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     ~ラブラブハーレムの世界へようこそ♪~


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バルティータ(2) バルティータ(2) 美姉妹といっしょ♪~新婚編
 
 盛りに盛り上がった職場最後の宴会を終え、居酒屋の店頭で皆が涙を堪えつつ笑顔で解散した後。

「さて、千歳。俺達も帰るか。すっかり夜も遅くなっちまったし、そろそろ終電の時間だしな。松本と美保もお疲れ様」

「!」

 職場の一年先輩である宏さんが発した言葉に、わたしは息を呑んだ。
 鼓動が一気に高まり、体温も急上昇し妙な汗まで浮き出ても来た。

「千歳は三つ隣の駅前に建つ学生寮、美保も同じ駅から徒歩数分の自宅にいるから暗い夜道で襲われる心配が無くて好かったよ。あそこの駅前には複数の警官が常駐している交番はあるし二十四時間営業のコンビニやファーストフード店も揃ってるし深夜でも人通りがそこそこあって歩道も広くて明るいから安心だもんな♪ それに比べて俺の家は駅前を抜けてからは街灯と人気の少ない小路(こみち)を少々歩いた所にあるから、もしかして途中に幾つかある雑木林に潜んでた痴女に襲われ引き摺り込まれたりして――」

(宏さん……)

 普段と同じ優しく温かな声で軽い冗談を放っているようだが、今だけは氷のように凍えた声となってわたしの胸に深く突き刺さり、話している内容も右耳から左耳へ通り抜けてしまう。
 オマケに、わたし達を心から心配してくれる宏さんの顔がまともに見られず、駅まで徒歩数十秒の歩き慣れた道程(みちのり)すら、巨大な地下迷宮で同じ場所を永遠と彷徨い続けているかのようだ。

「さて。俺は東京方面への上り電車、松本、美保、千歳は下り電車だから、ここでお別れだな。発車案内表示によると……下りの青電がすぐ来るな。俺は……赤電が五分後だ」

(ご、五分!? たった五分っ!? そ、そんな!!)

 駅の改札を抜け、ホームへ下りるコンコースで立ち止まって言う宏さんの声に、わたしの背中がビクンと大きく震え、さっきよりも何倍も強い胸の痛みを受けた。
 同時に、俯いたままの頭から血の気が一気に引く音が聞こえた……そんな気がした。

(あと五分で……宏さんはわたしの前からいなくなってしまう!)

 因みに、青電とは最終電車の一本前の電車を言い、赤電とは最終電車を指す言葉だ。
 これが路線バスになると青バス、赤バスと呼ばれ、行き先表示部分にその色が点いているから、或いは見た事がある人もいるだろう。
 しかも、サラリーマンの世界では赤電・赤バスはその日のうちに(大都市圏ではとっくに日付が変わっているが)帰宅出来るかどうかの最終デッドラインとなる。

(お別れ……あと五分で一生のお別れ……)

 普段は何気無く使っている別れと言うフレーズが今日だけは忌み言葉として胸に何度も深く突き刺さり、その度に体内を巡るアルコールが猛烈な速さで消え失せて行くのが判る。
 否、むしろ脳ミソを鷲掴みにされて激しく揺さ振られていくような――そんな目眩すら覚えてしまった。

「ひ、宏さん……」

 思わず右手が宏さんに向かってピクリと動き、漏れ出た声もか細く掠れた上に弱々しく震えてしまった。
 すると突然。

「あ! 丁度青電来たし、オレ、他に用事あるから先に行くわ。美保と千歳は世話になった宏を見送ってから赤電で帰ればいいさ。宏、千歳、美保、元気でな! 縁があったらまた逢おう! あ、旅先から手紙、絶対に書くから! んじゃ、さらばだっ!」

 松本さんが慌てたように片手を挙げると早口で捲し立て、階段を駆け下りるとあっという間に自分達三人の前から霞の如く消えてしまった。
 とても数分前まで酔い潰れてイビキを掻いていた人物とは思えない身のこなし――素早さだ。
 半ば唖然としていると電車の走り去る重い音が大きく響き出し、コンコースの窓からは列車の最後尾を示す赤いテールランプがぐんぐん加速し遠ざかってゆくのが見て取れた。

「やれやれ。最後の最後まで慌ただしいヤツだったなぁ。にしても、何で急に先に行ったんだろ?」

 宏さんも窓の外を見ながら仕方無いヤツ、と苦笑いしている。
 そんな何気無い姿すら、自然と目で追っている自分がいた。

(わたし、やはり宏さんが……!)

(でも……わたしの我が儘で宏さんに迷惑を掛ける訳にはいかないし……)

(でも、ここで勇気を出さないと一生、後悔しちゃう!)

(でも……わたしの我が儘で宏さんに最後の最後で嫌われでもしたら……)

(でも、このまま……成り行きで宏さんとお別れしたくない!)

 心の中で能動的な自分と否定的――悲観的な二つの感情が激しくせめぎ合い、今、何をどうすれば好いのかすら判らなくなってしまう。

「う゛ぅぅ……」

 結果、直立不動で目を伏せ、両手をきつく握ったまま小さく唸っている事しか出来無くなってしまった。

「ったく、見てらんないわね。ホラッ!」

 と、すぐ隣からそんな声が聞こえたと思ったら、いきなり背中をバシンッ! と強く叩かれた。

「!? きゃっ!」

 背中一面を電流が走ったような痺れで我に返り、しかも叩かれた勢いで宏さんに向かって一歩踏み出してもいた。
 何事かと振り返ると、ニコリと笑った美保がウィンクしつつ胸元でサムズアップしているではないか。
 どうやら固まっているわたしを見るに見かね、文字通り背中を押して(痛い程叩かれたけど)鼓舞してくれたらしい。

(そうよ! こうなったら当たって砕けろだわ! えぇ、砕けてやろうじゃないっ! 女は度胸よっ!)

