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     ~ラブラブハーレムの世界へようこそ♪~


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恋妻(5) 恋妻(5) 美姉妹といっしょ♪~新婚編
 
(昨日、ほのかさんから渡された地図を見た時から妙な懐かしさを覚えたけど、こうして久々に来てみると懐かしさもひとしおだな)

 モノレールを降り、二列だけの自動改札を抜けた宏は見覚えのあるビル群を見渡し、感慨深げに深い息を吐(つ)いた。

 ――鉄骨で支えられた幾つもの太いパイプがビルとビルの二階部分に縫うように渡され、三階部分には建物同士を結ぶ連絡通路。屋上には赤白塗装の低いアンテナや小型のレーダードームが置かれ、ビルに横付けされた、空港周辺だけにしか見られないフードローダーと呼ばれる機内食運搬の大型特殊車輌や航空会社のロゴが入れられたライトバン。そして見覚えのある枝振りの街路樹の下をお揃いの整備服姿で連れ立って歩く人達――

 前回訪れた時と少しも変わらない光景に、宏はどこか心安まる気分になった。

(ま、少なくはない回数、この駅を利用したからなぁ。すっかりこのエリアに染まっちまったのかも)

 ほのかから「デートしようぜ」と待ち合わせ場所に指定されたのは、羽田空港の北西側に位置するモノレールの整備場駅だった。

(それにしても、日本一の規模を誇り世界的にも年間利用客数第四位の空港なのに、ここだけは人気(ひとけ)が少なくひっそりとした雰囲気は変わらないなぁ。まぁ、この時間はみんな建物の中にいるんだろうけど……)

 数分おきに遠くから聞こえるジェット機のエンジン音の他は、平日の日中にも係わらず小鳥達のさえずりやそよ風が街路樹の葉を優しく揺する音だけが耳に届くのだ。

(空港の南側に新たに拡充された整備エリアにエアライン各社がこぞって移ったからなぁ。今やここは旧整備場エリアなんて呼ばれて、海上保安庁と航空局、警察と消防、報道各社と一般企業向けのハンガーしか残ってないし)

 年間七千万人を越える利用客で二十四時間賑わう旅客ターミナルの華やかさを知っているだけに、同じ空港にいるとは到底思えない。
 それでも。

(……あ! あの錆びた道路標識、まだ端っこが折れ曲ったままになってる! それにこの縁石、割れたトコから雑草が伸びてるの、見覚えある!)

 目に飛び込む光景のひとつひとつが過去の記憶と鮮明に重なり、センチメンタルな気分に浸ってしまう。

(前に来た時は晶姉達六人と挙げる結婚式の打合せで何度か来た程度だったからなー。そっか、あれから一年半近く経っているのか。何だか遠い昔のようにも思えるなぁ。それが今や……)

 同棲を機に土地付き一軒家を所有し結婚、その後も四人の妻を娶り暮らしているのだから人生何が起きるか判らない。

(変ったと言えば、モノレールの始発駅が七月から東京駅に移ったんだよなー。前に来た時は、延伸部分の橋脚工事が終ったかどうかって時だったし、空港自体も沖合に四本目の滑走路が出来るわ国際線ターミナルが大幅に拡充されるわで、時代の移り変わりが早いよな~)

 宏の脳裏に、今回のデートを持ち掛けた金髪碧眼美女の笑顔がポワンと思い浮ぶ。
 妻であるほのかの職場は、このすぐ近くなのだ。

(浜松町での乗り換えが無くなり通勤時間が少し減ったって、ほのかさん喜んでたもんなー)

 宏は家を出てからこの整備場駅までの行程を思い起こしていた。
 自宅から最寄り駅までゆっくり歩いて十五分、そこから東京駅まで快速で三十分、乗り換えに十分と各駅停車のモノレールに揺られること二十分で合計七十五分。
 以前の東京から浜松町まで電車移動していた頃と比べると、およそ十分の時間短縮となる。
 もっとも、東京駅では八重洲側にある新幹線ホームの頭上にモノレール駅が造られたので、丸の内側の地下深くにある快速線ホームから早くても従来の倍近い乗り換え時間が掛かってしまうのが難点だが。

(それでも乗り換え一回で来られるのはホント、楽だよなー。特に朝なんかは)

 などと妻の立場を身に置き換えていたら、丁度その美女が運転するワンボックス車が目の前でピタリと停まった。

「よう、宏! 待たせて悪かったな! ささ、乗った乗った!」

 身を乗り出し助手席のドアを開けたほのかが満面の笑顔で手招きする。
 腰まで届く波打つ金髪は、今はアップに纏められてはいるが、上は深紅のトレーナー、下はスリムジーンズと家を出た姿のままだ。

(あ、そうか。前にほのかさんが言ってたっけ。フライトが無い時のクルーは服装が自由だって)

 職場の大らかさを羨ましく感じた宏が右腕に嵌めた時計をチラリと見ると、待ち合わせ時間の午前十時半より少し前を指していた。

(流石、人格や能力に秀でて選ばれた機長だけあって時間も正確だ♪ ……もっとも、家(うち)にいる時に着崩してセクシーを通り越してあられもない姿で飲んだくれるほのかさんも知ってるから、丸っきり几帳面とまでは言えないけどねー)

 などと目の前の見目麗しい機長に魅入っていたら。

「……おい宏。今、何か失礼なコト考えてたろ?」

 ジト目となった切れ長の碧眼で睨まれてしまった。

「えっ!? いやいや! トンデモゴザイマセン! って、ほのかさん、この白地に赤のラインが入った車って、ほのかさんの勤める会社の車だよね? 去年来た時、事務所の前に停まってたの見覚えあるし。ってコトは、今日のデート先は、やはりほのかさんの職場なの?」

 車に乗り込みシートベルトを締めつつ大慌てで否定し、話題を早急に変える宏。
 あとに引く喧嘩など決してしない相手だと判っていても、せっかくのデートを微妙な空気のまま過したくは無い。
 元よりほのかも冗談だったようで、車を発進させるとウィンクしながらサムズアップして来た。

「あはは! 宏がどう思ったかはともかく、行先は大正解だ♪ まぁ、昨日渡した地図見りゃ大方の予想は付くもんな。ってコトで、今日はオレの普段の仕事っ振りを見て貰おうかと思ってさ。ホラ、学校でもあるだろ? 親が子供の学校や授業を見学するヤツ、えっと……何てったっけ?」

「あ~、授業参観、だね」

「そうそう! ソレだ、ソレ♪ オレ等の会社、家族や知人向けに授業――じゃ無くって職場参観制度、採ってるんだ。だから夫である宏には、仕事してるオレの姿を見て貰いたくってさ♪ まぁ、今回はフライト無いからデスクワークがメインだけどな」

 鼻歌交じりにハンドルを操る横顔に、宏はなるほどと頷く。

「ほのかさんが今朝から機嫌好かったのは、これだったのか。朝食の席でもソワソワ、ウキウキしてたし」

「そりゃ、愛しのダーリンがオレの職場に来るんだ。昨夜は待ち遠しくって嬉しくって興奮の余り全然寝付けなかったぜ♪ お陰で今日は寝不足だ」

 破顔するほのかに、宏はニヤリと笑ってしまった。

「あっれ~、変だな? 昨夜のほのかさん、俺の腕を枕にして実に安らかな寝顔してたよ? それに待ち遠しかったのは俺とのエッチで、興奮してたのはスローセックスの真っ最中だったよね~。正常位で繋がったままお互い異様~に燃えちゃってさ♪」

