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サンタは風に乗ってやってくる~前編 サンタは風に乗ってやってくる~前編 美姉妹といっしょ♥~番外編
 
「……ねえ、ヒロクン。ちょっと左右の足型を採らせて欲しいんだけど、好いかな?」

 昼間の最高気温が日ごと下がり始め、街の木々が紅(あか)や黄に色付き始めた九月下旬。
 夕食を終え、宿題を片付けるべく机に向かっていた宏の元へ従姉の優が訪ねて来た。
 シャギーにしたショートヘアを揺らして小さく首を傾げるその愛らしい姿に、宏の鼓動がほんの少し、早くなる。

「え? 足……型? それは構わないけど……どうすんの?」

「……ふふっ、今は内緒。お楽しみは、あ・と・で♪」

 訝しむ少年に、目鼻立ちの整った二十一歳のスレンダー美人がニコリと微笑む。
 その笑顔は万人の男を一瞬で釘付けにするには余りある笑顔だ。
 宏は四つ年上の美女に見惚れたまま、黙って両足を差し出した――。


     ☆     ☆     ☆


「さて、千恵ちゃん達の誕生日まであと十日……か。こっちのプレゼントもそろそろ決めんといかんし、その三日後のクリスマスイブには宏とのパーティーが控えているから、こっちのプレゼントも用意せんと。ん~~~、何を贈るか迷うなー」

 吐く息は白く立ち昇り、みぞれ交じりの冷たい雨が街を濡らす中、ほのかは独りごちながら贈り物を求めて地元の駅前商店街を彷徨っていた。
 街の街路樹にはクリスマス用イルミネーションが煌びやかに飾られ、そこかしこの商店からはクリスマスソングが絶え間なく聞こえて来る。
 ちょうど夕方の時間と重なった為か、狭い歩道には帰宅する人や買い物途中の人の色鮮やかな傘の花が幾つも行き交い、真っ直ぐ歩く事が難しくなっている。

「え~っと、用意するのは宏に贈る分と千恵ちゃんへの誕生日プレゼント、そしてパーティー用の合計三つか。……あ、いや、四つだな。千恵ちゃんと若菜ちゃんは双子だから、同じようなの贈らんとまずいよな」

 指折り数えながら口コミで拡がった評判の良い雑貨店を覘いては首を捻り、無料配布のタウン情報誌に載っていたファンシーショップに立ち寄っては品定めに没頭する。

「それにしても、クリスマスパーティーで晶達へ贈るプレゼントを人数分買わずに済むのはありがたいよな。それぞれに買ってたら、あっという間に破産してたトコだぜ」

 ほのかはポケットの上から財布に手を当て、やれやれと溜め息を漏らす。
 今年から宏、晶、優、千恵、若菜の輪にほのかと真奈美が新たに加わったので、一人が六人分のプレゼントを用意すると金額がバカにならなくなったのだ。
 そこで、ほのかを含めた晶と優の姉妹や千恵と若菜の姉妹、真奈美の女性陣六人(大学では同じサークルなのだ)は先日、クリスマスのプレゼントは各自がひとつずつ持ち寄り、それをクジ引きで交換しようと話し合った。
 そうすれば、宏(こちらが本命なのは言うまでも無い)と交換用(こっちは半分遊びみたいなものだ)の二つのプレゼントで済むので財布に優しいし、それぞれに贈るプレゼントの中身で悩む事も無いので、みんな一も二もなく賛成したのだった。
 もちろん、誕生日に贈るプレゼントは別格なので、みんな別予算を組んで対処している。

「とは言え、晶と優も双子だからプレゼント費用が倍掛かるんだよな~。……ま、楽しいから好いけどさ」

 双子姉妹二組を親友に持つ身にとって、誕生日二回で四人分のプレゼントを用意するのは予算的にかなりシンドイのだが、人前では決しておくびにも出さない。

「ともかく、早いとこ決めちまわないと。……だけど、なんか品揃えがイマイチだな~。もっと、こう……インパクトのあるものが欲しいな」

 ほのかが頭を傾げる度に波打つ金髪が揺らぎ、商品棚に視線を向ける度に切れ長の碧眼が僅かに見開かれる。
 冬物のコートを羽織り、首にマフラーを巻いた金髪碧眼美女が物憂げに佇む情景は、それだけで画になる光景だ。
 百七十三センチの身長に鼻筋の通った彫りの深い小顔、シャープで細い眉とピンクに煌めく薄い唇。
 日本人はおろかスーパーモデル顔負けの美貌とバランスの取れた八頭身プロポーションを誇るほのかに、遠巻きに見つめる多数のギャラリーからは羨望と感嘆の溜め息がそこかしこから聞こえて来る。
 ほのかは日本人の父とスウェーデン人の母を持つハーフ美女なのだ。
 その姿形は母親のDNAを色濃く反映し、どう見ても純北欧産美女にしか見えない。
 唯一父親譲りの部分を探すとすれば、堪能な日本語と容姿とは裏腹の男言葉だろうか。
 そんなギャップが萌え要素となり、ほのかは大学(キャンパス)でも晶や若菜と並ぶ注目株のひとりであった。

「なんたって紅葉狩り以降、初めて宏と一緒に過ごすイベントだからな♪ ガツンと印象付けて恋人の座を確固たるものにしないと、晶達に遅れを取っちまう」

 宏と出逢い、その日のうちに恋に落ちておよそ二ヶ月。
 そろそろ宏との距離を一気に縮めたいが、二人を強固に結び付けるアイテムがなかなか見付からない。

「やれやれ、この店はハズレだな……。次行こう、次」

 しかし、初恋の相手と初めて迎えるクリスマスにほのかの足取りは軽く、上機嫌だ。
 足を踏み出す度にコツコツとブーツの小気味好い音が響き、街に流れるクリスマスソングとひとつになってハーモニーを奏でてゆく。
 気に入った品物が見付からないまま店を出ても、知らず知らずのうちに笑みが浮かんで来る。

「フフッ♪ どんなプレゼントを贈ったら宏は喜ぶかな。相手はまだ高校二年生だし、大人向けの物はまだ早いだろうなぁ。かと言って小中学生じゃ無いんだからゲームや参考書贈ってもしょうがないし。ん~~~、いっそ男性用勝負下着とかフェロモン香水とか……思い切ってオレん家(ち)の合い鍵っ! とか、色物実用系を贈ってみようか? で、これを機に大人の階段を一足跳びに駆け上がったりして……。ムフフッ、ぐふふふふ♥」

 思わず十八禁の世界へトリップするほのか。
 桃色に染まった脳内ではケモノになった宏に抵抗する間も無く押し倒され、あられもない姿で純潔を奪われる自分の姿(あくまで宏をさり気なくリードし、自分はか弱い女のフリをするだけだ)が映し出されていた。
 二重(ふたえ)の瞳はだらしなく垂れ下がり、口の端からは涎が今にも零れ落ちそうになっている。

「……おっと、いかんいかん。思わず別の世界へ行っちまうトコだったぜ」

 頭を強く振って魅力溢れる煩悩を振り払い、手の甲で涎を拭ってプレゼント選びを再開するハーフ美女。
 その表情は先程までの弛みきったそれとはまるで違い、凛々しい北欧美女の風格を醸し出していた。
 ほのかはフロアの端から端まで、建物の隅から隅まで視線を凝らし、自分の感性にヒットする品物を探してゆく。

「あっ! 好いモン見~っけ! よしっ、宏へはこれにしようっ♪」

 数あるショーケースを丹念に覘いていたほのかはとある品に目を留め、大きく破顔する。
 値段を確かめ、さっそく購入すべく店員を呼ぼうと店内を見回したその時、壁に貼られた一枚の大きなポスターが目に飛び込んで来た。
 その内容に来日三年目のハーフ美女は、一も二も無く食い付いた。

「あ……そうだっ! プレゼント交換用はこれにしようっ。これなら喜んでくれる事、請け合いだ。うん、我ながらグッドアイデア♪」

 宏の事だけが頭の中を支配し、今の今までプレゼント交換用の品物を綺麗サッパリ忘れていた事など、どこ吹く風だ。

「よし! これで宏と交換用、用意するプレゼントは全部揃ったぞ。あとは宏とのクリスマスイブを待つだけだ♪」

 納得する品物を手に入れ、誰もが心惹かれる笑顔になって店を出るほのか。
 その笑顔は、万人の男女を夢中にさせるには余りある笑顔だ。
 しかし、プレゼントを貰って喜ぶ宏の姿に萌えまくり、肝心要な部分が頭から抜け落ちている事に本人は気付けずにいた――。


     ☆     ☆     ☆


「えっと、用意するプレゼントは千恵姉と若姉にひとつずつと……クリスマスでの交換用にひとつの、合わせて三つ……か。毎年の事とは言え出費がかさむな~。でも、誕生日プレゼントはケチれないし、交換用にしたって相手は年頃の女性達だし……。あんまり安っぽいアクセサリーはどうかと思うけど、かと言ってこの店に入るのはちょっと……なぁ。ん~~~、どうしよう……」

 煌びやかな飾り付けが施され、クリスマスソングがエンドレスで流れているファンシーショップに来たものの、歩道の端で居心地悪そうに佇む宏。
 クリスマスセール真っ最中の所為か、店内は学校帰りの女子中高生やOL風のお姉さん達で立錐の余地が無い。
 そんな中へ、男の自分が割って入るには相当な勇気と死ぬ覚悟(?)が必要と思われる。

(これって……バーゲンセールのデパートやスーパーの女性下着売り場に一人で足を踏み入れるようなもんだよなー)

 十七歳の童貞少年には荷の重い――重過ぎて実行不可能なミッションに、店の入り口で立ち止まったまま思わず天を見上げてしまう。
 たとえ晶や優と一緒に来たとしても、二の足を踏んで中には入れない(入りたくても入れない)だろう。
 深く大きな溜め息が白い大きな塊となって空に立ち昇り、替わりに灰色の雲から白い粒がパラパラと落ちて来る。

「あ……、霰(あられ)が降って来た。道理で冷える筈だ」

 宏は襟を立て、首を竦めて店内を見渡す。

(夕方に来るんじゃ無かったな~。もっと早い時間……いっそ開店直後に来れば好かった。そうすれば、もっと空いてただろうに)

