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美姉妹といっしょ♥〜番外編
「〜♪ 笹の葉ぁ〜サ〜ラサラ〜〜ぁ、の〜き〜ばぁ〜に〜揺れるぅ〜〜〜、っとくりゃぁ♪」
若菜の澄んだ歌声が、生い茂る竹林と雲ひとつ無い青空に吸い込まれてゆく。
そよぐ風が笹の葉を揺らしてリズムを刻むと、歌いながらのこぎりを引く腕もより軽く、より一層リズミカルに動き出す。
「ふふっ♪ 若菜ちゃん、超ご機嫌ね」
各部屋の飾り用に一メートル程に刈られた小振りの笹竹を整えつつ、真奈美が剪定ばさみ片手に微笑む。
その声に、真奈美から数メートル離れた場所で鉈(なた)を振るっていた千恵が手を休めて苦笑いする。
「まったく、間延びした上にヘンな合の手まで入れちゃて。……まぁ、あの娘(こ)らしいっちゃ、らしいけど」
腰に下げたタオルはそのままに軍手を嵌めた手の甲で額の汗を拭った千恵は、ルンルン気分で特大の笹竹と格闘している歌姫に視線を向ける。
若菜は腰まで届く長い髪を首の後ろでひとつに纏めて背中へ垂らし、多少汚れても構わない着古した蒼色のトレーナーとジーンズ姿だ。
千恵と真奈美、若菜の三人は十日後に迫った七夕に向け、梅雨の晴れ間を利用して庭に飾る笹竹と各部屋に飾る小振りの笹竹を採りに屋敷裏の竹林に来ていた。
「宏と一緒に七夕をするのは三年振りだからね〜。浮かれる気持ちも判るわ」
「去年は晶先輩や千恵ちゃん達だけで七夕をしたんでしょ? ほのか先輩はアメリカにいたし、私は都合が付かなくて行けなかったけど」
真奈美が首に巻いたタオルで汗を拭きつつ、千恵に向き直る。
千恵もいつものロングポニーテールに真っ赤な長袖のトレーナーと裾がほつれたジーパン姿で、破れたり汚れたりしてもいい野良着スタイルだ。
真奈美も背中の半分まで届く長い髪を三つ編みにし、水色の長袖シャツとオーバーオール姿になっている。
三人とも本当はもっと涼しい服装――たとえばTシャツにホットパンツ姿など――を着たいのだが、肌が露出した服は蜂や蚊に刺されたり草木で肌を切ったり被(かぶ)れたりもするので、竹林や雑木林に入る時には軍手は勿論、夏でも必ず長袖長ズボンに底厚のスニーカー(尖った枝や切り株などを踏み抜くのを防ぐのだ)を着用するよう、宏から言われているのだ。
「うん、そう。だけど、やっぱりいて欲しい男性(ひと)がいないと、何とも締まらなくてね〜」
去年の七夕を思い出した千恵が頬を掻きながらほんの少し、寂しげな表情を浮かべる。
千恵と若菜は去年、晶と優を加えた四人で笹竹に短冊を飾り、実家で七夕の会(と言う名の宴会)を宏不在のまま行った。
その当時、宏は東京の専門学校に通っていたので実家にいなかったのだ。
しかし、宏がいない寂しさを紛らわす為の宴会だったのに余計に寂しさが募ってしまい、イマイチ盛り上がりに欠ける飲み会となってしまった。
唯一の救いは、それぞれが短冊に記した文言で場が和み、宏と電話で話しながら夜空に煌く彦星と織姫を離れた土地にも係わらず一緒に眺めた事くらいだ。
「おととしは宴会や七夕飾りそのものをしなかったし、去年もそんなんだったから、今年はいつも以上にあの娘も張り切っているのよ」
妹を見つめる千恵も若菜同様、宏との七夕に心ときめき、瞳が煌いているのだが本人はまるで気付いていない。
気付いたのは正面にいる真奈美だけだ。
「今年は宏君と結ばれたし、奥さんとして一緒に過ごす初めての七夕だもんね。それじゃ千恵……若菜ちゃんも張り切る訳よね♪」
妹の気持ちは自分の気持ちでもあるのだろう、心情を悟った真奈美が素直になれない千恵を可笑しそうに笑う。
ちょっと垂れ目がちな癒し系美人が口元に手を当て、瞳を細めてクスクスと笑うその姿は、真奈美のもっとも輝く瞬間だ。
千恵もその笑顔に心和ませ、改めて宏と一緒に七夕イベントを行える嬉しさに顔が綻んだ。
「さて、っと。これで全部揃ったかな?」
真奈美とのお喋りでひと息付いた千恵は、リビングに飾る一回り大きい笹竹を真奈美に渡そうと一歩前に踏み出した。
片や、そんな二人のやり取りも耳に入らない若菜は、更に声のボリュームが上がってノリノリになっていた。
「お〜星さ〜ま〜キ〜ラキラ〜〜ぁ、金銀砂子ぉ〜〜〜♪ っと。もうちょい………………っと、切れたぁ〜っ」
根元の部分で直径二十センチ近い太さの笹竹を切り落とした若菜が歓声を上げる。
すると高さ六メートル、枝を張った横幅も三メートルはあろう笹竹がバサバサと賑やかな音を立て、周りの竹を掻き分けながらゆっくりと若菜のいる場所とは反対側に傾(かし)いでゆく。
そしてその先には……。
「……ん? 何の音だ?」
笹の葉が風で揺れる音とは違う、強制的に激しく揺すっているかのような音に千恵は立ち止まり、周囲を見回してから後ろに振り返ったその瞬間。
ずずんっ!!
