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たとえばこんな学園物語~後編 たとえばこんな学園物語~後編 美姉妹といっしょ♥~番外編
 
 修学旅行六日目。
 学園生活最大のイベントも終盤に差し掛かり、各々が思い出作りに余念が無い中、若菜以下六人は今日もマイペースで朝食を摂っていた。

「宏ちゃん~、今日は大原へ行こうよ~。丁度、紅葉が見頃なんだって~♪」

 若菜が入麺(にゅうめん)を啜りながら笑顔を向けると、残りの面々も宏を見つめて大きく頷く。
 どうやらみんなの中では既に行き先が決定しているらしい。
 宏も三千院の紅葉は是非一度見たいと思っていたので、ニッコリ微笑んで快諾する。

「やったぁ~♪ だから宏ちゃんって、だ~い好きぃ♥」

 吉井女学園の二年生百数十人が集まる朝の食堂に若菜の済んだ声が響くが、生徒の誰もが若菜の台詞に反応しない。
 なにせブラコン若菜によるコント(?)じみた言動が毎朝毎晩目の前で繰り広げられれば、最初は面白がって見ていた他のクラスの生徒達もやがて飽きてしまう。
 今や若菜の言葉を微笑ましく思うだけで、そのままの意味で取る者など誰もいないのだ。

(慣れって、怖いわね~)

 千恵と晶は互いに見つめ合い、肩を竦めて苦笑する。
 これまで必死で若菜の言葉を打ち消して来た自分達がバカバカしく映ったのだ。

「それじゃ、今日も八時にロビーへ集合な♪」

「「「「「「は~いっ♥」」」」」」

 宏の掛け声に六人の息もピッタリだ。
 七人は手っ取り早く朝食を済ませ、四条河原町から大原行のバスに乗り込んだ。



「ここが大原で最も有名な三千院だ。テレビの紅葉中継で目にした事もあるんじゃないかな? この寺は平安京に遷都される六年前に比叡山に建立されたんだ。その後、移転を繰返し、明治になってから今の場所に移ったんだな。で、その時から三千院と呼ばれる様になったんだ」

 宏のプチガイドに耳を傾けながら、宏を囲む六人は山門(御殿門)から広大な敷地に足を踏み入れる。
 雲ひとつ無い青空からは秋の柔らかな陽射しが降り注ぎ、朝露に濡れた葉は紅、朱、赤、緋、黄の色鮮やかなグラデーションを奏でながら煌き、数少ない緑の葉が逆にアクセントになって七人の目を惹き付ける。
 境内は静寂に包まれ、自分達の息遣いや足音以外に、木々が風にそよぐ音や小鳥のさえずりしか聞こえて来ない。

「宏ちゃん~、有名な紅葉スポットの割には誰もいないね~。……まるで私達の為に遠慮してくれてるみたい~♪」

 周囲に首を巡らせた若菜は目元を紅く染め、そっと宏の右手を握る。
 自ら指を絡め、掌から伝わる温もりに若菜の心が躍り出す。

「えへへ♪ 夢が叶っちゃった♥」

「夢? ここで、こうして、歩く事が?」

 宏は辺りを軽く見回し、切れ長の潤んだ瞳を見つめながら握った手に軽く力を込めて、二人がこの場所で手を繋いでいる事を強調する。

「あ……。うん、うんっ!」

 宏の示した行動に若菜は瞳を大きく見開いて驚き、同時に宏への愛する想いが奔流となって胸から溢れ出す。
 それは一筋の涙となって頬を濡らし、堪(こら)えても堪えても止める事が出来無い。
 若菜は中学三年の時、テレビで見た三千院の紅葉の美しさが忘れられず、いつか紅葉舞い散る中を宏と手を繋いで歩きたいと、心密かに想っていた。
 その二年越しの想いが叶い、更には愛する男性(ひと)が何も言わなくても自分の心情を察してくれた事が何より嬉しく、胸が一杯になってしまったのだ。

「若菜……せっかくの化粧が流れるぞ?」

 涙の意味を悟った宏は微笑み、気分を落ち着かせ様と、わざと軽口を叩く。

「……バカ。私はいつもスッピンだよ~。そりゃ、ルージュ位は引いてるけど~」

 少し拗ねた口調で言ってみるものの、宏の暖かい掌と優しい瞳が若菜の涙をより誘ってしまう。
 宏は立ち止まると左手を若菜の頬に宛がい、親指でそっと涙を拭う。

「若菜は笑っている時が一番可愛いよ♥ ……まぁ、たまには今みたいな感動の涙も綺麗だけどな♪」

 若菜は微笑む宏の胸に額を押し付け、愛する男性(ひと)との心の触れ合いに、しばし時を忘れた。
 残された女性陣は幸せそうに身体を預ける若菜に心が温まり、次は自分にしてもらおうと密かに狙う。
 同時に、他人から目撃されない様に、さりげなく横に並んで壁を作る事も忘れない。

(好かったわね、若菜。願いが叶って♪)

(うんっ!)

 千恵の嬉しそうな視線に気付いた若菜は、泣き笑いの顔のまま大きく頷いた。
 その顔は学園で見る大人びた顔とは違う、まだ十七歳の、あどけなさが残る少女の顔だった。

「よしっ♥ みんな宏からラブラブパワーを充電した所で、次に行こうぜ♪」

 一番最後に宏に抱かれ、まだ温もりが身体に残る中、ほのかが長い金髪を輝かせながら破顔一笑して親指を客殿に向ける。
 宏達は日本庭園の聚碧園(しゅうへきえん)を屋内から眺め、続けて紅葉真っ盛りの有清園(ゆうせいえん)に歩を向ける。

「すっごく広いお庭ね~。……お手入れが大変そう」

 真奈美が妙な所に注目し、みんなから笑いを誘う。
 ここは高くそびえる杉木立の間に色とりどりの紅葉が生い茂り、まるで山の自然をそのままミニチュア化して持って来たかの様な造りになっていた。
 三段の滝組が池に流れ落ちる造形美に心が安らぎ、せせらぎの音が耳朶に心地好く響く。

