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たとえばこんな学園物語~前編 たとえばこんな学園物語~前編 美姉妹といっしょ♥~番外編
 < 作者より >

  この物語は「美姉妹(しまい)といっしょ♥~番外編」のスペシャルバージョンです。
  これまでに掲載した本編や番外編での設定と若干違う部分がございますので、予めご了承・お含みおき下さいませ。



     ==================================



 ここは、とある時代のとある街にある吉井(よしい)女学園。
 一学年四クラスで生徒数四百人にも満たないこの学園では、ひとりの男性教師を中心に六人の女生徒とひとりの女性教師による賑やかで楽しい毎日が繰返されていた――。


     ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「それじゃ、明日は朝八時迄に東京駅八重洲中央口に集合するように。一分でも遅刻した者は学校で一週間、寂しく留守番して貰うからな~」

 今日一日の授業も終わって生徒達が開放感に浸る中、ホームルームの教壇に立つ宏が肩を竦めておどけた調子で告げるとクラス中から一斉に笑いが起きる。
 吉井女学園では毎年秋に六泊七日の修学旅行が行われ、宏は二年B組の担任としておよそ三十人の女生徒を率いる事になっているのだ。

「ねぇねぇ、どんな下着持って行く? 私、スケスケのランジェリーで冒険してみようかと思ってるの♪」

「きゃ~♪ 誰に見せるのよ、そんなの穿いて」

「勿論、宏先生に決まっているじゃない♥」

「きゃ~~~♪ いよいよ玉砕するのね~~~♪」

「誰が玉砕やねんっ!!」

 宏は教室のそこかしこから聞こえて来る楽しそうな声と弾ける笑顔に思わず圧倒されてしまう。
 翌年に辛辣な受験を控えている高校二年生にとって、学園生活最大のイベントとなる修学旅行は体育祭や文化祭と言ったイベントを差し置き、入学した時から特に心待ちにしていた行事だった。
 その為だろうか、隣や前後の席と過激に語り合う者、ガイドブックを広げてひとり悦に浸る者、自由行動はどうしようかと悩むグループなどで教室内は今迄に経験した事が無い熱気と興奮で満ち溢れていたからだ。
 そんな中、窓際の最後列に座っていた女生徒が勢い良く手を揚げた。

「ん? 何か質問か?」

 宏が目線で促すと、その女生徒は元気良く立ち上がり、なかば真剣な顔で尋ねた。

「宏ちゃん~、おやつは幾ら分まで持って行ってもいいの~?」

 広い教室に響いたその澄んだ声に、クラス中はたちまち爆笑の渦が沸き起こる。
 宏は一瞬唖然としたものの、直ぐに教師の顔に戻ってたしなめた。

「こら、若菜。学園内では先生と呼びなさいって、いつも言っているだろ?」

 宏は立ち上がった女生徒に苦り切った表情を向けるが、腰まで届く漆黒の髪を片手で梳きながら若菜と呼ばれた女生徒は悪びれる様子も無く、ニッコリと微笑んだ。

「え~!? だって~、お兄ちゃんと言ったって、宏ちゃんは宏ちゃんでしょ~?」

 それがさも当然といった台詞にクラス中は更に笑いに包まれ、宏は頭を抱える。

(ったく、こいつは~っ! いくらお互いの立場を考えろ、と言っても聞きやしねぇ)

 宏は心の中で「家(うち)に帰ったらお仕置決定!」と、叫ぶ。
 一方、若菜は宏の苦悩も露知らず、切れ長の澄んだ瞳で教壇に立つ白いワイシャツに深紅のネクタイ姿の男を熱く見つめる。
 その潤んだ瞳は明らかに男女の只ならぬ関係を持った者でしか有り得ない意味あり気な瞳だったが、翌日の修学旅行に浮かれた雰囲気の中ではそれに気付く者は数人を除き、誰一人いなかった。

「ね~、宏ちゃん♪」

 純粋に宏を求める視線に宏は一瞬己の立場を忘れ、同時に煩悩がパンツの中で思わず鎌首をもたげて来るが理性を総動員させて何とか抑える。
 今は生地の薄いスラックスを穿いているので、このままではその下にある男特有の持ち物の変化が丸判りになってしまうからだ。
 教壇の上で股間を膨らませる事は何としてでも避けなければならない。
 でないと、女生徒の前で勃起させた教師として威厳も信用も崩れ去ってしまう。

(ったく~、俺達の関係がバレたら只じゃ済まねぇって言うのに、こいつ判ってんのかな~)

 宏は必死になって股間を鎮めつつ、学園で一番背の高い女生徒を見つめる。
 若菜は身長百七十五センチ、雪の様に染みひとつ無い白い肌とストレートロングにした黒髪のコントラストが美しい女の子だ。
 鼻筋の通った顔立ちと涼しげな切れ長の瞳が印象的な大和撫子で、膝丈のスカートを纏った黒のセーラー服が好く似合う、学園でも上位十人に入る美貌の持ち主でもある。
 そしてこの学園では表面上、宏の妹という立場になっていた。

(今、この場で下手な事を言って、俺達の隠された関係を怪しまれても拙いし……)

 宏は能天気に振舞う若菜に教師として、また兄と言う立場として、どうしたものかと唸りながら考え込んでしまう。
 かと言って、このまま若菜を放置したら何を言い出すか判らない危険性が多大にある。
 と、顔をしかめる宏を救う神が現れた。
 クラス委員長の晶だ。
 晶は毅然とした表情のまま、すっくと立ち上がると両手を腰に宛がって若菜に向き直り、騒がしい教室内にも係わらず良く通る声で言い放った。

「ちょっと若菜さんっ! 今はホームルーム中よっ! くだらない事を言って先生を困らせないで頂戴っ!」

 真面目が服を着て歩いていると囁かれるクラス委員長の怒りの篭もった言葉に、騒がしかった教室が一瞬で静かになる。
 晶は身長百七十センチ、細めの眉とピンク色の薄い唇、少し吊り上った大きな二重(ふたえ)の瞳に鼻筋の通った小顔を持つモデル系美人だ。
 腰まで届く茶色がかった黒髪をゆるくウェーブさせ、頭にはトレードマークでもあるヘアバンドを巻いて、傍から見れば深窓のお嬢様と言っても過言では無い雰囲気を持っている。
 成績優秀で容姿端麗な晶は初めて見る者には近寄り難いクールな印象を与えるものの、学園中の生徒からは尊敬と憧れの存在となっていた。
 が、そんな事を全く気にしないのが若菜だ。
 まるで近所のオバちゃんに話し掛けるように片手をパタパタ振って、怒れるクラス委員長に笑い掛ける。

「くだらなく無いよ~晶ちゃん。私と宏ちゃんの仲なんだから~♪」

 あっけらかんとした若菜の意味深な台詞にクラス中が騒然となり、あちこちから「仲って……やっぱり二人って兄妹なのに禁断の……♪ きゃぁ~~~♥」などと言う声が一斉に湧き起こる。
 普段から若菜の宏に対するラブラブモード一色な態度が兄妹の垣根を越える何かをクラス中に想像させていた中での、カミングアウトとも取れる大胆告白に教室中が一気にヒートアップする。
 これには注意した晶さえ大きな瞳を更に大きくし、口をパクパクさせたまま絶句してしまう。
 日頃の注意を無視して、よもや本人がここまで際どい事を言うとは思わなかったからだ。

(おいおいおい……)

 若菜の言葉に宏は思わず教卓で頭を抱え、背中に冷汗が幾筋も流れ落ちる。
 二人の関係は学園の理事長から絶対に内密にするように言われ、もしも二人の関係が公になった場合、宏は即日クビになってしまうからだ。
 頭を抱えてうずくまる宏と彼を熱く見つめる若菜。
 そんな能天気娘を睨む晶の三竦み状態となった所に、この場を救う、もうひとりの神が現れた。
 その神は若菜の背後から音も無く忍び寄り、厚みのある黒い何かを両手で持ったまま目一杯跳び上がり、落下する勢いを利用して大きく振りかぶった腕を若菜の頭めがけて振り下ろした。

 ズゴォンッ!!