「!! どわぁあっっっ!!」
今、まさに千恵が立っていた場所に特大サイズの笹竹が鈍く重い地響きを立てて倒れ込んだ。
同時に、横に張った枝の先端が千恵の鼻先を掠め、空気をも引き裂く断末魔(?)の悲鳴が上がった。
「な゛っ、なにっ!? いったい何なのっ!?」
思わず鼻を押さえ、首を激しく巡らせて周囲を見回す千恵。
余りに危機一髪な展開に、驚きと恐怖で心臓がバクバク言って今にも口から飛び出しそうだ。
と、倒れた笹竹の根元にはのこぎり片手にボケ〜っと(千恵にはそう見えた)佇む女がひとり。
それを見た途端、状況をたちどころに理解した千恵は恐怖の感情が怒りの感情へと変化する。
(あっ、あのパープー娘(むすめ)が〜〜〜〜っ! 今日と言う今日はもう許せんっ!!)
そして次の瞬間には落雷の大音量すら可愛らしく思える程の怒りの声が近所一帯に轟き、大きな瞳を目一杯吊り上げた千恵が片手に笹竹、もう片手に鉈を持ったまま猛然と若菜の元へ駆け出した。
「こらぁ――――――っ! あ、危ないじゃないかっ! もうちょっとで……しっ、下敷きっ……下敷きになる所だったじゃないかぁ――――――っっ!!」
よほど頭に血が昇っているのだろう、口は回らず、額に青黒い血管がいくつも浮かんではヒク付き、ポニーテールや頭の高い位置で縛った白いリボンが怒りのオーラに合わせて蛇の如くゆらゆらと蠢いている。
瞳は血走り鼻息も荒く、鉈で進行方向に立ち塞がる枝を薙ぎ払いながら突き進む千恵の表情は、まるでB級ホラー映画に登場する猟奇的殺人鬼もかくやという形相だ。
真奈美も千恵の間一髪なシーンを目の当たりにし、心を逸(はや)らせて後を追う。
(あらあら。千恵ちゃんったら、あんなに真っ赤になって青筋立てちゃって。よっぽどスリリングだったのね♪)
本人にしてみればスリリングでは済まないと思うが、真奈美は心底、面白そうに笑みを浮かべる。
なにしろ、宏や千恵美姉妹(しまい)と暮らし始めてひと月足らず。
毎日のように繰り広げられる美姉妹漫才(?)にすっかり馴染み、この程度の事では動じなくなっているのだ。
むしろ、二人のボケツッ込み(本人達にその意識は無い)を楽しみにしている節がある。
「あれ〜、姉さん?」
姉の危機一髪も露知らず、久し振りに宏と過ごす七夕に浮かれている若菜は満面の笑みを浮かべて怒髪天を衝く姉を迎える。
「あっ、あんたね〜〜っ! 〜〜〜〜っっ!!」
そんな天然能天気な妹に、千恵は怒りで我を忘れたまま顔面に指を勢い良く突き付けた(今日はその手に鉈が握られたままだ)。
ところが、余りの事態に思考回路が麻痺し、口をパクパクさせるだけで言葉が出て来ない。
一方、身長百七十五センチの若菜は顔面に向けられた鈍く光る鉈もなんのその、いつものように微笑みながら身長百五十センチの小さな双子の姉を見下ろす。
「どうしたの〜、そんなに目くじら立てて。リビングやみんなのお部屋に飾る笹竹は揃ったの〜? こっちはお庭に飾る笹竹を切り落としたところなんだよ〜♪」
人が死にかけた(と千恵は思っている)原因を作ったくせに、どこまでもノンビリとした若菜の態度に千恵がキレた。
