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     ~ラブラブハーレムの世界へようこそ♪~


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ラプソディー(1) ラプソディー(1) 美姉妹といっしょ♪~新婚編
 
 カレンダーが九月に替わり、多くの大学と一部の高校が卒入学シーズンとなって人の行き来が盛んになった頃。

「真紀子(まきこ)ちゃん、この会計処理、お願い出来る? ……そう、今週末の夕方迄に仕上げて貰えれば好いから。……うん、よろしくね♪」

「んっと……晋三(しんぞう)さん、来月の社員健診の手続きはどうなって……そう、判ったわ。それじゃ、何枚かプリントしたら掲示板や休憩室、ロッカールームや食堂にも貼り出して周知して貰えるかしら? 社内メールでの告知も……了解。よろしく♪」

 ここ丸の内にあるワンフロアぶち抜きのオフィスでは、晶が経理担当者(このオフィスの御局様だ)や総務課長(長期入院からこの度目出度く復帰した)と打合せしつつ書類の山と格闘していた。

「え~っと、沙織(さおり)ちゃん。来週と再来週のケータリング(機内食)の手配は……終わったんだっけ?」

 飛行業務部長として次々と仕事をこなす晶は右手にペンを持ちつつ、机に置かれた『確認待ち』と書かれた箱(衣装ケースをスケールダウンさせたような半透明の箱だ)の中身を左手で物色しながら喧騒に負けない声で目の前の席に尋ねた。
 フロアは電話着信を告げる柔らかな電子音がひっきりなしにあちこちで鳴り、それに応答する幾つもの声や来客者との会話、そして社員ミーティングの声が入り混じっていつにない騒がしさに包まれ、普段の声では通りにくいのだ。
 するとショートヘアの似合う美人OL(庶務担当なのだ)が社会人の基本とばかり、打てば響く答えを返して来た。

「それでしたら先程、ファクスとメールでいつもの業者さんに発注し、受領確認の電話も受けてあります。羽田の事務所にもフライトスケジュールのデータと併せてケータリングリストとして送っておきました。それらの書類はクリアファイルに纏めて確認待ちに入れておきました」

「あ、そっか。フライトスケジュールも羽田に送るんだった。……あぁ、あったあった。……ふむ、連日フライトが入ってるから発注量もハンパ無いわね。……ふむ……ふむ……ん、確認したわ。ありがと。いつも助かるわ」

「いえいえ♪ 何かありましたらいつでもお申し付け下さい」

「うん、頼むわね♪」

 手際の好い部下の満点仕事に晶は満面の笑みで報い、丸の中に済と書かれた赤判を捺すと『処理済み』の箱にクリアファイルを入れ、続けて左隣の管理職席(それでも三メートルは離れている)に視線を向ける。

「ねぇ、詩織(しおり)ちゃん。お願いしといた上半期の燃料費と部品代の内訳と請求書の精査、どうなってる?」

 するとセミロングの髪を首の後ろでひとつに束ねた美人OL(副部長なのだ)が手を止め、ノートパソコンから上司に視線を移し小さく首を傾げた。

「それでしたら、とうの昔に済ませて晶さんの机に置きました。決裁待ちの箱に入っていませんか?」

「えっ!? こ、この山から探せ……と?」

 晶の大きな机には通信用のディスプレイとフライトスケジュール管理用のディスプレイ二台に混じって『決裁待ち』と書かれた箱も置かれ、書類の束――カラフルな付箋紙が貼られたクリアファイルやらクリップで留められた書類やら思わず視線を逸らしたくなる分厚いバインダーやら――がうず高く積まれていた。

「あらら、午前中より高くなってますね。標高五十センチは確実に超えてそうで。ま、ガンバって見つけて下さい♪」

「うぅ、他人事(ひとごと)だと思ってお気楽に言ってくれるわねぇ。あ~ぁ、中間管理職の敵は社長では無く書類だと言うのが、これ見ればよ~く判るし実感出来るわ」

 ペンを放り投げた晶が机に突っ伏し、溜息混じりに愚痴を零すと。

 ――うふふ、あはは、クスクス――

 それまで黙々と仕事に打ち込んでいたフロアに小さな笑い声がさざ波のように拡がった。
 どうやら目の前の仕事に追われつつも、聞き耳だけはしっかり立てていたらしい。

(あらら、笑われちゃった)