「!! ~~~~~っ!」

 揶揄する宏に、昨夜の痴態を思い出したのか車が一気に加速し、無言のまま顔が真っ赤に染まるほのかだった。



「到着~♪ さぁ、ここがオレの職場だ! ――って、去年何度も来たから言わんでも判るわな」

 宏がほのかの運転する車で一分と掛からず着いた先は、道路側が二階建ての事務所ビルになっている、これまた見覚えのある格納庫(ハンガー)だった。
 ここは整備場駅から歩いて五分足らずの近場にも係わらず、ほのかはわざわざ車を出してくれたらしい。
 なので車を降りてすぐ、

「ほのかさん、ありがとう!」

 満面の笑みで礼を言わずにはいられなかった。
 ただ、事務所を見上げつつ、

「それにしても久し振りだなぁ。綺麗な薄い青色なのに何となくくすんだ色合いと年季の入ったボロッちぃ建物は前に来た時とちっとも変わらない! まぁ、羽田の拡張工事とは孤立無援なエリアだから仕方無いか」

 懐かしさの余り、ここを職場にする人の目の前で思わず本音が口を吐(つ)いてしまった。

「あ! ご、ごめん! つい――」

「あはははは! 相変らず正直だな! でもそんな正直さを持つ宏だからこそ、オレは好きだぜ♪」

 慌てて詫びを入れる宏を咎めるどころか、サムズアップ付き大笑いで褒められてしまった。
 オマケに、この職場に於いては管理職でもある現役機長からの寛大なお言葉まで頂戴する羽目に。

「大丈夫! 宏の抱いた感想は、ここら一帯で働く全員が普段から思ってるコトだから全然気にしなくて好いぞ♪」

「え~っと……それでも、ゴメン」

 何となく申し訳無く思い、小さく頭を下げる宏だった。

「ま、ともかく中に入ってくれ。所長以下、全員がお待ち兼ねだ!」

「あ、そうか。ここにいる皆さんは昨年ここで挙げた結婚式のお礼に訪れて以来だし、所長さんや副所長さんと逢うのも、今年の春先に下地島で挙げた多恵子さん達との結婚式のお礼で訪れて以来だもんな。皆さん、お変り無く?」

「それは自分の目で確かめてくれ。まぁ、クルーとメンテの人数が倍増した以外は前のままだからさ」

「そう言えば、会社の形態が変わってパイロットと整備士さんが増えたんだっけね。となると、その半数近くは初対面、って事か」

 宏が記憶の中にある、昨年お世話になったクルーや整備士達を思い起こしていると、豪快に笑ったほのかが耳を疑うような台詞を曰(のたま)った。

「あはははは! 宏は初対面でも、このエリアに詰める人間は余すトコ無く全員、宏を知ってるぜ♪」

「はい~~~~っ!?」

 これ以上無い位に目を剥き、言葉尻が急上昇する宏。
 そんなご当主が面白かったのか、ひとしきりケラケラ笑ったほのかがネタばらし(?)してくれた。

「だってよ、この界隈で働いてる者達はオレ達の結婚式に参列した連中だぜ? ハンガーの周りに幾重にも出来た人垣、覚えてねぇか? 百を優に超え二百人以上、いただろ?」

「……そ、そう言われれば、確かに」

 宏の脳裏に、式の周知をしていないにも係わらず噂を聞き付け集まって来た空港関係者達が浮かぶ。

「なにせ、味気無い北側整備エリアを一時(いっとき)でも華のある空間に変えてくれた大恩人なんだ。連日飲めや歌えの大騒ぎになって当然さ。その宏が更に四人もの美女を娶る様子を下地島からの生中継見たり式の様子を収めたブルーレイ見たりすれば、そりゃ誰だって宏の顔と名前、完全に覚えるさ。だから宏はこの界隈では超有名人なのさ♪」

「そ、それって初耳! 寝耳に水なんですけど!? そんなん、ちっとも知らんかったわ!」

「あははは! これぞ、知らぬは亭主ばかり、ってな♪」

「……誰が巧い事を言えと? あ……もしや、それで整備場駅の駅員さんがにこやかに挨拶してくれたのか?」

「あはははは! 今も当時の様子が語り草になってるからな。オレも時々、そのネタでからかわれるし♪」

「こ、ここらで働く人達って、底抜けに陽気で明るいんだって、今ので好~~~く判ったよ。……あ♪」

 終始笑顔のほのかに衝撃的な内容を聞かされるも、宏は微かに感じるジェット燃料の匂いと、数分間隔で聞こえる高らかなエンジン音に心が躍り始めた。

(あぁ、この、何ともクセになるケロシンの匂いに、着陸した飛行機が逆噴射(リバース)する時の豪快なジェットサウンド! これぞ空港に来た! って感じだよなぁ♪ ん~~~最っ高♪)

 航空ファンでもある宏はその実、ここに来る事をほのか同様に昨夜から楽しみにしていたのだった。


     ☆     ☆     ☆


「――で、ここが事務担当のお姉様方が揃う席、あっちが整備(メンテ)の連中だ。ま、机を向い合わせにしてひとつの島を作るやり方は、どこも一緒だけどな。因みに、晶のいる丸の内オフィスもそうなんだぜ♪」

 ほのかは先導するよう宏に腕を絡ませ、事務所内を案内する。

(オレの職場に宏がいるなんて、メチャ幸せだぜ!)

 宏と同僚達三十人がお久し振りです、その節はお世話になりました、お元気そうで何よりです、初めまして、などとにこやかに挨拶を交わしている間、ほのかはずっと心弾ませていた。
 なにせ、勤務時間中にも係わらず愛して止まない宏と一緒にいるのだから、こんな嬉しい事はそうそう無いだろう。

(よ~し! 晶のヤツに一泡吹かせ、こんな幸せな毎日を続けるにも、今日はビシッと決めないとな!)

 前々から準備して来た事が成就するのか否かの瀬戸際だけに、勢い、エスコートする腕に力が入ってしまう。

「ホラ、挨拶はいつだって出来るから、次はこっちだ♪ 給湯室横の階段を上がった二階には更衣室と畳十枚分のスペースもある食堂兼大休憩室、そして十六人分のベッドがある仮眠室とシャワールーム三つがあるけど、それは前に来た時に知ってるだろ? そう、オレ達結婚式の控え室にしてたトコさ。で、整備連中の島の後ろにあるこの扉を開けると……」

 これまでの天井の低い空間から、今度は大きく見上げる程に広大な空間――格納庫へと移動する。
 エスコートされる宏も、久々に来た所為か随所に目を輝かせ、盛んに首を巡らせている。
 どうやら職場参観は巧く事が運んでいるようだ。

「ここは幅百二十メートル、奥行五十メートル、高さはビル七階分に相当する二十メートルあって、誘導路側の隣、つまり事務所の後ろ側にはエンジン調整用の燃焼試験室もあるんだ。今はこのガルフストリームG650の二機体勢でオレ達がフライトしてるのも、知っての通りだ」