 クラス中が禁断の愛に沸き立つ中、屋上から砲丸を落として地面にめり込む様な重い打撲音が教室に響き渡り、撲殺(?)された若菜は音も無く自分の机に突っ伏す。
 教室内は一瞬で静まり返り、瞬殺された若菜の後ろには頭の高い位置で紫がかった黒髪を白いリボンで縛ってポニーテールにした小柄な女生徒が、厚さ二十センチはあろうかという国語辞典(教室に備え付けのものだ)を手に佇んでいた。

「こっ、このおバカっ! 冗談も程々にしなさいって、いつも言ってるでしょっ!!」

 音の消えた教室には怒りで顔を真っ赤に染めた女生徒の声だけが響く。
 その余りの剣幕に宏は教師という立場を忘れ、思わず素の自分に戻ってしまう。

「おい千恵~、いくらなんでも拡辞苑は拙いだろ? せめて和英辞典にしときなよ」

((……って、突っ込む所が違うだろっ!!))

 額に冷汗を流す晶やクラスメイトのツっ込みを他所に、宏はミニスカートの制服が好く似合う小柄な美少女に冷静になる様に諭す。

「ご、ごめんね、宏兄さん……じゃない、宏先生。つい、頭に血が昇っちゃって。若菜にはあたいが後でみっちり言い聞かせるから」

 宏の苦笑する視線を受けて怒りの興奮が収まったのか、千恵が恥かし気に頭を下げる。
 千恵はこの学園では若菜同様、表向きは宏の妹と言う立場なのだ。
 身長百五十センチと、クラスで一番小柄な千恵は若菜とは双子なのだが、体格や性格はまるで正反対だ。
 妹の若菜はおっとりした性格で直感や感覚で行動するタイプなのに対し、姉の千恵は理路整然と行動するタイプで、天然な若菜を制する良識派としても知られている。
 背丈は低いもののボディーバランスが好く、手足が長く、しなやかな肢体はクラスメイトの視線を惹き付けて止まない。
 美しく整った顔立ちは双子らしく二人共同じだが、千恵は姐御肌な性格で面倒見が好く、若菜の姉、と言う事もあって学園内やクラスメイト、特に下級生からは御姐様(おねえさま)と呼ばれて慕われていた。
 そしてお気楽者の若菜と違い、しっかり者の千恵は宏の立場をちゃんとわきまえて学園では完璧な妹役を演じ、今回の様に暴走する若菜を止めるのも千恵の役目だった。

「委員長もごめんなさいね。みんなも、お騒がせしました」

 千恵はやれやれ、と言った表情の晶や、千恵の迫力に唖然としているクラスメイトに向かって頭を何度も下げる。
 その度に腰まで届くポニーテールが何度も上下に揺れ、まるで宙を舞う新体操のリボンの様に見えてしまう。
 必死で謝る千恵の姿に、ざわついていた教室も元に戻り、旅行への期待感で再び盛り上がって来る。

(結局、また若菜ちゃんのブラコン癖が出たのね~。千恵ちゃんも手間の掛かる妹を持って大変ね~)

 クラスメイト達が囁く言葉に、晶と宏は胸を撫で下ろす。
 そして場を収めてくれた千恵に頷くと、目線で謝意を伝える。
 千恵は照れ臭そうに小さく頷いて返礼し、席に戻った所で、隣の席に座っていた美少女が千恵だけに聞こえる様に顔を寄せて来た。

「真奈美? どうしたの?」

 真奈美と呼ばれた美少女は可笑しそうにクスクスと笑いつつ、いまだ白目を剥いて伸びている若菜と千恵を交互に見つめながら囁いた。

「ふふっ♪ あの天真爛漫な若菜ちゃんを自在にコントロール出来るのは、この学園では千恵ちゃんだけね♪」

 真奈美は身長百六十五センチ、少し垂れ目がちの大きな瞳に背中の半分まで届くストレートの黒髪を持ち、若菜に負けず劣らずの白い肌を持つ美少女だ。
 その愛らしい瞳に見つめられると、誰がどんなに怒っていても自然と笑みが浮かび、いつの間に荒れた心が癒されてしまっているという、不思議な魅力を持つ癒し系美人でもある。
 千恵はヒョイと肩を竦め、他人に言葉が洩れない様に真奈美の耳元で囁く。

「そうなのよね~。宏はほら、学校にいる間は立場上、下手に振舞えないし、晶ちゃんには若菜は暖簾に腕押しな所があるし。だからこそ、あたいが防波堤にならないと♪」

 そう言いつつ笑顔を向ける千恵は、口では何だかんだ言いつつも若菜の世話を苦とも思わず、むしろ楽しんでいる様な口振りだ。
 一方、クラス委員長として何も出来無かった晶はバツが悪そうに席に座り、未だに机に突っ伏している若菜に鋭い視線を向ける。

(まったく、若菜ちゃんにも困ったものねっ。家(うち)に帰ったら、きついお仕置きしなくては!)

 宏同様、頭の中でお仕置きのシナリオを思い描いていると、右肩を軽く突(つつ)かれる感触で我に返る。
 顔を向けると、隣の席で一部始終を面白そうに眺めていた金髪碧眼の女生徒が耳元に口を寄せて来た。

「晶もいっその事、若菜ちゃんみたく本当の事をバラしたら好かったのに♪」

 明らかに際どい状況を楽しんでいる顔に、晶は声を潜めて言い返す。

「ほのかっ!! 何言ってんのよっ! そんなコトしたら、ヒロが学園に居られなくなっちゃうでしょっ! 判ってんの!?」

 晶は目を剥いて目の前の少女を睨む。

「あたしまでカミングアウト出来る訳ないでしょっ!!」

「いいじゃんか♪ オレなら隠さないで堂々と宣言するけどなぁ~♪」

 ほのかと呼ばれた女生徒は、まるで他人事(ひとごと)の様に笑う。
 晶は好奇心旺盛な金髪碧眼美少女を困った顔で見つめる。

(この娘(こ)、根は好いのに常識に囚われない所が多分にあるのよね~)

 晶はいつも自分や千恵、宏と言った常識派を振り回してはその様子を楽しんでいるほのかに釘を刺す。

「あたし達の事は卒業するまで絶対秘密よっ! いいわねっ!」

 晶がドスを利かせた声で念押しすると、ほのかは笑いながらも大きく頷く。
 ほのかとて、わざわざ宏を窮地に陥れる真似は絶対にしないし、晶もそれは充分に承知している。
 ただ、際どいシチュエーションを心から楽しんでいるだけなのだ。

(たっく、この娘はもうっ!)

 晶は溜息ひとつ、目の前の美少女……と言うより美女を見つめる。
 ほのかは母親が北欧出身と言う事もあり、抜ける様な白い肌と波打つ長い金髪、どこまでも澄み切った切れ長の碧眼に薄くて形好い唇を持つ、この学園唯一のハーフ美女だ。
 身長百七十三センチ、ファッションモデル並みに手足が長く、膨らむ所は膨らみ、くびれる部分はくびれたメリハリのあるボディと日本人離れした彫りの深い整った顔立ちは、同世代の女子高生では到底太刀打ち出来無い美しさを誇っている。
 凛とした雰囲気の中にも優しい笑顔を併せ持ち、まるで、どこぞの国のお姫様と言っても過言では無いのだが、どこで覚えたのか話し言葉が男なのだ。
 そんなギャップと砕けた性格もあって、ほのかはクラスメイトからは親しみと尊敬を篭めて『姫』とも呼ばれ、お嬢様の晶やブラコンの若菜、御姐様の千恵、癒しの真奈美と並んで今やこの学園の美女有名人のひとりに数えられていた。

「……ん」

 と、ほのかの後ろの席でひとり寡黙に株と為替の本を読んで内職していた女生徒が無言のまま、クラスメイト達に判らない様にそっとほのかの背中を突(つつ)く。
 学園でも人気を集める二人がいつまでも顔を寄せ合って何やらヒソヒソ話をしているので、クラス中の視線が集中している事を教えたのだ。

