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♥♥♥ ライトHノベルの部屋 ♥♥♥ 200710
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今夜のおかずは……
今夜のおかずは……
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美姉妹といっしょ♥〜番外編
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宏は書店の店頭に平積みになっている写真集に眼が留まり、専門学校からの帰宅の足を止める。 そこには妖艶な笑みを浮かべて投げキッスをする髪の長い女が写っていた。
(この女性(ひと)、晶姉に似ている……)
ロングヘアをソフトウェーブにし、白いヘアバンドを巻いている様は晶と重なって見えてしまう。
(それに、この写真集って……)
表紙を飾る女性は衣服を一切着けていない、いわゆるヌード写真集だったのだ。 おまけにタイトルが『お姉さんのパイパン図鑑』と揮(ふる)っている。 姉好きでパイパンフェチの宏には到底無視出来無い。
(こういう写真集を店頭平台で平然と販売するこの本屋って……)
宏は苦笑し、その本を手に取ってみる。 ビニールで梱包されているので中を見る事は出来ないが、表紙と裏表紙に写っている女性がどうしても晶と重なって見えて仕方が無い。 価格を見ると宏の1週間分の食費と同じ値段だ。
(……よし!)
宏はレジの中で暇そうにしているオヤジに写真集と千円札二枚を置く。
「おっ、兄(あん)ちゃん、毎度あり〜♪ この写真集(ほん)、良い出来だよ〜。流石眼が肥えてるねぇ〜」
そうなのだ。 この本屋は宏の『夜のおかず』御用達の店で、毎日の帰り道に立(勃)ち読みし、何かと仕入れているのだった。
「そう? 楽しみだな……♥」
思わず本音が飛び出てしまい、宏は赤面する。 店のオヤジはニヤリとすると黙って本を袋に入れ、お釣の十円玉二枚と共に渡してくれる。
「好い本入ったら取っとくよ〜♪」
オヤジの声を背中で聞きながら足を速め、アパートを目指す。
「ただいま〜」
誰もいない部屋に声を掛け、夕食を作りながら風呂を沸かす。 一日の汗を流し、ニュースを見ながら晩酌(夕食)を済ませると部屋の隅に置きっ放しの荷物が目に入った。
(そっか、昨日実家から届いたんだっけ……。また米と缶詰だろう)
宏は溜息を吐きながら箱を開け、中身を振り分けて収納してゆく。 すると箱の一番底に十五センチ四方の薄い箱が入っている。
(何だ? 何も書いてない)
白くてまっさらな箱には赤いリボンが掛っているだけで、おまけに妙に軽い。
(靴下かハンカチ、ってトコだな)
宏は布団を敷き、その上に胡坐を掻いて座る。
「どれどれ、どんな柄だ〜?」
たいした期待もせずに箱を開けると、透明な小さなビニール袋に詰められた布の様な物が四つ綺麗に並び、その上に折り畳まれたメッセージカードが一枚置かれている。
「ハンカチの詰め合わせか?」
黒、純白、薄ピンクに赤。
(ピンクに赤!? ハンカチじゃないのか??)
いぶかしく思いながら黒い布が入っている袋を摘み上げ、中身を取り出して拡げてみた瞬間。
「な、なんじゃこりゃ〜〜〜っ!!」
透け透けレースのハイレグショーツ、しかも甘酸っぱい匂い付き。
「ま、まさか!」
宏は一緒に入っていたメッセージカードを取り上げて読むと、がっくし頭(こうべ)を垂れる。 そこには……。
『ヒロ、元気してる? そろそろ前に送った使用済みショーツの匂いが薄くなっている頃合いだと思うから新たに送るわね♪ もちろん使用済みで洗濯していないわよ♪ 今回は千恵ちゃんのショーツもゲットしたから存分に楽しんでね♥ ち・な・み・に、あたしが黒で優がピンク、千恵ちゃんが白で若菜ちゃんが赤よ。 それじゃ、またね♥ by晶 』
「あ、晶姉、何てタイムリーな……。ん!? ゲットした、ってそれって千恵姉に黙って持って来た、って事だろ!?」
晶に似た女性(ひと)が写っている写真集を買って帰れば本人からのプレゼント。
「これでナニせぇってかっ!? ナニしか無いがな!!」
独り暮らし生活で手に入れたスキル、独りボケツッコみ。 宏は苦笑いを浮かべると、いそいそと部屋の明かりを落とし、スタンドだけ灯す。 布団に仰向けになると握ったままのショーツで鼻と口を覆う。
「晶姉……晶姉の匂い♥」
晶の顔を思い浮かべながら大きく深呼吸する。 甘酸っぱい中に微かにおしっこの匂い。 コロンだろうか、柑橘系の香りもする。 童貞の宏には堪らない香りだ。 久振りに嗅ぐ晶の匂いに身体中の血液がペニスに集まり、たちまちギンギンに勃起する。 顔にショーツを当てたまま全裸になり、溢れ出している先走り液を指に絡めて扱き出す。
(晶姉、晶姉っ! 晶姉のオマンコの匂い!)
クロッチ部分をめくり返して鼻にあてがい、舌先を伸ばす。
(晶姉のオマンコ、舐めてるっ! 舐めてるぅ!)
急激に性感が高まり、亀頭が大きく膨らみ、茎がピクピク震える。
「あっ、晶姉〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
どぴゅっ! どぴゅぴゅぴゅぴゅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!
大量のザーメンがボタボタと下腹部に降りかかる。 荒い息をしながら脱力し、大の字になると指先にコツンと固い物が触れる。 指先で確かめると、さっき買ってきた写真集だった。 袋を逆さにして本を取り出すと、掌サイズの小さい箱とボトルが一緒に出て来た。 その箱には「愛(ラブ)ホール・処女の締め付け晶菜ちゃん♥」、ボトルには「愛(ラブ)ローション・ヌルヌルでヌレヌレ♥」と書いてある。 それはオナホールとローションのセットだった。
(あのオヤジ……ニヤリとしたのはこれだったのか)
宏は苦笑するとティッシュでザーメンを拭き取り、写真集を拡げた所で思わず目を見張ってしまう。 そこには晶に似た女がM字開脚になって股間を晒している姿が写り、しかも割れ目の筋やクリトリスの膨らみ、秘唇の皺や捩れ具合まで見て取れる超極薄消しではないか。
(あのオヤジが言っていた、好い出来、とはこの事か)
宏は再び晶のショーツで鼻と口を覆い、写真に写る女を晶と置換えてペニスを握る。 目からは晶(に似ている女)が割れ目を晒した姿。 鼻からは晶そのものの匂い。 一度射精しただけでは萎えない勃起肉は反り返り、先走り液を湧き出させて扱くスピードをアップさせる。
宏はこの後、姉達のショーツの匂いをそれぞれ嗅ぎながら四回射精した。 使用済みショーツとパイパン写真集、それとオナホール(ローション付き)。 この三つのアイテムで、宏の「夜のおかず」は暫くの間充実した物となった。
この写真集が後々災い(?)の種になろうとは、宏は露ほどにも思わなかった。
(番外編〜 今夜のおかずは…… 了)
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田舎にて(1)
田舎にて(1)
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美姉妹といっしょ♥〜番外編
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「宏ちゃん・・・・・・何時になったら帰って来るのかな・・・・・・」
若菜は窓から空を見上げながら誰に言うとも無く呟く。 灰色の雲からは霙(みぞれ)混じりの雨が窓を斜めに叩き、季節外れの空模様に気分も沈みがちになる。
「そうね・・・・・・宏も何か考えがあって向うに残っているんでしょうから、もう少し待ってみたら?」
千恵の慰めに若菜が振り向きざま食って掛る。
「だってもう五月だよ!? 卒業したら帰るって約束を破ってまでの考えって何っ!? 何時まで待てばいいのよっ! 姉さんは平気なの!?」
「若菜・・・・・・」
「・・・・・・あっ! ごめんなさい! ついっ・・・・・・」
若菜は一瞬我を忘れて怒鳴ってしまった事を悔やむ。 千恵だって若菜と同じく、宏の帰郷を首を長くして待っている一人なのだ。 早く宏に帰って来て欲しいと思っているのは自分だけでは無い事位知っている。
「ごめん。姉さんに当っても仕方ないのに・・・・・・本当にごめんね・・・・・・」
「いいのよ。気にしないで。それより、昨夜(きのう)も電話したんでしょ?」
「うん、いつもと同じ。私が何を言っても『もうちょっと待っててくれ』だって・・・・・・」
「・・・・・・そう」
「もしかして、向うに好きな女性(ひと)が出来たから帰って来ないのかな・・・・・・」
切れ長の瞳に涙を浮かべながら姉の手を握ってくる。 震えている手に、千恵は若菜の本心を垣間見てしまう。 若菜は宏に振り向いて貰えなくなる事が辛いのだ。 宏から只の幼馴染として思われる事が嫌なのだ。 ・・・・・・宏の心から自分がいなくなる事が怖いのだ。 それは、千恵にとっても同じだった。 でも、妹にそれを言う訳にはいかない。
(同じ男性(ひと)を好きになるなんて・・・・・・。双子って好みのタイプが同じなのかしら?)