 激しい後悔の念に襲われるが後の祭だ。
 もっともそれ以前に、宏は何を買うのかも決めていなかった。

「去年までは小洒落の利いたキーホルダーとかお洒落なアクセサリー、流行り物のぬいぐるみなどを四人分、平日の閉店間際に人目を忍んで素早く買って済ませてたよなー。でも……」

 晶からは「今年からヒロはプレゼント交換用としてひとつだけ用意すれば好いからね」と言われていたのだ。
 詳しく聞くと、ほのかと真奈美を加えた六人分のプレゼントを買うと大赤字になるので負担軽減の為だ、との事だった。
 確かに、平凡な高校生の少ない小遣いでは六人分のプレゼントをまかない切れない。

「それぞれに贈る中身や金額で悩む必要が無くなったのは好いけど、逆にハードルが高くなった気がするなぁ……」

 今年からほのかと真奈美が加わったので、これまでの従姉と幼馴染による身内の宴会とは違う。
 安物の――ある意味妥協した品物でお茶を濁す訳にはいかないのだ。
 今年は誰に渡るのかは判らないが、贈るからには心から喜んで貰える物を贈りたいし、喜ぶ顔も見たい。

(ほのかさんは晶姉達と同い年の学生とは言え、見た目はモデル以上の容姿を誇る金髪碧眼美女だし、二十歳(はたち)の真奈美さんは見た目こそ大人しそうなお嬢様だけど、実際は熱い魂をもった熱血漢(熱血娘?)だし……)

 宏の頭の中に、想いを寄せる見目麗しき女性陣が次々と浮かんで来る。

(晶姉や優姉も二十一歳に相応しく随所に女の色気が滲み出て来てるし、今度の誕生日で十九歳になる千恵姉と若姉も日増しに女っぽくなってるし。……それに比べ、俺はまだまだ青臭い高校生のガキだしな~)

 そんな自分に、大人の女性を満足させるだけの財力やセンスがある訳無い。
 勢い、分相応の品を贈る事になるだろう、とは思っているが、それが何なのか判らないのだ。

「誕生日プレゼントにしろクリスマスプレゼントにしろ、品物を見てから決めようと思ったけど、中に入れないんじゃどうしようもないな……。はてさて、どうしたモンかなぁ。俺、あの中に入る位ならパンツ一丁で学校の中走り回った方がずっとマシだと思うぞ」

 気後れした宏の思考回路は徐々に変な方向へと向かい始める。

(ここで恥ずかしい思いをする位なら、デパートの女性下着売り場に突進して俺好みの下着をプレゼントした方がよっぽどスッキリするぞ。晶姉達アダルト三人組にはセクシーなガーターベルト一式が似合いそうだし、真奈美さんには純白シルクの下着が映えそうだなぁ。千恵姉はトップレスにスポーティーなハイレグショーツ、若姉には白い肌に映える黒の下着が好さそうだよなぁ~♥ でへへっ、うっくっくっ♪)

 女性客で賑わう店舗の真ん前で、しかも人混み行き交う歩道の只中、弛みきった顔でピンク色の妄想に耽る若い男がひとり。
 おまけに、妄想に呼応した下半身が勢い好く奮い立ち、ズボンの中から大きく突き上げている。
 これでは防寒着を着ていても勃起しているのが丸判りだ。
 ここに晶がいたら、間違いなくグ~パンチと往復ビンタのコンボものだろう。
 実際、店内にいる何人かの女性客や通行人が訝しむ視線を向けて来ている。

(おっと、いかんいかん。つい妄想しちまった。……仕方無い、今日は一旦引き上げるか。駅前の本屋で流行り物とか人気のある品物の情報を仕入れてから、明日(あした)、また出直そう)

 今後の段取りを頭の中でシミュレートした宏は、ダウンジャケットのポケットに両手を突っ込み、前屈みになると霰で白く埋まった歩道を歩き出した。


     ☆     ☆     ☆


「さて、っと。プレゼント交換用の品物はこれで好いとして、残りは宏君へのプレゼント……か」

 クリスマスの煌びやかな飾り付けが施され、そこかしこからクリスマスの定番曲が流れて来る商店街を足取り軽く、傘を差しながらルンルン気分で歩く真奈美。
 みぞれ交じりの強い季節風が容赦無く襲って来るが、心の中に宏を抱えているので少しも寒さを感じない。
 むしろ、ポカポカして温かい位だ。
 真奈美は片腕に家電量販店の袋を提げつつ、右に左に視線を走らせて宏が喜びそうな品を置いている店を片っ端からチェックしてゆく。

「うふふっ、来週は宏君と初めてのクリスマス♪ どんなプレゼント贈ったら喜んでくれるかな~」

 宏の事を想うだけで顔が火照り、自然と笑みが浮かんで来る。

「宏君と出逢って二ヶ月、そろそろ二人の仲をぐぐっと進展させたいわね。でも、ほのか先輩や晶先輩達もいるから手強いわ……。ただでさえ出遅れ感が否めないのに、このままじゃホントに恋人の輪から外れちゃう。ここはひとつ、斬新なプレゼントで一歩先んじないとマズイわね……」

 真奈美は幼少の頃から現在に至るまで、家事一切が出来無かった。
 誰かの誕生日や何かしらのパーティーに手作りケーキを贈るでも無く、手料理でもてなすなど夢のまた夢だった。
 その為、他の人よりも目立つもの、高価なものを贈って印象付ける事態となってしまうのだ。
 そんな自分が情けなくなり、昔から抱いていた劣等感が更に膨らんだのも宏と出逢ってからだ。

(宏君の周りにいる女性は優先輩を除いて全員家事が出来るのよねー。特に千恵ちゃんと若菜ちゃんの料理の腕前はプロ級だし……。このままじゃ一生、宏君に認めて貰えないわ……)

 そんな基本性能に劣る自分を鼓舞する為に、真奈美は宏に告白すると同時に女を磨くと宣言した。
 以来、料理教室に足繁く通ってはいるが、習い始めて八週間程度では目に見えて上達する訳が無い。
 裁縫も習い始めたばかりなので、宏に手編みのセーターやマフラーを贈りたくても贈れない。
 結果、今回も自分に対する歯痒さを抱えたまま買い物に走る事態となっていた。

「えっと……、今度はこっちの道ね」

 事前にチェックしておいた輸入雑貨の店や新聞折り込みの地域タウン誌に採り上げられたワンコインショップはもちろん、裏通りにひっそりと佇み、昔から個人で営んでいる骨董屋にも足を伸ばす。
 どこにどんなお宝が潜んでいるのか判らないからだ。

「宏君の好みって、どんなんかしら……? こんな事なら若菜ちゃんからもっと詳しく聞いておけば好かったわ」

 昨日、今日と立て続けに街を歩き続けたが、これ、と言う品が見付からない。
 既に陽も落ちて冷え込んで来ているし、焦りに似た感情が湧き上がる。

「んー、このままじゃ拙いわ。……ちょっと視点を替えてみようかな」

 人差し指で唇を押さえ、首をちょっと傾げながら独り言を呟く真奈美の姿を、道行くギャラリー達は横目でチラチラ窺っている。

「宏君の場合、お部屋に飾るインテリア系より、格好好い、あるいは実用的な物が好いかしら。なんたってバリバリの男子高校生だし」

 ちょっと垂れ目がちの美女が微笑む度に、ギャラリーの間からは可愛い、とか日本人形みたい、と言った声が囁かれる。
 背中の半分まで届くストレートの黒髪と陶磁器のように白い肌のコントラストが美しく、愛らしい表情と相まって見る者全てを癒してくれる。
 身長は百六十五センチと平均的だが、雪国用フード付きコートの上からでもハッキリと判る胸の膨らみと裾から伸びる引き締まった美脚がスタイルの好さを示し、男はもちろん同性からも熱い視線を向けられている。
 髪を掻き上げる仕草や頬に指を当てて考える仕草がゆっくりと優雅なので、どこぞの御令嬢のようにも見えるのだ。

「ん~~~、何か好いプレゼントはないかしら。予算はあるから、少し大人っぽい贅沢な物だって……あっ! あれだっ! あれにしようっ! あれなら持ってても困る事ないし、あればあったで使ってくれそうだし♥」

 とある店に飾られていた品物に目を留めた真奈美はショーウィンドウまで駆け寄り、値札を確認すると大きく頷いて店に入ってゆく。
 暫くして店から出た真奈美は胸に紙袋を大事そうに抱え、満面の笑顔で自宅に向かって歩き出した。

「これで全てのプレゼントをゲットしたわ。宏君、待っててね♥」

 想い人を心に描くその笑顔は、万人の男女を一瞬で癒すには余りある笑顔だ。
 しかし、宏の喜ぶ顔が脳内を独占し、大事な部分を綺麗サッパリ忘れてしまっている事に本人は気付けずにいた――。


     ☆     ☆     ☆


「ねぇねぇ、これなんかどう? 宏ちゃん、きっと悦ぶよ~♪」

「ん? どれどれ……って、おのれはナニを選んどるんじゃっ!」

「きゃんっ! いった~~~いっ」

 若菜のはしゃぐ声に振り返った千恵は妹の手に握られた物を見た瞬間、思いっ切り脛を蹴っ飛ばした。
 ただでさえ背の高い若菜がヒールの高い雪道用ブーツを履いているので、今の背丈は軽く百八十センチを超えている。
 そのお陰で身長百五十センチと小柄な千恵では妹の頭の天辺に手が届かず、代わりにスノーシューズを履いた足が出たのだ。

「あんたね――っ」

 脛を抱えてうずくまる妹に、顔を赤らめた千恵は指を突き付けて怒鳴った。

「これは宏へのクリスマスプレゼントなのっ! あんたが欲しいモノ選んでどーすんのっ!」

「はうっ!」

 やや吊り目がちの瞳を更に吊り上げ、目にも止まらぬ早さで頭頂部をド突く千恵。
 今度は簡単に手が届くので、躊躇無くグーパンチを繰り出す事が出来る。

「だから~、これを二~三日穿いてそのままビニール袋に詰めて贈れば……」

「!! こっ、このおバカっ!! なんつー事を言いやがるかな、この娘(こ)はっ! 宏がブルセラに走ったらどーするっ!!」

 千恵の怒号とブルセラと言うキーワードに、店内全ての人の視線が二人に集中する。
 若菜が手にしているのは女性用の実用下着――透け透けのセクシーショーツだった。
 若菜はクリスマスプレゼントとして、己の使用済み下着を好きな相手に贈ろうと画策したのだ。

