性描写がありますので20歳までの方は閲覧しないで下さい。
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♥♥♥ ライトHノベルの部屋 ♥♥♥ 200802
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バレンタイン狂騒曲
バレンタイン狂騒曲
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美姉妹といっしょ♥〜番外編
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二月十四日、バレンタインデー。 この日を目標に日本中の恋する女性(おとめ)達が何日も前から作戦を練りつつ料理に勤しみ、街の男達はその日を前に期待と不安で徐々に落ち着きを無くしてゆく――そんな年に一度の大イベントが来週に迫った日の夕方。 駅前通り商店街は若い女性達の活気で満ち溢れていた。 歩道に面した店先では制服姿の女子高生達がバレンタインセールのワゴンに群がって声高にふざけ合いながらも真剣にチョコを選び、着飾った妙齢のOLが『大胆チョコ』と称するチョコを恥じらいも無く堂々と買い求める姿などで賑わっていた。 頬を朱く染めた女子小中学生がリボンの掛かった紙袋を大事そうに胸に抱えて早足で家路を急ぐ姿も見られ、街はバレンタイン一色に染まっていた。 そして、ここにもバレンタインデーに向けて気合を入れる女性がひとり。
「前回はお店で買ったものだったけど、今年は何としても手作りのチョコを上げないと♥」
通りに面した書店では、真奈美が艶のある長い髪を小刻みに揺らめかせながら佇み、悩んでいた。
「・・・・・・でも、チョコってカカオ豆からどうやって作るのかしら? この本には載ってないわね。その前に、カカオ豆ってスーパーで売ってたかしら?」
バレンタインの特集が組まれた女性誌を食い入る様に眺め、首を傾げながら一人ごちる真奈美。 手作りチョコはカカオ豆を買うところから始まると思い込んでいるので、表情はあくまで真剣だ。 しかし、その愛らしい姿に周りの男達から熱を帯びた視線の雨が降り注ぐ。 背中の半分を隠す迄に真っ直ぐに伸びた漆黒の艶やかな髪、ちょっとタレ目がちな二重の大きな瞳に肌理の細かい白い肌。 厚手のコートを羽織っているのに胸元には二つの丘が柔らかそうに盛り上がっている様子が好く判り、膝上丈のスカートからは引き締まった長い足が黒のストッキングに包まれてスラリと伸び、特にふくらはぎから足首にかけての丸みを帯びたラインが妙に色っぽい。 男は勿論、同性の女でさえ見惚れる整った顔立ちの癒し系美人が悩ましげに身体をくねらせて立ち読みする姿は、それだけで商店街の呼び込みポスターに採用したくなる風景だ。
「・・・・・・なんだ、手作りチョコって市販のチョコを利用するのね。で、それを湯煎してからもう一度型取りする・・・・・・か。なるほどねぇ♪ ・・・・・・ところで、湯煎って何?」
頭を傾げる度に、彼女から仄(ほの)かに漂うフローラル系の香水と滲み出るお色気が周囲の客(特に男)に立ち読みする事を忘れさせる。 中には口を開けて呆けた様に真奈美を見つめる者や、股間を鞄で隠して前屈みになった男子高校生も何人かいる。 こちらは文字通り『勃ち読み』になったのだ。
「・・・・・・う〜ん、文章だけじゃイメージ出来なくて良く判らないわ。やっぱり若菜ちゃんから教えて貰おうかしら・・・・・・。一人で料理なんて初めてだし」
あと二ヶ月で大学四年生に進級する真奈美は、未だに料理が上手く出来無い自分に呆れると同時に焦ってもいた。 形良い眉をひそめ、弱気になる真奈美は二十一歳の今でさえ家事全般が苦手だった。 苦手、と言うよりも発展途上、と言った方が正しかった。 世間一般の女の子は小学校に上がる前後から手伝いを通じて母親から家事全般を教わったり自ら学ぶものだが、不幸にして彼女は家事の才能が全く無かった。 小学校に上がったばかりの真奈美が夕飯の手伝いにキャベツを刻むと、いつの間にか俎板(まないた)が赤く染まり(指も同時に刻んでいた)、米を研ぐとシンクを泡だらけにもした(食用洗剤を入れて研いでいた)。 そしてトンカツを揚げ様と、凍って霜の付いたままの冷凍肉を煙が上がる迄に煮えたぎった油の中にそのまま放り込んで以来、母親によって台所から永久追放された。 次に危険度の少ない洗濯物を取り込もうとしたものの、前夜の雨でぬかるんだ庭先でコケて洗濯物を一瞬で洗濯前の状況よりも悪化させ、名誉挽回とばかり脱衣所に置いてある洗濯機を回したら全自動洗濯機を再起不能に陥れた。 脱衣所からも追放された真奈美は学校へ持っていく雑巾を縫おうとしたが一日掛かっても針穴に糸を通せず、意気消沈しながら片付け様と裁縫箱を持ち上げた途端に箱の中身を床(毛足の長い絨毯敷きだった)にブチ撒けてしまい、何本かの縫い針が行方不明になったりもした。 父親のワイシャツやハンカチにはアイロンの形をした焦げ跡(燃えた跡とも言う)を付けた事数知れず。 眉根を寄せ、深い溜息を吐(つ)いた母親がそれではと畳の雑巾掛けをさせてみたがバケツを引っくり返して十二畳の和室(たまたま両親の寝室だった)を数週間に亘って湿地化させ(それがまた梅雨の時期だった)、自室の窓拭きをさせたら二階から外へ落ちかけた。 裁縫、炊事、洗濯、掃除と言った家事の「さしすせそ」がまともに出来無い真奈美に、両親はこのままでは一人娘の身が危ないと判断し、泣く泣く家事全般から手を引かせたのだった。(家の財産を脅かす数々の事態に恐れをなした両親が家事をさせなかった、と後日判明した) 幼かった真奈美は下手なりに努力はしたが、両親が一切の家事を許してくれなかった。 以来、真奈美は家事に手を染めた事が無かった。 しかし大学二年になったばかりの春先に、真奈美にとって人生を揺るがす転機が訪れた。 財布を忘れて窮地に陥った真奈美を、たまたま通りがかった宏が助けてくれたのだ。 その優しさに一目惚れした真奈美は宏に礼を言う為に半年近く街を探し続けたが、どうしても見つからなかった。 そして泣く泣く諦め掛けたある日、サークル仲間(優とほのかだ)と紅葉狩りに出掛け、たまたま人数合わせで来ていた宏と劇的な再会を果たしたのだ。 真奈美はその場で宏に愛を告げ、それを機に再び家事の世界へと舞い戻ったのだった。
(宏君に、家事が出来るトコ見せないとね♥)
頬を朱く染め、自分の作った御飯に想い人が歓ぶ顔を想像する真奈美。 相手は勿論、白馬に跨る王子様・・・・・・ならぬ宏だ。 大学での講義終了後に料理教室や裁縫教室などに通い、自宅でも冷汗を流す母親から猛特訓を受けたお陰で、少しずつではあるが成果が出て来た。 包丁で自分の指を刻まなくなったし、砂糖と塩を間違える事も無くなった。 野菜や魚の形や名前を覚え、下ごしらえ程度なら何とか一人で出来るまでになった。 五分以内に針穴に糸を通せる様にもなったし、洗濯機や掃除機、アイロンの扱い方も覚えた。
(私も大人に成長した、って事よね♪)
しかし、家事の面白さや楽しさに目覚め始めたものの、前回のバレンタインデーは手作りまで思い至らなかった。 正確には、まだまだ料理の技術が乏しく、とても好きな男性(ひと)に贈るレベルのチョコにならないと判断、早々に手作りを諦めたのだった。 その為、市販のチョコレート(本場ベルギーから直輸入された超高級品で、銀座まで買いに行った)を宏に贈ったものの、晶や優、ほのかの年上メンバーや千恵や若菜の年下組の手作りチョコに――好感度と言う点で――大きく水を開けられてしまった。
「どんなにお金を掛けても、心を篭めた手作り品には全く敵わないわね〜。やっぱり、下手でも自分で作らないとっ」
昨年の反省を踏まえ、今年は何としても手作りのチョコを贈らないと、いつまで経っても家事の出来無い女と思われてしまう。 それに紅葉狩りの時、宏に約束したのだ。 宏に処女を捧げる迄に女を磨いておく、と。 だから何としても宏に家事の才能を示さなければならない。
(宏君が旅立つ前に、いっそ私の処女とセットでチョコを贈ろうかしら・・・・・・。裸エプロンにリボンを纏って・・・・・・そうすれば、みんなより優位に立てるかも♪)
宏がこの街からいなくなる寂しさはなんのその、想い人に夢中な真奈美の脳内で理性のネジがひとつ、緩んでしまう。
「ぐふふっ♪ にゃははぁ〜〜〜ん♥」
狼になった宏に押し倒され、エプロンを剥ぎ取られて抱き合う自分の姿を想像して思わず声が出てしまい、身体をくねらせつつ顔がにやけてしまう真奈美。 妄想モードのスイッチが入ってしまい、家事を覚える目的がすり替わってしまう。 口元は緩み、顔を赤らめて自分で自分を抱き締めて悶える真奈美の周囲には十重二重の人垣が出来ていた事に、本人は全く気付いていなかった。
☆ ☆ ☆
真奈美が商店街の書店で注目を集めた、次の日の夜。
「むむむ・・・・・・。今年はどんな手を使うかな・・・・・・」
夕食を済ませ、自室のベッドの上で胡坐を掻いて腕組みをし、眉根を寄せて思案気に首を僅かに傾げる金髪碧眼の美女。 切れ長の瞳はどこまでも透き通ったブルーの湖の様に煌き、日本人離れした彫りの深い目鼻立ちの整った顔は、まるでオリンポスの女神の様だ。 もうすぐ腰まで届く波打つ髪は蛍光灯に照らされて金色の波となって揺らぎ、ノースリーブのタンクトップとショーツだけの姿から覗く、染みひとつ無い透明な白い肌。 大学では女神とも妖精とも称され、同い年で同級生の晶や後輩の若菜と負けず劣らずの美貌を持つ、二十二歳のハーフ美女。 日本人の父親と北欧出身の母親と日本に来て早四年、大学四年生のほのかは二度目のバレンタインイベントを迎え様としていた。 壁に掛かった二月のカレンダーには十四日の所に大きな赤丸が付けられ、その下に小さく『宏♥』と書かれてある。
「去年は板チョコを湯煎して型を取り直しただけだったから、今年はオリジナルな手を加えないと晶達や千恵ちゃん達に差をつけられちまう」
ほのかの頭の中では、市販のチョコをそのまま贈った真奈美はモーマンタイ(問題無し)として処理されていた。 目下の対抗馬は晶と優、千恵と若菜の従姉と幼馴染の双子姉妹二組だ。 ほのかが優と真奈美と紅葉狩りに出掛け、そこで宏と出逢い、恋焦がれて一年四ヶ月。 双子組に対抗するには、出逢った年月を感じさせない猛アピールが必要だ。
「来月には宏が上京してオレが就職先のアメリカに行くから、今回が手作りチョコを手渡し出来る最後の年になりそうだし・・・・・・。ここらでガツンと場外ホームラン級のチョコを贈って印象付けないと、宏に忘れられちまうからな」
ほのかはチョコの素材になりそうな様々なアイデアグッズをひとつひとつ思い浮かべては、あーでもない、こーでもないと身体を揺すりながら考える。
「む〜〜〜〜、お色気路線って手もあるな♥ 街では『大胆チョコ』と言う名前で、オッパイチョコとか男根チョコとか売ってるし♪」
いつの間にかピンクに染まった頭の中では、自分のバストを真似た一口サイズのチョコ(ホワイトチョコのバストに乳首はピンクに着色済みだ)に宏が喜び、本物を求めて自分に抱き付くシーンをイメージし、思わずにやけてしまう。
「あとは・・・・・・宏のハートを確実にゲットする方法だな」
