性描写がありますので20歳までの方は閲覧しないで下さい。
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♥♥♥ ライトHノベルの部屋 ♥♥♥ 200808
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恋慕(2)
恋慕(2)
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美姉妹といっしょ♪〜新婚編
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(そっか〜。宏クン、結婚したんだ……)
夏穂は手にしたポストカードをまじまじと眺め、鮮明に写る青年を眩しそうに見つめる。 葉書の左上には機内で投函した証(あかし)の便名入り日付スタンプが極楽鳥の描かれたカラフルな切手の上から捺され、下半分には見覚えのある筆跡で結婚した旨の報告が簡単明瞭に書かれてあった。
(ふふっ♪ 几帳面な文字と丁寧な言い回しは昔と一緒ね〜♪ それに、晶ちゃん達もちっとも変わらない)
裏面の写真には白のタキシードを身に纏って照れ笑いを浮かべる宏を、それぞれデザインの異なる純白のウェディングドレスを着た六人の花嫁が取り囲んで幸せそうな表情で微笑んでいる様子がハッキリと写っていた。
(今年の年賀状には結婚するなんて一言も書いてなかったのに……。ったく〜、デレッと鼻の下伸ばしちゃってまぁ! ……でも、宏クンと結ばれた晶ちゃんや千恵ちゃん達、みんな幸せそうだな)
写真に写る元・教え子同士の晴れ姿に、夏穂は何だか自分だけが取り残された気分になってしまう。 今年で(正確には年明け早々)三十一歳になる夏穂は、未だに独身を貫き通していた。 中高大学時代に男友達は数え切れない程いたが、教師となって四年目の二十六歳の時に、初めて恋と呼べる経験をした。 相手は自分の勤める県立高校に入学した宏で、愛くるしい表情の中にも芯のある男気に惹かれたのだ。 三年間に亘り宏の担任であった夏穂は、年の差を感ずる事無く宏と接して来た。 時には身体を摺り寄せ、立場を超えたスキンシップを密かに楽しんだ事もあった。 宏の心の中に晶と優の双子姉妹と千恵と若菜の双子姉妹が、その二組の双子姉妹の心には宏がそれぞれ宿っている事が判っても、夏穂は宏と接する態度を変えなかった。 このまま宏の記憶の中で、単なる担任として見られるのが嫌だったのだ。 擦り寄られた宏は反発する言葉を紡ぐものの、はにかむ瞳や照れた態度は自分を受け入れてくれている証だと夏穂は確信していたし、スキンシップを続ける勇気も湧いた。 そんな気になる男の子が卒業し、上京してこの土地から遠く離れても、夏穂は宏の事が忘れられなかった。 歳の差や巣立った事を理由に忘れようとしても、心の奥底に根付いた想いは簡単には消えてくれない。 休職して心機一転を図っても残り火の如く燻り続け、宏を求めて囁き続けるのだ。
――もう教師と教え子と言う関係ではない。ひとりの女とひとりの男として自由に恋愛出来るのだ――と。
そんな想いを抱えているので、合コンに誘われても目の前のイケメン(高収入・持ち家付き)よりも純情純朴な宏の顔が浮かんで来るし、女友達から結婚や出産報告の葉書を貰っても微笑ましく思うだけで、宏以外と結ばれたり宏以外の子供を授かったりする事など考えもしなかった。 今迄、言い寄る男と付き合わずにいたのも、自分の心に嘘は付きたく無かったからだ。 自分の心に嘘を付いた瞬間、自分自身はもとより二度と宏に顔向け出来無い気がしたのだ。