「ったく~~~、どっからそんな考えが出るんだ、おのれはっ!?」

 妹の余りにぶっ飛んだアイデア(?)に怒りよりも羞恥心が猛烈に湧き上がり、千恵の顔は真っ赤に染まる。
 性に関して全くの初心な千恵は、耳年増な妹にいつも振り回されっ放しだった。

「だって~、この方が宏ちゃん、色々と使えるから好いと思うの。ねぇ~、姉さん♪」

 ド突かれた頭を抱えたまま、顔はニッコリ笑って問い掛ける若菜。
 そんな妹に、千恵は見るからに狼狽えた。

「使える……って、そんなん振られても、あたいは……」

 千恵の頭の中に、クロッチ部分に縦染みの付いたショーツを片手で握りしめ、そこにむしゃぶり付くと同時に股間にそそり勃つモノを激しく上下に動かすニヤケた宏の姿――もちろん全裸だ――が浮かび上がった。

「いっ、いやぁ――――――――――――――――――――っっ!!」

 両手を頬に当て、ムンクの叫びのような姿で絶叫する千恵。
 根っから純真純情な千恵は、ピンク色に染まった妄想(その殆どは妹からの洗脳だ)に思わず甲高い悲鳴を上げてしまったのだ。
 ――数分後、二人は苦虫を噛み潰したような店員によって強制退去させられたのは言うまでも無かった。

「まったく~っ、何であんただけじゃなく、あたいまでレッドカードの一発退場なのよっ! おかしいわよっ!」

「まぁまぁ、好いじゃない~。元々、あのお店にはこれと言った物が無かったんだし~」

 お気楽脳天気娘に、千恵は海よりも深い――地球の裏側まで突き抜ける深い溜め息を漏らす。

「ったく~、イブが迫ってるっていうのに……。次行くわよ、次っ!」

 雑誌から切り取ったページを頼りに、商店街を突き進む千恵と若菜。
 若菜の手には先程のショーツ……ではなく、交換用プレゼントが入った袋を提げていた。
 退場処分を食らう前に仕入れていた物だ。

「ここが最後の店よ。取り敢えず、ざっと見て回りましょ」

 二人は駅前に建つ瀟洒なビルへと入る。
 イブまで一週間を切り、冬の晴れ間と夕方の時間帯が相まった為か店内は買い物客で溢れ、人いきれで暑い位だ。
 フード付き冬用コートを脱いだ二人は右に左に視線を走らせ、好きな男性(ひと)への贈り物を探してゆく。
 千恵は真っ赤なトレーナーとジーンズ、若菜は自分で編んだセーターと裾の長い厚手のスカートと、飾らない服装ながら中身が好いのですぐに店内のあちこちから羨望の視線が飛んで来る。

「これは……確か似たの持ってたわね」

 千恵は宏の好みと過去に贈った品物を思い出しながら、ゆっくりとショーケースや陳列棚を眺めてゆく。

「あっ! これ、宏ちゃんが喜びそう~♪ ……あっちにあるのも、アブノーマルで好いかも~♪」

 若菜は直感的に目に付いた物を片っ端からチェックしてゆく。
 経験値で考える千恵と第六感で選ぶ若菜。
 見た目も性格もまるで違う二人だが、正真正銘、双子姉妹だ。
 姉の千恵は身長百五十センチと小柄だが、バスト八十四、ウェスト五十八、ヒップ八十三とバランスの取れた身体をしている。
 頭の高い位置で縛ったポニーテールの先端は腰まで届き、紫掛かった黒髪が美しい少女だ。
 手足がスラリと長く、ハッキリとした瞳と鼻筋の通った小顔を持つ八頭身美人でもある。
 姐御肌で面倒見が良く、誰からも頼りにされる十八歳のお姉さんだ。
 一方、妹の若菜は身長百七十五センチ、上から七十八、六十、八十八と、ファッションモデル並みかそれ以上のボディーを持つ美女だ。
 涼しげな切れ長の瞳が印象的で、腰まで届く漆黒のストレートヘアと雪のような白い肌のコントラストが目にも美しい和風美人でもある。
 生まれてこの方、本能と直感だけで生きているが、何故かそれが上手く行くから世の中不思議だと、千恵や宏などは常々思っている。

「あっ! これが好いかもっ!」

「あ~っ、これが好いわ~~♪」

 外観はまるで違う美姉妹(しまい)だが、双子らしく宏の事となると阿吽の呼吸で言動が一致する。
 別の場所でそれぞれ品物を探していた二人が同時に声を上げ、無意識に顔を向けたその先にはお互いがいるのだ。
 二人は自分が選んだ品物を同時に見せ合う。

「へ~~~、あんたにしちゃ至極まっとうじゃない♪」

「お~~~、さすが姉さん。実用面から攻めたんだね~♪」

 選んだ品物を交互に眺め、次の瞬間には笑い出す。

「それじゃ、会計して帰りましょ♪」

 息もぴったりな美姉妹は目的を果たし、頷き合うと家路を急ぐ。
 すっかりと陽も落ち、街はネオンサインやクリスマスのイルミネーションで彩られ、歩道を歩いているとまるで煌びやかな万華鏡の中にいるかのような錯覚すら覚える。
 おまけに、道行く人の吐く白い息がネオンやライトアップの電球に照らされ、キラキラと光って幻想の世界にいるようにも思えるのだ。

「宏ちゃん、喜んでくれるかな~」

「きっと、涙して喜ぶわよっ」

 二人は心に住んでいる男の子を想い描き、微笑み合う。
 彩られた歩道を歩く美姉妹のその笑顔は、全ての男を虜にするには余りある笑顔だった――。


     ☆     ☆     ☆


「えっと……交換用のプレゼントも買ったし、これで全部揃った……わね」

 左手に紙袋を提げた晶が頭の中で思い描いたメモ用紙を一覧し、欠品が無い事を確認する。
 晶は身長百七十センチ、スリーサイズは八十五(立派なDカップだ)、五十八、八十六と、自他共に認めるナイスボディーの持ち主だ。
 明確な意志を表わす二重(ふたえ)の瞳と細い眉、薄く引き締まった唇と肌理の細かい肌。
 緩いウェーブの掛かった長い髪は腰まで届き、目鼻立ちの整った小顔にシャープな顎のラインが美しいその姿は男女問わず見る者全てを魅了する。
 晶は隣を歩く双子の妹に目線で買い物終了を告げる。

「……ん、了解」

 優は姉より五センチ低い身長百六十五センチ、上から七十七(ギリギリCカップだ♪)、五十七、八十五の均整の取れたスレンダー美人だ。
 涼しげな目元と整った顔立ちは姉と好く似ている。
 ショートにした髪をシャギーにしているので遠目から見ると線の細い美少年にも見えるが、胸の膨らみと男ではあり得ない腰のくびれが立派な女性であると示している。
 何事も率先して物事を仕切る姉に対し、優は一歩引いた位置で状況を見定め、沈着冷静に物事を分析し判断する能力に長けている(おまけに口調も淡々と静かな話し方だ)。
 特に株の運用や外貨取引にかけては専門家をも凌ぎ、四ヶ月前に従弟である宏から預かった十万円を元手に、今ではかなりの額の利益を得ていた。

「あと、買い忘れとか、やり残しとか、何かある?」

「……ん、特に無し」

 そんな美女姉妹(しまい)はクリスマス商戦で賑わう商店街を自宅に向かって歩いていた。
 年末に向けて混み合う歩道には様々な人が行き交い、さながら朝の通勤ラッシュの様相を呈している。
 夜の帳が降りた街はイルミネーションに彩られ、肩を並べて歩く姉妹を明るく照らし出す。
 その度に擦れ違う通行人は例外なく振り返り、目線で後を追う。
 何しろ、モデル並みの容姿を誇る美女が二人も揃っているのだ。
 これで人目を惹かない訳が無い。
 おまけに、振り返る人達(特に男衆)の吐く大量の白い息が灯りに照らされた二人を幻想的に浮かび上がらせるので、美女姉妹の前方から歩いて来る者にとってはスモークの中から美女が浮き出て来るかのようにも見えるのだ。
 そんな周囲の視線を二人は全く意に介さない。
 中学以降、その美貌で注目を浴び続けたが故に、注目を集める事に慣れ切っているのだ。

「……ここまで全て順調。進行表通り。作業に一切の滞り無し。進捗率九十七パーセント」

「あんたね……もっと簡単に言いなさいよっ」

 まるで何かの研究者の如く(本人にその意識は全く無い)答える妹に、苦笑しつつも間髪入れず突っ込む晶。
 この場に宏がいたら、その絶妙なタイミングに迷わず拍手喝采を浴びせていただろう。

「……あとはメッセージカードにひと言書いて、綺麗にラッピングすれば完成♪」

 しかし、姉の突っ込みに関係無く話を続ける優。
 頭の中は愛する従弟の事で一杯なのだ。

(ま、あたしもそうなんだけどね♪)

 晶はそんな妹が愛らしく思え、ニコリと微笑む。

「それじゃ、みぞれが降らないうちにさっさと帰りましょ♪ でも、こういう品物って、替えが効かない一発勝負的なトコがあるから、贈る側としては喜んで貰えるかどうか気になって……ちょっと怖いわね」

 肩を竦めた晶は妹の持つ紙袋に視線を向ける。
 この中には美女姉妹による宏への愛が目一杯詰まっているのだ。

「……でも、ハマれば場外ホームラン級。与えるインパクトも絶大。死ぬまで……ううん、死んでも記憶と形に残る逸品になる」

「ま、そうなる事を祈りましょ♪」

「……きっと気に入ってくれる。ヒロクンはボク達の想いを無下にしない男性(ひと)♥」

 右手に提げた紙袋を大事そうに胸に抱え直し、僅かに頬を紅(あか)く染める優。
 そんな、いじらしくも可愛らしい一面を覗かせた妹に、晶は声高らかに笑い出した。

「……そんなに笑わなくても。でも、ヒロクンが喜んでくれるなら、ボクはどんな事だってしてみせる。預かった十万円を何十倍にも増やしたように」

 澄み切った瞳に宿る力強い光りに、晶は姉では無く、ひとりの女として言った。

「それは、あたしも同じ。ヒロの為なら何だって成し遂げてやるわよ。でも、優はあたしの次に、ヒロと結ばれるのよ♪」

 艶っぽいウィンクひとつ、投げて寄越す挑発的な姉に、優は負けずに言い返した。

「……いつ誰と結ばれるかは、ヒロクンが決める事。ヒロクンは淑やかな女性が好みだから、ボクにも勝算がある」

 打てば響く答えに、晶はより大きな声で笑い出す。

「そうねっ。あたし達二人でワンツーフィニッシュすれば好い事よ。このプレゼントで宏を虜に、残りの面子(特に千恵姉妹を指す)を引き離すわよっ」

 長い黒髪をなびかせ、額には白のヘアバンドを纏った晶が拳を高く掲げて力強く宣言する。
 その雄姿はジャンヌ・ダルクを彷彿とさせ、優はこのプレゼントが自分達姉妹に愛の勝利をもたらすと確信した。