千恵は心の中で溜息を洩らす。
「そんな事は無いと思うわ。もしもそうだとしたら、宏はちゃんと言うわ。『好きな女性(ひと)がいるから帰らない』って。そうじゃ無いんだから、宏を信じて待っていましょう」
「でも・・・・・・」
「好きな男性(ひと)を信じられない女に、男性(ひと)を好きになる資格は無いわ」
尚も言い募る若菜に千恵はピシャリと切り返す。 千恵も一時(いっとき)は若菜と同じ様に疑心暗鬼になりかけたのだが、宏を信じる事で吹っ切ったのだ。
「う゛っ・・・・・・!」
若菜は一瞬悲しげな瞳を向けて俯くが、すぐに顔を上げて手に力を籠める。
「うん、判った。宏ちゃんを信じる。信じて待ってる」
その瞳にはもう迷いは無かった。 愛する男性(ひと)を信じる乙女の瞳そのものだ。
「うん、そうそう♪ どうしても逢いたくなったら、こちらから逢いに行けば済む事だしね♪」
千恵としては若菜を慰める意味も籠めて、ホンの気休めのつもりで言ったのだが・・・・・・。
「!! そうよっ! 行けばいいのよっ! 待ってるだけじゃ駄目なのよっ! 宏ちゃんが帰らないなら、私が宏ちゃんの所へ行けばいい事だわっ! 何でこんな簡単な事に今迄気が付かなかったんだろう!!」
若菜は瞳を煌めかせ、両手を胸の前で組んで悪夢から醒めた様に晴れやかな表情になっている。
「早速、荷物をまとめて宏ちゃんの所に行こうっと♥ ふふっ♪ 宏ちゃん、待っててね〜♪」
今までの暗い雰囲気は一変、背景にお花畑を背負ってルンルン気分の若菜に千恵はたじろぐ。
(じょ、冗談が通じないっ! そうだった・・・・・・。この娘、昔から宏の事になると見境が無くなるんだった!)
千恵は己の失言に頭を抱え込む。 このままでは本当に若菜は宏の元へ駆け込んでしまう。 そうなったらあの宏の事だ、無下に若菜を追い払わないどころか最悪、若菜は宏の優しさに付け込んでそのまま同棲してしまうかもしれない。
(じょ、冗談じゃ無いわっ! だっ、誰がそんな事させるものですかっ!)
同棲、というキーワードに千恵の頭に血が急上昇する。 千恵自身気付いて無いが、千恵も宏の事になると若菜同様、見境が無くなるのだ。
(このままじゃ、あたいが敵(若菜の事だ)に塩を送った事になっちゃうじゃないっ! だったら・・・・・・)
千恵は唇を噛み締め、そしてハラをくくる。
「若菜、あたいも行くわっ! あんた一人じゃ心配だものっ! いいわねっ!!」
「えっ!? 姉さんも行くの? うん、判った。一緒に宏ちゃんの所に行こう♪」
千恵の気持ちなど、とっくに承知している若菜は二つ返事で頷く。
「えへへ♪ 宏ちゃんの驚く顔が見られるわ〜♥」
こうして美姉妹(しまい)は翌日、愛しの男性(ひと)の元へ新幹線で向かったのだった。
(つづく)
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田舎にて(2)
田舎にて(2)
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美姉妹といっしょ♥〜番外編
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「ん・・・・・・これで良し。こっちは・・・・・・様子見ね」
パソコンのマルチモニターの前で何やら数字を打ち込み、頷いている優。 と、そこへ仕事から帰って来た晶が部屋の入り口で声を掛ける。 晶の会社は外資系の為、時差の関係で日曜日でも仕事があるのだ。
「あら、優。株のチェック?」
「あ、おかえり、お姉ちゃん。そうだよ♪ 今日は早かったね」
「うん。今日は大した仕事じゃなかったしね。それより、どう? 調子は」
晶は優の部屋に入って来ると腰を屈め、優と顔を並べてモニター画面を見つめる。 優は左手でマウスを操作し、画面を切り替えながら晶に説明する。
「うん、悪くない。先週からだと少しプラス程度」
「どの位?」
「ん・・・・・・約二億」
「そう♪ まずまずね」
「もう少し利益が出るかと読んだけど、社長が逮捕されて株価が急落したから」
「ああ、例のドコデモドアね」
優はドコデモドアの株価一覧を画面に出す。 そこには、ある日付を境に急激な右肩下がりのグラフが示されている。
「ガサ入れが判った段階で全て売ったから、大した損失にはならなかった」
「マイナス幾ら?」
「約一億」
「一億で済んだか・・・・・・。でも危なかったものね。あの時売らずに持っていたら・・・・・・」
「五十億以上の損失。今までの儲けが全て飛んじゃう」
優は最安値の所にあるグラフの線を指し示す。
「関連のブジテレビ株は?」
優は次にメディア一覧のグラフを表示させ、マウスポインタで示しながら話す。
「それも同時に売った。ドコデモドアと共倒れの恐れがあったし、経営者も利口じゃないからこの先も危ない」
「その損失は?」
「約マイナス三千万」
「結構痛いわね。メディアは安全牌だと思ったのに・・・・・・。ジャムパン航空は? 最近特にキナ臭いけど」
優は既にジャムパン航空の株価グラフを画面に表示させている。
「そこも売った。経営者に危機管理能力が無さ過ぎ。理不尽な合理化やトップが内輪揉めしてる様じゃ、今に飛行機が墜落して株価も暴落する」
「そうね。あそこは二年前の春にシステムエアと経営統合してからおかしくなったものね」
晶は画面の一点を指し示すと、優も頷く。 そこには二年前の春に急上昇したものの、その後徐々に右肩下がりになっているグラフがあり、所々大きく下がっている所がある。 それはインシデント(小事故)のあった日付と一致している。
「うん。株価上昇を期待しないで、もっと早く売っとけば良かった。そうすればマイナス五千万までいかなかったのに」
「ん〜〜〜、計マイナス一億八千万か・・・・・・。最近損失額が大きいわね」
「それはこちら側の責任。株価そのものに罪は無い」
「まぁ、そうだけど・・・・・・。最近は株価よりも経営者を見て売買する傾向がするのは、何だか情け無いわねぇ〜」
「ううん、馬鹿なCEOだと企業価値も下がる。強(あなが)ち間違いでも無い」
「好調なのは・・・・・・電器系と・・・・・・自動車系ね」
晶は画面を指差すと、優は詳細データを呼び出す。
「電器では・・・・・・ナトナルが伸びてる。自動車は・・・・・・ホンマが好調」
優がグラフを示しながら晶の顔を見る。
「ナトナルは・・・・・・オリンピックが控えているから大型ディスプレイの需要が今後も伸びるわね」
晶は独りごちると、モニターから目を外さずに優に尋ねる。
「これで損失分をカバー出来る?」
優はコクンと頷く。
「ホンマもアメリカでの受けが良いから・・・・・・優?」
「うん、判った。任せて♪」
「宜しくね♪」
晶はニッコリと微笑む。
「それでは・・・・・・こっちの・・・・・・収支のトータルではプラスなんでしょ?」
晶は四年前からの分と、今月分、今週分のバランスシートを目で追いながら優に確認する。 優は表情も変えずに淡々と話す。
「もちろん。外貨取引の分を合わせると今週だけで約二億五千万のプラス」
「外貨で結構儲けが出たのね」
画面は為替レートの変動グラフに切り替わっている。 こちらは徐々に右肩上がりになっている。
「うん。ユーロの値が上がってる」
「オリンピック景気?」
「うん。今年の冬にイタリアで行われるから需要が伸びてる」
「判ったわ。お疲れ様。そろそろ夕御飯だってお母さんが言ってたわ」
「ん、判った。すぐに行く」
「それじゃ、あたしは着替えてくるわ」
晶はモニターから顔を離すと隣の自室へと向かう。 優はパソコンをスタンバイ状態にすると一階のダイニングへ降りていった。
☆ ☆ ☆
「そうそう。あんた達、宏君が同棲始めたってよ。知ってた?」
夕餉(ゆうげ)の席で、美女姉妹(しまい)の母親の爆弾発言が晶と優を直撃した。 晶は飲みかけていたビールを危うく正面に座る父親の顔に噴き掛けそうになり、優は目を見開き、箸で摘んでいた里芋の煮っ転がしをビールの入ったグラスの中にダイブさせたまま固まってしまう。