「うん、小型のビジネスジェット二機だけとは言え、並んでると壮観だね! しかも分解整備するだけの設備を揃えると、これだけの規模になるもんね。それに……」

 と、ここで隣を歩く宏の目が少し優しくなる。

「懐かしいな。ここで俺達、結婚式を挙げたんだよね」

「そうそう。宏のサプライズウェディングで、な♥」

(あの時は重役の海外出張のフライトと言われてたのに、ここに来ていきなり副所長からウェディングドレス手渡されて……)

 当時の感激が急速に、かつリアルに思い起され、ほのかは顔が火照ってくるのが判った。
 宏も当時を想い浮かべているのか、感慨深げに頷いている。

「あの時はガルフV(ファイブ)一機だけだったけど、今やほのかさんの会社は他社と共同出資して独立し、機体も二機体勢になったんだもんね。たった一年半でも情勢は大きく動いてるんだね」

 自分達の姿がハッキリと映る程に磨かれた機体を仰ぎ、宏がしみじみ呟く。
 そのどことなく憂いを帯びた口調に、ほのかはそれまでの浮かれた気分が一気に消え、眉を少し寄せた。
 夫が現在抱えている悩みに、心当りがあったのだ。

「宏、ひょっとしてまだ仕事に就けない事、気にしてんのか?」

 夫の勤めるバイト先が企業買収の憂き目に遭い、失職してから早数週間。
 宏は自分なりに求職活動をしているものの、漏れ聞いた話によると職種自体が減少し、拡大する雇用のミスマッチ現象と相まって希望に添う働き口がなかなか見つからないのだとか。

(まぁ、六年経った今もサラリーマンショックの余波が全世界的に続いてるからなぁ。阿倍ノミクス効果とて中小企業には全く及ばないし、むしろ悪影響すら与え始めてるし)

 夫が無職である事に自分は(他の妻達もだが)全く気にしていないし、優が手掛ける資本運用だけで現状の生活レベルが余裕で維持出来ている。
 加えて、奥さん各々の口座にも億単位の額がほぼ手付かずで残っている(この利息だけで生活出来るレベルにある)のだから、将来に亘っての金銭的な不安は誰も抱(いだ)いては無い。

(そもそも、宏の口座にしたって中堅サラリーマンの年収に匹敵する利息貰ってんだから、殊更焦って働かずとも好いと思うんだけどなぁ)

 しかし宏自身は夫として、そして男としてプー太郎、且つヒモ状態は善(よ)しとせず、いつまでも身の定まらない自分に対し苛立ちや焦りにも似た感情を持っているらしい。
 しかも夫の不運に乗じ、ある程度所得のある晶、夏穂、多恵子は自分の収入で宏を養おう――つまりは囲う――と冗談をかましつつも実は虎視眈々狙っている有様なのだ(自分もソノ気が無いとは言わないが)。

(奥さんネットワークで宏の現状、みんなに筒抜けなんだよなぁ。夫からすると、それが好いんだか悪いんだか……この場合は善(よ)しとしよう)

 ほのかが瞬き一回分で思い巡らせていると、果して。

「あはは。流石、ほのかさん。機長(キャプテン)だけあって読みが鋭いや。全くもってその通りだよ。自分が意図しない失職にショックが無いとは言切れないし、でもこのまま無職で居続けるのも好いとは思ってないからね」

(宏……だったら!)

 夫の、愛する男性(ひと)の何とも寂しげな表情に、ほのかの胸の中で秘めていた闘争心と母性本能(!?)が盛大に燃え上がる。
 宏の手を取ると胸元で抱き締め、尚も寂しげな瞳をじっと見つめた。
 しかし表情はあくまで明るく、今までの明るく楽しいノリを維持しながら話を進める。

「なら、もし宏の能力を見込んだ企業なり職場なり零細企業なりが今すぐ来てくれ、とスカウトに来たら、どーする?」

「……はい?」

 予想外の事を言われた所為か、宏は一瞬、ポカンとした表情になった。

「俺を……スカウト? あはは、そんな殊勝な企業、ある訳無いって。そもそも、いち企業がいきなり特定の個人をスカウト、ましてや俺なんかをヘッドハンティングする訳、無いって」

「いや、まぁ、それでも、だ。仮定の場合として気軽に応えてみ♪ 宏ならどーする? 求めに応じるかい?」

「仮定で好いなら応えるけど、あくまで俺の理想論だよ?」

「な~に、それで構わんよ♪」

 ニヤリと笑い、サムズアップとウィンクで応えるほのか。
 その実、心臓がバクバクして今にも口から飛び出そうなのは、おくびにも出さない。

「そうだね、まずは職場を見た上で決めるかな? やっぱ実際に働く現場を見ない事には判断出来無いし、どんな人がいて、どんな風に働いてるのか、雰囲気はどうだ、とか、肌で感じる事が大事だと思うんだ」

「なるほど。今やバイトの面接すら現場見学や時給付きで体験就業させる時代だもんな」

 昔と現在との違いを改めて感じさせる夫のお言葉に、ほのかは大いに共感する。
 昭和のひと頃のように、小さな募集広告ひとつで応募者が殺到した時代とはまるで違う。
 今や、応募者が働き口や上役を選び、企業は諸手を挙げて人を呼び込む時代になっているのだから。

(でもそれは入社させるまでの話で、一旦入社させちまえば企業による従業員へのパワハラやら個人差別やら賃金未払いやらが相変わらず横行してるけどなー。だからブラック企業なんて言葉が流行るんだよなぁ)

 心の中で小さく溜息を吐(つ)いたほのかは続けて尋ねた。

「なら、今まで宏が実際に見聞きしてきた中で、こんなトコで働いてみたい、って思った企業は無かったか?」

「そうだね……前にしてた倉庫での在庫管理は面白かったなー、ある程度の肉体労働って感じで。で、そのバイト仲間が言ってた中に、製薬会社での新薬の被験者バイトってのがあって、三食付き日給二万円だけど一ヶ月だか三ヶ月だか施設に缶詰、なんてのもあったな。稼ぎはメチャ好いけど、どんな副作用が出るか判らんしその補償も無し、ってんで諦めたね。あとは、どこぞの施設だかで、時給五千円でホルマリン漬けの死体洗い、なんてのも――」

「――って、おい! きな臭いモンばっかじゃねーかっ! 金に目が眩むんじゃねぇよ! もっとこう、穏やか……ってか、フツーの仕事はねぇのかよっ!」

 夫の言葉を強引に遮り、常軌を逸した(としか思えない)バイト見聞に、思わず身体中の毛が逆立ってしまった。

「とにかく一般社会での話だ! バイト情報誌や求人チラシに載ってるような、平穏平和な仕事だよっ!」

(これ以上、裏バイト(スプラッター的?)を聞いたら、夕メシが食えなくなっちまうじゃんっ!)