「すっごく綺麗ね~♪ 清水寺や錦雲渓の紅葉も素晴しかったけど、この庭園の紅葉は建物との折り合いが凄く好いわ~♪」

 千恵が感嘆の溜息交じりに辺りを見回し、ほのかも日本庭園の巧妙さに息を洩らす。

「そうだな、まるでオレ達だけが平安時代にタイムスリップしたみたいだ」

「さしずめ、ヒロは光源氏、ってトコかしら♪ ……もう、そのものかもね♥」

 晶は可笑しげに口元を押さえて笑う。
 その瞳は真っ直ぐ宏に向けられている。

「おっ、源氏物語だな♪」

 晶に続いて曇りの無い澄んだ切れ長の碧眼に見つめられ、宏の鼓動が一気に早くなる。
 そんな宏に、優がジャケットの袖を引きながら見つめて来た。

「……でも、こっちの光源氏は女を不幸にしない。むしろ幸せに導いてくれている♥」

 言うが早いか、優の唇は目にも留まらぬ速さで宏の唇に近付き、重なった次の瞬間には離れてゆく。
 その余りにも見事なタッチアンドゴーに全員が目を見開いた。

「「ゆっ、優ちゃん、ずるい~~~~っ!」」

「ぬ、抜け駆け禁止って、自分が言ってただろっ!」

「いつの間に、あんなスキル手に入れたのかしら? 我が妹ながら、天晴れなヤツ♪」

「あん♥ 優ちゃんのお顔、真っ赤っか♪ この葉っぱと、どちらが赤いかしら♪」

 千恵と若菜が双子らしく同じタイミング、同じ抑揚で声が重なり、ほのかが碧眼を剥く。
 姉は微笑み、真奈美は声を上げて笑う。
 一瞬のキスに物足りなさを覚えた宏は人目の付かない大木の陰にひとりずつ誘い、これまでまともに触れ合えなかった鬱憤を晴らすかの様に心行くまで濃厚なキスを交わし、また彼女達も悦んで宏の唇を貪った。

「それじゃ、昼を摂りながら、次に行く場所を決めよっか♪」

 しかし、宏の問い掛けに誰も応える事が出来無い。
 六日間にも及ぶ禁欲生活だったところに、愛する男性(ひと)からの濃厚強烈なキスの洗礼を受け、全員腰砕けになってしまったのだった。


     ☆     ☆     ☆


 宏達一行はバスで京阪三条まで戻ると、三条通(さんじょうどおり)から先斗町通(ぽんとちょうどおり)を下(さが)って古い構えの茶屋を覘き、四条通から木屋町通(きやまちどおり)を上(あが)り、高瀬川沿いに植えられた柳並木の素晴しさに繁華街にいる事を忘れる。
 そして再び三条通から新京極通を下りつつ真新しいビルで京の民芸品を売る老舗などを冷やかし、今は錦小路(にしきこうじ)へと来ていた。
 宏の家で料理を担当する若菜と千恵、真奈美の三人が京都の台所と呼ばれる錦市場(にしきいちば)に是非とも行ってみたいと旅行前から計画していたのだ。
 新京極通から錦小路の目印である鳥居をくぐって市場に足を踏み入れると、真奈美と千恵が瞳を輝かせて店先に駆け寄る。

「うっわ~、京野菜があちこちでテンコ盛りになってるぅ~♪ どれも新鮮取れたてで美味しそう~♪」

「うわっ! 丹波産松茸がこ~んなに一杯っ。……値段も一杯で手が出せないわ」

 人の波で溢れ返る細い小路を右に左にジグザグに移動しながら、若菜も漬物屋の店先で試食品を頬張りながら瞳を輝かせている。

「これが千枚漬けで……こっちが京すぐき。しば漬けも味見してと……。ん~~~、どれも美味しい♪ 家(うち)用に買っておこうかしら~♪」

 宏達も一軒一軒じっくり眺め、時には試食品に舌鼓を打ちながら若菜達の後を付いてゆく。

「おっ♪ 若狭の笹カレイと鯖寿司だ♪ 宏の酒の肴に好さそうね♥ こっちは……九条葱に聖護院(しょうごいん)大根、堀川ごぼうに京にんじんか。鍋物や風呂吹き大根、きんぴらごぼうにしたら美味しそうだな♪」

「流石に、今が旬の野菜が多いわね。見るだけでも楽しいわ♪ ……あれ? このお店だけ誰もお客がいない? こんなに人通りがあるのに。……あぁ、千場吉蝶か。なるほど、どおりで♪」

 千恵は宏の好物を元にメニューを考え、真奈美は種類の豊富さに心弾ませる。
 料理が苦手な晶とほのか、家事全般が全くダメな優は、それでも古都の面影を残す市場に満足気だ。
 店先から漂う商品の香りに足を止めたり、威勢の好い呼び込みの声に引き寄せられたりと、七人は市場の雰囲気を存分に楽しみ、味わう。
 夕方の時間帯と言う事もあり、一目で判る観光客や外国からのお客様と同じかそれ以上の数で地元のお婆ちゃんや主婦、白装束に身を纏い、屋号の刻まれた竹籠に京野菜を詰めて先を急ぐお茶屋の料理人などが行き交う様は、正に京の台所だ。

「それにしても……こうも人が多いと、千恵達とはぐれそうだな。まぁ、若菜は千恵と真奈美が一緒だから大丈夫だろうけど」

 宏は背の高い若菜を目印にすれば、たとえ自分達と距離が開いても直ぐ見つかるから大丈夫だとタカをくくっていた。
 晶と優、ほのかも宏の傍にいればはぐれないと安心し、また市場の活気に釣られてつい周囲に対する警戒を怠ってしまった。

(おっと……。これだけの人出って、まるで年末のアメ横みたいだな)

 宏は向かって来る人を右に左にと身体を捻って避け、追い越す人に道を譲りながら頭ひとつ飛び出た若菜のあとを付いて行く。
 ところが、目印の頭が右に曲がって店に入ると思いきや、細い路地をどんどん上るではないか。

(おいおい、どこへ行くんだ? そっちは三条通だぞ?)

 何も言わずに進路変更する若菜を止めるべく、宏は斜め後ろにいる晶の手を握って小走りに後を追う。
 宏の頭の中では、晶はほのかの手を掴み、優も姉に従っていると思い込んでいた。
 ところが、宏が路地を曲がって前を見ると、若菜だと思っていた頭は同じ女性でも全く別人の頭だった。

(嘘っ!? 若菜じゃ無いっ!? それじゃ、あいつはいったいどこへ!)