 部長と言う要職にありながら肩書きを鼻に掛けない気さくな人となりと仕事を効率好く的確に処理する晶は誰からも一目置かれ、常々注目されているのだ。

(でもまぁ、ちょこっと戯(おど)けて正解みたいね。心にゆとりが無いと仕事もアップアップになっちゃうし、笑いがあるうちはまだまだ大丈夫!)

 自分が管理する面々の反応に満足し、更なる潤い(お笑い?)のタネを蒔く晶。

「あ~~~もう! 半期の決裁がこんなにシンドイとは思わなかった~~~!」

 ――あははははっ――

 長い髪を掻き毟り女子高生みたいなノリで遠吠え(?)する上司に、狙い的中とばかり笑いの渦が降り注いだ。
 するとフロア全体の空気がそれまで張り詰めたものからずっと柔らかくなり、机に張り付いている全社員――およそ四十余名の表情が心なしか穏やかになったような……気がした。

(よしよし、これで朝から鬱積されてた気分も完全に一新されただろうし、今日は全員、残業無しで済みそう……否、済ませてみせるわ! そうすればあたしも久々にヒロと一緒に夕食摂れるし、同じ布団で朝まで一緒出来るっ♥ うん、そうしよう!)

 日頃は、男性社員はもとより女性社員ですら一流ファッションモデルと見紛うスタイルの好さと美貌で悩殺している晶だが、今月は業務に忙殺されていた。
 世の中の企業同様、晶の勤める外資系企業の子会社――ビジネスジェットを所有する四社が飛行部門を統合し共同出資による運行専門会社としてこの春に独立させた――も通常の業務に加え、独立後初の上半期の締め月とあって多忙を極めていたのだ。

「それにしても……この書類の塔、何とかならないかしら。来週再来週は重役連中の出張にフライトアテンダント役で連日駆り出されるからここに来れないし、誰かあたしの書類処理(デスクワーク)、手伝ってくれないかしらねー」

 冗談半分(つまり半分は本気だ)に言いつつフロアを見渡すと、一斉に視線を逸らし机に向かう社員達の姿が。

(ま、そんな奇特な人、いる訳無いか。それぞれ目一杯仕事抱えてるし、いたらいたであたしがお目に掛かりたいわ)

 人目に付かぬよう、小さく溜息を漏らす晶。
 部下の前では決して弱気な面を見せないのも、管理職として基本的な務めだからだ。

(あ~ぁ、飛行業務専門として独立したは好いけど、必要最低限まで人員を絞ったのが痛いわねー。普段から日常業務で手一杯なのに、上半期だの四半期だの余計な手間が加わるとアップアップになっちゃうし)

 横目でそっと社員達の様子を窺うと、みんな表情は和らいだものの額に汗して事務作業(デスクワーク)に没頭している姿は変わらない。

(明日の朝イチで会長――親会社である日本支社のトップであり、この会社の社長でもある――に増員を直訴してみるか。元いた支社(上のフロアにいる)に気の知れた面々がいるからこっちに何人か転属(トレード)させて貰いたいけど……あっちも手一杯だろうし本人の意志を無視して話しは進められないだろうなぁ。ん~、それがダメならあたしの責任で外部から人員補強(スカウト)しようかしら。このままじゃ絶対に無理が出ちゃう。でもなー)

 決裁書類にじっくり目を通し、了承したものからサインし判を捺しつつも、飛行業務の事務部門を預かる長(おさ)として部下達の苦労を極力減らそうと考える晶。
 しかし、いくら独立した子会社と言えど、親会社の裁定や人事を一方的に無視する訳にもいかない。
 無意識に眉間に皺が寄り、晶の美貌が僅かに曇る。