 自分で話題を振っておきながら禍(?)が自身に降り掛かるほのかだった。
 そんな妻の抱いた嫌悪感が判る筈も無い宏は、淡々と話を続ける。

「そうだね……。だったら、知り得る限りでは晶姉やほのかさんが勤めるこの会社は好さげだね。去年結婚式挙げる前から会長さんを始め、皆さん懇意にしてくれるし。特に、ここの雰囲気は和やかで好きだな」

 今さっきまで鳥肌が立っていたのに、自分の会社をベタ褒められた瞬間、ほのかの顔が一気に朱(あか)く染まる。
 しかも、別の意味で――狙っていた応えを得られた事で、心拍数が急上昇する。

「ほ、ホントか!? 嘘じゃねぇんだろうなっ!?」

(あぁ! 職場参観して貰って、ほんっとに好かった! これまでの苦労が報われるぜ~♪)

 思わず宏の手を握る手に力が籠もり、内心で目の幅涙(勿論、嬉し泣きだ)を流していると。

「嘘じゃ無いって、ホントだって。でもまぁ、何の取り柄も何の資格も無い俺に航空現場が勤まる訳無いけどね~」

「取り柄が無いだなんて卑下しなくても好いぞ。宏の好いトコなら、オレはいっくらでも知ってるからな!」

 ニコリと笑ってビシッ! とサムズアップを決めるも、当の本人は小さく笑うばかりだ(愛想笑い? 苦笑い? 冷笑!? に限り無く近い……)。
 そんな自信無さ気に肩を竦める宏に、ほのかは胸の高まりと顔の火照りを強引に抑えつつ、質問の内容を少し、変化させた。

「でも、ここは羽田の端っこにある、辺鄙な場所だぜ? 通勤にしたってモノレールの整備場駅は快速停まらんから各駅停車しか利用出来んし、その上、東京からは二十分近く掛かるし、コンビニだってチャリで五分走ったトコに小さく狭い店が一軒あるだけだし昼食事情もお世辞でも好いとは言えないし」

 わざと軽く、そして自分の勤め先をぞんざいに言うほのか。
 しかし、ここが肝心なのだ。
 宏の、嘘偽りの無い本音を聞き出すには今この時しか無いのだから。
 そんな、何やら真剣味を帯びるほのかに、宏は何を今更、とばかり笑って応えた。

「通勤事情は東京までモノレールが延伸したから、かなり楽になった、ってほのかさん自身が言ってたじゃん。だから大丈夫だよ。昼食事情ったって、ほのかさん、ここの近所に行き付けの弁当屋があるって自慢してたし、時々、家(うち)からも千恵姉の作った弁当、持ってくじゃん」

「あ、いゃ、まぁ、そう……だけど」

 何だか……いつの間にか自分が貶めた勤め先を夫が必死にフォローしてくれている図になっているのは……気の所為、だろうか。
 それでも、夫の、自分への職場への関心が高い事に希望を見出したほのかは心の中で自分に鞭を入れる。

「で、宏はオレが詰めるこの職場は悪くないって事で好いんだな? 深夜にまで及ぶ突発的な残業があったとしてもか?」

「へ? うん、まぁ、そうだね。職場としては悪くない……んじゃ無いかな? 何たって、ほのかさん自身が活き活き働いてるんだもん。悪い訳、無いじゃん♪ まぁ、時々職場の呑み会で変な言葉を覚えて来るのはアレだけど~。昨夜の都々逸、とか」

 最後のフレーズはともかく、天にも昇るような夫からの賛辞に、ほのかは頬が緩む気持ちを強引に押さえ込み、そして腹を決めた。

「宏、ちょっと来てくれ」

「え? ほのかさん?」

 何事かと目を見開く宏に、ほのかはここぞとばかりに手を引き、事務室へ取って返す。

(ここまで来たら、後は実行するのみだ! 大丈夫! 外堀は全て埋まってる!)

 腰まで届く波打つ金髪を揺らめかせ、普段の柔和な顔すら忘れたかのような機長の迫力に、さっきまで和気あいあいとしていた事務所内の空気が一気に緊張感に包まれ、静まり返ってゆく。
 所長と副所長は両手を握り締め、ほのか以上に顔を強張らせてもいる。

「ほのかさん? 急にどうしたの? みんな固唾を呑んでるし……ほのかさんもナニやら顔が引き攣ってるよ?」

 夫の問い掛けに、ほのかは自分の机の前でピタリと立ち止まる。
 握っていた手を放すと宏の正面にクルリと向き直り、そして声を張り上げた。

「まずは、これを見てくれ!」

 キャプテンの澄み切った声が雲ひとつ無い羽田の蒼空に溶け込んでゆく――。


                                            (つづく)


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恋妻(6) 恋妻(6) 美姉妹といっしょ♪~新婚編
   
 十一月初旬の、とある日。
 宏が妻であるほのかの誘いを受けて職場参観していた、丁度その頃。


 宏の屋敷では、主婦として留守を預かる五人組――多恵子、優、真奈美、千恵、若菜が不在の宏に代わって庭掃除に励んでいた。

「あ~ぁ。今日こそは宏ちゃんとお庭でエッチ、したかったな~。庭に植わってる大きな梅の木にしがみ付いて木漏れ日に照らされながらの立ちバックとかで~♥」

「うふふ、ロマンチックね♪ しかも今日は小春日和だからストッキングやショーツ脱いでも、ちっとも寒くないし♪」

「……梅の木の下で相思相愛の男女が結ばれると、その愛は未来永劫不滅のモノとなる♪」

「こ、このおバカ! おのれは人目に付く場所でナニしようと企んでたんだ! 腐った妄想膨らます前に刈った草でゴミ袋膨らませろ! 真奈美さんもにこやかな笑顔で同調してないで早く落ち葉掻き集めて下さいっ! 優さん! 若菜(バカ)が本気にするから怪しげな情報言わんで下さいっ――って、今さっき裏庭で草刈りしてたのではっ!?」

「おほほほほ♪ 皆さん楽しげで好いですわねぇ。わたくしもあと何歳か若かったら若菜さんとご一緒に宏さんにご奉仕致しましたのに♥」

「た、多恵子さんまで……。んな事言ってるヒマあったら垣根の剪定さっさと終わらせちゃって下さい! このあと昼食の仕込みが控えてるんですから!」

 片手にゴミ袋、もう片手に鎌を持った千恵が若菜、真奈美、優、多恵子相手に、額に青筋立てて突っ込みまくっていた。
 そして同時刻。


「だーかーら! あんたら頷くだけじゃなくって、ちゃんと声に出して返事しなさいってばっ! いくら仕事をそつ無くこなせる様になっても目線合わせるだけじゃ他の面々といつまでもコミュニケーション出来んでしょうがっ!」

「「…………(コクコク)」」

「――って、言ってる傍から二人して頷いてんじゃ無いっ!」

 ほのかと同じ会社に属し、丸の内にあるオフィスで飛行業務部長として事務方トップに君臨する晶は、指導役として女性新入社員相手に孤軍奮闘していた――。


     ☆     ☆     ☆


 そして場面は羽田の事務所に戻る。
 ここは羽田空港の一角にある、企業向けハンガー(格納庫)であり、ほのかの勤務先でもある。

「まずは、これを見てくれ!」

 ほのかに強く腕を引かれ、職場参観半ばにして事務所に引き戻された宏は、その有力者たる主任機長から一枚の紙を目の前に突き付けられた。

「あれ? これって、この前、ほのかさんが家(うち)に持って来た雑学のテストじゃん。へ~、ちゃんと採点されてるんだね。ほっほ~、抜き打ちテストみたいな状況だったけど七十五点なら、まずまず、かな?」