「……ヒロクンの喜ぶ顔、早く見たいな♪」

「それはそうだけど……イブまであと五日、我慢しなさい。待てば待つだけ、嬉しさもひとしおだから♥」

「……ヒロクン♥」

 従弟の喜ぶ顔を想像し、美女姉妹の顔から思わず笑みが零れる。
 好きな男性(ひと)を思い描くその笑顔は、万人を見惚れさせるには余りある笑顔だ。
 しかし、晶と優の頭の中は宏で満たされ、重要な部分が綺麗に消えていた事に本人達は気付けずにいた。


     ☆     ☆     ☆


「さて、今日で二学期も終わったし、明日はいよいよ千恵姉と若姉の誕生日会だ」

 終業式を終えてからキッチリ部活をこなし、下校時間ギリギリに校門を出た宏はダウンジャケットの襟を立てて自宅に向かって歩いていた。
 空はどんよりと曇り、雨やみぞれは降っていないものの北西からの強い季節風が身に凍みる。
 しかし、明日から十八日間の冬休みとあって、宏を追い越す生徒達の表情は寒さに負けず、皆、活き活きと輝いている。

「プレゼントも用意したし、あとは寝て待つだけ……へっ、へっ、へっ、ぶぇっっっっくしょんっっ!! う゛ぁー」

 宏の大きなくしゃみに、周りの生徒や通行人が一斉に振り向く。

「うぅ~~~、寒っ! 今日は特に冷えるな。帰ったら、まずは熱いシャワーでも浴びて……ぶぇっ、へっっっっくしょんっっ! ぐぁぁー」

 寒風吹き荒む中、背中に悪寒が走った宏は立て続けにくしゃみをする。

「やべっ、誰かに風邪移されたかな。だとしたら……………………あっ! たぶん……あの時だ」

 宏は先週末、地元ローカル線のディーゼルカーに乗る事三十分の距離にある県庁所在地まで出掛け、そこでプレゼントを調達した。
 その帰りの車中、マスク無しで咳き込んでいる人がいたのを思い出したのだ。

「ヤバいと思って離れた所に立ってたけど……狭い車内だったし他にもマスクした風邪人もいたから無駄だったか……」

 そう思った途端、喉の両脇が痛み出し、頭の中でズキズキと脈打つ感じがし始めた。
 宏は手に持ったスポーツバッグを肩に掛け直し、暖を取るべく急ぎ足で家に向かった。
 しかし。

「三十九度八分。こりゃ正真正銘、立派な風邪ですな♪」

 体温計の指す目盛りに、宏の母親が何故か嬉しそうに笑う。
 宏は早足で帰宅したものの、直後に猛烈な悪寒と目眩に襲われ、そのまま崩れるように倒れ込んでしまった。

「……………………」

 一大イベントを明日に控えている宏にとっては「どこが立派やねんっ!」と激しく突っ込みたかったが、布団に力無く横たわっているので、それもままならない。
 なにせ頭の下には熱冷まし用の氷枕、額には頭痛鎮静用の氷嚢(ひょうのう)、首から下は保温の為の二枚重ねの毛布と羽布団と言う、風邪専用の完全重装備なのだ。
 それに、今の状態では指先ひとつ動かす気力も無い。
 身体の節々は痛み、喉は灼け付くような痛みで唾さえなかなか飲み込めず、高熱の所為か意識も朦朧としている。

「ま、ゆっくり養生してなさい。夕飯にお粥作って持って来てあげるから」

 宏の無言の抗議をスルーした母親は手を振りながら部屋をあとにする。
 宏も目線だけで頷き、すぐに目を閉じる。
 身体全体が鉛を飲んだかのようにだるく、今は部屋の灯りすら眩し過ぎて目を開けている事さえ辛いのだ。
 喉と頭の芯が鼓動する度にズキズキ痛み、思考もままならない。
 既に自分が呼吸に合わせて唸っている事さえも判らない。

(明日……千恵姉……若姉……誕生……早……治……ない……と……)

 霞の掛かった頭の中で千恵と若菜の笑顔を思い浮かべるが、その笑顔が歪み始めると自分の周りをぐるぐると回り出し、次第に薄くなって消えてゆく。

(千恵……姉…………若……姉…………)

 頭の中で必至に手を伸ばすものの届かず、二人の顔が消えると同時に、ここまで保っていた宏の意識がプッツリと途切れた。


     ☆     ☆     ☆


「宏!」

「宏ちゃん!」

 挨拶もそこそこに、これ以上無い位、血相を変えた双子美姉妹(ふたごしまい)が勢い好く宏の家の玄関に飛び込んで来た。
 目は血走り、鼻息荒く長い髪を振り乱すその姿は般若も裸足で逃げ出す程、鬼気迫っている。
 狭い急勾配の階段を二段飛ばしで駆け上がり、足音けたたましく廊下を駆け抜け、宏の部屋の襖に手を掛けると躊躇せず一気に開け放つ。
 とても病人の元へ訪ねる態度とは思えない騒々しさだ。

「宏っっ!!」

「宏ちゃんっっ!!」

 そこで千恵と若菜が見たものは――。
 布団の中で苦しそうに浅い呼吸を繰り返し、真っ赤な顔で大汗掻きながらウンウン唸っている宏の変わり果てた姿だった。
 その表情は顔をしかめ、眉間に皺が寄った悶絶の表情だ。

「「……………………」」

 昨夜、クリスマスツリーの飾り付けでこの部屋を訪れた時の楽しげな笑顔とはまるで違う幼馴染の姿に、ただただ息を呑む二人。
 呆然と立ち竦んだまま口をパクパクさせ、掛ける言葉が出て来無い。
 呼吸するのも忘れるほど動揺する二人に、ゆっくりと階段を上がって来た宏の母親がにこやかに微笑んだ。

「大丈夫よ、ただの風邪だから。今は熱冷ましで大汗掻いて唸ってるだけ。そのうち落ち着くから安心なさい♪」

 千恵と若菜の背後から肩に両手をポンッ、と置くものの、身長差が二十五センチもある美姉妹なので梯子を昇っているかのような手の形になってしまう。

「愚息はまだ話せる状態じゃ無いから、こっちにいらっしゃい」

 二人は手招きに従い退室するが、視線は宏に向けられたままだ。
 しかも、母親の愚息発言にも全く気付かない。
 普段なら二人同時に「そんな事無いですよぉー、立派な男性(ひと)ですぅ~♪」とすぐさま反応するのに、苦しむ宏を目の当たりにして茫然自失状態だ。
 千恵のポニーテールは力無く萎れ、若菜自慢の黒髪もすっかり輝きを失っている。
 母親はそんな二人に肩を竦める。
 今はどんな慰めを言っても無駄だと諦めたのだ。
 三人は隣室に移動し、ストーブに火を入れると座布団に腰を下ろして車座になる。
 ここは客間として使っている六畳間で家具などは無く、ゲスト用の布団などが四組、押入れに収まっているだけだ。
 宏が幼い頃は、この部屋で晶や千恵達と一緒に夏休みの宿題やお泊まり会をしたものだ。

「さっき、掛り付けのお医者に診て貰ったから大丈夫。薬も貰ったし、暫く安静にしてれば治るってさ。だから、あんた達もそんな泣きそうな顔してないで、笑った笑った。そんな顔のままあの子の前に出ると、あの子が哀しむわよ?」

 昔から家が隣同士なだけあって、宏の母親は隣家の子供を自分の娘のように扱い、宏もまた千恵姉妹の両親から息子のように扱われているのだ。

「……はい。でも、宏が倒れた、ってあたいの母から聞かされた時はビックリしました。今迄、こんな事無かったのに……」

 大きな瞳に浮かんだ一滴(ひとしずく)の涙を片手で振り払い、千恵は薄い笑みを零す。
 大事(おおごと)で無い事が判り、ひとまず安心したのだ。

「あ、そっか。お医者を玄関まで送った時に、丁度お隣のお母さんと会ったんだっけ。そこでウチの子が倒れた事だけ伝えたんだっけね」

 息子が隣で苦しそうに寝ているのに大口開けて豪快に笑う母親に、若菜もようやく薄い笑みを浮かべる。

「笑い事じゃないよ~。心臓、止まるかと思ったモン。でも、大した事無くて、ホント、好かったぁ~」

 首を僅かに傾げ、切れ長の瞳に浮かんだ涙を白くて細い指で拭う仕草に、宏の母親は内心唸りを上げる。

(こんな綺麗な娘(こ)達に想われてるあの子って、超果報者だわね~。……あっ、そうだっ♪)

 ここに宏がいたら、この母親に浮かんだ笑みの意味をいち早く悟り、双子姉妹に緊急警告を発して即刻避難させただろう。
 しかし、その突っ込み役が風邪で撃沈中だったのが、宏にとっては不幸(美姉妹にとっては幸福?)の始まりだった。

「あのね、私、これからちょっと外せない泊まり掛けの用事があるのよ、父さんと一緒に五日程。それで……」

 と、母親の言葉を最後まで聞かず、千恵が勢い込んで割り込んだ。

「任せて下さいっ! あたいが責任を持って、完治するまで宏の面倒を見ますっ!」

「私と姉さんとで宏ちゃんの一切合切をお世話しますから~、安心してお出掛けしてて下さい~」

 真剣な表情で瞳を煌めかせて力強く宣言する姉に、妹の若菜がすぐに同調した。
 二人の顔は活き活きと輝き、この家に駆け込んで来た時とはまるで別人のような顔付きになっている。
 千恵の萎れたポニーテールは勢いを取り戻し、若菜の漆黒の髪も艶が戻って、いつも通りの美姉妹になった。
 そんな二人に、思惑が見事ハマった母親は内心ガッツポーズをかました。