(来月入社する新入社員がこちらに配置されるとは聞いて無いし……はてさて、どうしたモノかしら。どこかに会計とか総務とか庶務とか、マルチな才能を持つ人、いないかなー。ひとりでもいれば、結果的に羽田の連中も助かるし)

 ここに集う面々は四社の中から自ら希望し選抜された優秀なメンバーであるとは言え、処理能力には限度がある。
 キャパシティーを超えた仕事はミスが出やすくなり、それが現場(フライト業務)に伝染すると最悪の場合は墜落と言う破綻を来たしてしまう。
 事実、アメリカのサンフランシスコ空港で航空会社の事務連絡ひとつ疎かになっただけでパイロットに正確な情報が伝わらず、東京行きのジャンボ機が離陸時に墜落寸前の大事故を引き起こした実例があるのだ。

(あたしらの会社で、そうはなりたくないからね)

 社員達の真剣な眼差しを前に、強く思う晶。
 今の晶の立場は、彼ら彼女らの生活の一端を担っていると言っても過言では無いのだ。

(まぁ、四月の発足当初から、我々の仕事は些細な事務仕事ひとつでも人の生死に関わっていると常々意識し、操縦と同様に繊細に扱われなければならない、と常々言ってるから大丈夫……だとは思うけど世の中、絶対は無いし)

 いつに無い忙しさに少々ヘコタレ気味になりかけたら、にこやかにサムズアップする金髪碧眼娘の顔がポワンと脳裏に浮かんだ。

(もっとも、現場には優秀な主任パイロット(ほのか)がいるし、あたしが事務方トップにいる限り大丈夫!)

 今は自分達を信じて目の前の書類(お仕事)に意識を切り替える。

「こうなったら屋敷にいる猫に判子、捺させようかしら♪ これがホントの『猫の手も借りたい』……な~んてコト言ってるヒマがあればとっとと仕事しろ! って感じよねー」

 自らボケツッ込みしつつ(本日最大の爆笑の渦が沸き上がった)、猛烈な勢いで書類の山を片付ける晶だった。


     ☆     ☆     ☆


 丸の内のオフィスで晶が書類の束と格闘し愚痴っていた頃。

「な゛、なんだ、これ! 晶のヤツ、とんでもねぇモン、送って来やがった!」

 羽田空港の企業向けハンガー(格納庫)に併設されている事務所に、ほのかのドスの利いた声が響いた。
 ファクスから吐き出された何枚もの紙を、たまたま通り掛かったほのかが受け取ったものの、その内容に思わず吼えていたのだ。
 当然、事務所中の注目を一身に浴びるキャプテン(機長)ほのか。
 皆、何事かと手を一斉に止め、見目麗しい金髪碧眼美人に顔を向ける。
 それまで電話対応している声や外から微かに漏れ聞こえるジェットサウンドが事務所内に低く流れていたが、それすらピタリと止まってしまう程だ。

「どしたの、ほのかちゃん?」

「ほのかさん?」

 ほのかの直接の上司でディスパッチャーも務める副所長――黒髪をアップに纏めた三十六歳の独身女性だ――が自席から声を掛け、コ・パイ(副操縦士)の澪(みお)――こちらはショートヘアが似合う二十四歳の可愛らしい娘(こ)だ――も怪訝そうに首を捻る。
 ほのかと澪は常にコンビでフライト(操縦)をしている間柄でもあるのだ。

「あ、悪ぃ。つい大声出しちまった。スマン。でもよ、これ見てみ? たった今送られて来たんだけどよ……」

 事務所内に元の慌ただしい空気が戻り、自分の机に戻ったほのかが受け取ったファクスを、仕事中だった書類の上にバサリと置く。
 今日のほのかはフライトが無いので(機体整備中なのだ)ラフな私服姿――Tシャツにスリムジーンズ姿――で朝からペーパーワークに励んでいたのだ。