ほのかはベッドに放り投げてあった『猿でも出来る♪ 彼が貴女のモノになる十の方法♥』と表紙に金色の文字で書かれ、黒く装丁された厚みのある本をパラパラとめくる。 裏表紙には定価の上から価格シールが何枚も重なって貼ってあったり、黒の尖んがり帽子に黒のマントを羽織り、黒のハイレグボディースーツに黒のロングブーツを履いてデフォルメされた可愛い小悪魔(腰からは三角に尖った黒い尻尾が伸びている)がウィンクしながら投げキッスをしているイラストが描かれたりしているが、ほのかの目には入っていない。 幾つか付箋紙の貼られたページのひとつを開き、確認する様に目を通す。
「え〜っと・・・・・・。『彼の髪の毛一本を三日三晩肌身離さずに持ち歩き、満月の夜に彼の名前を呼びながら貴女の髪の毛と一緒に煎じ、食べ物に混ぜて貴女の目の前で彼に食べさせれば、おそらく貴女の虜になるかもしれません』、か。なるほど♪ ・・・・・・ってことは、チョコに混ぜても好いんだよな♪」
本の最終ページには『これらはあくまで筆者の想像であって、実際の効果を保障するものではありません』との注意書きが虫メガネで読まないと判らない位に小さく隅に印刷されて、いかにも胡散臭い内容だが、宏に恋するほのかには『疑う』とか『怪しむ』と言う言葉は無かった。 大事なのは本のタイトル通りに、宏を自分のモノにする事だ。 何より、日本の出版社がちゃんと印刷して出した本なのだ。 たとえその本がたまたま散歩に出掛け、近所の公園でたまたま行われていたフリーマーケットで五十円に値切って手に入れたとしても、なんら問題は無い筈。
「これで宏の心と身体はオレのモンだぜ♪」
ほのかはニンマリと笑いながらグッと拳を握り、どうやって宏から髪の毛を手に入れ様かと考え始めた。
「宏の家(うち)を訪ねて雑談しながら・・・・・・いやいや、それなら、いっそ押し倒した方が・・・・・・ムフッ♥」
その後を想像し、ショーツをしとどに濡らすほのか。 部屋のドアを閉めるのも忘れ、妄想逞しくひとりエッチに突入してゆく姿は淫靡で妖艶だ。
「あぁん♥ 宏ぃ・・・・・・宏ぃ♥」
クチュクチュと粘り気のある水音が響き、艶っぽい声が上がるまで時間は掛からなかった。 偶然、廊下を通り掛った母親がずっと覗いていた事など、頭の中が宏で埋まっていては知る由も無い。 ――恋は盲目――今のほのかの為にある様な言葉だった。
☆ ☆ ☆
本番(バレンタインの事だ)まで残り三日となった日の昼下がり。
「お姉ちゃん、そろそろチョコを作りたいんだけど・・・・・・?」
ほんのり顔を赤らめた優が、開け放たれた晶の部屋に入って来た。 シャギーの入ったショートヘア、引き締まった目元と鼻筋の通った小顔、細くて長い手足と形好く膨らんだ双丘(七十七センチのCカップだ)がトレーナーを柔らかく押し上げ、服の上からでも腰の括れがハッキリと判るスレンダー美人だ。 手には数冊の料理本を手にし、もう片手には食材の詰まったスーパーの袋を提げている。 その姿に晶はベッドから身体を起こし、読んでいた女性誌を掲げながら笑い出した。
「ナイスタイミングね♪ ほら、丁度、チョコの作り方が載っているわ。今年はこれも参考にしましょ♪」
そう言うと晶は机の引き出しから包装紙やリボンの詰まった袋を大事そうに取り出し、優と連れ立って台所へ移動した。
「今年は、どんな路線で行こうか?」
腰まで届く緩いウェーブの掛かった髪をアップに纏めてヘアバンドで前髪を押さえ、エプロンを着けながら妹へ視線を向ける。 晶の胸元は服の上にエプロンを着けても尚、大きく盛り上がり(八十五センチのDカップだ)、細く括れたウェストから横に張り出したヒップを経て足首までの丸みを帯びた柔らかいラインは数多くの男は勿論、同性の視線をも惹き付ける力を持っている。 明確な意思を伝える大きな瞳と目鼻立ちの整った小顔、そしてモデル以上のスタイルの好さは妹と同じだ。 ショートヘアの優はそのままエプロンを身に纏い、手を洗いながら振り向く。
「・・・・・・ヒロクンもチョコばかりだと飽きるだろうから、チョコチップクッキーとか、小さなビターチョコを載せた甘さ控えめのクッキーが好いと思う」
「なるほど、それも好いわね♪ ・・・・・・ほのかと真奈美は、どう出るかしら?」
「ん〜〜〜、真奈美は去年の市販チョコを考えると、今年は簡単だけど想いを篭めた手作りチョコで来ると思う。ほのかは・・・・・・去年は湯煎して作ったハート型の手作りチョコだったから、今年はもう少し手の込んだ・・・・・・もしかしたら、お色気系チョコで来るかも」
小さく頭を傾げ、株の売買と外貨取引で培った読みと解析力を駆使して、ほのかと真奈美のチョコを物の見事に言い当てる優。 そんな妹を頼もしげに見つめる晶だったが、視線を僅かに伏せて言葉を紡ぐ。
「若菜ちゃんは辛いでしょうね。来月にはヒロがいなくなっちゃうし」
晶は従弟である四つ年下の男の子と、その隣に住む従弟の幼馴染の顔を思い浮かべる。 宏は専門学校へ進学する為に上京し、アパートでの独り暮らしが決まっているのだ。 晶と優の美女姉妹(しまい)は、正月前から若菜のテンションが普段以上に上がりっ放しになっている原因を知っていた。 宏がいなくなる寂しさを紛らわせる為に、必要以上にはしゃいでいる事を。 そして何より、上京した宏から忘れ去られる事を、最も恐れている事も。 優は人一倍寂しがり屋な若菜に想いを馳せる。
「うん・・・・・・。ほのかの渡米も決まっているし、みんな、ヒロクンと一緒に過ごすバレンタインは今年が最後になると思っている。だからこそ、若菜さんがどんなチョコで来るのか予測出来無い。きっと・・・・・・ほのかとは別の意味で気合の篭もった、ヒロクンには忘れられないチョコを贈ると思う」
若菜の宏を想う気持ちは、ほのかや真奈美の気持ちでもあり、千恵や優の気持ちでもあるのだ。 晶も宏と遠距離恋愛(あくまで晶目線だ)になるので、みんなと同じ寂しさを抱えていた。
(ヒロ・・・・・・)
晶が心の中で愛しき男性(ひと)の名前を呟くと、別れの切なさが込み上げて心が張り裂けそうになってしまう。 上京後に電話やメール、チャットなどでいつでも会話出来るし、新幹線に乗れば三時間で直接逢えると頭では理解していても、心が言う事を聞かない。 自分達には、いつも宏が傍にいないとダメなのだ。 もし誰もいなければ、宏に縋り付いて「行かないで」と泣き出してしまうだろう。 誰もが心の中でそう思っている事が判るだけに、晶は頭を振って自らを奮い起こす。 新たな旅立ちを迎える男の子に向かって、年上の女が泣きながら行くなとは死んでも言えない。 むしろ笑顔で送り出す事が、将来の妻としての役割なのだ。 それに、年長者として弱い所は誰にも見せたく無い。 晶は普段の自分を取り戻し、ニヤリと笑う。
「気合・・・・・・って言うより、テンション高いままだと何だか気迫って感じになりそうねぇ」
優はいつもの凛としたオーラを放つ姉に戻った事に、薄く微笑む。 姉には、常にみんなのリーダーとして君臨して貰いたいのだ。
「賑やかに終わるか、最初っから涙、涙の宴会になるか・・・・・・ボクにも判らない。それに千恵ちゃんだって辛い筈。でも、表には出さないでいる。だから余計に切なく映る」
千恵と若菜の双子美姉妹(しまい)の切ない気持ちは痛い程判るが、だからと言って自分達にはどうする事も出来無い。 せいぜい、泣いた時に慰めの言葉を掛ける程度だ。 宏の上京やほのかの渡米を考えると、ついつい空気が重くなるが、晶は沈み込む気持ちを振り払うかの様に顔を上げ、声を張り上げる。
「だったら、尚の事、湿っぽくならない様に気合を入れて作らないとっ!」
優は姉のガッツポーズに大きく頷き、胸を張って宣言した。
「メインはお姉ちゃんに任せたから。ボクは手伝いに専念する」
家事一切が全滅の優がニコリと微笑むと、晶は諦めた様に苦笑する。 この妹は株や為替の売買は本職以上に長けてはいるが、家事の基本でもある雑巾掛けひとつ出来ないのだ。
「せめて湯煎とミキサー掛け位は自分でしなさい。あたしがちゃんと教えるから♪」
「・・・・・・うん、判った。ただ、どうなっても責任持てない」
一瞬の間のあと、美女姉妹の笑い声が台所に響いた。
☆ ☆ ☆
バレンタインデーが明日に迫った日の午後。
「えっ!? 一個、既に作ってある?」
細かく割った板チョコを湯煎の鍋に放り込んでいた手がピタリと止まり、千恵は隣で同じ様にホワイトチョコを湯煎している身長百七十五センチの若菜を見上げる。 すると紅のリボンで頭の高い位置で縛ったポニーテールが背中の上で小さく左右に揺れ、白いうなじが見え隠れして仄(ほの)かな色気を振り撒く。 垂れた髪の先は腰まで届き、紫掛かった黒髪を下ろすと尻を隠すまでの長さになる。 手足がスラリと長くてボディバランスが好く、やや吊り目がちな大きな瞳と目鼻立ちの通った小顔は八頭身美人そのものだ。 大学では姐御肌な性格と相まって晶姉妹やほのか、そして若菜と並ぶ人気を誇っていた。
「それはまた・・・・・・あんたにしては偉く用意周到じゃない?」
千恵は妹のいつに無く手廻しの好い行動に目を見張り、思わずまじまじと見つめてしまう。 去年までは二人一緒にチョコを作っていたのに、今年は姉に内緒で先んじて作ったと言う。 姉の探る様な視線を物ともせず、見るからにテンションの高い若菜は黒目がちな切れ長の瞳を楽しげに細めた。
「早く準備するに越した事は無いでしょ〜? それに〜、作るのにどの位の時間が掛かるか判らなかったんだもん」
純白のリボンで髪を首の後ろでひとつに纏めた若菜が、小さな姉を見下ろして微笑む。 濡れ羽色に輝くストレートロングの黒髪は腰まで届き、若菜の自慢のひとつ(宏のお気に入り)でもある。 高い身長に長い髪、陶磁器の様な白い肌に整った顔立ち。 そして何より、プロポーションの好さで若菜はファッションモデルと間違われる事も多かった。 そんな身長差二十五センチの美姉妹はお揃いのエプロン(宏からの誕生日プレゼントで千恵はコーラルピンク、若菜は薄いオレンジの布地に、千恵の左胸にはC、若菜にはWと小さく赤い刺繍が施してある)に身を包み、隣に住む幼馴染の宏にチョコを贈るべく、今年も朝から台所を占拠していた。 テーブルの上には小麦粉やココアパウダー、バターに牛乳、ホイップクリームや板チョコ、更にはブランデーの瓶などの食材が所狭しと置かれ、オーブンからはココアをふんだんに使ったスポンジケーキの香ばしい香りと、コンロから立ち昇るチョコの甘い匂いがひとつに溶け合い、台所に充満している。 漏れ出た香りは家中に漂い、本番に向けて二人のテンションをいやが上にも高めてゆく。
「時間が掛かる・・・・・・って、あんた、一体どんなチョコを作ったのよ? そう言えば、一週間位前から何やらゴソゴソしてたみたいだけど、それってそのチョコを作ってたって訳?」
千恵は板チョコを鍋に追加投入し、コンロの火加減を調節すると改めて向き合う。 すると、若菜は良くぞ聞いてくれました、とばかりに切れ長の瞳をニンマリと細め、口元を綻ばせた。 その妖しい目付きと表情に千恵は瞬時に危険を察知したが時既に遅く、若菜は冷凍庫から厚さ十センチはあろう箱を取出して上蓋を開け、姉の目の前に一世一代の自信作をかざした。
「ジャ〜ン♪ ほらほらほら〜、私のオリジナルチョコだよ〜♪ 昨日、やっと完成したのぉ〜♪」
若菜はどうだ、とばかり得意気に大きく胸を反らす。 すると自分で編んだ手編みのセーター(宏とお揃いだ)の下で七八センチ、Cカップの双丘が柔らかくプルルン、と揺れ、姉の鼻先を掠める。
(ん? チョコの彫り物?)