「な、なんですって!? 同棲!? ヒロが?? いつ!? 誰と!!」
柳眉を逆立てた晶が勢い良く立ち上ると、椅子が大きな悲鳴を上げて後ろに倒れる。 優は固まったまま正面に座る母親の顔を凝視する。 母親はそんな二人の態度を面白そうに眺めながら続ける。
「なんでも、千恵ちゃんと若菜ちゃんが今日の午後、宏君の元へ生活道具一式持って新幹線で向かったって、あちらのお母さんが笑いながら言ってたわよ。特に若菜ちゃんなんてスキップしながら家を出たって。なんだい、あんた達はとっくに知ってるのかと思ったわ」
「しっ、知らないわっ! そっ、そんな話、今、初めて聞いたわよっ!!」
千恵と若菜というキーワードに晶は目を剥いて口から泡を飛ばす。
「・・・・・・みたいだねぇ〜。知ってたら、あんた達も今頃は東京にいるもんねぇ〜♪」
美女姉妹の母親は楽しそうに笑い声を上げる。 母親は美女姉妹が宏を好きな事や千恵と若菜の美姉妹(しまい)とも仲が良い事、その美姉妹も宏が好きな事も全て知っているのだった。 母親自身も宏を気に入っていて、いずれは婿にと思っていたのだ。
「あたしゃてっきり、あんた達が身を引いたのかと思ったわよ」
「じょ、冗談じゃ無いわっ! 誰が身を引くですって〜〜っ! ヒロの童貞はあたしのモノよっ!!」
晶は母親の台詞にカッとなり、酔いも手伝って両親の前で思わず本心を暴露してしまう。
「あ〜〜、晶。嫁入り前の娘が人前で童貞、とか言わない様に・・・・・・」
「お父さんは黙っててっ!」
「・・・・・・」
娘に睨まれた父は首を竦めて淋しく晩酌を続けるのであった。 母親は笑いながら更に晶を煽る台詞を投げつける。
「あちらのお父さんなんか、箪笥とか姿見とか新品の布団なんかを送ってやった、新しく息子が出来た、なんて嬉しそうに話してたわよ? これって完全に新婚生活よね〜♪ となると、今夜が・・・・・・初夜?」
完全に愉しんでいる母親の姿がもはや目に入らなくなった晶は、持っていたグラスをテーブルに叩きつける。 グラスは悲鳴を上げ、粉々に砕け散る。 普通なら砕ける訳無いのだが、晶の握力で既にひびが入っていたのだ。
「優っ! いらっしゃいっ! 対策を立てるわよっ」
晶は食事もそのままに席を立ち、ドスドスと足音を立てて自室へ戻ってゆく。 優も半分フリーズしたまま、ふらつく足取りで階段を登る。 そんな二人の娘を見つめていた父親が母親にポツリと言う。
「宏君はどう出るかな? 出来れば我が家自慢の娘達を選んで欲しいものだが」
「そうね〜♪ でも、甲乙付け難いからみ〜んな一緒にお嫁さんにしそうだわ。宏君、包容力あるから」
「私は娘達が幸せなら何でもいいさ。たとえ一夫多妻でもね。宏君なら娘達を任せても大丈夫だろうよ」
あくまでほのぼのとした両親である。 一方、収まらないのが晶と優の美女姉妹だ。 晶は部屋に入るなり、開口一番雄叫びを上げる。
「完全に抜け駆けじゃないっ! くっそ〜〜〜っっ! あの美姉妹にしてやられた〜〜〜っっ!!」
酔っているとは言え、妙齢の美女からとは思えない罵詈雑言に優は一瞬眉をしかめるが、気持ちは姉と一緒だ。
(せめてひと言(世間ではそれを宣戦布告と言う)位知らせてくれても良さそうなのに・・・・・・。きっと若菜さんが淋しくて耐え切れなくなったんだろうな。千恵さんも)
優の核心を突いた推理に、自分達美女姉妹を重ねる。 宏が帰って来ないで淋しい思いをしているのは自分達も一緒なのだ。
「これからじゃ、最終の新幹線どころか夜行列車と夜行バスにも間に合わないっ! ビール呑んじゃったから車も駄目っ! タクシーは・・・・・・ん〜〜っ、予算的に無理っ! あ゛〜〜っ! 移動手段が無いっ!!」
株で儲けた金は宏の金なので、勝手に手を付ける訳にはいかないのだ。 般若の様な表情になった晶は部屋の中を動物園の熊みたく右に左にうろつく。
「あの二人に好意を持っているヒロなら、若菜ちゃんに迫られでもしたら簡単に身体を許しちゃうわっ!」
数年前の約束〜あたし達と結婚するまで童貞でいなさい〜など、目の前の裸体には何の意味も無いだろう。 晶は宏の貞操の危機にイラついたままベッドに勢い良く腰掛けると、優も隣に静かに腰を下ろして慰める。
「今夜は大丈夫。ヒロクン、清い身のまま」
「どうして? 飢えた若菜ちゃんなら、今夜中に無抵抗なヒロを縛り付けて手篭めにしても、ちっとも不思議じゃ無いわよ?」
何気に酷い事を言う晶。 酔っ払いは無敵だ。
「明日は月曜日。ヒロクンは仕事があるから夜更かししないし、今夜は同居初日だからみんな緊張して大人しくしてる。危ないのはむしろ明日の夜。覚悟も準備も万端整ってる」
少し酔っているとはいえ優の冷静な分析に晶は落ち着きを取り戻し、母親が言った事を思い出す。
(今日荷物を送ったのなら届くのは明日の昼過ぎ。つまり、今夜は布団も何も無い状態ね。そんな状況で初心だけどしっかり者の千恵ちゃんが若菜ちゃんだけに初夜を許すとは思えないわ)
晶は優をチラッ、と見ると、優はその通りとばかり頷く。 言葉に出さなくても、目線やちょっとした表情、仕種で意思疎通出来るのがこの双子姉妹なのだ。
(ただ、ひとつの布団で三人が眠るというシチュエーションになった時、ヒロがどう出るかね。うら若き美姉妹に挟まれて、喰わないだけの意思がヒロにあるのかしら?)
晶の頭の中に、据え膳食わぬは男の恥、というフレーズが浮かぶ。 最悪、宏から手を出すのでは無いか、と思い悩む晶の憂いを優が払拭してくれる。
「大丈夫。ヒロクン、ああ見えて硬派。ヒロクンから迫る事はしないし、約束も守ってくれる」
優の励ましに晶は苦笑する。 優の方がよっぽど宏の事が判って信じているではないか。
「ええっ、信じるっ! あたしはヒロを信じるわ♥ ・・・・・・優もね♪」
恋敵(ライバル)の動向よりも、愛する男性(ひと)を信じる女の強さがここにあった。 晶は素早く思考を切替えると、優とこれからの段取りを組み立てる。 どのみち今夜はもう動けないのだから、ここで今後の事を詰めておく必要がある。
「明日は午前中の会議が外せないから・・・・・・出発は昼過ぎになるわ。駅で落ち合いましょう。会社を出る時に連絡するから、列車の手配宜しくね。その時あたしの手荷物も一緒に持って来てくれると助かるんだけど?」
晶はシステム手帳を捲りながら優に指示(作戦とも言う)を出す。 優は黙ったまま頷く。
「取り敢えず、一泊分の着替えがあれば足りるわ。あとは・・・・・・」
パソコンに入れたスケジュールを確認しながら晶はテキパキと指示を出す。
「向うには夜・・・・・・いえ、夕方前に着けるとベストね。となると、こっちを遅くとも十五時には出たいわね」
「判った。家の事は任せて。その他気付いたら手配しとく」
「ん♪ 有能な秘書がいて助かるわ♪」
ようやく晶の表情に余裕が生まれ、笑顔が見られる様になった。 優はこれで一安心、とばかりに微笑む。
「秘書はお姉ちゃん。ボクは経理担当だよ」
その実、晶は外資系企業の社長室付けの秘書だったりする才女なのだ。 宏には外資系に勤めるOLとしか言っておらず、細かい事まで教えていない。 何故なら、『だってその方がヒロが知った時にビックリする顔が見られるから楽しいモン♪』という事らしい。 優も、宏に自分の仕事(?)はネットトレーダーだとは言っていない。 あくまで趣味の範囲で株をチョットいじっている、としか言っていないのだ。 何故なら、『だってその方がヒロクンが本当の事を知った時の驚く顔を見られるから嬉しい♪』という事だ。 さすが双子、考える事が一緒なのだった。
「ふふ♪ そうだったわね。元々はヒロのお金だもんね。優が株を始めたのは」
「うん。ヒロクンから預かった十万円が全ての始まり。それが今では・・・・・・」