 腹を括った――ある意味、自棄(ヤケ)になった――わたしは店を出てからずっと俯き加減だった顔と視線を初めて宏さんに、まともに向けた。

「宏さん!」

「ん? どうした千歳、真剣(マジ)な顔して。宴会中はずっと下向いて大人しかったけど、気分は大丈夫か? 気持ち悪く無いか? 無理して無いか? まぁ、顔色が真っ青になって無いから大丈夫そうだな――ってか、むしろ、だんだん赤くなって火照った感じになって来てるぞ? 十月半ばで涼しい夜中だけど……酔いで暑くなったか?」

 遠かった顔が覗き込むように急接近した所為で、高まっていた鼓動が更に急発進してしまった。

「ひ、ひ、ひ、宏さん!? ち、近い! 顔が近いですっ!」

(まったく、人の気も知らず無造作に顔を寄せたりして……ホント、女心に疎いんだから! でも、こんな何気無い思い遣りすら、今のわたしには心に重く響いてしまう……。だからこそ決着(ケリ)、着けなくちゃっ!)

 祈るよう胸の前で両手を組んだわたしは、それまで心の奥底で硬く閉ざしていた想いを解放しようと決意する。
 しかし鼓動が尋常では無い程に速まり、言葉よりも先に口から心臓が今にも飛び出して来そうだ。

「あの、わたし、宏さんにずっと言いたかった事があるんです! ……って、あ、あの?」

 酔いとは違う態度と表情に何か察したのか、宏さんは「ちょっと待って」とわたしの右腕をそっと取ると、コンコースの隅――窓際へと移動する。
 一世一代の英断に水を差された形となり訝かしく思っていると、どうやら終電間際の時間帯、しかも金曜深夜なので駆け足と千鳥足の乗客が多く、それらの邪魔にならぬよう場所を変えたらしい。
 成る程、今まで立っていた場所は階段と改札を結ぶ動線上にあったらしく、額に汗を浮かべた早足のサラリーマンや赤ら顔で千鳥足の若者達が数多く通り過ぎてゆく。

(宏さん、ずるい! 最後の夜だのに普段通りに……こんなに優しくされたら……誰だって……)

 わたしは宏さんが触れてくれた右肘を何度も撫でさすっていたが、仕切り直しとばかり顔を上げた。

「宏さん!」

「で、改まってどうした?」

 微笑む顔が、今はわたしの心を非道く掻き乱して来る。

(このまま宏さんに抱き付いたら……どれだけ幸せな気分になれるんだろう。でも、それはしちゃいけない事だわ)

 大きく息を吐き、ありったけの勇気を振り絞ったわたしは一生、口にする事は無いと思っていた言葉を紡いだ。

「わたし、ひとりの女として宏さんが好きです! ずっと好きでした! バイト先で宏さんと知り合い、人となりに触れているうちに、いつしか好きになっていました!」

「ち、千歳!?」

 目を丸くした顔――困った顔や嘲る顔では無いのがせめてもの救いだ――が、今の宏さんの心情やわたしに対する想いを如実に表わしていた。

(やっぱり宏さん、わたしの気持ちに全然! 気付いて無かった! 宏さんってばホント、ニブチンなんだから!)

 一瞬、恨めしく思ったものの、同僚で、しかも歳下の女から突然恋心を打ち明けられれば、既婚者で無くとも誰だって驚くだろう。

(まぁ、結婚されてるんだから他の女に目が向か無くて当然だし、これが真っ当な反応だわ。むしろ、これ幸いとヘラヘラして肩を抱いて来る軽い男性(ひと)だったらこっちから願い下げだし。……でも!)

 わたしは自らの心に決着を着ける為に一歩、前に踏み出した。

「わたし、宏さんから別け隔て無く仕事を教えて貰って凄く嬉しかったんです。力仕事だから、とか、女だから、と言って差別され無かった。それが凄く嬉しかったんです」

「あ~、業務初心者に丁寧に仕事教えるのは当たり前だし、性別とか体力差とかは仕事する上で何ら関係無いもん」

「日本の政治や企業とは違う、そんな至極当たり前の行為が……わたしにはとても嬉しかったんです。そして、その優しさが心に凄い勢いで染み入ったんです。まるで……一滴の水が乾いた大地に染み込んでゆくように」

 わたしは一旦視線を足下に外し、ひと呼吸置いてから再び宏さんを見据えた。

「それが恋心に至るのに、時間は掛かりませんでした」

 宏さんは微笑みつつ、盛んに鼻の頭を指先で掻いている。
 照れている時の、宏さんの癖だ。
 しかしその見慣れた仕草もこれで見納めだと思うと、わたしには哀しく映ってしまう。

「でも……昨年の夏に宏さんが結婚する、しかもお相手は六人! って聞いた時、凄いショックでした。今回の職場消滅以上にショックでした。目の前が真っ暗になって気を失ってもおかしく無い程の衝撃でした」

「そ、そうだったのか。まぁ、同時に六人、だもんな。驚いて当然だよ。……ん? まてよ? もしかして……だからその当時、話し掛けても笑顔が硬かったのか」

「いえ、だから人数は関係無く、宏さんが結婚された事自体がショックだったんです!」

(んもう、これだから宏さんは! 「そうなのか?」、じゃ無いでしょうに!)