千恵はそれが何なのか判らないまま、妹のチョコを凝視する。 若菜が差し出したチョコは一辺が三十センチ四方で、最も厚い部分で七〜八センチ位、薄い部分は一センチ位あるだろうか。 緩やかな丸みを帯びた、なだらかな平面から丸くて太い柱の様なものが左右に分かれて下に伸び、平面と二本の柱との分岐点に出来た三角形の部分には舟形をした長さ七〜八センチに亘る何本か皺の寄った切れ込みが縦に深く刻まれている。 皺の合わさる頂点には小豆を小さくした感じの丸い突起が目を引く様にプックリと浮き出ていた。
(何、これ? 何かを抽象的にイメージしたモノ? ・・・・・・にしては、どこか見覚えのある形ね・・・・・・)
そのオブジェ(?)を見た途端、頭の片隅で異常事態を知らせる警報が本能的に鳴り響くものの、千恵はそれを重く捉えなかった。 なにせ、こげ茶一色で鈍く光る立体物なので見づらく、最初それがどんなモノなのか全然判らなかったのだ。 目を眇め、チョコを顔の高さにまで掲げて前後左右上下に傾けながら見続ける事、およそ三分。
「!! ・・・・・・こっ、これはっっ!!」
思い当たるモノに行き着いた千恵の首から上が見る間に真っ赤に色付き、それを持ったまま石膏像の様に固まってしまう。 同時に半鐘を乱打するかの様に心拍数がどんどん早まり、心臓を中心に熱さが全身に向かって一斉に拡がってゆく。 やがてチョコを持つ手が震え出し、脳天に沸騰した血液が届いた瞬間、千恵は思わずテーブルの上に放り投げてしまった。
「あん♪ 乱暴にしちゃ、いやん♪」
そんな姉を面白そうに眺めていた若菜がチョコを手にし、姉の引き攣る顔面に突き付けながら止めを刺した。
「どう? 私のアソコを型取りして作ったチョコだよ〜。二十歳、処女のマン拓チョコ〜♪ 宏ちゃん、絶対に喜んでくれるよぉ〜♥ きっと、舌先をワレメに這わせつつ舐め溶かして・・・・・・」
見覚えがあるも何も、妹に限らず自分にもある、女だけが持つ神秘の割れ目を型取ったチョコ。 妹のぶっ飛んだ台詞を最後まで聞かず、千恵はフリーズが解けると同時に若菜の胸ぐらに掴み掛かった。
「ばっ、ばっ、ばっ、ばっかじゃないのっ!? どっ、どこの世界にバレンタインのチョコに己のマ、マ、マッ・・・・・・」
余りの節操の無さに怒りで我を忘れても、それを上回る羞恥心が前面に強く押し出されて言葉にならない。 若菜は怒りよりも恥ずかしさで赤くなって俯いてしまった姉に、更に追い討ちを掛ける。
「マン拓、だよ〜♪ 姉さん、相変わらず純情〜♥ もうすぐ大学三年生になるとは思えない位に初心だね〜。そんなんじゃ、宏ちゃんとエッチ出来無いわよぉ〜」
コロコロと鈴を鳴らす様に軽やかな笑い声を上げて囃し立てる妹を他所に、純情初心な千恵は妹の女性器を模ったチョコと、持ち主である若菜の顔をまともに見られない。 なにせ女性器チョコを見ると妹の顔が頭に浮び、妹の顔を見ればチョコの女性器が頭を過(よ)ぎるのだ。 怒りやら恥ずかしさやらがごっちゃになった千恵は掴んだ腕から力が抜け、頭を抱えてその場にへたり込んでしまう。
(嗚呼・・・・・・、見覚えあると思ったら、よりにもよって・・・・・・)
ご丁寧にも、股間を中心に臍の下から太腿の上までを忠実に再現した等身大スケールのチョコ。 緩やかな丸みを帯びた、なだらかな平面とは恥丘であり、丸くて太いものとは軽く開いた太腿だったのだ。 オブジェの正体が判れば、その造形も納得出来る。 丸みを帯びた天然無毛の丘の下には女だけが持つ一本の深い谷が刻まれ、二枚合わさった秘唇のはみ出し具合や肉片の厚み、そこに刻まれている皺の一本一本までもが忠実に再現されていた。 尿道口や膣口こそ表立っていないが、割れ目から大きくはみ出た薄肉片の合わせ目にはグリーンピース大の秘核が包皮の中からプックリと浮き出し、女の秘裂が物の見事に三十センチ四方のチョコにレリーフされているのだ。 もし、これを軟質樹脂や人工皮膚で作り、肌色を付けたら別の用途に充分使えるだけの出来栄えになっている。 更に秘裂の下をよくよく見ると、菊座の窄まりまでが放射状に伸びた皺と共に刻まれているではないか。
「特殊メイク用の素材で型を取って、そこに湯煎したチョコを流し込んだだけだから簡単だよ〜♪ 姉さんも作って一緒に宏ちゃんにあげようよ〜♥ 双子姉妹の処女マン拓に、きっと大歓びする・・・・・・ああっ! 姉さんのいけずぅ〜っ!!」
能天気に手を叩いて歓ぶ若菜に、千恵がキレた。 若菜の言葉を最後まで聞かず、勢い良く立ち上がると妹の会心作を無言のままグーパンチでかち割り、無造作に湯煎中の鍋に放り込む。 顔は熱く火照り、余りの恥ずかしさに膝が震えて力が入らないが、宏に対して女の肉体を武器にしたアプローチは反則だし、妹と言えど許せない。
「あ〜あ、一世一代の会心作が溶けて・・・・・・って、これはこれで、すっごく卑猥だわ・・・・・・」
放り込まれたチョコは鍋の中で徐々に形を崩してゆくが、はみ出た秘唇が深い谷に溶け込んで行く様子はまるで蜜でぐっちょりと濡れた秘所の様に映り、若菜はゴクリと喉を鳴らして見つめてしまう。 宏を想いながら毎日ひとりエッチに勤しむ若菜は勿論、未だオナニーをした事が無い千恵でさえ本能的に察しているのか、蕩けて行く秘唇から(それがチョコだと判っていても)視線が外せないでいる。 やがてチョコは二人の熱い視線で溶かされたかの様に跡形も無くなり、ようやくまとも(?)な状態の溶けたチョコに戻る。
「んもう〜っ、せっかく作ったのに〜。でも、型が残っているから、もう一度作って#$♪☓●♭Ω・・・・・・ふにゃぁ〜」
若菜は怒りで顔を赤らめた千恵の当て身を鳩尾に食らい、白目を剥いてその場に沈み込む。
「・・・・・・ったく〜、どうやったらこんな、エッ、エッチな、発想が出るのよ・・・・・・。我が妹ながら恥ずかしいわっ」
大きな溜息ひとつ吐き、エロモード全開の妹を黙らせた千恵はバットに並べたハート型の金枠にチョコをゆっくりと慎重に流し込む。 妹のマン拓を型取ったチョコも混ざっていると言う事は気にしない。 このチョコで直接、股間から型取りした訳では無いし、チョコ自体に罪は無いのだ。
(ったく、いくら淋しさを誤魔化す為ったって、限度があるでしょうに・・・・・・)
小さな溜息ひとつ、先程とは打って変わって妹を慈愛に満ちた瞳で見つめる。 千恵は妹がいつも以上にハイテンションな行動になる理由(わけ)が痛い程に判っていた。 双子だからこそ、言葉を交わさなくても判ってしまうのだ。
(・・・・・・でもまぁ、あんたがバカやってくれるお陰で、あたいは哀しみを感じる暇が無いのかもね)
若菜の想いを心に浮かべた途端、思わず自分も泣きそうになるが、打ち消す様に慌てて頭を強く横に振る。
(いけないっ。あたいまで釣られて悲しくなっちゃうっ!)