「こっ、このおバカっ!! 『どうしたの〜』、じゃな〜〜〜いっ!! あんた、今、笹竹が倒れた場所にあたいがいた事知ってた? 知ってて倒したのっか!? それとも狙って倒したのかっ、この唐変木っ! オタンコナスっ! #$%&♭Ω〜〜〜〜〜〜っっ!!」
怒りに任せて口から出るわ出るわ、聞くに堪えない罵詈雑言(?)の雨あられ。
最後は言葉にならない言葉で叫んでいる。
顔を真っ赤に染め、唾をも飛ばし、鉈を振り回しながら眉と瞳を吊り上げて目の前の天然娘に食って掛かる千恵。
しかし、元々他人を貶すボキャブラリーが決定的に乏しいので、どう見ても可愛い姉妹喧嘩(傍から見ると千恵が妹にしか見えないが、それを言うと千恵が怒る)にしか見えない。
そんな怒れる大魔神に、事も無げに一通り言葉を最後まで受け取った若菜が小さく首を捻り、ひと言ポツリと呟いた。
「姉さん、今日アノ日だっけ? はぅっ! ……きゅう〜〜」
改めて額の血管を何本か切った千恵の正拳突き(流石に鉈は投げ捨てた)がものの見事に能天気娘のみぞおちにめり込み、若菜はニコ目のまま膝から崩れ落ちる。
そんな二人のド突き漫才を目の前で存分に楽しんだ真奈美は、今なお鼻息荒い千恵にそっと声を掛ける。
「ねえ、千恵ちゃん……」
諸悪の根源が滅び、若干溜飲の下がった千恵は真奈美から心配げな声を掛けられ、ようやく人心地着いて振り向く。
(真奈美さんは、ちゃんとあたいの事を心配してくれるのに、この娘(こ)ときたら全くもうっ!)
最後にもう一度、怒りの視線で妹を灼き払う千恵。
が、しかし。
「こんなに大きな笹竹、若菜ちゃん以外に誰が運ぶの?」
「……って、そっちの心配かいっ!」
首を傾げて可笑しげに笑うお茶目な真奈美に、滂沱と涙する千恵だった。
☆ ☆ ☆
「……と言う訳なのよっ! ったく〜、この娘と来たら、危ないったらありゃしないっ!」
宏や晶、ほのかの社会人組三人が揃って定時で帰宅し、ひと汗流して全員が揃った所で、その日の夕餉(ゆうげ)が始まった。
そこで開口一番、額に青筋をいくつも浮かべ、憤懣(ふんまん)やるかたない千恵が横目で妹を睨みながら昼間起こった事件(千恵の中では殺人未遂にまで発展している)をコト細かに語って聞かせる。
一方、糾弾されている本人は幸せそうな顔で何事も無かったかのようにご飯をパク付いている。
ひと仕事終えた後のご飯は格別に美味しいらしい。
そんな二人に。
(……ププッ、くくっ………………うっくっくっっ! ま、毎回笑わせてくれるわ、この二人はっ……うっくっ!)
(く、くっそー、こっ、こんな美味しいイベント起こるの判ってたら、会社サボって見に行ったのにっ……うぷぷっ!)
晶とほのかは瞳に薄っすらと涙を浮かべ、必死に笑いを堪(こら)えていた。
箸を持った手はテーブルの上で小刻みに震え、もう片手はテーブルの下で笑い出さないように自分の太腿をつねっている。
固く閉ざされた口の端は不自然に吊り上がり、美しく整った顔も微妙に引き攣っている。
(わっ、笑っちゃいけないっ! いけないけどっ……くくっ! あ、相変わらずな二人だよなぁ……ププッ!)