優は四年前、宏がバイトで稼いだ金を元手に株取引の世界に本格的に参入したのだ。 それまで株や経済を大学で勉強していた事もあって、宏が稼いだお金をどうしても増やしてあげたくなったのだ。
『ヒロクン、ボクがこのお金を何倍にもして見せるね♪』
自信満々の優に、宏は高校生としては大金の十万円を何の迷いも無くポン、と快く預けたのだ。 以来、優は宏の経理担当という意識を持ち、持ち前の冷静な判断と的確な分析で少しずつお金を増やして来た。 ただひとつ、『愛する男性(ひと)の喜んでくれる顔が見たい』という想いの基で。 その後、宏は預けた金がどうなっているのか全然聞いて来ないし、知ろうともしない。 何時だったか、利益を宏に報告するつもりで電話を掛けたら開口一番、笑いながら言ってくれた。
『優姉に全部任せたから♪』
優は宏からの信頼が心から嬉しく、より張り切った結果、今では億単位までお金を増やす事が出来たのだ。 晶はパソコンに地図を表示させながら優と打ち合わせを続けてゆく。
「・・・・・・よし。今日明日はこんなものね。あと、向こうでの住まいは・・・・・・」
宏が千恵と若菜と川の字で眠りに付いている頃、晶の部屋の明かりは夜遅くまで消える事は無かった。
(番外編〜 田舎にて・了)
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七夕飾りに想いをのせて
七夕飾りに想いをのせて
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美姉妹といっしょ♥〜番外編
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「姉さん、学校から立派な笹竹を貰って来たよ〜〜♪ ねぇ、今年はこれで七夕しようよ♪」
妹の声に振り返った瞬間、千恵は目が点になった。 そこには腰まで届くストレートロングヘアをひとつにまとめ、ベージュのブラウスに濃紺のスカート、白のショルダーバッグという学校帰りの服装のまま、高さ三メートル位、枝の張った幅は二メートル位で太さが七〜八センチはあろうかという大きな笹竹を肩に担いでいる若菜が嬉しそうな顔をして部屋の入口に立っていたのだ。
「・・・・・・あ、あんた、そ、それ、どうしたの!?」
千恵は大きな瞳を更に大きく見開き、青々と茂る笹竹を指差す。 家の裏山で探してもこんなに立派な笹竹はそうそう無い。 店で買ったら諭吉さんひとりは軽く飛んでいくだろう。
「だからぁ、大学で飾る七夕用の笹竹が一本余ったから、教授にお願いして貰って来たの♪」
若菜は嬉しそうに経緯(いきさつ)を話し始めるが、千恵は何となく雲行きが怪しくなって来たのを直感する。 双子ゆえのテレパシーだろうか。
「あ、そ、そう? よ、良かったじゃない。今年はわざわざ山に入らなくても済んで」
「そうなのよ〜♪ 手間が省けて良かったわ〜♪ 裏山で蚊に喰われながら藪の中を歩く位なら、学校から持って来る位、何とも無いもんね〜♪」
若菜は心底ホッとした表情になるが、千恵は逆に顔面が段々引き攣って来る。
(な、何ですと〜〜? 今、若菜は何と言った? 学校から『持って』来た?)
美姉妹(しまい)の通う大学は電車で三十分の所にあり、駅から家まで徒歩十五分、大学まではゆっくり歩いても五分の距離なのだ。 千恵は段々嫌な予感に襲われ、この場から逃げ出したくなった。
(あの娘(こ)、駅からここまでコレを担いだまま商店街を抜けて来たというの!?)
頭の中で「ここに居てはダメ」という警戒音が鳴り響き、赤ランプが激しく点滅している。
「と、ところで若菜? ソレ、どうやってここまで運んだの? 誰かの車に載せて貰ったのよね!?」
「まさかぁ〜、私にアッシー君でもいればそうしたかも知れないけど? 第一、こんな大きなモノ、普通の車には積めないよ〜」
よね、と語尾を強調し、そうであって欲しい、という千恵のささやかな願いを打ち崩すかの様な若菜の脳天気なお言葉。
「そ、それじゃぁ・・・・・・、ま、まさか・・・・・・」
千恵の額に一筋の冷汗が流れ落ちる。 頭の隅で「聴きたくない、聴いたらダメ」という声が聴こえて来る。 若菜は姉の葛藤を知る由も無く、期待通りの答えを平然と返した。
「ちゃんと電車で帰って来たんだよ〜。いつも通りに♪」
千恵は開いた口から魂が抜け出てしまい、机に力無く突っ伏した。 卒論のノートや資料がバラバラと音を立てて崩れ、散らばってゆく。 余りのお約束に言葉も出無いし、動く気力も無い。 姉の抜け殻に向けて若菜の嬉々とした言葉がどんどん降り注ぐ。
「流石にあさってが七夕ね〜。親子連れはみんな笹竹を片手に持ってたわよ〜。電車の中や商店街は葉っぱの擦れる音で満ちてたわ〜♪ 日本の夏! って感じね〜♪」
お気楽若菜に千恵のツッコみが炸裂した。
「あんたにゃ『乙女の恥じらい』ってモンが無いんかいっ!!」
☆ ☆ ☆
「・・・・・・という訳なんですよ〜。これじゃ我家の恥ですよ〜。晶さんからも何とか言って下さい〜」
ミニスカートなのに胡坐を掻き、何杯目かのビールをグイッ、とあおった千恵は隣で横座りしている晶に赤く染めた小顔を近付ける。 白く、ムッチリとした二本の太股の中心に薄いブルーのショーツが丸見えになり、更にはその中心が薄っすらと縦線に形付いているのだが、酔いも手伝って千恵は気付く素振りも恥じらう素振りも全く見せない。 千恵は呑むとすぐに顔に表れ、酔いが深くなると理性が怪しくなり、隣にいる人全てに絡んでしまうのだ。
「なるほどね〜。昨年度のミスキャンパスである若菜ちゃんが大学(がっこう)から七夕用の笹竹を担いで電車でご帰宅された、と。そりゃ見ものだったわね〜♪」
グラスを傾けた晶が面白そうに澄んだ笑い声を上げる。 晶は既に数杯、ハイボールを傾けているが顔色はいつものクールで美しいお姉様のままだ。 ほんの少し、目元がピンク色に染まっている程度で酔いが顔に出る事は無い。 仕事で飲む機会が多々あるので自然と強くなったのだ。
「ふふっ♪ 若菜さん、さぞかし注目を集めたんでしょうね♪」
千恵の正面(晶の隣だ)に正座して静かに刺身を食べている優も微笑を洩らす。 優も何杯目かの酎ハイを空けてうなじから上がうっすらと桜色に染まっている程度なのだが、ショートヘアと相まって妙に色っぽく見えてくる。 この美女姉妹(しまい)は酒に強い。 とても千恵と若菜の美姉妹(しまい)では太刀打出来ない。
「笑い事じゃ無いですよ〜。ただでさえあの娘、背が高くて色白美人で目立っているのに、余計目立っちゃったじゃないですか〜。あの娘は何とも思って無くても、あたいが恥しい思いをするって事、判ってないのよ!」
ビシッ、と妹を指差し、やれやれと頭を左右に振ると高い位置で縛ったロングポニーテールがフルフルと力無く揺れる。 酔いに任せてうっぷんを晴らす千恵に、晶も優も微笑んだままだ。 千恵の愚痴は形だけで本心では無いという事がとっくに判っているからだ。
「美人双子姉妹、ってだけで何かにつれて引き合いに出されるあたいの身にもなって欲しいわ・・・・・・」
自分の事を平然と美人と言ってしまうあたりが千恵の酔いの深さを示している。 しらふの時は決して自分の事をそんな風に言わない。
「まぁまぁ、変に物怖じしない所が若菜ちゃんの好いトコなんだからさ♪ 良い娘よ、若菜ちゃん♪ 純粋で真っ直ぐだし♪」
顔に掛かったソフトウェーブの黒髪を背中に流しつつ、晶がウィンクして寄越すと優も小さく頷き、ハッキリとした声で礼を言う。
「ありがとう、今日誘ってくれて。若菜さんが『お泊り会』に誘ってくれなかったら、また淋しい七夕になってた。若菜さんは何だかんだいっても、ちゃんと気配り出来る女性(ひと)。心配ない」
