無くした二人から吊し上げを食らう事、請け合いだ。

「それじゃ、若菜ちゃんはヒロを看てて。優は一緒に来て」

 晶は優を真奈美の相手とほのかへのストッパー(安全装置)に充てた。
 万が一、ほのかが暴れでもしたら優を人身御供にするつもりなのだ。

「……仕方無い。ちょっと行ってくる」

 優はようやく戻った千恵にも一声掛け、三人の後を追う。
 もっとも優にしてみれば、ひとりでとばっちりを受けたく無い姉に無理矢理連れて行かれるようなものだったが。

「おまえな――っ!」

 部屋に入るなり、碧眼を吊り上げたほのかが拳を突き付けて猛然と晶に食って掛かる。
 宏が寝ている傍で声を荒げる事を自粛していた反動だ。
 晶はその判断に内心、喝采を送った。
 まだそれだけの判断力が備わっている証明になるからだ。
 我を忘れていたなら、その場で食って掛かっていただろう。

「――――――――っ! ――――――――!!」

 怒り心頭のほのかは立ったまま思い付くまま言葉をぶつけ、己の感情をぶち撒ける。
 宏の危機を知らせて貰えなかった不満。
 知らなかったとは言え、宏が苦しんでいるのにルンルン気分でここに来た罪悪感。
 そしてつい先程、宏の容体を確かめるよりも晶達に詰め寄ってしまった己のエゴイズム。
 ほのかの心は今迄に無い位、不満と自己嫌悪で乱れに乱れていた。
 一方、真奈美も優に詰め寄っていた。

「どうして……っ」

 大きな瞳に涙を浮かべ、胸の前で手を合わせた姿で相手が先輩である事も忘れて責め立てる。
 知らせても知らせなくても好い相手かのように扱われた不満。
 知らない事だったとは言え、宏の辛さも判らず浮かれていた情け無さ。
 そして、家事が出来無いから呼んで貰えなかったのではないかという疑心暗鬼。
 真奈美の心はこれ以上無い位、不満と不安がごちゃ混ぜになっていた。
 晶と優は、相手の気が済むまで自由に話させ、落ち着いた(息切れして言葉が続かなくなった)ところで炬燵を指差す。
 腰を据えて話そうという意志表示だ。

「あの~、お茶をどうぞ」

 文句が出尽くしたタイミングを計り、千恵が緑茶を淹れて持って来た。
 炬燵に座った四人の前に、ひとつずつ置いてゆく。
 廊下で中の様子をハラハラしながら窺っていたので、少し冷めてしまったかもしれない。

「あぁ……ありがと」

「あ……、千恵ちゃん、ありがとう」

 ほのかと真奈美はお茶をひとくち啜り、深呼吸を繰り返して息を整える。
 ここまで来れば、後は晶と優の出番だ。
 千恵は安堵の表情を浮かべ、宏の元へと戻った。

「知らせなくて、ごめん」

 晶は弄っていた湯飲みを離すと居住まいを正し、まずは頭を下げる。
 怒っている相手に対し、言い訳は一切言わない。
 これが謝罪の基本だからだ。
 言い訳は相手の許しがあって初めて、口にする事が許されるのだ。
 続けて、これまでの経緯(いきさつ)や経過を包み隠さず、詳細に語って聞かせる。
 情報の共有は今後の看護を潤滑に進める為の必要最低条件でもあるのだ。
 もちろん、若菜の長ネギ騒動や一連のバトルは省いているが。

「「………………」」

 ほのかと真奈美はお茶を啜りながら、黙って耳を傾けている。
 座薬や着替えと言う単語に二人の眉がビクンと跳ね上がったが、晶は構わず話を続けた。

「はぁ~~~~~~、まずは大事にならず、よかったぁ~~~~」

 一番気になる宏の容体が判り、安心したほのかは脱力して炬燵に突っ伏し、暫くそのまま動かなくなった。
 心底、安堵したらしい。
 片や。

「そうだったんですか……。それじゃ、私がいたら逆に足手纏いになってましたね」

 こちらは寂しげに小さく笑い、がっくり項垂れる。
 いくら家事修行中とはいえ、今の自分に病人の看護はハードルが高過ぎる。
 否、それよりも幼稚園に通う女の子がオリンピックの男子棒高跳びにポール無しで挑むようなものだ。
 炊事・洗濯・掃除の出来無い人間がここにいても、みんなの迷惑になるだけだと判ったのだ。
 真奈美は今日この時ほど、家事の出来無い劣等感に苛まれた事は無かった。
 好きな男性(ひと)が苦しんでいるのに、何も出来無い、手も足も出ない自分は何なのだろうか、と。
 それなのに、そんな自分を省みずに先輩を言葉激しく責めてしまった。
 これでは宏の傍にいる資格も無い。
 真奈美は己の不甲斐無さに唇を強く噛み締めた。

「……そんな事、無い。真奈美は真奈美にしか出来無い事をすれば好いだけ。何も、ボク達と同じ事をする必要は無い」

 涙を滲ませて落ち込む真奈美の手を取り、優が普段通りの穏やかな声で励ます。

「えっ!? 私にしか……出来無い事……?」

 意外な事を言われ、顔を上げた真奈美は優と晶の顔を交互に見やる。
 今の自分に出来る事など、無いに等しい。
 だのに、自分を見つめる二人の瞳はとても温かく、そして優しかった。

「あのね、真奈美。あんた、何も出来無い、って、自分基準で計るんじゃないわよっ。あんたは無いと思っても、他人(ひと)から見れば充分備わっているモノだってたくさんあるんだから。家事なんて、後から幾らでも自然に覚えるわよ♪」

「……判らないようだから教えて上げる。真奈美の好いところは、真奈美がいるだけでその場が穏やかに和むところ。どんなに殺伐としていても、真奈美がいれば自然と人々が癒されるの。真奈美のいる場所が居心地の好い場所なの。そんな人、滅多にいない。だからもっと自分に自信持って好い」

 真奈美を見つめる二人の瞳には一切の曇りが無く、おだてたり嘘偽りを言ったりしているのでは無いとすぐに判った。
 サークル仲間でもある先輩からの言葉が、子供の頃から抱えていた真奈美の劣等感を徐々に溶かし始めた。

「なにも、今すぐご飯を作れ、とは言わないから。真奈美はヒロの傍に付いててやって。そうすれば、ヒロも悦ぶからさ。……それに、あんたも、ね♪」

 柔らかく微笑んだ晶が真奈美にウィンクする。

「……ボクは真奈美以上に家事全滅だけど、ここにいる。真奈美もヒロクンを癒す手伝いをして欲しい。ボク達だけでは力不足」

 優も微笑みながら真奈美の肩に手を置く。
 その手の温もりが真奈美の劣等感を完全に溶かし、代りに心の底から喜びが噴き上がって来る。
 自分を必要としてくれる人がいる限り、自分を卑下する事無く、あるがままの自分で好いと判ったからだ。

「はいっ、判りました! 微力ですが、お役に立ってみせますっ!」

 力強く宣言する真奈美を、三人の先輩は目を細めて頷いた。
 今迄、炬燵に突っ伏していたほのかも、いつの間にか晶と一緒に頷いている。
 後輩の深刻なコンプレックスに、見て見ぬ振りが出来無くなっていたのだ。