 相変わらずな朴念仁振りに、わたしは思わず声を荒げてしまった。
 わたしは気持ちを落ち着かせる為に、ひとつ息を吐(つ)いた。

「でも諦め切れ無い自分がいて、七番目の奥さんになりたい! って想いを抱(いだ)いていたのも確かです」

「千歳……」

「でも、六人の奥さんと上手く過ごされている様子を語る宏さんを見て、わたし、その想いをずっと胸に秘めたまま時が過ぎるのも好いかも、とも思ってました。何より、仕事中だけとは言え、大好きな男性(ひと)を独占出来る上に、匂いや体温、息遣いを感じられる程、傍にいられるのですから」

「千歳……」

「ところが、宏さんはこの春先に新たに四人の奥さんを娶ってしまって……。わたしが宏さんの心に入る隙間はもう無いんだ、って突き付けられた気がして……宏さんへの想いを完全に諦めようとしました」

「千歳……」

「でも、心が赦さないんです。いつまでも宏さんを目で追うわたしがいるんです。十一番目でも好いから女として愛する男性(ひと)から奥さん達の様に愛されてみたい! と夢見るわたしがいました」

「……」

「だけど、わたし、薄々判ってたんです。宏さんの優しさは二通りあるって。ひとつは人としての優しさ。わたしや職場、人間社会での、人として持って生まれた優しさです。そしてもうひとつが……他の誰にでも無い、奥さんだけに注がれる、愛情をたっぷり含んだ特別な優しさ、なんです」

「……」

「宏さんが奥さん達の話をする時の目、すっごく優しくて温かな瞳をしてるんですよ。知ってました? わたし、その瞳を見て、わたしに向ける瞳とは全然違うんだな、わたしではそんな瞳にさせられない、って判ったんです。最初それに気付いた時、わたし、すっごく悔しくて……哀しかった」

「…………」

「それは同時に、宏さんの心にわたしの居場所は永遠に無いんだ、って事も。……それでも、わたしが宏さんを愛する気持ちに変わりはありませんでした」

「…………」

「そんな折りに今回の職場の閉鎖と移転が決まり、皆さん散り散りになるって聞いて……」

「それで……同僚として縁が切れる前に今回の告白、と相成った訳、か」

「はい。その通りです。でも、わたしの秘めた気持ちだけは……たとえ失恋が二百パーセント、千パーセント確定でも、最後に言いたかったんです。わたしの……恋心に決着を着ける為にも」

「千歳……あんた、そこまで想ってたのね」

 ここで、同級生(クラスメイト)である美保の、何とも小さな呟きが耳に届いた。
 果たして彼女は、どんな想いで友人の覚悟を見届けているのだろう。
 わたしは大きくひと息吐(つ)いてから姿勢を正し、想いを寄せる男性(ひと)を真正面から見据えた。

「宏さん。好きです。今でもひとりの女として抱かれる夢を見る程、大好きです!」

「千歳……おまえ……」

 宏さんの再び驚く顔と声に、わたしの心臓が猛烈な早さで脈動し、同時に深く抉(えぐ)ってもゆく。
 その痛みが心の奥底でわだかまっていた切ない想いを無意識に溢れさせ、口をつぐもうにも抑えようが無かった。

「職場消滅が決まってからの数週間、わたしは出来るものなら……宏さんが存在した証しを……わたしの身体に永遠に刻んで欲しい……そう想い続けていました。でも……でも……」

「えっと……千歳、声震わせながら泣くなよ。まるで俺が美人女子大生を虐めてるみたいに映ってるじゃんか」

「え? 泣いて……いる? わたしが!?」

 宏さんの狼狽える声に半ば我に返り、慌てて頬に手を当てると、指先に少なくない量の雫が絡み付いた。
 どうやら知らぬ間に感情が昂ぶっていたらしい。

「や、やだ! なんで涙なんか! そ、それに変なコト言ってしまって――」

 しかも、一生言わずに置きたかった赤裸々な胸の内を感情に流されるまま暴露してしまったではないか。

「と、取り敢えず、これを使いなよ」

 意図しない状況に戸惑い、手の甲で溢れ出る涙を何度も拭っていると、眉を下げた困り顔の宏さんがそっと自分のハンカチを手渡ししてくれた。
 美保も両手を頭の後ろで組み、身体を張って周囲からの視線を遮ってくれているようだが、それでも注目を集めているらしく、過ぎゆく通行人が横目でわたし達をチラチラ見ているのが見て取れた。

(ここで宏さん自ら涙を拭ってくれれば完璧なんだけど……流石にそれはダメみたいね。やっぱり、わたしには宏さんは人としての優しさで接しているのね)

 薄々判ってはいたが、これまでの宏さんの態度から、わたしの告白に対する返事がほぼ予想出来てしまった。
 本当に脈があるのならば少女漫画みたく宏さん自ら涙を拭ってくれるのだろうが、愛する男性(ひと)の手の温もりを頬に受ける事は――永遠に叶わないだろう。

(あ、このハンカチ、宏さんの匂いと温もりがする……)

 最後通牒を事実上突き付けられ落ち込むものの、わたしは涙を拭う振りをしつつ、未練たらしく手渡されたハンカチを鼻に当てて深呼吸していた。

「宏さんは……」

「ん? なに?」

「完全にいじめっ子です。わたしの心を弄んだんですから」

 ハンカチをきちんと折り畳んでから返す際の、微笑みながらの精一杯の強がり。
 それでも……目の前の優しい顔が再び滲んで見えるのは何故だろう。

「も、弄ぶって、そんな人聞きの悪い――」

 そんなわたしの些細なジョークに宏さんは苦笑いしつつ最後まで付き合ってくれるが、刻(とき)がそれを許してはくれなかった。

 ――間も無く上りの最終電車が一番線に参りま~す。ご利用の方はお急ぎくださ~い――

 無情にも、最終電車を告げるアナウンスが二人の間に割って入ったからだ。
 そのアナウンスを耳にしたわたしは今夜だけで何度、鼓動が早まったのか判らないが、この時が最大値(ピーク)に達したのは間違い無いだろう。
 なにせ、本当の本当に待った無しの、最後の刻(とき)が訪れたのだから。
 わたしは泣き叫びたい心を強引に抑え付け、精一杯の強がりを演じ続けた。