「ん? 優? ……あっ! なんでも無いんだ、なんでも」

 ほのかは優の視線から事態を瞬時に把握し、クラスメイトに手を振って笑い掛けてから注意してくれた優に目線で礼を返す。
 優は身長百六十五センチ、ショートヘアをシャギーにし、中性的な顔立ちとスレンダーなボディを持つ、晶の双子の妹だ。
 普段から口数は少ないものの姉同様成績が好く、加えて的確な分析と冷静な判断を下す能力に定評があり、クラスメイトから何かと(特にテスト前は)頼られる存在となっていた。
 ともすると美少年に見える優は、姉や若菜と同じく学園美女有名人のひとりでもあった。

「それじゃセンセ、あとは宜しく♪」

「あ……ああ、判った」

 ウィンクひとつ、ほのかから話を振られた宏は、ようやく話の主導権が戻って来た事にホッと胸を撫で下ろす。
 いつもなら、このまま話が脱線したまま戻って来ないのが常だったからだ。

「それでは……」

 宏は教師の顔に戻ると明日からの修学旅行について注意事項を話し始めた。


     ☆     ☆     ☆


「宏クン、教室でまた若菜ちゃんが暴走したみたいね~」

 ホームルーム終了後、職員室に戻った宏を出迎えたのは、隣に席を構える女性教師の笑顔だった。

「う゛っ! か、夏穂(かほ)先生……もう知っているんですか? 流石に耳が早いですね」

 宏は何やら近寄ってはいけない所へ来てしまった感覚に囚われ、思わず後退りしてしまう。
 この女教師は宏と若菜の騒動が起こる度に、興味津々と首を突っ込んで来るのだ。
 勿論、宏と若菜達の関係は兄妹以上の事は何も知らない筈だが、藪を突(つつ)いて蛇を出したく無い宏はその件には触れずに話をスルーさせようとした。
 が、先輩教師は簡単に許してはくれなかった。

「そりゃそうよ♪ 私は貴方をいつも見ているし、貴方に関する事なら何でも知りたいの♥ ……と本音はさておき、あれだけ大騒ぎしていれば、廊下を通りかかった私にだって判るわよ~」

 夏穂と呼ばれた女教師は椅子ごと振り向くと両手を腰に宛がい、胸を大きく反らして得意気なポーズを取る。
 すると豊かな胸の膨らみで白いブラウスが左右に伸ばされ、下に着けているブラジャーがクッキリと浮かび上がって宏の目を一瞬釘付けにする。
 宏は鼓動が一気に早まり、見てはいけないと思いつつも目の前で美味しそうに揺れる果実につい、視線を走らせてしまう。

(……他に好きな女性(ひと)達がいるのに、男って悲しい生き物だよなぁ)

 宏が自己弁護しつつ席に着くと、年下の男性教師からのちょっとエッチな目線に感化されたのか、女教師は上機嫌に鼻を鳴らし、妖艶な目付きになって椅子に座ったまま太腿が触れ合う距離にまで近寄って来た。

「……ふふっ♪」

 しかもタイトスカートが徐々に捲り上がり、茶色のストッキングに包まれた太腿の大部分が露になる。
 この女教師は宏に対し、昔から過激とも思えるスキンシップを人前にも係わらず取って来るのだ。

「あ……」

 宏の視線が豊かな双丘からムッチリと張りのある美脚へと移動する。
 同時に先輩女教師から漂う爽やかな柑橘系の香水と夏穂自身が放つ女の匂いに包まれ、宏は無意識のうちに肺一杯にその香りを吸い込む。
 その甘酸っぱくも官能的な匂いと透けて見えたブラの印象も重なって股間が一気に膨張し、ズボンを突き破る程に大きなテントを築いてしまう。

(ま、拙いっ! 夏穂先生にこんなの見られたら、また何言われるか判らんっ)

 宏は咄嗟に椅子に深く腰掛け、机の縁がお腹に当たるまで机に近寄って股間を隠す。
 しかし夏穂はそんな宏の行動を楽しそうに眺めていた。

「宏クン、凄いわね~、そんなに大きく膨らませちゃって♥ 二十三歳の若さって好いわぁ~♪」

 夏穂はセミロングの髪を後ろに払い、目元をほんのり紅く染めて宏を上目遣いに熱く見つめる。
 その妖艶な瞳は先程の若菜と同じ様に潤み、隙あらば唇さえも奪ってやるぞと訴えている。

「あ……あはははは~。……すみません。お見苦しいモノを晒してしまいまして……」

 こちらは羞恥で顔を赤く染めた宏がペコペコと頭を下げる。
 しかし夏穂は小さく頭を横に振ると、嬉しそうに囁いた。

「私でも、まだまだ女としてイケてるって事が判ったから許してあ・げ・る♥ ……な~んてね♪」

 突然、それまでの妖しい雰囲気を薙ぎ払うかの様に、女性教師は大声を上げて豪快に笑い出す。
 その高笑いに校長を始め、職員室にいた教師や生徒の視線を一身に集めてしまう。
 宏は唖然としたものの、心の中で「またやられたっ」と唸ってしまう。
 夏穂は宏が吉井女学園に着任して以来、この七歳年下の同僚教師をからかうのが大のお気に入りなのだ。

(夏穂先生、根は真面目で好い女性(ひと)なんだけどなぁ……)

 宏は深い溜息を吐(つ)きつつ、隣の机に突っ伏して笑い転げる恩師の横顔を眺める。
 耳の下から顎に掛けてのラインが真っ直ぐに通った美しいその顔は、宏が高校を卒業した五年前と少しも変わらない。
 夏穂は宏が高校在学中の三年間ずっと担任だった女性で、高校入学当初から何かと宏を目に掛けていた。
 その一方で宏は人目や男子生徒からのやっかみもあって担任のスキンシップに辟易するものの、心の中では憧れの年上美女に言い寄られて嬉しかったのだ。
 その後、夏穂は宏が高校を卒業した一年後にこの学園に移り、宏もまた今年この学園に着任し、当時の担任だった夏穂と再会して同じ教鞭を取る様になっていたのだった。

(あの頃よりも綺麗になった夏穂先生に出逢えるなんて、凄くラッキーかも♪)

 当初、宏は夏穂との邂逅を心から喜んだ。
 身長百七十センチ、バスト八四、ウェスト五九、ヒップ八八(本人談)のナイスボディに肩を隠す迄に伸ばされたシルクの様に艶やかな黒髪、自分の意志を明確に示す大きな瞳、小さい口と鼻筋の通った小顔……。
 担任時代より美しさに磨きが掛かった姿に、宏は夏穂がこの学園の中で女性教師ナンバーワンの美貌を誇っていると聞かされ、一も二もなく納得したのだった。
 それが今や、時にオヤジギャル化するとは思いも寄らなかったが。

「……クン。宏クン! 何を熱心に見つめているのかな~? フフッ♪ 好きな男性からそんなに熱く見つめられたら、濡れちゃうわ♥」

 宏は夏穂の呼び掛けに我に返り、顔を夏穂に向けると思わず仰け反ってしまう。
 目の前数センチに、肌理の細かい白い肌を持つ夏穂の美貌が迫っていたのだ。
 しかも今回夏穂は目を閉じたまま顎を上げ、リップで濡れ光る唇を突き出しているではないか。