「あら、あんた。生きてたの?」

 情け容赦無い晶の突っ込みに、ほのかは笑って応えた。

「バカ言うなよっ。オレが死んだら、宏が哀しむだろ? それよか、オレも泊まり込みで看病に加わるぜ」

 切れ長の碧眼を煌めかせたほのかが握り拳の親指を立てる。
 OKサインでもあり、強い意思表示でもあるサムズアップだ。

「オレだって、少しは炊事、洗濯、掃除、雑用位は出来るぜ。それに、オレがいれば宏も安心するだろうし♪」

 こちらは誰も何も言わないのに自信満々だ。

「あんたがいると、ヒロとあたし達の安眠が妨げられるわ」

「……ヒロクン、具合が悪くならなきゃ好いけど」

「って、どーゆー意味だっ!?」

 二人からの突っ込みに噛み付くほのかだが、次の瞬間には大口開けて高笑いする。
 それは泊まる事を了承する、二人からの遠回しのサインだったからだ。
 そしてそのまま勢い好く立ち上がり、真奈美に視線を向ける。

「そんじゃ、まずは宏に挨拶に行こうぜ。もし寝てても顔だけは見たいしな♥」

「あ……わっ、私も泊まり込みでお手伝いしますっ!」

 真奈美は出遅れてなるものかと慌てて立ち上がり、二人の先輩に頭を軽く下げてほのかに続く。
 静かになった部屋には晶と優が残された。
 二人の双子姉妹は話が漏れないよう、顔を寄せる。

「……お姉ちゃん。ほのかと真奈美なんだけど……」

「ま、何とでもなるわよ。あの二人だって、ヒロに悪影響を及ぼすようなマネはしないでしょうし。それに、使える戦力はあった方が好いに決まってるしね♪」

 妹の言葉を遮り、楽観的に今後の展望を語る晶。
 しかし、優は構わず言葉を続けた。

「……この部屋に四人分の布団があるのは判ってる。けど、ほのかと真奈美の分の布団、ヒロクン家(ち)に余ってるの? ボク、そこまで知らないよ?」

 妹のホノボノ発言に晶は炬燵に突っ伏し、脱力して暫く動けなくなった。



「それじゃ、ちょっくら行って来るわっ」

「どたばたしてすみません。すぐに戻って来ますからっ」

 ほのかと真奈美は宏の顔を見るとすぐ自宅に取って返し、活動し易い服に着替えると替えの下着や洗面道具の詰まったお泊まりセットを携えて戻って来た。
 ほのかはデニムの膝上スカートとトレーナー姿、真奈美はジーパンとセーター姿だ。

「それじゃ、ヒロの容体が安定している今のうちに、あたし達も着替えその他を取りに行きましょ」

「あたい達も五分で戻りますっ!」

 晶と優の美女姉妹(しまい)が戻るのを待って、千恵と若菜の美姉妹も隣に建つ自分の家に着替えを取りに戻り、六人の美女は完全武装で宏の家に立て籠もる(?)態勢が整った。
 そして本日開催予定だった千恵と若菜の誕生日会は本人達の申し出により、宏の快復後に改めて行う事となった。


     ☆     ☆     ☆


「なぁ、この家(うち)に、長ネギ、あるか?」

 少し遅めの昼食を終え、投薬の段階になって宏に付き添っているほのかがみんなの顔を見渡した。
 丁度、ここには宏の様子を窺う為に全員が布団を取り囲んで座っていた。

「長ネギなんて、何に使うんです?」

 真奈美が不思議そうな顔で、ひとつ年上の金髪美人に視線を向ける。
 宏も着替えたり氷枕を替えたりした直後なので、布団に横たわったまま話に耳を傾けている。

「!! 長ネギなら台所にありますけど……どうするんです?」

 長ネギ、と言うキーワードに千恵の腰まで届く長いポニーテールが大きく跳ね上がった。
 嫌な予感に襲われ、冷や汗を垂らしながら上目遣いで恐る恐る尋ねてみる。

「……………………」

 宏は熱で朦朧とする中、これから起こりうる騒ぎに備えて目の位置まで掛け布団を手繰り上げ、優は心の中で深い溜め息を漏らす。
 みんな、昨日の長ネギ事件が頭を掠めたのだ。
 ただ、真奈美だけは何を言い出すのか興味津々に身を乗り出している。

(きっと、ヒロのお尻にネギを挿す、とか言い出して場を賑わす気よ)

(宏ちゃんのお尻に興味津々なのね~。面白いから、ノってあげましょ~♪)

 片や、晶と若菜はこのまま様子を見ようと目線で会話し、ニヤリとする。
 既にこの時点でほのかの敗北は決まったのだが、本人はそんな事も露知らず、嬉々として話を進める。
 ほのかの頭の中では、たちどころに熱を下げて宏に感謝される自分の姿が映し出されていたからだ。

「長ネギを、だな。その……つまり…………ああっ、もうっ! 昼間っから言いにくいぜっ」

 自ら話を振ったものの、年頃の女の子としてやっぱり恥ずかしいので思わず口籠もってしまう。
 そんなほのかに、千恵は心の中で「夜なら好いのかっ!」と激しく突っ込む。
 おまけに、ニヤケた顔でモジモジと身体をくねらせているので何を考えているのか判ってしまい、「だったら話振るなよっ!」とも思ってしまう。
 そんな千恵の冷たく刺すような視線を「早く言え」と言っているものと勘違いし、ほのかは照れつつも重い口を開いた。

「えっと……風邪引いた時に熱を下げるのに……だな、あ~~~、穴に……その、挿れると好いって……オレの実家のばあちゃんが言ってたっ」

 あくまで、祖母から聞いた事を強調するほのか。
 しかし、スウェーデンで生まれ育った人が日本の妖しげな風習を知っているとは到底思えない。
 きっと、ネットか何かで仕入れたニセ情報に違いない。

「穴? 穴って何よ?」

 晶がわざと、知らんフリして聞いてみる。
 しかし、笑いを堪えているので声が震えてしまい、美顔も微妙に引き攣っている。
 若菜なぞ、既に下を向いて小刻みに震えているではないか。
 そんな二人を呆れた顔で見ている優と、冷たい視線の千恵に、諦め顔の宏。

「何? まさか鼻に突っ込む、とか、首に巻く、とか……お尻に挿す、とか言わないでよ?」

「あ……いや、その……それ、だ」

「それ……って、どれよ?」

 あくまでほのかの口から言わせたい晶。
 片や、真っ昼間から妙齢の美女が口にするのもはばかられる内容に、口籠もってひとり悶えるほのか。
 と、そこへ。
 ボケに関して天下一品(?)の若菜が参戦した!

「鼻の穴~?」

「違うっ」

「じゃあ~、……耳の穴?」

「んなトコ、挿んねーよっ!」

 わざとボケ続ける若菜に本気(マジ)で突っ込むほのか。

「えっ!? そっ、それじゃ……」

 引き攣った顔でほのかの尻を指差す大根役者・晶に、重々しく頷くほのか。

「あ、あぁ。そう。つまり……」

 答えを言う直前、若菜が天才的なアドリブを発揮する。

「実は知ってるんだぁ~♪ まずは自分のお尻の穴に挿れてネギを人肌に馴染ませてから~、それから熱を下げる相手に使うんだよね~♪」

 予想外の台詞に晶や千恵、宏に優でさえ仰け反って驚いた。
 それ以前に、ほのかが一番驚き、目を見開いたまま固まっている。

「ええっ!? にっ、日本では……そっ、そう……なのかっ!? オレがネットで見た……いやいやっ、ばあちゃんから聞いたのと全然違うぞっ!? いやっ、それよか、自分に挿す……って聞いてねぇしっ!」