千恵は思考を無理矢理切替え、愛する宏の歓ぶ顔を思い浮かべながら言葉に出来無い想いをチョコにたっぷりと込める。
(宏♥ 好きよ、大好き♥ たとえ離れ離れになってもね・・・・・・)
千恵は完成したウィスキーボンボンを宏が照れながらも嬉しそうに受け取るシーンを想像し、目元を紅く染めると身体をくねらせ、一人悶えた。
☆ ☆ ☆
二月十四日。 バレンタインデー当日とあって、駅前商店街は朝から若いカップルで華やいでいた。 互いの腰に手を回す大学生の二人や、頬を染めて男の子の袖を恥かし気に摘む女子中学生、大胆にも街路樹の陰で口付けを交わすアダルトな二人など、街は恋人達の甘い雰囲気で満ち溢れていた。 そして千恵姉妹の家では、毎年恒例のバレンタイン宴会が行われようとしていた。 今年で十数回目を数える宴会は千恵と晶の家で交互に行われ、その家の姉妹がホスト役となって部屋と料理を提供し、宏を招待してバレンタインのチョコを贈る場としているのだ。 もっとも、一方の姉妹も料理や飲み物を大量に持ち込むので、結局は双方の姉妹が力を合わせて宏をもてなす事になるのだ。 昨年からは、ほのかと真奈美が贈る側に加わり、一層賑やかな宴会となっていた。 若菜の部屋に持ち込んだ大きな円形のちゃぶ台には、千恵と若菜が腕によりを掛けた宏の好物料理が所狭しと置かれ、美味しそうな湯気を立てている。 テーブルの中央にはデザート用に作ったザッハトルテ(千恵と若菜が作った)がホールで鎮座し、存在感をアピールしている。
「みんな〜、お待たせ〜♪ 宏ちゃんを連れて来たよ〜♥」
若菜に背中から抱き付かれた宏が姿を現すと、晶達と雑談していたほのかと真奈美がチョコを片手に同時に立ち上がり、宏に向かって我先にと突進する。
「宏っ! オレが作った、世界でただひとつだけのチョコだ♥ 受け取ってくれるよなっ!?」
「宏君♥ 私が作ったチョコなの。是非とも宏君に食べて貰いたくて、一生懸命頑張ったの♥」
両手でチョコを捧げ持ち、想い人に迫る美女二人。 二人の白い肌は見るからに紅く色付き、真奈美の手は小さく震え、ほのかは額に薄っすらと汗まで掻いている。 宏は二人の勢いに驚いたものの、直ぐに照れた様に微笑むと、赤色の包装紙に黄色のリボンで装飾された横長の箱を感謝の気持ちを篭めて両手で受け取る。
「宏、みんなみたく上手くは無いけど、心だけは篭めたからさ♥」
「ありがとう、ほのかさん。嬉しいです♪」
宏は胸が温かくなり、そのままじっと金髪碧眼の美女を見つめる。 するとほのかは耳まで真っ赤になり、俯いて頭から湯気を出してしまう。 受け取ってくれた嬉しさと見つめられる恥ずかしさに、オーバーヒートしてしまったのだ。
「宏君、今回初めて手作りチョコに挑戦してみたの。下手でどうしようも無いけど、どうか貰ってください♥」
肌理の細かい白い肌を真っ赤に染め、潤んだ瞳で上目遣に見つめる真奈美が両手を差し出す。 宏はほのかのチョコをテーブルにそっと置くと真奈美に向き直り、ピンク色の包装紙と赤色のリボンで包まれた掌サイズの箱を両手で丁寧に受け取る。
「真奈美さん、ありがとうございます♪ 手作りですか? それは楽しみです♪」
ニコリと微笑み、黒目がちな真奈美の瞳を見つめると、真奈美はそのままフリーズしてしまう。 受け取ってくれた優しさと見つめられる嬉しさに舞い上がり、動けなくなったのだ。 宏はほのかのチョコの隣に真奈美のチョコをそっと置き、二人に頭を下げる。
「ほのかさん、真奈美さん。俺なんかの為に・・・・・・本当にありがとうございます。大事に食べますね♪」
その時、宏は二人の指に巻かれた絆創膏の跡に気付いた。 ほのかは左手にひとつだけだが、真奈美は両手の指の殆どに絆創膏を巻いた跡があり、包丁で切ったのだろう、赤い線になった傷口や軽い火傷の跡も薄っすらと見える。 宏は一瞬言葉を失い、二人の細い指をまじまじと見つめてしまう。
「お二人の気持ち、確かに受け取りましたっ!」
宏は二人の瞳を見つめ、深々と頭を下げる。 たかが高校生の自分に、ここまで心を篭めてくれた事が天にも昇る程に嬉しかったのだ。 宏の、ともするとプロポーズを受ける様な台詞に晶や優、千恵に若菜は何も言わない。 贈る二人の気持ちも充分判るし、受け取る宏の心も判るのだ。
「俺には返せる物が無いけど、ほのかさんと真奈美さんの心を大切にしますっ」
宏は改めて二つのチョコをそっと胸に抱(いだ)き、二人の美女を見つめる。 心の篭ったチョコだけに、とてもじゃないが片手でなど扱えない。 晶や優、千恵や若菜からも同じ想いを寄せられていると判っていても、その温かい心を無下にする事など、宏には死んでも出来無かった。
「あ・・・・・・あはは〜。そ、そんなにされると、こっちが照れちまうぜ」
赤ら顔のまま、照れた様に視線を左右に走らせるほのかに、優は優しく微笑む。
「ヒロクンはボク達・・・・・・女性の想いを決して蔑ろにしない。だからボク達はヒロクンに惹かれている」
妹と同感とばかり晶が大きく頷き、千恵と若菜の双子姉妹も恥ずかしげに小さく頷く。 そんな四人の様子に、真奈美は心の中で大きな溜息を吐(つ)く。
(優先輩・・・・・・。晶先輩や千恵ちゃん達も、そこまで宏君の事を・・・・・・。あ〜ぁ、敵わないなぁ〜)
宏と晶姉妹、千恵姉妹の繋がりの深さを見せ付けられた気がしたのだ。 そこには従弟と幼馴染と言う、十八年に亘る時の重さも加わった想いが確かに存在し、僅か一年少々の付き合いしか無い自分では太刀打ちすら出来無い。 真奈美は確固とした絆で結ばれた宏達の輪に入れない自分の非力さを痛感し、落ち込んでしまう。 が、次の瞬間、優の台詞が嘘では無かった事が証明された。 宏が俯く真奈美の――傷だらけの――手をそっと握ってくれたのだ。
「真奈美さんの気持ちも確かに受け取りました。俺なんかに、って思いもあるけど、凄く嬉しいです。真奈美さんの想い、一生胸に仕舞っておきます♪ だから・・・・・・そんな哀しそうな顔をしないで下さい」
宏は真奈美がチョコの出来栄えの悪さに劣等感を抱(いだ)き、泣いていると思ったのだ。 それは全くの見当違いだったが、慰められる真奈美にとっては同じ事だった。 思わず顔を上げ、瞳を見開いて目の前にいる宏を凝視する。 そこには財布を忘れてバスに乗り、降りられなくなった自分を助けてくれた時と同じ、優しくて温かい笑顔があった。
「宏君・・・・・・♥ わ、私・・・・・・、わた・・・・・・し・・・・・・」
宏の優しさが心に染み渡り、溢れる恋心が涙となって頬を伝い、感謝の声を封じてしまう。 縋り付きたい想いが胸を焦がし、自分が自分で無くなる感覚に陥る。 歓喜の極に達した真奈美は、遂には両手で顔を覆って泣き出してしまう。 それは悲しみの涙ではなく、宏の変わらぬ優しい心に触れる事が出来た嬉し涙だった。
(ああ・・・・・・っ、宏君に巡り逢えて本当に好かったっ! ・・・・・・宏君、大好きっ!!)
女性の涙に全く免疫の無い宏は突然の涙に驚いたが、三つ年上なのに幼子の様に泣く真奈美が愛おしく映り、この手で優しく抱き締めたい感覚に囚われる。 ところが純情な宏には映画のワンシーンの様に女性を抱き締める事など恥ずかし過ぎて、とてもじゃないが真似出来無い。
「ま、真奈美さん・・・・・・」
両手がせわしなく動き、せいぜい名前を呼ぶだけだ。 十八歳の男にしては超純情な宏に、晶や優、千恵や若菜からの熱視線が突き刺さる。
((((ここで抱かなきゃ男じゃないっ! いけ〜〜〜っ!! 『今だけ』は許すっ!))))
四人の公認(?)に後押しされ、宏はしゃくり上げる真奈美の両肩にぎこちなく手を置き、そっと自分に引き寄せる。 それが高校三年生の宏に出来る、精一杯の行動だった。 とてもじゃないが恥ずかしさに照れも加わり、両腕を背中にまで回せられない。
(うわっ!? なんか、強く触ったら壊れそうっ。・・・・・・でも、いい匂いがする♪)
生まれて初めて女性を抱き寄せ、その柔らかさと温かさ、そして華奢な身体から立ち昇る甘い匂いに、宏の心臓は壊れたポンプの様に早いリズムで脈打ち、今にも破裂しそうになる。
(あ・・・・・・えぇっ!? 私、宏君に抱かれて・・・・・・るっ!?)
宏の胸の中にすっぽりと収まった真奈美は生まれて初めて男性と抱き合っている事に気付き、胸の鼓動が一瞬で跳ね上がる。 好きな男性(ひと)に包まれる心地好さと温もりに頭の中が真っ白になり、何も考えられなくなった。 ただ、顔だけが燃える様に熱い。 きっと茹蛸の様に真っ赤になっているだろう。
「真奈美さん、もう泣かないで下さい。真奈美さんは笑っている顔が、一番、綺麗・・・・・・なんです、から」
宏は必死になだめ様とするが、女性をまともに褒め称えた事が無かったので肝心な所で言葉に詰まってしまう。 顔を赤らめ、しどろもどろの宏と、借りて来た猫の様に大人しくなった真奈美に、ほのかが大きな口を開けて豪快に笑い飛ばす。
「あははははっ! めっちゃシャイな二人だなっ。見てるこっちが恥ずかしいぜっ♪」
煌く金髪を背中に払い、ほのかはわざとらしく片手で顔をパタパタと扇ぐ。 すると、ほのかの心中を見透かした晶のツッコミが炸裂した。
「そーゆーあんただって、羨ましそうに眺めていたじゃない。・・・・・・ひょっとして同じ様にヒロから抱かれたいと思ったわね?」
晶の核心を突いた台詞に、一瞬で真っ赤になるほのか。 豪快に男言葉を話すほのかだが、心は千恵と同じ位に純真で、ピュアな一面を持っているのだ。
「宏ちゃん〜、次はほのかさんを抱いてあげて〜。でないと、不公平になっちゃうし♪」
若菜がほのかの背中を軽く押し、宏にウィンクする。 宏はぎこちなく頷くものの、同時に何人もの女性を抱き寄せて好いものか判断に窮してしまう。
(いいのか? こんな・・・・・・二股みたいなマネして)
実際はこの時点で既に六股なのだが、宏はそこまで意識が回っていない。 千恵は躊躇う宏に向かい、女性(ひと)の想いは大切に扱え、と日頃から言っている言葉を視線に載せて戸惑っている宏へ送る。 そんな逞しいお姉さん(姐御と言った方が近い)目線に宏は頷き、真奈美を引き剥がす動きをしない様、肩を掴んだ手にそっと力を篭める。 すると、宏の意思が伝わったのだろう、真奈美はクスリと微笑むとそっと宏の胸から離れ、ほのかの為に場所を空ける。
(宏君、本当に優しいのね。こんな私にも気を使ってくれて。でも・・・・・・)
真奈美は宏を一瞬でも独り占め出来て万々歳だと思ったのだが、晶や千恵達がいる限り、永遠の独り占めは不可能だと瞬間的に心の底で理解した。 だったら、あとはみんなと一緒に愛して貰えば好いだけだ。
「はい、ほのか先輩♪ どうぞ♪」
真奈美は真っ赤になって俯いているひとつ年上の金髪ハーフ美女の背後に回り、宏に向けてそっと押し出した。
☆ ☆ ☆
「それじゃ、あたし達も行きますか♥」
「・・・・・・うん♥」
「そ、そうですね♥」
何度目かの乾杯を済ませ、ちゃぶ台に並んだご馳走に舌鼓を打っていた晶が頃合とばかり、部屋の隅に置いてある紙袋を手繰り寄せた。 そして黒の包装紙に金色のリボンの掛かった小箱を取り出す。 それを合図に、優と千恵もひとりの年下の男の子にチョコを贈ろうと、綺麗にラッピングされた箱を手に宏の周りに集まって来た。
「ほら、ヒロ♥ 今年もあたしの手作りよ♪ ありがたく戴き、じっくり味わいなさい♥」
「・・・・・・ヒロクン、はい、ボクからのチョコ♥」
「宏、今年はちょっと大人っぽく作ったの♥ ・・・・・・食べてくれる?」
晶はチョコを贈るのがさも当然であり宏も受け取るのが当り前だと言わんばかりに振舞い、優は姉とは逆に頬を紅く染めて蒼の包装紙にオレンジ色のリボンが巻かれた箱を捧げ持つ。 千恵は目元をほんのりと赤らめつつ、宏を真っ直ぐに見つめながら緑色の包装紙にピンク色のリボンが添えられた箱を差し出した。
「晶姉、優姉、千恵姉、いつもありがとう♥ すっごく嬉しいよ♪」
居住まいを正した宏は照れつつも礼を言い、両手でひとつずつ丁寧に受け取ると暫く箱を眺め、そっとテーブルに置いてゆく。 毎年の定例行事とは言え、女性からのプレゼントは嬉しいし、つい、顔が綻んでしまう。 みんなの気持ちが心に沁みて嬉しいのだ。 この時ばかりは、宏の心からみんなを残したまま上京する淋しさが消える。 若菜は宏が全員からチョコを受け取った事を確認すると、真打登場とばかりに千恵や晶を押し退けて宏の前に進み出た。
「宏ちゃん、私からのバレンタインのチョコレートだよ〜♥」
若菜は背中に隠し持っていた厚さ十センチ、縦横三十センチ四方の箱を宏に差し出す。 その瞬間、千恵は見覚えのある箱のシルエットに戦慄を覚え、全身が粟立った。 背骨に悪寒が走り、瞳が大きく見開くと同時に声にならない声を上げた。
(うわっ、あの箱の形はっ! まさか、もうひとつあったっ!?)