(あ〜ぁ、携帯で録画しとけば良かったな〜。世紀の瞬間だったのに……プッ)
宏と真奈美も、晶達と同じく千恵を思い遣ってぐっと笑いを堪えるものの、きつく結んだ唇は細かく震え、腹に力を入れている煽りで身体全体がプルプルと震えている。
みんな、あとスイッチひとつで大爆笑間違い無しだ。
「……ボクも留守番なんかしてないで、千恵さんの慌て振り見たかったな」
しじみの味噌汁を静かに啜りつつ、決定的瞬間を見損ねた優が心底残念そうに千恵を見る。
その一言に、当事者(犯人?)である若菜が満面の笑みを浮かべて曰った。
「だったら〜、明日は優姉さんも一緒に笹を採りに行こうよ〜。笹は多いほど賑やかになるし〜♪」
懲りもせず能天気に手を揚げる若菜に、千恵(被害者!)が再びキレた。
「……って、またあたいを下敷きにするんかいっ!!」
本人に意識は無くとも、自らスイッチを押した千恵に全員が堪え切れずに腹を抱えて大爆笑する。
その声はビリビリと屋敷をも揺るがし、新居に越してから最大の笑い声となった。
「あははははっ♪ まぁまぁ、千恵姉。無事だったんだから好いじゃない。うぷぷぷっ♪」
可笑し涙を拭きつつ宏が慰めるものの、千恵の怒りの矛先が妹から百八十度ターンする。
「好かないわよっ! あたいが危ない目に遭ったってのに、ナニみんなして笑うのよっ! 宏も笑い過ぎっ!」
妹への怒りよりも、誰も味方に付いてくれない不満で涙目になった千恵が勢いよく立ち上がり、今なお笑い転げる面々をぐるりと指差す。
「でも、千恵姉が無事で好かった。千恵姉に何かあったら、俺が嫌だもん。若姉も今後は気をつけてね」
「は〜い♪ 極力、前向きに検討し、然るべく善処するであります」
余り――と言うより、まったく反省の色が見えない若菜だが、笑いを収めた宏の真剣な忠告には素直に頷いている。
そんな若菜のエセ政治家並みの答弁と宏に向かって敬礼するポーズに晶とほのか、真奈美に優まで笑いっ放しになっている。
「ホント、無事で好かった」
それでも千恵の涙を見た宏の真摯なひと言が、それまでささくれ立っていた千恵のハートを元の素直で純情な状態へと戻した。
「宏ぃ〜〜〜〜♥ 宏だけよ、あたいを心配してくれるのは」
宏に抱き付き、嬉しさと愛おしさで滂沱の涙を流す千恵の姿に、一同の笑い声は更に高まった。
そんな楽しげな声に、リビングの軒先に据え置かれた特大の笹竹の下で晩御飯のご相伴に与(あずか)っていた仔猫親子が顔を見合わせ、いつも賑やかだね〜、と苦笑したかのように「にゃぁあ〜〜ん」と鳴いた。
☆ ☆ ☆
七月七日、七夕。
五節句のひとつでもあり、日本全国で祭りとして行われる七夕は老若男女を問わず親しまれ、毎年テレビや新聞と言ったメディアに必ず登場する国民的行事の日でもある。
元々は中国から伝わり、江戸時代に願掛けとして広まった七夕の行事だが、宏達にとっては幼い頃からお互いの繋がりを深め合う大切な日でもあった。
「それじゃ、みんなのこれからの安全と健康を願って、乾杯っ!」
「「「「「「乾杯〜っ!」」」」」」
宏の音頭で六人の美女達が唱和し、リビングにグラスの合わさる澄んだ音がいくつも響く。
今日は土曜日で社会人組三人は休みと言う事もあり、夕方の早い時間から七夕宴会が始まった。
リビングのガラステーブルには若菜を先頭に千恵と真奈美が腕を振るった豪華絢爛な料理が大量に並び、様々な種類のアルコールやソフトドリンクも余す所無く用意されていた。
「たくさん用意したから〜、いっぱい食べてね〜♪」
若菜が指差す方向には、テーブルに載り切れない大皿料理や酒瓶などがダイニングテーブルにまで溢れている。
三年振りに好きな男性(ひと)と過ごす七夕への期待度が、料理と酒にも現れているのだ。
ちなみに、一人掛けソファーに座った宏から見て左側ソファーには手前から晶、ほのか、千恵と座り、テーブルを挟んで右側のソファーには若菜、優、真奈美の順で座っている。
「こうして見ると、みんなで苦労して作った甲斐があったわね」