 どうやら余りの人混みに、どこかで見誤ったらしい。
 宏は即行で携帯を取り出し、若菜の行方を追うとしたその瞬間。

「そんなに強く手を握られると、痛いわ♥」

 ここにいる筈の無い人物の声が直ぐ隣から聞こえて来た。
 その声に宏の鼓動は一瞬で跳ね上がり、目元と口角を引き攣らせながら恐る恐る顔を向ける。
 そこには頬を朱く染めた人物が立っていた。


     ☆     ☆     ☆


「ったく~、ヒロったらっ! あたしら残していったいどこへ行ったのよっ!」

 晶は宏を見失った場所から最も近い、錦小路と堺町通(さかいまちどおり)の交差点で毒づいていた。
 ほんのちょっとよそ見をしていたら、いつの間にか宏の姿が消えていたのだ。
 ほのかは自分の携帯電話から千恵の携帯電話に現在地を転送してすぐに集まる様に連絡し、優は宏の携帯電話の反応を追って携帯画面をみつめていた。

「千恵ちゃんに連絡付いたぜ。三分以内に合流出来るってよ。そっちは?」

 ほのかは優の携帯電話を覗き込み、現在地と宏の位置を見比べる。

「……今、衛星からデータを受信中……ヒロクン発見♪ 位置は……現在地より磁方位三百四十二度、距離百二十七メートル地点で目下停止中」

「だ~~~~っ!! もっと判り易く言ってっ! あたしらは軍隊じゃ無いっ!」

 どんな時でも冷静沈着な優に、宏を見失って冷静さを欠き始めた晶。
 そんな対照的な二人が可笑しく、ちょっとしたハプニングに心ウキウキのほのか。
 しかし、優は宏の居場所を示す、点滅する輝点が先程から全然動いていない事に眉をひそめる。

(……ヒロクン、動きが無い。何かトラブってる?)

 もし、宏もみんなとはぐれた事が判れば直ぐに連絡が来る筈だし、お互いGPS携帯を使っているので相互の位置関係も把握出来、合流も簡単な筈だ。

(……それとも、学園の生徒に捕まっているのか、あるいは指導しているのか。担任として仕事を終えれば連絡しながらこちらに向かう筈――)

 万が一、誰かがはぐれた時は気付いた地点から動かず、宏から連絡を入れる様に前もって決めていたのだ。

「優っ! ヒロはっ!? こっちに向かってるんでしょうねっ!?」

 姉の怒りの篭もった鋭い声が妹の思考を中断させる。
 晶は自分達のデートが中断されて御機嫌ナナメだし、優も楽しい雰囲気から一転、雲行きが怪しくなったので気分的に面白くないのは一緒だ。

「ちょっとっ! 宏が行方不明って、どう言う事っ!?」

「宏君とはぐれちゃったのね? でも携帯は通じるんでしょ?」

「宏ちゃん、大人なのに迷子になるなんて、まるで子供みたい~♪」

 千恵は血相を変え、真奈美は普段通りの顔で駆け付けた。
 若菜は自分が子供だと言う事も忘れ、大人である宏を笑い倒す。
 ほのかはそんな三者三様の反応にお腹を抱えて爆笑し、直ぐに晶と千恵から笑い事では無いとド突かれる。

(……ヒロクン)

 優は暫く携帯画面を見つめていたが、一向に連絡は来ないし輝点も全く動かない。
 これはもう、宏は連絡が出来ず、動けない状況にあるとしか思えない。

(……ヒロクンに、何か非常事態が起きているっ)

 急速に高まる胸騒ぎに、優は自分の考えをみんなに聞かせつつ先頭に立って歩き出す。
 と、ここで初めて宏の輝点が北へ向かって移動し始めた。
 それはこの錦小路から遠ざかる方向だし、宏が自分達を差し置いて何処かへ行く事など有り得ない。

(……これは……仕事じゃないっ! ヒロクンっ!)

 優は後ろに率いる五人を綺麗すっかり忘れ、宏のいる方向へダッシュした。


     ☆     ☆     ☆


(っっ!! な゛っ!! なんでっ!? どうしてっ!?)

 宏が手を握っていたのは晶でも優でもほのかでもなく、学年主任であり、宏の上司である夏穂だった。
 宏の頭の中は一瞬で真っ白になり、言葉も何も出て来なくなる。
 夏穂を指しながら目を見開き、金魚みたく口をぱくぱく開閉させるだけだ。
 そんな宏の顔が余程可笑しかったのか、夏穂がお腹を抱えて笑い転げる。
 その笑い声は錦市場の喧騒にも負けなかった。

「それじゃ、宏クン、行こうか♪」

 ひとしきり笑った後、夏穂は握られた手をそのままに宏を引きずって三条通へ向かって歩き出す。
 進行方向には「カラオケ・ジャグジー・舞妓のコスプレ衣装付き個室完備。只今サービスタイム中♥」と書かれた看板が昼間なのに目立つ程、これでもかと光っている。

(って、おいおいおいっ! このパターンはっ!)

 既視感に囚われた宏は空いた片手で頬を叩き、自分で喝を入れると夏穂の手を離す。
 自分から握っていた事にようやく気付いたのだ。
 立ち止まった宏に夏穂は残念そうな顔になり、怨めしげな瞳に涙を浮かべて上目遣いに見つめて来る。

「う゛っ! あの、その……」

 そんないじらしい(?)夏穂を見ていると、自分は何もしていなくても悪い事をしたかの様な錯覚に陥ってしまう。
 宏は思わず元来た方向へ後退りし、夏穂から距離を取ろうとした。
 しかし、今度は夏穂が宏の手を握り返す。
 潤んだ瞳で宏を見つめ、訴え掛ける様に縋り付く。

「宏クン、私と、一緒に、来て♥ もう、我慢、出来ないの♥」

「あの、夏穂先生? 今日は書類作成で、ずっと宿に篭もりっ放しだ、って朝、言ってませんでしたっけ?」

 何とか夏穂の毒牙を避けつつ、左右に視線を走らせて逃げ道を探す宏。
 そんな宏の考えはお見通しよ、とばかり身体ごと擦り寄って逃げ道を塞ぐ夏穂。

(あ、ヤバイっ。勃って来ちまった……)

 宏は夏穂から漂う柑橘系の香水に包まれ、おまけに綺麗な顔立ちの潤んだ瞳に見つめられて観念し、同時に今まで大人しかった『男』に血液が急速充電されるのが判った。
 夏穂は宏の身体から力が抜けた(一点だけ硬くなった)事に満足気に微笑み、宏と一緒に一歩を踏み出した所で。

「ヒロクンっ!!」

「くぉらっ! あたしのヒロにナニすんじゃぁ~っ!!」

 GPS携帯の恩恵に預かり、地図機能を利用して先回りした優と晶の姉妹は仁王立ちになって教師二人の進路を阻む。
 優は宏の無事な姿が確認されて安堵した顔で、晶は夏穂の抜け駆けに憤慨した顔で。
 千恵達も少し遅れて駆け付け、呼吸も荒いまま色ボケ夏穂(元町でのイメージが頭に残っていた)を睨み付ける。
 すると、夏穂は待ってましたとばかり、大きな声で楽しげに笑い出した。