「それじゃ、あとは宜しくね。台所とか部屋の布団とか、この家(うち)にあるものは何でも自由に使って好いから♪ 鍵や非常用の財布はいつもの所にあるからね。……あ、あんた達のお母さんには私から言っとくから、今夜からここに泊まってって好いわよ♪ 着替えなんかもあの子の使っちゃって好いから♪ そうそう、あの子の風邪が治ったからって、二人共、無理しないでね。チャンスはいくらでもあるんだから。ねっ♪」

 立ち上がった母親は意味あり気にピースサインを向ける。
 千恵は何だか見透かされた気分になり、顔を赤らめ俯いてしまう。

「何かあったら……あんた達で何とかしてね。将来へのシミュレーションだと思えば楽しいでしょ? じゃ~ね~♪」

 母親は笑顔のまま部屋を出て行き、すぐに玄関の戸が開閉する音が聞えて来た。

「姉さん~、これって……この状況って……」

「そうよっ! あたい達だけで宏を看病するのよっ!」

 千恵が妹の台詞に即反応し、二人は大きく頷き合った。
 この時、美姉妹は宏とひとつ屋根の下で二人っきり――双子だから三人っきりだ――になる状況を(風邪真っ直中の宏には悪いが)内心大いに喜んだ。

「宏ともっとお近付きになるチャンス!」

「宏ちゃんのお世話をして~、そのまま輿入れしちゃおうかしら~♪」

 美姉妹とは言え、千恵と若菜は宏を巡るライバルなのだが、互いを蹴落とし合う真似は決してしない。
 相手の宏を想う気持ちは自分の気持ちでもあるからだ。
 そんな二人が姉(あね)さん女房気取りで小躍りしながら喜んだのも束の間――。


     ☆     ☆     ☆


 宏の枕元で看病する二人の耳に、どこか遠くから地響きが聞こえて来た。
 首を巡らしているうちにその音が徐々に近付き、地面が揺れ始めたかと思ったら。

「ヒロッ!!」

「ヒロクンッ!!」

 玄関の開いた音が聞えたと思った次の瞬間、晶と優の双子美女姉妹(ふたごしまい)が宏の部屋に立っていた。
 美姉妹をも凌ぐ、驚くべき早業である。
 まるで現代版くのいちだ。

「「……………………」」

 こちらの二人も布団の中で唸っている宏にショックを受けてはいるものの、視線は枕元に座っている二人の先客に注がれていた。
 晶のこめかみには青筋がいくつも浮かび、いつもは明確な意志を示す瞳が今は嫉妬と独占欲に渦巻いている。
 片や、いつも優しげな優の瞳は、僅かに吊り上って冷たい視線を向けている。

「なっ、なんであんた達がここにいるのよっ。お隣さんはお隣さんらしく、大人しく自分の家(うち)にいなさいっ!」

「……抜け駆け禁止。これはレッドカードもの」

 外をビシッ、と指差し、晶の、衛星連射砲の如く強烈な突っ込みと、優の真綿で首を絞めるかのような精神攻撃。
 千恵は恐怖の余り縮み上がり、座ったまま畳一枚分後退してしまう。
 同時に、張りのあるポニーテールが見る間に縮こまってゆく。
 しかし、この程度の攻撃に耐性のある若菜には通じない。
 むしろ、火に油――若菜の場合は高純度のガソリンだ――を盛大に注ぎ込む発言をかます。

「あ~、晶姉さんと優姉さんもお見舞いに来たんだね~。でも~、今夜から私達が泊まり込みで付きっ切りの密着看病するから大丈夫だよ~♪」

 お気楽天然娘の『泊まり込み』と言う言葉に晶はもちろん、いつもは冷静な優でさえ眉が大きく跳ね上がる。
 美女姉妹の身体からはドス黒い負のオーラ(千恵には嫉妬に燃える人外のモノに見えた)が立ち昇り、二人の少女を飲み込んでゆく。

「二人で……泊まり込み!? あんたら……ヒロの看病に乗じて、あ~んな事やこ~んな事をするつもりでしょっ!」

 口から火を吐くドラゴンの如く(千恵にはそう見えた)、大きな瞳を吊り上げて一歩詰め寄る晶。
 昔、宏と交わした約束――ヒロの童貞はあたしが貰うのよっ!――が危機的状況なだけに、晶としては一歩も引く訳にはいかない。
 一方。

「……うら若き女性が年頃の男性とひとつ屋根の下で夜を共にするなんて、もっての他。ここは親戚であり従姉であるボク達がヒロクンを看病する」

 見た者を一瞬で石に変えるメデューサの如く(千恵にはそう感じた)、睨みを利かせつつとても静かに迫る優。
 宏がどんな状況であれ、目の前で既成事実をみすみす許すようなマネはしたくないのだ。

「あたい……もうダメ~」

 千恵は二人からのプレッシャーに押し潰され、この場で十八年(明日が十九歳の誕生日なのにっ!)の生涯を閉じるものと覚悟した。
 しかし、部屋に漂う険悪な空気を根本から覆す天使(千恵にはそう思えた)が現れた。

「だったら~、今夜はみんなで看病しようよ~♪」

 片手を大きく挙げ、笑顔を振り捲いたのは若菜だ。
 宏を好きな女性(ひと)は同類とばかり、敵対心や嫉妬と言う言葉を知らない若菜の態度に拳(と言うより長剣だ)を振り上げている晶が毒気を抜かれる。
 優も己の嫉妬心が完全燃焼する前に、広い(鈍い?)心で自分達を迎えてくれる若菜の純粋さに思わず微笑んでしまう。

「ちょ、ちょっと、笑い事じゃ無いでしょっ!?」

 尚もいきり立つ姉に、優はむしろ肩の力が抜けるのが判った。

「……お姉ちゃん。ここは争う場所じゃない。今はヒロクンを看病する事に全力を挙げ、みんなで力を合わせる時」

 冷静沈着に戻った妹の至極真っ当な言葉に、晶は一瞬、握り拳に力が篭ったがすぐに脱力する。
 千載一遇のチャンス(宏を独占看病する事だ)を阻止されて不満が込み上げたが、ここで二人を追い出しても無駄だと悟ったのだ。
 それに、宏の傍にいたいと言う美姉妹の気持ちも痛いほど判る。

「そうね。このお隣さんには言いたい事が山ほどあるけど、今は休戦しましょ。で、具合はどうなの?」

 振りかざした剣を自ら収めた晶は千恵のいた場所に座り、小さく畏まって震えていた千恵に視線を向ける。
 その顔は普段の晶と同じ、凛々しさの中にも優しさの溢れる大人の女性の笑顔に戻っていた。
 優も布団を挟んで反対側に座り、愛する従弟の顔色を窺う。

「え……あ……、はっ、はいっ! 今は落ち着いてます。さっき、氷枕と氷嚢を替えたトコです。あと、宏のご両親なんですけど……」

 思わず二十一歳の美女に見惚れてしまった千恵は、慌てて身振り手振りでこれまでの経緯(いきさつ)やこの家(うち)の状況を小声で聞かせる。
 目の前で眠っている宏に配慮したのだ。
 晶と優の美女姉妹は宏の容体にひと安心し、千恵の心遣いに小さく微笑む。

「宏ちゃんのお母さんからは~、この家(うち)にあるもの全て自由に使って好い、って許可を貰ってるよ~」

 若菜の補足説明に晶は頷き、壁に掛かった時計にチラリと視線を向ける。

「それじゃ、もうすぐ夕飯の時間になるから準備しましょうか。あとは……」

 晶は思案気に眉根を寄せる。
 誰に何を担当させるか、一瞬迷ったのだ。
 もちろん、自分が宏の看病を担当する事に(腹の中で)決めているので、残りの面子をどうするかだ。
 瞬きする間に考えを巡らせ、そして厳かに(?)告げた。

「それじゃ、ヒロとみんなの夕飯は若菜ちゃんと千恵ちゃんに任せるわ。優は隣の部屋を四人の待機場所として整えて。あたしはここでヒロを看てるから」

 年長者らしく的確……とは誰も思えない指示を出す晶に、(よせば良いのに)若菜が噛み付いた。

「あ~~~っ! 晶姉さん、私達がいない間に宏ちゃんを襲う気だぁ~~~っ。看るんじゃなくて、観るんでしょ~」

 指を突き付け、裏付けの無い偽(ニセ)スクープを掴んだ報道記者の如く囃し立てる若菜に、晶の背中が一瞬、ギクリと震える。
 どうやら図星を指されて動揺したらしい。

「……お姉ちゃん」

「晶さん……」

「あ、いや、その……」

 妹と千恵からの冷ややかな視線に、両手を振りかざして慌てて取り繕う晶。
 しかし、それが火種となって場の空気が一転する。

「だったら、あたいが宏を看ますっ! 若菜は夕飯を作って!」

「やだ~~~っ! それなら私が宏ちゃんを看病する~~~っ! 晶姉さんが作ってよ~~~っ」

「なっ、何言ってんのっ! ヒロは従姉であるあたしが付き添うわっ! だってホラ、二人みたいに料理上手く無いからっ」

 女三人寄れば姦しい、とは好く言ったもので、千恵、若菜、晶が首を付き合わせてのバトルが発生した。
 その場にすっくと立ち上がると晶と若菜が眼(ガン)を飛ばし合い、普段控えめな千恵でさえ負けん気全開で二人の間に割り込む。
 勢い、騒々しさに拍車が掛かり、三人はガード下の交差点で議論しているかのような声量となっていた。
 腰に手を当てて仁王立ちになる晶に、胸の前で腕を組んで一歩も引かない千恵。
 そんな二人に指を突き付けて口頭泡を飛ばす若菜。

「……いい加減にっ――」

 このままでは論争が武力抗争にまで発展しそうだと判断した優は、三人に向けて注意しようと立ち上がったその時。

「う゛ぅ…………、あ゛ぅ…………」

 足下から宏のか弱い声が上がった。

「「「「!!」」」」

 小さな呻き声ひとつで、それまでの喧騒が嘘のようにピタリと止まる。
 さすがに我に返り、顔を見合わせてバツの悪そうな表情になる姦し娘。
 宏は目覚めた訳では無く、騒々しさに反応しただけのようだ。