 受けたテストの回答蘭に赤で記された丸や三角が並んでいるのは、二十二になったこの歳でも気分が好い。
 解答時にある程度の手応えを感じていただけに嬉しくなり、思わず頬が緩んでしまう。

(あ~、でも結構間違えてるな。地理と雑学はともかく、やっぱ英語と数学がダメだな)

 しかも、正答誤答に係わらず所々にひと言ふた言、何やら注釈めいた事が書かれているのが気になる。
 しかしそれを読む前にほのかが机に置き話を進めてゆくので、どんな内容なのかは知らないままになってしまった。

「因みに、これは副所長が採点したものだ。回答者を伏せて、な」

「……はい? 俺の名前を隠して採点?」

 目の前の金髪碧眼ハーフ美女から、何やら腹に一物あるかのような言葉が飛び出した。
 突然のテストといい今回の採点方法といい、普段の明け透けなほのかからは想像出来無いやり方だ。
 しかも、背中にチクチクと突き刺さる感覚が。

(うわっ!? いつの間にやら事務所中が固唾を呑んで俺達に注目してるし! ナニやら……本気(マジ)できな臭くなって来たな。それにしてもほのかさん、いったい何を始めるつもりなんだろ? ここの人達、ほのかさんが何をしようとしてるのか知ってるのかな?)

 怪しくなった雲行きに眉を僅かばかり顰めるも、今は黙って続きを待つ。

「そうだ。他にも宏の回答をコピーして所長、整備長、主任事務、そしてパイロットの澪ちゃんに採点して貰ってる。当然、公平性を保つ為に採点は回答者を知らせないまま個別にして貰ってる」

「えっと……俺の回答とは知らせないで五通りの採点? だから公平だと?」

「うむ。宏の名前出して採点して貰うと、これまでの経緯(いきさつ)があるからどうしても私情が交じって点数が甘くなるだろ? だからオレは採点せず、各セクションの責任者に採点して貰ったんだ」

 ほのかは自分の机の引き出しから採点された残りのテスト用紙四枚を取り出し、机上に並べてくれた。
 点数を見ると、六十三、六十八、七十九、七十と、先の七十五と併せても見事なまでにバラバラだ。

「同じ問題なのに採点がバラけるなんて、やっぱ雑学の測り方や解釈がそれぞれ違うんだね」

「そりゃそうさ。学科はともかく、答えに幅のある問題の正答判断基準は人それぞれだからな。で、その五人の採点を平均すると七十一点だ。まぁ点数だけ見ればギリ合格、ってトコだな」

「はぁ」

(合格……って、いったい何の?)

 まるで定期試験終了後の教師みたく淡々と告げる教官機長に、宏はどう応えて好いのやら判らない。
 内心戸惑っていると、ほのかから更なるお言葉が飛び出した。

「見ての通り、採点はシビアに付けられてるから、これなら余所からの横槍(クレーム)に対しても堂々と反論出来るだろ?」

「他からのクレーム? それって、どういう意味? 誰からのクレーム?」

 しかし、ほのかは応えぬまま口角を上げ、瞳を細めてニヤリと笑うばかり。
 その怪しい笑い顔に、宏は何となく、イヤな予感がしてしまった。

(あの笑い方って、絶対、ナニか企んでる時の顔だよなぁ。でも、このテストでナニ、しようってんだろ? ほのかさんの職場仲間を捲き込んでまで。……まぁ、悪いコトじゃ無いんだろうけど)

 今はテストの点数よりも、策略機長が何をしでかすのかが気掛かりだ。
 そんな不審な気持ちが完全に顔に出ていたのだろう、目の前の金髪碧眼ハーフ美女は更にニコリと笑った。
 それはもう、本物のお釈迦様が裸足で逃げ出すような見事なアルカイックスマイルだったので思わず総毛立ち、速攻でこの場から逃げ出したくなった。

「あ、あの! ほのかさんの職場もじっくり見られたし、これ以上いたら仕事のお邪魔だろうから、そろそろおいとまする――」

 このままでは、降り掛かる火の粉を全身で浴びまくる事が必至なだけに、踵を返そうとした、その瞬間。
 狼狽える夫の足を止めるには充分過ぎる内容が奸計機長の口から放たれた。

「あのな、宏。この問題、実はオレ等の会社の、今年の入社試験問題だったんだ」

「はい~~~~っ!? に、入社試験!? こ、これがっ!? 今年の!? って、そう言えば……」

 目を見開き、机上のテスト用紙とほのかの顔を何度も見比べてしまう宏。
 そして唐突に思い出したのが、奇しくも美優樹が言っていた『入社試験と想定して』云々の台詞だった。

「そうだ。しかも、コイツは一次試験をパスした者を更にふるいに掛ける為の、二次試験の問題だったんだ。この試験にパスした者が最終面接に進む、って訳だ♪」

「そ、それじゃ、昔、社内選考に使ったとか言ってたのは――」

「あはは! 悪い! それ、嘘♪」

「ほ、ほのかさん……」

 悪ぶる事無く、余りにも明るくあっけらかんとして言うモノだから、騙されての怒りや呆れた感情よりも、むしろ脱力してしまった。
 すぐ隣にいる所長さんを始め、事務所の全員も諦め顔でやれやれと首を振っている。
 副所長さんなどは、「貴女、そんな事言ってたの?」などと突っ込んでもいる。

(何だか……採点した人達もほのかさんに乗せられてる、って感じだな)

 そんな宏の思いを余所に、笑顔を崩さない謀略機長のネタばらしが続く。

「でも、丸っきり嘘じゃねぇぞ? 嘘だったのは昔って部分だけで、社内選考ってのは本当だ。まぁ二次試験だけど」

「テストの出所は判ったよ。で、ソレを俺が解き、ほのかさん達がわざわざ採点し、それを家(うち)では無く、今この時に俺に示した理由は?」

 これこそが、今回の核心な気がする。
 否、絶対にそうだ。
 何故なら、目の前の金髪美女が、これ以上無い位に瞳を煌めかせ満面の笑みを浮かべているからだ。
 それはまるで、幼な子が前々から欲しがっていたオモチャをたった今、手に入れたような弾ける笑顔なのだから。
 果たして、可憐機長から紡ぎ出された言葉は――。


     ☆     ☆     ☆


「ズバリ、宏をオレ等の会社にスカウトしたいからだ! 宏には是非とも総合職として働いて貰いたい!」

 ほのかは胸を反らし、左手を腰に当て、右手で宏をビシッ! と指し示し、自信満々にポーズを決めるも。

「……………………」

(あ、あれれ? 宏が反応しないっ!? なんでっ!? 嬉しく無いのかっ!?)

 ひと月余り掛けた隠密作戦がたった今、解き明かされたと言うのに、当の本人からのリアクションが全く無い。
 無言のまま微動だにせず、じっと見つめて来るだけだ。
 これには作戦本部長にして実行犯(?)のほのかも戸惑ってしまった。

(も、もしかして、オレのやり方、間違ってたか? こんな大掛かりなサプライズ仕掛けるの初めてだし、どこかで見落としやミスでもあったか?)