「あの……夏穂先生?」

 何とも場違いな高笑いに一同が呆気に取られる中、気を取り直した宏が首を傾げながら学年主任を見つめる。

「みんな揃って相変わらず仲が好いわねぇ。……私が宏クンと、どこに行くと思ってたの?」

「どこって……、あの……光り輝く看板の所……」

 薄っすらと笑みを浮かべた夏穂の問いに真奈美が指差す方向には、どう見ても寺院にしか見えない造りのラブホテル。
 夏穂は口元を両手で押さえながら笑いを堪(こら)え、心底楽しげにみんなを見る。

「その正面にある『ドラッグストア~ヤマモトキヨシ』って言う選択肢は、無かったのかな~?」

「へっ!? ドラッグ……」

「……ストア?」

 双子らしく、台詞を二分してもスムーズに話す晶と優。
 みんなの視線の先には、寺院風ラブホテルの真向かいに建つ、正面が金色に塗られ、全国チェーンで有名な建物がひとつ。
 晶と優は目と口をポカンと開け、毒気を抜かれた様な、魂までも抜かれた様な呆然とした顔だ。
 姉妹のこんな顔は、学園はおろか家でも誰も見た事が無い。

「そんなに驚く事じゃないでしょ?」

 夏穂は両手を腰に当て、胸を反らして得意気にネタばらしをする。

「もう、昨夜も徹夜よ、徹夜! 二晩夜通しで書類作成だなんて、うら若き乙女がする仕事じゃ無いわよねぇ~。目は充血して潤むし、眠気は四六時中襲って来て我満出来無くなるわ……。で、気分転換に携帯いじってたら宏クンの反応がすぐ近くに現れたから、逢いたくなって仕事を放り出して来ちゃったの♪」

 ここにも、GPS携帯の恩恵を授かった女がひとりいた様だ。

「な~んてね♪ 仕事なんて、とっくにお昼までに仕上げたわよ。でも、携帯で宏クンの居場所を追っていたのはホントよ♪ それで眠気覚ましのドリンク剤を買うついでに宏クンの顔を見ようと思って後を付いていったの。そしたら、いきなり宏クンが私の手を掴んだかと思うと同時に走り出して……」

 大きな瞳をハート型にして回想する夏穂。
 頬を赤く染め、恥らうその姿は恋する女子高生となんら変わらない。

「遂に、宏クンが私の想いに応えてくれたのかと思って、嬉しかったわぁ~♥」

 うっとり悦に浸る夏穂に、事の顛末に呆れて何も言えなくなる七人。
 宏はハタと気付き、確認してみる。

「それじゃ、ずっと俺の……私の後ろにいたんですか? 私達が錦市場に来た時から?」

 にこやかに頷く夏穂に、してやられた顔付きの晶と優。
 教師全員がGPS携帯で連絡を取り合っている事を今の今まで失念していたのだ。
 当然、宏の居場所は学年主任の夏穂に筒抜けになっていた筈だ。

「ハ~イ、先生♪」

 と、ここで若菜が大きく手を上げ、小さく首を傾げつつ夏穂に尋ねた。
 それは生徒が先生に質問をすると言うよりも、宏の女として、宏に好意を寄せる女に対する質問だった。

「夏穂先生は~、宏ちゃんの事が好きなんだよね~? でも、宏ちゃんに既に決まった女性(ひと)がいたら、どうするの~?」

 直球ど真ん中の問いに、その場にいる晶、優、ほのか、真奈美、千恵の五人は固唾を飲んで見守る。
 夏穂はそんな五人にふっ、と微笑むと、何の躊躇いも無く答えた。

「それは……あとで本人に直接答えるわ♪」

 拍子抜けした六人の女生徒の視線と女教師の視線が絡み合い、そのまま向きを変えて宏へ突き刺さる。
 宏は思わず左右を見回し、その視線の行き先が他にあるのではないかと探してしまう。

「俺に……どうしろって?」

 力無くうな垂れた宏に、晶は何で直ぐに断らないのよっ、と頬を膨らませ、千恵と真奈美、優の三人は同情の眼差しを向け、ほのかは男女のサスペンス(?)に瞳を輝かせ、若菜は夏穂の答えに、ひとり納得したかの様に頷いている。

「今日は、もう帰ろう……」

 夏穂に振り回され、微妙なプレッシャーを全身に浴びて疲れ切った宏は女性七人に支えられ、手を引かれ、背中を押されてホテルに戻った。


     ☆     ☆     ☆


「宏クン、ちょっと……話たい事があるの。時間、いいかしら?」

 修学旅行も残すは、あと一日。
 明日の午後には帰京するとあって、生徒達は頼まれたお土産や明日行く場所のチェックに余念が無い。
 そんな慌しくも華やかな雰囲気の中、若菜やほのか達と夕食を終えてホテルのロビーでくつろぐ宏の元へ、夏穂が窓から見える鴨川を指し示しながらやって来た。
 その眼差しは幾分潤み、普段の明るく聡明な瞳とは違って何かを抱えている様にも見える。

「いいですよ。門限まであと三十分はあるし」

 宏は時刻を確認するとすぐに頷き、一緒にいた晶達六人に「すぐ戻るよ」、と片手を挙げ、夏穂と一緒に外へ出てゆく。
 残された晶達は夕方の一件が頭をよぎり、大きく頷くと二人の後をこっそりと(しかし美人女子高生が六人もいるので目立まくっていた)追った。

「あのね、宏クン……」

 ホテル前の四条大橋を渡った夏穂と宏の二人は、肩を並べて鴨川に沿う土手をゆっくりと歩いていた。
 中空には満月が浮び、銀色に降り注ぐ淡い光が優しく二人を包み込む。
 土手の斜面からは虫の奏でる音楽が二人を先導し、川のせせらぎが二人の距離を自然と近づける。
 夏穂は勇気を振り絞り、溜まりに溜まった想いの丈を宏の瞳に向かってぶつける。
 今夜が最初で最後の、そして最大のチャンスだと思ったのだ。

「あのね、宏クン。私は……貴方の事が好きなの。ひとりの女として、宏クンを愛しているのっ」

 澄んだ声が辺りに響き、木霊となって京の街に溶け込んでゆく。

「初めて出逢った七年前から、貴方を好きになったの。今年の春、四年振りに再会した時も、私の想いは変わらなかった……」

 夏穂の一途な想いが、月明りと共に宏の心に染み渡る。

「か……夏穂先生」

 恩師でもあり、先輩教師からの冗談では無い、真剣な告白に宏は驚き、足を止めてしまう。
 元町や今日の錦市場での出来事は冗談めいていたが、ここまで真剣な瞳では無かった。
 しかし、憧れの存在として心の隅にいた女性から真摯な想いを告げられ、宏の胸は次第に熱くなる。
 早まる鼓動のまま視線を向けると、夏穂も熱い瞳で宏を見つめていた。