「どわぁぁぁあああっっ!!」

 高校時代もこんなシーンがあったよな、と頭の片隅で思い出しながら、宏は大きな音と共に椅子ごと後ろにずり下がる。
 すると、再び職員室中の注目を集めてしまう。

「フフッ♪ 宏クン、相変わらず可愛い~♪ 昔のままね~」

 可笑しげに含み笑いする夏穂も高校時代の宏を思い出し、今と比べていたのだ。
 宏は照れ臭さもあって、わざと恩師に向かって声のボリュームを上げる。

「かっ、夏穂先生っ! こ、これから明日の準備もありますので、きょっ、今日はこれで失礼しますっ!!」

 宏は火照り始めた顔を隠すように横を向きつつ、椅子から立ち上がる。
 その新人教師に向かって学年主任が人目もはばからずにウィンクし、大きく手を振った。

「それじゃ、またね♥ 明日は八重洲中央口に八時だからね~。お寝坊しちゃダメよ~♪」

 職員室に爆笑の渦が湧き上がる中、羞恥に塗れた宏は即行でタイムカードを押すと職員室から飛び出した。


     ☆     ☆     ☆


 その夜、宏の部屋では若菜に対するお仕置きが待っていた。

「あんたはおバカ!? 宏の立場を悪くしてどーすんのよっ! 脳みそ無くても少しは考えなさいっ!!」

 二十畳の和室に七組の布団が隙間無く敷かれ、その上で胡坐を掻いた千恵が鼻息も荒く能天気娘に指を突き付ける。
 ポニーテールを下ろした長い黒髪がタンクトップの脇から覗く豊かなバストの裾を見え隠れさせ、ホットパンツからスラリと伸びた美脚と相まって正面に座る宏の股間を疼かせる。
 十七歳らしい瑞々しい千恵の色気に、宏の相好はずっと崩れっ放しになっている。
 一方、姉から激しい叱責を受けているパジャマ姿の若菜は、胡坐を掻いた宏の背中に大きな身体を小さくして隠れつつ、何とか言い訳を試みる。

「だって~、宏ちゃんと一緒に修学旅行に行くの、ず~~っと楽しみだったんだモン。つい浮かれちゃったのよ~」

 流石に自分でも拙かったと思ったらしく、意気消沈し、既に泣き声(みんなには嘘泣きだとバレバレだ)の若菜。
 そんな大根役者の若菜に向かって大きな瞳を吊り上げ、髪を逆立てた般若・晶が容赦無く止(とど)めを刺す。

「あたし達の関係が学園にバレたら一番困るのはヒロなのよっ? 当然学園からも追い出されるし、一生、教職も失うのっ! それでも好いのなら、今後も自由に振舞えばいいわ」

 宏との関係が公になって困るのは自分も一緒なのだが、己の立場より宏の立場を考える晶には説得力があった。
 が、しかし。
 ぷるんぷるんと柔らかくも弾力好く揺れるノーブラの胸や太くて深い、女だけが持つ神秘の秘裂が浮き出ている薄いショーツも丸見えという透け透けのネグリジェを身に纏ったその姿は、人に説教をしている様には到底見えない。

「若菜ちゃん、宏君が困るような言動は人前では慎もうって、みんなで何度も話し合っているのに……」

 ほとほと困り果てた顔で真奈美は形の良い眉を八の字に下げる。
 真奈美は膝を崩した姿勢で千恵の左隣に座り、裾が太腿まであるロングTシャツ一枚の姿だ。
 長い髪を首の後ろでひとつに纏めて前に垂らし、胸の谷間に挟んで胸元を強調するその姿は宏の鼻の下を伸ばすには充分だ。
 しかもTシャツを押し上げる頂には二つの突起が浮き出てノーブラである事を主張し、白くムッチリとした太腿の間にピンク色のショーツがチラチラ覗く姿は、とても十七歳とは思えない色気を解き放っている。

「だって~、嬉しい気持ちを抑えられないんだもん~。真奈美ちゃんだってそう言ってたじゃない~」

「あ、いや、それはそうだけど……」

 若菜は真奈美を味方に引き入れるべく、甘えた声で同意を求める。
 そんな誰もが若菜を責め立てる中、ほのかだけは楽しそうに笑いながら若菜を援護する。

「まぁまぁ、若菜ちゃんの気持ちも少しは察してやれよ。オレだって宏との旅行を楽しみにしてるんだからさ♪」

 こちらは和風テイスト満載の寝間着姿だ。
 はだけた胸元には双丘の深い谷間が刻まれ、髪をアップに纏めた金髪碧眼娘の浴衣姿に宏の熱い視線が突き刺さる。
 ほのかは宏の左腕を愛おし気にさすりながら、興奮冷めやらぬ千恵と晶に視線を向ける。
 同じ男性(ひと)を想う女として晶や千恵の気持ちも判るし、若菜の想いも充分判るのだ。

「ほらほらほら~、ほのかちゃんだって私と同じ気持ちなんだよ? みんなももっと素直に宏ちゃんとの旅行を喜べば好いのにぃ~♪」

 若菜は宏を背後から力一杯抱き締めながら晶に向かって指を突き付ける。
 息を吹き返した(?)若菜に、目くじらを立てた晶の叱咤が轟く。

「だからって、学校での態度は拙いでしょっ! 何、あの好き好きモード全開の視線はっ!? あれは兄妹が交わす視線じゃ無いでしょっ! ……ったくもう、只でさえ変な噂が立っているのに、もっと自制してくれないと、庇うあたし達とヒロの関係まで学校に怪しまれるじゃないっ!!」

 ここ最近、学園内を歩くとほぼ毎日、宏と若菜の兄妹相姦の噂がチラホラ耳に入って来るので、晶は今迄以上に神経を尖らせていたのだ。

「噂はあくまで噂だ。放っておけばいいのさ♪ 下手に揉み消すと、逆に怪しまれるだけだぜ」

 眉根を寄せて尚も言い募る晶に、やれやれ、と苦笑したほのかが執り成す。
 そんな力強い援軍を得た若菜は吊るし上げを食らいつつも、可愛らしいピンク色の舌先をチラリと覗かせて宏の背中に縋り付く。

「あ~ん、みんなが私を虐めるぅ~。宏ちゃん、助けてぇ♪」

 そんな若菜の不遜な態度に千恵はこめかみに血管を幾つも浮かべ、反省の色がまったく見えない妹の手足をタオルと浴衣の帯を使って素早く縛り上げる。

「今夜のお仕置きは放置プレイに決定っ! 自分の立場が判るまで部屋の隅でじっとしてなさいっ!!」

「え? えっ? えっ!? えぇ~~~~っ!? そ、そんなぁ~~~~。姉さんのいけずぅ!」

 柱に縛られた若菜の泣き声(今度は本泣だ)を背景に、今迄ずっと黙って聞いていた優が一言、ポツリと呟いた。

「……千恵ちゃんの意見に賛成。若菜ちゃんには少しお灸が必要。……って事でヒロクン、次はヒロクンがお仕置きされる番。覚悟してね♪」

 優はサイドストリングス一枚に枕を胸に抱いただけの姿で宏に迫る。

「お、俺が!? なんでっ?」

 突然のお仕置き宣言に目を丸くする宏に向かって、優は職員室で目撃した一部始終をみんなに語って聞かせる。
 すると晶をはじめ、ここにいる女性陣全員がにこやかに微笑みながら(しかし瞳は笑っていない)宏ににじり寄る。

「……ボク達と言う者が在りながら夏穂先生に鼻の下伸ばしてた。これはもう、お仕置きに値する」

 学校ではめったに表情を変えない優が、この時ばかりは全身から激しい嫉妬の炎を吹き出している。
 普段の冷静で淡々とした口調も今や熱の籠もった強い口調に変化している。
 それは他の五人の女性達も同じだった。

「わわっ! ちょ、ちょっと待てっ! そ、それはっ……!」

 誤解だ、と言う言葉は優の温かくも柔らかな唇によって塞がれる。
 いつの間に寝間着を脱いだのか、ショーツ一枚だけの姿になった女性陣に宏は仰向けに倒され、あれよあれよと言う間に一糸纏わぬ姿にされる。

「あ~~~ん、見てるだけなんて、いやぁ~~~~っ! 私も混ざるぅ~~~っ」

 身動きが取れず、縛られたままもがく若菜の心からの絶叫に、唯一味方であったほのかは股間を濡らしたショーツを脱ぎつつ呟いた。

(形だけでも反省の色を示せば良かったのに……。浮かれて下手な事言うからこんな事になるんだよなぁ。こう言うの、日本語でなんて言ったっけ……自業自得、だっけ?)