千恵と若菜の美姉妹と晶と優の美女姉妹は一昨年(おととし)までの十八年間、宏を加えた五人で七夕(という名の宴会)を愉しんでいた。 しかし去年は宏が上京していなかった為、初めてみんな別々に七夕を迎えたのだが、好きな男性(ひと)がいないだけで何とも暗く、淋しい雰囲気になってしまった。 そこで今年の七夕もそうなる事を恐れた若菜が楽しい七夕にしようと、晶と優に若菜の部屋に泊る「お泊り会」を持ち掛けたのだ。 本当は顔から火が出るほど恥しい思いをひた隠しにし、電車で大きな笹竹を持って来たのもその為だった。 幸い社会人二年目の晶は明日は休みで、学生組みの美姉妹も朝一での講義やバイトも入って無かったので多少夜更かししても大丈夫だった。
「それはっ・・・・・・、判ってます。ホントはあたいがもっとしっかりしなきゃいけない、って事も。・・・・・・若菜のお陰でみんなと楽しく過ごせるのに、文句を言ったらバチが当りますね」
苦笑した千恵は素直になれない自分に気付かせてくれた晶と優に頭を下げる。 姉としてただ黙って妹のする事を眺めていた事が恥しくなる。
「いいのよ♪ 気にしないで♪ 今夜は楽しく過ごしましょ♪ ね、千恵ちゃん♥」
晶がビールをなみなみとジョッキに注ぎ、自分のグラスと軽く合わせる。 ピキーンと澄んだ音色が部屋に響き、千恵の心を軽くし、憂いを払ってくれる。
「若菜ちゃん、何をお願いしたの? 短冊見せて?」
晶は呑み干したグラスをちゃぶ台に置くと、窓際に立掛けた笹竹の下で熱心に短冊と向き合っている若菜の元へ近寄る。 若菜はミニスカート姿もなんのその、正座のまま畳に置いた短冊に顔を近付けて一心不乱にペンを動かしている。 その後姿は丸い大きなお尻に純白のショーツがピッチリと張り付き、秘裂の縦筋にショーツが深々と食い込んでいるのがモロ見えなのだ。 千恵といい若菜といい、ここに宏が居たら鼻血ものだろう。 優も好奇心を刺激され、さり気無く若菜のスカートを整えると窓辺に歩み寄り、書き終えた短冊を覗き込む。
「もちろん、宏ちゃんの事だよ〜♪」
若菜は嬉々として自分で書いた短冊を次々と畳に並べ始める。 晶は順々に手に取ると若菜の願い事を読んでいく。
「どれどれ・・・・・・。『宏ちゃんが健康で過ごせますように』、か・・・・・・。なるほど、無難ね。こっちは・・・・・・『宏ちゃんと結婚出来ますように♥』か・・・・・・。これは却下ね」
最後の台詞は口の中で小さく呟く。
(ヒロと結婚するのはあたしなんだから♪)
若菜は晶の鋭い視線に臆する事無く、これまで書いた短冊を次々と晶に見せ付ける。
「これは〜、『宏ちゃんと一生共に過ごせますように♪』、こっちは・・・・・・『宏ちゃんが私を選びますように♪』だし〜、これなんかは『宏ちゃんに処女を捧げられますように♥』、『宏ちゃんの赤ちゃんが欲しい♥』だよ〜♪」
最後の二枚を両手でかざした若菜は顔を赤らめ、晶は挑発的な短冊に血圧が急上昇し、これまでの酔いが一辺に飛んでしまう。 若菜と晶の間に見えない火花が散っている一方、笹竹の葉の下で優が何も書かれていない短冊を何枚か手に取るとマジックで何事か綴り始める。 晶と優は膝下までのフレアスカートなので美姉妹の様に下着はおろかそのラインすら見えない。 宏が居たら至極残念がるだろう。 優は酒を呑んでいる時よりも顔が赤くなっている事に全く気付いて無い。
「優さんは何をお願いしたんですか?」
千恵はにこやかに、しかし激烈にガンを飛ばし合う若菜と晶から敢えて視線を外し、近寄らない様に迂回する。 触らぬ神に祟り無し、だ。 巻き添えもゴメンだ。 酔っ払いは無視するのに限る。 千恵は優の隣に腰を下ろし、優の手元を覗き込む。 乙女として、七夕にどんな願いを書いたのか猛烈に興味がそそられたのだ。 優ははにかみながらも、千恵に書いた短冊を何枚か見せてくれる。
「何か恥しい・・・・・・。この歳になって七夕様にお願い事なんて。でも、つい、縋(すが)ってしまう」
薄く笑った優の心に、普段は冷静沈着で何事にも動じず、現実的な優が見せた切ない乙女心に千恵は共感する。 女はいつまで経っても好きな男性(ひと)の事を夢見る女の子でいたい。 好きな男性(ひと)を想う心に生まれや年齢は関係無い。 美女姉妹とは恋のライバル関係だけれども、宏に恋する女として優の「縋る」と言う気持ちが納得出来るのだ。
「あ・・・・・・、これ・・・・・・」
千恵がピンク色の短冊を手に取ると、優は耳まで真っ赤に染めて俯いてしまった。 そこには『ヒロクンと結婚して、赤ちゃんをたくさん産んで、幸せな家庭が未来永劫続きますように』、と小さい文字だがしっかりと書かれてあった。
「ふふっ♪ みんな、想いは同じなんですね♪」
千恵は手の中にある短冊と、いまだに電撃を飛ばし合っている若菜と晶を交互に見て微笑む。 すると優が千恵に向けて短冊を差し出す。
「えっ!? あ、あたいも書くの!? ど、どうしても?」
優の柔らかい微笑みに逆らう事など出来る筈も無く、千恵は羞恥心に塗(まみ)れながら考えに考え、長い時間を掛けて一枚だけ何とか書き終える。 真っ赤に染まった額には薄っすらと汗まで掻いている。
「千恵さん、見せて♪」
優が表情を変える事無く、ずいっ、と手を伸ばす。 その笑顔は「千恵さんの短冊を見るまでこの手は引きませんよ」、と言っている。 優も結構酔っている様だ。 千恵は何とか抵抗を試みる。
「あ、ほ、ほら、願い事は人に見せたら叶わない、って言うじゃないですかっ。だから、ね、その・・・・・・」
優は一向に動じない。 ふと気付くと、晶はおろか若菜でさえ瞳を輝かせて優と並んで座っているではないか。 初心で純真純情な千恵が男(宏の事だ)に関してどんな願い事を書いたのか興味津々なのだ。
「あう゛〜〜〜」
千恵はこんな時だけ一致団結する晶と若菜に苦りきった表情を向けるが、晶も若菜も逆に見つめ返して来る。 その視線は「早く見せろ〜〜、見せないと奪い取るぞ〜〜、奪い取ったらコピーして家中に貼り付けるぞ〜〜」と語り、全身から好奇心オーラを悶々と放っている。 千恵は海よりも深い溜息を吐き、下着姿で人前に立つ気分でそっと優の掌に薄いブルーの短冊を載せる。 すると一斉に三人の顔が一枚の紙切れに集まる。
「どれどれ・・・・・・。『宏があたいを好きになってくれますように♥』、か。なるほど、千恵ちゃんらしい初々しさね〜♪」
晶が優しく微笑んでそっと、そして丁寧に千恵の掌に短冊を返してくれる。 今ここにいる四人は宏を巡ってのライバル(恋敵)ではあるものの、その秘めたる想いまでは否定しない。 相手を否定する事は自分の想いも否定する事になるからだ。 相手を蹴落としてまで宏と結ばれようとする女はここにはいない。
「晶さん・・・・・・」
千恵は晶の心遣いが本当に嬉しく、思わず涙腺が緩んでしまう。 義理人情に厚い千恵は涙もろいのだ。
「お姉ちゃんはお願い事書かないの? せっかくなんだから何枚か書こうよ♪」
優が色とりどりの短冊とマジックを渡すと、晶の顔が初めて赤く色付いた。 流石に二四才にもなって七夕に願いなんて・・・・・・、と頭の隅で思っていても、心の中はいつでも十八才!(自称)の晶は心ときめいてしまったのだ。
「そ、そうねっ、せっかくだから何枚か書こうかしら・・・・・・。言っとくけど、書きたくて書くんじゃ無いからね。みんなが書け、って言うから仕方無く書くんだからねっ!」
耳まで赤くなった晶が取り繕う様に饒舌になるが、みんなニヤ付くだけで誰も聞いてはいなかった。 晶はそれでもペンを止まらせる事無く、スラスラと次々に短冊に書き連ねてゆく。 まるでずっと書く事を考えていたかの様なスピードだ。
「「「なになに・・・・・・」」」
三人の目が書き上がった色とりどりの短冊に集まる。
「これは・・・・・・『ヒロがいつも明るく過ごせるように』で、こっちは・・・・・・『ヒロがいつまでもヒロのままでいられますように』ね〜。ん!? これは・・・・・・?」