千恵の頭の中に、先日見た妹の女性器を型取ったチョコが鮮明に思い浮かんだ。 そして宏が嬉しそうに手を伸ばして箱を受け取る寸前、千恵は無意識に行動を起こした。 身体ごと横から割り込んで、妹から箱を奪い取ったのだ。 こんなモノ、若菜の姉として恥ずかしくて人に見せられないし、宏に妹の肉体を(それがたとえチョコで型取ったモノだと判っていても)見て喜んで欲しくない。 ましてや妹の秘部を口にするなんて、女として絶対に許せない。
「あ〜ん、姉さん、ナニすんのよ〜っ! せっかく会心のチョコを贈ろうとしてたのに〜っ!」
姉の突然の暴挙に驚き、一瞬固まったものの、直ぐに頬を膨らませながら腰に両手をあて、千恵の顔を上から覗き込む若菜。 片や頭の上から迫って来る妹に負けじと怒りのオーラを纏わせ、上を向いて頭ひとつ分高い妹を睨み付ける千恵。 座っていても身長差がある二人が向き合うと、どうしてもそうなってしまうのだ。 千恵は怒りと嫉妬をたっぷりと篭め、若菜に一歩詰め寄った。
「あんたこそ、宏にナニ贈ろうとしてんのよっ! こんなモノ、高校生の男の子に贈るモンじゃないでしょっ!!」
(あらら。千恵ちゃん、目が吊り上って額に青筋立ててる・・・・・・。このまま放っておいて良いのかしら?)
真奈美はいつに無い、美姉妹の緊迫感に満ちた空気に息を呑む。 普段、大学(がっこう)で見る二人の軽い言い争い(晶達はそれを双子漫才と称して楽しんでいる)と違い、千恵の真剣な怒りが見て取れ、どうしたら好いのか判断が付けられないでいた。 しかし、晶と優、そしてほのかが可笑しげに美姉妹を見つめている姿に、ふと気付く。 この喧嘩が本気なら、晶や優が黙って見ている筈が無い。 つまり、これは安心して見ていて好いのだ。
(だったら・・・・・・これはこれで貴重かも♪)
それが判った途端、真奈美の中で美姉妹の言い争いは、いつも見ている漫才になった。 一方、晶や優、ほのかは二人の漫才よりも若菜がどんなチョコを作ったのかが興味津々で、しきりに千恵の抱える箱に視線を注いでいた。
(ねぇ、あの箱の中身、すっごく気になるんだけど?)
(きっと、すんごい自信作なんだろうけど、何で千恵ちゃんが反対するんだろう? う〜、見てみたい♪)
(・・・・・・千恵さん、姉と言うより女として戦っている感じ)
晶とほのかが視線で会話し、優が鋭い読みをしている一方で。 当事者の片割れである若菜は、姉がどうして怒っているのかが判らないでいた。
「こんなモノ、じゃないよう。心を篭めて作ったチョコだもんっ! それのどこがいけないのよ〜っ!」
「!! どこって・・・・・・っ、それは・・・・・・つまり・・・・・・っ」
妹からの至極まともな問いに、ポニーテールを振り乱して詰め寄っていた千恵の顔が真っ赤に染まる。 宏の前で、あんたのアソコを型取った云々などと、初心で純情な千恵には恥ずかしくて死んでも言えない。 結果、とにかくダメ、渡せない、の一点張り(二点張り?)になってしまう。
(こんなの宏に見せたら絶対、若菜になびいちゃうじゃないっ! そんなの、絶対にイヤッ!)
姉としての常識的な立場よりも宏に恋する女として、おいそれと想い人の心が妹に移るのを目の前で見たく無い。 そんな想いが千恵の心の大部分を占めているのだ。 千恵と若菜の視線が激しく交差し、目に見える火花を散らしていると、それまで二人の真ん前でやり取りを聞いていた宏が堪りかねて間に割って入った。 宏も、千恵のいつに無い瞳の色に気付き、このままでは本気で拙いと判断したのだ。
「あの〜、千恵姉。どうしてそんなに怒っているの?」
「えっ!? そ、それはっ・・・・・・!」
ところが、妹に続いて宏からも理由を聞かれ、流石に言葉に詰まってしまう。 まさか本当の事を言う訳にいかない。 千恵がしどろもどろになって唸っていると、宏の疑問に同感とばかり晶とほのかが瞳を煌かせて参戦(?)して来た。 その瞳は今も千恵の持つ箱に集中している。
「あたしも知りたいわね〜♪ 千恵ちゃんがそこまで隠す理由(わけ)」
「なぁ、宏。若菜ちゃんのチョコ、見せてくれよ♪」
言うが早いか、ほのかは笑いながら千恵の手から素早く箱を奪い取ると、すかさず宏に手渡す。
「ああっ! ほっ、ほのかさんっ! だ、だめぇっ!!」
千恵の悲痛な叫び声が家を揺るがし、宏から箱を奪取しようと一歩詰め寄った所で。
「はいはい♪ 千恵ちゃんは、ちょ〜っと、じっとしててね〜♪ ヒロ♪」
いつの間に移動したのか、膝立ちになった晶が千恵を羽交い絞めにしてニッコリと笑う。 そして宏に向かって、開けて見せなさい♪ と視線を送る。
「ホラッ、どんなチョコなのかオレも気になるし、みんなも見たがっているからさ♪」
ほのかの台詞に優と真奈美も頷き、宏の周りに集まって来る。 その瞳は千恵を憐れむよりも、早く箱の中身を見たいと言う、好奇心で一杯の瞳だ。
「それじゃ、若姉の作った今年のチョコ、拝見するね♪」
若菜が笑いながら大きく頷くのを確認すると、散々焦らされた(?)宏は嬉々として深紅のリボンを外し、真っ白な包装紙を丁寧に剥いで行く。 それを見た千恵は晶の腕の中でジタバタと手や首を振り回し、腰を浮かせて何とか羽交い絞めを外そうと暴れる。
「あっ、あ、あ、あ〜〜〜っ、見ちゃダメぇっ! 見ないっ・・・・・・んぐっ!」
すると今度は優が千恵の暴れる腰を押さえ、若菜が素早く姉の口を塞ぐ。 そして二人同時に宏に「さぁ、どうぞ♪」とニコ目で視線を送る。 その見事な連係プレイに魅入っていた宏は大きく頷くと、期待を篭めて箱を開ける。 毎回贈られるチョコの中で、一番の出来の良さを誇る若菜の作品を毎年心待ちにしていたのだ。
「どれどれ♪」
箱を開けながら瞳を煌かせる宏の顔を見て、千恵は全身から力が抜け、がっくりと頭(こうべ)を垂れた。
(もうあかん・・・・・・)
きっと・・・・・・いや、女である晶達は絶対に黙ってはいまい。 己の肉体を武器にしたチョコなど、晶に限らず女性なら、誰も決して認めないだろう。 晶やほのかに激しく叱責され、優に止(とど)めを刺され、真奈美から一生無視される妹の姿を想像し、千恵は姉として情けなくなった。 そんな事よりも、男である宏が悦び、心の奥底に妹が一生住み続ける事が何よりも耐えられない。 千恵は女として負けた悔しさと悲しさに泣きたくなった。 ところが。
「うわ〜〜〜っ! すっげぇ綺麗っ! 若姉、ありがとうっ!」
宏が感嘆の声を上げ、みんなに箱の中身を見せる。 と、同時に驚愕と尊敬の声が上がる。
「げげっ! こっ、こんなに繊細なチョコって・・・・・・初めて見たぜっ!! なぁ、これって、本当に手作りなのか!?」
「若菜ちゃん、凄いわ〜♪ 五つ星のパティシエより上手ね〜♪ 私なんかじゃ、一生掛かっても作れ無いわ」
「・・・・・・若菜さんは料理の腕は勿論、スイーツもピカイチ。本場本職のパティシエより遥かに腕が好い♪」
千恵の耳には若菜を罵倒する声は聞こえず、賞賛する声しか聞こえて来ない。
「えっ!? 何で? どうして・・・・・・みんな平気なの?」
声に出たのだろう、宏は眉根を寄せて訝しむ千恵に箱の中身を見せた。
「ほら、千恵姉♪ 一本一本の線が細く、網目状になった一枚のチョコが何層にも重なってひとつのチョコになっているんだ♪」
宏の持つ箱の中には思い込んでいた等身大下半身チョコでは無く、チョコとホワイトチョコが交互にいくつも重なり、綺麗なハート型をしたチョコが鎮座していた。 一番上には更に小さなハート型の板チョコが載り、ホワイトチョコで『for 宏ちゃん♥』と書かれてあった。 全てが繊細かつ丁寧に作られたチョコには、誰が見ても愛情がたっぷりと篭められているのが判った。
「・・・・・・え? えぇっ!? え〜〜〜〜っ!!」
千恵はカクン、と顎が下がり、大きく目を見開くと呆けた様に箱の中身と若菜の顔を何度も見比べる。 そんな千恵の表情が可笑しかったのか、晶が羽交い絞めを解きながら笑い掛けた。
「千恵ちゃん、いったいどんなチョコだと思ってたの? それって、人様に見せられないモノだったのかしら? まぁ、その辺の経緯(いきさつ)は飲みながらじっくりたっぷり、みっちり教えて貰うわよ〜♪」
妖しげな(少々酔っ払っている)目付きで絡め取られた千恵は、その場から一歩も動けなくなった。 そんな時、能天気娘がもうひとつの箱を取り出し、中身を出してみんなの前にかざした。
「じゃ〜んっ♪ 私が作ったもうひとつの、宏ちゃん専用の取って置きのチョコだよ〜♥」
若菜が嬉々として差し出したチョコは、千恵が最も恐れていた例の等身大下半身チョコだった。 しかも、今回はご丁寧にもリアルな肌色とピンク色に着色されているではないか。
「「「「!!」」」」
そのチョコを初めて見た晶、優、ほのか、真奈美はその場で数秒間、固まっていたと千恵は記憶していた。 しかし実際に固まっていたのは瞬きする間だけだった。 千恵はフリーズが解けた晶とほのか、優の瞳が見る間に鋭く吊り上り、両手が硬く握られてゆく(しかもプルプル震えていた)のを確かに見た。
「・・・・・・わ〜か〜な〜ちゃん〜」
「・・・・・・これって、ルール違反、だよなぁ?」
「・・・・・・レディーとして、しても好い事と悪い事がある。これはもう、極刑に値する」
地獄の底から響く様な怒気をふんだんに孕んだ晶の声と、長い金髪が逆立ち、蛇の様に蠢くほのかの低い声。 更には判事の如く、冷たい声で情け容赦無い死刑判決を下す優。
「えぇっ!? なんでっ? どうしてぇ〜〜っ!! ただ、宏ちゃんに悦んで欲しかっただけなのにぃ〜〜〜〜っっ」
訳も判らず許しを請い、泣き叫ぶ若菜の声が近所に響き渡るのに時間は必要無かった。 真奈美が咄嗟に宏の目を両手で覆い、そのチョコとその後の惨劇(?)を見せずに済んだ事だけが、その日の明るい材料になった。
☆ ☆ ☆
後年、若菜はこの年のバレンタインデーを『ブラッディーバレンタイン(血塗られたバレンタイン)』と呼び、晶達女性陣はこの日のリアルチョコに関する記憶を永遠に封印した。 ある意味、このチョコは宏よりも女性陣にとって生涯忘れられないモノとなった。 この騒ぎにより、若菜は勿論、千恵や晶が心の奥底で抱えていた寂しさを一時(いっとき)でも完全に忘れられた事が、唯一の救いとなった。
「若姉のもうひとつのチョコ、見たかったなぁ」
ただひとり、その場にいながら見損ねた宏だけが毎年の様にこのチョコを若菜にリクエストし、みんなを困らせたのだった。
(バレンタイン狂騒曲・了)
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彦星と六人の織姫たち 〜前編
彦星と六人の織姫たち 〜前編
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美姉妹といっしょ♥〜番外編