 宏の両手両足、腰と顔に跨り、場所を変えつつ自ら腰を振る美少女五人。
 部屋には濃厚で妖艶な女の匂いが瞬く間に充満し、行燈に照らされた蠢く白い肢体を見つめながら若菜は股間を濡らし、太腿を擦り合わせて一人悶々と過ごすのであった。


     ☆     ☆     ☆


「ここが蓮華(れんげ)王院、通称三十三間堂だ。柱の間が三十三ある所からそう呼ばれ、毎年正月に行われる通し矢がニュースで紹介されるから、名前くらいは聞いた事あるだろ?」

 午前中の新幹線で京都に到着した吉井女学園一行は、今日と明日の二日間はクラス単位に分かれて散策する事になっている。
 見て回るコースは予めホームルームで決めておいたので、駅からの移動もスムーズだ。
 宏率いる二年B組は、駅に程近い三十三間堂を最初の目的地に選んだのだ。

「本堂の長さは南北百二十メートル、西側の軒下で通し矢が行われ……ここで新成人が振袖を着て六十メートル先の的を射るんだ」

 宏が射場や本堂を指し示しながら歩いてゆくと、黒のセーラー服を着た三十人余の集団もゾロゾロと移動する。
 すると、宏達を窺う他の修学旅行生や国内外の観光客の視線もそれに合わせて移動する。
 襟元と袖にえんじ色の細いラインが三本入り、胸元にはラインと同じ色のネクタイを締めて凛とした制服はどこへ行っても注目され、嫌でも人目を集めてしまうのだ。

「宏兄さん……じゃない、宏先生、秋の京都って、テレビで見るより遥かに素敵ね~♪」

「宏ちゃん~、もっとゆっくり歩こうよ~♪」

「ほら、みんな、次に移動するわよ。遅れないで付いて来て」

 集団の中心では宏がガイド役を務め、その左右に若菜と晶が陣取り、若菜を監視(?)する千恵や真奈美、晶を補助するほのかと優が前後を固め、その外側にクラスメイト達と言う布陣になっている。
 二年B組の面々にとって、千恵と若菜の姉妹が兄である宏の傍にいる事や、クラス委員長の晶が先生をサポートしている事、その三人と仲の好いほのかと真奈美、優が一緒にいる事はいつもの風景だった。
 それ故、クラスメイト達は、よもや優が中心となってこの布陣を考えたとは誰一人として気付かなかった。
 これもひとえに宏の隣で京の街を歩きたいが為の、六人による共同戦線なのだ。

「ほら、この階段状になった仏壇に千体の千手観音が祭られているんだ。本尊の左右に五百体ずつあって、大きさは百六十五センチちょいと、みんなと同じ位なんだな」

 本堂に入り、狭い回廊を歩きながら宏が説明していると、右隣を歩くほのかが感慨深げに呟く。

「ここが三十三間堂……。どれひとつとして同じ顔の無い観音様が並び、逢いたい人に似ている観音様がいる所……」

「ほら、微妙に顔付きが違うだろ?」

 宏がほのかの耳元に顔を寄せて囁き、直ぐに離れる。
 クラスメイトの目があるので、大っぴらにイチャ付けないのだ。

「うん……。なんか圧倒されるな」

 ほのかもその点は判っているので、小さく頷く事しか出来無い。
 それでも、旅行前から心惹かれていた場所に宏と肩を並べている事に、ほのかは天にも昇る気持ちだった。
 鼓動は早まり、顔が徐々に火照り出すのが判る。

「あれまぁ、幸せそうに目を潤ませちゃって。……余程嬉しいのね」

 晶は蕩けたほのかの顔に微笑みつつも、宏を取り囲む輪を決して崩さない。
 今はほのかが宏の隣をキープし、残りの五人が二人を取り囲んでクラスメイトから守って(?)いる。
 いつ、誰が宏の隣を歩くかは、事前に決めておいたのだ。

「薄暗くて良く判らんけど、一体一体じっくり眺めていると、不思議と心が落着くんだよなぁ」

 誰とも無く呟いた宏の台詞に、ほのかが驚いた様に切れ長の瞳を大きく見開き、直ぐに相好を崩すとそっと宏に寄り添って手を握る。

(オレと宏は同じ物を見て感覚が共有出来てる……♥)

 幾多もある千手観音を目の当たりにした時からの気持ちが宏と同じだと判り、純粋に嬉しかったのだ。

「あ……、ほのか!? 今は拙いよ。みんなに見られてしまう」

 視線は本尊に向けたまま、宏は声を潜めて窘めるが、ほのかは更に身体ごと擦り寄って囁いた。

「大丈夫♪ 狭い通路だから身体が触れ合って当然♪ 暗いし混み合っているから手を繋いでも判らないよ。……それに、今はみんなが周りをガードしてくれている。だから……もう少し……このままでいさせてくれよ♥」

 宏はすぐ右隣にいる金髪美人からの熱い視線と潤んだ瞳、柑橘系の爽やかな香水と二の腕から伝わる豊かな双丘の柔らかさに何も言えなくなり、代わりに繋いだ手にそっと力を篭めた。
 ほのかは愛しい男性(ひと)の温もりを肌で感じ、手を握り返してくれた嬉しさに昨夜の交わりを思い出してしまう。
 愛する者とひとつになる悦び、お腹の奥で情熱が弾ける嬉しさ、暖かい胸の中で眠りに就く幸せ……。
 ほのかはひとり幸福感に包まれながらショーツをしとどに濡らしてしまった。


     ☆     ☆     ☆


 三十三間堂を後にした二年B組の一行は徒歩で五条坂から清水新道を抜け、清水寺へと向かう。
 途中、お土産屋や甘味処を一軒ずつ覘き、外国人観光客に英語で話し掛けたり地元住人等と立ち話をしたりと、クラスの面々は元気一杯だ。

「宏センセ~♪ 記念にお土産買って~♥」

「あ~、ずるいっ! 宏先生、お汁粉食べていこうよ♪」

「先生♥ 一緒に写真に納まって下さいませんか?」

 クラス担任になって半年、気さくで親しみ易い宏は今やクラス中の女生徒のアイドル(?)、若しくはお兄さん的存在となっていた。
 学園唯一の若い男性教師(他は六十歳を超えた教師が数人いる程度だ)でもあり歳も近い所為か、恋に恋する女生徒達が修学旅行を利用して宏との距離を一気に縮めるべく、晶達の垣根(バリケードとも言う)を押し退けて宏の隣を奪おうと虎視眈々狙っているのだ。

「宏ちゃん~、みんなが私達の仲を裂こうとしてるぅ~」

「ちょっと貴女達っ! こんな狭い路で立ち止まらないで、どんどん先に進んでっ!」

「あ~~~、お土産は自前でな。もう少しで昼食だから我慢我慢。写真はもっと広い場所で、な」

 その都度、ブラコン若菜が宏と女生徒達の間に身体を入れ、クラス委員長の晶が宏の隣は渡さないとばかり睨みを効かせ、うら若き女性に慕われて上機嫌の宏は鼻の下を伸ばしつつも教師としての対応をする。
 ほのかや千恵、真奈美に優はそんな三人を面白そうに眺めつつも一致協力し、決して布陣を崩す事は無かった。

「ここが京都で、そしてある意味日本で最も有名な観光スポットのひとつ、清水寺だ。今から千三百三十年前に建てられ、京都でも古い寺院のひとつでもあるんだ。一九九四年には世界遺産に登録されたんだな」

 仁王門から三重塔、経堂(きょうどう)と立ち寄りながら、二年B組の集団は本日のハイライトでもある本堂へと足を進める。

「ここが清水の舞台だ。実際に舞楽とかが奉納される舞台になっていて、両袖は楽舎になっているんだ」

 朝の通勤通学時間帯の駅の様に観光客でごった返す中、板張りの舞台中央に陣取った宏の説明に手元のパンフレットや周りを見ながら耳を傾ける女生徒達。
 自由奔放な彼女達が統制の取れた行動を取る裏には、宏に嫌われたくない、悪い生徒(女)として見られたくない、と言う乙女心が多大に作用していた。
 加えて、尊敬と憧れの的である晶やほのかのリードも大きかった。
 宏は腕時計で時間を確認すると、大声でクラス全員に告げる。