 自ら墓穴を掘るほのか。
 しかし、晶と若菜は素知らぬフリで話を進める。

「それじゃ、まずはほのかのお尻にネギを挿しましょうか♪ ヒロの熱を下げる為だもん、快く協力してくれるわよねー」

 ニコ目になった晶が素早くほのかの背後に移動し、たじろぐほのかを羽交い締めにする。

「あっ! えっ!? お……おいっ!」

 正座したままその場から逃げられなくなったほのかに、心底嬉しそうな若菜がどこから出したのか長ネギ片手ににじり寄る。

「ほのかさん~、ストッキングとパンツ、脱ぎ脱ぎしましょうね~♪」

 長ネギを横にして口に咥え、両手をワキワキ動かしながら妖しく瞳を光らせる若菜に戦慄を覚え、ほのかは早々に音を上げた。
 このままでは誰の目にも触れさせてこなかった股間が白日の下に晒されてしまう。
 ましてや、目の前には愛する宏がいるのだ(目が合ったら逸らされた)。
 このまま恥ずかしい姿を見せる訳にいかない。

「うっわ――――――っ! ごっ、ごめんっ! オレが宏にネギを挿したかっただけなんだっ! ネットで見て、オレがして上げたかったんだ――――――っ!!」

 涙声で叫ぶほのかに、晶と若菜は腹を抱えて大笑いし、千恵と優は笑いを押し殺して身体を震わせ、真奈美は状況が掴めず目を白黒させてポカンとしている。
 そして宏は布団の中から哀れみの目で被害者・ほのかを見つめていた。
 と、そこへ首を傾げた真奈美が遠慮がちに加わった。

「あのー、私も自分に挿すなんて初めて知りました。それって、熱を下げる人にだけ挿すんじゃ無いんですか?」

 あくまで真面目に、そして真剣に問う真奈美に、ほのかも激しく頭を縦に振って同意する。
 どうやら、この二人は本気で長ネギの肛門挿入による熱冷まし効果を信じていたらしい。

「「「「……………………」」」」

 これには晶や優と千恵、そして宏でさえ目を点にして固まってしまう。
 よもやそんな情報を今の世の中、まともに信じている者がいるなど考えられなかったからだ。

(あ……、あははははぁ~)

 ただひとり、昨日の長ネギ騒動の主役だった若菜だけは苦笑しつつ頭を掻いていた。
 さすがに、自分からその情報は嘘だとは言えない。
 言ったが最後、姉からの猛烈な突っ込み――オマエが言うなっ!――が目に見えているからだ。
 いったいどの位の時間、四対二の睨み合い(見つめ合い?)が続いただろうか。
 いち早く立ち直った優が、二人にその情報の真偽について正しく教え直す。

「……あのね、長ネギで熱冷ましって、嘘。間違い。都市伝説。そんな根拠、何処にも――医学的にも無い。テレビやネットに映し出される画像や文章、データは全て作り手の意図が付け加えられている。テレビの報道ニュースやドキュメンタリー番組と言えど台本があり、局やスポンサーにとって都合の好い演出や編集が加えられているのは周知の通り。どこぞの公式ホームページだろうが公官庁のホームページだろうが、それらの画像や言葉、文章や数字などをそっくりそのまま鵜呑みにしてはダメ」

 来日三年目のほのかにとって、優の言葉は自分の中の日本神話が崩れた瞬間となった。
 ほのかは生まれてからこの方、日本でのネットやテレビで流れる内容は全て事実だと思っていたのだ。

(はぁ~~~。ともあれ、オレの尻を晒さずに済んで好かったぁ~)

 目的も忘れ、安堵の息を吐(つ)くほのか。
 一方、日本で生まれ育った真奈美にとっても、優の言葉は初耳だった。

「メディアの見方や読み方なんて学校では一切教えて無いし、誰も教えてくれなかったわ。世の中、奥が深いわ」

 などと、自分が何の為にここにいるのか、すっかり忘れてしまう。
 そんな真奈美に、優からイエローカードが示された。

「……あのね、真奈美。自分でちゃんと物事を調べないから誤った情報に振り回される。ネットを含めたメディアに依存し過ぎると甚だ危険、と覚えておいて。それに『教えられなかったから知らない、教えてくれなかったから知らない』、は全くの無責任。一般社会では通用しない言い訳。何より真贋を見分けないといけない」

 優の厳しくも温かい教えに、真奈美は深く頷くのだった。
 片や、真奈美と優の社会勉強を尻目に復活した面々は、顔が青くなったり赤くなったりしているほのかの表情を楽しんだ。
 特に金髪碧眼美女がカメレオンの如く、短時間で顔色がコロコロ変わるなぞ滅多に見られない。
 そんな様子に、ほのかは我に返ると晶に指を突き付けた。

「おっ、おっ、おっ、おまえら~~~~っ! 知ってて欺したな――――――っ!!」

 涙目で叫ぶほのかに、微笑んだ優が止(とど)めを刺した。

「……長ネギネタは昨日、ボク達でやった。ほのか、残念でした。でも、ヒロクンの熱を冷ましたいという気持ちは賞賛に値する」

 情け容赦無い優の追い打ちに、ネギ治療を信じていたほのかと真奈美はガックリと脱力した。
 宏の尻を見損なって残念だと思ったとしても、決して顔には出さなかった。


     ☆     ☆     ☆


「それで、熱はどうなんだ? まだ下がんねぇのか?」

 夕食後、待機部屋の炬燵から足を出して休んでいるほのかが尋ねた。
 この部屋にはストーブが置かれ、少し暑い位に火が焚かれている。
 大量の洗濯物(宏のパジャマや下着、シーツや厚手の毛布など)を短時間で乾かす為にはこうする以外、方法が無いのだ。
 それに自分達のショーツやブラも、宏のパンツと重なるようにして干されている。
 健康な状態で宏が見たら、きっと鼻血モノだろう。
 ほのかの問い掛けに、正面に座る千恵と左面に座っている優が体温を記録したメモを見ながら眉根を寄せる。

「はい……。昨日の夕方に測った時は九度八分で、それ以降、三十九度台後半を行ったり来たりしてます。夕食前に測ったら九度九分でした」

「……薬の効果が出ていない、って訳じゃない。実際、頭痛や咳はだいぶ収まっているし、関節の痛みも和らいでいる。だから、もう少し経過を見るしかない」

「あの~、熱冷ましのお薬を別に調合して貰う訳にはいかないんですか? お医者さんに言って」

 優の正面(ほのかから見れば右面だ)に座っている真奈美が至極当然の疑問を投げ掛けるが、今度はほのかが顔をしかめ、頭を横に振る。

「風邪の発熱は生体反応……つまり風邪に対する抵抗みたいなもんだから、それを薬で無理矢理抑えると逆に好くないんだ。だからこれは宏の治癒力に頼るしかないんだ」

 優もその通りと頷くものの、自分達にはこれ以上為す術が無いという事を知らしめる結果にもなった。

「……ともかく、ボク達はボク達に出来る事をするだけ」

 優の力強い言葉に、三人は真剣に頷いた。
 そこへ、この時間、宏に付き添っている晶が入って来た。
 後ろ手に襖を閉め、優の隣に座ると集う面々を一瞥する。

「あら、どうしたの? みんな暗い顔して。拾い食いしちゃ、ダメよ♪」

「だれが食うかっ!」

「そんな卑しい事、しませんよー」

 ほのかと真奈美が打てば響く早さで言葉を返すと、晶から笑みが零れた。
 そして声を潜めて前屈みになる。

「そんだけの気力があれば大丈夫ね。いい? ヒロの前では暗い顔しないでね。看病されてるって意識があるから、あたし達に何かと気を遣ってるみたいだから。いつも通り、普段通りの態度でお願いね。多少のバカも許すから」