 ほのかは、これまでの推移を瞬時に思い浮かべる。

(フローチャートを数パターン作り、念には念を入れて何度もシミュレートし、そこで浮かび上がる問題点をひとつずつクリアした。宏に遊びと偽りテストを受けさせ、その採点結果を基に会長や所長を口説き、入社に必要な書類は全て揃えた。その上で自信を持って実行して来たのに、宏のヤロー、全くの無反応って、何なんだっ!?)

 夫を示す腕がプルプル震え、肉体的にも精神的にも徐々に辛くなってきた。
 無条件で喜んで貰えると言う期待が大きかっただけに、真逆の反応に額や背中から冷や汗が流れ出し、鼓動も半鐘を打ち鳴らすかのように、あっという間に早くなる。
 終いには、宏からの動かぬ視線にいたたまれなくなり、つい、手刀入れてこちらが突っ込んでしまった。

「なぜ黙る! ここは驚く場面だろがっ!? うわ――――――っ! とか、どひゃぁ~~~~っ! とかっ!」

「あ、いや、余りな展開に思考がフリーズしちゃって」

 こちらの慌て振りとは裏腹に、宏からの応えは至って冷静で淡々としている。
 これでは、夫へドッキリを仕掛けた意味が全く無いではないか。

(サプライズのし甲斐が無いヤツだなぁ。……あ、でもその気持ち、何となく判る気がする。オレ達のハネム~ンの時、宏が内緒でオレの実家をルートに組み込み、更には誕生日宴会を催してくれた時、オレもフリーズしたもんな)

 ほのか自身、宏によるドッキリを何度も――たとえば結婚一周年記念日など――経験しているだけに、無反応も反応のひとつだと思えば、あながち悪くは無いのかもしれない。
 驚きの余りフリーズさせたと言う点では、大成功したのだから。

「オイオイ……。いっつもオレ等にサプライズを仕掛け、ことごとく成功させた男とは思えん反応振りだな」

 苦笑交じりに肩を竦めると、果たして。

「だって、自ら計画し実行するのと、何も知らないまま突然状況に置かれるのじゃ、まるで違い過ぎるよ。しかも、この俺が飛行に係わる職場での総合職に誘われるなんて、想像を遥かに超えてるし」

「あははは! ドッキリ企画の立案実行には慣れっこだけど、自分がされる分は慣れてない、ってトコか」

 納得のいく応えに、莞爾と笑う。
 やっと、サプライズが成功した歓びが身体の芯から沸々と湧いて来た。

「どうだ? たまにはドッキリ受けるのも、好いモンだろ?」

「まぁ、悪い事柄じゃ無かったから好かったけど、やっぱ心臓に悪いよ。で、話を戻すけど、俺をスカウトって? 何の取り柄も無いのに」

「ぶっちゃけて言えば、この職場が人手不足だからだ。まぁ、ここに限らずオレ等の会社が人員不足なのは、知ってるだろ?」

「うん。ほのかさんと晶姉が前の会社から独立した今の会社に移ったのは好いけど、ほのかさんがいる現場と晶姉のいる事務方(フロント)が大幅な人手不足に陥ってるって、前々から二人して言ってたからね」

 屋敷での様子を思い浮かべたのか、宏が小さく笑う。

「そんで夕食の席やその後の晩酌でも散々、ほのかさん愚痴ってたモンね。終いには晶姉の顔を見る度に人手を寄越せ~、とか追加募集しろ~、とかで何度も衝突してさ」

「仕方ねぇだろ? 何だかんだ言ってたアイツの部署にすら、いつの間にか新人が二人も入ったんだぜ!? なのに現場にはひとりも配置無しだなんて、差別も甚だしいだろ!」

 宏に右の拳を突き付けながらそう言った途端、所長以下事務所の面々が一斉に頷く。
 直接聞いてはいないが、皆、丸の内事務所との待遇差が腹に据えかねているらしい。
 ひとり残らず窮状が身に染みているだけに、期待の新星になるかもしれない宏の一挙手一投足を全員で見守っているのが好く判る。

「これは明らかな企業内格差だっ! 宏だって、そう思うだろっ!?」

 人事の不条理につい鼻息荒く興奮し宏に同調を迫るも、その中指が自然と上向きに立ってしまった。
 その時、大黒様似の所長と美貌の独身副所長が自分の力不足を謝罪するよう申し訳無さそうに首を竦めていたのは……見なかった事にする。
 人事権を握っているのはあくまで親会社であり、子会社で現場を統括するこの二人が悪いのでは無いのだから。

「差別とか格差とかは別として、俺に目を付けた理由を教えてよ」

 目線を手元に落とすや、苦笑いした宏が突き出した右手全体を両手で優しく包んでくれた。
 どうやら、立てた中指をそっと隠してくれたらしい。

(あ……えへへ♥ 流石はオレの宏。こんな時でも優しいなぁ。少し……濡れちまったぜぃ♪)

 右手から伝わる宏の温もりと心遣いが、何とも心地好い。
 状況を忘れ、思わず抱き付きキスの嵐を見舞いそうになるが、理性を総動員させてぐっと堪(こら)える。
 今は宏と自身の将来に係わる大事な場面なのだから。

「それは、オレが可能性を秘めた宝石(ダイヤ)の原石を見付けたからだっ!」

 気分一新、再び得意顔を決め、頭上からスポットライトを浴びているかのようにポーズを決め心酔していると、宏が首を左右に振りつつ深い溜息を吐(つ)いた。

「ほのかさん、働き過ぎて遂に壊れちゃった? 可能性とか原石とか、とうとう妄言まで――」

「――って、待て待て待てっ! オレは至ってまともだっ!」

 いわれ無き誤解に、つい宏の言葉を遮り、声を大にして突っ込んでしまった。
 それでも咳払いひとつ、冷静になって話を進める。

「あのな。宏は五人の採点内容から判る通り、一般常識と国語力、基礎物理は今年の大卒受験者の平均点と比べても悪くない。むしろ好い方なんだ」

 嘘では無い証拠に、今年度の受験者成績一覧表を机上に出し、指で該当箇所を示してあげる。

「でもまぁ、数学と英語は平均点よかだいぶ低かったけど、三角関数や英長文の読解なんかは日常生活じゃ使わんし必要無いから、今は正解しなくても問題は無い。ただ、これとか……これなんかは誤答だが、考え方自体は間違って無いから三角印で注釈付きなんだ」

「あはは……まぁ、そう言って貰えると救われる気がするよ。元々英数は苦手だし」

 机に拡がる五枚のテスト用紙を指し、回答欄にそれぞれ付けられた注釈の意訳をしていると、宏の表情がかなり和らいで来た。
 さっきからずっとチラチラと視線を机上に向けていただけに、どうやら自分の回答に記されたモノがずっと気になっていたらしい。