「うふふ♪ 赦して欲しかったら……わたしの最初で最後の我が儘、聞いて貰えますか?」

「うん? まぁ、それで赦してくれるなら」

「では――」

 小さく笑って頷く宏さんには、わたしの背丈に合わせて少し屈んで貰った。

(この方が色々と都合が好いし。……って、流石に、同じ高さに顔があると緊張するわね)

 今度は別の意味で鼓動が早まり、手に汗握っているのが判る。

「宏さん、目を瞑って下さい。そして歯を食い縛って下さい!」

「い゛っ!? わ、判った。言う通りにするよ」

(わたしが拳を握ったり開いたりしながら歯を食い縛れ、なんて言ったから、きっと平手打ちかグーパンチでも喰らうとでも思ってるのかしら? 宏さんには珍しく声が微妙に上擦ってるわ)

 宏さんは目を瞑るとやや強張った顔を向けてくれた。

(だったら、それに乗っかって見るのも悪くないわね。何たって、わたしの心を打ち砕いた報い、なんだし♪)

 大きく息を吸い、足を肩幅に開きつつ拳を作って愛しの男性(ひと)に向かって宣言する。

「宏さん、行きます! 歯を食い縛って絶対に目を開けないで下さいね!」

「う、うん!」

「覚悟は好いですか!?」

「お、おぅ……」

 眉尻を下げ声も震わせる宏さんに、わたしは人生最大の勇気を振り絞って一歩前に大きく踏み出した――。


                                            (つづく)


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バルティータ(3) バルティータ(3) 美姉妹といっしょ♪~新婚編
 
「千歳、宏さん、とうとう行っちゃったね」

 大学(がっこう)のクラスメイトである美保の言葉をどこか遠くで聞きながら、わたしは二度と逢う事は無いだろう男性(ひと)が乗った電車の遠ざかる赤いテールランプを、ホームの端からずっと見送っていた。

「でも……本当にアレで好かったの? あんなの、今時の高校生でもやらないわよ。もっと二十一歳、食べ頃の女子大生らしく、他にやりようがあったんじゃ無い?」

 わたしの行動は美保には理解し難いのか、半ば呆れたような表情と言葉を投げ掛けて来た。
 口調も慰めるよりも、どこか責める感じになっている。

「それこそ、この駅前周辺に幾つか建つラブホに宏さんを連れ込んで――」

「好いの! わたしはアレで満足、大満足なの! それ以上は……贅沢と言うものだわ。恋を経験した美保なら判るでしょ?」

 過激な台詞を何の躊躇いも無く口にするのは明け透けな彼女らしいけど、今は正直、そっとしておいて欲しい。
 わたしの胸の中では、まだ宏さんの肌の温もりが激しく渦巻いているのだから。

「あ~、まぁ、そりゃ判らなくは無いけど、こんなチャンス、二度と無いかもしれないじゃん? 好きな男に抱かれたくない女なんていないし、ましてや愛した男による痕跡が自分の身体に永遠に残るチャンスだったのに――」

 遠ざかるテールランプが夜の闇に同化し見えなくなってからも、わたしは直立不動のまま、宏さんが去った方向から視線が外せなかった。
 外したくない、外したら本当にお別れしたのだ、甘い夢から醒めたのだ――と言う現実を突き付けられそうで恐かったと言うのが本音だろう。
 そんなわたしに対して尚も言い募る美保に、視線を外さないまま応えるわたしの口調もつい、強くなってしまう。

「それに! わたしが宏さんに強引に迫って処女を押し付けたらきっと……ううん、絶対に宏さんの重しに、足枷になっちゃう。そしてわたしはもっと我が儘で、そして縋るだけの弱い女になっちゃう。でも、わたしはそうはなりたく無いもの。宏さんには一生、笑ってて欲しいから。わたしの望みは、愛した男性(ひと)が笑顔のまま生涯を幸せに過ごす事、これだけよ」

「千歳……」

「何度も言葉を遮ってごめんなさい。でも、これはわたしのエゴ。好い女として最後まで見られていたい、記憶に残って欲しい、って言う、わたしのエゴなの。それに……わたしに略奪愛なんて出来無いし、そもそも無理だわ」

 わたしの恋は実らなかったけど、最後の最後でずっと夢見ていたシーンを叶える事が出来た。
 それはほんの些細な、恋する女の子が夢見る小さな願いに過ぎないかもしれないけれど、わたしは満足している。

(だって……宏さんの温もりを肌で直に感じられたんだもの。これ以上の幸せは無いわ)

 すると美保の深い溜息が耳に届き――でも同じ同性として判ってくれたのか、それ以上は言って来なくなった。
 わたしはいつしか、人差し指で愛した男性(ひと)の温もりが残る唇を何度も愛おしげになぞっていた。

「美保。誰が何と言おうと、わたしは充分幸せよ。この先、何が起きても耐えられる程に……ね」

 胸の奥底に灯る、温かな想い。
 これこそが宏さんがわたしの前で存在した確固たる証し、なのかもしれない。
 この想いは生涯――たとえわたしが何処の誰と結婚し家庭を持ったとしても、永遠に忘れる事は無いだろう。

「まぁ、アンタがそう言うなら、それで好いんじゃない?」

「ありがと、美保」

 やれやれと肩を竦める美保を横目に、わたしは真っ直ぐに伸びる、宏さんの乗った電車が走り去った線路――街の灯りを鈍く反射させている――をぼんやりと眺めていた。
 すると、目の前に宏さんと出逢ってから二年半の想い出が唐突に、しかも鮮明に浮かび上がって来た。

 ――初めて出逢った職場の先輩は、わたしよりひとつ年上だのに、どこか幼い印象を受けた事。

 ――しかし日々仕事を教えて貰っていると当初の印象は大きな間違いであると気付き、実際は同年代の男よりも凄く落ち着いた男性(ひと)で、しかも堂に入った仕事振りは年輩の社員さんと同等かそれ以上なのだと驚嘆した事。