「何か問題でも?」

「どれどれ?」

 澪が椅子に座ったまま左隣から近寄り、席を離れた副所長も右隣に立つと、ほのかのデスクに広げられたファクスにそれぞれが手を伸ばす。

「これは……来週と再来週のフライトスケジュールとケータリングの内訳ですね。いや~、やっとフライトが決まって好かったです♪ 今月は上半期の締め月だからフライトがなかなか決まらず、私、ずっとヤキモキしてたんです」

 澪は手放しで喜んでいるが、副所長はそうでも無いらしい。
 やや大きく目を見開き、半ば呆れているような顔で内容を目で追っている。

「あらあら、晶さんはサドッ気がおありのようで……朝から晩まで連日凄い行程ね。これじゃ、来週再来週と機体整備(メンテ)担当は夜勤しないと間に合わないわ」

 副所長の気の毒そうな言葉に、事務所の一角から「え――――っ!!」と落胆の声が複数上がる。
 ほのかがチラリと見ると、整備責任者(チーフメカニック)と整備主任(サブチーフ)が肩を落として泣いていた。

(まぁ、気持ちは判るけど、仕事だから仕方ねぇよなぁ。会社は小さくとも、オレらは人の命、預かってるんだし)

 普段は次のフライトまで日数的余裕があるので日中に整備出来るが、フライトが連日続くとどうしても機体整備は夜間にせざるを得ないのだ。

「メンテ担当もそうだけど、フライトプラン立てる私の身にもなって欲しいわ。ほのかちゃん、家(うち)で何か怒らせるようなコト、したの? 家庭内のトラブルは会社に持ち込まないでね」

 副所長が最後にチクリと釘を刺すも、瞳は大いに笑っているので、れっきとした仕事だと判っているようだ。
 ほのかもシャレや冗談でこのようなファクスを送る晶では無いと重々承知しているので、副所長のジョークにすぐに便乗した。

「んなモン、身に覚えがあり過ぎて判らんっ! 晶に直接聞いてくれよ」

「イヤよ。飛行業務部長のプライベートに首を突っ込むなんて、私の身分じゃ百年早いわ」

 上司同士の軽口に、澪も眉根を寄せつつ参加した。

「あの~、ほのかさん。自慢して言うコトなんですか、それ? イヤですよ、私。フライト中にコクピットで奥さん同士の喧嘩に巻き込まれたりお互いの悪口聞かされたりするの。晶さん、クルーとして同乗するんですから」

「誰が悪口言うかっ。ある事無い事言うだけだ!」

「なお悪いですっ!」

 ――どわはははっ――

 呆れ顔での澪の突っ込みと胸を張るほのかのボケ(?)に、事務所に笑いの花が一斉に咲く。
 ほのかは美貌のキャプテンとして羽田界隈では有名人なので、常に視線を集めているのだ。
 ついさっきまでシクシク泣いていたメンテの面々も気持ちを切り替えたのか、今やすっかりと立ち直っている。

「うふふ。二人のコンビ愛が秀逸なのは判ったわ。それにしても……週明けの月曜は想像していたよりも随分シンプルな行程ね。朝、八尾に飛んで、そこから板付往復して宵に羽田だって」

 スケジュールを辿る副所長の言葉に、ほのかが機長らしく素早く脳内計算する。

「ってコトは、羽田(ここ)に帰るまでのディスタンス(飛行距離)は一千マイル(海里)弱か。フライトタイム(飛行時間)は合計五時間弱、途中三回寄港するからトータル八時間の乗務、って感じだな」

「正解♪ 流石キャプテン。腐っても鯛、ってこの事ね」

「誰が腐った鯛だ! オレはピッチピチの新妻だっ!」

「あーハイハイ、そうでした」

 三十路の独身上司と人妻機長の軽口を微笑ましく聞きつつ、澪もスケジュールを覗き込むと僅かに目を見開いた。

「あらら、火曜日は単純だけど長距離ですね。朝イチで那覇へ飛んで、そこから丘珠、そして羽田ですって」

「なにぃ? ってコトは……だいたい二千五百マイルで八時間、トータル十時間超えか。けっ、晶のヤツ、なんたるコース設定しやがる。まるで日本回遊コースじゃん。それで遊覧飛行出来るぜ? 南の島と蒼い海、日本海の荒波と海岸美、そして三陸のリアス式海岸や松島とかで」