「片や、宏は地理と雑学は満点に近い出来なんだ。オレ達現場の人間にしたら、むしろこっちが重要なんだぜ」

「なして? 部分的な満点ったって、ただの偶然かもしれないでしょ?」

「価値観や物の見方がそれぞれ違う五人が採点し、そこだけの平均点が満点に近いなんて偶然じゃ出来んシロモノだぜ?」

「そう……なの? 好くは判らんけど、地理なんて地図好きの人なら誰だって解けるし、雑学なんて何通りも答えがあるから点数付けられないんじゃないの?」

「そう! その通り! 地理はともかく、雑学はそれが正解なんだ! 時、場所、状況で答えが変わる事を知ってる事自体が正解であり、現場仕事には必須なんだ」

「……はい? 何だか蒟蒻問答みたく聞こえるんだけど?」

「あはは! もっと簡単に言えば、この職場では常識に囚われず臨機応変に対処出来る脳ミソが必要って事だ!」

「はぁ」

 宏の首が今日で一番、捻られる。
 どうやらテストの得点と解説の中身が上手く繋がらないらしい。

「ま、それは追い追い判れば好いさ。で、このテストを採点し終えた時点で回答者を伏せたまま『この人物なら採るか?』と尋ねた結果、五人一致で『採る』と答えたんだ」

「それで、俺のスカウトに繋がるの?」

「そうだ。れっきとした結果を残したからスカウトするんだ。……まぁ、回答者が宏だと打ち明けた途端、是非に! となったのは当然なんだけどな」

「なして?」

「考えてもみ? 宏の場合は先に面接済ませてから筆記試験したも同然だからな。好感を抱いている人物が礼節をわきまえ成績もそこそこ好いなら、同じ会社に欲しいと思って当然だろ? しかも……」

 目をパチクリと瞬かせ、首を少し傾げながら言葉を待つ宏。
 そんな、高校生の頃と少しも変わらないあどけない表情に、ショーツの底を再び湿らせてしまった。

「宏は他の一般受験者よりも思考の柔軟性が遥かに高いんだ。これがスカウトするに当たり、大きなポイントになったんだな♪」

「え~と?」

「つまりだ。物事を捉えるのに一面的じゃ無く、ごく自然に多角的に見ている! って事だ。これはさっき言った臨機応変に対処できるタイプ、って事に通じるんだな」

「ん~と?」

「それに、さっき宏は自分には何の取り柄も無い、って言ってたけど、民間分野に造詣が深い航空ファンだとオレ達は知ってる。それだけでも航空現場では大きな取り柄であり、利点となるんだ」

「えっと……つまり?」

「縛りの無い、柔らか思考が出来る飛行機大好き人間が航空現場には必要って事さ。ひいては人の命を守る事にも繋がるからな」

「臨機応変……柔らか思考、ねぇ。ピンと来ないなぁ」

「それは宏が無意識下で出来るから、そう思うのさ」

 その証拠とばかり、テスト用紙を引き寄せて指し示す。

「この問題で例えれば、東京からニューヨークまでの最短コースを東京中心の世界地図上で引かせると、多くの一般受験者は定規を使って太平洋の真ん中を横切りサンフランシスコを経てアメリカ本土を横断する一直線を引くんだ」

「あ~、こんな問題、あったね」

「しかし、宏は東京から北北東に進路を取り、カムチャツカ半島を縦断しベーリング海を横切りアラスカ北部からハドソン湾を掠めニューヨークへ至る、大きな半円を描く形で線を引いただろ?」

「うん」

「それが正解なのさ。いわゆる、大圏コース、ってヤツだ。宏の頭の中では世界地図は平面では無く丸く考えられる、つまり頭の中に地球儀があるって事だ♪」

「そんなの、地理が好きなら誰だってそう考えると思うけど?」

 不思議そうに首を傾げる宏。
 この事からも、宏は地球に於ける二地点間の最短コースを瞬時に割り出す能力が備わっているのだと判る。

「ところが、地理好きを自称する学生の多くは、描く弧が緩過ぎて不正解なんだ。しかも世界地図を南北逆にし、しかもロンドンを中心に据えてモスクワ、ニューヨーク間の最短ルートを引かせると、途端に正解率が激減するんだ。これは大圏コースと言う概念はあっても実際は世界地図を球体で捉える事が出来無い、確固たる証拠なのさ。宏はこっちも正解してるがな」

「はぁ」

「まだまだ宏の凄いトコ、あるぜ? これなんか――」

「えっと、ほのかさん。テストの解説はもう好いから、スカウト話を進めて貰えるとありがたいんだけど?」

 意気揚々と話し始めたものの、宏が半ば強引に遮り、焦り気味に先を促して来た。
 どうやら自身の就業、ひいては将来が絡んで来るだけに、当然の反応なのかもしれない。

(だったら回りくどい事はこれ位にして本丸を攻めるか!)

「ともかく、宏は決して身贔屓だけでスカウトする訳じゃ無い。こちらが欲する能力を備えているからこそオレが目を付け、試験結果や将来性を踏まえた上で会社として正式にオファーするんだ。故に――」

 ほのかは机から最後となる一枚の書類を取り出すや、ここぞとばかり突き付けた。

「これが結論だ! さぁ読め! そしてこの場でサインしろ!」


     ☆     ☆     ☆


 宏が決め顔の主任機長から手渡されたのは、今度は広く業務で使われているA4サイズの紙、一枚だった。
 しかし、そこに記された表題を目にした途端、思わず叫んでしまった。

「これって……雇用契約書じゃん!」

 自分の職場にスカウトしたいと妻から言われても話半分に聞こえるが、親会社の会長名が署名捺印された正規書類を目の当たりにすると信憑性と重みがまるで違って来る。
 思わず、『雇用契約書』と書かれた五文字をじ~っと見つめてしまった。

(これって……本物、だよなぁ? 誰かが切り貼りして『本物です』とか言い張ったモンじゃねぇだろうな? ここのメンバーは、こーゆー手の込んだお遊び、大好きだし)

 ここ羽田と下地島で挙げた二度の結婚式のド派手な舞台装置はこの会社ぐるみでの手作りだっただけに、予断を許さない。
 目を眇め眉間に皺の寄った顔を見た所為か、疑惑機長が所属長に視線を向けてから口を開いた。

「だから本物だって! いつまでも疑ってんじゃねぇよ! ……まぁ、そう思って当然な会社だけどさ」

 するとたちまち事務所の面々がひとり残らずずっこけ、「なんでやねんっ!」などと声を大にして一斉に突っ込む。
 どうやらほのか自身、おちゃらけた(?)会社であるとの自覚はあるらしい。

「ともかく! これは宏がこの会社で働いてやっても好い、と言う承諾書でもあるんだ。下に会長と、ここの所長のサインが既になされてる通り、オレ達は宏を全うに評価してるんだ。だから、あとは宏がサインすれば契約完了だ!」

 主任機長の言葉を裏付けるかのように、この事務所の総責任者である所長さんが何度も大きく頷いている。

「あらら……ほのかさん、本気(マジ)だったんだ。俺はてっきり手の込んだドッキリかと思ってたよ」

 これまでの怒濤の展開に半ば流されっ放しだっただけに、つい、ポロリと本音が零れてしまう。
 するとたちまち目を剥き、金髪を逆立て詰め寄った鬼神機長から猛然と突っ込みを喰らってしまった。

「あ、あ、あ、あったり前だろっ! んなコト、伊達や酔狂じゃしねぇよっ! オレは本気(マジ)で宏が欲しいんだっ!」

 見た目はスーパーモデル並みの美貌を誇る金髪碧眼ハーフ美女のほのかだが、フ~、フ~、と何度も小鼻を膨らませ、切れ長の瞳も吊り上げている様が何だか可愛く映ってしまう。
 しかも最後の台詞が夜の夫婦性活を思い起こさせるに充分なひと言だっただけに、宏はクスリと笑ってしまった。