 ――摂氏五十度に迫る程に熱せられた真夏のコンテナに率先して入り、過酷な入庫作業でも常に笑顔を絶やさず誰に対しても柔らかく親切丁寧に接する人当たりの好さに、いつしか目で追う自分に気付いた事。

 ――宏さんの言動に一喜一憂し、大学(がっこう)よりも職場に通う方が何倍も楽しく、仕事は勿論、人としての生き方、在り方をジョークも交えつつ教えてくれる宏さんの見識の広さや懐の偉大さに感銘した事。

 ――そんな自分が宏さんをひとりの異性として、ひとりの男性として好きになっていたと気付いた時の、顔から火が出る程の恥ずかしさと猛烈な照れ臭さ、そして……自分は恋する女なのだと自覚した嬉しさ。

 ――だけど、好きだった男性(ひと)が次々に奥さんを娶り、その心に自分の居場所は無いのだと判った時の、何ともやるせない寂しさと埋めようもない大きな喪失感に打ちひしがれた日々――

「千歳……」

 親友のポツリと零したひと言に、わたしは我に返った。

「えっ? なに? 呼んだ?」

「あ、いや、その、なんだ。つまり……その……あんたが余りに……寂しそうにしてるから……このまま線路に下りて宏さんを追っ掛けるんじゃないかって……」

 半ば視線を外し、歯切れも悪く言い淀む美保の様子に、思わず笑ってしまった。
 普段は自分の感情を素直に表わし、誰に対しても歯に衣着せぬ言い方をするだけに、こんな、しどろもどろな美保を見るのは初めてかもしれない。

「うふふ♪ ありがと、美保。わたしは大丈夫。そりゃ、ちょっとは……ううん、かなり傷心真っ直中してるけど、心配しないで。わたしには宏さんから教えて戴いた座右の銘があるから、きっと……ううん、絶対に立ち直れるわ」

「座右の銘!? あんた、そんなん、いつ教えて貰ったのよ? 」

「うふふ、内緒♪」

「千歳~」

 眉を八の字に下げつつ尚も食い下がる級友に、わたしはひと言だけ、言ってあげた。

「人生、『一期一会』、よ♪」

「へ? …………あ~、なるほど。博識で実直な宏さんらしいわね」

「でしょ♪ うふふ♪」

「な~にが可笑しいんだか。泣いたカラスがもう笑ってるし! あははははっ!」

 わたしの前から去っても尚、心に深く存在し続ける宏さんに、わたし達はつい、笑い合ってしまった。
 そんな笑い声が途切れて暫く経った頃、線路の先を見つめるわたしの口から無意識に言葉が溢れた。

「さようなら、宏さん。さようなら、わたしの……初恋」

 わたしは宏さんの乗った電車が走り去った方向に灯る街の灯り――宏さんが暮らす街の灯りをいつまでも心に焼き付けていた。
 それは涙で滲み、霞んで見えなくなってからも、わたしはホームに佇んでいた――。


     ☆     ☆     ☆


「宏さん、お帰りなさいませ♥ お仕事、お疲れ様でした」

「宏ちゃん~、おかえり~♪」

「ヒロ、お疲れ様」

「……へ?」

 職場の解散呑み会を終え、帰宅した宏は多恵子、若菜、晶の明るく澄んだ声で我に返った。
 若干、酔った足取りで玄関を開けると、終電での帰宅(とっくに日付が変わっている)にも係わらず、十人いる妻全員が笑顔で出迎えてくれていたのだ。
 その先頭に陣取っていたのは、見た目はティーンエイジだが実際は屋敷最年長――三十八歳の多恵子だ。
 下ろすと腰を優に超える艶やかな黒髪をアップに纏め、白い割烹着姿のまま三つ指着いて夫を丁重に出迎える姿は正に日本の良妻賢母、そのものである(二十歳(はたち)の飛鳥と十七歳の美優樹と言う立派な娘がいるのだ)。

「あ……うん」

 しかし、宏は咄嗟に応える言葉が出なかった。

「? 宏、どうした? 何だか……心、ここに在らず、みたいな顔、してるぜ?」

「宏君、職場の解散お別れ会で気持ちがブルーになっちゃった?」

「宏クン、ひょっとして呑み過ぎた? 目が少し虚ろになってるわよ?」

 迷彩色のタンクトップとホットパンツ姿で波打つ金髪を煌めかせた見目麗しい碧眼ハーフ美女のほのか(晶と同い年だ)、薄いグレーのカーディガンを纏い背中の半分を覆う真っ直ぐな黒髪と少し垂れ目がちな瞳が心を癒してくれる真奈美(ほのかの一年後輩だ)、青地に白のラインが脇に入ったジャージを纏い現役教師らしくセミロングのヘアスタイルと鋭い観察力を持つ恩師の夏穂、それぞれが心配そうに眉を寄せ、前屈みになって顔を覗き込んで来る。

「宏、先ずはリビングに座ってて。今、冷たいお水、持って来るから」

「宏先輩、大丈夫ですか? 肩、貸しましょうか!?」

「宏さん、お気持ちはお察ししますが、深酒は慎まれた方が……」

 面倒見の好い御姐様らしく、茶色のトレーナーとスリムジーンズを纏った幼馴染の千恵(二歳年上なのだ)が腰まで届くポニーテールを真横になびかせキッチンへ走る。
 その間に、真っ白なブラウスに、オレンジ色のミニプリーツスカートと黒のサイハイソックスを穿いた後輩の飛鳥と、普段着であるゴスロリドレスを纏いヘッドドレスからストッキングまで全身黒で統一されたファッションの美優樹(この姉妹は鏡で映した程にそっくりなのだ)、それぞれが腰まで伸ばした栗色のツインテールを小さく揺らし眉を八の字に下げ、同時に手を差し出してくれている。