「と、取り敢えず、あたしは隣の部屋を泊まれるようにするから、夕食は千恵ちゃんと若菜ちゃんでお願い。優はここでヒロを看てて」

 誰からも文句の出ない晶の采配に、四人の美女は慌ただしく動き出した。



「宏ちゃんのお粥が出来たよ~」

「みんなの夕ご飯は隣の部屋に運んだから、手の空いた人から食べて下さいね」

「隣に炬燵をセットしといたわ。あと、この部屋のストーブにヤカンを置いたからいつでもお湯が使えるわよ。ついでに部屋の乾燥も防げるしね♪」

「……ヒロクン、まだ目が覚めないけど、落ち着いてる。熱はあるけど大丈夫」

 若菜がトレイに載せた土鍋を枕元に置き、千恵が隣の部屋を指差さす。
 晶がストーブの火加減を調整し、優が宏の汗をタオルで拭う。
 宏の枕元には四人の美女が揃い踏みになった。
 寝ている宏の右側に若菜と千恵が、左側に晶と優が座る。

「それじゃ、先にヒロにお粥を食べさせましょ。少しでも食べないと、薬が飲めないし」

 晶がさも当然とばかり、トレイに置かれたレンゲ――中華スプーンの事だ――を手に取った。
 と、ここでまたもやバトルが発生した。

「あ~~~っ、晶姉さん、ズルい~~~っ! 私が宏ちゃんに食べさせるのぉ~~~っ!」

 地団駄踏んだ若菜(正座したままなのに器用なヤツである)が土鍋を引き寄せ、同時に晶の手からレンゲを奪い取る。
 これにはさすがの晶も目を剥き、見る間に瞳が吊り上ってゆく。

「あっ、コラッ! ナニすんのよっ! あたしがヒロに食べさせるから、あんた達は自分の夕食を摂ってなさいっ!」

 負けじと晶がレンゲに手を伸ばし、奪い返した瞬間。

「あたいが宏の面倒見ますっ! 宏のお母様と約束しましたしっ!」

 闘志剥き出しの千恵の手にレンゲが収まっていた。
 その早業に若菜はもちろん、奪われた晶でさえ一瞬、感心してしまう。
 しかし、次の瞬間には三人によるレンゲ争奪戦が始まった。

「ちょっとっ! 人のレンゲを取らないでよっ! 年長者を何だと思ってんのっ!」

「宏ちゃんは~、私が食べさせた方が幸せなの~~~っ!」

「ナニ言ってんのよっ! あたいはあんたの姉なんだから、あたいが宏に相応しいのよっ!」

 横たわる宏の頭上でけんけんごうごう、立ち膝になって顔を付き合わせ、唾が飛び交う『壮舌』なバトルに、ただひとり事の成り行きを見守っていた優は眉をしかめる。

(……みんな、ヒロクンが心配なのは判る。心配で正常な判断が出来無いのも判る。バカ騒ぎしてないと、不安と心細さが拭えないのも判る。だけど……)

 握った手に力が篭り、再び注意しようと顔を上げて腰を浮かせようとしたその時。

「あ゛ぅ……、う゛ぅ……」

 宏の口から、再び苦しげな呻き声が漏れた。
 しかも先程の声より大きく、ハッキリとした呻き声だった。


     ☆     ☆     ☆


 ――宏は夢を見ていた。
 なだらかな丘がどこまでも続き、一面見渡す限りに咲き揃う可憐な花々。
 いくつもの蝶が軽やかに舞い、赤や黄、青に白、ピンクにオレンジと言った色鮮やかな花達がそよ風に揺れ、それがさざ波となって斜面を駆け昇る。
 爽やかな風は優しく花を撫で、雲ひとつ無い蒼空へと吸い込まれてゆく。
 小鳥達のさえずりが耳に心地好く、せせらぎの流れる音が心を癒してくれる。
 そんな楽園とも思える場所に、宏は立っていた。

 しかし、何かが足りない。
 確か……四つか六つ、何かあった筈だが、それが何なのか判らない。
 ただ、手元にあると温かくて心地好い、いつまでも胸に抱(いだ)いていたい、と言う感覚だけは覚えていた。

 と、突然、丘の向こうから二本足で立つ大きな恐竜が咆哮を上げながら現れ、地響きと共に花を蹴散らしながら近寄って来た。
 ワニのような太く長い尻尾で花々を薙ぎ払い、首を巡らせたかと思うと大きく裂けた口から紅蓮の炎を吐き、周りにあるもの全てを一瞬で焼き払ってゆく。
 空は灰色の雲に覆われ、蝶や小鳥はいなくなり、せせらぎは焼けた花々で埋め尽くされていった。
 ただ、宏には、明確な意志を持つ怪獣の目に、どこか見覚えがあるような気がした。

 と、そこへ。
 空からもう一匹の怪獣が舞い降りて来た。
 大きな翼を持つ怪獣はひとつの胴体から二本の太く長い首が伸び、鋭い嘴を持つそれぞれの頭が勝手に蠢きながら咆哮を上げていた。
 長い尻尾の先にも同じ頭があり、こちらは辺りを窺うように静かに蠢いている。
 羽ばたく翼の風圧で焼け残った花々が空高く巻き上げられ、哀しいくらい綺麗に舞い落ちて来る。
 鋭い嘴を持つ二つの口からは青白い光線が発射され、丘の上の全てを一瞬で氷の世界へと変えてゆく。
 空は銀色の雲に覆われ、生きとし生けるもの全てが白い氷に閉ざされていった。
 ただ、宏には、それぞれの目に――片方は澄んだ切れ長、もう片方はやや吊り上った大きな目に、どこか見覚えがあるような気がした。

 宏は為す術無く灼かれ、氷に閉ざされ、身動きひとつ出来無くなった。
 熱くもなく寒くもなく、指一本動かせず、声も出せず、まぶたもくっついたかのように開かない。
 立っているのか横たわっているのか、宙に浮いているのか地の底へ落ちているのかも判らない。
 だのに音だけは鮮明に聞え、宏は二匹の恐竜に囲まれているのが判った。
 三つの恐ろし気な顔が宏の周りをグルグルと回り、宏を逃がさないようにも、互いを牽制しているようにも思えた。

 宏はこのまま食べられてしまうのではないかと恐怖に慄(おのの)き、動かない身体だと判っていても必死で逃げようともがいた。
 必死に手を伸ばそうとしても足を動かそうと渾身の力を込めても、まるで糊で貼り付いているかのようにビクとも動かない。
 それとも、動いているのに動いていないように感じているのかもしれない。
 もがいて、もがいて、それでも宏は必死にもがいた。
 再び、あの温かくて心地好い、いつまでも抱いていたいモノを手にするまでは、死んでも死に切れ無い。
 と、その温かくて心地好いモノを心に思い浮かべた、まさにその時。

「あ゛ぅ……、う゛ぅ……」

 かすれた呻き声が、口からほんのひと言だけ、漏れた。
 その瞬間、宏を取り囲んでいた恐竜の気配が一瞬で消えた。
 すると、激しく回転しながらどこかへ浮き上がる感覚と同時に、あれほど動かなかった身体が自由に動く事に宏は気付いた――。



「あ゛ぅ……、う゛ぅ……」

 ハッキリとした宏の呻き声に、ひとつのレンゲを三人で奪い合っていた姦し娘達がビデオの一時停止の如く、一斉に動きを止めた。
 息を殺し、声の上がった方を恐る恐る見る。
 と……。

「晶……姉、千恵……姉、若……姉、優……姉」

 薄っすらと開いた瞳が、しゃがれながらもか細く呼ぶ声が、それまで戦っていた怪獣(?)達をひとりの恋する乙女に変えた。

「ヒロっ!」

「宏っ!」

「宏ちゃんっ!」

 三人の女が一斉に宏の顔を覗き込む。
 その顔は強ばり、見開いた瞳は血走り、口の端が微妙に引き攣っている。
 その余りの迫力に宏は首をのろのろと引っ込め、無意識に布団の中へ逃れた。

「……って、なんで亀みたく逃げんのよっ!」

 目を吊り上げ、手の甲で布団をビシッ、と叩いて意識の戻った宏に容赦無く突っ込む晶。

「好かったっ! 気が付いたっ!」

 涙目になって全身で喜びを表わし、縋り付いたのは千恵だ。

「うっくっ、ひっくっ……」

 それまでの緊張が解け、両目に両手を当ててしゃくり上げる若菜。
 そんな三者三様の反応に、隣で冷静に見ていた優がひと言、呟いた。

「……もろに性格が反映されてて面白い♪ これで卒論出せば間違い無く首席になれる」

 数秒後、姉から蹴飛ばされ、千恵から恨み言を言われ、若菜から無視された優だった。


     ☆     ☆     ☆


「うぅ……目が回る。……喉が痛くて……頭もズキズキしてて……食欲無い」

 晶と千恵に手伝って貰い、食事の為になんとか上体を起こした宏だが、余りの気持ち悪さに耐え切れず、すぐ横になってしまう。
 高熱で頭がクラクラする中、仰向けになったまま若菜の作ったお粥――それも茶碗の半分にも満たない量を少しずつ、時間を掛けてなんとか食べさせて貰う。
 喉が痛くて飲み込み辛いが、薬を服用する為には無理にでも胃に入れないと拙いのだ。

「あぅ……口が不味い……」

 お粥に何か味が付いているようだが、味覚も麻痺しているので全く判らない。
 それでも宏は若菜の作ってくれたお粥を黙々と食べ、若菜もそんな宏の思い遣りを喜んだ。

「なんか、夢見てた。よく覚えて無いんだけど……その夢、えらく怖かった事だけは覚えてる」

 温かい食事を摂ったお陰で少しは楽になった宏が、起きる直前に見た夢の内容をみんなに伝える。
 それを聞いた晶、千恵、若菜が一斉に滝のような冷や汗を流し、優がそれは恐ろしい目付きでそっぽを向いた三人を睨んだ。

「……?」

 仲の好い四人なのに、宏には優の態度が不思議に映った。
 自分が寝ている間に何かあったのだろうか。

「とっ、ともかくっ! 今はゆっくり養生する事。あたい達が傍にいるから、何かあったら遠慮無く言ってね」

 持ち前の面倒見の好さを発揮した千恵が慌てて取り繕い、晶と若菜がコクコクと壊れた人形のように首をぎこちなく縦に振る。
 宏の悪夢を聞かされた直後なだけに、さすがに自制しているらしい。