「ひ~ろ~し~」

 しかし、当のほのかはその笑いがいたくお気に召さなかったらしく、シャレでは済まないような禍々しいオーラ(狂気?)を全身から立ち昇らせ、ドスの聞いた低音ボイスを事務所に響かせながら一歩、また一歩と迫って来た。
 その迫力に事務を担当するお姉様方の何人かが小さな悲鳴を上げ、椅子ごと後退ってゆく。
 何度もお世話になった副所長さんも、「あ、あの、夫婦喧嘩は外で……」などと眉を八の字に下げ、及び腰ながらも取りなそうとするが、瞳に剣呑な光を湛える邪神機長には全く届かない。

(なるほど。ほのかさん、職場のみんなに愛されてるなぁ。うん! これぞ職場参観した甲斐があったと言うモンだ♪)

 自宅のリビングと同様に振る舞える妻の職場環境に、宏は大いに安心し、満足する。
 そして怒れる大魔神妻を鎮めるべく、ほのかに向けて片手を翳し、わざと軽い調子で切り出した。

「判ったよ、ほのかさん。皆さんがそこまでして俺を買ってくれるなら、お世話になるよ」

 言いつつ胸ポケットからボールペンを取り出し、書類の一番下にある空欄に、ものの数秒でサインする。
 そんな、まるで街頭での署名運動に参加しているかのような気安さに、事務所中が一瞬で静まる。
 所長と副所長は自席から腰を浮かせて目を見開き、事を仕掛けたほのかですら今さっきの禍々しいオーラはどこへやら、一歩踏み出したポーズのまま固まっている。
 そんな無言の時間が暫し過ぎた後、唖然としたままのほのかがおもむろに口を開いた。

「あ、あのな、宏。いくらオレが迫ったとは言え、中身も読まずサインするって、企業社会じゃ滅茶苦茶、無謀な事なんだぜ? 身を滅ぼし会社を消滅させてもおかしくない、全くの自殺行為と言っても過言じゃねぇんだぞ」

 九人のパイロットを率いるチーフキャプテンの言葉に、事務所に集う面々が何度も頷く。
 事務担当のお姉様方などは、信じられないものを見たとばかり驚愕の表情で息を呑んでいる。

「しかも、これには勤務時間とか業務内容とか給料とか休日とか福利厚生とか……自分が仕事する上で確認する項目が山とあるんだぜ!? バイト経験積んでる宏なら判らん筈、無いだろっ!? 今からでも遅くは無いから見直せって! なっ!?」

 さっきまでサインを迫っていたのにそれを覆し、過ちだったかのように口角沫を飛ばすほのか。
 そんな慌てふためく現役機長に向き直った宏は満面の笑みを浮かべ、堂々と応えた。

「だって、ほのかさんが日々楽しく勤めてる会社でしょ? だったら悪い事やおかしな事、する訳無いじゃん♪」

 このひと言で宏に対する社員達の好感度が花丸急上昇し、所長と副所長は滂沱と涙したのだが、当の宏は妻達も認める朴念仁の二つ名を持つだけに、周囲の反応に全く気付けなかった。

「あ、そうだ。ひとつ忘れてたんだけど?」

 それまで緊迫していた事務所内の空気が新たなる人員確保で一気に緩み、あちこちで昼食はどこで摂るか何を食べようか、キャプテン夫妻もご一緒に、などの歓声が沸き起こる中、宏はある事に気付いた。

「ん? どした、宏?」

 成約されたばかりの雇用契約書を足取り軽く所長席へ運び終えたほのかが、これ以上無い位の満面の笑みで歩み寄る。

「ご期待に添える形になって歓んでるのは判るけど、晶姉は知ってるの? 俺がここで働くって事。晶姉が実質この会社のトップなんでしょ? なのに雇用契約書に晶姉の署名捺印、無かったよ?」

 すると、それまで姦しい程に賑やかだった事務所内が再び一瞬で静まった。
 それはもう、二キロ以上離れている国際線旅客ターミナルで流れるインフォメーションアナウンスが聞こえて来るのでは無いか、と言う程の静けさだ。

「う~む、流石、宏。鋭い点を突いて来るぜ」

 仁王立ちで腕組みをし、納得したかのように何度も大きく頷くほのか。
 しかしよ~く見ると、額に細かな汗がビッシリと浮かび、指先や頬、目元が細かくヒク付いてもいる。

「ほのかさん……まさかとは思うけど」

 何となく、否、完全に嫌な予感しかしないが、それでも指摘しないではいられなかった。

「ドッキリ仕掛けたの、俺だけじゃ無かった……あ! 最初に言ってた、余所からのクレームって、晶姉の事か!」

「あははははっ! そ、そうさ! 晶のヤツは、まだな~んも知らん! だから昨日言っただろ? 職場参観は晶には内緒にしろって。しかも、宏の採用はたった今、正式に受理したから、誰からの如何なるクレームも無効だ!」

 開き直ったかのように言うが、その声は上擦り、震えてもいるから、何をか言わんやだ。

「そんな、見るからにびびる位なら、始めっから晶姉にも話し、通せば好かったのに。晶姉、怒ると怖いし宥めるのに時間掛かるの、昔っからよ~く知ってるでしょうに」

「あのな、宏。それじゃ面白くねぇだろっ!? 第一、この件は会長の御墨付きなんだ。本人曰(いわ)く、『構わないよ、宏君なら知らない間柄じゃ無いし♪』だそうだ。だから真っ先に会長に署名捺印させて外堀埋めといたんだろうが」

 この道楽機長、どこまでポジティブシンキングなのか、目の前にぶら下がる娯楽の為なら己の恐怖心はおろか、自社の重鎮を利用する事など取るに足りないらしい。

「あ……あの布袋様似の会長、外見同様どこまで楽天的なんだ。でも……」

「ん? 眉根寄せて、どーした? 此の期に及んで、ま~だ、気掛かりがあるのか?」

「ほのかさんはこれで満足なんだろうけど、最終的にとばっちり受けるの、俺なんだけどなぁ」

 尻に敷かれる歳下夫の情け無さ(言ってから気付いた)に、事務所中に笑いの渦が沸き起こる。
 そこへ、仕掛け人のくせに後始末は被害者に任せると言う、とんでもない構図を作り上げた腹黒機長が意味深な台詞で止(とど)めを刺した。

「それこそ、夫の威厳と如意棒で何とかするんだな♪」

 新妻ならではの言い回しに(明らかな下ネタだ)、女性陣は一斉に顔を赤らめ、男性陣は腹を抱えて笑い転げた。

「~~~~~っ!」

 もっとも、揶揄された宏はいたたまれなくなり、ほとぼりが冷めるまで顔を上げる事が出来なかった。
 かくして、午後にはこの事務所に新品の事務用デスクと椅子のセット、そして高性能ノートパソコンがひとり分、特急便で届けられたのだった――。


     ☆     ☆     ☆


 一方。
 宏が羽田空港の一角にある事務所で雇用契約書にサインをしていた、丁度その頃。

「――との事だ。おめでとう」

 東京湾を挟んだ対岸にある総合女子大では、全身黒ずくめのゴシック&ロリータ・ファッションを纏った長身の女学生が工学部教授棟に呼び出され、担当教授からとある知らせを受けていた――。


                                            (つづく)


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