「えっと……ごめん。ちょっと気がそぞろになってた」

 三和土(たたき)で靴を脱ぐと、すぐに両脇を若竹色で揃えたオフショルダーのカットソーとロングフレアスカートを纏い緩いウェーブが掛かった髪を腰まで伸ばした筆頭妻の晶(四つ上の従姉だ)と、紫色のトレーナーとスリムジーンズを着て腰まで届く漆黒のストレートヘアを大きく揺らす幼馴染の若菜(千恵の双子の妹だ)に抱えられてしまった。
 どうやら自分が思っている以上に、周囲からは危なっかしく見えるらしい。

「ニャ~ン」

 更に、みんなの足下では三毛猫の三毛(みけ)――真奈美が去年助けた仔猫で宏はそう呼んでいる――が心配そうに見上げてもいる。
 そんな妻達と一匹の注目を浴び、つい、宏は酔った頭のままボケをかましてしまった。

「いつも苦労掛けて済まないねぇ。こんな俺の為に……ゴホゴホ!」

「……フッ♪ そんな小芝居出来るなら大丈夫。酔い覚ましに庭にひと晩、放り投げといても心配無い」

 歳下の夫相手に本気としか思えない物騒な台詞を吐くのは晶の双子の妹、優だ。
 朱色のシャツにデニムのホットパンツを纏い、シャギーにしたショートヘアを小さく揺らし瞳の奥を見つめて来るが、頬が緩み微笑んだ表情からして最初(はな)から冗談だったようだ。

「ふぅ。ありがと。晶姉、若姉。千恵姉も」

 定位置であるリビングのひとり掛けソファーに腰を下ろし、御姐様から手渡された冷たいコップを一気に呷る。
 すると冷えた水が脳細胞をひとつひとつ醒ましてゆくのが、酔った頭ながら判った。

「あ~、生き返る~♪」

 ソファーに深々と背中を預け、顎を上げて脱力していると、頃合いと見たのか嬉々とした声が掛けられた。

「で? 職場最後の呑み会で何が起きた? 最初から最後まで包み隠さず、あたしらに全て話してみ?」

 右斜め前の三人掛けソファーに勢い好く腰を下ろし、満面の笑みを浮かべた晶がみんなを代表して尋ねて来た。

「へ? 何が起きたかって?」

 上体を起こして周囲に視線を走らせると、目の前のソファーやダイニングテーブルに妻十人が勢揃いし、身体ごとこちらを向いて座っているではないか。
 しかも全員が全員、瞳を煌めかせている所を見ると、どうやら宴会の席で夫に何が起こったのかを興味津々、ウズウズして聞きたいらしい。

(あ……それで全員揃って俺の帰宅を手ぐすね引いて待っていたのか)

 オマケに、三毛までもが真奈美の膝上で丸くなりつつピンと立てた三角の耳をこちらに向けている。

「あははは! みんなヒマだねぇ。ん~、ま、いっか。やましい事、なんも無いし、至って普通の呑み会だったし。まぁ、敢えて言うなら……呑み会の途中で事務のお姉さんに抱き付かれ、解散後の駅でも――」

 十通り(プラス一匹)のバイタリティに微笑んだ宏は、やたら色っぽく迫って来た女性社員や駅で千歳と別れたシーンを想い出しつつ口を開いた――。


     ☆     ☆     ☆


「――と、相成った訳。それでアルコールとそのシチュエーションに酔って、帰った時に少しボ~っとしてたんだ」

 宏の、優に十数分は掛かった長~い回想録に、色めき立つ十人の妻達。
 中には話の途中から徐々に眉間に皺を寄せ、ソファーやダイニングの椅子から腰を浮かせている者も。

「そ、そそそそれじゃ宏は、そ、そそそそそその娘(こ)から――されて、――もした、って事!?」

 ポニーテールをピョンッ! とバネ見たく大きく跳ね上げた千恵を筆頭に、みんな目を見開き固まってもいる。
 どうやら想像以上の出来事を聞いてしまい、咄嗟に言葉が出ず動けもしないらしい。

「それって……浮気? それとも……単なるお別れの挨拶? はたまた……何かの儀式?」

「そ、そそそそれは完全に、ううううう浮気! ですよね!? よねっ!?」

 首を捻る妻や動揺しまくりの妻、笑顔の妻や般若顔の妻の姿に、宏は今更ながらに想い出す。

(えっと……アレって浮気、だったのか? あの程度で? 世間一般ではみんなシテる事なのに?)

 などと、まだアルコールの残る頭で呑気に構えていたら。

「ひ~ろ~し~」

 何やら怒気を孕んだドス黒いオーラが部屋を満たしてゆくような――そんな気がしたので、ふと見ると。

「うわっ!? な、なんでみんなして迫って来るっ!? なしてっ!?」

 器用な事に、ズザザと音を立て椅子ごと後退る宏。
 それだけ、鬼気迫るモノ(者?)があったのだ。

「ねぇ、ヒロ? 事務の女性社員からハグされ耳たぶ甘噛みされ連絡先渡されたにも係わらず誘惑を断ち切ったのは、まぁ当然の事だから褒めはしないわ。それよか! 幼気(いたいけ)な女子大生相手に、な~に、鼻の下、伸ばしてるのかしらぁ? 自分は妻帯者であると意識した上での行動、なのかしらん?」

「断ち切った……って、晶姉が真っ先に連絡先の書かれたメモ用紙を俺のポケットから奪い取って業務用クロスシュレッダーをも凌駕する速さと細かさであっという間に断裁したんじゃん。でもまぁ、流石、外資系企業の関連会社でデスクワークしてるだけはあるね。紙類の扱いはピカイチだ♪」