「……ヒロクン、ああ見えて凄く頑固。下手に大人しく寝てろ、なんて強く言うと逆に反発するから、加減が必要」

 宏には何時、如何なる時も自分の事は自分で処理する癖が付いている。
 自室の掃除や整理整頓はもちろん、身の回りの必需品なども自ら財布を持って買いに出るのだ。
 それは風邪で寝込んだ時も例外ではなかった。
 着替えや清拭など、自分の事で人の手を煩わせる事を善(よし)としないのだ。
 だからつい手助けを遠慮し、自分でしようと起き上がろうとして晶や千恵に声を高めさせてしまう事もあった。
 ましてや、自分の所為で人が嫌な思いをしたり苦しんだりしている、あるいは泣いている事を極端に嫌っている。
 今回は熱もあってまともに動けないので仕方なく身を任せているんだ、と自分で自分を納得させていた。
 晶と優は、そのような事をこれまでの経験を交えて二人の新人ナースに聞かせる。

「ったく、素直に看護されれば好いのによ~」

「でも、宏君らしい、って感じですね。侠気(おとこぎ)、かしら♥」

 ほのかが苦笑し、真奈美が頬を紅く染める。
 二人の中で、宏への想いがより募ったようだ。

「ともあれ、ヒロが治るまであんた達にも手伝って貰うからね。まぁ、無理にとは言わないからさ、手伝える時だけで好いから手伝ってよ」

 ウィンクする晶に、新人ナース達は胸を張って応えた。

「最後まで手伝うぜ! だから今、ここにいるんだし♪」

「お任せ下さいっ! 用事があれば、いつでも言って下さいっ」

 この夜から、宏の看護が六人体制に増強された。
 長い髪を持つ面々もやる気満々だ。
 晶はアップに、ほのかと真奈美は首の後ろと先端を白いリボンでひとつに纏めて気合いを入れる。
 若菜は三つ編みにして先端を白いリボンで留め、ポニーテールの千恵とショートヘアの優はそのままの髪型だ。
 しかし、人数が増えても看病の中身は少しも変わらない。
 部屋の温度と湿度を一定に保つ事はもちろん、氷枕と氷嚢の氷の具合をチェックし、溶けたら新たに入れ直す。
 湿度を保つヤカンのお湯が減れば水を補給し、ストーブの石油が無くなれば玄関まで入れに行く。
 宏がトイレに起きれば肩を貸してトイレのドアまで付き添い、その間に汗で濡れたシーツと毛布を素早く取り替え、部屋の換気も済ませておく。
 必要ならばその時に熱を計り、汗で濡れたパジャマや下着を着替えさせ、簡単な清拭も済ませて衛生管理にも気を配る。
 宏が水を飲もうと起き上がるのを押し留め、ペットボトルに挿したストローで白湯を与える。
 六人のなんちゃって・ナース(優命名)は一致協力し、本物のナース同様に愛情を込めて働いた。

「今日も二人一組の二時間ローテで行きましょ。そうすれば四時間弱、休めるから」

 晶のこの言葉も、結局は空振りとなった。
 今夜も誰も眠らないのだ。
 ただ、宏の六畳部屋に六人ものナースが詰めているとさすがに窮屈だし、何より宏が安静に出来無いので担当以外は廊下で控える事となった。

「宏のご両親の部屋からストーブを廊下に持って来ました。それと待機部屋の炬燵を廊下に出しときましたから、多少は寒さも凌げるかと思います。その代り、四人分の布団を用意してありますので眠くなったら使って下さいね。あ、洗濯物の様子を見る為、襖を少し開けておきますね」

 千恵の機転の利いたアイデアは宏をも助ける結果となった。
 夜中にトイレに起きた時、冷え込む廊下に出るだけでも相当な身体的ストレスになっていたのだが、待機部屋から流れ出す暖気と廊下にストーブがあるお陰でトイレにも多少は暖房が効いている状態となったのだ。

「昨日も、こうすれば好かったわね」

 待機中の環境が大幅に改善されて晶が大笑いし、褒められた千恵が恥ずかしそうに照れる。
 もっとも、いくらストーブや炬燵があるとは言え、廊下の床や壁からは外の冷たさがひしひしと伝わって来る。
 この地域は夜ともなると外気温は零度前後からマイナスになるのが常で、ストーブを点けた廊下でさえ十五度前後にしかならない。
 廊下は部屋ほど断熱が効いていないのだ。
 炬燵の上にはお茶道具とざるに入ったミカン、宏の体温記録が書かれた紙が置かれ、随時休息出来る形にはなっている。
 待機中の面々は厚手の座布団に座り、肩から毛布を掛けていつでも動ける態勢になっていた。
 それでも、何かしらの仕事を率先して行うので、誰ひとりとして腰を落ち着けて休む者はいなかった。

「看護環境は完璧なんだけど……あとはヒロ次第ね」

 宏の症状は悪化しないものの、まだ高熱が続いているのでナース達は安心し切れなかった。



 看病二晩目の夜が進み、時計の長針が何周かした頃。
 窓の外では目映い閃光が走ったかと思うと耳をつんざく雷鳴が轟き、強い北西の風が大木を揺らす音と電線を唸らせる音が絶え間なく聞こえて来る。
 そして、霰(あられ)が窓を激しく叩いていたかと思うとほんの数分間、筋状になった雲の切れ間から月が覗いたりもする。
 この時期この地域特有に見られる、激しい雷雨を伴う冬の嵐だ。
 宏の暮らすこの街ではここ数日間、このような悪天候に見舞われていた。

「なぁ。もしも……もしもだぜ? 万が一、あり得ないけど……仮に、だ。もし、このまま宏の熱が下がらなかったら……どうなるんだ?」

 ほのかは風の音や雷に負けない声で炬燵に入っている面々に問い掛ける。
 濃密な看病をしているにも係わらず、少しも熱が下がらない宏の状態にいたたまれなくなったのだ。
 この時間、待機場所となっている廊下には晶、千恵、真奈美が休んでいた。

「こらっ! そんな不吉な事、考えるんじゃないっ! ヒロは必ず治るっ。あたしが治してみせるっ!」

「そうですよ、ほのかさん。宏はきっと治ります! だから安心して下さい」

「ほのか先輩、そんな弱気じゃ困ります! それじゃ、宏君が可哀想ですっ」

 すぐに晶、千恵の力強い声と真奈美の叱咤が返って来る。

「あ、いや、ごめん。つい、そんな事が頭に浮かんだモンだからさ。悪気は無いんだ。ただ……」

 頭を掻きながらほのかが小さく頭を下げるが、瞳の色は沈んだままだ。
 普段は澄み切った碧色の瞳なのだが、今は心なしかくすんで見える。
 そんな沈みがちなほのかの言葉を晶が引き継ぐ。

「まぁ、そうね。安静にして丸一日経ってるのに、熱が少しも下がらないのはチョッと心配だけど……」

 晶の形好い眉も八の字に下がる。
 宏は、量は少ないものの毎食お粥をきちんと摂っているし、座薬もちゃんと挿れている。
 適度に水分も摂っているし、寝ている環境もベストの状態だ。
 だのに、どうして熱が下がらないのかが判らない。
 千恵も同じ考えだと言わんばかりに、眉根をしかめて頷いている。
 そんな苦悩する三人に、真奈美が小さく首を傾げた。

「あの、私、どこかで聞いたんですけど……。男の人が風邪とかで高熱が続くと、その男性(ひと)の代で家系が絶たれる、とかなんとか。……これって、どういう意味なんでしょう?」

「? なんだ、それ? 初めて聞くけど、どういう意味だ? 日本にはそういう伝説でもあるのか?」

「はぃい~~~!?」

 来日して日の浅い――それでも三年経っている――ハーフのほのかはともかく、生粋の日本人である真奈美が本気で、かような噂を信じている事が晶には驚きだった。
 思わず声が尻上がりになってしまう。

