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最終更新 '17.-3.14. お知らせ (リンク集)                                          | Facebook | Twitter |  リンク集 | ▽ このページの下へ |  ライトHノベルの部屋 2013年04月


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     ~ラブラブハーレムの世界へようこそ♪~


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ラプソディー(4) ラプソディー(4) 美姉妹といっしょ♪~新婚編
  
 カレンダーが九月に替わり、秋の涼しい気配が日増しに強まって来た頃。

「え~~~、月曜朝礼の前に、みなさんに重要なお知らせがあります」

 宏が勤めるバイト先の責任者――配送センター長でもある――が倉庫二階にある事務所で総勢九人を前に表情を強張らせながら口を開いた。
 事務所には緊張気味のバイト四人が揃い、五人の社員さんも笑みを消したまま席を立って言葉を待っている。
 そんな、いつもとは少し違う雰囲気の中、松本が囁いた。

「なぁ宏。今日の所長、なんか硬くなってねぇか? 社員さん達も顔が強張ってるし」

「そうだな。週一回の朝礼にしては妙に緊張してる……ような? いつもの和やかな空気じゃねぇよな」

 宏も出社直後からいつもと違う空気を感じていたので、素直に頷く。

「あれ、明らかに好からぬコト、企んでる表情ですよねー」

「どうしたんでしょ? 何だか……変だわ」

 雰囲気に釣られたのか、美保もいつもの笑顔が消え、瞳とポニーテールが左右小刻みに動いてどことなく不安気な面持ちだ。
 そして「大学(がっこう)の新年度は再来週からなので今が稼ぎ時なんです♪」、と先週まで笑っていた千歳も、今は宏の隣で声を震わせている。

「え~~~、それでは社長からのコメントを読み上げます」

 震える手で一枚のA4用紙を持ち上げる所長の重々しい言葉に、宏達は固唾を呑んだ。

「コホン。『この度、十月一日(いっぴ)から施行される「岩角電気」と弊社「第八ホーム電器」との経営統合により、弊社は「岩角ホーム電気」として再出発する運びとなりました。これにより、弊社が所有する三箇所の配送センターは岩角電気直轄の関東配送センターに吸収合併される事が正式決定されました。これに伴い、千葉、神奈川、東京の各配送センターは順次業務量を減らし十月末を以て完全閉鎖とし、平行して埼玉にある関東配送センターに業務が移行集約されます。弊社配送センター詰めの全従業員に於かれましては、今後の去就に関する聞き取りを今週中に執り行う所存です』……以上です」

 そして暫し訪れる、沈黙の時間。

「「「……………………」」」

 松本、美保、千歳の三人は目を見張り、口をあんぐりと開けたまま完全に固まり、申し訳無さそうな顔をした所長に肩を叩かれるまで微動だにしなかった。
 一方、宏は多少、目を見開いたものの、みんなのように固まるまでのショックは受けなかった。
 むしろ、

「………………ビンゴ」

 と小さく呟き、妻であり屋敷の大蔵大臣でもある優の顔を想い浮かべていた。


     ☆     ☆     ☆


「M&Aでここが移転するかも、ってのが入荷しないもうひとつの理由だったんだけど、よもやホントになるとはねぇ」

「それで……あの時、言い淀んで言いにくそうにしてたのか。そりゃ言えんわなぁ。早い話、ここが無くなるってコトだもんな」

 先週末に話が途中で終わった事を振り返り、今となっては笑えない想像力に思わず溜息を漏らす宏と松本。
 図らずも三日前の夜に優から告げられた衝撃的な内容――「……ヒロクンのバイト先、吸収合併される可能性が非常に高い」――とビンゴ、ドンピシャ、大当たりだっただけに、宏はもう笑うしかない。
 否、むしろ株価変動等の些細なマーケット情報から企業の統廃合を見事言い当てた優を大いに褒めるべきだろう。

(流石、日頃からネットトレーダーで資金運用してるだけあって見る目が確かで正確だわ。特に今回は)