「それじゃ、今からフリータイムにしよう。集合は二時間後の十四時三十分に仁王門前だから忘れない様に。俺はここにいるから、何かあったら遠慮無く携帯電話で連絡する事。以上、解散♪」

 宏達のクラスでは今日明日の二日間、特定の移動先でのフリータイム制を採った。
 この方が各自の欲求(買い物・食事・観光など)を満たす事が出来、かつ自立心も養えるので宏が積極的に推し進めたのだ。

「個人的には大賛成だけど……何か拙い事が起ったら上(校長や教頭の事だ)から責任を問われるわよ?」

「その様な事は断じて認められません! 生徒はまだまだ世間知らずな子供です。教師である貴方が監督管理して貰わなければなりませんっ! 生徒の起こした不始末を私が償うつもりはありませんからね!!」

 学年主任の夏穂はすんなり賛成してくれたが案の定、校長や教頭からは猛反対された。
 しかし宏は生徒達をひとりの人間として扱い、信じるべきだと強く主張し、進退を賭けて押し通した。
 この事も、クラスの女生徒達が宏を慕う理由のひとつでもあった。
 自分を信じてくれる宏の想いを裏切りたくない、と言う想いと、物事を全て狭い枠に嵌め、管理しようとする今までの教師(大人)達への反発もあったのだ。

「センセ~♥ 一緒に行こうよ♪」

 解散と同時に、宏目掛けて怒濤の如く群がる女生徒達。
 しかし、宏は教師としての顔を崩さない。

「残念だけど、俺は担任として、ここを離れる訳にはいかないんだ。だから、みんなは俺の分まで存分に楽しんで来なよ♪」

 清水の舞台の上で女生徒三十余名による押しくら饅頭が展開されるが、担任からそう言われれば生徒達も無理強い出来無い。
 それに宏の周りに貼り付いている、いつもの六人(晶、若菜、ほのか、千恵、優、真奈美の事だ)の牙城が崩せなかったのだ。

「それじゃ宏センセ♥ またね~♪」

 黒いセーラー服を着た少女達がグループ、個人と分かれ、木々がカラフルに色付いた清水寺界隈に散ってゆくのを宏は清水の舞台の手摺に寄り掛かって眺める。
 と、柑橘系の香水だろうか、爽やかな香りが風に乗って宏の鼻をくすぐると同時に、右隣に人の立つ気配がする。
 宏が首を巡らせると、そこには穏やかな笑みを浮かべた真奈美が佇んでいた。

「あれ? みんなと一緒に行かなかったのか?」

 教師の顔のまま無粋とも取れる質問を投げる宏には答えず、少し目元を紅く染めた真奈美は宏にそっとにじり寄る。
 真奈美には、今の質問は表向き用に発せられたものだと判っているのだ。
 二人は正面に見える京の街を眺めながら、どちらからとも無くそっと寄り添う。
 山の木々は緑から黄、朱と紅が織り成す見事なカラーバリエーションに彩られ、空の蒼色と重なって見る者全てを魅了する。

「凄く綺麗……。まるで自分の心が洗われる様だわ」

 紅葉の間から覗く近代的なビルと古くから続く祇園の街並みを見つめながら、真奈美は感慨深げに深い息を吐く。

「ここで、宏君と一緒に立つ事が夢だったの♥」

 風でなびく長い髪を押さえながら、振り向いた真奈美の表情は垢抜けた女子高生のそれでは無く、ひとりの男に恋する女のそれだった。
 学園で見る癒しの真奈美とは違う、大人びた微笑に宏の鼓動が一気にヒートアップする。

「フフッ♪ 宏君、紅葉みたいに真っ赤になってる♥」

 そう言う真奈美も目元が紅く色付き、黒目がちな瞳はすでに潤んでいる。
 晶やほのか達が周りをガードしてくれている、と言う安心感が真奈美を更に大胆にさせ、白くて細い指で宏の手をそっと握る。
 愛し愛される者同士にしか判り得ない温もりと想いに囚われ、二人はその場から動けなくなる。

「宏君♥」

「真奈美♥」

 互いに見つめ合い、愛する者の瞳の中に自分が映る。
 と、ここで宏は弾かれた様に顔を逸らす。

「宏君!? どうしたの?」

 火照った顔のまま、真奈美の両手が宏の手をギュッっと強く握る。
 顔を背けた宏に、もう少しこのままでいて、という気持ちが思わず出たのだ。
 しかし宏は問い掛けには答えず、首を巡らして盛んに辺りを見回す。

「今、視線を感じたんだ。誰かに見られている様な……」

「もうっ! 誰よっ、せっかくの好い雰囲気を邪魔するのはっ!」

 宏の言葉を遮り、珍しく感情を露にした真奈美が辺りを見回すが、誰もこちらを見ていない。

「っ!!」

 一方、宏の台詞に慌てたのは傍にいた晶や優、千恵だ。
 つい宏と真奈美の甘い雰囲気に同化してしまい、周囲に対する警戒心を怠った自責の念で表情が強張ってしまう。
 クラスメイトに見付かれば依怙贔屓だと責められるし、教師達だと学園での宏の立場が危うくなる。

(どこっ!? どこにいるっ!?)

(まさか学園関係者じゃ無いでしょうねっ!?)

 三人は二人を見つめる視線を見つけ出そうと、周囲に鋭い視線を走らせる。
 しかし、京都の街並みを眺め様とこちらに顔を向けている観光客が多数いるので、誰が宏を見ていたかなど特定出来無い。
 そんな緊張感が漂う中、声高に話す若菜とほのかだけはクラスメイト達とのおしゃべりに余念が無い。
 が、それは周りにいる人間の視線を引き寄せる役割を果たしていた。
 なにせ、京の都に似合う大和撫子然とした長身の美人と金髪碧眼の八頭身美女が黒のセーラー服を着ているのだ。
 いくら多種多様の観光客で賑わっているとはいえ、目立たない方がおかしい。

「周囲の人間は二人を見るけど……こちらに向ける視線は無いわね」

 用心深く辺りを窺っていた晶が低く呟くと、千恵も注意深く建物の陰を窺う。

「宏の気のせい……かしら? 怪しい人影は見当たらないし。でも、ちょっと油断しちゃったわね」

「……今日はまだ初日。焦らなくても、時間はまだある」

 最後にもう一度、視線を周囲に走らせた優がみんなに諭す。
 的を射た指摘に、宏はバツが悪そうに首を竦める。

「うん、俺もちょっと浮かれてたかな……」

 浮付いた心に喝を入れ、宏は教師の顔に戻る。

「それじゃ、ちょっと場所を変えようか。下にある地主(じしゅ)神社に詣でてみよう」

 すると担任の声を聞きつけた生徒達から一際大きな歓声が上がり、宏を取り囲むと背中を押しながら出口へ向かう。
 どうやらここに残ったクラスの女の子は目の前の世界遺産より、縁結びの神様がいる地主神社が目当てだったらしい。

(女子高生らしいっちゃ、らしいわな~)

 恋占いの石に願掛けをし、素敵なパートナーと巡り逢いたいと想う乙女心に、思わず微笑む宏だった。

「……」

 そんな宏達の一部始終を人混みに紛れながら見つめる瞳がある事に、この時誰も気付かなかった。


     ☆     ☆     ☆


 初日のフリータイムを満喫し、気分上々の二年B組の一行は旅行中の基点となる宿へと向けて移動していた。
 吉井女学園の宿は鴨川に架かる四条大橋の袂(たもと)にあり、今日はクラス毎にチェックインする事になっている。
 宏達のクラスでは京都到着から全体集合までの時間を考慮した結果、三十三間堂から清水寺、円山公園を経由し、最後に祇園を抜けて行く案を採った。
 ルートを提案した優によると、昼食を挟んでの徒歩移動に丁度好い距離と時間なのだそうだ。