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「〜♪ 笹の葉ぁ〜サ〜ラサラ〜〜ぁ、の〜き〜ばぁ〜に〜揺れるぅ〜〜〜、っとくりゃぁ♪」
若菜の澄んだ歌声が、生い茂る竹林と雲ひとつ無い青空に吸い込まれてゆく。 そよぐ風が笹の葉を揺らしてリズムを刻むと、歌いながらのこぎりを引く腕もより軽く、より一層リズミカルに動き出す。
「ふふっ♪ 若菜ちゃん、超ご機嫌ね」
各部屋の飾り用に一メートル程に刈られた小振りの笹竹を整えつつ、真奈美が剪定ばさみ片手に微笑む。 その声に、真奈美から数メートル離れた場所で鉈(なた)を振るっていた千恵が手を休めて苦笑いする。
「まったく、間延びした上にヘンな合の手まで入れちゃて。……まぁ、あの娘(こ)らしいっちゃ、らしいけど」
腰に下げたタオルはそのままに軍手を嵌めた手の甲で額の汗を拭った千恵は、ルンルン気分で特大の笹竹と格闘している歌姫に視線を向ける。 若菜は腰まで届く長い髪を首の後ろでひとつに纏めて背中へ垂らし、多少汚れても構わない着古した蒼色のトレーナーとジーンズ姿だ。 千恵と真奈美、若菜の三人は十日後に迫った七夕に向け、梅雨の晴れ間を利用して庭に飾る笹竹と各部屋に飾る小振りの笹竹を採りに屋敷裏の竹林に来ていた。
「宏と一緒に七夕をするのは三年振りだからね〜。浮かれる気持ちも判るわ」
「去年は晶先輩や千恵ちゃん達だけで七夕をしたんでしょ? ほのか先輩はアメリカにいたし、私は都合が付かなくて行けなかったけど」
真奈美が首に巻いたタオルで汗を拭きつつ、千恵に向き直る。 千恵もいつものロングポニーテールに真っ赤な長袖のトレーナーと裾がほつれたジーパン姿で、破れたり汚れたりしてもいい野良着スタイルだ。 真奈美も背中の半分まで届く長い髪を三つ編みにし、水色の長袖シャツとオーバーオール姿になっている。 三人とも本当はもっと涼しい服装――たとえばTシャツにホットパンツ姿など――を着たいのだが、肌が露出した服は蜂や蚊に刺されたり草木で肌を切ったり被(かぶ)れたりもするので、竹林や雑木林に入る時には軍手は勿論、夏でも必ず長袖長ズボンに底厚のスニーカー(尖った枝や切り株などを踏み抜くのを防ぐのだ)を着用するよう、宏から言われているのだ。
「うん、そう。だけど、やっぱりいて欲しい男性(ひと)がいないと、何とも締まらなくてね〜」
去年の七夕を思い出した千恵が頬を掻きながらほんの少し、寂しげな表情を浮かべる。 千恵と若菜は去年、晶と優を加えた四人で笹竹に短冊を飾り、実家で七夕の会(と言う名の宴会)を宏不在のまま行った。 その当時、宏は東京の専門学校に通っていたので実家にいなかったのだ。 しかし、宏がいない寂しさを紛らわす為の宴会だったのに余計に寂しさが募ってしまい、イマイチ盛り上がりに欠ける飲み会となってしまった。 唯一の救いは、それぞれが短冊に記した文言で場が和み、宏と電話で話しながら夜空に煌く彦星と織姫を離れた土地にも係わらず一緒に眺めた事くらいだ。
「おととしは宴会や七夕飾りそのものをしなかったし、去年もそんなんだったから、今年はいつも以上にあの娘も張り切っているのよ」
妹を見つめる千恵も若菜同様、宏との七夕に心ときめき、瞳が煌いているのだが本人はまるで気付いていない。 気付いたのは正面にいる真奈美だけだ。
「今年は宏君と結ばれたし、奥さんとして一緒に過ごす初めての七夕だもんね。それじゃ千恵……若菜ちゃんも張り切る訳よね♪」
妹の気持ちは自分の気持ちでもあるのだろう、心情を悟った真奈美が素直になれない千恵を可笑しそうに笑う。 ちょっと垂れ目がちな癒し系美人が口元に手を当て、瞳を細めてクスクスと笑うその姿は、真奈美のもっとも輝く瞬間だ。 千恵もその笑顔に心和ませ、改めて宏と一緒に七夕イベントを行える嬉しさに顔が綻んだ。
「さて、っと。これで全部揃ったかな?」
真奈美とのお喋りでひと息付いた千恵は、リビングに飾る一回り大きい笹竹を真奈美に渡そうと一歩前に踏み出した。 片や、そんな二人のやり取りも耳に入らない若菜は、更に声のボリュームが上がってノリノリになっていた。
「お〜星さ〜ま〜キ〜ラキラ〜〜ぁ、金銀砂子ぉ〜〜〜♪ っと。もうちょい………………っと、切れたぁ〜っ」
根元の部分で直径二十センチ近い太さの笹竹を切り落とした若菜が歓声を上げる。 すると高さ六メートル、枝を張った横幅も三メートルはあろう笹竹がバサバサと賑やかな音を立て、周りの竹を掻き分けながらゆっくりと若菜のいる場所とは反対側に傾(かし)いでゆく。 そしてその先には……。
「……ん? 何の音だ?」
笹の葉が風で揺れる音とは違う、強制的に激しく揺すっているかのような音に千恵は立ち止まり、周囲を見回してから後ろに振り返ったその瞬間。
ずずんっ!!
「!! どわぁあっっっ!!」
今、まさに千恵が立っていた場所に特大サイズの笹竹が鈍く重い地響きを立てて倒れ込んだ。 同時に、横に張った枝の先端が千恵の鼻先を掠め、空気をも引き裂く断末魔(?)の悲鳴が上がった。
「な゛っ、なにっ!? いったい何なのっ!?」
思わず鼻を押さえ、首を激しく巡らせて周囲を見回す千恵。 余りに危機一髪な展開に、驚きと恐怖で心臓がバクバク言って今にも口から飛び出しそうだ。 と、倒れた笹竹の根元にはのこぎり片手にボケ〜っと(千恵にはそう見えた)佇む女がひとり。 それを見た途端、状況をたちどころに理解した千恵は恐怖の感情が怒りの感情へと変化する。
(あっ、あのパープー娘(むすめ)が〜〜〜〜っ! 今日と言う今日はもう許せんっ!!)
そして次の瞬間には落雷の大音量すら可愛らしく思える程の怒りの声が近所一帯に轟き、大きな瞳を目一杯吊り上げた千恵が片手に笹竹、もう片手に鉈を持ったまま猛然と若菜の元へ駆け出した。
「こらぁ――――――っ! あ、危ないじゃないかっ! もうちょっとで……しっ、下敷きっ……下敷きになる所だったじゃないかぁ――――――っっ!!」
よほど頭に血が昇っているのだろう、口は回らず、額に青黒い血管がいくつも浮かんではヒク付き、ポニーテールや頭の高い位置で縛った白いリボンが怒りのオーラに合わせて蛇の如くゆらゆらと蠢いている。 瞳は血走り鼻息も荒く、鉈で進行方向に立ち塞がる枝を薙ぎ払いながら突き進む千恵の表情は、まるでB級ホラー映画に登場する猟奇的殺人鬼もかくやという形相だ。 真奈美も千恵の間一髪なシーンを目の当たりにし、心を逸(はや)らせて後を追う。
(あらあら。千恵ちゃんったら、あんなに真っ赤になって青筋立てちゃって。よっぽどスリリングだったのね♪)
本人にしてみればスリリングでは済まないと思うが、真奈美は心底、面白そうに笑みを浮かべる。 なにしろ、宏や千恵美姉妹(しまい)と暮らし始めてひと月足らず。 毎日のように繰り広げられる美姉妹漫才(?)にすっかり馴染み、この程度の事では動じなくなっているのだ。 むしろ、二人のボケツッ込み(本人達にその意識は無い)を楽しみにしている節がある。
「あれ〜、姉さん?」
姉の危機一髪も露知らず、久し振りに宏と過ごす七夕に浮かれている若菜は満面の笑みを浮かべて怒髪天を衝く姉を迎える。
「あっ、あんたね〜〜っ! 〜〜〜〜っっ!!」
そんな天然能天気な妹に、千恵は怒りで我を忘れたまま顔面に指を勢い良く突き付けた(今日はその手に鉈が握られたままだ)。 ところが、余りの事態に思考回路が麻痺し、口をパクパクさせるだけで言葉が出て来ない。 一方、身長百七十五センチの若菜は顔面に向けられた鈍く光る鉈もなんのその、いつものように微笑みながら身長百五十センチの小さな双子の姉を見下ろす。
「どうしたの〜、そんなに目くじら立てて。リビングやみんなのお部屋に飾る笹竹は揃ったの〜? こっちはお庭に飾る笹竹を切り落としたところなんだよ〜♪」
人が死にかけた(と千恵は思っている)原因を作ったくせに、どこまでもノンビリとした若菜の態度に千恵がキレた。
「こっ、このおバカっ!! 『どうしたの〜』、じゃな〜〜〜いっ!! あんた、今、笹竹が倒れた場所にあたいがいた事知ってた? 知ってて倒したのっか!? それとも狙って倒したのかっ、この唐変木っ! オタンコナスっ! #$%&♭Ω〜〜〜〜〜〜っっ!!」
怒りに任せて口から出るわ出るわ、聞くに堪えない罵詈雑言(?)の雨あられ。 最後は言葉にならない言葉で叫んでいる。 顔を真っ赤に染め、唾をも飛ばし、鉈を振り回しながら眉と瞳を吊り上げて目の前の天然娘に食って掛かる千恵。 しかし、元々他人を貶すボキャブラリーが決定的に乏しいので、どう見ても可愛い姉妹喧嘩(傍から見ると千恵が妹にしか見えないが、それを言うと千恵が怒る)にしか見えない。 そんな怒れる大魔神に、事も無げに一通り言葉を最後まで受け取った若菜が小さく首を捻り、ひと言ポツリと呟いた。
「姉さん、今日アノ日だっけ? はぅっ! ……きゅう〜〜」
改めて額の血管を何本か切った千恵の正拳突き(流石に鉈は投げ捨てた)がものの見事に能天気娘のみぞおちにめり込み、若菜はニコ目のまま膝から崩れ落ちる。 そんな二人のド突き漫才を目の前で存分に楽しんだ真奈美は、今なお鼻息荒い千恵にそっと声を掛ける。
「ねえ、千恵ちゃん……」
諸悪の根源が滅び、若干溜飲の下がった千恵は真奈美から心配げな声を掛けられ、ようやく人心地着いて振り向く。
(真奈美さんは、ちゃんとあたいの事を心配してくれるのに、この娘(こ)ときたら全くもうっ!)
最後にもう一度、怒りの視線で妹を灼き払う千恵。 が、しかし。
「こんなに大きな笹竹、若菜ちゃん以外に誰が運ぶの?」
「……って、そっちの心配かいっ!」
首を傾げて可笑しげに笑うお茶目な真奈美に、滂沱と涙する千恵だった。
☆ ☆ ☆
「……と言う訳なのよっ! ったく〜、この娘と来たら、危ないったらありゃしないっ!」
宏や晶、ほのかの社会人組三人が揃って定時で帰宅し、ひと汗流して全員が揃った所で、その日の夕餉(ゆうげ)が始まった。 そこで開口一番、額に青筋をいくつも浮かべ、憤懣(ふんまん)やるかたない千恵が横目で妹を睨みながら昼間起こった事件(千恵の中では殺人未遂にまで発展している)をコト細かに語って聞かせる。 一方、糾弾されている本人は幸せそうな顔で何事も無かったかのようにご飯をパク付いている。 ひと仕事終えた後のご飯は格別に美味しいらしい。 そんな二人に。
(……ププッ、くくっ………………うっくっくっっ! ま、毎回笑わせてくれるわ、この二人はっ……うっくっ!)
(く、くっそー、こっ、こんな美味しいイベント起こるの判ってたら、会社サボって見に行ったのにっ……うぷぷっ!)
晶とほのかは瞳に薄っすらと涙を浮かべ、必死に笑いを堪(こら)えていた。 箸を持った手はテーブルの上で小刻みに震え、もう片手はテーブルの下で笑い出さないように自分の太腿をつねっている。 固く閉ざされた口の端は不自然に吊り上がり、美しく整った顔も微妙に引き攣っている。
(わっ、笑っちゃいけないっ! いけないけどっ……くくっ! あ、相変わらずな二人だよなぁ……ププッ!)