「……折り紙でチェーンを作ったり星を折ったりするなんて、久し振り」
ワイングラス片手に、どことなく嬉しそうに語る晶と優の視線は、例の特大サイズの笹竹に向けられている。
大きく横に張った枝には折り紙で作られた色とりどりの装飾用短冊や紙チェーン、金銀の星などがいくつも飾られ、夕焼けの朱一色に染まって揺れている。
「みんなで飾り付けもしたから、あっと言う間に出来ちゃったしね」
真奈美もカクテルグラス片手に満足げに目を細め、煌びやかな七夕飾りに見入っている。
そよ風に揺れて奏でる笹の葉の音が開け放たれたリビングの窓から流れ込んでは、みんなの七夕気分をより高めてくれる。
「俺はこっちの飾り付けも風情があって好きだな。家族揃っての行事、って感じがしてさ」
少年のように瞳を輝かせた宏がビアジョッキで示す方向には、リビングの隅で同じ飾りの付いたコンパクトサイズの笹竹(それでも高さ二メートル以上はある)が据え置かれ、主役である短冊が飾られるのを今か今かと待ちわびている。
宏自身、みんなと過ごす七夕を心待ちにしていたのだ。
「あたいは庭にある大きいのも好きだけど、こーゆー可愛いのも好きよ。お部屋に飾ってあるのも風流を感じるし」
千恵が取り皿に料理を取り分け、今日の主賓でもある宏に渡しながらリビングの隅に視線をチラリと向けて微笑む。
各個人の部屋にも、飾り付けの済んだ小振りの笹竹が飾られているのだ。
その言葉に同調したのはほのかだった。
「商店街にある大きな七夕飾りは『地域の祭り』って感じだけど、家の七夕飾りは落ち着いて、それでいて雰囲気があるからオレも好きだぜ。なんかこう……『家族の祭り』、って感じでさ」
切れ長の碧眼を細め、リビングに据えられた笹竹を楽しそうに眺める。
宏達六人もほのかの言葉に同感とばかり大きく頷き、みんな一緒に過ごせる幸せを噛み締めながら、綺麗に飾られた笹竹に暫し見蕩れるのだった。
「なぁ、宏の小さかった頃って、どんなんだったんだ?」
何度も乾杯を繰り返し、それぞれが宏との七夕宴会を心ゆくまで満喫していると、今回で二度目の参加となるほのかがみんなに切り出した。
波打つ金髪と長い手足、透き通るような白い肌に切れ長の碧眼と鼻筋の通った顔立ち。
モンゴロイドの日本人はもとより、欧米の超一流スーパーモデルすら太刀打ち出来無い美しさを誇る、今年二十五歳になる北欧生まれのハーフ美女。
そんなほのかが身に纏っているのは、襟が大きく開いた真っ白なタンクトップ(当然ノーブラだ♪)にデニムのマイクロミニスカート姿と、いつにも増して気合の入った服装だ。
なにせ、宏と一緒に過ごす七夕は三年振りなのだ。
去年おととしと、アメリカで職に就いていたほのかにとっては部屋着から着替える程、待ちに待った宴会でもあった。
(お〜、見てる見てる。さっきっから宏の視線をビンビンと感じるぜ! ムフッ♪ この服を選んで正解だったな)
タンクトップに浮き出た二つの突起やスラリと伸びた生足、そしてスカートの奥の白い布切れにチクチクと突き刺さる宏の視線も、ほのかにとっては天にも昇る程嬉しかった。
(少しでも好いから、オレを見て貰いたいからな♪)
腰まで届く長い髪を背中に払いつつ僅かに膝を広げてチラリズムを演出し、さり気無く大人の色気をアピールするほのか。
そんな力の入ったほのかのリクエストに応えたのは、幼馴染であり実家も隣同士である千恵と若菜の双子姉妹だ。
今年二十三歳になる姉の千恵は紫がかった黒髪をいつも通りにポニーテールに纏め、ピンク色のキャミソールにミニスカート姿だ。
キャミソールの下にはストラップレスブラが透けて見え、贅肉のない引き締まった八頭身の肢体が爽やかなお色気を振り撒いている。
妹の若菜は腰まで届くストレートの黒髪を今日は三つ編みにし、髪の先端を真っ白なリボンで縛っている。
水色のプリントTシャツにミニのフレアスカート姿で、白い肌の肉感的な太腿が艶かしい。
こちらの姉妹も宏から見られ、宏に見せる事を充分意識している服装だ。