「………………」

 そんな真奈美の言葉に、千恵は顔を紅(あか)くして俯いた。
 どうやら男の高熱伝説(?)云々を知っているらしい。

「あ~~~、それは、つまり、その~~~~」

 頭の中でどうやって説明しようかと考えていたら、晶自身も恥ずかしくなってきた。
 それでも、何も知らない真奈美とほのかは、今か今かと瞳を輝かせて答えを待っている。
 廊下に漂うこれまでの重々しい雰囲気が、いつの間に妖しげな雰囲気に変りつつあった。

(ったく~、何であたしがこんな変な説明しなきゃいけないのよ~~~)

 晶はこの場に、自分と同じく博学な優を呼ぼうかと本気で思った。
 こんな事、うら若き乙女が口にする事では無い(なら、優なら好いのかと苦笑した千恵から突っ込まれた)。
 しかし、こんな事で宏を看ている優をわざわざ呼び出す訳にはいかない。

「んとね、つまり……」

 晶は出来るだけ冷静に、嫌らしくならないように説明する。

「真奈美が言っているのは、高熱が続くと精子の繁殖力が失われて子供が出来無い身体になる、子供が出来無いから本人以降の家系が途絶える、って意味よ。まぁ、これは明らかな嘘……」

 人の話を最後まで聞かず、真奈美は満足そうに頷く。

「へ~~~、そうだったんですかぁ。なるほど、勉強になりますね」

 真奈美は納得したようだが、金髪碧眼のハーフ女が妖しく目を光らせた。

「え゛っ!? それって……つまり……」

 目元を赤く染め、裏返った声で叫ぶように曰(のたま)った。

「危険日に係わらず膣内射精(なかだし)し放題、って事かっ!」

 性に関して思いのほか純情なほのかにとって、これが精一杯のボケだった。
 宏の熱が下がらず、悪い方、悪い方へと向かう己の思考と重苦しい雰囲気に耐え切れなくなり、一世一代の大博打を打ったのだ。
 すると狙い通りに、それまでのシリアスな空気が一転、違う空気に取って代わる。
 しかし、ほのかの胸の内を知らない面々は当然の如く目を剥いて一斉に突っ込んだ。

「このっ……ドアホッ! 話は最後まで聞けっ!!」

「ほのかさん、最低~~~~」

「ほのか先輩……宏君に対して、いつもそんな事考えてたんですかぁー?」

 晶の、放射能漏れや事故を繰り返す日本の原発の如く、近寄り難い危険な視線。
 千恵の、食の安全を蔑ろにする企業を斬るが如く、それまで築いた信頼を全て取り消す瞳。
 そして真奈美の、素質も能力も無い(おまけに国際会議で泥酔し、漢字すら読めない)政治家を蔑視するが如く、苦笑とも冷笑とも取れるジト目。

「あ……あれっ?」

 誰も笑わないし、それどころか殺気立っている。
 どうやらボケるタイミングを間違え、思いっ切りスベったようだ。

(なっ、なんでだよーっ! オレはただ、若菜ちゃんのボケを真似ただけなのに~~~っ!)

 本人が聞いたら「年季が違うもん♪」と鼻高々に言いそうだが、それはさておき。
 ほのかが心の中で悲鳴を上げたその時。
 聞き慣れた(でも異様に低い)声が頭上から降って来た。

「……ほのか、もう帰っていいよ。……ううん、スウェーデンに帰って。金輪際、ヒロクンの傍に……日本に来ないで」

 首を上げると、そこには氷枕と氷嚢を手にした優が襖を開けて立っていた。
 ほのかに向けられた視線はメデューサそのもので、千恵なぞまともに見て一瞬で固まってしまった。
 真奈美も優のいつにない殺気に、指一本動かす事が出来無い。
 どうやら、声高に話していたお陰で宏の部屋の中まで話が筒抜けだったらしい。
 外の嵐もいつの間に収まり、辺りは静寂な夜に戻っていたのだ。
 宏は布団の中で恥ずかしげに顔を紅(あか)らめ(発熱による赤とは違って見える)、若菜はほのかのボケを肯定する顔付きになっているのが何よりの証拠だ。

「……真奈美。お姉ちゃんの話はあくまで都市伝説。正確には、男性が睾丸炎を起こしていない限り、高熱が続いても何ら心配は無い、って事。出所不明の情報を鵜呑みにして振り回されないように」

 やんわりと、しかし二度目の注意を受けた真奈美は壊れた人形のようにカクカクと首を縦に振る。
 次にイエローカードを貰ったら退場処分に加え、数日間の面会謝絶になる事、間違い無しだ。
 片や、一発でレッドカードを突き付けられたほのかは火消しに躍起になっていた。
 ほんの軽い気持ち(でも半分以上は本気♥)で発した言葉が、ここまで不評を買うとは思わなかったのだ。

「あ、いや、これはホンの冗談、場を和ませるジョークだってばっ! なっ!? 暗い雰囲気が一気に明るくなっただろっ? なっ? なっ?」

 四人の冷めた視線を一身に浴び、滝のような冷や汗を流すほのかに、優が仕方無いね、とばかり小さく溜め息を吐(つ)いた。

「……だったら、これに今すぐ氷を入れて来て。それで許してあげる」

 優は手にしていた氷枕と氷嚢をほのかに渡す。
 深夜、火の落ちた台所で氷を砕き、素手で扱うには根性がいる。
 厳冬下の看護の中では、一番辛い作業なのだ。
 たとえ相手が宏であれ、冷たくて辛いのは一緒だ。

「あぅぅ……、判った。バカ言ったオレが悪かった。行って来るよ」

 博打に破れ、炬燵から立ち上がったほのかは萎れたまま階段を下る。
 そんな哀愁漂う背中を見送りつつ、優は自分の手を氷水に浸さずに済んで上機嫌だった。


     ☆     ☆     ☆


 若干、ドタバタもあったが宏の看護は滞りなく行われ、時計が午前三時を過ぎた頃。
 宏に付き添っていた千恵と真奈美が部屋から出て来た。

「宏、今は熟睡してるわ。薬のお陰で咳き込む事は殆ど無いし、汗も一時期より掻かなくなったから峠は越したみたい。……まぁ、昨日よりはひと安心、ってトコかしら」

「宏君、だいぶ落ち着いて来てるみたい。熱が少しずつ下がって来てる所為か、うなされる事も無いし、寝顔も穏やかなの」

 千恵は若菜の隣に、真奈美は優の隣に座って報告する。
 小さめの炬燵の中は十二本の美脚で占められ、足を真っ直ぐに伸ばせなくなった。
 優も宏の体温を記録した紙を前に、小さく笑みを零す。

「……うん、昨日からの数字と三時間前に計ったのと比べると確実に下がってる。この調子なら……明日の昼過ぎには三十八度を切る位にはなるかも」

 みんなの描く希望的状況が現実味を帯びて来た事で、六人のナースから安堵の息と心からの笑みが漏れた。
 と、ここで俯いていたほのかが小さく笑い出した。

「ん? ほのか? どうしたの、急に笑い出して――」

 晶の訝しむ声に、ほのかは顔を上げると碧眼に浮かんだ涙を指で掬った。
 これにはその場にいる者全員が目を疑った。

「――って、何、泣いてんのよっ!?」

「ほのか先輩? どうしたんですか? 目にゴミ、ですか?」

 驚く面々(除・真奈美)に向かい、ほのかが震える声で吐露する。

「いや、あのな。宏が快復に向かってる、って聞いたら、何だか嬉しくてさ。このまま熱が下がらなかったらどうしよう、とか、このまま正月越しても治らなかったらどうしよう、とか、悪い方、悪い方へと考えが行きそうになってたからさ。それが逆になって嬉しくて……。心底、好かったー、って思ったら、思わず涙が出ちゃったんだ」