 妻のずば抜けた(ある意味、そら恐ろしい?)能力に喝采を贈り微笑む宏だったが。

「宏、言い当てたからって笑い事じゃねぇって。オレ等には死活問題だろ? 特にオマエは妻帯者なのに、何、余裕かましてんだ!?」

 笑いの意味を勘違いしたらしく、松本が箒を手にしたまま頬を膨らませ睨んで来た。
 どうやら、職場が消滅するのに薄ら笑いを浮かべている人間が赦せないらしい。

「へ? あぁ、違う違う。倉庫閉鎖が可笑しかったからじゃ無いんだ。いつもはテレビや新聞で見聞きする企業合併が自分の身に降り掛かって、自虐的に可笑しくなったんだ」

 優の――妻のネットトレーダー能力や自分達が利息生活者である実態は極秘にしているので咄嗟に誤魔化すが、漏れ出た笑みはあながち間違いでも無かった。

 ――何しろ、家電ショップでは古くから関東では名の知れた会社が同業者である他の新興家電ショップ(秋葉原では本店ビルが隣り合っている)に事実上吸収されるのだから、少なくとも今日の夕方には経済ニュースのひとつとして流れるのは必至だろう。
 そんなニュースネタの一員になるなど、長い人生に於いてそうそう無い――。

 このような事を懇切丁寧に説明すると、松本は表情を和らげ居住まいを正すと素直に頭を下げた。

「そうだったのか。そりゃオレが悪かった。早とちりしてすまん。このとおり」

 この潔さも、松本が憎めない男の証左なのだ。

「好いよ。俺も気にして無いし、間違われる態度を取った俺も不注意だったんだから」

 宏も満面の笑みを返してこの件を軽く流す。
 下手に言い繕って一家のお財布情報を――たとえ片鱗と言えど、晒す気は毛頭無い。
 幸い、松本は深く詮索せず話を元に戻した。

「でもまぁ、既に業務の大半は向こうに移ってるって言うじゃねぇか。どうりで今月は入出荷が激減する訳だ」

 午前の早い時間にも係わらず、既に今日の出荷は全て終えていた。
 何しろ出荷量も平常の二割以下にまで減っており(今日の出荷は二トントラック一台のみだ)、午後からの入荷も繁忙期とは思えない程に、全く期待出来無いらしい(社員さん情報による)。
 これでは来月末まで待つ事無く、ここの製品がある程度減った時点で閉鎖されるだろう。

「結局、末端で働くオレ達には最後まで情報が伝わらないんだよなー。情報格差だよなー。ホント、笑っちまうぜ」

 乱暴に箒を振り回す松本に、今日は文句を言う人間はいない。
 宏も松本の意見に、おおいに共感する。

「まったくだ。今年の春先から統合に向けてトップ会談が繰り返されてた、って所長が言ってたな。そんな話、ちっとも聞かなかったし、ここの所長や社員さん達が全て知ったのは金曜の夕方、俺達が帰った後だもんな。ま、経営判断なんて、所詮、俺達現場の人間には無縁で無関係なんだよ」

 悟ったような事を言う宏も、その実、内心穏やかでは無かった。
 その証拠に、立ち止まったまま同じ場所を掃き続けているだけ、なのだから。

(やれやれ。この歳にして早くも失職の危機を味わうとは……世知辛い世の中になったモンだなぁ。企業名を残す為だけに僅か数人の採決によってその下にいる社員やその家族数百人の生活をあっさり突き崩すんだから)

 自分の行く先を案じるまでは行かないが、それでも三年半勤めた会社が突然消滅するのはショックだし寂しい。
 みんなも同じ想いなのか、箒や塵取りを持ったままノロノロとしか動かない。

(もっとも、晶姉に言わせたら、『M&Aなんて今の世の中、当たり前だのクラッカーよ! 珍しくも何とも無いわっ。第一、日本だけで一日何件のM&Aが起こってると思ってんのよっ。それに! ヒロひとり位、あたしが面倒見るわよっ』って踏ん反り返って言いそうだよなぁ)

 外資系企業の子会社とは言え部長職を務める従姉を想い浮かべ、心の中だけでクスリと笑う。

(これが同じ社会人組のほのかさんだったら……『ま、人生いろいろ、会社もいろいろだ。今ならオレの給料で食わせてやるよ♪』、なんて手を握られて慰められそうだし、女子高に勤める現役教師の夏穂先生なら……『ま、これも好い経験よ。ウチの稼ぎで囲ってあ・げ・る♥ ドンマイ♪』、と笑って背中をバンバン叩かれそうだなぁ)