「仕方ありませんよ。なにせ親会社四つのお偉方がそれぞれで動いていますし、我々はそれに合わせて飛ぶんですから。むしろ、事務方(フロント)が効率好く行程を組んでくれていると思いますよ? 今、国内で飛べるのは我々の一機だけなんですから。もう一機は海外遠征で留守ですし」

 憤懣やるかたなしとばかり眉根を寄せるほのかに、苦笑いしている澪が慰めるように言う。
 これでは傍から見たら澪がキャプテンで、ほのかがコ・パイとしか映らないだろう。

「判ってるって。まぁ、それが晶(アイツ)の仕事だからな。それにスケジュールを組んだ晶自身がフライトアテンダント役として同乗するんだから、まぁ文句は言うまいて」

「うふふ♪ 何だかんだ言っても晶さんを認めているんですね。流石、奥さん同士の深い絆、でしょうか」

「知らんっ!」

 クスクス笑うコ・パイと頬を染め、横を向くキャプテンの息の合ったやり取りに副所長の笑い声が重なる。

「あはは! ほのかちゃん、照れてる。にしても、水曜も凄いわよ。早朝に羽田を発って丘珠、鹿児島、八尾と飛んで最後に羽田だって。先月までの週ワンフライト(一往復)、ツーフライト(二行程)とは段違いな忙しさね」

「千八百マイルで六時間ちょい、トータルで九時間少々……か。やれやれ、出張するお偉方も大変だよなぁ」

 ほのかの諦めたような声に、澪の弾む声が重なる。
 どうやらこのコ・パイはフライト(仕事)に生き甲斐を感じているらしい。
 もっとも、空が嫌いなパイロットはいないし、空を飛べればどんな行程でも喜んで引き受けるのがパイロットなのだ。

(ま、オレだって離発着を繰り返す国内便好きだし。なんたって、如何にも操縦してる! って実感出来るからな♪)

 内心、久々のフライト三昧に心躍るほのかだが表には出さない。
 むしろ、渋々と言った表情で晶からのファクスを眺めていると、澪の煌めく瞳が次の日程を追っていたらしく、嬉々とした声を上げた。

「ほのかさん! 木曜と金曜、そして来週も近距離と長距離が入り混じってフライトを満喫出来ま――」

「だ――――――――っ!! もういいって! どう足掻いたって飛ばにゃならんのなら、どこにだって飛んでやるさ!」

 自分も一緒になって喜ぶのが照れ臭いほのかは、内心とは裏腹に、つい、虚勢を張ってしまった。
 しかし、その不満気な態度がコ・パイとディスパッチャーのパイロット魂(?)に火を点けた……らしい。

「って、ヤケにならないで下さい。そもそも、ほのかさんが真っ先に国内便やりたい、って言ったんじゃないですか」

「う゛」

 ファクスを机に戻したコ・パイからの、至極ごもっともな御意見に副所長も瞳を細めて話しに乗って来た(明らかに面白がっている顔だ)。

「そう言えばそうねぇ。国際便は退屈だからイヤだ、離発着回数が一日一回だからつまんない、とか言って今週のロンドンや来週のデトロイト、再来週のドバイを他のクルー三組が担当せざるを得ないよう言いくるめたものねー」

「う゛ぅ」

 僅かに瞳を眇めた澪と副所長から責め(攻め?)られ、徐々に旗色が悪くなるほのか。

「第一、国際便だとご主人と長期間離れるからイヤだ、と言う理由で多忙だけど日帰りの国内便を選んだのはキャプテン自身じゃないですか。しかもどんなスケジュールでもこなしてみせる! って豪語したのはどなたでしたっけ?」