「ここが三年坂、産寧坂(さんねいざか)とも呼ばれている場所だ。北に向かって下る石段は意外と急だから気をつけろよ~」

 宏と、すっかり宏の取り巻きと認定(?)された晶達六人を先頭にした女生徒三十余名の集団がお喋りしながらゆっくりと坂を下りる。

「この坂で転ぶと三年以内に死ぬ、と言い伝えがあってだな……」

 宏の説明に、千恵の真後ろにいた若菜がニンマリ笑ったかと思うと長い足を姉の足元に伸ばす。

「っ!? きゃっ!!」

 すると宏の左隣を歩いていた千恵が躓き、短い悲鳴と共にバランスを崩して前のめりに倒れ込む。
 千恵の尋常で無い声に視線を向けた優とほのか、真奈美が倒れゆく千恵の姿に息を呑む。

「!!」

「危ないっ!!」

 咄嗟に宏は半身になると右腕一本で千恵の身体を支え、倒れ込む勢いと重力に逆らって思いっ切り引っ張り上げる。
 すると上手い具合に宏の胸の中に千恵の小さい身体がすっぽりと収まった。
 身長百五十センチと小柄で体重も軽い千恵だからこそ出来た芸当だった。
 これが学園で一番背が高く、体重も(それなりに)ある若菜だったら支え切れずに宏もろとも石段を転げ落ちていっただろう。

「あ……っ♥」

 千恵は何かに躓いたと同時に浮遊感に包まれ、そのまま何処かへ引き寄せられる感覚を覚えた。
 しかし、すぐにいつも嗅いでいる宏の匂いと温もりに包まれると、思わずそのまま縋り付いてしまう。

「きゃ~~~っ♪」

「千恵ちゃん、大胆~~~♪」

「宏先生ったら、若菜ちゃんに飽き足らず、今度は千恵ちゃんに手を出してるぅ~~~っ!」

「男性教師と女子高生……♪ 萌えるわ~~~♥」

「兄と妹による禁断の愛♥ 燃え上がる二人の情欲♥ これ、同人ネタに戴きっ! ……ついでに資料写真をパチリ、っと♪」

 二人が抱き付いた経緯(いきさつ)を知らない生徒達が、今尚熱く抱き合う兄妹二人を一斉に囃し立てる。
 次々と沸き上がる黄色い歓声や自分達に向けて焚かれる携帯電話やデジカメのフラッシュに、千恵は宏にきつく抱き締められている事にようやく気付く。
 と、同時に目にも留まらぬ速さで宏から離れ、照れ臭さもあって宏から顔を背けてしまう。
 しかし、黒のセーラー服から覗くその肢体は紅葉張りに真っ赤に色付いていた。

「千恵っ! 大丈夫か!? 足、捻って無いか?」

 ところが心配して顔を寄せた宏に、千恵はいつもの癖で目の前に迫った愛する男性(ひと)の唇に吸い付きそうになる。

「お、おい、大丈夫か? こんな所でコケるなんて、シャレにならんぜ?」

「千恵ちゃん、大丈夫? どこも怪我して無い?」

 千恵の唇が宏の唇とくっ付く寸前の所で、ほのかや真奈美の心配する声に我を取り戻す。
 二人が声を掛けなかったら何もかも忘れ、人前にも憚らず熱い口付けを交わしていただろう。

「だっ、大丈夫っ! なんとも、ない、からっ」

 千恵は慌てて顔を引っ込め、ほのかと真奈美に真っ赤に染まった顔を縦に振り、宏にも視線を向けて大丈夫、心配してくれてありがと、と告げる。

「ちょっと若菜さんっ! 悪ふざけにも程があるわよっ!」

 千恵の無事が確認された所で、宏の真後ろで全てを見ていた晶が声を震わせて若菜を責める。
 その言葉に千恵は躓いた原因を瞬時に理解し、コトを仕掛けた若菜に殺気を篭めた鋭い視線を投げ付ける。

「あ、あんたは~~~っ! 何考えてんのよっ!!」

「ん~~~? 何のコトかしらぁ?」

 笑いながらすっ呆ける若菜に、怒りを露にする千恵と晶。
 この三人の様子に、クラスメイト達は熱い抱擁の原因がいつのものトリオ漫才(本人達にその意識は無い)だと判り、スキャンダル(?)を惜しむ声が一斉に上がる。

(ったく、この娘(こ)はもう~~~っ!!)

 しかし、顔ではどんなに怒っていても、宏に抱き締められた温もりと嬉しさに心を蕩かせる千恵だった。


     ☆     ☆     ☆


 その夜、二年B組に宛がわれた部屋(百畳敷きの大部屋だ)では、晶と若菜の攻防戦が行われていた。

「ちょっと本気なの!? 止めなさいって!!」

「大丈夫だよ~♪ 先生達の担当見回り時間や巡回ルートはとっくに宏ちゃんから入手済みだし~♪」

 並べて敷かれた布団の中で晶が若菜の左腕を掴み、こめかみに血管を何本も浮かべて目尻を吊り上げていた。
 若菜が引率教師達の巡回の隙を縫って宏の部屋へ忍び込もうと画策し、晶が必死に制止しているのだ。
 消灯時間が過ぎているとは言え、常夜灯が部屋全体を淡く浮き上がらせ、その明るさは二列三人ずつ向い合わせになった晶達六人が部屋の隅で掛け布団を頭から被り、腹這いになって顔を突き合わせている様子が部屋の反対側からでも判る程だ。

「各部屋への立ち入り検査は毎時十五分にD組からA組に向けて始まるし~、ホテル内の巡回は毎時四十五分に一階ロビーから始まるから、あと十分もすれば誰にも見付からずに宏ちゃんの部屋まで行けるよ~♪」

 若菜は、宏達教師は一階下のシングルルームが宛がわれている事、巡回は二十三時の消灯後から翌朝七時の起床時間まで行われる事、各部屋のチェックは女性教師が行い、ホテル内の巡回は男性教師が行う事などを語って聞かせる。

「因みに~、宏ちゃんは引率教師の中で一番の新人さんだから~、毎日夜中の二時台から明け方の四時台までを受け持つんだよ~。……宏ちゃん、可哀想~」

 あたかも自分が教師であるかの様に内部情報を喋り捲る若菜。
 まるで壊れた蛇口の様に、その勢いは止(とど)まらない。

「部屋のチェックと言っても人数の確認まではしないし~、ホテル内の巡回も私達生徒に対してもだけど、特に外部からの侵入者に備えて監視の目を厳しくしてるんだって~」

 私達が女子高だから仕方無いよね~、と笑いながら第一級マル秘情報を暴露する若菜に、晶達は勿論、聞き耳を立てていたクラスメイト全員も驚きを隠せない。
 ハイレベルな情報戦には金輪際縁の無さそうな若菜が、生徒の誰もが知りたくても知り得ない情報を握っていた事に驚いているのだ。

「あ、あんた……、いつ宏からそんな超極秘情報を手に入れたのよ……」

「若菜ちゃん、凄い♪」

 千恵は呆れた様に目を見開き、真奈美は尊敬の眼差しで右斜め前の布団にいる若菜を見つめる。
 それは周囲で晶達の動向を窺っているクラスの面々も同感だった。
 二十三時になり、部屋の照明が落とされると同時に晶と若菜のドタバタ漫才が始まったかと思いきや、洩れ聞こえてくる情報の重大さに全員が固唾を呑んで聞き耳を立てていたのだ。
 生徒達にとって消灯後、教師達の目を逃れて他の部屋へ遊びに行ったり、ホテルを抜け出して近所のコンビニで買い食いする事が修学旅行のもうひとつの楽しみでもあった。
 その為に絶対に欠かせない情報が引率教師の動向だ。
 いつ、どこに教師(敵?)が現れるのか事前に判っていれば見付かる危険性が大幅に減少し、部屋やホテルからの脱出や帰還の成功率が格段に上昇するからだ。

「えっへん♪ どう? 凄いでしょ~♪」

 そんな超マル秘情報を手に入れた若菜は意気揚々とピースサインを出しながら薄い胸(七十八センチのCカップだ)を大きく張る。
 晶にとっても、それら情報は初耳だったし、何より気分的に面白くない。

(まったくもうっ、内部情報を簡単に生徒に洩らすなんて、それでも教師なのかしらっ! ……しかも、何であたしじゃ無くて、よりにもよってこの娘に教えるのよっ!!)