 同情し一緒に悲嘆に暮れそうも無い面々だけに、そう思うと少しは気が楽になる。
 むしろ、舌舐めずりして自分の手元に引き摺り込もうと虎視眈々狙って来そうな気配が濃厚だ。

(ただ、主婦組の反応はどうだろ? 千恵姉と真奈美さんは……やっぱ心配するだろうなぁ。『これからどうするの?』、とか言って。若姉は……持ち前の明るさで『何とかなるよ~♪』って笑い飛ばしそうだし、多恵子さんなら……『わたくしの家賃収入で生涯養って差し上げます♥』、な~んて顔を綻ばせそうだな。学生組の飛鳥ちゃんと美優樹ちゃんは……『そ、そうなんですか……』と、どう答えて好いか迷う反応をしそうだな)

 宏の頭の中に、妻達十人の笑顔が次々と浮かんでは消えてゆく。

(優姉だったら……『失職は残念。でも、これからはボクがネットトレードやFX、外貨預金などでもっともっと稼ぎまくるから安心して♪』、とか言って本領発揮しそうだな。優姉、完全にそっち方面のプロだし)

 こう見ると、少なくとも一家の主(あるじ)が失職しても悲観的になる材料――特に収入に対する不安が無いのが、せめてもの救いだろうか。

(そう考えると、利息生活出来る預金持ってて運が好かった、ってコトになるんだろうなぁ。億単位まで稼いでくれた優姉様々だな♪)

 こればかりは表に出さず(死んでも出せない)、心の奥底で安堵の息を盛大に吐(つ)く宏だった。

(ま、今日ばかりは仕事にならんな。ここの社員さん達も今後どうするんだろ。大概、吸収される側の大半は否応無く切られちゃうからなぁ)

 短い間とは言え、苦楽を共にした社員さん達の人懐っこい笑顔(そしてやたら色っぽく迫って来た事務のお姉さん)を思うと胸が切なく、そして痛くなる。

(ま、今暫くは成り行き任せ、だろうなぁ。もはや現場の人間には何も出来無いんだし)

 そんな状態だからみんなまともに仕事が出来る筈も無く、昼休みまでの時間を持て余す宏達はダラダラと倉庫整理や掃除をする振りしかなかった(所長以下社員さん達も可哀想と思ったのか見て見ぬ振りをしてくれている)。
 いつもは笑い声の絶え無い倉庫に、今は重苦しい無言の時間が暫し流れる。
 と、その空気に耐え切れなくなったのか、美保が静寂を破った。

「そう言えば、埼玉の内陸、って言ってましたね、移転先。わたし、そこまで通えませんよー。いくら雇用条件が好くても遠過ぎます」

「そうだな。土日祝休みで九時五時、社会保険全完備で交通費全額支給は変わらんけど、移転先では時給が百五十円アップして千二百円だもんな。日給にすると九千六百円だ。これだけなら文句無いがな」

 いつもの元気を無くした美保(いつも上向きのポニーテールが今は萎れて見える)が箒を引き摺りながら力無く言い、それに応える形で松本が頷く。
 確かに、これだけ見れば皆、一も二もなく契約更新するだろう。

「だけど、あそこだと……どう見積もっても、ここから移転先の最寄り駅まで乗り換え二回で片道二時間は優に掛かるし、朝夕のラッシュ時だと二時間半近いぜ。往復で五時間だ。こりゃ、通勤の常識と良識を遥かに超えてるぞ」

 呆れたような松本の言葉に、全員、ごもっともと大きく頷く。

「オマケにその配送センター、駅から徒歩三十分、しかも駅からの通勤用企業バスはおろか路線バスすら無しで、完全に公共交通機関の空白地帯と来たもんだ。都合、片道三時間だぞ! それでどうやってオレ達に通えってか?」

 松本は遣り切れないとばかり、集めた埃を何度も蹴飛ばしている。
 朝礼では移転先の住所や交通手段などの詳細が地図付きで聞かされていたのだ。

「そうだな。車を持たん俺達には別世界、異次元の話だ。ま、高速のインターチェンジが近いってだけで建てたんじゃね? そこなら五分と掛からず高速に乗れるからな。ほら、大概の物流系はインター近くに倉庫、建ててるじゃん」