若菜が数枚ある中で一番下に隠す様に重ねてあった短冊をみんなに見える様にかざすと、千恵と若菜の顔色が一瞬で赤から青に、そして千恵だけは真っ赤にと目まぐるしく変化した。 酔いが醒めて血の気が引き、続けて羞恥心が沸き起こったのだ。 優だけは「ああ、やっぱり・・・・・・」と苦笑する。 そこには『ヒロの童貞は私のモノ♥ 誰にも渡さないわ♪ 私はヒロの最初で最後の女になり、私はヒロを最初で最後の男にするわ♥』と太マジックででかでかと書かれてあった。
「晶さん・・・・・・」
「晶姉さん・・・・・・」
千恵と若菜のジト目に我関せず、といった表情で晶は堂々と言ってのけた。
「想うだけなら、願うだけなら、誰にも迷惑かけないでしょ♪」
「ずるいわ〜。宏ちゃんの初めては私が貰うのよ〜」
「それはヒロが決める事だわ♪」
晶と若菜はジャブの応酬を繰返しつつも部屋に散らばった短冊を皆で丁寧に拾い集めると綺麗に、そして慎重に飾り付けてゆく。 折り目や汚れを着けない為に。 それぞれが、それぞれの想いを胸に秘めながら。
「これで全部ね? それじゃ、彦星と織姫を眺めながら飲み直そうか♪」
アルコールが切れた晶が部屋の明かりを消して窓を全開にすると、目の前の夜空に天の川が煌き、彦星と織姫が今夜ばかりは存在を主張するかの様に光り輝いていた。 闇夜ではなく、濃紺のベールに幾つもの小さく光り輝く宝石を散りばめた満天の星空。 ずっと見つめていると光に吸い込まれる様な、そして幻想的に光を放つ幾多の星の煌きに言葉を失う。 この様にみんなで星空を見上げるなんて何年振りだろうか。
「綺麗ね・・・・・・」
誰かが呟く様に言葉を洩らし、誰とも無く頷く。 どの位眺めていただろうか、若菜のひと言が静寂を破った。
「織姫と彦星、か・・・・・・。まるで今の私達みたいね・・・・・・」
若菜が淋しそうに笹の葉を撫ぜながら呟く。 その切れ長の瞳には光るもので潤んでいる。 やはり好きな男性(ひと)が傍にいない事が堪えているのだ。
「そうね・・・・・・。ここから東京は遠いわね・・・・・・」
千恵がしみじみと言い、ビールジョッキをあおる。 飲んで宏との距離が詰まるのならば、あたいは死んでも飲み続けてみせる。 彦星を映した大きな瞳がそう語っている。
「・・・・・・この二つの星は動けないけど、あたし達には自由に動ける二本の足があるわ。電話で声も聴けるし、パソコンでチャットも出来る。だからあたいは淋しく無いわ♪」
晶が二人を励ます様に声を掛け、ウィンクしながらパナシェ(ビールをソーダ水で割った物)の入ったグラスを掲げて軽く振って見せる。 くよくよしなさんな、という事らしい。
「でも、やっぱり逢いたい・・・・・・、声が聴きたい・・・・・・」
若菜が喉の奥から震える声で訴える。 この願いに、即座に応えられる人物はここにはいない。 千恵はどうしたものかと妹の泣き顔を眺めつつ、自分も泣きたい気分になる。
「若菜さん・・・・・・」
優が晶と千恵に視線を送り、三人でどうやって若菜を慰め様かと思案に暮れかけたその時。 若菜の携帯電話が着信を告げるメロディーを奏でる。 その瞬間、弾ける様に若菜が携帯に跳び付いた。
「この着信メロディー、宏からだわ・・・・・・」
千恵が余りのタイミングの好さに驚く。 若菜は宏からの電話は専用の着信音にセットしてあるので、鳴った瞬間に宏からだと判るのだ。
「もっ、もしもしっ!? 宏ちゃん! ふ、ふぇ〜〜〜ん・・・・・・」
逢いたい、声を聴きたいと願っていた男性(ひと)からの電話に嬉しさ、切なさという感情が溢れ出し、電話口で泣きべそを掻いて話も出来ない若菜に代わって晶が苦笑しながら電話に出る。
「もしもし、電話代わりました。晶です・・・・・・」
晶は電話の向うで慌てふためく宏に思わず軽やかな声を上げて笑ってしまう。 電話を掛けた途端に幼馴染に泣かれては誰だって慌て、驚き、混乱するだろう。
「・・・・・・そう、そういう訳なの。貴方のせいじゃ無いわ・・・・・・、いや、少しはあるかも♪ いいえ、大ありだわ♪ ちゃんと責任取ってね♥ 千恵ちゃんに代わるわ♪」
晶は悪戯っぽい声で意味深に話を〆ると、落ち着かずにそわそわしている千恵に電話を渡す。 正に「噂をすれば影」を実証した宏に、千恵は一瞬何をどう話せば良いのか判らなくなってしまう。 と同時に、自分達の暗い雰囲気を打ち払う電話をくれた宏が天帝(てんてい)に思えて来た。 いつしか千恵は時間(とき)を忘れ、愛しい男性(ひと)の声と会話を胸に刻み込んだ。
「・・・・・・うん♪ ありがとう♪ 宏も身体に気を付けてね♥ 優さんに代わるわ」
名残惜しそうに、後ろ髪を引かれる思いで千恵は電話を優の掌へ回す。 そっと受取った優はいつも通り静かに、でも熱く宏と語り始める。
「・・・・・・うん、その通りだと思う♪ 流石、ヒロクンみんなの事判ってる♪ うん、それじゃ、おやすみ♪ よい夢を♥」
優は静かに電話を切ると、胸の中に溜め込んだ熱い吐息を大きく洩らす。 美女姉妹は表立って宏に好意を見せていない分、宏との電話の後はいつも切なくなってしまうのだ。 三人が天空に煌く彦星と織姫を眺めながら宏との会話の余韻に浸っていると、突然若菜の絶叫が部屋に響いた。
「あ〜〜〜っ!! 私、宏ちゃんと話、してないっ! いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「・・・・・・あ、ごめん。つい・・・・・・回すの、忘れてた」
優がバツが悪そうに首を竦めるが、若菜は聞いちゃいない。 自分の携帯を速攻で開き、宏へのダイレクトコールボタンを押した瞬間、無常にも電池切れのアラームが鳴り出した。 晶と優、千恵はその音は我々に対する緊急非常警戒音だと瞬時に捉え、若菜が暴れる寸前にそれぞれの携帯電話を差し出して部屋や家具、備品が破壊されるのを未然に防いだ。
「もしもし、あ、宏ちゃん♥ さっきはゴメンね〜♥ 今、私達彦星見てたの〜。えぇ!? 宏ちゃんも見てたの!? すっご〜〜いっ! 感激だわ〜♥・・・・・・」
若菜の弾む声を聞きながら三人は夜空を見上げ、天の川を挟んだ彦星に宏を、織姫に自分達を重ねてグラスを傾ける。 でも私達の彦星はいつでも逢う事が出来る。 天の川なんて関係無い。 若菜の笑い声に合わせるかの様に晶、優、千恵、若菜の書いた短冊が夜風に揺れ、寄り添っている。 そして笹竹の一番高い所には『宏ちゃんとみんなが幸せになれますように』と書かれた短冊が誰にも気付かれる事無く揺れ動き、どの短冊よりも明るく星明りに照らされていた。
「「「「「あっ! 流れ星!」」」」」
一際煌く軌道を描きながら、一滴の光が彦星の辺りから天の川を越え、織姫に向けて流れていった。
(番外編〜 七夕飾りに想いをのせて・了)
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朧 月(おぼろづき)
朧 月(おぼろづき)
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美姉妹といっしょ♥〜番外編
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「え〜、今配ったプリントは来週末に回収するので、それまで各自良く考えて下さいね♪」
宏は担任の言葉をぼんやりと聴きながら机の上に置かれた「進路希望調査票」を眺め、溜息を付く。 今からこんなの決めたって仕方無いじゃん、という気分と、いやが上にも来春は卒業なのだ、という事実を思い知らされた気分だったのだ。 窓の外に視線を移すと、どこまでも真っ青な空に白い雲が所々にゆったりと浮かんでいる。
「いい天気だな〜。もうすぐ桜も満開になるってのに、月曜の朝からめんどいモノを配ってからに・・・・・・」
眉をしかめた宏はもう一度深い溜息を付き、ゆっくりと流れる雲を目で追ってゆく。
「ねぇ♪ どこかに美人のお姉さんでも歩いていた?」