「う゛ぅぅ」

「ほのかちゃんは不満気に言うけど、どのフライトタイムも国内便での乗務上限である一日八時間にちゃんと収まってるわ。月曜は四時間五十分、火曜は七時間五十分、水曜は六時間十分よ。現地滞在もそれぞれ最低でも六十分以上取ってあるから、まるっきり無茶で無謀な乗務じゃ無いわ。むしろ、四社の各重役の移動スケジュールに合わせてよくぞここまで纏め上げた晶さんの腕前に感謝すべきだと思うけど?」

「晶の腕前……ねぇ」

 眉根を寄せて首を大きく傾げるほのかに、副所長の更なる追い打ち(?)が加わる。

「晶さんの事だから、我々の負担を減らす為に重役側のスケジュールを変えさせてるわよ、きっと。それでも文句あるの、ほのかちゃんは?」

 言われてみれば、確かにクルーに負担の掛かるフライトは一切無いし、折返し時間も充分に取ってある。
 これは何度もフライトアテンダントとして同乗し、現場を知る人間だからこそ組める日程だろう。

「す、すまん。ブー垂れたオレが悪かった」

(い、今更、連日朝から晩までフライト満喫出来て嬉しい! な~んて言えなくなっちまった……)

 澪の怒濤の突っ込みと副所長からの正論に本当の気持ちを表わせなくなって意気消沈するほのかに、事務所は暫くの間、笑い声が消える事は無かった。



 そんなこんなでフライトスケジュールの悶着がひと段落した頃。

「ほのかちゃん、仕事を邪魔して悪いんだけど、昨日使ったミールカートを返却して来てくれないかしら?」

 何枚もの書類や航空地図、空港に関する資料をコ・パイの澪と一緒に吟味していたほのかは、背後からそう声を掛けられた。
 ヒョイと顔を上げて振り返ると、すぐ後ろの机に座るニコ目の副所長と目が合った。

「ミールカートの返却ぅ? アレ、キャスター付きとは言え重いわ嵩張るわで運ぶのメンドイんだけどなぁ。特に車への積み卸しはローダー使うとは言え、ひと苦労なんだけどー」

 片眉を跳ね上げ、思いっ切り不服そうに美顔を歪めるほのか。
 すると、隣でクスクス笑う澪が優しい目でキャプテンを擁護する。

「アレ、女性ひとり分の重さがありますものね。かよわい女性が扱うには少々しんどいですし」

 ほのか達が搭載するミールカートは正面から見て幅三十センチ、高さ百三センチ、奥行き四十センチで加熱板付きトレーが十枚(つまり十人前)が収納出来る大きさなのだが(奥行きは民間機搭載の物と比べ半分だ)、総重量が五十キロ近くもあるのだ。
 なので、ミールカートの返却は、この職場では忌むべき仕事のツートップになっていた。
 因みに、もうひとつは冬場の機体洗浄――全て手洗い――なのだが、こちらに関しては、夏場は是非ともやりたい仕事トップワンに昇格する。

「……って、総務のお姉さん達は? いつもは彼女達が返却しに行くんだろ?」

 ふと思い出したほのかが表情を戻して上司を見る。

「あ~、そうなんだけど、今月はちょっと……ね」

 副所長が小さく指差す方向に視線を向けると、そこにはそろばん片手に鬼気迫る形相で書類に齧り付いているお姉様方六人の様子が見て取れた。
 普段はにこやかに機内清掃をしてくれる若い娘(こ)も、今は瞳を血走らせ猛烈な勢いで電卓を叩いている。
 その余りな迫力に、ほのかは座っているにも係わらず思わず腰が引けてしまった。