 宏の推察と指摘に、なるほど、と頷く松本と美保。
 宏は続けて言葉を継ぐ。

「それに通勤で片道三時間なんて、新幹線で東京から大阪まで毎日通うようなモンだろ? 或いは東京から札幌や福岡まで飛行機で通勤、みたいな。むしろ、福岡の天神まで通った方が時間的に早いぞ。天神までジェット通勤、帰りは中州の屋台で長浜ラーメンをツマミに一献。マイレージも溜まって面白そうだけど……飛行機の定期代、いくらよ? ってか、そんなモン、ねーしっ!」

 苦笑いする宏の例え話と壮大な(?)ノリツッコミに、小さな笑いが起こる。
 それは、今日、初めての笑い声だった。

「所長の話によると、各配送センターに詰めてたバイトは移転先でも優先的に採ってくれる、って事だが……松本はどうするんだ? 自宅アパートの最寄り駅は蘇我だったよな? 辞めないで埼玉まで通うのか?」

「ん~~~、どうすっかなぁ。バイトひとつの為にわざわざ大金と時間掛けて引っ越すのはバカの極みだし……だからと言ってこのバイト辞めて新たに探すとなると……なぁ。ま、今週の金曜正午までに返事すれば好いんだろ? 移転先でバイト続けるか、それともこの倉庫と共に運命を共にするのかを。だったら、それまでじっくり考えるさ。残された時間は多くは無いけど、考えるには十分あるからな」

 松本の真剣な眼差しに、宏は虚を衝かれた気分になった。

(へぇ、凄いな。いきなり自由契約喰らったのに、ちゃんと物事を冷静に判断する能力を持ってる。フリーターさせとくには惜しい男だな)

 見た目の派手さ(肩まで伸ばした茶髪を首の後ろでひとつに縛っている)とは裏腹に、ちゃんと将来(?)を見据えているではないか。
 宏は松本の新たな一面を見た気がした。
 すると、美保も眉を八の字に下げつつ、いつもよりトーンダウンした口調で言葉を紡いだ。

「わたしは……辞めざるを得ませんねー。ここでのバイトは面白いから続けたいけど、大学(がっこう)は千葉(こっち)ですから。そもそも、大学に近いからここでバイト始めたんです。埼玉(むこう)では家や大学と距離があり過ぎて時間が取れません」

「あ、そうか。毎日来てるから、美保(オマエ)が女子大生ってコト、すっかり忘れてたぜ」

 殊更大きく目を見開く松本に、目を三角にした美保が噛み付く。

「あー、ひっどーい! こーんなピッチピチの美人女子大生、他にいませんよー」

「美人って自分で言うな!」

「「「あははははっ」」」

 普段と変わらぬ松本の突っ込みに、今度は少し大きな笑い声が倉庫に響いた。
 どうやら、何とか現実を受け入れつつあるようだ。

「千歳はどうするんだ? 所長は今すぐ辞めても十月末迄の給料を六割保証で支給する、って言ってたけど……美保と同じく大学もあるし、やっぱ辞めるのか?」

 宏はずっと無言のままの千歳に声を掛ける。
 しかし、千歳は俯いたまま返事をしない。

「? 千歳? 大丈夫か? 気分、悪いのか?」

 朝礼を終えてからずっと押し黙ったままなので心配になった宏が向き直って肩をポン、と叩こうとしたら。

「宏さんっ!!」

「ひぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 いきなり顔を上げ一歩踏み出して叫ぶものだから、心臓と目玉が飛び出る程にこっちが驚いてしまった(松本と美保も唖然としていた)。
 その鋭い叫び声は、四方の壁が見える程に製品の減った広い倉庫に何度も木霊した。

「あ~~~~、びっくりした! な、何だよ、突然大声出してっ!?」

 バクバクする胸とキンキンする耳を押さえて宏が問うと、瞳を血走らせた千歳が更に一歩、詰め寄って来た。
 いつも柔らかな笑顔を絶やさない千歳の滅多に見られない鬼気迫るその迫力に、宏は思わず二歩下がって怖々(?)と対応する。