 切れ長の澄んだ碧眼からは止め処もなく涙が頬を伝い、それはこの世で最も優麗な河となった。
 ほのかは拭う事もせず、ただただ宏の快復を喜んでいた。

「ほのか……あんた……っ」

「……ほのかにも、優しい心がある事が判って、好かった」

 晶は感極まって言葉に詰まるが、優は軽いジャブを食らわせる。
 しかし、その瞳は今迄に無い位、優しい光りを湛えていた。
 そして、その視線のまま、今度は真奈美を捉える。

「えっ!? 私……ですか?」

 戸惑う真奈美に、優が大きく頷く。

「……真奈美も、好く頑張った。ボク達をいっぱい手伝ってくれた。真奈美が傍にいたから、ヒロクンも喜んでた」

「そんなっ! 私……私は……」

 真奈美のちょっと垂れ目がちな大きな瞳に、ひと雫の涙が浮かんだ。
 宏に喜んで貰えた、認めて貰ったと思った瞬間、嬉しさの感情が爆発したのだ。

「私なんて……看護らしい看護は全然出来なくて……」

「……ボクが最初に言ったでしょ。真奈美にしか出来無い事をすれば好い、って。真奈美はそれを守ってくれた。そして充分、応えてくれた。寝る前にヒロクンが言ってた。『真奈美さんに来て貰って助かった』、って」

 卑下する言葉を遮り、宏からの言葉を伝える。

「っ!! 宏君が……そんな事をっ! ……うぅっ……ううっ」

 真奈美は、病床にありながら新参者の自分を気遣ってくれる宏の想いに感動し、好きになって本当に好かったとしゃくり上げた。
 真奈美の桜色に染まった頬を銀の河が流れ、それはこの世で最も清麗な河となった。

「宏って、いつの間にか、みんなの心に深く根付いているんですよね」

 千恵も瞳を潤ませながら、これまでにない笑みを浮かべた。
 宏の完治が見えて来たので諸手を挙げて悦びたい心境なのだ。
 同時に、自分がどんなに悪い状況であっても他人を思い遣る心根に改めて惚れ直していた。

「みんな、宏ちゃんの事を第一に想ってるもんね~♥」

 若菜がニコニコしながら、姉の補足とばかり自分達の想いを語り出す。
 普段は天然な部分もあるが、宏との事となると途端に頭が冴え渡るので不思議だ。

「晶姉さんと優姉さん、姉さんと私って、宏ちゃんが生まれた時から……」

 晶と優は四つ年上の従姉として、千恵と若菜は家が隣同士の二つ年上の幼馴染としての付き合いだ。
 宏が幼稚園に入る頃には既に四人の心の中には宏がいて、それは歳を重ねても何ら変る事は無かった。
 友人からは奪っちゃえ、とか、抜け駆けして告白しないの? など言われる事も多々あった。
 しかし、それぞれの想いが痛いほど判るので抜け駆け出来無いし、しようとも思わなかった。
 奸計を計るなどもってのほかだし、その程度の自制心も持ち合わせている。
 第一、謀(はかりごと)が宏にバレたら即刻、恋人あるいは妻候補から脱落する事が目に見えているし、そんな事をして宏に嫌われる事を何よりも恐れた。
 誰かを蹴落とすと言う事は、自分が蹴落とされても文句は言えない立場になる事を意味する。
 そんな、血で血を洗う真似は誰も望んでいないし、したくもない。
 それは取りも直さず、宏が望まないからだ。
 宏が望まないなら、自分達も望まない。
 だったら、お互いの気持ち――宏を想う気持ちを認めれば好いのだ。
 元々、宏抜きでも仲の好い双子姉妹同士なので泥沼化する争いは一切起こらないし、起きようも無かった。
 たまに(いつも?)、相手を牽制する言葉や態度が出ても本気では無く、むしろ双方の絆を深めるコミュニケーションとしての意味合いが強かった。
 想いを口にせずとも互いが互いを認め、尊重した上で宏に選んで貰う――。
 それが晶と優の美女姉妹と千恵と若菜の美姉妹の、昔からの不文律であり、暗黙の了解だった。

「でも~、今年の秋から――」

 ほのかと真奈美が加わり、宏争奪戦が一気に表立って来た。
 普通なら危機感を抱いた旧知の女四人で新たな女を排除し、その上で宏を奪い合うのだが、この四人は違う。
 あくまで自分達の中心は宏であり、宏を慕う数がどれだけ増えても自分達はいつも通りに過ごすだけの態度を貫いている。

「――って訳なのよ~♪」

「おまえら……やっぱ、変わってるよな」

 若菜の話を聞き、豪快に(深夜なので形だけ)笑うほのか。
 ほのかはこれまで、隙を見ては宏をみんなから奪おうと考えていた。
 自分の魅力で宏を堕としてみせる、と。
 しかし、その考えは間違っていたと、今この時、ハッキリと判った。
 自分が奪うのではなく、宏に選ばれるように努めるべきだ、と。
 ほのかの心は昨日よりもずっと軽く、そして、より宏への想いで満たされていった。

「それって……究極の恋愛ですね♪」

 真奈美が胸の前で両手を合わせて呟く。
 そして思った。
 自分が好きになった相手に認めて貰わねば、先には進めない、と。
 認められる努力をしないと、みんなから置き去りにされてしまう、と。
 今の所、こんな自分でも晶達の輪に加わっていても問題無い事が判り、ひと安心する真奈美だった。

「何だかんだ言っても、やっぱりヒロあってのあたし達なのよね~♥」

「……ヒロクンの懐の広さ、深さ、そして強さは高校生の男の子とは思えない。将来どこまで大化けするか楽しみ♥」

 晶は目元を、優は頬を紅く染めて瞳を潤ませる。
 それは見る者全てが判る、恋する乙女そのものの顔だった。


     ☆     ☆     ☆


 十二月二十二日、月曜日。
 宏の看病を始めてから三日目にして、ようやく目に見える変化が現れた。

「どれ? ……八度三分、か。うん、昨日より一度以上、熱が下がってるわ♪ この調子なら、昼はちゃんと起きて食事が摂れるかもね♪」

 体温計の示す数字に顔を綻ばせたのは千恵だ。
 二晩連続の貫徹にも係わらず、その表情は明るい。
 症状のもっとも重かった時は横になったまま、ひと口かふた口食べるのがやっとの状態だったので、それと比べれば格段の快復具合と言える。
 宏の快復が、千恵の心と身体を軽くさせているのだ。

「氷嚢はもう無くても大丈夫ね。氷枕は……念の為、残しておくわね。冷たかったら、もっとタオルを巻けば好いからさ」

 布団に横たわる宏を見下ろしながら、千恵が手際好く氷嚢を片付けてゆく。

「ありがとう、千恵姉」

 宏の声も掠れてはいるがしっかりとしており、前日までの無理矢理絞り出したかのようなしわがれた声に比べたら劇的に快復している。
 顔色もこれ迄の土気色から赤みを帯びた肌色に戻りつつあり、これも千恵の心を軽くする一因となった。

「何だか一杯、迷惑掛けた……んぐっ!?」

 寝たままの宏の唇に、立てた人差し指を押し当てて言葉を封じる千恵。
 その瞳には怒りの炎が宿っていた。

「こらっ! あたい達は少しも迷惑だとか感じて無いからっ! あんたは病人なんだし、あたい達が看るのは当り前でしょっ! いいっ? 今度そんな台詞吐いたら容赦無くぶっ飛ばすからねっ!」