「な、なんだ? どうかしたのか? そう言えば……ここ暫く、朝から殺気立ってたような?」

 不思議そうに首を傾げていると、声を顰めた副所長が身を乗り出して事情を聞かせてくれた。

「ほら、上半期の締め月だから各種様々な数字を纏めたり弾き出したりしなきゃならないのよ。だから……ね?」

「あぁ~~、それで、か。しかし、オレも来週飛ぶエアルート(航路)や空港のノータム(航空情報)をチェックし、各空港とダイバード(代替着陸先)予定のSID(標準計器出発方式)とSTAR(標準計器到着方式)、空港マップをおさらいし机上シミュレートしてる最中だし、夕方にはフライトシミュレータ訓練入ってるから、空港の反対側迄行ってるヒマ、ねぇぞ?」

「そこをなんとか! 今、どこも人手が足りなくて……機体整備(メンテ)の面々も、部品の棚卸ししてるから当分手が離せないのよ~」

 申し訳無さそうに手を合わせ、でも『ほのかちゃん、やって♪』と言わんばかりに流し目をくれる女上司。

「だったら、晶に言って人員、増やして貰えば? せめてあとひとりか二人、簡単なデスクワークや資格の要らない仕事の両方こなせるヤツがいれば、だいぶ違うだろ?」

「それはそうだけど……明日にでも言ってみるけど期待しないでね。フロント(向こう)だって最低限の人数でヒーヒー言ってるし、来月入る新入社員が羽田(こっち)に配属されるなんて聞いても無いし。第一、事務が出来て、その上、力仕事を苦にしないマルチな人なんて滅多にいないでしょ」

「まぁ……そうだな。そんな人物がいたら、オレがお目に掛かりたいわ」

 溜息を漏らし小さく肩を竦める副所長に、それもそうかと納得するほのか。
 どうやら人員確保に関しては本当に望み薄らしい。

「何にせよ、人手不足は四社間でフライト部門を統合した時に最低限まで人員を削り過ぎた結果だ。ここまで忙しいのは全て上層部の責任だ。人材なんて企業が責任持って育てなきゃ意味ねぇし、人を数字で見る企業は長続きしないぜ?」

「ほ、ほのかちゃん! いくら正論でも、そんな身も蓋も無い言い方しちゃダメ! 所長が……」

 副所長が苦笑いしつつ目で示す方向を見ると、事務所の最奥に座る、横に広い男性が机に突っ伏していた。
 どうやら、副所長とのやり取りが全て筒抜けだったらしい。

「あ……大黒様が泣いてる」

 七福神の大黒様似の所長(風体がそっくりなのだ)を揶揄すると、涙目で睨まれてしまった。

「ほ、ほのか君! 人手不足はワシの責任では無い! 全て上からの命令だから逆らえないんだぁ!」

 しかし、相手が上役だろうが誰だろうが物怖じしないのがほのかだ。
 まるで同僚に接するように、サムズアップで慰める。

「あははははっ! 今更言っても仕方無いだろ? だったら今いるメンバーで何とかするしか無いじゃん♪」

 根がポジティブシンキングなほのかの至極ごもっともな御意見に、的を射たとばかり副所長がニコリと笑った。

「それじゃミールカートの返却、ほのかちゃんがお願いね♪ シミュレーター訓練は明日以降に順延させるから」

「チェッ、仕方ねぇなぁ。そんじゃ、ちょっくら行って来るわ。澪ちゃん、悪いけどオレが戻るまでひと通り目を通して注意点をピックアップしておいてくれ。オレも出来る限り早く戻るつもりだけど、時間が足りなければ帰りの電車の中で目を通しておくから」

「了解しました♪ いってらっしゃい」

 ほのかが席を立つと、副所長が中身の詰まったバインダーを翳して手招きする。

「ついでに、来週と再来週に積むミールの中身と数量、そして手筈を確認して来てくれると助かるわ♪」

「……とことんまで人を使う気だな。ま、好いけどさ。当日に最終確認するオレも楽になるし」

 重みのある書類を受け取り、やれやれと小さな溜息を漏らしたほのかはハンガー内の機体に横付けされたワンボックス車に使用済みミールカートを四つ載せると、羽田空港に隣接するケータリング工場に車を走らせた――。


                                            (つづく)


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