二人はジョッキに注がれたビールを呷りつつ、昔の自分達に思いを馳せる。
「若菜が近所のガキ大将に苛められて泣いてると、直ぐに飛んで来て慰めてくれたのが宏なのよね〜」
「宏ちゃん、小さい頃から足が速かったから、すぐに駆け付けてくれたの〜♥」
「あれは……確か……あたいらが小学校四年か五年の頃だったかしら? その時はまだあたいよりずっと背が低くかったくせに、やっぱり男の子なのよね〜。近所に住んでた六年生のガキ大将相手に『わかねえをいじめるなっ、わかねえのしかえしだ〜』なんて言いながら殴り込みを掛けるのよ。相手が三つも四つも学年が上の相手なのにね」
大きな瞳を細めて当時を懐かしむ千恵の回想に、若菜も切れ長の瞳を輝かせて大きく頷く。
「そうそう。子供ながらに、その逞しさと優しさに惚れちゃったのよね〜♥」
「でもやっぱり身体の大きさが違い過ぎて、ガキ大将からあっと言う間に返り討ちにあっちゃってね〜」
「それで姉さんが宏ちゃんと私の分を纏めてガキ大将にリベンジして、終(つい)には年上の男の子の頭を下げさせたのよね〜」
ほのかは二人の想い出話を聞きつつ、千恵が姐御肌な性格だとは知っていたが、それは幼い宏を守る為にそうなったのだと初めて知った。
(そっか、千恵ちゃんの面倒見の好さは宏が原点だったんだな)
今も昔も変わらない宏の優しさと勇ましさの一端を垣間見て自分の事のように嬉しくなったものの、幼少の頃から深い繋がりを持つ千恵姉妹を羨むほのかだった。
「それじゃ、中学の頃の宏君って、どんな感じだったの?」
アルコールで目元を少し赤らめた真奈美がパナシェ片手に尋ねる。
宏と過ごす七夕はほのかと同じ三年振り二度目だが、前回は想い人といられる嬉しさに舞い上がっていたのでよく覚えていなかった。
なので、今回は気合の篭もった勝負服(?)に身を包んでいた。
一見、普通の白い半袖ブラウスを纏っているのだが、その透け方が半端ではない。
下着はおろか、肌理の細かい地肌まで透けて見えるのだ。
それはまるで雨に濡れたワイシャツを着ているかのようにハッキリとブラジャーのラインが浮き上がり、しかもレースの模様一つ一つや肌の質感までもが遠目に判り、まるでカラシリス――古代エジプトの衣装――を羽織っているかのようだ。
オマケに下半身に目を移すと、真っ赤なミニスカートからスラリと伸びる美脚には黒のオーバーニーソックスが装備され、宏のツボのひとつでもある絶対領域を何気に強調しているのだ。
当然、宏の視線も真奈美の肢体を上に下にと、忙しげに往復している。
(あん♥ 宏君の視線が私を犯してるぅ〜♪ このまま視姦されたら、アソコと身体が溶けちゃいそう)
勿論、見せるように仕向けた(若菜の入れ知恵もあった)のは真奈美なのだが、宏にはそこまで判らない。
ただただ、二十四歳の強烈なお色気に鼻の下を伸ばすだけだ。
そんないつになく積極的な真奈美のリクエストに応えたのは宏の従姉であり、同じ街に住んでいた晶と優の双子姉妹だ。
「ヒロはね……」
当時を想い出し、楽しそうに話す晶は部屋着のままのラフな格好だ。
額に巻いた薄緑色のヘアバンドは普段のままだが、腰まで届くソフトウェーブの髪を今日はポニーテールにし、ロングTシャツと股の切れ上がったホットパンツを纏っている。
しかもTシャツの裾がホットパンツを隠しているので下半身は何も穿いていないかのようにも見え、ムッチリとした白い太腿と相まって妖艶なお色気を醸し出している。
「小学校高学年から始めた陸上を中学に入ってからも続けたのよね」
「……ヒロクン、五年生の時から学校で一番足が速かった。中学に入っても上級生を差し置いて一番だった」
片や、妹の優はシャギーにしたショートヘアを小さく揺らし、蒼色のシャツにこちらもハイレグホットパンツ姿なのだが、前に並んだボタンの上三つを外していた。
そのお陰で慎ましやかな双丘の膨らみ(七十七センチのCカップだ)がチラチラと見え隠れし、二十五歳に相応しい匂い立つ大人の色香となって宏を直撃していた。