 千恵の柔らかくて温かい指が唇に触れ、宏はその感触に身体中の全神経が集中してしまう。
 ただ、ぶっ飛ばす、と言うフレーズだけが耳に残った。

「あ……、ご、ごめん」

 我に返った宏は取り敢えず謝る。
 面倒見が好く姐御肌の千恵なら、相手が病人だろうが何だろうが本気で殴りかねない。
 ここは大人しく従うのが吉だ。

「わっ、判れば好いのよっ。……さっ、さて、もう少しで朝ご飯出来るからねっ」

 そう言い残し、千恵は早足で部屋を出る。
 その顔は耳まで真っ赤になっていた。

「千恵姉、慌てて出てくこと無いのに。……うん、今度から怒らせないように気をつけよう」

 全く自覚の無い宏。
 ここまで鈍いと、もはや罪だ。
 片や。

(やだっ、思わず宏の唇に触れちゃったっ! ……でも、これ位は好いよねっ♥)

 廊下で立ち竦み、宏の唇が触れた人差し指の部分に己の唇をそっと宛がう千恵。
 その瞬間、これまでの疲れが一気に霧散するのが判った。
 同時に鼓動が跳ね上がり、胸が温かく、そして心地好く締め付けられる感覚に囚われる。

(宏……大好き♥)

 思わぬところで間接キスと言うご褒美を貰った千恵は、食事を運んで来た若菜に発見されるまで氷嚢を胸に抱き締めたままずっと廊下で悶えていた。



「ヒロ、お昼よ。どう? 起きられる?」

 婦長役として陣頭指揮を執っていた晶がトレイに載った食事を枕元に置き、顔を覗き込んで来た。
 その表情は昨日までの真剣な顔とは違い、とても柔らかな印象を与え、宏には本来の美しい晶の顔に見えた。

「うん、ゆっくりと動く分には大丈夫」

 体温計を渡し、ゆっくり起き上がると布団の上で胡座を掻く宏。
 そのままの姿勢で小さく肩や首を回して己の体調を見る。

「関節は痛まないし頭痛もないから、朝と比べてもだいぶ治って来たみたいだ。鼻水や咳も出ないし喉も痛まない。……ん~、若干、頭がふら付く……かな」

「まだ微熱があるからね。ホラ、八度丁度」

 ナース・晶は微笑みながら体温計の示す数字を見せてくれる。
 と、宏のお腹から小さな、そして可愛らしい音が聞えた。

「あははっ! 身体がお腹空いた、って催促するなら、もう大丈夫♪」

 大笑いした晶はレンゲを手に取ると、湯気の立ち昇る土鍋の中身を掬って宏の口へ運ぶ。

「今回はニラ玉雑炊よ。栄養もあるし、養生にはピッタリ♪ 鈍った味覚用に少し濃い目の味付けしてあるから美味しいわよ♪ ほらっ、あーん♥」

「って、晶姉っ!?」

 驚いて固まる宏を尻目に、晶は自らも口を開ける真似をする。

「ぐずぐずしないっ! あーん♪」

「あの……晶姉?」

「あ――――――――んっ!」

 最後はもの凄く殺気の篭った瞳で睨まれてしまった。

「……あーん」

 観念した宏が大いに照れながらも口を開け、晶は嬉々としてお粥を食べさせようとしたその時。

「あ――――――――っっ!! 晶姉さんが抜け駆けしてる――――――――っ!!」

 台所から他の面々の昼食を隣の待機部屋に運んでいた若菜に目撃されてしまった。
 その声は家中に響き渡り、次の瞬間には残り四人のナース達が宏の部屋に集まっていた。

「おいっ! 自分だけナニ、美味しいところを持ってくかなー!?」

「お食事のお世話は、私の仕事ですぅっ!」

 切れ長の碧眼を吊り上げたほのかが一歩詰め寄り、眉根を寄せた真奈美が頬を膨らます。

「晶さん、いつの間に……。油断も隙もありゃしないわ」

「晶姉さん、自分だけずるい~~~っ! 私もする~~~っ!!」

 腕を組んでジト目で睨む千恵に、手にしたトレイを持ったまま枕元に座る若菜。
 そしてレンゲを持ったかと思うと自分のご飯を宏に差し出す。
 今日の昼食は宏と同じメニューだったのが彼女達には幸いした(宏には不運だった)。

「宏ちゃん、あ~~ん♥ 私が作った特製ニラ玉雑炊だから身体にも優しいし、美味しいよ~~~♪」

 宏は左右からレンゲを差し出される事態となった。
 どうしたら好いのか固まっていると。

「だったら、オレも参加しないと不公平だよな♪ ほれ、宏。口、開けな。あーん♥」

「そうですよね~。私にも権利はありますし♪ はい、宏君。熱いからフーフーしてあげる♪ フ~フ~、あーん♥」

「って、みんなも!? ……しょうが無い、あたいも……。ひっ、宏。……あ、あ~ん♥」

 瞳を煌めかせたほのかと癒しの笑顔になった真奈美が枕元に座り、同じタイミングでレンゲを差し出して来る。
 そして間接キスの余韻が甦った千恵までもが照れつつレンゲを差し出して来た。
 ここで遅れを取っては致命傷になりかねない。

「……お姉ちゃん。そう言う事は独り占めしない。みんなで公平にしないと不公平。……ね、ヒロクン♪ あーん♥」

「お、俺っ!? 俺に同意求められても……っ」

 普段はブレーキ役の優でさえ、進んでレンゲを手にしている。
 宏の布団の左右には三人ずつナースが座り、目の前には六個のレンゲが差し出されていた。
 レンゲにはニラ玉雑炊が湯気を立てて美味しそうに載っかっている。

「……俺に、どうしろって?」

 宏は、以前の状態で寝込んでいる方がずっと精神的に楽で、ゆっくり休めていたかも……と思うのだった。


     ☆     ☆     ☆


「……ヒロクン、夕食が終わったら薬を挿れるからね」

 優はお茶を啜りながら、隣で少し柔らかめのご飯を食べている宏に声を掛ける。
 宏の体調は目に見えて快復し、今では普段とそう変らない食事も摂れるようになっていた。
 ただ、いきなり硬い物や刺激物、脂っこい物は胃腸がまだ受け付けないので、今夜は甘めに仕上げた麻婆豆腐がメインディッシュだ。

「私が調合したから美味しいよ~♪ 唐辛子や脂肪を抑えたから病み上がりの身体に優しいし~」

 若菜の料理の腕前は大学一年生の女の子とは思えない程、超一流だ。
 大概の料理なら、和洋中に係わらず素材から作り上げるだけの腕前を持っている。
 この三日間、宏への病人食は全て若菜の手作りによるメニューだった。

「お粥でも~、毎食毎に味を変えたり付け合わせを変えたりしないと宏ちゃんが飽きちゃうでしょ~? だから~、今が私の腕の見せ所なの~♪」

 若菜は実に楽しげに調理していたと、後に宏は聞かされたのだった。
 もしかしたら、その時だけは新妻の気分を味わっていたのかも知れない。

「あ……うん、そうか、薬がまだあるんだっけ」

 布団の上で胡座を掻いたまま顔を赤らめる宏に、一足先に食事を済ませたほのかが一歩前に進み出た。
 宏の体調が快復するにつれナースの仕事は減り、今は手隙の者が宏の部屋に揃っていた。
 布団の右側に優と若菜、左側に真奈美とほのかだ。
 晶は脱衣所で洗濯、千恵は台所で皿洗いと明日の朝食の仕込みをしているのでこの場にはいない。