 己の危機的状況が迫る場面でも相手を無条件で賞賛するなど、どこか頭のネジが緩い宏。
 酔っ払いはある意味、無敵だ。

「って、呑気に褒めてる場合じゃねぇ! 晶姉、負のオーラが強いって! 微笑みながらそんなオーラ出さないで!」

 メデューサの如く、長い髪を揺らめかせている筆頭妻にようやく気付く宏。
 ニコ目だのに切れ長の瞳には燃え盛る炎を宿し、眉も吊り上げ額には青白い血管を幾つも浮かべて一歩一歩、ゆっくりと迫って来る。
 しかも、メモ用紙を粉砕した腕前(事務職の長を張るだけはある)を見せ付けられた上に、感情に任せた単なる怒鳴り声と違ってやたら言葉遣いが丁寧な猫撫で声だっただけに、余計に潜在的な恐怖心を煽っても来る。

「宏……アンタ……酔った勢いで純情無垢な女の子に何てコトを! 嗚呼、もう世間に顔向け出来無いじゃない! この家(うち)もお終いよ! ……シクシク」

「千恵姉、俺はいったいどんな大罪を犯したのさ?」

 腰に届くポニーテールを大きく左右に揺らし、両手で顔面を覆って頭(かぶり)を振るのは千恵だ。
 どうやら御姐様の中では夫が人の道を外したものと思い込んでいるらしい。

「宏さん? いくら職場の終焉日で、しかもお酒を召されていたとしても、して好い事と悪い事がございます!」

「多恵子さんまで!? あのぅ~、俺が自ら進んで事をイタしたんじゃ無いんですが?」

 屋敷で一番小柄な体格ながら最も眼光鋭く見つめて(睨んで?)いるのは多恵子だ。
 気の所為か、うなじのほつれ毛すら逆立っているような……。
 どうやら晶、千恵、多恵子は、今回は強烈な弾劾派に属しているらしい。

「宏クン。女の子を相手にする時はTPOをわきまえないとダメじゃない! ちゃんと国語の授業内でピロートークの一例として教えたでしょ! あぁ、ウチの教えが身に付いて無いなんて、先生、哀しいわ。次からは注意するように!」

「あの、宏先輩。私、両方とも浮気になると思います。けどまぁ、今回は完全に受難に相当するので不問としますけど……第一、ピッチピチの現役女子大生ならココにちゃんといるじゃないですか! 私ならいつでも……」

「宏さん。いくらお互い酔っていて宏さん自ら積極的にその行為を行なった訳では無い――は、次からは言い訳にもなりませんから気を付けて下さい。『李下に冠を正さず』と言いますし、美優樹も今回だけは目を瞑ります」

 片や、弾劾派みたく声を大にして責めはしないが、夫の取った態度に形好い眉を八の字に下げ、不快感を示すも中立の立場を取る妻達も何人か。
 夏穂(多恵子の六歳下の妹なのだ)、飛鳥、美優樹の叔母・姪トリオだ。
 どうやら夫の行為が積極的浮気(?)では無かった安心感と、相手の想いを優しく受け止めた不満とがせめぎ合い、感情の持って行き場が無いらしい。

「あの授業はそうだったんですかっ!? 俺、てっきり夏穂先生の実体験を赤裸々に語っているのかと思ってました」

「浮気……受難……って飛鳥ちゃん、社会に出ると、こーゆーのは日常茶飯だから。それに、最後はなんて言ったの? 好く聞こえなかったんだけど?」

「えっと……美優樹ちゃん? なんだか他の奥さん達と責め方が似て来た気がするのは……俺だけかな?」

 宏は叔母・姪トリオに対しても堂々と突っ込み返す。
 なにせ、当事者自らその都度修正しないと、言われ放しでは話しがトンデモナイ方向へ行きかねないからだ。

「あ~もう! みんな、俺を責める前に話をちゃんと聞いて――」

 そんな、汗だくになって自己弁護に励んでいると。

「みんな~、夫がモテモテなのは妻として誇らなきゃダメだよ~。それだけの魅力が私達の宏ちゃんに備わっている証拠なんだから~♥」

「うんうん♪ オレのダーリンは世界一だからな♥ 余所の女が惚れて当然だし、純粋な女心を大切にする宏だからこそ、オレ達だってベタ惚れしてるんだからな。ならば、オレ達の夫をもっと世界に誇ろうぜ♪」

「宏君ってば、普段は朴念仁で女の子の気持ちに徹底的に疎いけど、それが魅力だと想う女の子も結構いるしね♪ 宏君は女の子気持ちを無意識でも蔑ろにしないから素敵なのよ♥」

「……ヒロクンの魅力は見えない所にある。それを見出すその娘(こ)は大した者。ボク達同様、見る目があるし賞賛に値する。そして、その女心を最後まで尊重したヒロクンも絶賛モノ♪」

 夫がモテるのは男の甲斐性だとばかり、全面的に支持してくれる妻達(救う神?)が現われた。
 若菜、ほのか、真奈美、優の四人だ。
 しかし、そんな心の広~い擁護派に対し、いきり立つ弾劾派が大人しく黙っている筈は無かった。

「ちょっと若菜ちゃん! ほのかっ! 真奈美に優まで! アンタ等、ナニを呑気なっ! 夫の浮気を赦さずして妻が名乗れるか!」

 髪を逆立てた晶がソファーから勢い好く立ち上がると拳を握り、一歩踏み出して歯(牙?)を剥いて咆えれば。

「おいおい! 夫の素晴らしさを歓び周囲に自慢出来ん女に妻を名乗る資格は無いぜ? 第一、あんなのは浮気とは言わん! ただの日常的な挨拶だっ! オレはパイロット、オマエはフライトアテンダントとして取引先の外国人相手に宏と同じ行為を何度もシテるのに、それすら判らんのか、オノレはっ!?」

 こちらも碧眼を吊り上げたほのかが対抗し、すっくと立ち上がって対峙する。
 そんな国産美女と北欧産ハーフ美女の間にバチバチと電撃が飛び交い、リビングは喧々囂々、弾劾派・中立派・擁護派が入り乱れての言い合い合戦場と化してしまった。
 当然、当初の『夫vs妻』の構図など、誰も覚えてはいない。