「七つも年が離れているけど、貴方を想う気持ちは誰にも負けないわ。私は昔から……貴方が高校に入学した時から貴方だけを見つめていたの」

 そっと握られた掌からは、純粋で一途な想いだけが伝わって来る。

「その宏クンが私の勤める学園に着任して来た時、これはもう運命だと思った。赤い糸で結ばれているんだと思って凄く嬉しかった。その晩は眠れなくなる程に」

 夏穂は両手で想い人の右手を掴むと、そのまま自分の胸に包み込む。

「普段、もっと素直になれたら好かったんだろうけど、照れもあってつい……。学園では意地悪な事をいっぱいしちゃったし、四日目の巡回とか、今日も、ね♪ ……でも、心の中では心臓が爆発する位、ドキドキしてた」

 夏穂の潤んだ瞳が宏を捉える。
 その言葉が嘘では無いと、右手から伝わる鼓動の早さが証明していた。
 宏は夏穂の瞳の中に吸い込まれる感覚に陥る。

「夏穂先生……。正直嬉しいです。俺も、昔から夏穂先生に憧れてましたから。でも、俺にはもう……」

 続け様とした言葉も、激しく首を横に振る夏穂に遮られてしまう。

「宏クンに好きな女性(ひと)が何人いても構わない。私も一緒に貴方の傍にいさせて欲しいの……。もう、ひとりで慰める夜は嫌なのっ」

 夏穂は宏が学園に着任して来た当初から、若菜を始め晶や千恵達が宏を見つめる視線が他の生徒と全く違うと気付いていた。
 それは一般の女生徒が持つ憧れや恋に恋する視線とは違い、互いが互いを思い遣る、円熟した夫婦でしか有り得ない慈愛に満ちた視線だった。

「若菜ちゃんの言動は、どう装っても兄妹のそれとは違って見えていたしね。そして、事ある毎に庇う晶ちゃん達も巧く誤魔化していたみたいだけど、私には判っちゃったの。なんて言うか……女の、ライバルとしての勘、かしら。初日に清水の舞台であなた達を見ていて完全に確信したの」

 夏穂は教師である宏が生徒である晶達と尋常で無い間柄にあると確信しても、ひとり胸の内にしまっておいた。
 これからも同じ学園で一緒に教鞭を取る事を切望したから。
 同時に、宏の傍にいさせて欲しいと願う自分に気付いたから。

「えっ!? それじゃ、あの時感じた視線は夏穂先生だったんですか……。それでも、学園には黙ってくれていたんですね……。ありがとうございます」

 続け様に発せられる夏穂からの告白に宏は驚き、そして深々と頭を下げる。
 しかし、まさか夏穂が自分に対し、ここまで真剣な恋心を抱いていたとは思いもしなかった。
 鈍感な宏は、職員室や学園内での夏穂の素振りの意味に全く気付かなかったのだ。

「夏穂先生の仰る通り、千恵と若菜が私の妹、と言うのは表向きの偽装工作です」

 宏は自分の口から詳細を打ち明ける。
 それが真剣に向き合ってくれた夏穂に対する、最大の礼儀だと思ったのだ。

「晶達六人は十六歳になると同時に、私と一緒に住み始めています」

 宏は千恵姉妹とは実家が隣同士の幼馴染である事、晶姉妹は自分の従妹である事、ほのかと真奈美は中学生だった晶姉妹を介して知り合った事など、事細かに説明する。

(夏穂先生……)

 元々、夏穂を高校生の頃から『綺麗なお姉さん』として好ましく思っていた事もあり、内情を明かすうちに宏の中で遠い憧れの存在から晶達と同じ愛しい存在へと変化した。
 目の前で儚げに立ち尽くす夏穂を、この腕で強く抱き締めたい程に。
 夏穂を見ると、自分を見つめる潤んだ瞳は月明りで煌いていた。

「夏穂……先生……」

「いやっ! 今は……今だけは夏穂、って呼んで♥」

「……夏穂」

 二人の想いが止め処も無く溢れ、ひとつに交じり合う。
 この時ばかりは、宏の中から晶達六人の面影が消えかかる。
 川面には月光に照らされて寄り添う二つのシルエットが映り、やがてゆっくりとひとつに重なってゆく……。
 そう思われた次の瞬間。

「あたしに隠れてナニしてんのよ~~~~っ!!」

 物陰に身を潜めて(しかし通行人からは丸見えで余りの怪しさに通報されかかった)二人を窺っていた六人が飛び出して来た。
 度重なる夏穂の抜け駆けに我慢出来なくなった晶を先頭に、嬉しそうに笑っている若菜とほのか、諦め顔の千恵と真奈美、そして全てを悟ったかの様な優が一直線に向って来る。
 しかも全員、スカートがひるがえり、下着が見える事もいとわず全力疾走だ。
 二人は顔を見合わせ、慌てて離れるが既に時遅し。
 鴨川に晶の怒号が響き、煌く星空に吸い込まれてゆく。

「あ~あ、やっぱり見つかっちゃった♪ 残念」

 余り残念そうには見えない夏穂の横顔に、宏も釣られて笑い出す。

「ちょっと、ヒロッ!? 笑い事じゃ無いでしょっ! なに浮気してんのよっ!!」

 学年主任……と言うよりも浮気相手を目の前に感情を露にして完全に素に戻った晶が大きな瞳を見開いて宏に迫ると、宏は晶の引き締まった腰に両手を回して抱き寄せる。
 その余りの自然な動きに抱かれた晶でさえ、最初何をされたのか判らなかった。

「って、ちょっと、ヒロッ! 夏穂先生が見てるっ……んんっ!!」

 晶の慌てふためく言葉は宏の唇で塞がれ、晶の怒りや戸惑いごと宏が吸い取ってしまう。
 宏はそっと唇を外すとみんなに視線を向け、夏穂にこれまでの経緯や自分達の関係を話した事を伝えた。
 そして、自分の夏穂に対する気持ちも正直に伝える。

「オレは宏に付いていくだけだ。宏を愛しているからな♥」

「宏君、夏穂先生も私達と同じく、大事に愛してね♪」

「まぁ、宏がそう言うんなら、あたいは従うだけね♥」

 一瞬、上役である夏穂にバラして大丈夫なのかと危惧するが、ほのか、真奈美、千恵はすぐに破顔する。
 日頃の夏穂を見ていて、姑息な真似はしないと判っているからだ。
 若菜と優は無条件で宏を支持しているので、終始笑顔を浮かべたまま頷く。
 それに、夏穂の事は教師としてもひとりの女性としても、みんな元々好きなのだ。
 一方、晶は新たな展開に戸惑い、逡巡してから大きく息を吐き、笑顔を向けた。