「うん。ありがと、千恵姉」

 かすれながらも、しっかりとした声を掛ける宏に、みんな一安心する。
 これで熱が下がれば、快復までは早いだろう。

「あとは薬を飲んで、ゆっくり寝る事。薬飲んでる間に、氷枕と氷嚢を替えてあげるから。……で、薬はどこ?」

 千恵が布団の敷かれた周囲を見渡すが、それらしき物が見当たら無い。
 医者に診て貰ったのなら、何かしらの薬がある筈だ。
 それに、宏の母親が薬は出たと言ったのをちゃんと覚えている。
 と。

「ね~、薬を使わない熱冷ましの方法なら、私、知ってるよ~」

 切れ長の瞳を爛々と輝かせた若菜が勢い好く手を挙げる。
 その言葉に、三人プラスワンから反応が起こった。

「へ~~~、薬を使わないなんて、ツボ押しでもするの?」

「……薬を使わないのに越した事は無い。で、どんな方法なの?」

「う゛っ! あんたが言うと、何やらヤバそうだけど……念の為、言ってみ?」

 晶が感心したように、優が興味津々に身を乗り出したのに対し、千恵はあくまで懐疑的だ。
 そしてプラスワンの宏は……。

「若姉の光る瞳見たら……寒気が……嫌な予感がする」

 火の粉が掛からぬよう、深く布団に潜る宏だった。
 そんな四人に構わず、若菜は話をどんどん進める。

「じゃ~~~んっ♪ あのね~、風邪引いたら長ネギ使って熱を下げるんだって~」

 自ら効果音を口にし、どこから取り出したのか右手には立派な長ネギが一本、握られていた。
 そして丸々太った長ネギの白い部分――根っこのある方だ――の皮を剥き、宏に突き付けた。

「この長ネギをお尻に挿すと~、熱がネギに吸い取られてあっという間に下がるんだって~♪」

 その言葉に、場の空気が一瞬で固まる。
 全員目が点になり、誰も、何も言わないし動かない。
 余りにお約束(?)な展開に言葉が出ないし動けないのだ。
 しかしやる気満々の若菜は意に介さず、無言のままの宏に詰め寄った。

「ほら~、宏ちゃん。お尻出して~♪」

 瞳を煌めかせ、涎を垂らさんばかりの若菜が布団を捲り、フリーズ中の宏のパジャマズボンに手を伸ばす。
 そして覆い被さんばかりの若菜の細い指が宏の腰に触れる、まさにその寸前。

「こっ、こっ、こっ、このっ、おバカ――――――――――――――――っっ!!」

「きゃいんっ! いった~~~~いっ!!」

 近所を揺るがす千恵の怒号が轟き、かかと落しが若菜の頭上に炸裂した。

「あっ、あっ、あっ、あんたって娘(こ)は――――――――――――っっ!!」

 怒りの為か、はたまた宏の尻にネギが刺さっているシーンを想像した為か(きっと後者だ)、千恵の顔は茹でダコのように真っ赤になっていた。
 握った拳はプルプル震え、大きな瞳は目一杯吊り上がって血走ってさえいる。
 そんな怒れる大魔神に、涙目になった(さすがに効いたらしい)若菜が猛然と食って掛かる。

「なにすんのよ~っ! せっかく宏ちゃんの熱を冷まそうと思ったのにぃ~~~~っ! 姉さんの横暴っ! 独裁っ! いけずっ…………」

 正座したまま両手で痛む頭を抱え、仁王立ちで睨む千恵を見上げる。
 しかし、姉から発せられる余りの怒りのオーラに、抗議の言葉が尻すぼみになる。

「あんたね~~~~っ、何考えてんのっ! ンなモンで熱が下がる訳ないでしょっ!! 脳みそ無くても少しは考えろっ!!」

「はうっ!!」

 秋田名物の『なまはげ』すらも裸足で逃げ出す形相で、止(とど)めとばかり妹のおでこにデコピンを食らわす千恵。

「ったく~~~、いったい、どこからそんな怪情報拾って来るんだよ、おまえはっ!」

 姉からのコンボをまともに食らった若菜は、すごすごと撤退せざるを得なかった。

「第一、ンな太いモン、尻に挿る訳…………っっ!?」

 怒りに任せて思わず言ったものの、長ネギの太さと宏の肛門の太さを想像して比べてしまい、今度は羞恥で真っ赤になる千恵。
 顔を両手で覆い、イヤイヤと激しく頭を横に振る。
 自ら地雷を踏み、自爆してしまったのだ。
 そんな百面相を演ずる姉を横目で見ながら、若菜は情報源を明かす。

「この前、大学の図書館で『風邪治療の今昔』を載せてた本が目に止まったの~。そこで……」

 何とも微笑ましい(?)やら、呆れるやら、若菜の行動は誰にも予測出来無い。
 あの晶でさえ、目を点にしたまま(いまだに)固まったままだ。
 そんな萎れる若菜に、救いの神が現れた。

「……千恵さん。もう、その辺で許してあげて。若菜さんだって、悪気があった訳じゃないから」

「悪気だったら、なおさら悪いですっ!」

 今度は怒りの表情で目を剥く千恵。
 相手は二つ年上、かつ大学の先輩だが、相手が誰でさえ言うべきは言う性格の千恵は一歩も引かない。
 それ程、妹の破天荒な行動に腹を立てているのだ。

「……若菜さんは、ヒロクンの事を想う余り、ちょっと逸しただけ。大目に見て上げて。若菜さん、どんな手を使ってでも、ヒロクンの熱を早く下げたいと思うからこその行動。判ってあげて」

 二組の双子姉妹が出逢って早十数年。
 宏の歳の数だけ付き合って来ただけあって、優には若菜の気持ちが手に取るように判るのだ。

「それはっ! ……それは、あたいだって……。あたいだって、宏が早く治って欲しいと願ってますから……」

 千恵の怒りの炎が見る間に鎮火されてゆく。
 妹の想いは自分の想いであり、自分の想いは妹の想いでもあるのだ。
 同じ男性(ひと)を想うからこそ、妹の突っ走る気持ちが手に取るように伝わって来る。
 だからと言って、長ネギ挿入はやり過ぎだし、黙って見逃す訳にもいかない。
 そんな姉の想いも何のその。
 味方を得て元気百倍とばかり、早くも復活した若菜が高らかに宣言した。

「だから~、宏ちゃんの熱は、このネギでっ……きゃんっ!」

「いー加減、ネギから離れなさいっ!」

 こちらも復活した晶の鋭い突っ込み(おでこに手刀)が若菜をついに黙らせた。
 この時、捲られた布団の上で宏が寒さに(顔は真っ青に、身体は小刻みに)震えていた事に、四人の美女は誰ひとりとして気付かなかった。


     ☆     ☆     ☆


 布団を整え(優が宏の異変に気付き、謝りながら慌てて掛け直した)、気を取り直した面々は改めて医者から処方された薬を探す。
 しかし枕元はもちろん、机の上や畳の上、果ては隣の部屋や台所を探すが全く見つからない。
 不思議に思った千恵がふと、背後に視線を向けた瞬間。

「やべっ!」

 慌てて背中に白い袋を隠す若菜。
 器用な事に、正座したまま畳一枚分、後退る。

「またオマエかっ! 今、ナニを隠した? ん? ホレ、言ってみ」

 妹の不自然な動きに千恵がニコ目のまま(しかし笑ってはいない)迫る。
 若菜は姉から視線を逸らし、天井を見ながら指を差す。
 額に一粒の汗が浮かび、タラリとこめかみを流れ落ちる。

「いや、あのねっ! あの、その……あそこの隅に顔が浮かんでたように……見えたの」

 余りに取って付けたような言い訳に、晶と優もにじり寄って来る。
 こちらのお姉様方も顔はにこやかだが、瞳は笑っていない。
 逃げ道のない状況に、若菜は宏が夢で見た恐怖って、こーゆーものだったのかと想像した(もちろん、違っているが)。

「ごめ~ん。今度はちゃんと、私がやりたかったの~。ハイ、これ……」

 観念した若菜は、そっとみんなの前に薬の入った袋を差し出した。
 千恵はやっぱり、と溜め息混じりに袋を取り戻す。

「あんたね~、こんなの隠してどーすんのっ! 薬飲まなきゃ、宏はいつまでも治らないでしょっ!」

 座高もそれなりにある若菜が小さくなって畏まる中、千恵が袋に手を突っ込んで薬を取り出した。
 それは毎食後に一錠服用するタイプで、一週間分が個別にパックされていた。

「ん? これって……」

 袋から出したものの、千恵はパックされた薬の形に違和感を覚え、首を捻る。
 大きさから言って、飲み薬ではないとすぐに判った。
 しかし、どこか見覚えのあるシルエットなのだが、その名前と服用方法が咄嗟に出て来無い。
 長さは二センチ前後、太さは一センチも無いだろうか、クリーム色をした丸くて細長い形状で、先端(?)がやや尖って太くなっている。
 丁度、先太りの砲弾を縮めた形だろうか。

「……あ、それ――」

 薬をチラッと見ただけで微笑んだ優が、今なお首を捻る千恵に代わって薬の名前を口にした。

「……ヒロクン、座薬、貰ったんだ」

 薬の名前を聞いた瞬間、服用方法も同時に思い出した千恵は目を見開き、あっという間に全身が真っ赤に染まる。
 薬を持つ手が小刻みに震え、それが段々大きくなって仕舞いには声にならない声で叫び、薬を放り投げて部屋から脱兎の如く、出て行ってしまう。
 純真純情な千恵にとって、手にした薬が宏の尻に、しかも挿れる姿をリアルに想像してしまい、恥ずかしさの余りオーバーヒート(暴走)してしまったのだ。

「ふふっ。千恵ちゃんったら、相変わらず初心なんだから。それじゃ、薬はあたしが挿れてあ・げ・る♪」

 これ以上ない位、大きな瞳を煌めかせ、好奇心丸出し(口の端から涎が垂れそうになっている)の晶が座薬を手に宏に迫る。
 これでは普段の若菜と何ら変わらない。
 当然、黙って見ている若菜では無かった。