「み、みんな! 先ずは落ち着いて! あ、晶姉!? なんでクッション持って大きく振りかぶってんのっ!? 千恵姉っ!? お願いだから台所で握れそうな金属製のモノ、探さないで! 若姉も笑いながら千恵姉にフライパン渡すなぁ! えっと……多恵子さん? ドサクサに紛れて、なしてズボン下げようとしてるんでしょう?」

 ソファーから立ち上がって仲裁する宏に、鼻息を荒げた多恵子からの応えはみんなを代表する応えとなった。

「当然! 妻として無駄撃ちしてないかのチェックですっ! 宏さんに拒否権はございませんっ!!」

「む、無駄撃ち……」

 正座したままギロリと上目遣いで、しかも血走った瞳を向けられれば宏に否応も無いのは当然だった。
 宏は下半身を裸に剥かれ、強制的に浅く座らされると二十の瞳がうな垂れたイチモツに集中するのが判った。

「ちょ、ちょっと待って! みんな目がギラ付いて恐いって! 少しは俺の話を聞いて――」

「却下」

 にべもないとはこの事だろう、筆頭妻から言葉を封じられてしまうも、屋敷の当主として、そして何より妻十人を擁する夫としてここで「ハイそうですか」と簡単に折れる(屈する!)訳にはいかない。

「なんで別れ際にハグされ、頬にキスされただけでこんな目に遭うの!? 第一、ハグを解く時に千歳の……同僚の気持ちだけ貰って想いは丁重に辞退したし、それに、キスされた時に俺の頬が濡れたのは彼女の涙だったんだろうから、そんな相手の最後のお願いは無下に断われないでしょっ!?」

 必死に釈明(言い訳?)していると、後ろ手に回された手首からはジャラジャラと金属の擦れる音とリストバンドみたくある程度幅があって肌触りも柔らかな感触が伝わって来た。
 オマケに足を閉じられないようにする為か、大きく広げられた両膝には鈍く光る金属棒がいつの間にかガッチリと固定されてしまった。
 どうやら本格的に拘束されてしまったらしい。

「い、いつの間に、こんな小道具を……。しかも……あぁもう! 全然身動き取れねぇし!」

 下半身剥き出しのまま首だけを巡らせ、性活物資の仕入れ担当にして管理者でもある若菜に視線を向けると。

「宏ちゃんの力で抜け出せないなら、私達なら尚更無理だね~。ムフフ、好かったね~宏ちゃん♪ 今度私達に拘束プレイする時は、これを使ってね~♪ 私達は縛られても吊るされても平気だし大丈夫だから~♥」

「俺は平気でも大丈夫でも無いって! 若姉、俺を実験台にするのは止(や)めてって何度も言ってるでしょ!」

 フルチンでもがく宏とそれを指差し嬉々と笑う若菜の幼馴染コント(?)に、ジュルリと何か粘着質な液体を啜る音が割り込んだ。

「無下に断われないと言う宏君のその優しさが、時に女の子を惑わす一因になるのよねー♪」

「おい、真奈美。勃起前のペニス凝視してハァハァと涎を垂らし、舌舐めずりしてる女が言う言葉じゃねぇ――」

「いゃん♥ ムクムク勃って来たぁ♪ あぁ……おちんちんが長く太く起き上がるにつれて先端まで覆ってた皮がズルズル剥けて……笠の張った立派なピンク色の亀頭が丸見えになったぁっ♪ これぞ宏君だわぁ♥」

「立った立った! 宏クンが勃ったぁ! ――って、何度見てもすっごいわね。裏筋があんな太く膨らんでるし♪」

「おぉっ!?」

「ムフッ♥」

「何でこの状況でそーなる!?」

 ほのかの呆れた声は真奈美や夏穂、そして美人妻数人による黄色い大歓声(と一部疑問の声)に覆い隠されてしまった。

「宏……アンタ……いつ拘束プレイされただけでフル勃起する男になったのっ! このド変態っ! ドM男っ! もう知らないっ!」

 だのに、額に青筋を浮かべて睨む千恵からのキツ~いひと言だけが鮮明に耳に届くのは何故だろう。

「あ……何だかツンとした匂いが強くなったような♪ でも、これは紛れも無く宏先輩の匂いだ♥」

「丸一日、籠もってた匂いが解放されて、美優樹には蠱惑的なフェロモンとして強烈に作用するから……しとどに濡れちゃいますぅ♥」

 スンスンと鼻を鳴らし切れ長の瞳を蕩かせるツインテール姉妹を押し退け、その母親の多恵子がそそり勃つ逸物に赤らめた美顔を寄せて来た。

「これは妻として当然の行為です! あぁ……硬くて熱くて……お臍まで反り返った、なんて立派なおチンポなんでしょう♥ では失礼して……クンクン♪ これは……蒸れた汗の匂いとアンモニアの薄い匂いが致します。続いて……ペロリ♪ 鈴口に精液の匂いと味は致しませんし、下着にも精液の残滓やカウパー液すら付いていません。よって、宏さんの無罪が証明されましたわ。おほほのほ♪」

 白く細い指をそそり勃つ竿に絡め、おもむろに右に左に倒しては鼻先で何度も匂いを嗅ぎ、更には鼻息を荒げたまま亀頭の先端にピンク色に滑(ぬめ)る舌先をチロチロ這わせる念の入りようだ。

(しかも、亭主が一日中穿いてたパンツの裏っ側まで調べるって……)

 これではチェックと言うより、単に男根を欲する欲求不満な妻、そのものではないか(昨晩も濃厚エッチしたのに)。

「だーかーらー、みんな落ち着いて俺の話しを――って、うっひゃぁ!? ご、五人同時に竿、舐められたら――」

 声を大にするも、ご当主の台詞は群がる嬌声に掻き消され、ショーツ一枚になった妻達に届く事は無かった――。


                                            (つづく)


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