(あ〜ぁ、携帯で録画しとけば良かったな〜。世紀の瞬間だったのに……プッ)
宏と真奈美も、晶達と同じく千恵を思い遣ってぐっと笑いを堪えるものの、きつく結んだ唇は細かく震え、腹に力を入れている煽りで身体全体がプルプルと震えている。 みんな、あとスイッチひとつで大爆笑間違い無しだ。
「……ボクも留守番なんかしてないで、千恵さんの慌て振り見たかったな」
しじみの味噌汁を静かに啜りつつ、決定的瞬間を見損ねた優が心底残念そうに千恵を見る。 その一言に、当事者(犯人?)である若菜が満面の笑みを浮かべて曰った。
「だったら〜、明日は優姉さんも一緒に笹を採りに行こうよ〜。笹は多いほど賑やかになるし〜♪」
懲りもせず能天気に手を揚げる若菜に、千恵(被害者!)が再びキレた。
「……って、またあたいを下敷きにするんかいっ!!」
本人に意識は無くとも、自らスイッチを押した千恵に全員が堪え切れずに腹を抱えて大爆笑する。 その声はビリビリと屋敷をも揺るがし、新居に越してから最大の笑い声となった。
「あははははっ♪ まぁまぁ、千恵姉。無事だったんだから好いじゃない。うぷぷぷっ♪」
可笑し涙を拭きつつ宏が慰めるものの、千恵の怒りの矛先が妹から百八十度ターンする。
「好かないわよっ! あたいが危ない目に遭ったってのに、ナニみんなして笑うのよっ! 宏も笑い過ぎっ!」
妹への怒りよりも、誰も味方に付いてくれない不満で涙目になった千恵が勢いよく立ち上がり、今なお笑い転げる面々をぐるりと指差す。
「でも、千恵姉が無事で好かった。千恵姉に何かあったら、俺が嫌だもん。若姉も今後は気をつけてね」
「は〜い♪ 極力、前向きに検討し、然るべく善処するであります」
余り――と言うより、まったく反省の色が見えない若菜だが、笑いを収めた宏の真剣な忠告には素直に頷いている。 そんな若菜のエセ政治家並みの答弁と宏に向かって敬礼するポーズに晶とほのか、真奈美に優まで笑いっ放しになっている。
「ホント、無事で好かった」
それでも千恵の涙を見た宏の真摯なひと言が、それまでささくれ立っていた千恵のハートを元の素直で純情な状態へと戻した。
「宏ぃ〜〜〜〜♥ 宏だけよ、あたいを心配してくれるのは」
宏に抱き付き、嬉しさと愛おしさで滂沱の涙を流す千恵の姿に、一同の笑い声は更に高まった。 そんな楽しげな声に、リビングの軒先に据え置かれた特大の笹竹の下で晩御飯のご相伴に与(あずか)っていた仔猫親子が顔を見合わせ、いつも賑やかだね〜、と苦笑したかのように「にゃぁあ〜〜ん」と鳴いた。
☆ ☆ ☆
七月七日、七夕。 五節句のひとつでもあり、日本全国で祭りとして行われる七夕は老若男女を問わず親しまれ、毎年テレビや新聞と言ったメディアに必ず登場する国民的行事の日でもある。 元々は中国から伝わり、江戸時代に願掛けとして広まった七夕の行事だが、宏達にとっては幼い頃からお互いの繋がりを深め合う大切な日でもあった。
「それじゃ、みんなのこれからの安全と健康を願って、乾杯っ!」
「「「「「「乾杯〜っ!」」」」」」
宏の音頭で六人の美女達が唱和し、リビングにグラスの合わさる澄んだ音がいくつも響く。 今日は土曜日で社会人組三人は休みと言う事もあり、夕方の早い時間から七夕宴会が始まった。 リビングのガラステーブルには若菜を先頭に千恵と真奈美が腕を振るった豪華絢爛な料理が大量に並び、様々な種類のアルコールやソフトドリンクも余す所無く用意されていた。
「たくさん用意したから〜、いっぱい食べてね〜♪」
若菜が指差す方向には、テーブルに載り切れない大皿料理や酒瓶などがダイニングテーブルにまで溢れている。 三年振りに好きな男性(ひと)と過ごす七夕への期待度が、料理と酒にも現れているのだ。 ちなみに、一人掛けソファーに座った宏から見て左側ソファーには手前から晶、ほのか、千恵と座り、テーブルを挟んで右側のソファーには若菜、優、真奈美の順で座っている。
「こうして見ると、みんなで苦労して作った甲斐があったわね」
「……折り紙でチェーンを作ったり星を折ったりするなんて、久し振り」
ワイングラス片手に、どことなく嬉しそうに語る晶と優の視線は、例の特大サイズの笹竹に向けられている。 大きく横に張った枝には折り紙で作られた色とりどりの装飾用短冊や紙チェーン、金銀の星などがいくつも飾られ、夕焼けの朱一色に染まって揺れている。
「みんなで飾り付けもしたから、あっと言う間に出来ちゃったしね」
真奈美もカクテルグラス片手に満足げに目を細め、煌びやかな七夕飾りに見入っている。 そよ風に揺れて奏でる笹の葉の音が開け放たれたリビングの窓から流れ込んでは、みんなの七夕気分をより高めてくれる。
「俺はこっちの飾り付けも風情があって好きだな。家族揃っての行事、って感じがしてさ」
少年のように瞳を輝かせた宏がビアジョッキで示す方向には、リビングの隅で同じ飾りの付いたコンパクトサイズの笹竹(それでも高さ二メートル以上はある)が据え置かれ、主役である短冊が飾られるのを今か今かと待ちわびている。 宏自身、みんなと過ごす七夕を心待ちにしていたのだ。
「あたいは庭にある大きいのも好きだけど、こーゆー可愛いのも好きよ。お部屋に飾ってあるのも風流を感じるし」
千恵が取り皿に料理を取り分け、今日の主賓でもある宏に渡しながらリビングの隅に視線をチラリと向けて微笑む。 各個人の部屋にも、飾り付けの済んだ小振りの笹竹が飾られているのだ。 その言葉に同調したのはほのかだった。
「商店街にある大きな七夕飾りは『地域の祭り』って感じだけど、家の七夕飾りは落ち着いて、それでいて雰囲気があるからオレも好きだぜ。なんかこう……『家族の祭り』、って感じでさ」
切れ長の碧眼を細め、リビングに据えられた笹竹を楽しそうに眺める。 宏達六人もほのかの言葉に同感とばかり大きく頷き、みんな一緒に過ごせる幸せを噛み締めながら、綺麗に飾られた笹竹に暫し見蕩れるのだった。
「なぁ、宏の小さかった頃って、どんなんだったんだ?」
何度も乾杯を繰り返し、それぞれが宏との七夕宴会を心ゆくまで満喫していると、今回で二度目の参加となるほのかがみんなに切り出した。 波打つ金髪と長い手足、透き通るような白い肌に切れ長の碧眼と鼻筋の通った顔立ち。 モンゴロイドの日本人はもとより、欧米の超一流スーパーモデルすら太刀打ち出来無い美しさを誇る、今年二十五歳になる北欧生まれのハーフ美女。 そんなほのかが身に纏っているのは、襟が大きく開いた真っ白なタンクトップ(当然ノーブラだ♪)にデニムのマイクロミニスカート姿と、いつにも増して気合の入った服装だ。 なにせ、宏と一緒に過ごす七夕は三年振りなのだ。 去年おととしと、アメリカで職に就いていたほのかにとっては部屋着から着替える程、待ちに待った宴会でもあった。
(お〜、見てる見てる。さっきっから宏の視線をビンビンと感じるぜ! ムフッ♪ この服を選んで正解だったな)
タンクトップに浮き出た二つの突起やスラリと伸びた生足、そしてスカートの奥の白い布切れにチクチクと突き刺さる宏の視線も、ほのかにとっては天にも昇る程嬉しかった。
(少しでも好いから、オレを見て貰いたいからな♪)
腰まで届く長い髪を背中に払いつつ僅かに膝を広げてチラリズムを演出し、さり気無く大人の色気をアピールするほのか。 そんな力の入ったほのかのリクエストに応えたのは、幼馴染であり実家も隣同士である千恵と若菜の双子姉妹だ。 今年二十三歳になる姉の千恵は紫がかった黒髪をいつも通りにポニーテールに纏め、ピンク色のキャミソールにミニスカート姿だ。 キャミソールの下にはストラップレスブラが透けて見え、贅肉のない引き締まった八頭身の肢体が爽やかなお色気を振り撒いている。 妹の若菜は腰まで届くストレートの黒髪を今日は三つ編みにし、髪の先端を真っ白なリボンで縛っている。 水色のプリントTシャツにミニのフレアスカート姿で、白い肌の肉感的な太腿が艶かしい。 こちらの姉妹も宏から見られ、宏に見せる事を充分意識している服装だ。 二人はジョッキに注がれたビールを呷りつつ、昔の自分達に思いを馳せる。
「若菜が近所のガキ大将に苛められて泣いてると、直ぐに飛んで来て慰めてくれたのが宏なのよね〜」
「宏ちゃん、小さい頃から足が速かったから、すぐに駆け付けてくれたの〜♥」
「あれは……確か……あたいらが小学校四年か五年の頃だったかしら? その時はまだあたいよりずっと背が低くかったくせに、やっぱり男の子なのよね〜。近所に住んでた六年生のガキ大将相手に『わかねえをいじめるなっ、わかねえのしかえしだ〜』なんて言いながら殴り込みを掛けるのよ。相手が三つも四つも学年が上の相手なのにね」
大きな瞳を細めて当時を懐かしむ千恵の回想に、若菜も切れ長の瞳を輝かせて大きく頷く。
「そうそう。子供ながらに、その逞しさと優しさに惚れちゃったのよね〜♥」
「でもやっぱり身体の大きさが違い過ぎて、ガキ大将からあっと言う間に返り討ちにあっちゃってね〜」
「それで姉さんが宏ちゃんと私の分を纏めてガキ大将にリベンジして、終(つい)には年上の男の子の頭を下げさせたのよね〜」
ほのかは二人の想い出話を聞きつつ、千恵が姐御肌な性格だとは知っていたが、それは幼い宏を守る為にそうなったのだと初めて知った。
(そっか、千恵ちゃんの面倒見の好さは宏が原点だったんだな)
今も昔も変わらない宏の優しさと勇ましさの一端を垣間見て自分の事のように嬉しくなったものの、幼少の頃から深い繋がりを持つ千恵姉妹を羨むほのかだった。
「それじゃ、中学の頃の宏君って、どんな感じだったの?」
アルコールで目元を少し赤らめた真奈美がパナシェ片手に尋ねる。 宏と過ごす七夕はほのかと同じ三年振り二度目だが、前回は想い人といられる嬉しさに舞い上がっていたのでよく覚えていなかった。 なので、今回は気合の篭もった勝負服(?)に身を包んでいた。 一見、普通の白い半袖ブラウスを纏っているのだが、その透け方が半端ではない。 下着はおろか、肌理の細かい地肌まで透けて見えるのだ。 それはまるで雨に濡れたワイシャツを着ているかのようにハッキリとブラジャーのラインが浮き上がり、しかもレースの模様一つ一つや肌の質感までもが遠目に判り、まるでカラシリス――古代エジプトの衣装――を羽織っているかのようだ。 オマケに下半身に目を移すと、真っ赤なミニスカートからスラリと伸びる美脚には黒のオーバーニーソックスが装備され、宏のツボのひとつでもある絶対領域を何気に強調しているのだ。 当然、宏の視線も真奈美の肢体を上に下にと、忙しげに往復している。
(あん♥ 宏君の視線が私を犯してるぅ〜♪ このまま視姦されたら、アソコと身体が溶けちゃいそう)
勿論、見せるように仕向けた(若菜の入れ知恵もあった)のは真奈美なのだが、宏にはそこまで判らない。 ただただ、二十四歳の強烈なお色気に鼻の下を伸ばすだけだ。 そんないつになく積極的な真奈美のリクエストに応えたのは宏の従姉であり、同じ街に住んでいた晶と優の双子姉妹だ。