「だめ――――――――っ! お薬は私が挿れてあげるの――――――――っっ!!」

 レンゲ同様、素早い身のこなしで座薬を奪い取ると、宏の足下へ突進、再び掛け布団を足下から捲り上げる。
 その余りの早業に、一瞬呆気に取られた晶はすぐに反撃に出る。

「ここはっ! 従姉のあたしがっ! 薬を担当っ! するのよっ!!」

 本日、何度目かのバトルが勃発し(意識が戻った宏には初めて見る抗争だ)、部屋の中が一気に騒々しくなる。

「宏ちゃんには~、幼馴染の私がいるから大丈夫なの~~~っ!」

「ヒロは身内のあたしが! 面倒見るわよっ!」

 ああ言えば、こう言う。
 押し問答を繰り返し、ひと摘みの座薬を奪い合う美女二人。
 両手を組み合わせ、腰まで届く長い髪を振り乱し、瞳は血走り、こめかみに血管を浮かべたその姿は鬼神もかくやの顔付きだ。
 並みの男が二人を見れば、百年の恋も一瞬で消し飛ぶだろう。

「………………」

 宏はどうして二人が争っているのかも判らないまま、茫然と二人を見上げる事しか出来無い。
 しかも、足下の布団が捲られたままなので、徐々に寒くなってきた。

「あ、あのぅ~……」

 痛む喉を庇いつつ、やっとの事で声を絞り出したその時。
 それまで黙って成り行きを見ていた優が遂にキレた。

「……いい加減にしてっ! ここにいるヒロクンの事、誰が考えてるのっ!」

 滅多に聞けない(これはこれで貴重だ)優の怒号が家を揺るがし、二人の言い争いがピタリと止まる。
 優は額に青筋を浮かべ、握りしめた拳をプルプル震わせて涙目になっている。
 これまで抑えに抑えていた感情が爆発したのだ。
 普段の沈着冷静さが嘘のような変わり様に晶と若菜、そして宏でさえ驚きを持って見つめている。

 ――仏の顔も三度――

 晶の頭に、そんなフレーズが唐突に浮かんだ事はさておき。

「……みんな、自分の事しか考えてないっ! そんな人に、ヒロクンを任せられないっ! ここはボクがするから、お姉ちゃん達は出てって!」

 立ち上がった優は片手を腰に当て、廊下に向かってビシッ、と指を指して(廊下から片目を出して中を窺っていた千恵は自分も指されたかと思い、飛び上がって驚いた)二人にレッドカードを突き付ける。
 怒髪天を衝く優の姿と宏の萎れた姿に、二人の姦し娘は力無く項垂れ、上目遣いで見つめ合う。

「……………………ボクが薬を挿れてる間に氷の交換お願い。済んだら呼ぶから」

 深呼吸して息を整えつつ宏の布団を掛け直し、優は姉と若菜に氷枕と氷嚢を押し付けて半ば強制的に廊下に押し出した。
 ここでようやく部屋に静寂が訪れ、宏と優だけが残った。

「……ヒロクン、今迄うるさくしてごめん。ボクがもっと早く二人を止めればよかった」

 宏の枕元に正座し、三つ指付いて頭を下げる優に宏は頭を小さく横に振る。
 喉が痛いので声を出しづらいのだ。
 それでも、言葉にしなければいけない時がある。
 宏は熱で意識が混沌とする中、優に顔を向け、喉の痛みを押して声に出す。

「優姉が……謝る事じゃない。俺が……風邪を引かなかったら……寝込まなければ……優姉が……二人を怒鳴る事は……なかったんだ…………ごめん」

 伝えたい事を言い切った宏は力尽きて枕に沈み込む。
 そんな自分で自分を責める宏に、優は慌てて首を横に振った。

「そんな事無い! ……ヒロクンに悪いところは一切無いっ! 悪いのは私利私欲に駆られたボク達。あとできつく叱って、そして反省するから――」

「優姉……叱らないで。みんな……俺の事を……想って……した事。お願い……だから」

 従姉の言葉を遮り、尚も思い遣りのある言葉を口にする宏に、優は胸が熱くなってこれ以上何も言えなくなった。
 優は宏の言う通りにしようと決め、大きく頷いた。

「……ホント、ごめんね。それじゃ……♪」

 暫しの沈黙の後、気を取り直した優が座薬片手ににじり寄る。
 しかし、十七歳の宏にとって年頃の女性に己の尻を見せるなぞ、恥ずかしくておいそれと出来るモノではない。
 もう、無邪気な幼少時代――一緒に風呂に入っていた頃――とは違うのだ。
 いっそ、自分で挿れようかとも思うが、熱で半ば朦朧としているのでちゃんと挿れられるか心許ない。
 そもそも、座薬なぞ初めての経験なのだ。
 尻への挿入は判っても、どこまで挿れる(突っ込む?)のかが全く判らない。
 浅く挿れたら、何かの弾みで出て来そうだ。

(指先まで? それとも第一関節? 第二? まさか……指全部??)

 恐ろしくなった(ソッチの趣味はこれっぽっちも無い)宏は自力での挿入を諦め、大人しく身体ごと横を向いた。

「優姉……、俺……」

 宏の羞恥に染まった顔を見た優は、内心諸手を挙げて悦んだ。
 何だかんだ言っても、好きな男性(ひと)のお世話をするのは心躍るのだ。
 宏には、心なしか優の瞳が輝いて見えたのだが、気のせいだと思う事にした。

「……それじゃ、脱がすね♪ ほら、腰を浮かせて……もう少し足を開かないとパンツが下ろせない」

 優は海老のように背を丸め、尻を突き出した宏のパジャマズボンをパンツごと、ゆっくりと脱がせてゆく。
 すると、日焼けしてない真っ白な尻が真っ先に目に飛び込んで来た。
 当然、足の間にある『男の子』も目に入るが、風邪の為か、はたまた緊張の所為か『開店休業状態』なのが返す返す残念だ。
 高校の陸上部らしく肉付きの好い引き締まった尻たぶと、日焼け跡の残る筋肉の付いた太腿が宏の男らしさに拍車を掛けている。
 優は左手の親指と残りの指を使って尻の割れ目を開き、放射状に皺の寄る茶色の窄まりを露わにする。

「……ヒロクン、もう少し……お尻をこっちに突き出して」

「えっ!? そ、そんな……俺、恥ずかしいよっ」

「……大丈夫。見てるのは、ボクだけだから」

「うぅ……判った。……こう?」

「……うん、そう。それじゃ、挿れるね♪」

「優姉……痛くしないでね。俺、初めてだから……」

「……大丈夫。ボクも挿れるの初めてだけど、任せて♥」

「あっ……!」

「……まだ、宛がっただけ。挿れるのはこれから、だよ」

「優姉……」

「……ヒロクン、いくよ♪」

「うん、いいよ……あっ、挿って来るっ! 太くて硬いのがっ……挿って来るっ!」

「……ヒロクン、もっと力を抜いて。……でないと、奥まで挿らないっ」

「だって、こんなのっ……初めてでっ……ああっ!! 拡がってるっ! 拡がっていくのが判るっ……あひゃぁっ!!」

「……挿ったよっ! 凄い……こんなに硬くて太いのが……ヒロクンに挿ってく……」

「優姉っ……優姉っ!!」

「……もう少しで……全部挿るから、我慢して」

「あぁっ! 中に挿ってくっ! 動いてるのが判るぅっ! ひゃぁっ! なっ、中で動いてるぅっ!」

「……最後まで……奥まで押し込んで……っと」

「あひゃぁぁぁぁあああっ!!」

「……全部挿ったよ、ヒロクン。よく頑張ったね、偉い偉い♪」

「あぁ……優姉……お腹の奥に……挿ってるのが……判るぅ……」

 台詞だけ聞くと、ナニやら危ない場面を想像しそうだが(廊下で聞き耳を立てていた千恵は余りの生々しさに卒倒し、晶と若菜は鼻息荒く顔を真っ赤に染めて涎を垂らさんばかりに聞き入っていた)、優は従弟の美尻に座薬を無事、挿れ終わった。
 宏の部屋の隅では昨夜、千恵と若菜と一緒に飾り付けしたクリスマスツリーが灯りを落として静かに、ひっそりと佇み、みんなの様子を面白そうに眺めていた。


                                            (中編へつづく)

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【 お寄せ戴いた御意見・御感想 】

[ 千恵姉と若菜のプレゼントは? ]
更新乙です♪仕事早いですねw

優がフルボッコ(ちょっと違いますが)されるのって珍しいですね~♪後でキッチリお返し以上のカウンターを見舞いましたがwww
それにしても千恵姉はほんと可愛いですねw喜怒哀楽が激しく、毎回頬が緩みますw
しかし、若菜はほんと頑丈にできていますね~ww昔っから千恵姉や晶さんに殴られ蹴られてるのに、本人はケロッとしていますwwwまぁ慣れたんでしょうね(オイw

しかし、みんな何か忘れてるみたいですね~~~♪当日は波乱になりそうですね。天気予報確認しなくてはw嵐が来ますwww

さてさて、こんなおいしいイベントをほのかに真奈美が黙ってるはずがありません。出遅れる形となりますが、後5日あります。お二方も頑張ってくださいw

そして、後半楽しみです。頑張ってくださいww

[ いつもご愛読ありがとうございます♪ ]
きのさん
 コメント&応援ありがとうございます♪

 物語はまだまだ始まったばかりです。
 果たして宏の運命や如何に……。

 中編をお楽しみに♪
 

[ 優姉さんの・・・ ]
やっぱり読み返すとレベルの高さが判りますね(^_-)
優姉さんのお怒りってレアなイベントかな??
さすがの昌姉さん、若姉さんの防御(エロ)結界も意味をなさないね(-。-)y-゜゜゜

この作品は改めて読むと本当に良い味が浸みてるんですよね
一人一人の細やかな心遣いや気持ちに・・・「あ~ なるほど(^^♪」
ってなりますね
今後も首を長~くして新作を待ちますが、その間に読み直しをさせてくださいね(*^^)v

[ 毎度お越し戴きありがとうございます♪ ]
草薙さん
 コメントありがとうございます♪

 こちら(この章)もお褒め戴きありがとうございます♪ m(_ _)m
 わたくしも改めて読み直すと……突っ込み所満載で修正したくてたまりません!

 番外編の新作は、構想(プロット)はある程度作ってあるのですが執筆する時間が全く取れません。
 掲載中の新婚編が押せ押せ(書き上げるのがやっと)なので、番外編掲載は当分の間、お預けとなりそうです。
 番外編の新作をお待ち戴いている皆様には誠に申し訳ございませんが、拙小説を最初から何度も読みつつノンビリお待ち戴けたら幸いです。 m(_ _)m

 いつも応援ありがとうございます♪ m(_ _)m
 

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