――このままでは埒が明かない。時期が来たら……東京で教職を得たら想いを伝えよう――
そう思っていた矢先に宏は晶達と結婚してしまい、夏穂は取り残された気分になったのだ。 結婚相手の予想は付いていても、よもや卒業から二年少々で結婚するとは露ほど思わなかったのだ。
(ったく〜、しっかり男を張ってるじゃない♪)
暑中見舞いや残暑見舞い、クリスマスカードや年賀状、そして寒中見舞いなどで常に連絡は付いているとは言え、写真で見る宏は卒業した二年前よりも遥かに逞しく、立派に見えた。
(同時に六人の妻を娶って……しかも金髪碧眼美人とお人形みたいな娘(こ)までっ! 宏クンもやるわねぇ〜)
ほのかと真奈美とは直接の面識は無かったが、以前、話に聞いていた二人に違いない。
(確か……高校二年の時に紅葉狩りで素敵な二人に出逢った、って言ってたわね。なるほど〜、この二人の事だったのね〜)
元よりしっかりした部分を持っていた宏だが、ここまで甲斐性があるとは思いも寄らなかった。 同時に、この写真の花嫁のひとりが自分だったら、などと想像してしまう。 すると、燻り続けた恋の炎が猛烈に吹き上がるのが自分でも判った。
(今なら……宏クンに求婚してもおかしくは無いわよね? 社会的立場は休職中とはいえ対等になったし。それに、六人の花嫁を貰ったんだから――)
などと本気で考え、ポストカードに写る宏に語り掛ける夏穂。 無意識にポツリと洩らした言葉は、再び大きな声となってリビングに流れた。
「――あと一人位増えたって、構わないわよね?」
☆ ☆ ☆
夏穂の洩らした言葉は、飛鳥と美優樹に大きな波紋と衝撃を与えた。 その言葉の意味をいち早く理解したのは美優樹だ。
「夏穂お姉さん、もしかして……」
切れ長の瞳を大きく見開き、正面に座る十五歳年上のお姉さん(叔母さんと呼ぶと猛烈に怒るのだ)をまじまじと見つめてしまう。
「夏穂お姉さんも宏さんの許へ行こうと考えたの?」
右隣から聞こえた美優樹の言葉に、身体を大きく震わせたのは飛鳥だ。 考えるより先に口から言葉が溢れ出す。
「ちょっ、ちょっと夏穂姉さんっ! 何考えてんのっ! 本気なのっ!?」
ソファーから勢い良く立ち上がり、見た目二十代前半の美女を思わず睨んでしまう。 その瞳には自分を差し置いて宏の許へ行こうとする夏穂への嫉妬と、自分には思い付かなかった考えを目の当たりにした驚愕の色とがない交ぜになっていた。
「宏先輩には既に六人のお嫁さんがいるのよっ! そこに元担任が、しかも三十路を越えた女がノコノコ顔を出して平気だと思ってるの!? 少しは立場とか歳の差を考えてよっ!」
言いにくい事をズバズバ言い放つ飛鳥。 しかし、興奮した飛鳥の口から出る辛辣な言葉はとどまる所を知らない。
「第一、宏先輩が夏穂姉さんの事をどう思ってるかなんて判んないじゃないっ! そんな状態で東京まで行って振られたら、まるで惨めじゃないっ!」
飛鳥の決めてかかる台詞に、流石に美優樹も黙ってはいられなくなった。 夏穂の――そして自分の気持ちをも逆撫でする姉の言い分に我慢出来無くなったのだ。
「お姉ちゃん、落ち着いて。そんな思い込みだけで物事を判断するものじゃないわ。それに……」
「だって美優樹っ! 今から宏先輩の所に行ったって、お嫁さんにしてくれるかどうかなんて判らないじゃないっ!」
妹の言葉を遮った飛鳥だが、まるで自分が責められているかのように涙目になっていた。 それは取りも直さず、夏穂の行動を自分に置き換えているに他ならない。
(今さら私が告白したって、宏先輩が困るだけじゃないっ! 好きな男性(ひと)を困らせるのなんて、絶対に嫌っ!)