「あたしも、この若さで馬に蹴られたくないしね♪」

 夜の鴨川に、月明かりをも揺るがす歓喜の声が上がった。


     ☆     ☆     ☆


 修学旅行最終日。
 この日は宏達の輪に夏穂が新たなる一員として加わった記念として、宏は七人をとある場所へと案内した。
 平安時代さながらの家並みが連なる中を、女性陣は宏を囲む様に歩いてゆく。

「ねぇ~、宏ちゃん。ここって祇園だよね~。ここに何かあるの~?」

 若菜が首を捻って宏を見ると、腰まで届く漆黒の長い髪がサラサラと背中を滑り、それに合わせてシャンプーの甘い香りが風に乗って宏の元へと運ばれて来る。

「旅行の初日に通ったけど、舞妓さんを遠くに見掛けた位で、特に何も無かったような……。千二百年前の町の雰囲気を味わうには絶好な場所だけど♪」

 千恵が首を傾げて宏を見ると、頭の高い位置で縛ったポニーテールが左右に小気味好く揺れ、それに合わせてリンスの爽やかな香りが辺りに漂う。
 二人が頭を動かす度に嗅ぎ慣れたシャンプーとリンスの匂いが宏の鼻孔を刺激し、思わず風呂上りの情事を思い出してしまう。

(って、今はそれよか大事な用があるし)

 宏は煩悩を振り払い、前を見据えて歩き続ける。
 ほのかは陽の光りに煌く金髪を片手で払いながら心底楽しそうに瞳を輝かせ、千恵姉妹に軽くツッ込みを入れる。

「まぁまぁ、黙って宏に付いて行けば好いんだよ♪ お楽しみは最後まで取っておかなきゃな♪」

「みんなで大っぴらに歩けるだけでも空気が違うわ……。なんか解放された気分♪」

 片や、満面の笑みを浮かべた真奈美は青空に向かって大きく伸びをし、ゆっくりと深呼吸する。
 これまでの様に生徒としてでは無く、ひとりの女として宏と京の街を歩いているので気分上々なのだ。
 それは他の面々も同じだった。
 学年主任である夏穂に自分達の事情が明かされた事で一時的とは言え、素の自分のまま宏の隣を歩ける開放感に浸っているのだ。
 たとえ学園の誰かに見つかったとしても『親衛隊』で済むし、今では学年主任が味方に付いているので言い訳は簡単だ。

「だからって、あんまり人前でイチャイチャしないでね。言い訳するのも、結構面倒臭いんだから」

 緩いウェーブの掛かった黒髪を白のヘアバンドで留めた晶が眉根を寄せ、若菜とほのかを指差す。
 名指しされた二人は頬を膨らませて文句を言い、みんなから笑いの渦が起きる。

「……大丈夫。見つかる危険は今の所、低い」

 優は、まだ文句を言い続ける二人を安心させる情報を出す。

「今現在、この附近……半径二キロ以内にクラスメイトの影は無い。巡回の先生も……ここにヒロクンと夏穂先生がいるだけで、あとは……洛北と洛西、洛南に各一人と……阪神地区に一人が展開中。残る二人はホテルで待機してる」

 今やすっかりお馴染みになったGPS携帯で危険因子(?)をチェックしていたのだ。

「生徒達の居場所なんて、何で判るんだ?」

 感心する宏の問いに、優ははにかみながら携帯画面を指差してネタばらしをする。

「……これ。緑の点がヒロクン♥ 黄色がクラスメイト。地図上に常に表示して位置が判る」

 そこには京都市の地図上に赤、黄、緑の三種類の輝点が点滅し、移動していた。
 なんでも、優の携帯に登録されているクラスメイトの電話番号からその携帯の位置情報が判り、地図と併せる事で対象とする携帯電話の位置が――すなわち相手の居場所が判るのだと言う。

「先生達の情報は? ちょっとやそっとじゃ携帯情報なんて手に入らないぜ?」

 碧眼を細めたほのかが、興味深げに首を突っ込んで来た。
 とことん面白い事に、本能的に嗅覚が働くのだ。
 優は夏穂に視線を向け、あっさりと情報源を明かす。

「情報戦を制する者が明るい将来を築くのよっ!」

 夏穂が吹っ切れた様に叫び、その言葉を裏付ける赤い点がホテルの位置に二つ、市内に三つ点滅し、移動している。
 優によると、昨日のうちに夏穂から引率教師の携帯情報を教えられたと言う。
 そうすれば、どこにいても学園関係者と鉢合わせする危険性が激減し、宏との逢瀬がより安全に過ごせると目論んだのだとか。
 いわば、内部情報を夏穂がリークした形だ。
 どうやら宏へ長年の想いを吐き出し、より自分の気持ちに素直になれたらしい。

「まぁ、役立つ情報なら、有難く頂戴するけど♪」

 晶は超一級極秘情報を入手して御機嫌だが、そんな事をして大丈夫なのか心配になった宏は思わず足を止めて夏穂を見つめる。
 宏の携帯には学年主任である夏穂と校長、教頭の三人しか登録していない。
 教員は鉄壁な縦社会で、横の繋がりは殆ど無いのだ。

「大丈夫。心配いらないわ♪ コントロール出来無い情報じゃ無いもの。扱う者がしっかりしているから外部に漏れる心配は無いし、当事者にも迷惑は掛からないわ♪」

 優を見つめる夏穂の視線は、すっかり信用し切っている視線だ。
 宏の知らない所で同じ男を愛する者同士、すっかり信頼関係が出来上がっているらしい。
 夏穂の配慮に宏は感謝し、心の中で深々と頭を下げた。



「ほら、この店だよ。今日の目的地」

 宏は祇園の中心に程近い、細い裏路地に入って更に奥へ進んだその先にある、平安の匂いを感じさせる堂々とした佇まいの屋敷に躊躇無く入ってゆく。
 晶達は身に纏ったセーラー服と店構えのギャップに戸惑い、互いに顔を見合わせながら宏の後に続く。

「それじゃ、俺はここで待っているから、みんなは店の人に従ってね♪」

 玄関の隣に設えられた小部屋で、宏は女性陣を店のスタッフへ預ける。
 夏穂をはじめ、晶達は何をするのか判らないまま店の奥へと案内された。
 そして待つ事一時間。

「すっごく……綺麗だ。見違えたよ……♥」

 宏の目の前には七人の舞妓(まいこ)さんが立ち並んでいた。
 ぽっくりの下駄、だらりの帯、自前の髪(セミロングヘアの夏穂とショートヘアの優は鬘(かつら)だ)で結った日本髪、紅葉や銀杏(いちょう)をあしらった花簪(はなかんざし)……。