 晶の心の中は宏の迂闊さを責めるよりも、思わず湧き上がった嫉妬心で満たされてしまう。
 そんな情報を手にしたら、誰にも喋らず自分一人でヒロの部屋へ忍び込むわよ、と頭の中で続ける。
 しかし、クラス委員長として目の前の規則破りを黙認する訳にもいかない。
 若菜の腕を握る右手に力を篭め、半ば興奮気味に目の前の能天気娘を諭す。

「だからって夜這いを仕掛けるなんて、どうかしてるわよっ!! 貴女は妹で生徒なのよっ!? 少しは人目を考えなさいっ!!」

「……女から出向く時は『お情けを頂戴する』と言う。それに、人目が無ければ良い、って訳でも無い」

「!! って、優っ! なに冷静に突っ込んでのよっ!! あんたも止めなさいっ!!」

 正面の布団で明日の散策ルートのチェックをしていた妹の何気無い台詞に、額に浮んだ血管の何本かが切れる。
 そこには、いつもクールな表情が売りのクラス委員長としての顔は無く、自分達の関係を必死に隠す女の顔しか無かった。

「お情けか……オレも乗った♪ 若菜ちゃん、一緒に行こうぜ♪」

 晶と若菜のやり取りをずっと眺めていたほのかが、心底面白そうに口を挟む。

「ちょっ……え゛ぇっ!? ほ、ほのかちゃんっ!?」

 すると、自分達の声の大きさに気付き、みんなに注意しようとした千恵は驚いて声を詰まらせ、優と真奈美の間にいるほのかを見る。
 学園にいる間は宏との関係を匂わせなかったほのかが、クラスメイトの前で初日から夜這いに参戦するとは思わなかったからだ。
 大きな瞳をまん丸に見開いた千恵の顔に笑いを堪えつつ、金髪美少女が誘いを掛ける。

「千恵ちゃんも来るか? 一緒にお情け貰おうぜ♪」

「こらっ、ほのかっ! 千恵ちゃんを巻き込むんじゃ無いっ! 真奈美も羨ましそうな顔をしてないで早く二人を止めてっ!!」

 晶の悲鳴に近い声が部屋に響く。
 消灯後、最初は六人共ヒソヒソ声で話していたのだが、晶の興奮が高まるにつれて声のボリュームも次第に上がり、今や街中の交差点で話しているかの様な声量となっていた。
 そんな声では内緒も隠すも無かった。
 なにせ、同じ部屋にはクラスメイト三十余名がいるのだ。
 夜更かしが当り前の女子高生が夜十一時に寝られる筈も無い。
 そこかしこで思い出話や明日の予定を布団の中で話し合っている所に晶の鋭い声が響けば、否応無しに注目を集めてしまう。
 すると、透け透けのランジェリーに身を包んだ一人の生徒が晶の布団を捲り上げると声高に宣言した。

「私も行くっ!! 貴女達ばかりに宏先生を独占させないわよっ」

 その声をきっかけにして、あちこちから私も行く、美味しい思いをさせないわよ、と言う声が同時に湧き上り、晶達六人の周りに集まって来る。
 みんな若菜の情報を基に、宏の部屋へ押しかける腹積りになっていたのだ。
 中には下着を脱いで素肌に浴衣を羽織り、準備万端整える者が出る始末だ。

「わ~い♪ みんな一緒だね~♪ みんな宏ちゃんが好きなんだね~♥」

 ひとり能天気な若菜が手を叩いて歓ぶ。
 宏を好きな女はライバル、と言うより、同じ男性(ひと)を想う仲間、と言う意識なのだ。
 若菜の台詞に部屋中が同意と賛同で沸き立つ中、廊下と部屋を仕切る襖が勢い良く開かれると同時に鋭い声が響き渡った。

「こらっ! いつまで騒いでんのっ! とっくに消灯時間は過ぎてるわよっ」

 そこには学年主任の夏穂が両手を腰に当て、仁王立ちになって生徒達を睨んでいた。
 が、すぐに表情を和らげると教師の顔を外し、同じ女として語り掛ける。

「楽しくて寝る間も惜しむのは判るけど、夜更かしはお肌の大敵よ~♪ 宏クン……宏先生から綺麗に見られたいと思うのなら、お喋りは程々に切り上げて早く寝る事よ♪」

 夏穂のアドバイスに生徒達は我先に布団へと潜り込む。
 目先の好奇心を満たすよりも恒久的に綺麗に見られたい、と願う乙女心を突いた夏穂の勝利だった。
 しかし、晶だけは形好い眉をしかめる。

(ん!? 何でヒロの名前が今、ここで出るの? 夏穂先生、みんながヒロに好意を持っている事、知ってたのかしら? ……それとも、今まで外で聞き耳を立てていた?)

 クラスメイト達が宏を好きだとカミングアウトしたのは、たった今だ。
 だのに、夏穂は前もって知っていたかの様な素振りを見せた。

(確か……夏穂先生は恩師だった、とヒロは言ってたわね。これは……何かありそうだわ)

 晶の中で、女としての勘が警鐘を鳴らし始める。
 正面の優に、自分の受けた違和感を視線だけで伝える。
 優も夏穂の台詞に引っ掛かるものを感じたが、首を僅かに横に振って「今はまだ判断出来無い」と視線を返す。
 この双子は目線だけで会話が出来るのだ。
 それよりも今は隣の若菜が気に掛かる。
 若菜は腹這いのまま俯き、黙り込んだまま肩を細かく震わせていたからだ。
 その横顔は長い髪に隠され、誰からも窺う事は出来無い。

「……仕方ないわね。今回は諦めなさい」

 若菜を掴んでいた手を肩に掛け、晶が優しく諭す。
 晶とて若菜の気持ちも十二分に判るが、幾らなんでも人目がある時は拙い。
 宏に甘えるのは家に帰ってからでも充分間に合う。
 そう思っていたのだが。

「……フフッ♪ ムフフフフ~~~~ッ♪」

 宏の部屋へ行けない悲しさで泣いていたと思いきや、若菜は巡回情報の正確さに会心の笑みを浮かべていたのだ。
 聞き耳を立て、夏穂が隣の部屋で喝を入れている声を確認した若菜は掛け布団を被ったままミニ懐中電灯を口に咥えて手元を照らし、手帳にチェックを入れつつ呟いた。

「部屋のチェックは予定通りだったわ~♪ これなら廊下の巡回も予定通りの時間と担当ね~。……ムフッ♥ それじゃ~これから宏ちゃんの部屋に忍び込もう……はぅっ! きゅぅ~」

 千恵は若菜の余りの図太さに一瞬フリーズしたものの、布団から抜け出そうとした妹の首筋に素早く当て身を食らわせて動きを封じる。
 晶は懲りない若菜に額を押さえてうな垂れ、ほのかはそんな三人の様子に笑い転げ、真奈美と優は若菜のバイタリティーに顔を見合わせて苦笑するしかなかった。
 そんな六人の様子に、やはり聞き耳を立てていたクラスメイト達は自分の代わりに昇天(?)した若菜に向かって心の中で合掌した。


                                             (つづく)
 
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 ご愛読&コメントありがとうございます♪

 長らくお待たせ致しました♪
 続きは更に面白くなるかと・・・(当社比)(^^♪

 次回公開まで少々お待ち下さいませm(_ _)m
 

[ サスガですねぇ~ ]
サスガですねぇ~!
どうしたらこんなに上手にかけるんでしょう?
思いっきり物語りにのめり込んじゃいます。

続きも楽しみにしてますね(^^)v


[ ありがとうございます♪ ]
えいとさん

 ご愛読&コメントありがとうございます♪


 お褒め戴き恐縮です♪ m(_ _)m
 楽しんで戴けた様で何よりです。

 続編は直ぐに公開致しますので、少々お待ち下さい♪ (^o^)丿
 
 

[ ]
早くつずきがみたいです

[ お越し戴きありがとうございます♪ ]
ムウさん
 
 ご愛読&コメントありがとうございます♪

 続きは直ぐに公開致します(^_^)v
 ほんのチョッとだけお待ち下さいませ♪

 

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