悲愴感漂う姉に、美優樹は姉の想いの深さを改めて見た気がした。
「お姉ちゃん、そこまで宏さんの事を……」
美優樹は姉の想いが今でも――宏が結婚しても潰えていない事を知った。 そんな妹の呟きに我に返った飛鳥はバツの悪そうな表情を浮かべ、微笑んで見つめている夏穂からも視線を逸らした。
「…………ごめん。言い過ぎた」
飛鳥は頬を掻き、少し顔を赤らめてソファーに座り直す。 宏の結婚報告と夏穂の言葉で頭に血が昇ってしまい、我を忘れてしまった事が猛烈に恥ずかしくなる。
「いいのよ♪ 飛鳥ちゃんも恋する乙女、って事が改めて判って、お姉さんも嬉しいわ♪」
飛鳥の厳しい言葉に動じる事無く、いつもの優しい笑顔を姪に向ける夏穂。 夏穂も、飛鳥の宏に対する想いが手に取るように判っているのだ。 休職して一年少々経つが、そこは腐っても鯛――かどうかはともかく。 教職で培った人心掌握術は健在だ。
(夏穂姉さん……怒ってない。あんな酷い事を言ったのに、笑って許してくれるんだ……)
そんな大人の対応が何気なく出来るからこそ教師になれたんだなと、飛鳥は場違いな想いに囚われてしまう。 荒くれ立った心を瞬時に収めてしまう程、夏穂の笑顔が輝いていたのだ。 同時に、その瞳の奥で燃え盛る恋の炎に、叔母の思いの深さも垣間見てしまう。
(宏先輩が結婚したのに、少しも諦めてないんだ。 ……そっか、そこまで本気なんだね)
事あるごとに夏穂から宏の名前が出るのでまさかとは思っていたが、結婚を考えるまで真剣だったとは知らなかった。 元教え子を懐かしんでいるのかな、程度にしか飛鳥は考えていなかった。 しかし本当は叔母の、女としての真剣な想いから目を逸らし、見ないようにしていたのだ。 それは自分が好きな男性(ひと)の事を嬉々として話す夏穂への嫉妬心がそうさせていたのだった。 飛鳥は己の浅はかさに臍(ほぞ)を噛んだ。
「それじゃ、夏穂姉さん……と美優樹は宏先輩を諦めた訳じゃないんだ?」
飛鳥は妹の想いも知った上で、自分の心中を伏せたまま二人に鎌を掛けてみる。 美優樹もこれまで公言はしていないが、胸の中に宏を抱えている事くらい知っている。 妹の部屋の机には、陸上部のユニフォーム姿で微笑む宏の写真が今でも大切に飾ってあるのだ。 すると、夏穂と美優樹からすぐにカウンターパンチが返って来た。
「あら、飛鳥ちゃんは早々にリタイアする訳ね。ウチは七番目の妻で構わないわ♪」
「美優樹は諦めたりしない。宏さんが許してくれるなら……許してくれるまで諦めない! 何番目のお嫁さんでも構わないから傍にいたい!」
瞳を煌かせた二人の、これ以上無い位にピュアな想いがひしひしと伝わって来る。 妹の美優樹もここまでハッキリと宏への想いを言ったのは今日が初めてだ。
「……宏先輩も、こんな二人を娶ってくれる筈ないんじゃない? 一人は三十路を過ぎたオバサンだし、もう一人は年端も行かないお子ちゃまだし」
二人からの余りにもストレートな感情をぶつけられ、猛烈な嫉妬心が湧き上がった飛鳥は思わず心にも無い事を口にしてしまう。 当然、すぐさま反論が返って来るものと構えていたら。
「フフッ」
夏穂と美優樹が顔を見合わせると小さく頷き、飛鳥に向かってニヤリと笑った。
「飛鳥ちゃん〜、もうちょっと素直になる事をお勧めするわよ〜。でないと、宏クンに嫌われちゃうゾ♪」
「お姉ちゃん、天邪鬼なのも考えモノだよ? そんなんじゃ、宏さんに振り向いて貰えないよ? それに、美優樹はもうすぐ十六になるんだよ。十二月になれば結婚できるんだよ」
などと、逆に諭されてしまった。 飛鳥が宏を好きな事をとうの昔から知っていた二人は、素直になれない飛鳥にやれやれと首を振る。 そんな哀れむ二対の瞳に射竦められ、思わず立ち上がって発した飛鳥の台詞がこれだった。
「だっ、大丈夫だモンっ! わっ、私が好きなら、ひっ、宏先輩も私を貰ってくれるわっ!」
震える声に想いの総てが詰まっている飛鳥だった。 夏穂と美優樹は互いに見つめ合い、強がる飛鳥に大笑した。
(つづく)
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