「みんな……素晴しい」

 宏は余りの華やかさに目を見開くだけで言葉が出てこない。
 晶は大人びた黒色を、優は落着いた蒼色を、ほのかは淡い桜色を、真奈美はシックな藍色を、千恵は華やかな朱色を、若菜は鮮やかな紅色を、夏穂は明るい薄緑色をそれぞれ基調にし、紅葉柄をあしらった振袖に身を包んでいた。
 その想像以上の美しさに宏は勿論、着付けを担当したベテランスタッフでさえ時間を忘れ、息をするのも忘れて魅入ってしまう。
 本来、舞妓は芸妓の見習いを指す言葉なのだが、その堂々たる姿はとても見習いには見えない。

「……あの、ヒロクン? ここって……」

 初めて着る振袖と鬘に照れながら優が尋ねる。
 その言葉に残りの六人も頬を染めた顔を向ける。

「驚いた? ここは、観光客向けに舞妓さんの格好になれる所なんだ♪」

 綺麗処を目の当たりにして、徐々に鼓動が早くなる宏。
 普段の夏穂や晶、若菜やほのかの美しさに見慣れているとは言え、着物を纏った美しさはまた格別なのだ。
 千恵や真奈美、優の着物姿も新鮮に映り、改めて惚れ直してしまう。
 しかし一人だけ顔を俯け、着物と帯を見下ろしながら自信無さそうに呟いた者がいた。

「なぁ、半分外国人のオレでも少しは似合ってるのか? 金髪碧眼のオレでも?」

 ほのかの自嘲気味な声に、宏(と店のスタッフ)は即座に首を横に大きく振り、心からの賛辞を贈る。
 更に他の女性陣からの称賛もあって、徐々に満更では無い顔付きになる。

(着物って、日本人専用の衣装と思ってたからな。オレでも着る事が出来て、好かった♪)

 もっとも、宏からの嘘偽りの無い言葉ひとつで、いつもの明るいほのかに戻ったのだが。

「あれ? そう言えば、白塗りはして無いんだ?」

 みんな色鮮やかな紅(べに)は差しているものの、白塗りの厚化粧はせずに素顔のままだった。
 宏の疑問に、店長が苦笑しながら耳打ちする。
 なんでも、白塗りをした所、余りの変わり様に自分とは思えなくなったので全員が辞退したと言う。

「なるほど。確かに顔が真っ白になっちゃって、誰が誰だかパッと見じゃ判んないからねぇ~」

 思わず声を上げて笑う宏に、晶が眉を吊り上げて噛み付いた。

「笑う事無いでしょっ! 白塗りすると、みんな同じ顔に見えちゃうんだもんっ!」

「そうなのよね~。やっぱ素顔のまま、この姿を宏に見せたいもの♥」

 千恵が目元を紅く染め、上目遣いに見つめて来る。
 みんなも同じ想いなのか、頬を朱く染めて同じ目線で見つめる。

「あ……ありがとう。その……凄く嬉しいよ♥ うん、みんな綺麗だ♪」

 七人の舞妓さんに見つめられ、全身を赤く染めた宏の可笑しさに店内は笑いの渦に包まれた。
 笑いのタネにされた宏は名誉挽回とばかり、ここでちょっとした舞台裏を披露する。

「因みに着物は辻が花、帯は西陣の錦にして貰ったんだ♪」

 ブイサインを掲げる宏の自慢気な態度に、息を呑んで反応したのは教員生活八年目の夏穂だ。
 顔を思いっ切り引き攣らせ、震える指先を宏に向ける。

「ちょっ、ちょっとっ!! そ、そんなっ……超高級品のレア物をっ! ……ウチらが着ても……いいのっ!?」

 声が裏返り、蒼ざめた様子に、晶とほのか、千恵姉妹に真奈美が首を捻る。

「そんなに高い物なのか? この着物」

 袖を摘み、あっけらかんとした五人に夏穂は自分が年上と言う事も忘れて声を荒げた。

「しっ、知らないのっ!? この帯一本だけで、ウチの年収を軽くオーバーするのよっ! それに、着物は国宝級っ……! それが人数分っ……!!」

 社会人だけあって物の価値を知る夏穂は、余りの興奮に顔を赤らめ、言葉が詰まってしまう。
 そこに、若菜が知ってか知らずにか調子を合わせた。

「それじゃ~、七人分の帯と、七人分のお着物とを合わせると~、田園調布の駅前に、広~いお庭のあるプール付三階建てのお家(うち)が一軒、土地付きで建てられたりして~♪」

 若菜は軽い冗談で言ったつもりだったが、にこやかに頷く宏に、にわか舞妓六人が一瞬で顔を強張らせて固まってしまう。
 言った本人でさえ、まさかそこまでの価値があるとは思いもしなかったのだ。

「……辻が花の値段は一枚で最低億単位で、国立博物館に国宝として展示されてる。帯も千万単位に近い数字」

 更に追い討ちを掛ける様に、博識の優が可笑しさを堪(こら)えつつ若菜の言葉を肯定する。
 鳩が豆鉄砲を食った様な姉達の表情が面白かったのだ。
 すると、改めて値段を知った夏穂と着物の価値を初めて知った五人娘は一歩も動けなくなった。
 そんな上等な着物、埃ひとつ付けられないし、とてもじゃないが着たまま外なぞ歩けない。
 ましてや甘味処での飲食など絶対に出来無いし、出来たとしても味など判らないだろう。

「ぷっ! あははははは~~~~っ♪」

 一瞬でお地蔵様と化した女性陣の可笑しさに、宏は腹を抱えて笑い転げた。
 今度は宏がみんなを笑いのタネにしたのだ。

「そんなに身構えなくても大丈夫だよ。みんなが着ている振袖や帯は本物だけど、観光用に用意された物だから♪」

 宏はみんなを安心させると、更に心の中で小さく呟く。

(それに、万が一汚れても、ちゃんと保険が効くんだよね~♪)