「ヒロはね……」
当時を想い出し、楽しそうに話す晶は部屋着のままのラフな格好だ。 額に巻いた薄緑色のヘアバンドは普段のままだが、腰まで届くソフトウェーブの髪を今日はポニーテールにし、ロングTシャツと股の切れ上がったホットパンツを纏っている。 しかもTシャツの裾がホットパンツを隠しているので下半身は何も穿いていないかのようにも見え、ムッチリとした白い太腿と相まって妖艶なお色気を醸し出している。
「小学校高学年から始めた陸上を中学に入ってからも続けたのよね」
「……ヒロクン、五年生の時から学校で一番足が速かった。中学に入っても上級生を差し置いて一番だった」
片や、妹の優はシャギーにしたショートヘアを小さく揺らし、蒼色のシャツにこちらもハイレグホットパンツ姿なのだが、前に並んだボタンの上三つを外していた。 そのお陰で慎ましやかな双丘の膨らみ(七十七センチのCカップだ)がチラチラと見え隠れし、二十五歳に相応しい匂い立つ大人の色香となって宏を直撃していた。 隙間から覗く、ブラに支えられたバストの柔らかい膨らみが問答無用で宏の股間を刺激するのだ。
「……ヒロクン、大会で走る毎に自己記録を塗り替えてった。それが市内で一番になり、地域でも上位にランクされていった。そんな頑張るヒロクンを見ているのが好きだった♥」
中学生だった宏を想い出した優が、僅かに頬を紅く染める。 どうやら当時高校生だった自分に心が移ったようだ。 そんな優の反応に、瞬時にシンクロしたのは晶だ。 晶も昔の自分に戻ったのか、酒だけでは無い赤味が頬を染める。
「そうそう。ゴールテープを最初に切るヒロを何度も見たくてね〜。大会がある毎に競技場へ通ったっけ」
と、ここで当時のあるひとコマを想い出した晶が千恵と若菜をチラッと見て、そしてニヤリと笑った。 その顔は宏が見れば悪魔の微笑みに見えただろう。
「その頃、ヒロはおフェラを経験したのよね〜♪」
「ブ――――ッ! ゲホゲホっ」
それまで大人しくみんなの話をニコニコしながら、時には恥ずかしげに聞いていた宏だったが、晶の爆弾発言に飲みかけたビールを思わず噴き出し、激しくむせてしまう(若菜が慌てて布巾片手にすっ飛んで来た)。 おまけに、姉と視線を交わした優が双子ならではの阿吽の呼吸で切れ長の瞳を妖しく光らせ、当時の情事(?)を嬉々として打ち明かす。
「……ヒロクンが中二の時で、ボク達が高三の時だった♪」
「そうそう♪ 初フェラして初顔射されて、同時に初ゴックン(精液を飲んだ事だ)出来て、幸せだったわね〜♥」
「……今でもその時のヒロクンの味、ボクは覚えてる♥」
懐かしげに遠い目をする晶と優に、即座に反応したのは千恵だ。 大きな瞳が見る間に吊り上り、ポニーテールが嫉妬のオーラでユラユラと蠢き始める。 そして色仕掛けの張本人ではなく、話のネタになっている宏に迫る。 それはまるで浮気を知った新妻が夫に迫るシーンを彷彿とさせた。
「ちょっとっ! それ、初耳っ! どーゆーコトよっ!? 宏っ!!」
「宏ちゃん〜、ずるい〜っ!」
若菜なぞ、手にした布巾をぶん回し、すでに涙目になっている。 もっとも、その瞳は嫉妬や先を越された悔しさではなく、自分が参加出来ずに悔しがる視線だ。 ほのかと真奈美は意外な展開に瞳を爛々と輝かせ、晶に続きをせがむ。
「確か――夏休みだったかしら。ヒロの部屋へ遊びに行ったらお腹出して昼寝してたのよ」
「……タオルケット掛けようとしたら、ヒロクンのアソコがモッコリと勃ってるのに気付いたの」
「で、ヒロの事をもっと知る好い機会だったから、ズボンを脱がせて――」
「……ボク達が剥いて――もとい、鎮めてあげたの♪」
「丁度、閨房術を学んでいた事もあってね〜。愛するヒロを使って実物のアレコレを確かめたかったのよ♪」
「……もちろん、ヒロクン以外の男には食指も動かない。ヒロクンだからこそ、見て味わいたかった♥」
今明かされる七年前の暴露話に、ほのかと真奈美は身体を乗り出して嬉々として聞き入り、宏は身体を小さくして恥かしがり、千恵はそんなに早くから抜け駆けしていたのかと怒るよりも呆れて目を白黒させるばかりだった。
(彦星と六人の織姫たち〜前編・了)
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彦星と六人の織姫たち 〜後編
彦星と六人の織姫たち 〜後編
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美姉妹といっしょ♥〜番外編
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そんなこんなで宴会が始まってから時計の長針が三周し、窓の外では夜の帳がすっかりと下りた頃。 リビングでは料理の並んだテーブルを壁側に寄せ(ソファーは廊下に出した)、七人はフローリングの床に座布団を敷き、トレイに料理を置いて車座になっていた。 宴が盛り上がるとソファーに座っているよりこちらの方が話しやすく、何となく落ち着くのだ。
「それでね、ヒロったら小学生なのに……」
「宏ちゃんってね〜、中学生の時には既に……♥」
晶と若菜が中心となって宏の幼少時代のネタで延々と盛り上がっていると、終始聞き役のほのかと真奈美が時折、寂しげな表情を浮かべる事に宏が気付いた。
「ほのかさん? 真奈美さん?」
僅かに首を傾げて心配そうに見つめる宏に、二人は小さく肩を竦めて「見つかっちゃったか」と苦笑いする。
「なんか、オレ達だけ宏との繋がりが短かくて……チョッと淋しいな、と思ってさ。まぁ、オレが宏の小さい頃の話を聞きたいと言ったから文句言う筋合いじゃないのは判っているんだけどな」
「ほら、私達って宏君と出逢ったのが遅かったでしょ? だから想い出として語れるエピソードがほとんど無い事くらい、充分判ってはいるんだけど、ね……。ちょっとみんなが羨ましかっただけなの」
こればかりは誰にもどうしようもない事なのだが、疎外感に包まれたほのかと真奈美は一瞬だが視線を下げてしまう。 宏が生まれてから二十一年間、ずっと幼馴染と従姉弟の関係だった四人と比べると、真奈美は宏と出逢ってから僅か四年弱、ほのかに至っては海外に二年以上いたので実質二年分も経っていないのだ。 二組の双子姉妹から語られる宏との繋がりの深さに、自分達ではどうやっても太刀打ち出来無い状況を改めて突き付けられ、気分的に消沈してしまったのだ。
「あ……ごめんなさい」
二人の言葉にそれぞれの置かれた状況を瞬時に理解し、頭を小さく下げたのは千恵だ。 宏と七夕をするのはみんな同じ三年振りだと判っていたのに、つい昔馴染みの自分達だけで盛り上がってしまった。 しかも、ほのかと真奈美が自分達の輪に加わる以前の話で長々と。 いくら最初にネタを振ったのがほのかだったとは言え、これではある意味、二人の存在を無視したかのように取られても仕方無いと思ったのだ。 同時に、どうして二人の気持ちに気付かなかったのかと自責の念に囚われる。
「……ん、ちょっと浮かれ過ぎた。他意は無い」
千恵の言葉を咄嗟に汲み取ったのは優だ。 頭こそ下げなかったものの、真っ直ぐな瞳で謝意を表す。 千恵と優が見せた真摯な態度に、いつも強気な態度の晶も珍しく反省の色を示す。
「あ……あははは……、いや、別にあんた達を忘れてた訳じゃないのよ、ホントにっ! ただ、まぁ、話の流れで……つい、期間限定の内輪話になっちゃった………………ごめん」
手にしたグラスを床に置き、しおらしく頭を下げる晶。 筆頭妻(あくまで自称だが)である晶の滅多に見られない潔い態度に、場の空気がそれまでの華やかなものから静かなものへと変化する。 そんな、ともすると湿りがちになりそうな空気を払拭したのが宏だった。
「あのさ、ほのかさん。真奈美さん」
宏はすぐに腰を上げると隣り合う二人の真ん中にしゃがみ込み、左手で真奈美の左肩を、右手でほのかの右肩を掴んで抱き寄せる。 そして、二人に向かって交互に語り掛けた。
「確かに、ほのかさんや真奈美さんと出逢ってまだ四年も経ってない。だから俺の小さかった頃を知らなくても当然だと思う。だったら、これからどんどん知っていけば好いんだよ。昔を淋しがったり羨んだりする必要は無いんだ」
噛み締めるように聞き入る二人に、宏の熱い言葉が続く。
「それに、ほのかさんや真奈美さんが子供の頃の俺を知らないのと同じように、俺もほのかさんや真奈美さんの幼い頃の事はまだまだ知らない事だらけなんだ。だからお互い様、だと思うよ♪」
乾いた砂漠に潤いの水が染み込むように、ほのかと真奈美の心に宏の言葉が、想いが深く染みてゆく。
「いつか機会があったら……ほのかさんや真奈美さんのご家族からも子供の頃の話が聞きたいな♪」
ニコリと笑ってそれぞれの頬に唇を寄せる宏の温かさに、ほのかと真奈美の涙腺がどんどん緩んでいく。 と同時に、それまで俯き加減だった顔が上を向き、大輪の花が咲くかのように晴れやかになる。 それは固唾を呑んで見守る晶達にもハッキリと判る程の大きな変化だった。
「宏……ありがとな。そう言ってくれて、嬉しいぜっ」
「宏君……ありがとう……」
感謝と感激の涙を浮かべた泣き笑いの二人に、照れたように顔を赤らめた宏が続ける。
「俺の人生の中で、俺の幸せがより一層膨らんだ時があるんだ。それは取りも直さず、ほのかさんと真奈美さんが俺達の輪に加わってくれた時だよ♥」
そっと抱き締められるほのかと真奈美。 その温かさと優しさに、とうとう涙を零してしまう。
「だからさ、これから俺と一緒に、楽しい想い出をたくさん作って行こうよ……おわぁっ!」
最後にウィンクして微笑む宏に、ほのかと真奈美が身体の向きを変えると同時に強く抱き付く。
「宏を好きになって、本当に好かった♥」
「宏君と出逢えて、本当に幸せよ♥」
縋り付く二人の美女を片手でそれぞれ抱き締める宏に、千恵や晶、優がそれぞれウィンクしたり頷いたりして「よくやったっ! えらいっ! それでこそ我等が夫だっ♪」と盛んにエールを送っている。 ただ一人、それまでみんなの様子を黙って見ていた若菜は、料理の大皿片手に(青椒肉絲をつまんでいた)ひと言曰った。
「……宏ちゃんの昔話で不公平感が出るより〜、姉さんが小学校上がってからも『おねしょ』していたコトをバラした方が〜、不公平感が出なくて好かったかしらん?」
一瞬の静寂の後、千恵の屋敷をも揺るがす猛烈な怒号(涙ながらの悲鳴も混じっていた)と若菜の悲鳴(ほとんど笑っていた)、そして宏達の大爆笑する声が轟いた。
☆ ☆ ☆
「それじゃ〜、そろそろ頃合だし、短冊に願い事を書こうか」
千恵と若菜の追いかけっこ――宏達はドジなネコと利口なネズミの追いかけっこを描いたアメリカのアニメと重ねて見ていた――がひと段落着いた(お | | |