隙間から覗く、ブラに支えられたバストの柔らかい膨らみが問答無用で宏の股間を刺激するのだ。
「……ヒロクン、大会で走る毎に自己記録を塗り替えてった。それが市内で一番になり、地域でも上位にランクされていった。そんな頑張るヒロクンを見ているのが好きだった♥」
中学生だった宏を想い出した優が、僅かに頬を紅く染める。
どうやら当時高校生だった自分に心が移ったようだ。
そんな優の反応に、瞬時にシンクロしたのは晶だ。
晶も昔の自分に戻ったのか、酒だけでは無い赤味が頬を染める。
「そうそう。ゴールテープを最初に切るヒロを何度も見たくてね〜。大会がある毎に競技場へ通ったっけ」
と、ここで当時のあるひとコマを想い出した晶が千恵と若菜をチラッと見て、そしてニヤリと笑った。
その顔は宏が見れば悪魔の微笑みに見えただろう。
「その頃、ヒロはおフェラを経験したのよね〜♪」
「ブ――――ッ! ゲホゲホっ」
それまで大人しくみんなの話をニコニコしながら、時には恥ずかしげに聞いていた宏だったが、晶の爆弾発言に飲みかけたビールを思わず噴き出し、激しくむせてしまう(若菜が慌てて布巾片手にすっ飛んで来た)。
おまけに、姉と視線を交わした優が双子ならではの阿吽の呼吸で切れ長の瞳を妖しく光らせ、当時の情事(?)を嬉々として打ち明かす。
「……ヒロクンが中二の時で、ボク達が高三の時だった♪」
「そうそう♪ 初フェラして初顔射されて、同時に初ゴックン(精液を飲んだ事だ)出来て、幸せだったわね〜♥」
「……今でもその時のヒロクンの味、ボクは覚えてる♥」
懐かしげに遠い目をする晶と優に、即座に反応したのは千恵だ。
大きな瞳が見る間に吊り上り、ポニーテールが嫉妬のオーラでユラユラと蠢き始める。
そして色仕掛けの張本人ではなく、話のネタになっている宏に迫る。
それはまるで浮気を知った新妻が夫に迫るシーンを彷彿とさせた。
「ちょっとっ! それ、初耳っ! どーゆーコトよっ!? 宏っ!!」
「宏ちゃん〜、ずるい〜っ!」
若菜なぞ、手にした布巾をぶん回し、すでに涙目になっている。
もっとも、その瞳は嫉妬や先を越された悔しさではなく、自分が参加出来ずに悔しがる視線だ。
ほのかと真奈美は意外な展開に瞳を爛々と輝かせ、晶に続きをせがむ。
「確か――夏休みだったかしら。ヒロの部屋へ遊びに行ったらお腹出して昼寝してたのよ」
「……タオルケット掛けようとしたら、ヒロクンのアソコがモッコリと勃ってるのに気付いたの」
「で、ヒロの事をもっと知る好い機会だったから、ズボンを脱がせて――」
「……ボク達が剥いて――もとい、鎮めてあげたの♪」
「丁度、閨房術を学んでいた事もあってね〜。愛するヒロを使って実物のアレコレを確かめたかったのよ♪」
「……もちろん、ヒロクン以外の男には食指も動かない。ヒロクンだからこそ、見て味わいたかった♥」
今明かされる七年前の暴露話に、ほのかと真奈美は身体を乗り出して嬉々として聞き入り、宏は身体を小さくして恥かしがり、千恵はそんなに早くから抜け駆けしていたのかと怒るよりも呆れて目を白黒させるばかりだった。
(彦星と六人の織姫たち〜前編・了)

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[ お疲れ様です。 ]
久しぶりにほのぼの話でしたね(最後の方からはちょい話の方向が……w)
前編…といふことは、後編はやはり……ですか♪
Hの話もいいですけど、こうしたほのぼの系統ももっと読みたいですね。息抜きみたいな感じで……
[ いつもご愛読ありがとうございます♪ ]
きのさん
コメントありがとうございます♪
番外編はH度を抑え、ストーリー性を重視しております。
もっとも、最近は姉妹漫才に傾きつつあるような、ないような……(^^ゞ
ともあれ。
年に1〜2本は番外編をお送りして行きたいですね。
後編は……読んでのお楽しみ、と言う事で♪
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