 宏は七人の舞妓を率いて色付く秋の祇園散策を楽しみ、七人の舞妓も宏と共に時間一杯まで古都の風情を堪能した。


     ☆     ☆     ☆


 修学旅行も無事終了し、一週間の旅行休み期間中。
 宏の家では新たな展開を迎えていた。
 夏穂が身の回りの荷物と共に宏の許へ転がり込んだのだ。

「で、何で夏穂先生がヒロの部屋にいるのよっ! 貴女の部屋は二階でしょっ!!」

 額に青筋を何本も浮かべた晶が指を突き付けながら声を荒げる。
 宏の部屋は何人(なんぴと)と言えども、不可侵条約が結ばれた中立地帯なのだ。
 だのに夏穂は胡坐を掻いた宏の背後から首に両手を回し、豊満な肉体を誇示するかの様に抱き付いていたのだ。
 千恵は同感とばかり目を剥いて何度も頷き、真奈美と若菜は夏穂の英断にエールを送り、優はこの展開を予想し、ひとり莞爾とする。
 しかし夏穂は年上の余裕か、晶達の眼力を物とも思わず宏にしな垂れ掛かる。

「あ~ん、宏クン♥ 小姑が新妻を虐めるぅ~♪」

「だっ、誰が小姑よっ!!」

「だっ、誰が齢(よわい)三十の新妻じゃっ♪」

 怒れる晶と笑うほのかのツッ込みを右から左へ受け流した夏穂は、宏の顔を両手で挟むと自分に向かせて唇を重ねる。

「「「「「「あ~~~~っ!!」」」」」」

 六人の悲鳴が重なり、部屋は一気に修羅場と化す……かに思えた次の瞬間。

「「「「「「あははははは~~~~っ!!」」」」」」

 今度は六人による笑い声が湧き上がる。
 これには流石の夏穂も唖然とし、今迄に無いパターンに大きな瞳が不安感で揺れ動く。

「ったく、回りくどい事しちゃってまぁ。素直に『宜しく』って言えば好いのに♪」

「そうそう♪ この家(うち)で遠慮してたら、何も出来無いぜ♪」

 笑いを堪(こら)える晶に続いて、ほのかがウィンクしながらサムズアップする。

「夏穂先生って、案外シャイなのね。……意外だわ♪」

「普段は肩書きとか、人の目があるから、素直になれないのよ、きっと♪」

 千恵が夏穂の新たな一面を垣間見て真奈美と頷き合い、真奈美も夏穂の心情に迫るコメントをする。
 更に、今迄黙って成り行きを眺めていた優がひと言、嬉しそうに呟いた。

「……仲好き事は善き事哉♪」

 みんなから注目を浴び、夏穂は心がくすぐったくなってしまう。
 同じ想いを抱える同性に自分が認められる事が、こんなにも心が軽くなるものだとは思わなかった。
 同時に、修学旅行中に対抗意識で意地悪して来た事に罪悪感を覚え、心の中で反省し、みんなに頭を下げる。

「夏穂ちゃんも私達とおんなじ、宏ちゃんに魅入られた一人なんだもんね~♪」

 心底嬉しそうな若菜に抱き付かれ、曇りの無い瞳に見つめられた夏穂は思わず大きく頷いてしまう。

「フフッ♪ それじゃ~私達と同じだね♪ 宏ちゃんを愛する想いは一緒だよ~♥」

 純粋に相手を想う気持ちに、生まれや育ち、身分や立場は関係無い。
 若菜の言葉は夏穂をひとりの女として素直な気持ちにさせ、同時に溢れる想いを隠せなくなった。

「宏クン、大好き♥」

 首に手を回し、自分に引き寄せて唇を奪う。
 その熱い情熱に宏も応え、細い腰に両手を回す。

「ちょっとっ! 二人で何、世界作ってんのよっ!」

「まぁまぁ、晶ちゃん、そんなに青筋立ててると、折角の美貌が台無しだよ~? ここは大きく構えなきゃね~♪」

 意外と嫉妬深い晶と、心の深い若菜。
 学園で見せる顔とはまるで違う二人に、夏穂も上機嫌に笑い出す。

「あはははは~~~~♪ あんた達って、最高~~~っ! うんっ、これからも宜しくねっ♪」

 女子高生六人の妻の輪に、十三歳年上の女教師が加わった瞬間だった。


                                        (たとえばこんな学園物語・了)

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| 本編 | 新婚編 | 番外編 | 総目次 |

【 お寄せ戴いた御意見・御感想 】

[  あとがき ]
 
 「美姉妹(しまい)といっしょ♥~番外編」 のスペシャルバージョンとしてお送り致しました 「たとえばこんな学園物語」 は如何でしたでしょうか。
 
 晶や千恵達が宏より年下だったら・・・と言う発想から生まれたのが本作です。
 年下ならば物語を学園物とし、執筆時期が秋だったので修学旅行をメインに描きました。
 (掲載時期と大きくずれてしまいましたが・・・(^_^;))

 そこで番外編「朧月」にチラッと登場した彼女を 「もうひとりのヒロイン」 としたのですが・・・思った以上に好い味を出してくれました。
 執筆していても楽しかったですし♪

 今後はこの様な(パラレルワールド的な)形での掲載も面白いかな、とも考えております。
 ・・・その前に本編の続編を書かなくては・・・(^^ゞ


 ともあれ、これからも 「ライトHノベルの部屋」 を御贔屓に願います♪ m(_ _)m

                                     2007.12.26. エルム
 

[ 管理人のみ閲覧できます ]
このコメントは管理人のみ閲覧できます

[ 楽しく読ませていただきました ]
待ちに待っていた番外編、それも3部作に及ぶ長編、お疲れ様でした。
おなじみの6人は、高校生の時も宏クンを好きな気持ちが変わらない設定で、安心して読めました。次回の更新も楽しみに待っています。

[ いつもご愛読戴き、ありがとうございます♪ ]
↑↑ 匿名コメントさん
 
 ご愛読&コメントありがとうございます♪ m(_ _)m

 わたくしは番外編を執筆するに当たり、本編とのメリハリを付ける為にストーリー(物語)性を重視させ、H度をかなり抑えて執筆しております。
 物語性は番外編で、濃厚エロエロエッチは本編で、と言う位置付けです。

 しかし、番外編でも多少のエロさ加減は必要ですので入浴シーンを入れたのですが・・・
 まだ足りなかったみたいで申し訳ございません。 m(_ _)m

 今後は物語とのバランスを調整し、エロさ加減を増した番外編も執筆してみたいと思います。

 これからも 「ライトHノベルの部屋」 をご愛顧下さいませ♪ m(_ _)m
 
 
 -----------------------

孝貴さん

 ご愛読&コメントありがとうございます♪ m(_ _)m

 わたくしは今後も晶達6人の宏を想う気持ちは変えません。
 ラブラブハ~レム万歳♪ ですから(^^♪

 次回掲載は今の所白紙の状態ですが、満足の行く形になりましたら順次掲載して参ります。
 それまで今暫くの猶予をお与え下さいませ。 m(_ _)m 
 


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