突然耳元で囁かれ、反射的に振り向いた目の前数センチの所に、学校に在籍する女教師の中で最も美貌を誇る担任教師(二十八歳・独身・彼氏無し)の笑顔があった。
「どぉわぁぁっっっっっ!!!」
余りの近さに驚いた宏が椅子ごと大きく仰け反ると、クラス中からどっと笑い声と冷やかしの声が上がった。
「宏君、その溜息は恋の悩み? だったら、私が手取り足取り腰取り、親身になって相談に乗ってあげるわよん♥」
色っぽくウィンクした担任女教師に人差し指で鼻の頭をツンッ、と小突かれる。 何故かこんな状況なのに先生の澄んだ声と指の温もりが妙に心地好い。
「か、夏穂(かほ)先生っ! いい加減人前でそんなコトしないで下さいっ!」
「あら♪ 人前じゃなければ好いのかしら♥」
顔を赤く染めた宏の抗議もどこ吹く風、大人の女性でしかあり得ない妖しい流し目を男子生徒に寄越す女教師。 ほのかに香る香水とセミロングヘアから香るシャンプーの匂いに股間が反応するのを抑えつつ、宏はずずいっ、と思いっ切り椅子ごと後ろに下がって妖艶な担任教師から距離を取る。
「あん♥ 恥ずかしがっちゃって、可愛い♪ でもね・・・・・・」
この女性(ひと)は数ある男子生徒の中で、宏にだけには何かと身体を摺り寄せ、何気無いスキンシップをいつも仕掛けて来るのだ。 宏も美人のお姐さんに言い寄られ(?)て満更では無いものの、その度に周りの注目と男共からのやっかみを浴び、照れもあってつい、ぞんざいな態度になってしまう。
「ホームルーム中はちゃんと先生の話しを聞くようにね♥ 相談事なら二十四時間受付中よん♪」
おでこを指で弾かれた宏は教卓へ戻ってゆく担任のナイスボディー(一七〇センチ、上から八四・五九・八八センチだ)な後姿を苦笑しながら眺める。 やれやれと溜息ひとつ付き、机の上に置かれた紙に再び視線を戻す。
「進路、か・・・・・・。どうすっかな・・・・・・」
今まで自分の進路についてまともに考えなかった宏はじっと白い紙を見つめ、来年の今頃、自分は何処で何をしているのか想像して見る。
(地元の国立大学は・・・・・・俺の頭じゃどうなんだろ? 東京の私立大学は・・・・・・学費高いから行きたくないし。他に進学となると、どこか地方都市の公立大学か、もしくは専門学校・・・・・・にしたってこの田舎町(まち)には無いし。就職するにも地元に高卒を受け入れる優良企業なんて聞いた事無いし・・・・・・。どっちにしろ地元(ここ)を出るしかないのかな・・・・・・)
そう思った途端、宏の脳裏に心秘かに想いを寄せる二組の双子姉妹の顔が浮かんで来る。 同じ街に住む四つ年上の従姉である晶と優、隣に住む二つ年上で幼馴染の千恵と若菜。
(俺が家を出ると、みんなと離れ離れに・・・・・・寂しく、なるな・・・・・・)
宏は心の中で深い溜息を付き、プリントを鞄の奥に仕舞い込むと再び果てし無い青空を見上げた。
☆ ☆ ☆
「ヒロ〜〜〜っ! 今帰りなの? だったら途中まで一緒に帰りましょ〜〜〜♥」
放課後、宏が家に向かって商店街歩いていると何処からか宏を呼ぶ声がする。 首を巡らして辺りを見廻すと、ソフトウェーブにしたロングヘアを風になびかせ、駅へと続く歩道を手を振りながらこちらに向かって駆けて来る晶の姿があった。 その姿に夕方の買い物客で賑わう一画から音が消え、次の瞬間、男は勿論、女でさえ羨望の溜息を漏らし始める。
「晶姉♪ 珍しいね、こんな時間に」
来た道をUターンし、迎えた宏は美しき従姉に目を細める。 晶は左肩に黒のディバックを背負い、頭にはトレードマークのヘアバンド(今日は赤だ)を着け、上は真っ赤なトレーナーにジージャン、下は裾を絞ったジーンズを穿いて惜し気も無く足のラインを強調しているその姿は、洗練された美人女子大生そのものだ。
「今日はサークルが無かったから早目に帰って来たの。お陰でヒロと逢えるなんてラッキーだわ♪」
屈託の無い笑顔を宏に向けるが、今の宏にはその笑顔は余りにも眩し過ぎた。 来年はもしかすると、この笑顔が見たい時に見られなくなるかも知れないのだ。
(んっ? ・・・・・・ふむ)
晶は宏のいつもと違う反応に直感的に何かあると察し、親指をファーストフード店に向けると宏の左腕を取って歩き出した。
「・・・・・・なるほど、進路か〜。いつの間にヒロもそんな年になってたのね〜」
抹茶シェイクを優雅に啜りながら、晶は感慨深げに宏の顔を見つめる。 学校は違えど同じ街に住み、週二〜三回は顔を逢わせる仲なので学年の事など頭から消えていたのだ。
「俺、今まで高校(がっこう)出てからの事なんて考えもしなかったから。精々(せいぜい)、夏休み過ぎてから考え始めればいいもんだと思ってたからさ。今考えろと言われても、何だか実感湧かなくて」
宏はフライドポテトを摘みながら進路で迷っている風を装うが、本当は姉妹達と離れ離れになるのが寂しいとはおくびにも出さない。 話を聴いている晶は宏の内心までは流石に察する事が出来なかった。
「そ、それはまたなんて悠長な・・・・・・。ん〜〜〜、ヒロは将来どうしたいの? 平凡なサラリーマンになる? あるいは新たな会社を起こす? それとも自給自足の生活を選ぶ? 先の展望なり、希望なり、ある程度描かないと進学も就職もままならないわよ?」
晶は宏ののんびりした、と言うか他人事(ひとごと)の様な態度に危機感を募らせる。 これは晶にとっても他人事ではないからだ。
(好きな男の子の進路が気にならない女の子なんて、いないモンね♪)
宏の嫁の座を本気で狙っている晶の心中を知る筈も無い宏は、普段から思っている事をとつとつと話し出す。
「うん、それは判るんだ。方向性ぐらいは決めなきゃならない、って。でも、今の世の中ってさ・・・・・・」
宏は言葉を切ると視線を外し、チキンナゲットを摘むとホットティーで流し込む。 晶は急かす事無く、じっと年下の従弟を見つめる。
「大卒の資格なんて生きる役にも立たんし、精々初任給が高卒より有利な位でしょ? 入れる会社やその後の肩書きだって大学のレベルで決まるんだから、高い金払って大学行って、社会で全く役に立たん勉強するよりも高卒で職に就いて、少しでも社会経験を多く積んだ方が遥かに好いかな、とも思うし」
晶は黙って隣に座っている宏の話に耳を傾ける。 店内は混み合っているものの、二人の話を邪魔する程の騒々しさは無い。
「ただ、高卒で職に就くと潰しが利かない、っていうか・・・・・・大学行って広い世界を知らなかった分、他にするべき事があったんじゃ無いか、って思う時や後悔する時がきっとあると思うんだ。でも・・・・・・」
宏は眉をひそめ、溜息混じりに呟く様に言葉を搾り出す。
「学歴に関係無く、働いたら働いたで会社の腹一つで理不尽な転勤や出向、リストラ、それに逆らったらクビになる仕組みの会社が多いのも事実だし・・・・・・。となると、どっちもどっちで好くないんなら、フリーターで自由に稼いだ方がよっぽど実用的で好い・・・・・・」
ここで宏は晶の澄んだ瞳にハッと気付く。
「あっ、ごめんっ! 別に晶姉達の大学生活や将来をどうこう言うつもりは無いんだっ。これはあくまで俺個人の考えだからさっ、だからっ、その・・・・・・」
現役大学生、それも卒業を来春に控えた人を目の前にして大学批判をしてしまった事に宏は慌てて頭を下げる。 晶は可笑しそうに目を細め、小さく首を振る。
「いいのよ、気にしないで。何とも思ってないから。逆にな〜〜んにも考えて無い人より、遥かに立派よ♪」
「・・・・・・うん、ありがと」
宏は小さく肩を竦めると晶に身体事向き直り、参考までに晶の進路を聴いてみる。
「晶姉は、大学(がっこう)卒業し(で)たらどうするの? やっぱり就職するの?」
「ううん、ヒロのお嫁さんになるの♥」
打てば響く早さで反応した晶は身体を摺り寄せ、ウィンクしながら人差し指で宏の鼻の頭をツンッ、と小突く。 状況は違えど担任と同じ事を晶からもされ、宏は一瞬動きが止まってしまう。
(女性って年下の男をこうやってからかうのだろうか・・・・・・?)