「な、なんだ、なんだ? そんな必死になるコトなのか?」

 しかし、目前に迫る小さな美顔が、心なしか紅潮しているようにも見える。

「宏さんはどうされるんです?」

「へ? 俺?」

「はい! 是非、お聞かせ願います!」

「どうするも何も……まだ未定だよ。なんたってほんの小一時間前に聞いたばっかだし」

「それじゃ、埼玉へ通うんですか? ご自宅から三時間掛けて?」

 千歳(とバイト仲間)は、宏の家がここから二駅隣だと知っているのだ。

「だから、まだ判らないって! 家(うち)からの詳細な通勤ルートや所要時間を見ないと何とも言えないって。東京近郊は横に移動する手段が乏しいんだから」

「……はい? 横に……移動?」

 意味が判らなかったのか、首を小さく傾げる千歳に宏は大きく広げた左の手の平を示して判り易く説明する。

「ホラ、東京は鉄道とバスが網の目のように張り巡らされているような印象を受けるけど、それは概ね武蔵線や南部線内の話じゃん。その外環路線から郊外に向けて各路線が伸びているのは、判るでしょ?」

 手の平が外環線内で、指がそれより郊外に向かう各線路、と示しつつ、宏は左親指の真ん中を指す。

「ここが、この配送センターの最寄り駅とすると、移転先は人差し指と中指の爪を結ぶ線の中間当たり。とすると、ここまで行くのに一旦都心方向へぐるっと回ってから人差し指か中指の路線に乗らないと行けないでしょ?」

 すると、松本が宏の言わんとする事が判ったのか言葉を受け継いだ。

「つまり、親指の爪から小指の爪まで横断する、より大きな外環鉄道やバスが無い、って事だろ?」

「そう。だから遠回りになって三時間も掛かるんだ。だったら他にコミュニティバスを含めた移動手段は無いか、効率の好いルートや時間は無いか、まずは探ってシミュレートしてみない事にはバイト続けるにしろ辞めるにしろ判断出来無いでしょ?」

 含み聞かせるような口調の宏に、ようやく落ち着いたのだろう、千歳は我に返ったかのように頭を下げた。

「あ……ご、ごめんなさい! つい、昂ぶってしまいました」

 ペコペコと頭を下げ、急にしおらしくなる千歳。
 どうやらやっと普段のレベルに戻ったらしい。

「いや、俺は大丈夫。千歳こそ大丈夫なのか? 朝からずっと思い詰めてた様だったけど?」

「……はい、すみません。勤め先が消滅するって聞いて、頭が真っ白になってました」

「だろうな。何だったら、その辺のファンヒーターを椅子代わりにして座ってて好いぞ? 休憩室で横になってても好いし。どうせ今日は仕事にならんからな」

 製品を預かる倉庫番としてダメダメな台詞を吐く宏。
 これも、普段の宏なら絶対言わない言葉だ。

「いえ、わたしも大丈夫です。ご心配掛けてすみません」

 安心させる為かニコリとする千歳だったが、先週までの眩しい笑顔と比べると明らかにぎこちない笑顔だ。
 しかし、目の前で何度も頭を下げる千歳に、宏は少し違った見方をし始めていた。

(あ……この香りは……晶姉達が使ってるシャンプーと同じ匂いだ)

 今日は誰ひとり荷役で汗を掻いていないので(精神的な冷や汗はドバドバ流れたが)、頭を動かす度に千歳のショートヘアから洗髪したての甘い香りが強く鼻腔をくすぐるのだ。

(やっぱ女の子、なんだなー。この匂いを嗅ぐと晶姉や千恵姉達を思い出しちまう。……夜の痴態も含めて♪)

 職場の後輩に邪な目を向けそうになる宏だったが、寸前で思い留まる。
 先週までならともかく、今はそんな色っぽい妄想をしている場合では無いからだ。
 宏は真面目を装い、さもありなん、とばかり頷いてみせる。

「まぁ、動揺するのは判るよ。いきなり遠距離通勤か失職か、だもんな。俺だってモヤモヤした感じ、ここにあるし」

「……はい。ありがとうございます」

 慰めるようニコリと笑って自分の胸を親指で指すと、僅かに頬と目元を赤らめる千歳だった。

「それにしても……これからどうするかなぁ」

 溜息混じりの宏の呟きは、そのまま職場の総意となって倉庫に漂った――。


                                            (つづく)


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