「なら、今度はオレが薬を挿れてやるからさっ♪」

 切れ長の瞳を爛々と輝かせたほのかに、黒目がちな瞳を煌めかせた真奈美がほのかを肘で押し退けながら前に出た。

「私にも、直接看病させて下さいっ! お薬位、私にだって挿れられますっ!」

 ほのかと真奈美の間に目にも見える激しい火花が散り出した。
 宏は慌てて布団ごとズリ下がり、二人から距離を取った。
 このままでは、とばっちりを受けるのが目に見えている。
 と、そこへ懲りもせず(?)若菜が参戦する。

「だったら~、みんなで一緒に挿れようよ~。そうすれば、安心でしょ~♪」

 宏は内心、何で一緒!? 何が安心!? と激しく突っ込む。
 おまけに、せっかくの料理の味が途端にしなくなった。

「あ、あのー……」

 翻意を覆そうと声を掛けるものの、三人のナースは互いに頷き合い、一致団結してにじり寄る。
 既に若菜の手には座薬が握られ、ほのかと真奈美は一致協力してパジャマズボン&パンツを脱がす腹積もりらしい。
 宏はレンゲを置くと唯一の理性でもあり、常識人の優に視線を向けて助けを請うた。
 が、しかし。

「……ヒロクン、顔が真っ赤。そんなに照れなくてもいい」

 暴走娘を止めるどころか、にこやかに笑っていた。
 宏は絶望感に囚われ、思わず天井を見上げたその時。

「宏君っ、大丈夫っ!? また熱が上がったんじゃっ!?」

 宏の顔の赤さを再び熱が上がったものと勘違いした真奈美が慌てて前髪をたくし上げ、宏の額に自分の額を押し当てた。

「あっ……」

「あれ? 熱くない? えっ!? あ……」

 呆気に取られた宏に真奈美は不思議そうに瞳を瞬かせ、次の瞬間には宏に負けない位、顔が真っ赤に染まる。
 なにせ、目の前数センチのところに愛する宏の顔が(しかも超ドアップで)あるのだ。
 大きく見開いた瞳には互いが映り、しかも息遣いが顔に掛かるので二人はキスする寸前にも見えた。
 実際あと数ミリ、お互いが顎を上げれば鼻がくっ付き、そのままキスさえ出来そうだ。

「あのっ、あのあのっ! これはっ! つまりっ……、そのっ……!!」

 我に返った真奈美は座ったまま一瞬で後退り、両手をヒラヒラさせてしどろもどろになる。
 熱は勘違いで好かったが、無意識の行動とは言えここまで宏に接近したことが無かったので、心臓が壊れたポンプのようにバクバク脈打っている。

「宏君のおでこ、大きくて……ホンノリと温かくて……心地好かったわ♥」

 真奈美は状況も忘れてひとり悶えてしまった。
 一方、宏も顔を赤く染めたまま俯いてしまう。

(真奈美さんのおでこ……柔らかくて……あったかくて……花の香りがしたな)

 高校二年生の純情童貞男子には、いささか刺激が強かったようだ。
 優はそんな宏に視線を向け、僅かに瞳を見開いたかと思うと、居並ぶ面々に宣言した。

「……ヒロクンへの投薬はもう少ししてからにする。今はダメ。落ち着いてから……ね」

 その言葉に、その場にいる女性陣は首を傾げる。
 落ち着く……って、何? と。
 優は、胡座を掻いた宏の股間に視線をチラリと向け、ひと言呟いた。

「……ヒロクンは立派な男の子。そんな状態でパンツ、下げられないでしょ?」

 優の、実に楽しげな台詞に一同の視線が宏の股間に集まる。
 そこには、それはそれは御立派なオベリスクがそそり勃っていた。
 生地の薄いパジャマとパンツなので、丸い頭の形やその下に続くくびれがそのまま浮き出ている。

「はわわっ! あのっ! これはっ! ちっ、違うっ、違うんだっ!」

 今、気付きましたとばかり、慌てて枕で股間を隠し、必死の形相で取り繕う宏。
 どうやら、急接近した真奈美の美貌と額に感じる体温、そして仄(ほの)かに香る真奈美自身の匂いで無意識に愚息(?)が反応したらしい。
 なにせここ数日間、風邪で寝込んだ為に『自家発電』していないので、ちょっとした刺激でも勃ってしまうのだ。
 この現象も宏の快復度合を示すものだが、優以外はそこまで思考が回っていない。

(((……実物は見たコト無いケド、なんか立派♪)))

 宏の『男』をパジャマ越しとは言え直接目にした面々は目尻を真っ赤に染め、まだ見ぬ宏の実物を想像して妖しい気分になってしまった。

(((いつかきっと、アレを、ここに……♥)))

 太腿をもじ付かせ、処女ならではの妄想に耽る三人娘。
 片や、恥ずかしい部分をまともに見られた宏は軽いパニック状態に陥った。

(ひぇ~~~っ、見られたっ! 勃起したの、みんなに見られたっ!! これじゃ嫌われっちまうっ!)

 そんな慌てふためく宏に、終始微笑んでいる優が止(とど)めを刺した。

「……まぁ、ボクは普段の『可愛いヒロクン』も何度か見てるから平気。それに……昔と比べるとずっと成長したもんね♪」

 股間を見ながら「可愛い」とか「成長したね」と言われた宏は、無言のまま(涙目になって)いそいそと布団に潜り込むと横を向いてしまう。
 頭まで布団を被り、何やらブツブツ呟いている。

「……それじゃ、ヒロクン。薬を挿れるからお尻出して。みんなは隣の部屋に退去。……ほら、いつまでも拗ねてないで」

 ほのか達の退出を足音で確認した宏は布団を被ったまま、無言で裸の尻を外に突きだした。
 さすがにこの状況で優にパンツを下げられたくは無い。
 まさに、頭隠して尻隠さず、だ(ヒロクン意味が違う、と優に突っ込まれ、薬も突っ込まれた)。

「……それじゃ、挿れるね♪」

 毎回、実に楽し気に座薬を手にする優。
 しかし、宏の快復具合からすると今回の挿入が最後になるかもしれない。
 優は名残惜しむ気持ちを持ったまま、足の間ですっかり大人しくなった逸物をしげしげと眺めた。
 そして少し感傷的な気分に浸った所為か、心の中で思っていた言葉が思わず出てしまった。

「……やっぱり可愛い♥」

 その後、翌朝まで宏の顔を見た者は誰もいなかったという。


                                            (後編へつづく)

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[ 千恵姉&若菜、誕生日おめでとう♪ ]
更新乙です。ってか、今年最後にありえないくらいの更新速度ではないですか?お身体にお気を付けてください。
今日は、冬至ということで、カボチャもしっかりいただきましたし、ゆず湯はないですが……代わりに、蜜柑を食べて、来年も無病息災で頑張りたいと思います。
相変わらず、はっちゃけてますね~♪賑やかで、宏もおちおち風邪なんてひいてられないですよ♪早く治して、元気は姿を6人に見せてやってください。そして、治ったら……千恵姉と若菜の誕生日兼クリスマスパーティです♪それぞれ自重してた分をこの騒ぎに乗じて解放しちゃいましょうww

[ いつもご愛読ありがとうございます♪ ]
きのさん
 コメント&お祝いありがとうございます♪
 千恵と若菜も喜んでおります♪

 宏の風邪が治ったら治ったで、賑やかさに拍車が掛かりそうですね♪
 次回はいよいよ後編です。
 どのようなクリスマスになるのかは……お楽しみに♪
 

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