宏の呆けた顔に晶は声を上げて笑い、周りにいる男達の視線を一身に集める。
「晶姉・・・・・・」
「あら、あたしは本気(マジ)よ♥ 昔、優と一緒に約束したでしょ?」
苦笑した宏に真摯な瞳が見つめ返す。 その熱い視線に、宏は四年前の夏休みに起きた事を鮮明に思い出した。 すると晶と触れ合っている肩の温もりに鼓動が早まり、顔が急速に火照り出すのが自分でも判った。 宏が晶の何処までも澄んだ瞳を見つめていると、表情を崩した晶が再び鼻を小突いた。
「ごめん、話を戻すわね♪ 卒業したら外資系の会社に就職するの。もう内定、貰ってるし♪」
嫁入り話はそのままに(そのままかよっ! と後に宏がツッこんだのは言うまでもない)晶はチロッ、と舌を出し、元の場所に座り直すと中学時代から描いていたビジョンを語って聞かせる。
「晶姉って、そんなに早くから進路を決めてたんだ・・・・・・」
晶の話を聴く内に宏の顔が次第に俯き、暗くなる。 晶と比べて将来への展望を何も持たない事が後ろめたくなったのだ。 そんな宏の心を知ってか、晶は無理に宏を鼓舞しない。
「ヒロ、周りに流され、焦って答えを出すとロクでも無い事になるから、性急に事を決めない事。時間はまだまだたっぷりとあるんだから、これからゆっくりと考えて行けば好いの♪ 五年や十年十五年、回り道や道草したって構わないのよ、人生なんて♪」
宏には、優しい瞳で背中をバンバン叩いて励ましてくれる晶がとても頼もしく映った。 別れるかもしれない寂しさはそのまま残ったものの、ほんの少し、心が軽くなった様な気がした。
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晶との放課後デート(?)から数日後の夜、本人からの電話に宏は読みかけのライトノベルをベッドサイドに置くと階段を駆け下りる。
「・・・・・・花見? 今度の週末? 晶姉の家族と一緒に? ・・・・・・うん、行く。叔父さんや小母(おば)さんに暫く逢って無かったし。・・・・・・うん、判った、公園の入り口に行けば良いんだね? ・・・・・・うん、了解♪」
宏は電話を置くと両親に晶一家と土曜日に朝から花見へ行く旨を話し、二階の自室に戻る。 机の上には進路希望調査票が手付かずのままずっと置かれている。
(進学か就職、か・・・・・・。二択しか無いのが不思議なんだよな・・・・・・。どちらも選べない、選びたくない人だっているだろうに・・・・・・。俺だって・・・・・・)
先日、進路の事で晶に相談に乗ってもらった事を思い出す。
(晶姉、あの時は励ましてくれたけど、ホントは呆れてたんじゃないかな・・・・・・。世の中を知らない高校生(ガキ)の戯言(たわごと)として聞き流していたんじゃ・・・・・・)
好きな女性(ひと)と離れ離れになる寂しさ、先行きの見え無い自分の将来への不安感が宏の心に好きな女性(ひと)からの言葉をも信じられなくさせる黒い影となって覆い被さろうとしていた。 宏は頭を強く横に振るとベッドに上がり、読みかけのライトノベル(美姉妹といっしょ♡)に没頭した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「うっわ〜〜〜♪ まさに満開だね〜〜〜」
午前の陽射しが柔らかく降り注ぐ中、レジャーシートの上で宏は両側から覆い被さる様に迫って来る桜並木を仰ぎ、続いて宏の左側に座っている晶に視線を移す。 今日の晶はいつものヘアバンド(今日は白だ)に上下白で揃えたブラウスにフレアスカート、腰まで届く長い髪も白いリボンで首の後ろでひとつに束ねている。
「今日の晶姉、とっても清楚だね♪ すっごく似合ってる♪」
全身白で統一された晶はまるでどこぞのお嬢様風で、宏の鼓動が自然と早くなる。 一方、ショートヘアをシャギーにし、桜色のトレーナーにジーパンを穿き、こちらも白のパーカーを羽織った優が宏の右側に座り、受け皿や割り箸をみんなに配っている。 一見すると美少年の趣がある優だが、胸の膨らみが立派な女性であることを示している。
「優姉、今日は活動的ないでたちだね♪ 好く似合ってる♪」
好きな男性(ひと)が顔を赤らめ、眩しそうに見つめながらの褒め言葉に、心底嬉しそうに目を細める晶と優。 今日着て行く服(下着含む)を昨日の夜遅くまで掛かって選びに選んだ、その努力が報われた瞬間でもあった。 宏は正面上座に座っている叔父夫婦に頭を下げる。
「今日は誘って頂き、ありがとうございます♪」
丁寧な宏の挨拶に叔父は笑いながら「いい、いい。ワシ達はついでだ」と軽く手を振り、小母も愉しそうに「そうなの♪」と頷く。 宏は晶と優にも同じ様に礼を言い、頭を下げる。
「ううん、礼には及ばない。ヒロクンは大切な・・・・・・♥ 誘って当たり前♪」
「そうそう♪ 今日は存分に愉しんで♪ たっぷりとビールとおかず、用意したから♪」
照れた様に言葉を区切り、顔をほんのりと赤らめた優に晶が続き、重箱の蓋を次々と開けてゆく。 小母さんはクーラーボックスからキンキンに冷えた缶ビールを並べ、同じ様に冷やしたグラスを渡してくれる。
「凄い御馳走ですね♪ 美味しそう〜♪ それじゃ、ありがたくいただきますっ!」
桜の花びらが舞う中、宏の乾杯の音頭で五人のささやかな宴(うたげ)が始まった。
「お父さん、私達家族と宏君が一緒にお花見をするなんて、いったい何年振りかしらね?」
「そうさな・・・・・・宏君がまだこの位の時以来じゃないか?」
小母さんが宏を優しく見つめ、胡坐を掻いてビールを呷(あお)った叔父さんが胸の高さに手を翳(かざ)すと、すぐさま美女姉妹(しまい)がツッこむ。
「そんな昔じゃないわ。ヒロが小学六年になった春以来よ♪ その時は向こうの桜の木の下でお花見したのよ」
「うん、ボクもはっきり覚えてる。六年生になったお祝いにヒロクンを誘ったの。ボク達が高校に入学したお祝いも兼ねてだもん、良く覚えてる♪」
宏を見つめる優の眼差しは晶と同じ熱い想いを秘めている事に、黒い影を持つ今の宏には気付いていなかった。 当の宏は視線を上に下に動かし、満開の桜を愛(め)でつつグラスを傾けるばかりだ。
「・・・・・・あんた達、そこまで覚えてるの!? こりゃ相当・・・・・・だわねぇ〜♪」
小母さんが意味深な視線を晶と優に投げ付けると、そのまま大笑いする。 宏は何が相当なのか判らず、晶と優に解説を求める視線を送るが、二人共目元を赤く染めたまま何も言ってくれない。 仕方無しに叔父さんに聴こうとすると、左右から同時にビールが注がれた。
「ヒロ、グラスが空よっ! ささっ、呑んで呑んで♪ 今日は無礼講よ♥」
「ヒロクン、遠慮しないでたくさん呑んでね♪ 今夜は家(うち)に泊まる用意もしてあるから、酔い潰れても平気よ♥」
何故か焦った様に話しをはぐらかす美女姉妹に首を傾げる宏。 そんな三人の態度に叔父さんがにこやかに一言、呟いた。
「青春じゃの〜♪」
尚も問い質(ただ)そうとする宏の口に、今度は左右から交互に箸が伸びて来る。
「はい、あ〜ん♥ この唐揚げ、あたしが作ったの♪ どうかしら?」
「ヒロクン、あ〜ん♥ この出汁巻き卵、我が家自慢の逸品なの♪」
晶はここぞとばかり己が作った料理を勧め、家事全般が全滅な優は小母さんが作った料理を中心に勧めて来る。 宏は一度も箸を持つ事無く、料理の大半が宏の胃袋へと消えてゆく。 二人の甲斐甲斐しい世話もあって宏は何度も笑い、美女姉妹との思い出話に花を咲かせては顔を赤らめ、今、この時を存分に堪能する。 首を上に向けると桜の花びらが風に舞い、青空に吸い込まれては淡雪の様に降り掛かり、左右を見ると手の届く距離に想い人がこちらを見つめて優しく笑って見つめている。 宏は酒に、この場の雰囲気に酔いしれ、時よ止まれと心秘かに願った。 やがて夜の帳(とばり)がおり、ライトアップされた桜が闇に浮かび上がる中、叔父夫婦が腰を上げる。
「それじゃ、ワシらは一足先に帰っとるからの。宏君、後は若いモノ同士、ゆっくりしていきなさい」
「宏君、娘達を宜しくね♪ お風呂と部屋をちゃんと用意しておくから♪ ・・・・・・若いとは言っても、お互い初めてなんだから、外では控えてね♪」
何故か愉しそうな小母さんのニコ目が宏を捉える。 宏は半分酔った頭で遠ざかる二人に感謝の意を込めて頭を下げる。
(・・・・・・何を外で控えるんだろう? それに初めて、って、何が??)
よもや両親公認で娘達との関係を推されていると思わない宏は、「青姦」「初体験」という言葉がすぐには浮かんで来なかったのだ。 おまけに美女姉妹が母の言葉に耳まで真っ赤に染め、俯いて聞いていた事に鈍感な宏は全く気付かなかった。 東の空から満月が昇り始め、重箱とクーラーボックスの中身が綺麗に無くなった頃、宏は両手をパチンと合わせる。
「御馳走様でしたっ! とっても美味しかった♪」
満足そうに微笑む宏に美女姉妹が声を掛ける。
「ヒロ、今日はお疲れ様♪ どう? 少しは気分転換になったかしら?」
「ヒロクン、いつまでも不安を抱えたまま過すのは良くない。そんな時は騒いで飲み食いするのも一興♪」
二人の優しい声に宏は大きく目を見開き、晶と優の顔を交互に見つめる。 優は宏の手の上に掌を重ね、静かに話し出す。
「ヒロクン、答えは必ずしも用意されたものだけとは限らない | | |